IS <インフィニット・ストラトス> ヘカトンケイルの名を持つ者   作:一ノ原曲利

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第4話 セシリアの宣戦布告と希空の予言/キョウダイ

 

 

 

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

 山田先生の講義は続く。

 希空自身ISの一般向けの教本は整備師になる為に読むのは当たり前であって、当然内容は十二分に理解しているし、お望みとあらば端から端まで一字一句違えること無く音読出来るだろう。勿論何も見ないで。

 だが、

 

「(山田先生、たまに面白い持論言ってくれるから参考になるよねー)」

 

 天然な性格故か、彼女自身の視点からの意見や感想をポロッと溢すことがたまにある。それが結構()()()あっていいから希空は開いたノートにそう言った発言をメモしてたりする。自分たちキチガイ共ではなく世間一般的考え方は大事だと思うんだ、うん。

 しかしやはり希空以外に例外はいるもので、希空は少し体勢を変えて目の前にいる弟、一夏の様子を盗み見る。

 

「(うんー予想通りさっぱり全然全くわかってなさそうだー!)」

 

 観察その一、ノート取って無い。

 観察その二、教本見てても理解していなさそう。

 観察その三、授業にあんま集中してない。

 プラスしてもし一夏が数年前とあまり変わらない性格をしているとすれば。

 

「(タウンページと間違えて、入学前に事前に配られる参考書を棄てちゃったー……なーんて、まさかねー)」

 

 悲しいかな、自分が予想したことが否定出来ない。そしてやはり予想というものは的中してしまうようで、

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

「わからないところがあったら訊いて下さいね。なにせ私は先生ですから」

「(ダメだよー山田先生。これはあれだ、新米教育実習生の自信という名の柱をポッキリ折っちゃうパターンだー!)」

 

 コンフィデンスブレイカー。又の名を地震折り。

 地震と自信を掛けてみました的な命名である。天然故なのかそれが山田先生の避けられない運命なのか。今、山田先生は一夏の無能によって―――

 

「先生!」

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません」

 

 ――一種の絶体絶命を迎えた。

 

「え……。ぜ、全部、ですか……?」

 

 案の定、一夏の言葉を聞いた山田先生は引きつった顔をした。自信満々の顔は何処へやら。

希空も苦笑しながら心の中で合掌した。

 山田先生、御愁傷様。

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

 挙手人数、0。

 ここでまさかのとは言わせないのがIS学園の生徒達。

 IS学園は本来ISを操れると言われている女性の中から更に適性が高い者が入れる学園。全人口の半分の中で更に選りすぐりの女性が入学するのだから、当然選ばれた女子達は入学前に配布された参考書を読んでいる(んだと思う)。

 

「……織斑弟、入学前の参考書は読んだか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 パアンッ!

 

「(予想を裏切らない、流石は我が弟だがそこは裏切って欲しかったなー…)」

 

 千冬に叩かれた痛みに悶絶する一夏を見ながら希空はからからと笑った。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

 

 千冬の容赦無い覇者たる一撃。

 ―――実際希空は他から見れば笑っているようにも見えるが、今は少し違う。千冬が言うように必読と書かれていた本は結構重要(だと思う)。

 

 ISは、一言で言えば兵器に尽きる。

 

 開発者こと篠ノ之束は『宇宙空間での活動を想定したマルチフォーム・スーツ』として開発してはいたものの世界の捉え方は束とは異なり、兵器として扱うことになった。それは希空自身、あの()()()()世界には過激なISパフォーマンスによる事件が元凶なんだろうと思っている。

 とにかく、ISを兵器として扱っている以上それを扱う少女達には当然義務がある。その1つがISに関する世界規約。

 兵器は人の命を簡単に奪ってしまう代物だ。従って、その扱いに関してはなるたけ細心の注意を払ってもらいたい、と希空自身は望んでいる。

 

「(いろーんな世界、()てきたからねー)」

 

 だから弟である一夏にも、まぁあの一夏に限ってそこまでの過ちは犯さないだろうが、注意出来る程度に知識は持っていて欲しい。

 

「あとで再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、1週間であの分厚さはちょっと……」

「やれと言っている」

「……はい。やります」

「何なら、織斑兄に教えて貰うか?」

「え、希空兄に?」

「織斑兄は伊達に整備師目指してないぞ? それこそ、織斑兄自身が歩く参考書なのかもしれんがな」

「過剰評価し過ぎですよー織斑先生ー」

 

 歩く参考書は流石に無い。

 どこぞの10万3千冊の魔道書を記憶した禁書目録(インデックス)じゃーあるまいし。

まぁ大丈夫だよ一夏。敬愛たる兄、この織斑希空に掛かれば3日で反射的に口に出せるまで教え………あ、いや別に僕でなくてもいいか。

 こういう時には()()の距離を()()と縮める機会につきー! 箒ちゃんの出番であるー!

