紙は、人間より早く燃える。
薄い羊皮紙なら、炎へ触れた瞬間に端が丸まり、文字は黒く縮れ、数十息のうちに灰となる。
人間の身体は、もっと時間がかかる。
衣服が燃え、髪が焼け、皮膚が裂け、脂が落ちる。
火刑を命じる者が薪へ油をかけるのは、処刑される者への慈悲からだと説明されていた。
短く苦しませるため。
だが火刑台の周囲に集まる群衆は、長く燃えるほど多くを語った。
異端の末路。
教会の力。
神の裁き。
罪の匂い。
人間の身体は、権力が民衆へ見せるための文書でもあった。
しかし灰暦八百七十二年の秋、神聖エーレン帝国で聖職者たちが焼こうとしたのは、一人の説教師だけではなかった。
人々が自分の言葉で読める聖典。
印刷機。
説教。
歌。
疑問。
そして、神の言葉を誰が所有するのかという問いだった。
人間は焼ける。
本も焼ける。
だが一度、三百部に刷られた言葉は、一つの火刑台では燃やし尽くせない。
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## 一
ヴァルデン市の印刷工房では、夜明け前から鉄と木が軋んでいた。
圧搾機の長い柄を引く。
紙を置く。
版へ墨を塗る。
圧力をかける。
戻す。
紙を剥がす。
一枚。
また一枚。
単純な作業。
だが、同じ文章を何百枚も作れるという事実は、王や司教にとって新しい種類の軍隊だった。
兵士は給金と食糧を必要とする。
印刷された言葉は、一度市場へ出れば、自分で歩く。
エルザ・クルーガーは、刷り上がった紙を灯火へかざした。
三十八歳。
印刷職人だった夫を疫病で失い、工房と借金を引き継いだ。
女性が印刷工房の親方となることを、職人組合は正式には認めていない。
そのため帳簿上の主人は、十六歳の息子ルーカス。
実際に活字を組み、職人を雇い、紙商人と値段を争うのはエルザだった。
「ここ」
彼女は紙の一行を指した。
「《あなたたちは真実を知り、真実はあなたたちを自由にする》」
ヨハン・アイゼンが近づく。
四十一歳。
元修道士。
神学博士。
痩せた顔。
濃い茶色の修道服は、教会を離れたあとも着続けている。
「何か」
「《自由にする》でよいのですか」
「原語はそうです」
「農民は、年貢から自由になると読みます」
「それは文脈が」
「読む者全員が文脈を知っていると?」
ヨハンは紙を見る。
彼自身が訳した聖典。
ラテン語でも、古代東方語でもない。
エーレン帝国の街や村で話される言葉。
ただし帝国内には、南北で異なる方言がある。
ヨハンが選んだのは中央地方の言葉だった。
南部人からは北方語に近すぎると批判され、北部人からは皇都の言葉に媚びたと批判された。
神の言葉を民衆へ。
美しい理想。
実際には、どの民衆の言葉を選ぶかで争いが始まる。
「注釈を入れます」
ヨハンが言った。
「《罪からの自由を意味し、法と契約の無条件な破棄を意味しない》」
エルザは笑った。
「聖典より注釈の方が長くなります」
「誤解されるよりは」
「人は注釈を読みません」
「では、どうするべきです」
「刷らない」
ヨハンが彼女を見る。
「本気ですか」
「いいえ」
エルザは新しい紙を圧搾台へ置いた。
「私は印刷屋です。誤解される本でも、売れるなら刷ります」
「それだけ?」
「夫はラテン語祈祷書を刷って死にました。借金だけ残した。神の言葉が何語でも、紙商人は銀貨を求めます」
冷たい言葉。
だがエルザは夜通し工房に立ち、違法と知りながら民衆語聖典を刷っている。
利益だけなら、教会許可のある暦や商人帳簿の方が安全だった。
「何部です」
ヨハンが尋ねる。
「正規版三百。小型版百二十」
「小型版?」
「旅人用」
「頼んでいません」
「隠しやすい」
「エルザ」
「捕まるなら、売れる形にしてから」
奥で、息子ルーカスが欠伸をした。
「母さん」
「手を止めない」
「外に兵です」
全員が動きを止めた。
通り。
馬蹄。
鎧。
祈祷鐘ではない。
武器の金属音。
ルーカスが裏窓から見る。
「司教軍」
「何人」
「二十……もっと」
エルザは刷り上がった紙を見た。
三百部のうち、完成は二百四十七。
乾燥中。
活字版。
原稿。
すべてを隠す時間はない。
「小型版を地下へ」
ヨハンが言う。
「あなたは裏口から」
エルザが返す。
「逃げません」
「逃げなければ燃やされます」
「逃げれば、あなた方が異端を匿った罪で」
「残っても同じです」
「なら逃げてください」
「私が逃げれば、兵は工房を壊して探す」
「逃げなくても壊す」
「エルザ」
ヨハンは彼女を見る。
「印刷機を守ってください」
扉が叩かれる。
一度。
「ヴァルデン司教座の命令である!」
二度。
「異端容疑者ヨハン・アイゼンを引き渡せ!」
ルーカスが活字棒を握った。
武器にはならない。
だが少年の手は震えている。
ヨハンが棒を下ろさせる。
「あなたが私を守って死ねば、聖典を読める者が一人減ります」
「先生を渡したら」
「読める者が残る」
「火刑です」
「まだ裁判が」
扉の外から書状が読み上げられる。
《聖座ルミナ特使、枢機卿マルクス・ヴァレリウスの権限により》
《異端説教師ヨハン・アイゼンを逮捕し、悔悛なき場合は火刑に処す》
《処刑は、逮捕翌日の正午》
裁判ではない。
判決。
時間が早すぎる。
通常、異端審問には数週間。
証言。
撤回の機会。
教会裁判。
「翌日?」
エルザが呟く。
「急いでいます」
ヨハンの顔が変わった。
「私を殺すことより、何かが起きる前に殺したい」
「何が」
「帝国議会」
皇帝コンラート五世は、ヨハンへ帝国議会で釈明する安全通行証を与えるか検討中だった。
その決定前に処刑すれば、議会は意味を失う。
扉へ斧。
木が割れる。
ヨハンは自分で閂を外した。
「先生!」
ルーカスが叫ぶ。
扉が開く。
司教兵。
槍。
弩。
先頭にヴァルデン司教座の騎士。
「ヨハン・アイゼン」
「私です」
「武器を」
「持っていません」
兵が工房へ入り、紙を踏む。
一人が聖典を拾う。
民衆語。
読める。
兵士は一瞬、文字を見る。
隊長が奪った。
「禁書だ」
「まだ禁書指定は出ていません」
ヨハンが言う。
「枢機卿命令だ」
隊長が書状を見せる。
羊皮紙。
聖座の赤蝋印。
署名。
本物に見える。
紙を灯火へかざしたとき、ヨハンは薄い透かしを見た。
灰色の冠。
オルシャ共同宣言で知らされた印。
「その紙を、どこで」
「黙れ」
兵が腕を取る。
「書状を保存してください」
ヨハンはエルザへ言った。
