灰暦八百七十二年。巨大な内海・蒼環海を囲む世界は、交易による繁栄の裏で、政治、宗教、貧困、民族対立という深い亀裂を抱えていた。

ヴァルネリア王国では中央集権を進める国王と大諸侯が対立し、神聖エーレン帝国では宗教改革の思想が民衆を揺さぶる。アウレリア東方帝国では病床の皇帝をめぐり皇女、軍人、官僚が権力争いを始め、南方では大河の渇水が飢饉と反乱を招く。北東の草原でも大汗の急死により秩序が崩れつつあった。

そんな中、三宗派が聖地を分かち合うオルシャで、大聖堂の鍵守一族が皆殺しにされる。現場には各宗派の証拠が残され、互いへの疑念は戦争寸前まで高まった。ただ一人生き残ったマリアムは、事件の背後に王侯、商人、聖職者が関わる巨大な陰謀を示す書状を発見する。

一方、ヴァルネリアの若き参謀アルベリクは、諸侯反乱を鎮圧する作戦を命じられる。しかし敵には彼の生家も含まれていた。国王への忠誠、家族への義務、民衆の命。その狭間で、合理主義者の彼は答えのない選択を迫られる。

各地でも、兵士、農民、商人、説教師、官僚、船乗りたちの決断が連鎖し、港の封鎖、融資、反乱、渇水、殺人が十六の国家を巻き込んでいく。

誰もが自らの正義を信じ、誰も戦争を望んでいないと思っていた。だが無数の選択は、やがて一つの時代を終わらせる大戦へと収束する。

後世の歴史家が「灰冠戦争」と呼ぶ、英雄なき群像戦記である。

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