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 はいごもっともー。やっぱり姉さんはわかってるなぁー。流石は姉弟、思考パターンも大分似通ってるかもー。

 その後、多少の紆余曲折はあったものの、放課後山田先生が直々に授業してあげるということで落ち着いた。

 

「(……んー……?)」

 

 ふと、振り向かず左後ろの方向を()ると、金髪碧眼の子がこちらを睨んでいた。長い縦ロールの金髪がなんとなく印象的な子だった。そしてどこか高貴な感じ。

 どこぞのご令嬢か、貴族の人かなー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

「へ?」

「うんー?」

 

 2限目を終えて。

 反省を生かすべく一夏は早速希空から必要最低限事項をご教授していたが、そこで横から割って入る声があった。

 

「(あ、さっきの子)」

 

 欧州系の色白肌。

 金髪碧眼の縦ロール。

 2限目の途中から自分達を睨んできた子だった。やはり間近で見るとお嬢様という印象はより強く感じられ、そして高圧的な感じがする。

 現代の風潮はISによってかなり変化が生じた。その1つに、前々から傾向があった女尊男卑の流れに決定打を与えることとなった。どんな兵器よりも優れたISを操れるのが女性のみであり、故にパワーバランスは女性へと傾いていた。

 

「訊いてます? お返事は?」

「あ、ああ。訊いているけど……どういう要件だ?」

「ごめんねー? 今一夏学生生命を左右する講座を受けてるからちょっと忙しいんだー」

「まあ! 何ですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

「…………」

「…………」

 

 …………。

 希空の笑顔が少し、渇いたものに変わった。そして一夏と顔を合わせて苦笑い。今2人の目の前にいる子は、ISが生み出した女性特有の典型的な()()を表していた。更に希空が観察するにつき、彼女自身の身分がそれに拍車を掛けているようにも見える。

 

「悪いな。俺達、君が誰だか知らないし」

「ごめんねー? はい一夏、今赤で隠したところ暗唱してみて?」

「うおっ!? いつの間に!?」

「一夏は執拗なほど、直前に隠した単語だけは記憶するからねー、そんなんじゃいい記憶出来ないよー?」

「…バレてたか」

「バレバレのバレンタインデー」

 

 と言って2人は再び勉強し始め、

 

「……本当に訊いてます?」

 

 られなかった。

 女子は吊り目をこれでもかと言わんばかりに細め、眉をひくりと動かす。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリス代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

 ―がたがたっ!!

 クラスの大多数の女子がずっこけた。これには希空も苦笑いを越して呆れ笑い。もう一夏との会話の語尾には(笑) かwwwしか付けられなくなりそうだった。

 しかし、

 

「(セシリア・オルコットさんねー…ふーん、やっぱり貴族さんかぁー)」

 

 セシリア自らの自白でセシリアの身分はおおよそわかった。というのも、希空には貴族と聞かれても『珈琲貴族』のイメージしか浮かばなかったり。それはカフェか。

 

「あ、あ、あ………」

「『あ』?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

「疑似☆千冬姉さんちょーっぷ」

「ぶへぇあ!?」

 

 愚かなる弟の頭に参考書を打ち付けた。予想外の攻撃に一夏は朝の希空の様に頭にチョップ→机に顔面強打。

 

「なっ、いきなり何すんだよ!?」

「そりゃーこっちの台詞だばかものー。今さっき勉強もといコスい暗記したの忘れてるなー」

「……どこ?」

「Hereー」

 

 目の前に英国人がいたから何と無く英語で参考書のページのある一項目を指す。

 流石に基本的な英語はわかっていたようで(当たり前だ)、一夏は希空に指されたところを読み上げる。

 

「えっと……『ISを保持する各国には、国家を代表して一国につき一名の国家代表IS操縦者が選ばれる。その代表候補生として、国の中から数人の才気あるIS操縦者が選ばれる』――って、コレか?」

「いえす。要は国代表の一歩手前、オマケに専用機持ち。ISのコアの独占みたいなモンだねー。……なんと言えば良いのかな、Eliteって言えばいいかなー?」

 

 エリート。

 希空は一夏に分かりやすく言ったつもりで選んだ言葉だったのだが、数秒後希空は自分の愚行を悔やむ結果となる。何故なら、セシリアが上機嫌になってしまったから。

 

「そう! エリートなのですわ! 本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解して頂ける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「よかったねー一夏」

 

 イ・エーイと希空と一夏はぱちんと手を叩いた。一応、現状での『嬉しいよ』的表現。

しかしそれはかえって火に油を注ぐ結果となり、セシリアは口の端を痙攣させていた。

 

「……馬鹿にしてますの? 大体、そちらの方はISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れですわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「まぁ一夏が入学決まったのはちょっと前な訳だし、多少は仕方無いっしょー」