「触れません」
隊長が答える。
「見ました」
それで十分ではない。
記録にはならない。
だがエルザは印を覚えた。
灰色の冠。
「印刷物をすべて押収!」
兵士が命じられる。
エルザは圧搾機の横へ立った。
「これは私の財産です」
「異端の道具だ」
「聖典以外の印刷物も」
「工房ごと封鎖」
「借金は司教座が払う?」
隊長が彼女を見る。
「神への冒涜を銀で量るか」
「紙屋は神へ請求書を出しません」
兵が笑いかけ、隊長の顔を見て止めた。
ヨハンは連行された。
通りには、夜明け前にもかかわらず人々が集まっている。
噂は兵より速い。
説教師が捕まった。
明日、焼かれる。
一人の女が膝をつき、ヨハンの衣へ触れた。
兵が押し返す。
「先生!」
「暴力を使わないでください!」
ヨハンは群衆へ叫んだ。
「本を守りなさい! 人を殺して守ってはいけない!」
言葉は聞かれた。
だが、どの部分が残るかは聞いた者が選ぶ。
本を守れ。
人を殺すな。
翌日には、一つ目だけを覚えている者が増えていた。
---
## 二
神聖エーレン帝国皇帝コンラート五世は、ヨハンの火刑命令を昼食中に知った。
皇都エーレンブルク。
帝国宮殿。
食卓には黒パン、鹿肉、葡萄酒。
皇帝は鹿肉へ手をつけなかった。
五十二歳。
選帝侯たちの妥協で帝冠を得て十九年。
帝国は王国のように一枚岩ではない。
百を超える諸侯領。
司教領。
自由都市。
修道院領。
騎士領。
皇帝の命令が届く場所と、届いたふりだけされる場所。
「処刑は明日?」
コンラートが尋ねた。
宰相アウグストが頷く。
「ヴァルデン司教座からの正式通知です」
「私の安全通行証審議は」
「三日後の帝国議会」
「その前に殺す?」
「聖座特使は、異端問題は帝国法より教会法が優先すると」
「帝国内で人を焼くのに、皇帝へ知らせない?」
同席するマインツ大司教セヴェリンが言った。
「教会裁判権は古来の権利です」
「裁判をしたのか」
「予備審問は」
「いつ」
「三年前から、著作を」
「本人を呼んでいない」
「著作が証言です」
「なら本を焼け」
「書いた者を残せば、また書く」
皇帝の表情が硬くなる。
「大司教は火刑へ賛成か」
セヴェリンはすぐ答えなかった。
彼は改革派を嫌っている。
教会税への批判。
司教の財産。
聖職売買。
ヨハンの説教は自分たちを傷つける。
だが、急ぎすぎる処刑は殉教者を作る。
「撤回の機会は与えるべきです」
「明日までに?」
「枢機卿の判断は、性急かもしれません」
「性急で済むか」
別の諸侯。
銀森選帝侯ハインリヒ。
改革派保護者として知られる。
実際には神学より、教会領の課税権へ関心がある。
「皇帝陛下、ヴァルデンへ兵を」
「火刑を止めるため?」
「帝国法を守るため」
「教会財産を守るときも同じ熱心さを?」
大司教が皮肉。
ハインリヒは笑う。
「教会が帝国法を守れば」
「異端を保護する目的は、教会領没収か」
「異端かどうかを帝国議会で聞く」
「民衆が神学を決める?」
「司教が税率を決めるよりは」
議論。
コンラートは机を叩かなかった。
怒鳴れば全員が黙る。
黙るだけ。
従わない。
「命令書を」
写し。
聖座印。
枢機卿マルクスの署名。
紙。
「透かしがあります」
若い宮廷書記が言った。
灯りへ。
灰色の冠。
室内の空気が変わる。
オルシャ共同宣言。
三港攻撃。
ナフル水利債券。
各国へ広がる印。
「偽造か」
ハインリヒが尋ねる。
「印と署名は本物に見えます」
宰相。
「紙だけ灰冠経路?」
コンラートが言う。
「紙は聖座書記局から」
大司教が答える。
「この透かしの紙を使うのか」
「一部高級紙はセレスタ商会から購入」
灰冠が直接書状を作ったとは限らない。
聖座が灰冠関連商会から紙を買った。
その紙に、枢機卿が自分の意思で署名した。
陰謀は、偽造より複雑。
「枢機卿へ、処刑停止命令」
コンラートが言った。
大司教が反発。
「皇帝に異端裁判を止める権限は」
「処刑地は帝国領。人命保全のため、帝国議会まで執行停止」
「拒まれれば」
「ヴァルデン市へ帝国保護令」
「兵を送る?」
「使者を先に」
「間に合いません」
皇都からヴァルデン。
早馬で一日半。
明日正午。
「三人」
コンラートが命じる。
「別経路。停止令を三部」
「同じ命令を?」
「一人が殺されても残る」
記録の複製。
各地で学ばれた方法。
「帝国議会を明日へ繰り上げる」
「諸侯が到着していません」
「いる者で始める」
「正統性が」
「火刑は待たない」
皇帝は立った。
「それと、ヴァルデン市の全軍へ布告。ヨハン・アイゼンを帝国保護下に置く」
「聖座への宣戦と受け取られます」
大司教。
「人を一人、議会まで生かすことが?」
「問題は一人ではありません」
「知っている」
コンラートは窓を見る。
皇都の教会塔。
鐘。
「だから、焼かせない」
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## 三
ヨハンが収容されたのは、ヴァルデン司教館地下の告解牢だった。
石壁。
椅子。
机。
鎖はない。
異端者を動物のように扱わないという、教会の慈悲を示すため。
扉には兵が四人。
窓は手の幅。
翌日の火刑柱は、牢の窓から見えた。
広場の中央。
職人が薪を積んでいる。
ヨハンは祈らなかった。
祈ろうとした。
言葉が出なかった。
自分が死ぬことより、群衆が何をするかが怖い。
火刑台で穏やかに死ねば、信仰の証人となる。
逃げれば、臆病者と呼ばれる。
撤回すれば、改革運動が傷つく。
撤回しなければ、暴動が起きる。
どれを選んでも、他人が意味を決める。
扉が開く。
枢機卿マルクス・ヴァレリウス。
六十歳。
痩せた長身。
聖座の赤い法衣。
護衛なし。
「ヨハン・アイゼン」
「枢機卿猊下」
「撤回文を持ってきた」
紙。
《民衆語による聖典の無許可翻訳を誤りと認める》
《教会の解釈権へ服する》
《著作の回収へ協力する》
署名すれば、死刑停止。
おそらく終身修道院。
「翻訳そのものが誤り?」
ヨハンが尋ねる。
「無許可が」
「文面は翻訳を」
「修正できる」
「どこまで」
「教会の監督下で再翻訳」
「誰が監督」
「神学委員会」
「民衆語を話せない司教が?」
枢機卿は顔をしかめた。
「お前は、常に言葉尻を」
「言葉の問題です」
「言葉が人を殺している」
マルクスは別の紙を置いた。
農村報告。
聖ミヒャエル修道院襲撃。
農民三百。
年貢帳簿を焼却。
