■ウマ娘は『前の貴方と歩んだこと』を覚えている。 作:あばなたらたやた
メジロラモーヌの担当になった理由は単純だった。
「話の流れかな」
「流れ!?」
「へぇ、そうなの」
俺は淡々と続ける。
「基本的に俺はファーストインプレッションとか、現実の現象に意味とか価値とかを重要視しない」
運命だとか、そうなるべき使命だとか、そういう固定されたのは纏めて雑魚の思考だと考えている。
「物事はすべて等価値だ。だからこそ、結局のところあらゆるものは無価値で無意味なんだ。論ずる価値すらない存在だよ」
俺は少し言葉を区切り、柔らかく付け加えた。
「ただし、ここで言う『無』は『存在しない』という意味じゃない。長所も短所もあって、プラスとマイナスがぴったり釣り合って、総合的な価値がちょうどゼロになる——そういうニュアンスだ」
俺はラモーヌの目を見つめ、穏やかな微笑みを浮かべた。
「だからこそ、大切なのは自分の心が『これだ』と感じたものなんだ。尊いと思った気持ち、愛したいという想い、他人に何を言われようと『これをしたい』と心が叫ぶもの。それを尊重すべきだと思う」
俺は軽く肩をすくめて、照れくさそうに続けた。
「だから、誰でも良かったんだ。正直に言えばね。でも——」
そこで一旦言葉を切り、ラモーヌ手を優しく握った。
「これからは、君と共に歩みたい。君と一緒に、これから先の価値や意味を、ゼロの地面に新しく創造していきたい。そう思ったんだ。」
シンボリルドルフは静かに目を伏せ、俺の言葉を胸の内で反芻している様子だった。やがて彼女は小さく息を吐き、穏やかでありながらもどこか切なさの混じった声で語り始めた。
俺とラモーヌを見て、切ない表情だ。
「……要するに、君ははこう言いたかったのか。この世界のあらゆる物事は、根本的に『等価値』であると。 だからこそ、結局はすべてが『無価値』であり『無意味』だと。 ただし、それは『何もない』という虚無ではなく、長所と短所が完璧に相殺されて、総合的な価値がちょうどゼロになる——そういう『無』なのだと。
どんな選択肢も、どんな人との関係も、客観的に見れば同じ『ゼロ』。
優劣も優位性も本質的には存在しない。 だから『誰が正解か』なんて、論ずるだけ無駄なことなのだと。
そして俺そこから一歩進んでこう結論づけた。
『だからこそ、自分の心が動いたものを選ぶしかない』と。
他人がどう評価しようと、世間がどう言おうと、自分が『尊い』と感じた気持ち、『愛したい』と純粋に思った想い、『これをしたい』と心が強く求めたものを、ただ尊重するべきだと。
「つまり、『誰でも良かった』というのは、決して投げやりな諦めではなく、 むしろ極めて冷めた目で世界を見た上での、究極的な肯定ということか」
シンボリルドルフは拳を握りしている。
俺はラモーヌを選んだ。
それは『メジロラモーヌが特別優れていたから』ではなく、 『自分の心が今、この瞬間にラモーヌを尊いと思ったから』。 そしてこれから先、ゼロの地面に二人で手を携えて、新たな価値と意味を一から創造していく——そう決めたのだというのを咀嚼し終えたようだ。
シンボリルドルフはそこで言葉を切り、寂しげに、しかし優しく微笑んだ。
「君らしい、すごく君らしい考え方……だ。虚無を真正面から受け止めた上で、それでも前を向こうとする、静かで強い意志……それが、君が私ではなく彼女を選んだ理由」
俺は少し視線を落とし、静かに言葉を続けた。
「さっきも言ったが……もう一度言うと、流れだったんだ」
俺は自嘲するように小さく笑った。
「シンボリルドルフでも、メジロラモーヌでも、どちらでも良かった。 さっきも言った通り、根本的に物事は等価値で、誰を選んでも最終的な価値はゼロだと思ってる。だからこそ、俺はあえて自分の心の動きに任せることにした。だけど、現実として……ラモーヌは、ものすごく積極的で、強引なくらい俺を求めてきた」
