マッド・・・・・・もとい変異ネメシス-t型を作るに当たり、素体としてアークレイ研究所の地下にあるT-002ではなく、態々幹部養成施設に廃棄された試作型のT-001を選んだのは勿論理由がある。
T-001型プロトタイラントはT-002型タイラントと比べ、T-ウイルスによる作用が大きくなりすぎてしまい知能の劣化、皮膚の激しい腐敗などの、強靱な生命力と戦闘力を引き換えに致命的な副作用を抱えてしまった。
本来、兵器としては失敗作であり破棄されたものの、当時の私が欲していたのは正にその“劣化した知能”そのものだった。
館中のゾンビたちに対する変異型t-ウイルスの重複感染実験と、簡易ネメシス『Ne-δ』の寄生実験。
これら2つの実験は私に多大な量かつ有益なデータをもたらしてくれた。
前にも説明したと思うが、生前に最初から変異型t-ウイルスに感染したゾンビは、通常の従来のt-ウイルスによるゾンビよりも生前の習慣や記憶が色濃く残り、一方通行ながらも言葉を発したり、生前に愛用していた道具などを簡易的な武器として使用することができる。
これだけながら、変異型t-ウイルスが感染者の脳にもたらす作用が従来のt-ウイルスよりも小さいというだけで説明がつく。
だが、そうなると私の中に宿った“知識”を参照に1つ不可解な事象が出てくるのだ。
今から28年後の、滅菌作戦後のラクーンシティに未だ徘徊していたゾンビたち。
従来のt-ウイルスのゾンビの事を考えるのならば、28年の歳月を経たのならば、ウイルスの作用による過剰な代謝に耐えきれずにとっくに死んでいるはずである。t-ウイルスによるゾンビは“蘇った死者”ではなく、あくまで“食欲だけが残った生存者”であるが故に。
だが、変異型t-ウイルスによる重複感染に晒されたラクーンシティのゾンビたちは息絶える所か28年もの間街の中を徘徊し続け、さらには変異型t-ウイルス製ゾンビと同じ特徴を持っていた。
言葉を発したりはさすがにできなかったが、それでも鉄筋コンクリートの残骸をハンマーの如く振り回したり、投擲したり、簡易的な槍で突進したり、チェーンソーを振り回したり、挙げ句の果てにはブリスターヘッドに変異したりなど、変異型t-ウイルス製ゾンビと遜色ない知能と戦闘能力を持っていた。
・・・・・・チェーンソーを簡易的な道具に含めて良いのかは甚だ疑問ではあるが、それは置いておこう。
ここで問題なのは、従来のt-ウイルスに感染し一度は記憶が破壊される程のダメージを脳が負ったにも関わらず、後から変異型t-ウイルスを投与して知能がある程度回復する事例は、果たしてゾンビにだけに適用されるのか?
一先ず完成品であるT-002ではなく失敗作であるT-001を選んだのにはそういった理由がある訳だ。
後は・・・・・・強いて挙げるとするならば、私の方がプロトタイラントに一方的なシンパシーを感じてしまったというのもあった。
同じように失敗作として見做され廃棄されたプロトタイラント【T-001】。
一応、彼も素体はあのT-ウイルス完全適合者であるセルゲイ・ウラジミールのクローンである筈なのだが、技術の拙撰さ故か失敗作と見做されてしまった。
私も変異始祖ウイルスに適合したものの、結局は彼と同じように廃棄処分を食らった。
結局は私も彼も生きていたため、改めてアンブレラの処分の甘さに呆れかえるばかりだが。・・・・・・こらそこ、ブリスターヘッドの遺体を放置して重複感染事故を起こした私も人の事言えないじゃないとか言うんじゃない。自覚はしてるんだから。
重複感染実験による知能向上の検証。そのためにはなるべく素体の知能が低い方が好ましかったこと。
あとは、私が勝手に彼方に一方的なシンパシーを感じたこと。
理由は大きく分けてこの2つと言った所だろうか。
前にも言ったけれど、闇雲に変異型t-ウイルスをゾンビ達に投与していた訳ではないわよ? ただただ重複感染をさせるだけならそこら辺の小学生にだってできる。
重複感染にもバリエーションが存在する。
例えば・・・・・・重複感染させたゾンビAの血を、今度はゾンビBへ投与したとする。
投与されたゾンビBは同じように重複感染したが、何故だかゾンビAと同じ武器を好んで振るうようになる傾向にあったりと、変異型t-ウイルスによる血の記憶伝承能力がゾンビ達に対してどこまで及ぶかも実験していた。