修道士二名死亡。
領主代官一名殺害。
襲撃者がヨハンの説教を唱えた。
《真実は自由にする》
《神の前に万人は同じ》
「私は殺せと言っていない」
「彼らは、お前の言葉を使った」
「聖典の言葉です」
「だから教会が解釈する!」
枢機卿の声が石室へ響く。
「百年前、南部で七燭派と聖冠派が同じ聖句を使い、村を焼いた。北方では世界樹信仰の改宗者が、古い神殿を壊した。言葉は剣より長く残る」
「教会の解釈なら人を殺さない?」
「少なくとも一つだ」
「一つの誤りが帝国全体を支配します」
「千の解釈が千の軍を作るよりましだ」
ヨハンは枢機卿を見る。
単純な悪人ではない。
彼は秩序を恐れている。
過去の宗教戦争を知っている。
「猊下は、私を殺せば止まると」
「お前の本が三百部になる前なら」
「もう刷られています」
マルクスの顔が動く。
「何部」
「知りません」
嘘。
二百四十七。
小型版百二十。
「工房を捜索している」
「活字は組み直せる」
「印刷機を壊す」
「別の都市にあります」
「印刷職人を処罰する」
「さらに刷られます」
「脅しか」
「事実です」
枢機卿は椅子へ座った。
「お前は、自分を殉教者にしたいのか」
「したくありません」
「なら署名しろ」
「私が間違っていると思えば」
「死にたいのか」
「生きたい」
ヨハンの声が弱くなる。
正直。
「死にたくありません」
「なら」
「嘘を書いて生きれば、私の言葉を信じた者へ何を」
「人間は皆、誤る」
「だから撤回ではなく、議論を」
「群衆は議論を待たない」
「明日の火刑も」
枢機卿は黙った。
「命令書の紙に、灰冠の透かしがあります」
ヨハンが言った。
「知っている」
「知っていて署名を?」
「聖座は紙商人を信仰で選ばない」
「誰が処刑を急がせた」
「私だ」
「灰冠ではなく?」
「私だ!」
枢機卿は机を叩いた。
「責任を陰謀へ逃がすな。私はお前の著作を読み、農民の死体を見て、明日と決めた」
ヨハンは言葉を失う。
灰冠の操り人形ではない。
自分の意思。
だから難しい。
「しかし」
マルクスが続ける。
「昨日、ある男が来た」
「誰です」
「聖座財務局の証書を持つ者。処刑費用、兵士の追加給金、群衆柵の資材を負担すると」
「名は」
「聖光慈善会」
「灰冠関連?」
「調査させた。事務所は空だった」
「命令は猊下。実行を早めたのは」
「誰かが利用している」
「それでも明日?」
枢機卿は撤回文を見る。
「署名すれば、延期できる」
「署名しなければ」
「私が命じた以上、執行する」
「灰冠が望むと知っていて?」
「灰冠が望むから、異端を放置するのか」
正しさと陰謀。
敵が望むことでも、必要なら行うべきか。
「猊下」
ヨハンが言った。
「私を生かすことは、私を正しいと認めることではありません」
「お前を殺さないだけで、支持者は勝利と叫ぶ」
「殺せば殉教と叫ぶ」
「では、どうすれば」
初めて枢機卿が尋ねた。
ヨハンにも答えがない。
「帝国議会で話させてください」
「政治家が神学を裁く」
「司教だけよりは」
「また権力を分ける?」
「一人より」
マルクスは立った。
撤回文を残す。
「夜明けまでだ」
「署名しなければ」
「正午」
扉が閉まる。
ヨハンは紙を見る。
生きる道。
嘘。
あるいは、言葉を修正するだけ。
《無許可翻訳は誤り》
許可を得ればよい。
自分の信念を完全には否定しない。
そう解釈できる。
人間は、生きるためなら文章の隙間を見つける。
彼は筆を取った。
署名欄。
手が止まる。
---
## 四
エルザは、司教兵が工房を封鎖したあと、隣家の地下から戻った。
ヴァルデン市の古い家々には、壁の中に隠し通路がある。
戦争、火災、徴税官、夫から逃げるため。
用途は家ごとに違う。
小型版の聖典百二十部は、すでに三つの樽へ分けてあった。
表面は塩漬け魚。
中に油布。
ルーカスと職人二人が運び出す。
「どこへ」
息子が尋ねる。
「銀森選帝侯領へ向かう荷車」
「検問があります」
「葡萄酒商の証書」
「偽造?」
「本物。代わりに印刷費を半額」
改革を守る諸侯。
信仰。
政治。
利益。
すべて。
裏庭へ荷車を回したとき、一人の男が待っていた。
マルティン・ブレヒト。
農民説教者。
三十歳ほど。
元修道院下働き。
文字は少し読める。
ヨハンの説教を村々へ広めている。
「先生は」
「司教牢」
「今夜、救い出す」
「どうやって」
「仲間がいる」
「何人」
「二百」
「武器は」
マルティンは答えなかった。
荷車の布をめくる。
木箱。
印刷用紙ではない。
エルザが開く。
槍穂。
短剣。
小型弩。
新しい。
刻印が削られている。
「どこから」
「寄付だ」
「誰の」
「自由な信徒」
「名は」
「必要か」
「必要です」
灰冠。
エルザは箱の内側を見る。
紙札。
《農具補修用鉄材》
商会印。
黒帳系列の小商会。
本物かもしれない。
名義を使われただけかもしれない。
「これは救出ではない」
エルザが言う。
「牢を破る」
「兵を殺す」
「必要なら」
「ヨハンは望まない」
「先生は優しすぎる」
「あなたは先生の言葉を広めているのでしょう」
「神の言葉を」
「《剣を取る者は剣で滅びる》は」
「支配者が従えば、我々も」
「先に相手へ?」
「いつも我々が先に殴られている!」
マルティンの声。
父は領主の兵に殺された。
妹は修道院税のため売られた。
本人は代官に鞭打たれた。
怒る理由がある。
「修道院襲撃で人が死んだ」
エルザが言う。
「代官が農民を斬った」
「修道士も」
「鐘を鳴らし、領主兵を呼ぼうとした」
「だから殺した?」
「事故だ」
「いつも事故になります」
マルティンは彼女を睨む。
「印刷屋は、紙の上で自由を売る。村では、領主が種を奪う」
「だから本を刷った」
「本で水車は返らない」
「槍で冬の種は増えない」
「穀倉を開けられる」
「来年は」
「来年まで奴隷でいろと?」
言葉がない。
エルザはマルティンの怒りを否定できない。
「今夜は動かないで」
「明日、先生が焼かれる」
「皇帝の停止令が来るかもしれない」
「皇帝?」
マルティンが笑う。
「諸侯が選んだ男に、我々の神を決めさせる?」
「司教よりは」
「両方いらない」
そこまで。
ヨハンは教会改革を求める。
マルティンは身分秩序そのものを否定し始めている。
同じ聖典。
違う結論。
「武器箱を置いていきなさい」
エルザが言った。
「なぜ」
「どこから来たか調べる」
「司教へ渡す?」
