『血と香料の戦争』― 灰燼の回廊 ―   作:MOZIO

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第3編「粛清」

【1】始まり

 

最初の死は、誰にも気づかれなかった。

 

次の死も。

 

その次も。

 

だが――

 

「多すぎる」

 

ヴォルフラムが低く言う。

 

「偶然じゃねぇな」

 

アルベリクは窓の外を見ていた。

 

「ええ」

 

王都は静かだ。

 

静かすぎる。

 

「始まりました」

 

【2】名簿

 

宮廷の奥。

 

一枚の紙が置かれていた。

 

名前の列。

 

貴族。

役人。

商人。

 

そのいくつかに、印がついている。

 

「次はこれだ」

 

声。

 

「理由は?」

 

「不要だからだ」

 

短い会話。

 

それで十分だった。

 

【3】消える者

 

リーゼロッテは帳簿をめくる。

 

「三人減った」

 

「どの派閥も均等に、ですね」

 

側近が言う。

 

彼女は頷く。

 

「均衡を崩さない粛清」

 

そして小さく笑う。

 

「上手い」

 

【4】宗教の刃

 

大聖堂。

 

ベネディクトゥスは壇上に立っていた。

 

「異端を排除せよ」

 

声が響く。

 

「神の秩序を守るために」

 

群衆がざわめく。

 

「誰が異端だ」

 

誰かが問う。

 

司祭は微笑む。

 

「神が示す」

 

つまり――

 

彼が決める。

 

【5】巻き込まれる兵

 

トビアスは呼び止められる。

 

「お前、元兵だな」

 

「……はい」

 

「仕事がある」

 

拒否はできない。

 

「何を」

 

男は答える。

 

「連行だ」

 

【6】捕縛

 

夜。

 

トビアスは家の前に立っていた。

 

「ここだ」

 

扉を叩く。

 

中から声。

 

「誰だ」

 

「王命だ」

 

嘘だった。

 

扉が開く。

 

中には家族。

 

「何の用だ」

 

トビアスは言葉に詰まる。

 

だが――

 

「連れていく」

 

それだけ言った。

 

【7】目

 

男が抵抗する。

 

「理由を言え!」

 

トビアスは答えない。

 

答えられない。

 

子供が泣く。

 

妻が縋る。

 

「やめて!」

 

手が震える。

 

だが――

 

「……来い」

 

彼は男を引きずる。

 

【8】処理

 

連れてこられた者たち。

 

列に並ばされる。

 

「罪状は?」

 

誰かが問う。

 

答えはない。

 

剣が振り下ろされる。

 

一人。

また一人。

 

トビアスは見ていた。

 

もう吐かなかった。

 

【9】接触

 

その帰り。

 

路地裏。

 

ザフラがいた。

 

「似合ってきたわね」

 

トビアスは何も言わない。

 

「どう?」

 

彼女が問う。

 

「楽しい?」

 

沈黙。

 

「……分からない」

 

それが本音だった。

 

【10】変化の証明

 

ザフラは近づく。

 

「でも、生きてる」

 

トビアスは頷く。

 

「……ああ」

 

「それが答えよ」

 

彼女は言う。

 

「戦争ではね」

 

【11】標的

 

同時刻。

 

アルベリクの屋敷。

 

影が動く。

 

静かに侵入する。

 

剣が抜かれる。

 

「……来たか」

 

アルベリクはすでに起きていた。

 

【12】暗殺

 

刃が走る。

 

速い。

 

だが――

 

止まる。

 

アルベリクが受ける。

 

「誰の手だ」

 

沈黙。

 

もう一撃。

 

ヴォルフラムが背後から斬る。

 

男が倒れる。

 

「……プロだな」

 

血が床に広がる。

 

【13】理解

 

「複数だな」

 

ヴォルフラムが言う。

 

アルベリクは頷く。

 

「ええ」

 

誰が敵か分からない。

 

「いい状況じゃねぇな」

 

「いいえ」

 

彼は静かに言う。

 

「正しい状況です」

 

【14】均衡

 

リーゼロッテは報告を受ける。

 

「失敗しました」

 

「そう」

 

彼女は淡々と頷く。

 

「では次」

 

「どちらに?」

 

彼女は微笑む。

 

「両方に」

 

【15】同時進行

 

ファリードもまた、同じ報告を聞く。

 

「王国側、粛清激化」

 

「良い」

 

彼は言う。

 

「バランスが取れる」

 

戦争は、調整されている。

 

人の手で。

 

【16】境界の消失

 

トビアスは一人で座っていた。

 

血のついた手を見る。

 

「……」

 

もう、震えない。

 

もう、迷わない。

 

ただ一つだけ。

 

「生きる」

 

それだけが残る。

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