灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第十八章 夏至の矢

 

海で殺された者は、墓へ入るまで国籍を持たない。

 

波に洗われた衣。

 

膨れた指。

 

魚に削られた顔。

 

首へ下げた聖印。

 

腰袋の貨幣。

 

靴の縫い方。

 

船大工の刻印。

 

それらを一つずつ調べ、人は死者へ国を戻す。

 

アルビオン人。

 

ルシタニア人。

 

巡礼者。

 

漁師。

 

水夫。

 

海賊。

 

死体が先にあり、敵の名は後から決められる。

 

灰暦八百七十三年、夏至の十七日前。

 

アルビオン海王国西岸、白断崖の下へ十二人の死体が流れ着いた。

 

同じ朝。

 

海峡の南側、ルシタニア辺境諸王国のサン・テルモ岬へ、焼けた巡礼船の残骸が漂着した。

 

北では、死者の衣にルシタニアの赤十字が縫われていた。

 

南では、船板にアルビオン王家の白獅子が描かれていた。

 

双方とも、自分たちが襲われた証拠を得た。

 

双方とも、証拠があまりにも整いすぎていると気づいた。

 

それでも死者は本物だった。

 

偽旗だと知ることと、死者を無視することは違う。

 

戦争は、その隙間から始まる。

 

---

 

## 一

 

トーマス・ウェルズは、夏至祭の的へ三本目の矢を放った。

 

的は、干し草を縄で縛った人型。

 

胸に赤い布。

 

距離は二百歩。

 

風は左から。

 

トーマスは矢先を少し右へ。

 

弦。

 

指を離す。

 

矢は高く上がり、緩い弧を描いて赤布へ刺さった。

 

「胸だ!」

 

村の少年たちが叫ぶ。

 

「腹だ」

 

トーマスは言った。

 

実際、赤布の下端。

 

人間なら腸。

 

すぐには死なない。

 

「同じだろ」

 

弟のウィルが言う。

 

十六歳。

 

自分の弓を持てる年。

 

「違う」

 

トーマスは次の矢を取る。

 

アルビオン海王国では、自由農民と小作農を問わず、一定年齢以上の男は祭日ごとに弓の練習を命じられている。

 

海を越えて来る敵へ、王国は騎士だけでは足りない。

 

イチイ材の長弓。

 

矢。

 

農民。

 

それがアルビオンの壁だった。

 

トーマスは二十七歳。

 

羊毛で知られるグリーン沼伯領の小作農。

 

畑は狭い。

 

羊六頭。

 

母。

 

妻メアリー。

 

五歳の娘アン。

 

戦争経験はない。

 

ただし弓歴は十九年。

 

父は、トーマスが八歳のとき最初の弓を作った。

 

父は十二年前、王弟軍の遠征で死んだ。

 

遺骨は戻らなかった。

 

給金の未払いを記した紙だけ。

 

その紙は、家の箱に残っている。

 

「次は俺」

 

ウィルが前へ。

 

弦を引ききれない。

 

「肩を落とせ」

 

「分かってる」

 

「分かってない」

 

「兄貴はうるさい」

 

矢は的の左。

 

少年たちが笑う。

 

ウィルが怒る。

 

「戦場なら、隣の敵に当たった」

 

トーマス。

 

「ならよい」

 

「隣に敵がいると決めるな」

 

「戦場だぞ」

 

「味方かもしれない」

 

弟は意味を考えない。

 

村道から馬。

 

一頭ではない。

 

王家の白獅子旗。

 

伯領の青羊旗。

 

徴募役人。

 

村人の笑いが消える。

 

司祭が鐘を鳴らす。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

戦時召集。

 

正式な宣戦布告の鐘ではない。

 

沿岸警戒令。

 

「白断崖で人が殺された」

 

徴募役人が布告を読む。

 

「ルシタニア船によるアルビオン漁民虐殺の疑い」

 

疑い。

 

その一語は、群衆の怒号で消えた。

 

「成人弓兵百名。三日分の食糧を持参。白断崖港へ集合」

 

「何日」

 

村長。

 

「二十日の沿岸勤務」

 

「収穫前です」

 

「王国が襲われている」

 

「羊の毛刈りが」

 

「国が残れば刈れる」

 

また。

 

トーマスは徴募一覧を見る。

 

自分。

 

ウィル。

 

兄弟二人。

 

「一家から二人?」

 

母が言う。

 

「年齢基準です」

 

「父親も王の戦争で死んだ」

 

「記録に」

 

「なら一人を外せ」

 