「公開する」
「公開している間に火刑」
「襲えば、火刑を正当化する」
マルティンは箱を閉めた。
「先生を救えなかったら」
「私の責任にしてよい」
「印刷屋一人の責任で、何が戻る」
「何も」
責任を名乗るだけでは戻らない。
それでもエルザは言った。
「今夜は動かないで」
マルティンは答えず、闇へ消えた。
槍穂の箱も。
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## 五
皇帝の三人の使者は、別々の道を走った。
北街道。
河川道。
修道院道。
北街道の使者は、日暮れ前に橋で襲われた。
盗賊ではない。
馬だけを狙い、文書鞄を奪おうとした。
護衛二人。
敵六人。
使者は矢を受け、川へ落ちた。
命令書は流れた。
河川道の使者は、渡し船が沈んだ。
船底へ穴。
泳げた護衛が一人、命令書を油布で守った。
だが馬を失い、徒歩。
修道院道の使者は、道案内の修道士に誤った山道へ導かれた。
気づいたときには夜。
三通。
すべて止められかける。
灰冠が経路を知っている。
皇帝宮廷の内部。
あるいは使者出発後の鐘信号。
それでも一通は進んだ。
川から上がった護衛。
名はハインツ・ベルナー。
二十二歳。
正式な使者ではない。
文字も十分に読めない。
封印の意味は知っている。
馬を求め、農家へ。
主人は拒む。
唯一の馬。
秋の収穫。
「皇帝命令です」
「馬を取れば冬に死ぬ」
「人が焼かれます」
「知らない男だ」
正しい。
農家にとって、ヨハン一人より馬。
ハインツは銀貨を持っていない。
自分の剣を外した。
「これを」
「剣で畑を耕せるか」
「売れます」
「誰に」
時間。
「戻す」
「死んだら」
「皇帝が払う」
「皇帝が私を知るか」
知らない。
ハインツは自分の指輪を出した。
母の形見。
鉄。
価値は低い。
農夫は使者の濡れた服を見る。
震え。
矢傷。
「息子を連れていけ」
「何を」
「馬は息子が一番速く走らせる」
十五歳の少年。
フリッツ。
「父さん」
「馬を戻せ」
「この人は」
「戻らなくてもよい」
少年がハインツを馬へ乗せる。
二人乗り。
夜道。
皇帝の命令は、一人の農夫が馬を貸さなければ届かない。
国家は、最後には名も知らない者の判断へ乗って進む。
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## 六
火刑の日、ヴァルデン市には一万人以上が集まった。
市民だけではない。
周辺村。
修道士。
学生。
商人。
農民。
領主兵。
司教軍。
銀森選帝侯の使者。
ヨハンの支持者。
処刑を見に来た者。
暴動を期待する者。
パンと酒を売る者。
スリ。
広場中央。
火刑柱。
乾いた薪。
油。
司教軍が二重の柵。
外側に都市民兵。
内側に教会騎士。
屋根にも弩兵。
危険な配置。
群衆を制御するため。
同時に、誰か一人が撃てば逃げ場がない。
エルザは黒い頭巾をかぶり、ルーカスと群衆にいた。
息子の上着の下には、小型版聖典が十冊。
「なぜ持ってきた」
エルザが尋ねる。
「先生が焼かれたら配る」
「焼かれなくても」
「配る」
言葉を止められない。
マルティンの姿は見えない。
それが怖い。
大聖堂鐘。
一度。
ヨハンが連れてこられる。
鎖なし。
両側に兵。
群衆から声。
「先生!」
「異端者!」
「神の証人!」
「悪魔!」
同じ人間へ、違う名。
ヨハンは火刑柱を見た。
顔が白い。
恐怖を隠せない。
その方が人間らしいと、後世の伝記は書くかもしれない。
実際には足が震え、二度つまずいた。
枢機卿マルクスが壇上へ。
撤回文。
空白の署名欄。
「最後に問う」
声を張る。
「ヨハン・アイゼン。教会の教えへ服し、無許可翻訳と異端的説教を撤回するか」
ヨハンは群衆を見る。
エルザ。
見つけられない。
マルティン。
見つけられない。
自分の言葉を信じた人々。
「私は」
声が小さい。
群衆が静まらない。
「私は、誤り得る人間です!」
一部から怒号。
「聖典の翻訳にも誤りがあるかもしれない!」
支持者が戸惑う。
「なら撤回を!」
枢機卿。
「だから公開の場で議論を求めます!」
ヨハンの声が強くなる。
「一人の司教にも、一人の説教師にも、神の言葉すべてを所有する権利はない!」
歓声。
「撤回ではない」
マルクスが言う。
「いいえ」
「悔悛なし」
「議論を求めることが罪なら」
枢機卿は目を閉じた。
ほんの一瞬。
「執行を」
そのとき広場外から馬。
一頭。
二人乗り。
「皇帝命令!」
少年の声。
人々が振り返る。
馬が群衆へ入れない。
ハインツは飛び降りる。
矢傷。
血。
「道を!」
帝国印を掲げる。
群衆が少し割れる。
司教兵が止める。
「封印を確認する!」
「処刑停止令!」
枢機卿の顔が変わる。
「こちらへ!」
ハインツが壇上へ進む。
あと二十歩。
屋根。
弩の音。
矢が飛ぶ。
ハインツの胸ではない。
隣の少年フリッツ。
農夫の息子。
馬を返すため同行した。
肩へ。
落ちる。
群衆が悲鳴。
誰が射た。
司教軍の屋根位置。
だが弩兵は撃っていないと叫ぶ。
「狙撃!」
帝国護衛が屋根へ。
同時に群衆の別側から石。
教会騎士へ。
盾。
押し返す。
マルティンの声。
「先生を救え!」
農民たちが布の下から槍穂を出す。
「待て!」
エルザが叫ぶ。
遅い。
柵へ。
司教兵が槍を構える。
「止まれ!」
一人の農民が倒れる。
誰の矢か。
次に教会騎士。
喉へ短弩。
両側に死者。
「火を!」
誰かが叫んだ。
火刑執行人ではない。
灰色の外套を一瞬見た者がいる。
火壺が薪へ。
炎。
正式な点火前。
ヨハンは柱へ縛られている。
「止めろ!」
枢機卿マルクスが叫ぶ。
自分が命じた火刑。
だが皇帝命令が届いた。
確認前。
群衆暴動。
このまま焼けば灰冠の望み。
「水!」
兵が動かない。
命令系統が崩れている。
「消せ!」
マルクスは自分の赤い外套を脱ぎ、火へ投げた。
枢機卿の法衣。
炎を覆う。
兵士も布。
水桶。
ヨハンの足元。
煙。
火は衣へ移る前。
ルーカスが柵の隙間へ入り、柱の縄へ。
「戻れ!」
エルザ。
少年は小刀で縄を切る。
教会兵が掴もうとする。
別の兵が止める。
「枢機卿は消せと!」
命令。
味方同士。
ハインツは壇上へ到着。
停止令。
封印。
枢機卿へ。
「帝国議会まで執行停止」
マルクスが読む。
「皇帝に権限は」
大司祭が言う。
「いま権限を議論するのか!」
枢機卿が怒鳴る。