ラモーヌの歯形は首元についている。
「俺に対して、真正面から大きな感情をぶつけて、離さなかった。あれだけ真っ直ぐで、熱い想いを向けられたら…… 自然と、応えたいと思ったんだ。 この想いに、ちゃんと向き合って、応えられるかどうか、自分を試してみたいと思った。それが、俺がラモーヌを選んだ一番素直な理由だよ」
俺はそこで顔を上げ、穏やかでありながらも真剣な目でラモーヌを見つめた。
「哲学的な理屈だけじゃなく、結局は『流れ』と『彼女の熱量』に押された形なんだ……それでも、今はそれで良かったと思ってる。愉快な状況ではあるが」
シンボリルドルフは少し声を震わせながら、主人公に問いかけた。
「全ては無価値で、意味がないのか? 大切な人との思い出や、気持ちさえも……無価値だと言うのか?」
その言葉には、抑えきれない切なさと疑問が込められていた。俺は静かに頷き、穏やかだが揺るぎない声で答えた。
「意味があるかないかは、本人が決めることだよ。 俺がどう言おうと、結局は自分で納得したものが、その人にとっての意味になる。それに、人間なんて不完全な生き物だ。些細なことを妙に覚えていたり、大切なことをうっかり忘れてしまったり……そんなことはよくある。
だからこそ、ただ流されるんじゃなく、自分で考えて、選んで、納得することが大切なんだと思う。」
俺はシンボリルドルフの目を見て、静かに続けた。
「思い出も、気持ちも、最初から『意味がある』と決まっているものじゃない。 自分が『これに意味を持たせたい』と決めたときに、初めて意味が生まれる。俺はそう考えてる。」
ラモーヌは、妖しくも優雅に微笑みを深めた。彼女の瞳は細められ、まるで獲物を慈しむような、しかしどこか敬愛に近い熱を帯びていた。ゆっくりと息を吐き、蠱惑的な声音で言葉を紡ぎ始める。
「やはり貴方は、愛を本当に理解している……。 ふふっ、素晴らしいわ」
彼女は指先で俺の胸のあたりを軽く撫でるような仕草をしながら、続けた。
「多くの人間は愛を『求めるもの』だと思うの。 欲しい、欲しい、もっと欲しい……と。相手から何かを貪るように。 あるいは『手に入れるもの』として、所有欲を満たすための対象にする。 もしくは『捧げるもの』として、自分を犠牲にし、相手に全てを捧げて奉仕することで愛だと信じ込む……でも貴方は違う」
爛々と輝く瞳が俺を射抜く。
「貴方は、誰かに何かを強要したり、相手に何かを期待して求めたりしない。ただ、自分の内側に静かに目を向ける。 この世界が等価値で無価値であろうとも、自分の心が『これに意味を見出したい』と決めた瞬間に、価値を生み出す。 相手を所有するのでもなく、相手に所有されるのでもなく……己の内側で価値と意味を創造する。それが、貴方にとっての愛であり、表現なのね」
ラモーヌの声がわずかに低くなり、甘く響いた。
「私を求めたのも、同じ理由でしょう? 『メジロラモーヌだから特別』という外部の理由ではなく、 自分の心がこの瞬間に『メジロラモーヌと共に価値を創りたい』と決めたから。 それがどれほど尊くて、どれほど強い愛の形か……貴方はきっとわかっている。」
彼女は蠱惑的に微笑みながら、俺の目を真っ直ぐに捉えた。そこには単なる恋慕を超えた、深い共鳴と興奮が宿っていた。
「そんな愛の在り方を、私も貴方と共に味わいたい。 己の内側から生まれる価値を、二人で深く、濃く、創造していく……それが、私の望む愛の形よ。素敵だわ、本当に……貴方は不可欠よ」
「あ、ありがとう」
私は静かにお礼を言った。
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