我輩は寄生虫である   作:ナスの森

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葛藤

 

『グオオオォォッ!!』

 

「な、何だこの化け物は・・・・・・何もない所から急に現れて────くそ、来るな・・・・・・来るなぁあああぁぁああッ!?」

 

 洋館のホールに悲鳴が木霊する。

 それも束の間、ホールの空間を響かせるのは、その肉を骨ごと貪る咀嚼音だった。

 その咀嚼音を鳴らす怪物の正体は、全長は7mは超すであろう、巨大な緑色のカメレオンだった。

 t-ウイルスの作用による急激な変異成長について行けなかったのか、その巨体を覆う緑色の鱗の所々に亀裂が入り、露出した内側の筋肉の色がその亀裂に沿って現れており、さらにその亀裂の所々に、外界へと飛び出した赤や青の肉腫が飛び出した巨大なカメレオン。

 そのB.O.W.の名を「バイオゲラス」と言った。

 

「ハァ、だから言わんこっちゃない」

 

 玄関の扉から入ってきたリサが、口の中に入れたU.S.S.隊員をむしゃむしゃと食べるバイオゲラスを見ながら呆れたようにため息を吐いた。

 幸い、『Ne-δ』の寄生による敵味方識別能力により、この怪物がリサに襲いかかってくることはない。しかしながら、その凶暴性はリサの“知識”の中にいるオリジナルのバイオゲラスと遜色ないものである。襲ってきた所で、今のリサならば余裕で返り討ちにできる程の力の差は存在しているが、これでも貴重なサンプルなため失うのは惜しい上に、処分が面倒になるのだ。

 

(そもそも、『Ne-δ』が宿主に及ぼす影響って、ほとんどないのよね。そういう風に設計したわけだし)

 

 『Ne-δ』は宿主に、同じ女王(リサ)から生まれたNe寄生体やそれに寄生した宿主のことは敵と見做さない程度の識別能力を持たせる。

 逆に言えば、『Ne-δ』はそれ以外の認識や行動への影響を宿主に及ぼさない。

 能力向上もなく変異も起こさず、極力宿主への影響を抑えることを念頭に置いてリサが開発したのが『Ne-δ』なのだ。

 故に『Ne-δ』は敵味方認識能力の付与以外には、宿主の行動や思考を一切支配していない。肉体の主導権はあくまで宿主側に委ねている。

 

(寄生体の影響や変異が少しでも見られた時点で、サンプルとしてはもう落第だからね。寄生体が宿主に及ぼす影響のサンプル例としては良いのかもしれないけれど、なるべく寄生体が関与しない、限りなく宿主側に寄った状態のサンプルの方が好ましい。

 『Ne-δ』は、あくまで面倒事にならないための保険に過ぎないのよね)

 

 いずれは『Ne-δ』も本格的なB.O.W.向けに発展させていく予定ではあるが、今の段階ではまだ早い。少なくとも、この洋館で研究している間にそれを実行に移すことはないだろう。

 最低限、此方に危害を加えない程度の安全性と制御性を確保しつつも、なるべく宿主側が非寄生状態に近しい状態のサンプルに保つこと。『Ne-δ』の役割はあくまで研究を安全に進めるためのオプションに過ぎないのだ。

 

「・・・・・・それにしても、どうしようかしら?」

 

 屍を咀嚼し終わったバイオゲラスを見ながら、リサは思い悩む。

 ・・・・・・正直、やりすぎてしまったという自覚はある。

 だが、仕方ないではないか。

 ────ハッキリ言うが、今のアークレイ研究所はリサの求める研究環境としては理想的な場所だった。

 邪魔となる他のスタッフもおらず、適度にバイオハザードが起こっている環境のためか其方関連のデータも取れる。

 実験体の暴走に関しても、『Ne-δ』の開発でその心配はなくなったし。

 1番の理由は、既にリサ自身がウイルスに侵された怪物であるため、今更漏洩したウイルスに感染するリスクといったものがないのが最大の利点である。

 

 だが、それ良いことにやり過ぎてしまったせいか・・・・・・この館の難易度が鰻登りに上がっているような気がしないでもないのだ。

 