広場では戦闘。
農民。
都市民兵。
教会兵。
マルティンが柵を越える。
「先生!」
ヨハンは縄が半分切れた状態。
「武器を捨てろ!」
「救いに来た!」
「私のために殺すな!」
「先生は分かっていない!」
マルティンの目。
怒り。
涙。
「我々は、ずっと殺されている!」
教会騎士が背後から。
マルティンが槍を振る。
騎士の腹。
血。
ヨハンの顔が崩れる。
自分の目の前。
自分の支持者。
「やめろ!」
声は群衆へ消える。
屋根から二本目の矢。
今度は枢機卿マルクスへ。
ルーカスが気づく。
「伏せて!」
枢機卿を押す。
矢は少年の脇腹へ。
ルーカスが倒れる。
エルザの声。
「ルーカス!」
彼女は柵へ。
兵を押す。
息子。
血。
「医師!」
枢機卿が叫ぶ。
自分を庇った異端印刷屋の息子。
矢尻。
灰色の羽根。
司教軍のものではない。
帝国軍でもない。
「塔!」
帝国護衛が屋根へ上がる。
狙撃手は逃げる。
灰色外套。
下に修道士服。
捕らえられる前に鐘塔から飛ぶ。
屋根へ。
別の建物。
群衆へ。
ヴァルデンの路地を知っている。
消える。
火刑台の炎は消えた。
だが広場の四か所で火災。
物売りの天幕。
教会兵舎。
印刷物の押収荷車。
聖典が燃える。
風。
紙が舞う。
火のついた頁が空へ上がる。
一枚が、倒れた農民の血の上へ。
《幸いなるかな、平和を作る者たち》
文字。
血。
炎。
誰かが拾う。
---
## 七
広場の戦闘を止めたのは、皇帝軍ではなかった。
教会でも。
改革派でも。
火だった。
天幕から隣家へ燃え移る。
木造の上階。
市民は敵味方を問う余裕を失った。
「水桶!」
「井戸へ!」
「屋根を壊せ!」
司教兵が農民と同じ桶を持つ。
改革派学生が教会倉庫から水を運ぶ。
マルティンの仲間も。
都市を守る必要。
共通の敵。
火。
ヨハンは帝国護衛の外套をかけられ、火刑台の下へ座っていた。
足に軽い火傷。
煙。
咳。
自由ではない。
帝国保護拘束。
枢機卿マルクスと向かい合う。
「生きています」
ヨハンが言う。
「見れば分かる」
「猊下が消した」
「皇帝命令が」
「確認前に」
マルクスは答えない。
火刑を命じた本人が、火を消した。
矛盾。
「撤回は」
枢機卿が尋ねる。
「していません」
「知っている」
「それでも」
「火刑の執行条件が壊れた」
「条件?」
「群衆暴動。皇帝停止令。狙撃。手続きが」
ヨハンは枢機卿を見る。
「私を助けたと言いたくない?」
「お前を助けたのではない」
「では」
「私の命令を、他人に奪わせなかった」
権力。
同時に責任。
マルクスは灰冠に火刑を利用されたくなかった。
「それでも感謝します」
「するな」
医師がルーカスを運ぶ。
エルザが隣。
少年は意識あり。
矢は脇腹。
内臓へ入ったか不明。
「母さん」
「話すな」
「本は」
「黙れ」
「配ってない」
「それでいい」
エルザは泣いていない。
顔が固い。
ヨハンが立とうとする。
兵が止める。
「ルーカス」
少年が目を開ける。
「先生」
「すみません」
「何が」
「私のために」
「枢機卿を押した」
「はい」
「先生じゃない」
ルーカスは少し笑う。
痛み。
「誰でもよかった」
人が狙われた。
押した。
信仰ではない。
判断。
ヨハンは言葉を失う。
伝記は、この場面を美しく変えるかもしれない。
少年が改革のため命を捧げた。
実際には、誰でもよかった。
それが、より重かった。
---
## 八
ヴァルデン市の死者は、最初の集計で四十三名。
翌日には五十一。
負傷者三百以上。
内訳。
改革派農民。
教会騎士。
都市民兵。
見物人。
商人。
子供二名。
火刑執行人も、群衆に踏まれて死んだ。
彼は点火していない。
灰色の男が火壺を投げた。
それでも火刑台の近くにいたため殺された。
罪と死因は一致しない。
マルティン・ブレヒトは逃亡。
仲間の一部は捕らえられた。
武器箱。
削られた刻印。
商会記録。
灰冠経路。
だが武器を使ったのは、怒っていた農民自身。
灰冠が槍を渡さなければ暴動は起きなかったか。
別の棒や鎌を持ったか。
分からない。
ヨハンは帝国軍の監視下で、ヴァルデン城へ移された。
枢機卿マルクスも、皇帝命令違反の調査対象として市を出られない。
異端審問官と改革説教師が、同じ城の別室へ拘束。
エルザは施療院。
ルーカスの手術。
矢尻は肋骨へ当たり、腹膜を掠めた。
生きる可能性はある。
熱が出れば危険。
「印刷工房は」
エルザが尋ねる。
職人が答える。
「半分焼けました」
「圧搾機は」
「壊された」
「活字」
「溶けてはいない。散っています」
一文字ずつ。
床。
泥。
血。
拾えば再び組める。
「小型版は」
職人が周囲を見る。
「出ました」
銀森領へ。
百二十部。
「止める?」
「なぜ」
「先生は、暴力を」
「本のせいと?」
職人は答えない。
「本も原因です」
エルザは言った。
驚かれる。
「武器だけではない。言葉も」
「では刷らない?」
ルーカスの寝息。
「刷る」
「矛盾です」
「知っている」
エルザは息子の手を握る。
「次版に注釈を増やす」
「読まれません」
自分がヨハンへ言った言葉。
「それでも入れる」
完全に誤解を防げない。
だから何もしないのではなく、誤解されにくくする。
遅い。
不十分。
「暴力否定の序文を」
「ヨハン先生の?」
「私が書く」
「印刷屋が神学を」
「印刷する責任は印刷屋にもある」
作者だけではない。
紙商人。
版組み。
運び手。
読者。
言葉を広げる者全員。
「題は」
職人が尋ねる。
エルザは考えた。
《この本は、あなたの怒りを正しいとは証明しない》
「売れません」
「小さく刷る」
---
## 九
エーレンブルク帝国議会は、ヴァルデン暴動の三日後に始まった。
諸侯。
司教。
自由都市。
騎士。
大学代表。
傍聴席。
ヨハンは負傷した足で立つ。
枢機卿マルクスも。
二人の間に皇帝コンラート。
火刑を命じた者。
焼かれるはずだった者。
止めた者。
「最初に確認する」
皇帝が言った。
「本議会は、ヨハン・アイゼンの教義を正しいと認めるためではない」
改革派が不満。
「同時に、聖座の火刑命令を正当と認めるためでもない」
教会側が不満。
「ヴァルデンで誰が何をしたか。帝国法と教会法の境界。民衆語聖典。農民暴動。灰冠会議の関与。分けて審議する」
「分けられません」
マルクスが言う。
「信仰と暴動は」
「だから混ぜて、ヨハン一人へ全責任を?」