「あなたもですわよ?」

「?」

 

 えっ? と希空は首を傾げた。

 少なくとも今の話の流れで自分に何か向くとは思えない。数分前の希空のチョップ程の奇襲性は無いにしろ、予想外だった。

 そんな心境を知るよしも無いセシリアは鼻で笑う。

 

「まぁ多少の知識はあるにしても、ISの操縦すらできないあなたがよくIS学園に入れましたわね。何か非合法的な手段を使ったのかしら? 少なくとも“たかが”整備師風情でIS学園に入れるなんて有り得ませんもの」

「……うーん、それは守秘義務って言うのかな? 黙秘権を行使するよー。それは僕と学園側の問題だからねー」

 

 それに、と希空は続ける。

 

()()()代表候補生ごときに説明するようなことでも無いし、価値もあるかと言われれば無いしー」

「なっ!?」

 

 希空の発言にセシリアは顔を真っ赤にした。怒りあまりに告げる口が見あたらずわなわなと震えていると、あのムカつく笑顔はどこへやら、希空は視線をセシリアから参考書に戻してラインマーカーを引いていた。

 完璧にはぐらかされたと地団駄踏んだセシリアだったが、何とか平静を保つべく咳払い。再び一夏に向き直る。

 

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外に入試などありませんわ」

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は……?」

 

 一夏の口から告げられた事実にセシリアは思わずぽかんとした。すると、さっきまで参考書にラインマーカーを引いていた希空が顔をあげる。

 

「え、何、一夏って教官倒したの? 凄いじゃーん」

「あ…いやなんかいきなり相手が突っ込んで来たのをかわしたら、勝手に壁にぶつかって動かなくなっただけなんだけどな」

「ははあ、なるほど。教官さんは一夏が男性で、しかも初めて乗ったから一撃で呆気なくKOさせようと目論んでた訳かー。しかし残念だったねその教官、千冬姉さんと僕の弟である一夏に不可能なことはあるけど、出来る限り可能なのだー!」

「いやそれ誉めて無くねぇか!?」

「いやいや大絶賛で誉め言葉」

 

 若干貶してるけど。

 そんな感じで談笑しているとセシリアが放心状態から戻って来た。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 ―ピシッ。

 一夏の一言にセシリアは固まった。

 

「そもそも今年だけだよこんな例外は。一夏という男子がいる時点でさー」

「でも女子の中で1人って凄いんじゃないか?」

「あくまでも試験は、入学前でISをどんくらい操縦出来るかを見極める試験だから、わざわざ倒すまでいかなくてもいいんだけどねー」

 

 そう、要は入学前でISの基本動作程度はこなせるかどうかを見極める為の試験。従ってセシリアや一夏のように教官を倒すよりも、よりISを操縦出来ていた方が評価は高い。

 

「つ、つまり、わたくしだけではないと……?」

「いや、知らないけど」

「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」

「うん、まあ。たぶん」

「一夏の場合は偶然の産物に近いけどねー」

「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」

「えーと、落ち着けよ。な?」

「はいどうどう、まずは深呼吸ー」

「こ、これが落ち着いていられ――」

 

 ―キーンコーンカーンコーン。

 空気を読んでいたのかいないのか、3限目を告げるチャイムが鳴った。なんだか先ほどのチャイムまでも色々あって長かった気がしたが、今回は話をしただけあってもっと長く感じられた。体感時間の違い、というものだろうか。話を強制に打ち切られたセシリアは唇を噛んだ。

 

「っ……またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 そんな不穏な捨て台詞を吐いて、セシリアは元の窓際の席へ戻った。

 内心本気で逃げようかなぁーと考えていた希空。基本的に他者との、しかも利益を見込めない争いを好まない希空からすれば、至極当然のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 3限目は前の1、2限目とは違い千冬が教壇に立っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

「(クラス対抗戦……かー)」

 

 一応ISを動かせない自分は関係無い。ただ整備対象が増えるか否か。その違い程度。

 だが、少し視点を変えてみよう。

 希空はISを動かせない。しかし()()はISを動かせる。

 

「……にやりー」

「(っ!? なっ、何だ今の悪寒!!)」

 

 肩が跳ねた一夏君、キミの第六感は優れている。希空がこれからしようと思っていることは、言うなれば『我、良からぬ事を企む者なり』だ。

 

「はいはーい、一夏を推薦しまーす」

「って希空兄!?」

 

半ばヒステリック状態の一夏。フゥーハハハ、もう遅い。何故なら、

 

「私もそれが良いと思いますー」

「流石は織斑くんのお兄さん! 話わっかるぅ!」

「いよっ、男前!!」

「いやー、それほどでもー」

 

 もう一夏=クラス代表という流れがクラス内に広がっていたからだ。

 それに、まんざらではない。

 希空は沸き上がる歓声を両手を某昼のグラサン司会者風に振って宥めた。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

