【1】点火
それは偶然ではなかった。
だが、誰の意志でもなかった。
王都リュミエールの南区画。
倉庫街。
積み上げられた穀物袋。
油。
乾いた木材。
「火だ!!」
叫びが上がったときには、すでに遅い。
炎は一瞬で走った。
風はない。
だが、関係ない。
都市そのものが燃料だった。
【2】連鎖
火は広がる。
倉庫から商館へ。
商館から民家へ。
「水を持ってこい!」
「井戸が空だ!」
叫びは重なり、意味を失う。
消火ではなく――
逃走になる。
人が流れる。
押し合う。
踏みつける。
倒れた者は、もう起きない。
【3】噂の完成
「放火だ!」
誰かが言う。
「商人の仕業だ!」
別の声。
「いや、貴族だ!」
「教会だ!」
答えは出ない。
だが、関係ない。
“誰かのせい”であればいい。
その瞬間。
暴動は、目的を得る。
【4】民衆の刃
トビアスは走っていた。
逃げているのか、向かっているのか分からない。
気づけば――
彼は商館の前にいた。
「ここだ!」
誰かが叫ぶ。
扉が破られる。
中には食糧。
「奪え!!」
その一言で、全てが決まる。
トビアスの手が動く。
もう迷わない。
袋を掴む。
押しのける。
誰かを殴る。
「……」
感情はない。
ただの行動。
【5】宗教の戦場
大聖堂。
ベネディクトゥスは炎を見ていた。
「来たか」
静かな声。
「これは試練ではない」
側近が言う。
「……審判だ」
彼は訂正する。
そして命じる。
「異端を焼け」
兵が動く。
対象は――民衆。
【6】神の名の下に
広場。
兵が剣を抜く。
「神に逆らう者を討て!」
群衆が止まる。
一瞬だけ。
その後――
石が飛ぶ。
兵が倒れる。
「殺せ!!」
叫び。
もう、宗教ではない。
ただの殺し合い。
【7】商人の撤退
リーゼロッテは既に動いていた。
「馬車を出して」
「どこへ」
「北へ」
彼女は振り返らない。
「資産は?」
「捨てる」
側近が驚く。
「よろしいのですか」
彼女は言う。
「ここは終わり」
そして付け加える。
「次がある」
【8】貴族の最期
王城。
炎が迫る。
「守れ!」
命令が飛ぶ。
だが――
兵はいない。
逃げた。
残ったのは、貴族だけ。
「こんなはずでは……」
誰かが呟く。
その言葉に、誰も応えない。
扉が破られる。
民衆が流れ込む。
「……終わりか」
【9】観測者の結論
アルベリクは城の外にいた。
炎を見ている。
「止めないのか」
ヴォルフラムが問う。
「無理です」
即答。
「なら何をしてる」
アルベリクは言う。
「見ている」
「何をだ」
「結果を」
【10】選別
トビアスは血の中にいた。
気づけば――
周囲に死体。
手には袋。
生きている。
それだけ。
「……」
彼は理解する。
生き残ったのではない。
選ばれた。
理由はない。
ただ、死ななかっただけ。
【11】再会
そのとき。
ザフラが現れる。
炎の中で。
「すごいわね」
彼女は笑う。
「王都が戦場になるなんて」
トビアスは言う。
「……同じだ」
「何が?」
「全部だ」
戦場も。
王都も。
人も。
ザフラは少しだけ驚く。
「やっとね」
【12】帝国の視点
遠く離れた地。
ファリードは報告を受ける。
「王都炎上」
彼は静かに頷く。
「早かったな」
「好機です」
側近が言う。
ファリードは微笑む。
「違う」
そして言う。
「予定通りだ」
【13】同じ結論
サイードもまた、それを知る。
「……崩れたか」
ザフラがいないことに気づく。
「動いたな」
彼は小さく息を吐く。
「ではこちらも動く」
戦争は、次の段階へ進む。
【14】終焉
夜。
王都は燃えている。
止まらない。
誰も止めない。
止められない。
アルベリクは背を向ける。
「行きます」
ヴォルフラムが問う。
「どこへ」
彼は答える。
「戦場へ」
【15】再定義
「王都は終わりだ」
ヴォルフラムが言う。
アルベリクは首を振る。
「いいえ」
そして静かに言う。
「これが本来の姿です」
戦争は、前線だけではない。
国家そのものが戦場だ。
【16】灰の都
翌朝。
王都は灰になっていた。
煙が残る。
人は減った。
だが――
完全には消えていない。
生き残った者がいる。
トビアスも、その一人だ。
彼は立っている。
何も持たず。
だが――
倒れない。