コンラート。
「著作の責任は」
「本人へ。武器を渡した者は別。農民を殺した兵は別。火をつけた者は別」
「責任を細かく分ければ、誰も全体へ責任を」
「一人へ集めれば、残りが逃げる」
皇帝は死者名簿を示す。
「ヴァルデンの死者五十一。全員をヨハンの著作で説明するのか」
「できません」
枢機卿は認めた。
「なら始める」
ヨハンの尋問。
「民衆語聖典を認めるか」
「はい」
「教会の解釈権を否定するか」
「独占を否定します」
「農民が聖典を根拠に年貢拒否を」
「聖典だけで法契約は無効になりません」
傍聴席の農民代表から怒号。
「先生!」
ヨハンが彼らを見る。
「領主の不正は批判します。しかし、神の前の平等が、すべての役割と契約を一夜で消すとは書いていない」
「裏切り者!」
マルティン派。
「貴族に買われた!」
ヨハンの顔が傷つく。
自分の支持者。
「暴力を否定します」
「兵の暴力は?」
「同じです」
「領主が先に」
「先に殴られた者が、誰でも殴ってよい理由にはならない」
理想。
村では難しい。
「では、どう抵抗する」
農民代表が尋ねる。
ヨハンは答えに詰まる。
請願。
議会。
裁判。
それらが農民へ開かれていない。
「帝国議会へ農民代表を」
銀森選帝侯ハインリヒが言った。
諸侯がざわめく。
「身分秩序を壊す!」
「だから暴動になる」
ハインリヒの政治的狙い。
司教領を弱める。
農民の味方でも、完全にはない。
「農民身分会議を試験的に」
自由都市代表が提案。
「税と賦役の訴えに限定」
大司教セヴェリンが反対。
「神学問題へ口を出させない」
「自分の畑については」
議論が別方向へ。
ヨハン一人の裁判から、帝国制度。
言葉が扉を開く。
同時に混乱。
「聖典翻訳について」
皇帝が戻す。
「全面禁止は不可能」
印刷機がある。
押収しても別の都市。
「許可制を」
教会側。
「許可者は」
改革側。
「共同翻訳委員会」
大学代表。
聖職者。
言語学者。
都市印刷組合。
諸侯代表。
「農民は」
「読者代表を」
笑い。
農民は神学を理解しないという嘲り。
傍聴席からエルザの声。
「読む者を入れずに、読める言葉を決めるのですか」
彼女は息子を施療院へ残し、議会へ来ていた。
正式代表ではない。
印刷工房親方としても認められていない。
「女性は発言権が」
職人組合長が言う。
「私の工房を男の息子名義にしたのは、あなた方です」
議場がざわめく。
皇帝が尋ねる。
「名を」
「エルザ・クルーガー。ヴァルデン印刷工房」
「発言を許す」
「陛下!」
「本を刷った者だ。関係者だ」
エルザは議場中央へ。
「翻訳委員会へ、印刷職人と読者を入れてください」
「印刷技術の助言なら」
大学神学者。
「内容にも」
「神学教育がない」
「だから、教育のない者がどこで誤解するか分かります」
「誤解する側が」
「あなた方は、民衆がどの言葉で怒るか知りません」
ヨハンを見る。
《自由》。
《平等》。
《真実》。
神学では違う意味。
村では別。
「私たちは、誤解をなくせません」
エルザが言う。
「でも、誤解されることを前提に刷れます」
「どうやって」
「注釈。語句解説。異なる訳を並べる。どこが争点か書く」
「聖典へ疑いを」
「翻訳へ疑いを」
枢機卿マルクスが初めて興味を示す。
「異なる訳を並べれば、さらに混乱する」
「一つだけ見せれば、それが唯一と思う」
ヨハンも考える。
自分の訳を神の言葉そのもののように扱わせたくない。
だが改革運動は、明確な言葉を求める。
曖昧さは広がりにくい。
真実は一つ。
翻訳は複数。
その区別。
「共同委員会を作る」
皇帝が決めた。
「民衆語聖典の全面禁止を停止。ただし、無注釈版の新規印刷は審査まで保留」
改革派が不満。
教会側も。
「ヨハン・アイゼンは」
枢機卿が問う。
「帝国保護下で委員会へ参加。異端判決は保留」
「聖座は認めない」
「教皇本人の判断を求める」
「時間がかかる」
「かける」
コンラートは言った。
「今回は遅くする」
---
## 十
帝国議会の決定は、どの勢力にも勝利として利用された。
改革派諸侯は布告した。
《皇帝は民衆語聖典を認めた》
教会側は説教した。
《異端翻訳は審査下に置かれた》
自由都市は印刷許可料を設定。
大学は翻訳委員会の席を争う。
職人組合は、印刷工房の登録制度を求めた。
農民は、自分たちの代表が将来の会議へ入るという部分だけを広めた。
誰も、決定全体を同じようには読まない。
マルティン・ブレヒトは逃亡先の山村で、議会決定を破った。
「先生は裏切った」
仲間へ言う。
「皇帝と司教の委員会に入った」
「火刑を止めた皇帝です」
若者が言う。
「止めたのは群衆だ」
「枢機卿も火を消した」
「権力者同士の芝居だ」
灰冠の連絡者が、彼らへ近づく。
今度は武器ではない。
紙。
《十二箇条》
年貢廃止。
教会税廃止。
森林共同利用。
領主裁判廃止。
農奴解放。
マルティンの言葉に近い。
だが本人が書いていない条文も。
特に最後。
《抵抗する領主と聖職者の財産は、神の民の共同財産とする》
略奪を正当化できる。
「誰が書いた」
マルティンが尋ねる。
「各村の要求をまとめた」
灰色の書記。
「名は」
「民の声に名はない」
マルティンは紙を見る。
自分が言いたかったこと。
自分以上に整っている。
印刷すれば広がる。
「ヨハンの工房は」
「別の印刷所を用意した」
「どこ」
「安全な場所」
「誰の金」
「自由を望む商人」
同じ。
それでもマルティンは紙を受け取った。
怒りに、形が与えられる。
灰冠は怒りを作らない。
すでにある怒りへ、武器、文章、期限を与える。
---
## 十一
聖座ルミナでは、教皇グレゴリウス九世が枢機卿マルクスの報告を読んだ。
火刑命令。
皇帝停止令。
ヴァルデン暴動。
灰冠の紙。
狙撃。
議会決定。
「お前は、なぜ処刑を急いだ」
教皇が尋ねる。
マルクスは遠隔ではない。
ヴァルデンから呼び戻され、聖座へ戻った。
「暴動が広がる前に」
「広がった」
「はい」
「火を消した?」
「皇帝命令が」
「それだけか」
枢機卿は黙る。
「死なせれば誤りだったと思った?」
「分かりません」
「正直だ」
老教皇は窓の外を見る。
ルミナ大聖堂。
巡礼者。
「ヨハンの教義を、私はすべて認めない」
「はい」
「だが聖典を民衆語へ訳すこと自体を、異端とはできない」
マルクスが顔を上げる。
「教皇猊下」
「東方七燭派も南方啓句派も、それぞれの言葉で読む」