「免除には銀貨八枚」

 

持っていない。

 

「ウィルを外す」

 

トーマス。

 

「俺も行く」

 

弟。

 

「お前は弓を引けない」

 

「引ける!」

 

「さっき外した」

 

「一発だけだ!」

 

徴募役人は別の家へ。

 

家族の争いは待たない。

 

「俺が行く」

 

トーマス。

 

「兄貴だけなら」

 

ウィル。

 

「畑を」

 

「俺も王国の男だ」

 

「羊の雄でも、柵を壊して狼へ行かない」

 

「俺を羊と」

 

「母さんとメアリーを守れ」

 

「海から敵が来るんだろ!」

 

「ここまで来たら射て」

 

弟の顔が赤い。

 

「父さんも、同じことを言った?」

 

母が静かに尋ねた。

 

トーマスは黙った。

 

父は、王のため。

 

家族のため。

 

同じ言葉。

 

戻らなかった。

 

「免除銀を借りる」

 

メアリー。

 

「誰から」

 

「教会」

 

「利子が」

 

「羊を二頭」

 

「冬が」

 

選ぶ。

 

戦争は、矢が飛ぶ前から家畜を奪う。

 

「俺が行く」

 

ウィルが言う。

 

「二人とも」

 

母。

 

全員が見る。

 

「一人を残せば、残った方が自分を責める」

 

「母さん」

 

「帰ってこい」

 

簡単な命令。

 

王の命令より難しい。

 

---

 

## 二

 

アルビオン海王国の首都、カンタベラ宮殿では、国王エドガー四世が焼けた漁船の板を見ていた。

 

白い獅子の彫刻。

 

船板へ釘。

 

「我が王家の印です」

 

王弟エドマンド公が言った。

 

四十一歳。

 

国王より六歳若い。

 

顔立ちは似ている。

 

性格は似ていない。

 

エドガーは慎重。

 

エドマンドは速い。

 

速さを勇気と呼ぶ者も、無謀と呼ぶ者もいる。

 

「我が船ではない」

 

海軍卿ローワン・グレイヴズ。

 

六十歳。

 

白い眉。

 

左耳がない。

 

海賊との戦いで失った。

 

「船板の木は南方松。アルビオン巡礼船は北方樫を使う」

 

「修理板かもしれない」

 

エドマンド。

 

「王家印の塗料が新しい」

 

「襲撃者が塗った?」

 

「可能性」

 

「なら、誰が」

 

「それを調べる」

 

「調べている間に漁師が殺される!」

 

王弟が机を叩く。

 

死者十二。

 

浜へ。

 

妻。

 

子。

 

群衆。

 

「ルシタニア側でも巡礼船が」

 

国王。

 

「偽装です」

 

「向こうも同じことを言う」

 

「だから先に海を押さえる」

 

「戦争を始める?」

 

「限定報復」

 

「その言葉で限定された戦争を見たことがあるか」

 

海軍卿は板を裏返す。

 

小さな刻印。

 

《S・M》

 

セレスタの船材市場。

 

「灰冠の可能性があります」

 

「どこにでもセレスタ材は」

 

エドマンド。

 

「赤帳の警告船が来るとの報告も」

 

国王。

 

セレスタからの使節船。

 

まだ白断崖港へ到着していない。

 

「敵の謀略を待つ?」

 

「開帳会は」

 

「灰冠が名前を変えただけだ」

 

王弟の財務官オズワルド・フェインが言う。

 

四十五歳。

 

細い顔。

 

指に七つの指輪。

 

「会計王マルケルも参加しています」

 

「拘束下だ」

 

「自作自演かもしれません」

 

「では、赤帳の存在を」

 

「市場を操るため」

 

何でも疑える。

 

疑いは判断を自由にするのではない。

 

判断者が望む方向へ、すべてを証拠に変える。

 

「白断崖へ艦隊」

 

エドガー。

 

「防衛のみ。ルシタニア海域へ入るな」

 

エドマンドが反発。

 

「襲撃船を追えない」

 

「王国領海内で」

 

「海に線は見えません」

 

「海図に引け」

 

「敵は守らない」

 

「我々が先に破れば、敵になる」

 

国王は命令書を作る。

 

沿岸防衛艦隊。

 

二十隻。

 

徴募弓兵三千。

 

商船護衛。

 

攻撃は、明確な敵対行為を受けた場合のみ。

 

拿捕船は裁判へ。

 

村の焼き討ち禁止。

 

捕虜殺害禁止。

 

「美しい命令です」

 

エドマンド。

 