尚、試しに近くにチェーンソーを置いてみたら挙って彼奴ら血の記憶伝承とか関係なしにチェーンソーを拾いに行っていた模様。もう変異型tウイルス感染者のチェーンソーへの執着についてはもう考えないことにしたわ。
要するに、プロトタイラントへ行った変異型tウイルスの重複感染実験は、今までの館へのゾンビの重複感染実験の結集と言っても過言ではない。
今回は館中のゾンビの血を混ぜ合わせた血漿をプロトタイラントへと投与したのだ。
念のために簡易ネメシス『Ne-δ』も寄生させて此方に襲わせないように保険を掛け、そして重複感染したプロトタイラントの経過を観察してみたのだ。
すると、驚くべき変化が現れた。
まずは外見が他の変異型tウイルス製ゾンビと同様に、皮膚が黒ずむように変色した。
また、多少の肉体の再構成が起こったのか、スーパー化が解かれ、特に左腕も発達しかけていた爪が完全に内側へと引き戻り、黒ずんだ皮膚や腐敗しているのを除けば、ほぼほぼ左右を反転させたT-002とも言うべき外見に変化した。
そして、更に目まぐるしかった変化が、元から凄まじかったt-ウイルスの作用が、そのまま変異型t-ウイルスに置き換わったのか、知能の向上の度合いが他の重複感染実験を行った館のゾンビたちの比ではなかった。
まずはドアの閉開を正しく行うようになり、さらにそこからの鉄パイプを引きちぎって武器にして振るおうとしたり、試しに私が元々U,S.S.の落とし物であったグレネードランチャーの銃口を向けてみると、体を銃口の向く先から逸らしたり、心臓の方へ向けてみれば爪が発達した方の右手で心臓を覆い隠すなどの行動を取り始めた。
これは、T-002は愚か後の量産型であるT-003にも匹敵する知能だ。
それでも『Ne-δ』の影響か私への利敵行為だけは行わなかったものの、凶暴性だけは相変わらずのようで、『Ne-δ』を投与していないアークレイ山中を徘徊しているケルベロスなどを見掛けると、逃がさないとばかりに追跡を始め、追い詰めたケルベロスたちを1秒もしない内に惨殺してしまった。
密かに、惜しいと思ったのは内緒だ。
・・・・・・その凶暴性さえなければ、ある程度の複雑な命令だって遂行できる兵士になれただろうに。
プロトタイラントへの変異型t-ウイルスの重複感染実験は、非情に有意義な実験だったと言える。
館のゾンビたちに重複感染実験を行い、そのデータを集めた苦労の甲斐もあったというものだ。
ならば当然、私の中にその先の欲望が芽生えてくる。
既に、アークレイのT-002に用はない。精々、
重複感染実験の総集とも言える処置を施したプロトタイラントのスペックは最早そこいらの量産タイラントすら比較にならないほどの者だ。
“知識”の中で、量産型タイラント5体と相打ちになった米軍特殊部隊すらも一瞬で壊滅させられる程の暴君が今、私の手元にいる。
だが、最低限私に襲いかからない保障こそあるものの、その凶暴性は健在どころか、むしろ重複感染を経て増幅している。
・・・・・・この暴君を、完全に私のモノにしたい。
そんな欲が、出てしまった。
だから、私は変異プロトタイラントに最後の処置を施した。
私の触手から生まれた『変異Ne-α』。
元は試作型Ne-αであったものの、私に取り込まれた事で急激な進化を遂げた変異Ne-α。そんな私の体から生み出された、もう一体のソレ。
ソレは私の子であり、分身であり、そして駒でもある。
丁度、腐敗して露出した脊髄に、ソレを寄生させた。
プロトタイラントの高濃度のt-ウイルス・・・・・・いや、それと置き換わった高濃度の変異型t-ウイルスを取り込んだそれは、既にあった『Ne-δ』と成り代わるように寄生を開始し、やがて増殖した細胞はプロトタイラントの延髄付近に新たな脳を形成した。
他のt-ウイルス生物ならば、この過程での寄生の負荷でそのまま息絶えてしまうが、この暴君は当然のようにその負荷に耐えた。
そして、ここに最高の兵士が完成した。
”知識“の中に存在しているネメシス-t型のような、皮膚がケロイド状になるといった副作用もなしに、変異Ne-αは完全に変異プロトタイラントの脳機能を掌握した。
寄生が完了した変異Ne-αはプロトタイラントの体内の変異型t-ウイルスの作用を完全に制御しきったのか、背丈は量産型タイラントと同等くらいに落ち着き、左手にあった巨大な爪も彼自身の意思で自由に生やしたり、仕舞い込んだりできるようになった。。