「教会統一が」
「統一は、読めない言葉で保つものか」
「異なる解釈が」
「出る」
「戦争に」
「なるかもしれない」
教皇は死者名簿を持つ。
オルシャ。
三港。
ヴァルデン。
宗派別ではない名簿。
「だから翻訳委員会へ使節を送る」
「皇帝の委員会へ?」
「聖座代表として」
「譲歩と」
「言わせろ」
「灰冠は、教会分裂を」
「我々が硬直すれば、助ける」
マルクスは苦い顔。
「私を罷免しますか」
「特使職は停止」
「枢機卿位は」
「維持」
「甘いと」
「お前を処刑すれば、教会強硬派の殉教者になる」
同じ理屈。
「報告を書け」
「何を」
「自分がなぜ署名し、なぜ火を消したか」
「矛盾しています」
「だから書く」
「後世に」
「まず我々が読む」
枢機卿は頭を下げた。
---
## 十二
ヨハンは、銀森選帝侯領の修道院へ移された。
囚人ではない。
自由でもない。
翻訳委員会の準備。
護衛。
監視。
訪問者制限。
夜。
机に聖典。
自分の訳。
火刑台で燃えた頁。
血の染み。
兵士が拾い、渡した。
《平和を作る者》。
「あなたの言葉ではありません」
エルザが言う。
訪問。
ルーカスは生きた。
熱も下がった。
まだ施療院。
「聖典の言葉です」
ヨハン。
「なら、あなたの責任ではない?」
「違います」
「どこまで」
「分かりません」
二人は黙る。
「次版の序文を」
エルザが紙を出す。
《この本は、あなたの怒りを正しいとは証明しない》
ヨハンが読む。
「強すぎます」
「読まれます」
「怒りそのものを否定しているように」
「では直してください」
ヨハンは筆を取る。
《この本は、不正に耐えよと命じるためのものではない》
次。
《同時に、あなたが不正を受けたことは、無関係な者を傷つける許可にはならない》
長い。
「序文だけで一頁」
エルザが言う。
「注釈も」
「紙代が」
「小型版では省略しない」
「売値が上がります」
「寄付を」
「誰から」
二人の目が合う。
灰冠。
商人。
諸侯。
金には意図がある。
「小口で」
エルザが言う。
「読者から一枚ずつ」
「足りない」
「足りる分だけ刷る」
「広がりが遅い」
「遅くします」
世界中で同じ答え。
ヨハンは少し笑う。
「印刷屋が、印刷を遅くする」
「火刑よりは速い」
---
## 十三
ルーカスが工房へ戻ったのは、二月後だった。
歩ける。
重い物は持てない。
脇腹に傷。
ヴァルデン工房は、屋根を直し、圧搾機を作り直した。
活字は完全には戻らない。
床から拾った文字。
川へ流れた文字。
溶けた文字。
不足分を新しく鋳る。
最初に刷ったのは聖典ではない。
ヴァルデン暴動死者名簿。
五十三名。
後から二人が傷で死亡。
改革派。
教会兵。
民兵。
見物人。
火刑執行人。
名前不明三名。
同じ大きさ。
次に、皇帝停止令。
枢機卿火刑命令。
両方。
並べて。
どちらかだけではなく。
「火刑命令も刷るのですか」
職人が尋ねる。
「なぜ処刑が始まったか残す」
「枢機卿の名誉が」
「本人が報告を書いています」
次。
武器箱の契約書。
商会印。
灰冠透かし。
分からない部分は分からないと。
最後に、民衆語聖典の改訂試刷。
一頁目。
原文。
訳文。
異なる訳。
注釈。
印刷は遅い。
紙も多い。
高い。
読みにくい。
以前の簡潔な版の方が広がるだろう。
実際、すでに旧版が帝国各地へ。
百二十部ではない。
写本。
再版。
海賊版。
誤植。
故意の改変。
ヨハンが書いていない注釈。
マルティンの十二箇条と一緒に綴じられた版。
教会批判だけ抜き出した版。
領主が農民服従の聖句だけ集めた版。
言葉は作者を離れている。
---
## 十四
神聖エーレン帝国内では、秋の終わりまでに三つの同盟が生まれた。
改革を保護する諸侯と自由都市による《自由読誦同盟》。
教会財産と伝統教義を守る司教領の《聖印連盟》。
年貢軽減、農奴解放、森林共同利用を求める農村の《十二箇条盟約》。
三つは互いに重なる。
自由読誦同盟の諸侯は聖典改革を支持するが、農奴解放には反対。
農村盟約はヨハンを尊敬するが、彼の非暴力と法的手続きを弱腰と批判。
聖印連盟の中にも、民衆語聖典そのものは認める司教がいる。
単純な二陣営ではない。
だからこそ危険。
同盟は、同じ敵を持つときだけまとまる。
灰冠会議は、それぞれへ別の情報を流した。
自由読誦同盟へ。
《聖印連盟が印刷都市への一斉攻撃を準備》
聖印連盟へ。
《改革諸侯が教会領没収日を決定》
農村盟約へ。
《皇帝と諸侯が共同で武装農民を冬前に処刑》
すべて一部は本当。
会議は行われている。
兵も集まっている。
処刑案もある。
日付と規模だけが変えられる。
「冬前に動くべきだ」
各陣営の強硬派が言う。
冬になる前。
道が凍る前。
敵が先に動く前。
灰冠が与える期限。
皇帝コンラートは、全同盟へ武装停止と春の帝国大議会を命じた。
自由読誦同盟は条件付きで受け入れ。
聖印連盟は教会領防衛を理由に兵を維持。
農村盟約は皇帝が領主側だと拒否。
帝国軍を動かせば、どこかの側へ見える。
動かさなければ、弱い。
「一人の皇帝で、三つの帝国を統治する」
宰相アウグストが言った。
コンラートはアウレリア三帝の報告を読んでいた。
「向こうは三人で一つ」
「交換しますか」
「三人もいらない」
皇帝は笑った。
疲れた笑い。
「農民代表を春議会へ」
「諸侯が反対」
「試験的に」
「選出方法は」
「各地域」
「領主が選ばせる」
「村で」
「富農が」
「抽選」
「字が読めない者が」
「書記をつける」
「費用は」
「また費用か」
制度。
例外。
維持費。
「灰冠が代表を買います」
宰相が言う。
「買われない者だけで国を作れるか」
「できません」
「なら買収を記録し、罷免できるように」
皇帝は決める。
完全ではない。
それでも扉を開く。
---
## 十五
冬の最初の雪が降った夜、マルティン・ブレヒトの十二箇条盟約は、修道院穀倉を一つ占拠した。
血は流さないと決めていた。
修道士を外へ。
穀物を村へ分配。
帳簿を公開。
最初は秩序。
一人一袋。
次に、遠い村から人が来る。
足りない。
修道士が隠し倉庫を持つという噂。
地下を探す。
何もない。
「嘘をついている」
誰かが言う。
修道院長を縛る。
殴る。
マルティンが止める。
「殺すな!」
「妹が飢えた!」
「この男が税を!」
修道院長。
個人。
制度。
区別されない。
灰色の書記が群衆へ紛れ、叫ぶ。