「ゾンビは皆、変異型t-ウイルスに重複感染しちゃったし・・・・・・ハンターやケルベロスに加えて三種類のリッカーまで・・・・・・極めつけには、この館にはヨーンとバイオゲラスが同時にいるのよね・・・・・・」

 

 特にS.T.A.R.S.隊員リチャードの死亡フラグが1つ増えているような気がしているのはリサにとっては胃が重い事態だった。

 幸いにも、ヨーンとバイオゲラスの毒の成分は近いことが分かっており、バイオゲラスの毒の方も保健室にある血清で治すことは可能だろう。

 

「時間も限られている事だし、ギリギリまで取れるデータは取りたいのだけれど・・・・・・そちらにばかりにかまかけていたら大事になりかねないわね。」

 

 『Ne-δ』に寄生された宿主が味方と判断するのはあくまで同じ変異Ne寄生体に寄生された生き物のみ。当然だがただの人間であるS.T.A.R.S.隊員たちを味方と見做す道理はない。

 

「パパとママの遺骨を運び出す準備もしておかないと。・・・・・・いつまでも、こんな化け物の巣窟の中じゃ安らかに眠れないだろうし」

 

 現時点でその巣窟ぶりを加速させているのは他ならないリサではあるのだが、さすがにそれを自覚した上での発言ではあった。

 

「・・・・・・別に、私は地獄に墜ちたっていい。でも、パパとママは別。スペンサーに復讐できなかったとしても、これだけはやらないと」

 

 少なくとも、まだ自分に人間性が残っている内にはやらねばならない。

 

「フフ・・・・・・今更、何言ってるのかしらね、この外道女が」

 

 俯いて自嘲する。

 

「ママの骨を見つけて、1番最初にやることが、安全な場所に運び出すことじゃなくて・・・・・・遺骨から『変異始祖ウイルス』を抽出する事だなんて・・・・・・一体どこまで堕ちれば気が済むんだろうね、私は・・・・・・」

 

 ウイルスに侵されているから、という言い訳は最早通用しまい。

 ウイルスやB.O.W.の研究を続ける度、その知識を吸収していく度、その都度己の中の人間性が徐々に消えていくのをリサは感じていた。

 元は人間であったであろう被検体たちに対する罪悪感も薄れていき、今や己のエゴで研究の踏み台にする日々だ。

 ここの館のスタッフたちだって、別に全員がアンブレラの闇に属する外道という訳ではない。あの日誌を書いていた飼育員を始めとし、アンブレラの闇に呑まれて犠牲になった一般スタッフたちだっていたのだ。

 そのスタッフたちすら、リサは今やどう思うわけでもなく、活性死者となって徘徊している所を変異型t-ウイルスの重複実験の被検体にしたり、リッカーの素材としか見ていない始末だ。

 

「データは、多ければ多い程いい。それが全て私の武器になる。いずれスペンサーに辿り着くための・・・・・・ママの遺骨だってそう」

 

 20年前、スペンサーによって父ジョージや母ジェシカと共に、この館に招かれ、母と一緒に始祖ウイルス投与の実験台にされた時である。

 自分に投与された物と、母ジェシカに投与されていた始祖ウイルスは微妙にタイプが違う物だった。

 リサが投与されたのは、『変異始祖ウイルス』のType-Bと呼ばれるもの。

 それに対して母ジェシカが投与されたのは、Type-Aと呼ばれるものだ。

 いずれも始祖花から直接抽出できた本物の始祖ウイルスとは少し異なるもので、どちらもリッカーに投与はしてみたものの、リサの知識の中にある『リッカーβ』にはならず、それぞれリサの知らない微妙に異なる別のタイプのリッカーに変異したため、オリジナルの始祖ウイルスとは違うのだということを改めて思い知らされた。

 そして、母ジェシカが投与されたType-Aは、この館に過去存在していた試作型ウイルスの中で唯一リサの体内にはなかったものだ。

 だから、母の遺骨から、態々抽出しなければならなかった。

 

 その時の自分の気持ちを、リサはこれから一生忘れないだろう。

 その時には既にB.O.W.の研究に手を染めていたため、今更だと己には言い聞かせてはいても。

 

 ────それをしたら最期、お前は本当に人間には戻れなくなるぞ?

