IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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おおよそ半月振りの更新…実際には二ヶ月ぶりですが(汗)





第34話 激突/マリオネット・プログラム

 

 某国某所。天然の岩によって構成されたマイナーな古代遺跡の地下深く、そこには砂漠と干涸らびた木しかない地上からは到底想像も出来ないような機械群によって敷き詰められた広大な空間があった。その一角、打ちっ放しの壁に強引に取り付けられた液晶ディスプレイと数個の空間投影ディスプレイの前に、一人の女が佇んでいた。

 強引に染め上げられたような長いオレンジ髪。腕から足まで不規則にチェーンが巻かれ、紅いジャケットから晒け出されている腕には幾何学的な模様が描かれている。どこをどう見ても、日本で言うチンピラにしか見えないような女だ。獰猛に歪めている表情が、それをさらに想起させる。

 ディスプレイの向こう側では、希空が持つ第一剣機『Ascalon(アスカロン)』から放たれた20を越える凶器の風が一瞬にしてMNNの集団の一角をスクラップ状態にした。しかし(やいば)が希空の手元を離れたと言うことは希空本人がこの時、この瞬間だけ無防備になったということに他ならない。希空の正面を除くMMNが、互いに衝突し合うことなく一斉に希空へと仕掛ける。

 

「(様子見はもういいだろ)」

 

 一本のコードによって繋がれた二つの珠を両手で上から掴み、本人からは想像もできないほど細かく指を動かしてタイピングしながら、200を越えるMNNを操作する―――否。

 彼女本人一人ではない。彼女が持つ珠から伸びたコードは、まるで進化の系統樹のように幾重にも枝分かれして彼女の後ろへと繋がっていた。

 大聖堂のようにも見える広大な空間。教会でいう席の位置には―――200人もの人間が、手足を拘束されていた。年齢は20~40代くらいだろうか、男女問わず動くことも出来ないまま、200人全員の頭にヘルメットの様なモノを被せられている。そしてそのヘルメットの頂点から伸びたコードはやがて一本に集約されていき、彼女――シェリフォン・L(ライナヒム)・シュナイダーの手元の珠に繋がっている。

 シェリフォン・L・シュナイダー。またの名を『ルー・ガルー』。

 第二次世界大戦中()()()()()と記録されるドイツの女高官だ。

 

「調子はどうかしら?」

「ウゼェ。こちとらあのガキと戦争してんだから口出しすんな。集中力が途切れる」

 

 余裕な笑みを浮かべてはいるが、劣勢であることは明らかだった。

 暗闇の遺跡の柱から、スーツ姿の女性がディスプレイの光に照らされて姿を現す。

 僅かな光量でも煌めく長い金髪。西洋人らしき整った顔立ち。

 

「お前、さっきまでオータムん奴とヤってなかったか? 最近会えなくて欲求不満だったんだろ? スコールさんよぉ」

「さっきヤりすぎて気絶させちゃったわ。うわ、もう4分の1は壊されてるわね…可哀想に」

「そういうシステムだ」

 

 スコールは『ルー・ガルー』の背後で次々に倒れていく人々に哀れみの眼差しを向けた。

 画面の向こうで隻眼の少年が大剣を振るい、MMNが一機、また一機と墜とされていく。その度に、『ルー・ガルー』の手元の珠に繋がれた人々が一人一人絶命していく。

 

 ―――希空は、人間におけるおよそ50人分の手を100も操る頭脳を持つ。それは希空の脳の回路が凡人に勝っていることによるものだ。言い換えれば凡人を乗用車のエンジンとするならば、希空は天高く飛ぶロケットの内燃機関だ。

 だがある日希空は思った。

 

 〝仮に僕の脳の回転率を100、そこら辺の人々を1とするならば〟

 

 〝その100人の脳を一点に集中させれば、僕に匹敵するんじゃないのか〟

 

 人とは、研究者とは時に恐ろしいものである。

 エジソンの電球然り、ライト兄弟の飛行機然り、ノーベルのダイナマイト然り、そしてレオナルド・ダ・ヴィンチの設計図然り。

 研究者とは時に予言者、占星術師のそれと似ている。現代の科学を極めたものだからこそ、頭の中で描かれた設計図は現実味を持ち、その実現が目に見えているのだ。ましてや現代では技術と資材さえあれば大抵のものは実現化してしまうだろう。それは現代において篠ノ乃束が例に挙がる。