そして、館中を漁っている内に見つけた、おそらく量産型タイラント用のモノと思われる黒いトレンチコートを見繕い、腐敗した口回りを隠す黒い覆面を着用させた。一目見ただけでは、完全に量産型タイラントのバリエーションの1つとした見えないことだろう。
寄生が完了したプロトタイラント・・・・・・もとい変異ネメシスt-型のスペックはそれはもう凄まじかった。
只でさえ強靱だった生命力は更に上昇し、パワー、スピードに至るまで急激に上昇。
さらにこの館の警備任務についていたU.S.S.ブラヴォーチームの血漿も入れたおかげか、彼らが置いていったミニミやロケットランチャーまで、一目見てその構造と使い方を理解したのだ。巨体ゆえに指で直接引き金を引くことは敵わなかったが、腕に括り付けて固定した銃器の引き金を、腕から生やしたNe-αの細い触手を生やし、指代わりに用いて引き金を引くといった芸当まで見せた。
・・・・・・終いには、集めた館のゾンビ達の血漿から言語まで一瞬で学習したのか、寄生が完了して目覚め際に私のことを「Queen」とまで呼び始めた。
正直、元は失敗作だったプロトタイラントがここまでB.O.W.に生まれ変わるとは想像だにしていなかった。
私の背中にある変異Ne-α。仮にソレを私以外のB.O.W.に寄生させたらどれほどの強化が起こるのか、前々から興味はあったが、まさかこれ程とは。
ゾンビやハンターに寄生させた所で宿主を殺してしまう結果になるのは目に見えていたので、そこに重複感染実験の総集も兼ねての、プロトタイラントへの寄生実験。
変異型t-ウイルスの重複感染実験と変異Ne-αの寄生、そしてその負荷に耐えうるタイラントシリーズの強靱な生命力。
これら3つが合わさって、変異ネメシス-t型・・・・・・通称マッドは生まれたのだ。
正直、マッドという手駒を生み出せただけでも、この館での実験は十分お腹一杯であると言える。
それでも、私の欲は止まらない。
スペンサーへの復讐のためならば、使えるリソースは使い切る勢いでないと。
それが時間制限付きならば尚更だ。
「尋問にかけたU.S.S.隊員の言葉を信じるならば、アンブレラの連中は館の状況が把握できなくて、S.T.A.R.S.の派遣がしたくてもできない状況にあるようね・・・・・・今回、新しく派遣されたチャーリーチームの連絡がまた途絶えたことで余計に尻込みするでしょうし・・・・・・もう少し、この館で研究できる時間が増えるかしら?」
拠点にしている小屋の部屋のベッドに座り込みながら、考える。
「・・・・・・いえ、でも、考えてみれば“知識”の洋館事件って、奴の独断で行われた側面もあるのよね」
私の頭に思い浮かんだのは、ずっと強化ガラス越しに身動きも、言葉も発せない私を見下していた、サングラスをかけた研究者だった。
・・・・・・正直な所、彼のことは軽蔑こそしているものの、恨みはそこまで抱いてはいなかった。むしろ、試作型のNe-αを態々ヨーロッパから持ち出して私に寄生させる実験の発案者は彼だったので、私が知能を取り戻す切っ掛けを与えてくれた者として感謝さえしていると言えた。
尤も、それが好感を抱くこととイコールでは勿論ないのだけれど。
「黄道特急事件で復活した
ハァ、とため息をはく。
「・・・・・・そうなると、鍵はやはり“黄道特急事件”、か。やはり、“知識”よりも時間が延びることはないわけね」
そう考えると、その時間内にマッドを作り出せたことは非常に僥倖と言える。
「リッカーについては・・・・・・色々予想外の結果は得れたけど・・・・・・あと一押し・・・・・・せめて変異の誘発因子まで特定したかったわね」
館に存在していた三種類のリッカー。
1つは原種のリッカー。
2つ目は変異始祖ウイルス『TYPE-A』を投与した【リッカーγ】。
そして3つ目は『TYPE-B』を投与した【リッカーγ2】。
これら三種類のリッカーが、1種類はイレギュラーで、もう2種類はリサの実験によってそれぞれまた別のリッカーに進化したという快挙を成し遂げたのだが、語るのはまた後日となるだろう。
「でも、代わりに【ウェブススピナー】から【ブラックタイガー】への変異の誘発因子は特定できたし、この誘発因子を利用すれば蜘蛛型B.O.W.の開発も捗りそうね」