 

 心のどこかに別の自分の、そんな警告が聞こえたような気がしたのだ。

 

「さすがに、それはどうなんだって思ったわよ・・・・・・でも・・・・・・それでも、必要、だったのよ・・・・・・」

 

 誰に言い聞かせるわけでもない、己の中に残った僅かな良心に圧力をかけるように、リサという悪魔はただ語る。

 

「だから、これは仕方の無いこと。結果的に、誰も何も失っていない。ただ、私の人間性が失われただけ、ただそれだけの事なのだから」

 

 リサの独り言に対し、U.S.S.隊員を咀嚼し終わったバイオゲラスが一瞬だけ訝しげにリサの方を見たが、すぐに興味を無くしたようにまたホールの徘徊を始めた。

 そんなバイオゲラスの後ろ姿を見たリサはまた我に返り、あることを決断する。

 

「・・・・・・せめて、館の各所に破血アンプルは置いておきましょうか。ついでにレシピも・・・・・・あの幹部養成所を生き抜くであろう大型新人ならば、読み解いて作成することもできるでしょうし・・・・・・」

 

 それは、彼女が自分の中に残った人間性を失わないための、せめてものの足掻き故の決断なのか、それとも外道に堕ちきった少女の気紛れなのかは、分からない。

 

「・・・・・・丁度いいわ。どうせ放し飼いにして持て余してる所だったし、この子の背中にあの気絶したU.S.S.隊員を運ばせましょうか。屋上の処理はマッドに任せましょう」

 

 リサはそっと目を閉じ、意識を集中して、バイオゲラスの中に寄生した『Ne-δ』に干渉する。

 その途端、バイオゲラスはリサの方に振り向いて、再び近寄ってじっとリサの指示を待つかのように彼女を見据えた。

 

「・・・・・・いい子ね」

 

 そうして、リサはバイオゲラスを引き連れて玄関の外に出る。

 

 

 

 私の名はリサ・トレヴァー。

 2つの顔を持つ女。

 外に晒した、左半分の、まだ14歳の少女だった頃の顔。

 包帯の裏に隠した、右半分の、醜い化け物に変異しきった顔。

 

 

 今の私は、どちらが本当の私の顔なのか、もう、分からない。

 

 

 それでも、それでも、私はきっと。

 心のどこかでは、「自分は人間である」と。

 そうみっともなく叫び続けるのだろう。

 




クリーチャー紹介

・リサ・トレヴァー
順調にB.O.Wの研究を進めていく一方で、着々と自分の中の人間性が失われていくことを実感している怪物少女。
母親の遺骨から変異始祖ウイルスを抽出する行為にまで及び、葛藤の最中、それでも復讐の道を邁進していく少女。

・バイオゲラス
あの名前を言ってはいけないフリーゲームより、出演。
ヨーンに匹敵する毒に加えて、透明化擬態能力までも持つとんでも巨大カメレオン。
よって現在の洋館には、ヨーン、ネプチューンに加えてバイオゲラスとリチャードの死亡パターンが3つも存在する事態に。
S.T.A.R.Sブラヴォーチーム隊員リチャード・エイケンの明日は果たして!?

・三種類のリッカーたち
ゾンビから変異させた原種のリッカーに加え、リサが投与された変異始祖ウイルスType-Bを投与されたモノと、母親の遺骨から抽出したType-Aを投与したモノ、計3種の亜種がこの館に存在している。
どちらの変異始祖ウイルスも始祖花から直接抽出したオリジナルの始祖ウイルスではないため、バイオ5に登場した『リッカーβ』にはならず2種ともそれぞれ別のタイプのリッカーに変貌。
やはり進化の袋小路に入っているためか、リッカーβ同様、多少の能力向上は確認できたものの、相変わらず目は見えず、大した進化もなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・しかし、この後?
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