「守られれば」

 

「守らせる」

 

「海で誰が見る」

 

「船長と神」

 

「神は証言書を書かない」

 

海軍卿が言った。

 

「だから船ごとに書記を」

 

「戦闘中に」

 

「後で」

 

「船長が書かせる」

 

「弓兵代表も署名」

 

国王。

 

農民。

 

船長だけでは。

 

「読み書きできない者が」

 

「印で」

 

「また遅い」

 

エドマンド。

 

「遅くする」

 

エドガーは弟を見る。

 

「お前は白断崖へ行くな」

 

「なぜ」

 

「王弟が行けば、報復遠征に見える」

 

「私は海軍総監です」

 

「名誉職だ」

 

「父上が与えた」

 

「父上は死んだ」

 

死者。

 

また。

 

エドマンドの目が冷える。

 

「王は、私を恐れている」

 

「はい」

 

エドガーは答えた。

 

弟が一瞬黙る。

 

「なら宮殿へ拘束を」

 

「そこまでは」

 

「中途半端だ」

 

「お前も国の一部だ」

 

「王ではない部分」

 

兄弟。

 

オズワルドが小声で王弟へ。

 

「殿下」

 

退く。

 

今は。

 

---

 

## 三

 

ルシタニア辺境諸王国は、一つの国ではない。

 

蒼環海西南岸。

 

山脈と海の間。

 

小さな王国。

 

公国。

 

聖堂領。

 

港市。

 

かつて一人の征服王に統一されたことがある。

 

彼の死後、息子、甥、将軍、司教が王冠を分けた。

 

現在、自ら王を名乗る者は九人。

 

外国人は《ルシタニア九王冠》と呼ぶ。

 

実際には、誰を九人へ数えるかでも争う。

 

サン・テルモ岬の北を支配するポルテラ女王イネス一世は、四十二歳。

 

夫を六年前に失い、十歳の息子の摂政として王冠を受けた。

 

息子が成人しても、評議会は彼女を女王と呼び続けた。

 

息子本人も。

 

彼女は焼けた巡礼船の生存者三人を前にしていた。

 

一人。

 

腕を失った水夫。

 

一人。

 

若い修道士。

 

一人。

 

自分を商人と名乗る男。

 

「襲撃者の言葉は」

 

イネス。

 

水夫。

 

「アルビオン語です」

 

「どこの方言」

 

「分かりません」

 

「海で取引を?」

 

「少し」

 

「何と言った」

 

「《白獅子のために》」

 

あまりにも。

 

「船は」

 

「低い船。櫂。帆は黒」

 

アルビオン海軍の主力は高い船腹の帆船。

 

海峡の沿岸艇なら櫂船も。

 

「旗は」

 

「白獅子」

 

「最初から」

 

「襲う前に」

 

修道士。

 

「聖歌を歌っていました」

 

「どの聖歌」

 

「聖ミカエルの海戦歌」

 

アルビオンでもルシタニアでも歌われる。

 

歌詞が違う。

 

「言葉は」

 

「北方風でした」

 

「水夫と同じ?」

 

「分かりません」

 

商人が口を挟む。

 

「アルビオンです。間違いない」

 

「なぜ」

 

「船長がそう言った」

 

「船長は死んだ」

 

「襲撃前に旗を」

 

「あなた自身は」

 

「見ました」

 

答えが速い。

 

イネスは男の手を見る。

 

商人。

 

指に墨なし。

 

秤を使う硬さなし。

 

親指の付け根。

 

弓弦の痕。

 

「弓兵ですね」

 

男の顔が変わる。

 

「護身で」

 

「どの弓」

 

「短弓」

 

「痕が深い」

 

女王の衛兵が男を押さえる。

 

腰帯。

 

縫い目。

 

小さな紙。

 

毒ではない。

 

海図。

 

サン・テルモ岬の防備。

 

「誰に雇われた」

 

男が黙る。

 

「拷問を」

 

将軍。

 

イネスが止める。

 

「先に名前」

 

「ラファエル」

 

「本名」

 

「ラファエル」

 

「家族は」

 

顔。

 

「いるのですね」

 

「関係ない」

 

「あなたが話せば守る。黙れば探す、と言えば脅しになります」

 

男は女王を見る。

 

「では言わないでください」

 

「分かりました」

 

意外。

 

「あなたを公開裁判へ」

 

「殺されます」

 

「共同監視」

 

「灰冠が」

 

「灰冠?」

 

自分から出た。

 

衛兵が反応。

 

ラファエルは目を閉じる。

 