 故に、一度考えてしまったものに罪はなくとも生み出されてしまったものはとんでもないものになることもある。

 それが、いま『ルー・ガルー』が手中に収めている珠だ。

 

「他者の脳の回路を一時的に停止、本人は気絶させている間に俺らで構築した回路と接続。一時的だが回路を繋げた人数分だけ演算能力及び処理能力が向上する、か。恐ろしいモン考えるじゃねぇかあのクソガキは」

「あら、あんな自信満々に指揮してるものだからてっきり貴女が考え出したものだと思ってたけど」

「ところがキッチョン、大変残念なことにコレを一から十まで考え出したのはあのクソガキでした」

 

 希空を直列回路の100Vとするならば、さしずめ『ルー・ガルー』が手にした力は並列回路によって生み出された100Vだ。

 一つで足りないなら、付け足せばいい。己が持つ演算能力は力を合わせれば誰にでも到達し、超越することすら可能なのだという証明を、希空はしようと思っていた。

 だがいくつか問題があった。その内の一つは、脳の回路にも個人差があることだ。

 それは母の体の中で胎動してから今日までの生活により、正確、考え方、思考回路などが大きく異なってしまう。そして集約された演算能力を手にする側にも、集約した分だけの処理をこなさなければならないというデメリットが存在していた。

 それを改善すべく最初に挙げられたのが、人間の脳だけを取り出して電極を差し込み維持することだ。

 当然、それは希空の中で却下。ならばどうすればいいのか。

 

 研究者とは時に厄介だ。一つの手がダメならばあの手この手と考えてしまう。

 それが、大きく常識を逸脱した考えさえも。

 

「またかよ、おらもうちょっと気合い出せよお前等」

「彼、今日は『手』を出さないわね。舐められてるんじゃないの?」

「バーカ。ホレ、奴の顔を見ろよいつものうざってぇニヤケ顔が無ぇぞ」

「あらあらホント。木を足場にしてるみたい……なるほど、森林故に足場の確保が容易だものね」

「オラオラオラオラ伐採伐採だ切り刻めェ!!」

「……その隙に残機かなり減ったわよ」

「チッ、なんだよ使えねぇなオイ」

 

 『ルー・ガルー』はまた一機が撃墜されたのを目に舌打ちする。そしてまた一人が絶命し、崩れ落ちた。

 ―――今回の方法は、日本で言うカミカゼトッコウとやらに近い。

 例えば機械を動かすとしよう。複数の機械を一人の人間が一度に動かすのは、簡単なことではない。

 人間誰しも視点、着眼点がある。故に死角が生まれる。それは一つのことに集中すれば周りが見えなくなることと似ている。

 同じように、機械の操作でも言えることだ。仮に自己操作する一機を変え、他を一定の規則性を持たせた動きをプログラミングすれば擬似的にではあるが、それは『操作している』と言えるだろう。それさえ本来難しい。

 だったら最初の考えの通り、一つの機械に一人を充てればいい。

 だが言葉では簡単に言えても実際に実現できる訳ではない。

 それを実現させたのが、希空が考えてしまった禁断のプログラムが一つ、『マリオネット・プログラム』である。

 

 没人形(マリオネット)

 あれは手、足、頭、胴体と糸で繋がれ後ろにいる黒子さんによって動いている。

 

 糸。

 希空は複数の機械操作及び演算処理において、その糸を人間の脳に見立てた。

 操作する主と機械を繋ぐ命の糸(ライフライン)。これならば例えなにかトラブルがあったとしても〝操作する主〟には後遺症も残らない。そう設計した。これは使えそうだと。

 ―――だがそれは、糸となった人間の命を度外視するプログラムだった。

 最近では人間の意識や思考だけをネットワーク内で別の化身(アバター)に移すという技術がある。故に、操っている対象の影響は本人にも及ぶ。壊れた機械を下手に繋いだまま放置してしまえば操作している主にも、何らかの影響が出てしまう。だから糸を切るしかない。