リッカーへ進化させるためのゾンビ用の餌として、蜘蛛にT-ウイルスを投与して片っ端からウェブスピナーを大量に生み出す事をしていたせいか、【ウェブスピナー】に関するデータだけは、この館のゾンビへの重複感染実験と同じくらいに膨大に集まった。
その結果、【ウェブスピナー】から更に巨大な
他にも、プラント42に関する事や、マッド以外にもこの館から得られたB.O.Wの有意義な研究成果は数知れない。
「・・・・・・もっと時間があれば、その気になれば色々研究ができそうだけれど、そろそろ潮時かしらね」
天上を見上げながら呟く。
・・・・・・正直、家族ともどもスペンサーに招かれてからここに至るまで、この館にはろくな思い出がない・・・・・・どころか、リサ・トレヴァーとしての人生全てが奪われた場所でもある。
それでも。
「・・・・・・それでもここは、パパが作った館なんだよね。そう考えると・・・・・・少し、名残惜しいかしら」
感慨深そうに、そう呟いた。
色々とトンチキかつ悪趣味な仕掛けだらけで一瞬、スペンサーに頼まれたいたとはいえこれをノリノリで設計していたパパの神経を疑ってしまう時もあったけれど、この館は正真正銘、私にとってはパパの形見でもあるのだ。
「・・・・・・まあ、仕方ないわよね。いい加減、思い出ともおさらばしないと」
それこそ悪い思い出も、いい思い出も。
「そういえば、マッド」
ふと、リサは傍で付き添っていた変異ネメシス-t型・・・・・・マッドに問いかける。
こんな事を問いかけるのは・・・・・・気の迷いだというのは分かっていた。
それでも、パパやママの事を思い出し、人肌が寂しくなってしまった私は、マッドに聞いてしまった。
私の言葉に反応したマッドは、僅かに喉を鳴らしながら視線を私の方へ落としてくれた。
「アナタには色んな人の血漿を投与したから、色んな知識や記憶があると思うのだけれど・・・・・・その・・・・・・あの記憶とか・・・・・・ないかしら?」
「・・・・・・?」
言い淀むリサの問いかけに、マッドは僅かに眉を訝しげに眉を顰めた。
「例えばその・・・・・・今から28年後までの日本で暮らしていた人の記憶・・・・・・とか・・・・・・」
「───────」
黙り込むマッド。
反応が返ってこないということは、ない、という事なのだろうか。
「・・・・・・そっか・・・・・・ごめんね、困らせちゃって」
俯いて、マッドに謝る。
・・・・・・あぁ、本当にバカみたいだ。
マッドに注入した血漿は、この館のゾンビたちのモノだけではない。
マッドには、私の血漿も投与していたのだ。
この知識は元々、私の背中に寄生し、取り込まれた“彼”のものだった。
だから変異型t-ウイルスの血漿に宿る記憶の伝承能力、“彼”の記憶も含まれた私の血・・・・・・そして“彼”だった物と同じ変異Ne-α。
この3つがあれば・・・・・・もしかしたら、奇跡が起こってくれるかもと期待してしまった。
プロトタイラントを駆る変異Ne-αの形成した脳に、彼の記憶と人格が転写されるのではないかという、そんな淡い期待を。
でも、現実はうまくいかない。
結局、あの憎きスペンサーと同じことをしただけに終わった。
「結局・・・・・・私は1人、か・・・・・・」
当然だ、こんな外道に堕ちた奴と一緒にいてくれる物好きなんて、いる筈がない。パパとママも、それは同じだ。
例え2人が生きていたのだとしても、今の私が誰かと共にいる資格なんてある筈がない。
「・・・・・・ッ」
・・・・・・不意に、目が霞んでくる
この涙をマッドには見せたくなくて。
私は枕に顔を埋めて、必死にこの涙を隠した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
故に、私は見逃してしまっていた。
泣いている私を見ていたマッドが
気まずそうに、私から目を逸らしていたことに
クリーチャー解説
・リサ・トレヴァー
最近センチメンタルがちな怪物少女。
外道に堕ちたことは自覚しつつも、でも、ひとりは、さみしい。
・3種類のリッカー
原種のリッカー、リッカーγ、リッカーγ2の3種類リッカーたち。
イレギュラー、そして実験の末にそれぞれ別のリッカーに進化。
・変異ネメシス-t型(通称:マッド)
・・・・・・ちょっと君こっち見ようか?