【1】数の意味
朝。
報告が積み上がる。
「戦闘可能兵、六割以下」
「補給、残り二日」
「感染拡大、抑制不能」
ヴォルフラムは紙を叩きつけた。
「終わりだ」
誰も否定しない。
それは感情ではなく――
計算だった。
【2】選択肢
作戦室。
アルベリクは地図を見ている。
線はもう意味を持たない。
崩れている。
「撤退か、進軍か」
ヴォルフラムが言う。
「どちらも地獄だ」
「ええ」
アルベリクは頷く。
「撤退すれば、背後から崩壊します」
補給も統制もない軍が、山を戻る。
壊滅は確実。
「進めば?」
「前で死にます」
沈黙。
「なら答えは一つだ」
ヴォルフラムが言う。
「どちらで死ぬか選べ」
【3】第三の道
アルベリクは静かに言った。
「いいえ」
「?」
「勝ちます」
ヴォルフラムは一瞬、言葉を失う。
「……どうやってだ」
アルベリクは地図に指を置く。
アッシェン峠、最狭部。
「ここを抜けます」
「正面突破か!?」
「違います」
彼は首を振る。
「崩壊を利用します」
【4】帝国側
サイードもまた、同じ報告を受けていた。
「限界ね」
ザフラが言う。
「ええ」
「引く?」
「いいえ」
彼は即答した。
「押す」
ザフラが笑う。
「同じこと考えてるわね」
「恐らく」
サイードは目を細める。
「だから決まる」
【5】命令
アルベリクは全軍に命じた。
「前進」
ざわめき。
「止まるな」
声が響く。
「全てを捨てて進め」
「補給は!?」
誰かが叫ぶ。
「捨てろ」
「負傷者は!?」
一瞬の沈黙。
「……置いていけ」
その言葉で、全てが凍る。
【6】崩壊の進軍
軍は動き出した。
秩序ではない。
流れ。
押し出されるように。
「進めぇぇ!!」
カスパーが叫ぶ。
「止まったら死ぬぞ!!」
兵たちは走る。
食糧も、荷も、仲間も捨てて。
ただ前へ。
【7】帝国の迎撃
サイードは構えていた。
「来る」
その通りだった。
王国軍が雪崩れ込んでくる。
「狂ってるわね」
ザフラが笑う。
「合理的だ」
サイードは答える。
「止まれば死ぬ」
だから――
「止める」
【8】激突
峠の最狭部。
両軍が衝突する。
逃げ場はない。
押し合い。
潰し合い。
「押せ!!」
「殺せ!!」
言葉は意味を失う。
ただの音になる。
トビアスもその中にいた。
何も考えていない。
ただ――
前へ。
【9】指揮官の戦い
アルベリクは動かない。
戦場を見ている。
「……今だ」
彼は命じる。
「左翼、崩せ」
一点突破。
弱い場所を押し潰す。
サイードはそれに気づく。
「そこか」
即座に動く。
「予備隊、投入」
互いに読む。
互いにずらす。
【10】臨界点
戦場が、限界に達する。
どちらも崩れる寸前。
「……もう持たねぇ」
ヴォルフラムが言う。
アルベリクは答えない。
ただ――
一点を見ている。
「あと少し」
【11】崩壊
先に崩れたのは――
帝国側だった。
一角。
わずかな綻び。
そこに、王国軍が流れ込む。
「抜けた!!」
叫び。
流れが変わる。
サイードは目を細める。
「……そうか」
【12】撤退
「引け」
サイードは言った。
ザフラが驚く。
「まだやれる!」
「無意味だ」
彼は首を振る。
「勝ちではない」
だが――
「負けでもない」
【13】突破
王国軍は峠を抜けた。
だが――
残ったのは、半分以下。
倒れる者。
動かない者。
アルベリクはそれを見ていた。
「……通った」
ヴォルフラムが言う。
「勝ったのか」
沈黙。
【14】答え
アルベリクは静かに言った。
「いいえ」
そして続ける。
「維持しただけです」
戦争を。
【15】同じ結論
サイードもまた、同じことを考えていた。
「続くな」
火を見つめながら。
「終わらない」
【16】終章の影
トビアスは地面に倒れていた。
生きている。
だが――
何かが消えていた。
「……」
言葉が出ない。
ただ一つだけ。
「終わってない」
それだけが、分かる。