 人一人の命を、犠牲にして。

 

「所詮クソガキが考えた空想だ、一機に一人分充てても効率悪いったらありゃしねぇよ。今回の作戦じゃ200人全員死ぬな」

「それをかの少年は分かっているのかしら?」

「わかってんだろ。見てみろよ」

 

 スコールは『ルー・ガルー』が目を一瞬たりとも離さず見ているディスプレイを覗き込んだ。

 そこでは、多くのMMNを相手に大剣片手に肉薄している希空の姿があった。その表情にある苦痛に一片の謝罪も無い。ただ、殉教とでも言うかのようにこの場で全てを殲滅せしめる気迫を滲ませていた。

 

「―――スコール」

「何かしら」

「ヤり疲れて寝込んでるオータムとその他亡国機業の何人か起こせ。一時間後ここを爆破させんぞ」

「わかったわ。収穫は?」

「まだ無ェわな。向こうも命食い潰してること承知なんだ、1個や2個や100個くらい戦力晒してくれねぇかなぁ」

「(……命を手繰っているのは彼女。それに抵抗し殺している少年。でも現実には、彼女が殺しているようなものよ)」

 

 そもそも、『ルー・ガルー』がこんな計画をしなければいまここにいる200人の命は救われていたかもしれない。

 彼女が、こんな計画を決行しなければ。

 彼女が、希空の設計図を見つけなければ。

 

「(でも一つ腑に落ちない点があるわね。織斑希空と彼女は敵対関係のはず。ならば)」

 

 いまだゲーム感覚でディスプレイの前に立ち、希空を追い詰めようとしている『ルー・ガルー』を見ながら、首を傾げる。

 

「(……()()()()()()()()()()()()少年からどうやってこんな膨大な規模の設計図を手に入れたのかしら?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(さようならさようならさようなら―――ああもう何回別れを告げれば終わるんだろう、なァ!!)」

 

 背後から放たれたMMNのビームを、木に刺した剣を支点に無理矢理体を捩らせて避けながら、希空は心中弱音を吐露していた。

 視界の右端で右眼の義眼『天目一箇(あめのまひとつ)』が示す『撃墜数68』を見て、若干うんざりした気分になっていた。ここに誰かがいたりこうして監視されていなければ愚痴の一つでもいってやりたいところだ。

 戦場を飛び交う刃がMMN共をばっさばっさと斬っていく。高速回転する刃を止める術はMMNには無い。何せモデルは蜻蛉だ、細い足は刃に巻き込まれ、羽根は毟られ、尾は斬り裂かれ、複眼は割れる。

 だがそれでもMMN共は殺害対象である希空に向かって凶気の風を、光を、鎌を落とす。

 

「(向こうの目的は殺害。ってことは無いな、うん無いな。殺して来るんだったらこんな方法取らないだろうし戦力も足りない。なによりアイツ本人が来ない辺りやる気が感じられない。これあれか? もう諦めて億劫になってくれたってことでいいのか?)」

 

 そうであることがどれだけ嬉しいことか。だが現実はそう甘いものではない。夢は寝て見とけ。

 うんざりしながら荒い息を吐く。

 折れそうな木の枝に乗りながら、一呼吸すべくボロボロに成り果てた木に背を預ける。

 

 耳元に、刺突音。

 木の向こう側から毒々しい針が首を掠めた。

 

「あああああああああああああああっぶねええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! うわ、口調荒ぶってるよッ!? つーか前から分かってたけど毎回殺す気だよねぇ!? 休む暇どころか呼吸出来なくて窒息するっての!!!!」

 

 いやさあまって失禁してしまいそうだった。尾の針を刺してきて、貫通して第一関節部辺りまでいけば曲げてくることも可能なことを知っている。この位置だったら脳天に直撃して即死。その事実が頭の中で浮かぶ前に本能で動いた。

 後ろ手で木を押し退け、こちらに向かってきたMMNの頭に踏み込む。

 背中の羽根から発せられる衝撃波の隙間を踏み込み、そのまま頭上から飛来してきたMMNの尾を頭を僅かに動かして直撃を免れる。

 