「えっ!? マジで俺なのか!?」

「織斑弟。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか? いないなら無投票当選だぞ」

「ちょっ、ちょっと待った! だったら俺は希空兄を推薦する!!」

「馬鹿者、織斑兄はISを動かせんだろうが。それに自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟しろ。最も――」

 

 す、と千冬の鋭い視線が一夏の背後に優雅に手を組んで座る希空に注がれた。

 

「もちろん、他薦した者にはそれなりの責任が伴うがな」

「それについてはご心配無く」

 

 包帯に巻かれていない左目を閉じたまま、希空は笑みを浮かべた。

 

「宣言しましょーか。僕が推薦した我が1年1組クラス代表、織斑一夏は―――」

 

 希空はゆっくりと立ち上がり、驚愕の表情の一夏を見据えて微笑む。ぱちりと、左目の黒瞳を覗かせて。

 

 

 

 

 

 

 

「――IS学園一のIS操縦者になる」

 

 

 

 

 

 

 

 静かなる宣言。

 それははたまた予言か。

 クラスの全生徒ならず、千冬までも驚いた顔をしていたが、やがてフッと一瞬だけ笑みを溢した。

 

「遅かれ速かれそうなるんだろうからいま言ったところでなにも変わりはしないっしょー。ま、僕がISの修理、調整、整備は完璧にするから安心して―――」

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 と、ここで希空の計画を阻む者がいた。

 金髪ロールに碧眼のお嬢様。なかなかカチューシャ似合ってるなぁーと希空はどうでもいい感想を抱いているが。

 セシリアは机を叩いて憤怒の表情で立ち上がる。

 

「そのような選出はみとめられません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 そ、そこまで嫌がることなのだろうか。

 女尊男卑が進んでいるとは聞いていたが、まさかここまで進行していたとは流石の希空も色々な意味合いで驚いた。

 

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

 

 ぷっちん。

 自分の目の前の男の()()が切れた。

 それに日本人である僕としては、セシリアが言うことはあまり許容出来る内容では無かった。

 

「五月蝿いよ」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ……!?」

 

 いつに無く冷たい、希空の一言と辛辣な一夏の言葉がセシリアに突き刺さる。希空は希空で顔は笑っているが、逆にそのギャップがクラスメイトには恐ろしかった。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

「先に侮辱したのはそっちじゃないー? …んまぁ、この際どっちが先にやったかーなんてあんま問題じゃあ、無いけど」

 

 と、いつものように答える希空。

 そう、この際どちらが先にやったかなんて関係無い。論外、ホビロンだ。要は、双方『言ったか、言ってないか』。当然結論はどちらとも『言った』だ。するとセシリアはびしっと人差し指で一夏を指す。

 

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど俺は腐っちゃいない」

「そう? 何せちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」

「で、ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかなーと」

 

次の瞬間、クラスからドッと爆笑が巻き起こった。

 

「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

 現代、男は圧倒的に女より弱い。何故かと問われれば、理由は簡単。単純にISを使えるからである。もし男女差別で戦争が起きたら男は三日も持たないと言われるほど、ISは最強の兵器とまで謳われているのだから。

 

「……じゃあ、ハンデはなくていい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデをつけなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

 セシリアが浮かべている表情にはさっきまでの怒りは消え失せ、明らかな嘲笑があった。

 

「ねー、織斑くん。今からでも遅くないよ? セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」

「お兄さんも、そう思うよね?」

 

 お兄さんて。いやもうお兄さんって名前で通っちゃうのかなー?

 ふと周りを見れば、クラス中の視線が希空に集中していた。そんな中でも希空は変わらず暢気な態度で答える。

 

「うーん、どうだろー? 実際問題ハンデの有無は難しいんじゃないかなー」

「えっ」

「だって、一夏は初めてIS動かした時教官倒したって言うからさー。前代未聞の男性IS操縦者だからかどうかはわからないけど、女性でコレはまず有り得ないよね。だからわからない。でもー」

 

 座っていた希空は一夏から後ろのセシリアへ振り向く。希空の視線を感じるなり顔を引き締めるセシリアに苦笑しながら、一言。

 

「もしかしたら、セシリア・オルコットさんがハンデ要るかも知れないかなー」

「なっ―――!!」

「いい加減静かにしろ!!」

 

 セシリアが再び激昂し希空に何か言おうとしたが、千冬の一喝によってそれは防がれた。歯痒い気持ちを押し留めて、セシリアは席に座る。

 千冬は小さく溜息をつき、ぱたんと出席簿を教卓に置いた。

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後、第3アリーナで行う。織斑弟とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」

 

 一夏とセシリアは静かに頷く。希空は至極愉しそうに目を細めながら、事の成り行きを見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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