第1編「王都リュミエール」
【1】帰還者
王都リュミエール。
白い石造りの街は、戦場とは別世界だった。
市場は開かれ、パンの香りが漂う。
絹が売られ、音楽が鳴る。
だが――
「……同じ国かよ」
トビアスは立ち尽くしていた。
やせ細った体。
汚れた衣服。
周囲の視線が刺さる。
「どこから来たの?」
子供が問う。
トビアスは答えられない。
「……知らない」
それが本音だった。
【2】報告
王城。
アルベリクは謁見の間にいた。
「ご苦労だった」
国王が言う。
その声に、重みはない。
「戦況は?」
「膠着です」
アルベリクは答える。
「敵も同様に消耗」
貴族たちがざわめく。
「では勝てるのか?」
「現状では不可能です」
静まり返る。
「……何だと?」
【3】現実と幻想
「戦争は継続されます」
アルベリクは続ける。
「短期決着はあり得ません」
一人の貴族が笑う。
「弱気だな、若造」
「事実です」
「帝国などすぐに崩れる!」
アルベリクは一瞬だけ目を伏せる。
「……崩れません」
「なぜ分かる!」
彼は答える。
「同じだからです」
【4】商人の席
その場に、リーゼロッテがいた。
静かに観察している。
「面白い」
彼女は小さく呟く。
「誰も現実を見ていない」
隣の貴族が問う。
「何か言ったか?」
「いいえ」
微笑む。
「ただの感想です」
【5】価格
会議の後。
リーゼロッテはアルベリクに近づく。
「補給についてお話を」
「高いでしょう」
アルベリクは即答する。
彼女は笑う。
「ええ」
「どれくらい」
「三倍です」
沈黙。
「……理由は」
「需要です」
即答。
「戦争は高くつくものです」
【6】理解者
アルベリクは彼女を見る。
「あなたは分かっている」
「ええ」
リーゼロッテは頷く。
「終わらないと」
短い沈黙。
「ではなぜ支える」
アルベリクは問う。
彼女は答えた。
「終わらないからです」
【7】宗教の中枢
大聖堂。
ベネディクトゥスは報告を受けていた。
「兵の信仰が揺らいでいます」
「当然だ」
彼は言う。
「だから強める」
「どうやって」
「奇跡を作る」
沈黙。
「……作る?」
司祭は微笑んだ。
【8】帝国側
同時刻。
帝都カズィル。
サイードは宮殿に呼ばれていた。
「戦況は」
ハリドが問う。
「長期戦になります」
サイードは答える。
「短期決着は不可能」
ハリドは不機嫌そうに言う。
「無能め」
サイードは何も言わない。
「ならば――」
ハリドは続ける。
「勝て」
【9】同じ構造
ファリードはその会話を聞いていた。
「いい流れだ」
彼は呟く。
「どちらも止まらない」
側近が問う。
「本当に勝敗は重要ですか?」
ファリードは笑う。
「重要だ」
そして付け加える。
「だからこそ終わらない」
【10】変わった者
トビアスは街を歩いていた。
パン屋の前で立ち止まる。
香り。
「……」
金はない。
だが――
彼は動かない。
以前なら、諦めていた。
今は違う。
手が伸びる。
止まる。
「……」
葛藤。
そして――
彼はその場を離れた。
完全には壊れていなかった。
【11】腐敗の中心
夜。
王城の奥。
密談が行われていた。
貴族。
商人。
聖職者。
「戦費が足りん」
「なら増税を」
「暴動が起きる」
「なら抑えろ」
短い会話。
だが――
決定は速い。
「続ける」
それだけでいい。
【12】構造の完成
アルベリクは窓から王都を見ていた。
光が溢れている。
「……ここが中心か」
ヴォルフラムが来る。
「戦場よりひどいな」
「ええ」
アルベリクは頷く。
「ここでは誰も死なない」
そして言った。
「だから終わらない」