ウマ娘は『前の貴方と歩んだこと』を覚えている。   作:あばなたらたやた

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27話:前夜

 

 阪神JFへの出走が正式に決まった。

 それは単なる一つのレースではない。少なくとも、俺たちにとっては。

 メジロラモーヌという存在に対して、俺たちが初めて真正面から牙を剥く日。

 その宣戦布告だった。

 集まったのは四人。

 俺。

 マンハッタンカフェ。

 ドリームジャーニー。

 そして、ライスシャワー。

 普段なら、それぞれが別々の道を歩いているはずの四人だった。しかし今は違う。

 一つの目的のために、同じ場所に立っている。

 ドリームジャーニーは眼鏡の位置を直しながら、静かに口を開いた。

 

「さて。先日の会見があり、正式にレースが決まりました。それに合わせて、我々は対決をすることになります」

 

 淡々とした声音。しかし、その奥には確かな熱があった。

 彼女にとってこれは、ただの勝負ではない。

 旅路なのだ。

 憧れた存在へ近づくための、一歩。

 マンハッタンカフェが小さく頷く。

 

「阪神JFですね」

「はい」

 

 ドリームジャーニーは答える。

 

「マイルではありますが、我々にとって距離適性という問題は大きな意味を持ちません」

 

 彼女は一度、全員を見る。

 

「因子を取り込むことで、その問題は概ね解決している。ならば今回問われるのは、純粋な性能勝負でしょう」

 

 因子。

 この世界に存在する、運命の残滓。

 過去から受け継がれる可能性。

 それは祝福であり、呪いでもある。

 才能を与え、しかし同時に、背負わせるものでもある。だからこそ、この勝負に小細工は存在しない。

 あるのはただ一つ。

 誰の想いが、誰よりも強く走るのか。

 その一点だけだ。

 そんな中でライスは、珍しく静かな怒気を纏っていた。普段の彼女なら、誰かを傷つけることを恐れる。

 自分が不幸を呼ぶのではないかと怯える。

 そんな少女だ。だが今だけは違った。

 瞳には、燃えるような決意が宿っている。

 

「うん」

 

 ライスは小さく呟く。

 

「あの人には負けない」

 

 その言葉には、迷いがなかった。

 

「ライスが勝って……この世から、ライス以外のヒールを根絶するよ」

 

 その瞬間、俺は理解した。

 彼女が何を背負っているのかを。

 ウマ娘にはファンがいる。

 それは単なる観客ではない。

 彼女たちの走りに夢を見る者。

 勇気をもらう者。

 人生の支えにする者。

 だからこそ、強いウマ娘には社会的な影響力が生まれる。中には、国民的な存在として扱われる者すらいる。

 メジロラモーヌは、その極致だ。

 彼女は最高傑作。

 努力、才能、血統、精神。

 あらゆる要素を極限まで磨き上げた存在。

 多くの人間が、彼女に期待している。

 彼女が勝つことを望んでいる。

 彼女が走る姿を見ることで、希望を抱いている。

 

 それほどの存在なのだ。

 対してライスシャワーはどうか。

 もちろん、彼女にもファンはいる。

 彼女を愛する人間はいる。しかし社会全体から見た影響力という意味では、ラモーヌとは比べるべくもない。

 そして、もし、もしもだ。

 ライスがラモーヌに勝ったなら。あるいは、俺たち破神同盟が勝利したなら、世間はどう見るだろうか。

 最高傑作を倒した英雄。

 そう評価される可能性もある。しかし逆もまた存在する。

 仲の良いウマ娘たちが、一人の偉大な存在を押し潰した。

 そう受け取る者もいるだろう。

 嫉妬。慢心。集団による暴力。

 そんな言葉で語られる可能性すらある。

 勝利には、必ず代償がある。

 称賛だけを受け取れる戦いなど存在しない。

 それを理解してなおライスシャワーは立っている。

 

 逃げずに。

 怯えずに。

 自分が悪者になる可能性すら受け入れて。

 それでも走ると言っている。だから俺は思った。

 これは、派手な才能の戦いではない。

 これは、覚悟の戦いだ。

 ライスシャワー。

 彼女の魂は派手ではない。

 炎のように燃え盛るものでもない。

 これは暗闇の中でも消えない、小さな光だ。

 長い時間をかけて磨かれた、燻銀の魂。

 目立たない。しかし決して折れない。

 それこそが、彼女の強さなのだ。

 

 俺は三人を見る。

 神秘を背負うマンハッタンカフェ。

 旅路を続けるドリームジャーニー。

 誰かの幸福を願うライスシャワー。

 この三人が、俺と共にラモーヌへ挑む。ならば俺がすることは一つだけだ。

 拳を握り、笑う。

 

「破神同盟のお披露目だ」

 

 三人の視線が集まる。

 

「諸君」

 

 一歩前へ出る。

 

「派手にいこう」

 

 それは宣戦布告だった。

 神に挑む者たちの名乗りだった。

 勝てる保証などなく、正しいと証明されているわけでもない。だが意味というものは、最初から与えられるものではない。

 自分たちで選び、自分たちで背負い、その果てに初めて生まれるものだ。だから俺たちは走る。

 ラモーヌという完成形へ、そして証明する。

 完成された存在だけが、価値ある存在ではないのだと。

 未完成でも、傷だらけでも、それでも己の意志で前へ進む者には、神を越える資格があるのだと。

 

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  • サトノダイヤモンド
  • メジロラモーヌ
  • スティルインラブ
  • マンハッタンカフェ
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