「銀を隠している!」
民衆が礼拝堂へ。
聖器。
金銀。
奪う。
マルティンは、自分の盟約が略奪へ変わるのを見る。
「これは共同財産だ!」
男が言う。
十二箇条の最後。
灰冠が加えた条文。
マルティン自身も配った。
「教会の物は村へ」
自分が言った。
結果。
修道士一人が逃げようとして、階段から落ちて死ぬ。
殺人か事故か。
また。
マルティンは死体を見る。
ヨハンの言葉。
《無関係な者を傷つける許可にはならない》
「先生は、正しかった?」
若い仲間が尋ねる。
マルティンは答えない。
正しい言葉が、正しい行動を保証しない。
---
## 十六
灰色の船室で、マルケル・セヴェロスはエーレン帝国の報告を読んだ。
《火刑執行、失敗》
《ヨハン・アイゼン生存》
《ヴァルデン暴動、成功》
《帝国・聖座権限対立、顕在化》
《民衆語聖典の全面禁止、失敗》
《翻訳委員会設立》
《農民代表制度、準備》
《改革諸侯同盟、成立》
《司教領連盟、成立》
《農村盟約、成立》
若い会計官が尋ねる。
「ヨハンを殺せませんでした」
「必要ない」
「殉教者にする予定では」
「生きた教祖は、死んだ教祖より多く間違える」
「彼は暴力を否定」
「支持者が聞かない」
「枢機卿も失脚」
「強硬派は別の枢機卿を立てる」
「皇帝は制度を開きました」
「費用が増える」
いつもの計算。
だがマルケルは、改訂聖典の試刷を手にしていた。
原文。
複数訳。
注釈。
読者向けの問い。
《この訳が唯一であると考えてはならない》
「これは」
若い会計官が言う。
「売れません」
「だろう」
「なら脅威ではない」
マルケルは頁をめくる。
「売れない本が、長く残ることもある」
「なぜ」
「簡単な答えを与えないからだ」
「人は簡単な答えを求めます」
「だから我々が利益を得る」
老人は本を閉じる。
「だが、簡単な答えを疑う者が増えれば」
「灰冠が」
「遅くなる」
彼が初めて、遅さを損失としてではなく恐れのように語った。
「次の計画を」
若い男。
マルケルは北方地図を見る。
神聖エーレン。
聖座ルミナ。
改革諸侯。
農村盟約。
冬。
軍を大規模に動かしにくい。
代わりに、破門。
財産凍結。
書簡。
説教。
「教皇を選ばせる」
「グレゴリウス九世は生きています」
「老いている」
「次期教皇選挙?」
「候補を今から分ける」
「改革へ寛容な者と、強硬派」
「両方へ資金を」
「また両側」
「信仰は金だけで動かない」
「では」
「だから、恐怖を添える」
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## 十七
ヴァルデン工房の新しい圧搾機が動いた。
冬。
雪。
火刑台のあった広場には、市場が戻っている。
焼け跡の石だけ色が違う。
ルーカスが柄を引く。
傷が痛む。
以前ほど力がない。
職人が補助。
二人で。
最初の改訂版。
紙を剥がす。
文字。
《はじめに》
《この書物を読む者へ》
《あなたが文字を読めることは、あなたが正しいことを意味しない》
《文字を読めない者が、誤っていることも意味しない》
《同じ言葉を読み、異なる意味を得る者がいる》
《その違いを剣で終わらせてはならない》
ルーカスが読む。
「長い」
エルザが言う。
「先生より短い」
「印刷屋の文章としては長い」
「売れる?」
「前版の半分」
「借金は」
「増える」
「灰冠の寄付は」
「断る」
「銀森選帝侯は」
「受ける。ただし名前を奥付に」
「政治利用される」
「隠すより」
母子は同じ作業。
紙。
墨。
圧力。
一枚。
また一枚。
外では、旧版を掲げた農民が行進。
教会鐘。
帝国軍。
冬の静けさ。
戦争は始まっていない。
だが武器は納屋へ。
穀物は砦へ。
説教は鋭く。
破門状の草案。
諸侯の密約。
農民の十二箇条。
すべて春を待つ。
「先生は、この本で戦争を止められると思う?」
ルーカスが尋ねた。
エルザは新しい紙を重ねる。
「思わない」
「では、なぜ刷る」
「戦争が始まったあと、何を間違えたか読めるように」
「遅い」
「そうね」
彼女は圧搾機の柄を引いた。
「でも、何も残さないよりは」
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神聖エーレン帝国の冬は長い。
雪が街道を閉ざし、軍を止め、農民を家へ戻す。
外から見れば、平和。
だが家の中で、聖典が読まれる。
父が読む。
子が聞く。
隣人が別の解釈をする。
司祭が誤りだと言う。
領主が禁止する。
印刷屋が次の版を刷る。
思想は、冬でも進む。
ヨハン・アイゼンは生きていた。
枢機卿マルクスも。
皇帝コンラートも。
マルティン・ブレヒトも。
誰も殉教者にはならなかった。
だから全員が、次の選択を誤る可能性を残した。
後世の歴史家は、ヴァルデン火刑未遂を《宗教戦争の始まり》と書く。
別の学者は、戦争を三年遅らせた議会の始まりと評価する。
どちらも正しい。
火刑台では五十三人が死んだ。
帝国全体の戦争は、その日は始まらなかった。
何を救い、何を失ったか。
数え方によって、勝敗は変わる。
灰暦八百七十二年、冬の第一月。
民衆語聖典の改訂版第一号が、ヴァルデン工房から出た。
表紙には、王冠も聖印もなかった。
小さな印刷機の絵。
その下に一行。
《言葉は、誰の所有物でもない》
同じ夜、聖印連盟の司教たちは改革諸侯への破門要求へ署名した。
自由読誦同盟は教会税の供出停止を決めた。
十二箇条盟約の農民たちは、春までに五万人を集めると誓った。
皇帝コンラートは、三者を同じ帝国議会へ呼ぶ召集状を書いた。
そして灰冠会議は、その召集状が届く前に、三者それぞれへ偽の議事録を送った。
《相手は、会議の場であなたを拘束する》
春まで、あと三月。
言葉は燃えなかった。
その代わり、人々の胸の中で、ゆっくりと熱を持ち始めていた。
書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?
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死ぬ気でがんばれ
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可能な範囲でがんばれ
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そんなに急ぐこたーないぞ