「っらぁ!」

 

 左腕の義手を振り抜き、MMNの複眼に裏拳を叩き込む。頭から砕けた衝撃が伝わり、頭から尾の先まで粉々になったのを横目で捉えながら右手に握った剣で腹目掛けて放たれたビームを弾いた。

 右斜め下から足を断たんと迫る鎌の腹を足裏で弾き、体勢が崩れた隙に『アスカロン』の小剣で一閃。返しの剣で迫ってきていたもう1体の複眼を断つ。

 正直、いっぱいいっぱいです。

 

「(……連中の目的はこちらの個人戦力の割り出し、兵装の存在。『アスカロン』一機じゃ満足してくれそうにないなぁ)」

 

 縦横無尽天衣無縫。

 希空が生身でMMNと対峙しながら、希空迎撃によって生じた隙を容赦無く斬り裂いていく。これで空中にいるMMNは半数を切った。あとは。

 

「地中の中に……ってア、レ…」

 

 両足に違和感を感じる。さっきから木に飛び移ったりMMNを足場にしてるからもはや浮遊感なんて飽き飽きしていたが、それとは異なる。

 そう、地球の重力引力云々に引っ張られてるような、ような。

 

「やば」

 

 足場が無い。

 落ちた。

 木の枝を掴もうと闇雲に手を伸ばすが周囲一帯の木はMMNの衝撃波によってバラバラに分解されていた。

 

「(ウワーオ地面が針山みたいだよ剣山ですかありゃあ)」

 

 敬語と丁寧語がごっちゃになっていて申し訳ないが、ぶっちゃけヤバイ。

 MMNは蜻蛉――つまりは、成虫だ。ということは虫である彼等にも進化の過程に幼生体が存在する。

 それはヤゴ。メガニューラになる一歩手前の水棲虫。学術的にはメガヌロンと呼称されていた。

 まだ卵から孵ったばかりのメガヌロンが、希空の真下を大口開けていまかいまかと待ち構えてる。

 刺々しい口は人間程度であれば軽く捕食出来る。集団で取りかかればゾウすらも喰い切れるサイズだ、生まれてきたばかりのメガヌロンは成長するために栄養を蓄えなければ為らない。

 

「(ハハハ、じゃあ僕はコイツ等の餌かよ)」

 

 人間は頭が重い。故に落下すると自然と頭が下に行く。つまりあのキモチワルイMMNの幼生体共に面と向かい合っている形だ。

 頭から落ちて、まず首を噛み砕かれるだろう。次に腕、肩、膝、腹、胃、腸、頭、脳。

 親鳥から餌付けされて格闘する雛鳥のように我先にと、群れて啄んで腹の中に納められるだろう。

 

「―――冗談じゃない」

 

 目を閉じた。

 それは台詞とはまるで正反対の行動、自分の運命を受け入れたような、諦めの姿勢に見えた。

 目の前の事実から目を背けるように。

 集中する。ただ左手の義手に意識を集める。

 大きな口を開けたメガヌロンの歯が、希空の髪に触れた。

 その時、

 

 

 

 

 

 

「―――第二銃機α『朝顔』」

 

 

 

 

 

 太陽が、生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 IS学園から遙か遠くで、『ルー・ガルー』は手を止めた。

 追い詰めた。あの希空を追い詰めた。

 誘導し、逃げ場を無くし、呆気ない最後を迎えるだろうと予測していた。

 あの状況で、死以外に、メガヌロンの糧になる以外に未来は無いと予期していた。

 現に、あの状況から兵装を現出することが出来る間合いでも無いし、第一剣機『アスカロン』の刃も空中のMMNの戦闘中だった。

 大逆転もどんでん返しも無い。試合終了だった。

 筈、だった。

 

「くっそ…眩しくて見えねぇ………!! ムスカじゃねえけど目がッ………!!!!」

 

 ディスプレイから放たれる太陽光。瞼で覆おうとも手のひらで遮ろうとも、眼球を焼かれるような痛みに『ルー・ガルー』は歓喜した。

 同時に後ろで控えていたMMNの操作の生け贄達が一斉に倒れた。

 いい。

 これはやはりいい。

 殺し甲斐がある。

 

「やってくれやがっなぁオイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわ…なんだコレ」

「かなりの規模の……衛星? コロニーな何かかな?」

 

 その頃、火星で別室に案内されていた一夏とシャルルが窓に映し出された映像をまじまじと見つめた。

 二人が足を止めていることに気付いたシュレーダーが振り向く。二人が注目している映像を見るとああ、と感慨深げに頷く。

 

「アレは私と彼の傑作だよ」

「…博士と、希空がですか?」

「その通り! いやー当時は資材も開発費もなーんにもなかったから正に渡りに船だったよ! ある意味希空君に助けられて良かったと思ってるよ、そうでもなければ永遠に机上の空論のまま書類に埋もれてただろうからね」

 

 まるで我が子のように自慢している。よほど思い入れがあるらしい。

 作り手はなにかと自分の力作を自慢するなぁ、とよく兄である希空にあれこれ見せられていた一夏は苦笑した。

 

「それって博士の研究と関係が?」

「大アリだよ。機械機器の種類問わず、あらゆるものを熔解させシステムダウンに追い込むまさに人が死なない破壊光線だ! 私は数年前に太陽の光にある特性があることを発見してね、失明覚悟で調べてみたところなんと」

「スイマセン、簡潔にお願いしてもいいですか?」

「ボクも難しい話はちょっと……」

「むぅ…本来ならば世紀の大発見とも言える研究内容なのだが………」

 

 若い者にはまだ早かったか、とシュレーダーは溜息をついた。

 窓に映った画面。それは地球の遙か上空――成層圏の向こう側、宇宙空間に浮かんでいる大きな衛星だ。

 規模は周囲の小惑星が小石の様に見えてしまうことから、かなりの大きさだと断定できる。

 衛星の発射口を囲むように配置された板は、まるで花びらのようにも見える。

 

「『パイルドライバー』。私はそう呼んでいる。彼は第二銃機α『朝顔』と呼んでいるがね 」

「朝顔…って、花のですか?」

「その通り。大気圏上に配置された人工衛星でな…太陽光をエネルギーに打ち出す衛星兵器だよ。動力も全て太陽光エネルギーによって賄われておる」

「太陽光? ソーラーパネルのことか?」

「そう、まさにそれだ。省エネとは素晴らしいと思わんか」

 

 なんか論点がずれてる気がする。

 

「基本的には太陽を公転する人工衛星じゃが、希空君の指示を受けることで地球の大気圏上へ移動し、好きな座標に撃ち込むことが出来る。…ま、最近使ってなかったがの。試し打ちも数回しかしてなかったが…どうやらちゃんと機能しているようだな」

「太陽を公転?」

「その通り。自身も太陽を公転し半永久的に起動し続けるためエネルギーを蓄えているのだが……なにしろあの巨体だ、全体のシステムをフル稼働してしまえばビームなんぞ撃てん」

「……じゃあどこからビームのエネルギーを蓄えているんですか博士?」

「ここだよ」

 

 シュレーダーはシャルルの疑問に答えるべく、通路に設置されていたモニュメントを操作して立体映像(ホログラム)を出した。

 立体映像には地球、太陽、火星を含めたこの広い宇宙に存在する太陽系の9つの天体が映し出される。中でも太陽の部分をクローズアップさせた。

 

「ここが太陽。そして『パイルドライバー』はこの太陽を中心に公転している」

「……太陽ってかなり熱いんだろ? 燃えたりしないのか?」

「そこは従来のISの使用法を応用することで解決されたよ」

 

 従来のIS。

 それはISの創始者である篠ノ乃束が開発当初に目的としていた『宇宙空間での活動』の技術である。

 希空曰く、各国のISのほとんどが第2世代のISに移行した際に失われた技術だと嘯いている。

 

「まぁその技術は希空君が持っていたがね。そして注目すべきは太陽を公転し移動する『パイルドライバー』に伴い、地上から映らぬよう太陽に『鏡』を衛星として配置させているのだよ」

「『鏡』?」

「そう! それがこの衛星兵器の目玉だよ! 一夏君、キミなら理科の実験で太陽光を鏡で跳ね返す実験をやったことがあるだろう?」

「あー……あるな、それ」

 

