『血と香料の戦争』― 灰燼の回廊 ―   作:MOZIO

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第4編「分裂」

【1】兆し

 

最初は小さな違和感だった。

 

命令が遅れる。

従わない者が出る。

視線が合わない。

 

「……おかしいな」

 

ヴォルフラムが呟く。

 

「統制が緩んでいる」

 

アルベリクは答えない。

 

ただ、理解していた。

 

「限界だ」

 

【2】拒絶

 

「もう無理だ!」

 

声が上がった。

 

前線ではない。

後方でもない。

 

中間――最も曖昧な場所。

 

「食い物もねぇ!薬もねぇ!」

 

兵士が叫ぶ。

 

「何のために戦ってる!?」

 

沈黙。

 

誰も答えない。

 

「……神のためだ」

 

誰かが言う。

 

その瞬間。

 

笑いが起きた。

 

乾いた、壊れた笑い。

 

【3】火種

 

カスパーが現れる。

 

「黙れ」

 

低い声。

 

だが、もう遅い。

 

「隊長よぉ!」

 

兵士が近づく。

 

「俺たちは犬か!?」

 

カスパーは答えない。

 

その代わり――

 

拳を振るう。

 

男が倒れる。

 

「……命令だ」

 

だが、視線は変わらない。

 

従っていない。

 

ただ、従うふりをしている。

 

【4】宗教の崩壊

 

ベネディクトゥスは祈っていた。

 

兵士たちの前で。

 

「神は我らを試される」

 

声はいつも通り。

 

だが――

 

誰も聞いていない。

 

一人が呟く。

 

「その神はどこにいる」

 

静かな言葉。

 

だが重い。

 

司祭の目が開く。

 

「ここにいる」

 

胸を叩く。

 

だが――

 

「……いねぇよ」

 

否定された。

 

初めて。

 

【5】医者の拒絶

 

ナディアは治療を続けていた。

 

だが、手が止まる。

 

「もう無理です」

 

側近が言う。

 

「資材が尽きました」

 

ナディアは患者を見る。

 

助かる見込みはない。

 

それでも――

 

「やめません」

 

「……なぜ」

 

彼女は答える。

 

「ここでやめたら、全部終わる」

 

だが、その目は揺れていた。

 

【6】帝国側の亀裂

 

サイードの陣営。

 

こちらも同じだった。

 

「分けたのは正解?」

 

ザフラが問う。

 

病人と健常者。

 

明確に分離された。

 

「短期的には」

 

サイードは答える。

 

「長期は?」

 

「分からない」

 

そのとき、声が上がる。

 

「家族がいるんだ!」

 

隔離された兵の叫び。

 

「戻せ!」

 

サイードは動かない。

 

「無理だ」

 

その一言で、全てが決まる。

 

【7】境界線

 

トビアスは見ていた。

 

隔離された兵たち。

 

柵の向こう。

 

「……同じ人間なのに」

 

誰かが言う。

 

「もう違う」

 

別の誰かが答える。

 

境界線が引かれた。

 

見えない線。

 

だが確実な。

 

【8】暴発

 

夜。

 

ついに起きる。

 

「開けろ!!」

 

隔離区域で暴動。

 

柵が壊される。

 

「止めろ!」

 

叫び。

 

だが――

 

止まらない。

 

感染者が流れ出る。

 

「撃て!」

 

誰かが命令する。

 

一瞬の躊躇。

 

そして――

 

矢が放たれる。

 

【9】選択

 

アルベリクはその報告を受ける。

 

「制圧完了」

 

「被害は」

 

「多数」

 

沈黙。

 

「……仕方ありません」

 

彼は言う。

 

「広がれば終わる」

 

ヴォルフラムが睨む。

 

「お前は……」

 

言葉が続かない。

 

【10】崩れるもの

 

トビアスは座り込んでいた。

 

目の前で、人が死んだ。

 

敵ではない。

 

味方だ。

 

「……なんで」

 

誰も答えない。

 

ザフラの言葉がよぎる。

 

“これが戦争よ”

 

「違う……」

 

彼は呟く。

 

「こんなの戦争じゃない」

 

【11】対話

 

その夜。

 

再び、ザフラが現れる。

 

「見たでしょ」

 

トビアスは顔を上げる。

 

「……あれが普通なのか」

 

「普通よ」

 

即答だった。

 

「どこも同じ」

 

「嘘だ」

 

トビアスは首を振る。

 

「こんなの間違ってる」

 

ザフラは少しだけ黙る。

 

そして言う。

 

「正しい戦争なんてない」

 

【12】指揮官

 

同時刻。

 

アルベリクとサイード。

 

互いに見えない場所で、同じことを考えていた。

 

「崩れている」

 

だが――

 

「まだ使える」

 

それが答えだった。

 

戦争は続く。

 

人が壊れても。

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