 その時希空が他の子とは別の意味合いで目を輝かせていた気がするなぁ、と思い出す。

 あれは何かを思いついた目だった。あまりいい予感はしなかったが。

 

「そのときに思いついたらしいんだけどね、太陽光を反射させる鏡を複数個用意して『パイルドライバー』へ太陽光エネルギーを送るシステムにすることで、強力な衛星兵器として大成したんだよ!!」

「それって人体には影響無いんですか?」

「無いよ。ただ希空君みたいに体の一部が機械化してしまっているような連中には毒かな」

「………それって希空兄もヤバイんじゃ…」

「まぁ…心配は無いだろう。実際彼も開発に着手してたんだ、何らかの運用方法でも見つかってるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ゲホッ」

 

 閃光が止んだIS学園寮裏森林部。

 黒コゲになった奇妙な死骸が無数散乱する中、鋼鉄が焼けた異臭に鼻を曲げながら瓦礫の上に立つ。

 いまだざわざわと波打つ心情を落ち着けるべく深呼吸して息を整えた。

 

「ふぅ……これで殲滅完了ってトコかな」

 

 心と共に不規則に躍動していた義手を見遣る。

 

 

―――(じゃ)

 

 

 否、(じゃ)

 鋼で出来ていた筈の義手は先程とは見違えるように形を、大きさを変え希空の腕にへばり付いていた。

 腕の付け根、肩口に接続された義手は巨木の幹かと思わせるように太くなり、一般的な人間の腕の長さを遙かに凌駕するほど長く、そして人間が持つ間接とは思えないように蛇行していた。

 極めつけは、手。

 手の部分は人間で言う五指が跡形も無く消え去り、蛇の頭がそこにあった。

 綺麗に整列された(つるぎ)の如く揃えられた牙のは、数体のMMNの幼生体が串刺しになって動きを止めていた。喉の奥では完全に噛み砕きスクラップと化したMMNの残骸が頭を覗かせている。

 灰色の鱗には無数のMMNの死骸と夥しい量の体液が掛かっている。恐らく蛇で言う胴体部分で、あの閃光によって僅かな時間に目を眩ませたMMNの残りを薙ぎ払ったのだろう。

 死屍累々。

 『天目一箇(あめのまひとつ)』がIS学園中心部から外部200m先周囲までMMNの反応を探る。反応は、ゼロ。

 地中にいた奴も、この戦闘領域を覆っていたバリアを形成していたMMNも完全に破壊した。

 

「いやー…『朝顔』内部の弾倉から太陽エネルギーを凝縮させた弾そのものだけをこっちに寄越してすぐ『コレ』を出すとはね……まぁ今回は『朝顔』で見えなかったろうし大丈夫っしょ」

 

 閃光。

 そう、MMNの全機の目が『ルー・ガルー』の眼となっていた為、希空も思うように動けなかったというのが現状だった。

 別に追い込まれる前に潰せるんじゃないか―――という目論見は見事向こうの作戦勝ちにより追い込まれ、結果として『朝顔』『蛇』の二基を晒す羽目になってしまった。

 だが『朝顔』は向こうにとってはただの目眩まし兼金属の天敵である高熱の塊としか認識出来ていないだろう。そしてその閃光によって数日は失明するはずだ。

 

「………今頃怒り狂ってるんじゃないかなぁ」

 

 

 

 

 

 

「ッッッッッッ…!! くぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!!!! あのクソガキ…マジでやりやがったなッ! 目が見えねぇ…多い視界を逆手に取られたか…!!!! 絶対ブッ殺す絶殺!! 覚悟してろよ糞ガキャアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、なんか今怨念級の叫び聞いたかも…」

 

 どこか遠くで200%越えの殺意を向けられたような気がして思わず身震いした。

 ―――こうやって二年間、希空は『ルー・ガルー』と戦闘を繰り広げて来た。こちとら生き抜く為に正当防衛しているのだから何の非も無いのだが、交戦するごとに憎悪が増しているように感じられるのは決して気のせいではない。だがそんなこと本人が知るよしもないことである。

 

「しっかしキミよく食べるなぁ……いや、確かにこんなわけわかんない死骸を放置して誰かに発見されたらエライ目に遭うだろうから助かるけど……イテッ」

 

 体を伸ばしてはムシャムシャMMNの死骸を捕食している鋼の蛇を見ていると右の肋骨辺りで痛みを感じた。

 別にMMNの衝撃波を喰らって内部破裂する訳でも、斬撃を喰らって内蔵がはみ出る訳でもない。純粋に殴打された痛みだ。

 クエスチョン1、殴打? 誰に?

 アンサー、自分。

 これでは自分で自分を殴ったように聞こえてしまうが仕方ない。

 そもそも遙か彼方の『ルー・ガルー』が『朝顔』の弾の暴発によって失明しているのに対し、間近で受けていた希空に何の後遺症も無いのは明らかに不自然だろう。それを解決したのが、今希空が持っているバッグである。

 フルメタルジャケットで構成されたあらゆる銃弾(無論エネルギー弾も)を通さない希空のキャリーバッグは、先程描写されていたようにどんなに遠くにあろうとも希空の呼び掛けに応え手元に引き寄せることが出来る。名付けて『カムバッグシステム』。決してギャグではない。

 今回はその機能を利用し、落下する希空の真横まで飛来しそのままぶつけ、希空を光源から出来るだけ遠くへ引き離したのだ。ただ今回は()()()『朝顔』の弾に集中していた為か掴むことが出来ず、体を痛めてしまったという訳だ。

 

「うぁ~…脇は分かるけど今日は何故か足も痛いし…あとで『フラスコ』入らなくちゃなー…っと」

 

 何故かMMNと交戦する前から筋肉痛気味なことに首を傾げていると、蛇がMMNの死骸を全て完食したらしく頭をこちらに寄越していた。機械で出来たとは思えないような滑らかな舌が顔を撫でる。くすぐったいとこの場で言うべきなんだろうが、ぶっちゃけキモチワルイ。

 ――『蛇』。

 希空が光源から離れ、キャリーバッグの影で目を隠していた間はこの蛇がMMNを殲滅していた。それも、たった数十秒で。

本来希空には『天目一箇』があるから別に肉眼で見なくても対象を感知できるのだが、『朝顔』の閃光の中で蛇との相性は最高だった。

 

「出来たばっかでまだ名前付けてないんだよね~。何がいい? 八岐大蛇? アポピス? アルファル…はあの人に怒られそうだ。水銀、メルクリウス、カリオストロ……うわ、自分で言ってて嫌な気分しかしなかった! 何でだろー?」

 

 ――ピット器官というものがある。

 人間で言う唇近くの部位の鱗に存在している蛇独自の器官である。夜行性が多い蛇には、視界が効かない暗闇など目が見えない中でも獲物を捕らえるべく発達した赤外線感知器官であり、人間もこれをサーモグラフィーとして転用せている。

 『朝顔』の閃光弾による目眩まし、そして蛇によるMMNの殲滅。これも全て希空の計画通りだった。

 

「ま、名前は後でもいっか。もう戻っていいよーお疲れさん」

 

 機械にしてはやけに生々しい鱗を撫でると、蛇はあっという間に一般的人間の腕となんら変わらないフォルムの義手に戻った。

 グーとパーを繰り返して調子を確認し、倒木の中から砂とMMNの体液まみれの第一剣機『Ascalon(アスカロン)』の小剣を拾う。

 一振りすると汚れはまるで無かったかのように消え去り、そしてバリアを張っていたMMNを遠隔操作で串刺しにしていた20の刃が戻り装着されたことを確認し、粒子化させて消す。

 すると遠くからISの駆動音が聞こえた。恐らく今回の騒ぎで希空を捜索しに来たのだろう。

 

「さぁーて、向こうではちゃんと話進んでるかなーっと」

 

 夜空に輝く星々を見ながら、千冬姉さんになんて言い訳しよう、と苦悶するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




新兵器目録とか後で作ったほうがいいかな…
しかしシャルル編もとい学年別トーナメントの話なっがいなぁ

感想よろしくおねがいします(ぺこり)


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