「話してください」

 

イネス。

 

「巡礼船を襲ったのは誰」

 

「契約船団」

 

「旗」

 

「両方」

 

「アルビオン船も」

 

「偽装船」

 

「死者を」

 

「十二人の予定」

 

「実際は」

 

「四十九」

 

「なぜ」

 

「火が早く回った」

 

予定外。

 

「白断崖の漁船は」

 

「別の隊」

 

「同じ計画」

 

「はい」

 

「目的」

 

「九王冠をまとめる。アルビオンを出航させる」

 

「なぜ」

 

「海上債権」

 

「赤帳?」

 

男が驚く。

 

知っている。

 

「写しが、王弟側へ」

 

「誰の」

 

「エドマンド公」

 

「本人は」

 

「分かりません」

 

「あなたの指揮官」

 

「《舟守》」

 

灰冠自由会議。

 

「現在地」

 

「白断崖港か、海上」

 

「次の攻撃」

 

男は唇を噛む。

 

毒はない。

 

「夏至祭」

 

「どこ」

 

「両国の船が集まる海域」

 

「何を」

 

「王族を殺す」

 

「誰の」

 

「どちらでも」

 

王族の死。

 

宣戦。

 

「私の息子は」

 

イネスの声が変わる。

 

若王ディニス。

 

夏至祭に海上祝福式へ出る予定。

 

「標的?」

 

「可能性」

 

完全には知らない。

 

イネスは立つ。

 

「祭礼を中止」

 

将軍が反対。

 

「恐怖に屈したと」

 

「息子の命を祭りへ」

 

「民衆は」

 

「理由を公開する」

 

「灰冠の証言を?」

 

「生存者のうち一人が偽装工作員だったと」

 

「混乱」

 

「隠せば、誰を守る」

 

王家の名誉。

 

民衆の安心。

 

「九王冠会議を招集」

 

「集まるまで」

 

「海上防衛を共同化」

 

「誰が指揮」

 

「私では、ほかが反対する」

 

「では」

 

「抽選では船は動かない」

 

イネスは地図を見る。

 

九王冠。

 

九つの海軍。

 

大小。

 

「最も多く船を出す王が指揮する」

 

「サンタ・ブランカ王です」

 

宿敵。

 

「はい」

 

「信用を」

 

「しません」

 

「なら」

 

「記録官を付ける」

 

信用できない相手へ、権限と監視。

 

---

 

## 四

 

セレスタからの警告船《青い秤》は、白断崖港沖で三日止められた。

 

アルビオン港湾鎖。

 

金融混乱の余波。

 

船長は同じ文書を繰り返し見せる。

 

《赤帳警告》

 

《夏至前後、アルビオン・ルシタニア間の偽旗攻撃》

 

《王弟財務官オズワルド・フェインへ、赤帳写しが渡された可能性》

 

《沿岸村襲撃、巡礼船拿捕、王族暗殺の計画》

 

港務長官は文書を受け取る。

 

「王都へ」

 

「我々も」

 

「外国使節は検疫」

 

「疫病は」

 

「セレスタ金融疫」

 

皮肉。

 

「時間が」

 

「海岸警戒中です」

 

警戒が警告を止める。

 

船長は写しを漁船へ託す。

 

一部。

 

港の水売り。

 

聖堂。

 

商人。

 

情報が市中へ。

 

《王弟が灰冠と》

 

噂。

 

《国王は知っている》

 

《海軍卿が売った》

 

文書が王都へ着く前に、歪んだ噂が。

 

オズワルド・フェインは先に動く。

 

王弟邸。

 

帳簿。

 

鉄箱。

 

「殿下」

 

エドマンドへ。

 

「セレスタの偽文書です」

 

「赤帳に私の名が?」

 

「私です」

 

「お前が」

 

「財務官として接触を受けました」

 

「なぜ報告しなかった」

 

「融資提案だと」

 

「何の」

 

「海軍再建」

 

「受けた?」

 

「一部」

 

王弟の顔。

 

「私の印で?」

 

「殿下の海軍総監基金」

 

「使途は」

 

「白断崖造船所。弓兵給金。私掠船準備」

 

「私掠船?」

 

「戦時に備え」

 

「戦争前だ」

 

「襲撃は」

 

「灰冠が起こしたとしても、ルシタニアが我々を憎んでいる事実は」

 

「それで」

 

「先に海を押さえる」

 

「兄上の命令は防衛」

 

「王は遅い」

 

エドマンドはオズワルドへ近づく。

 

「赤帳写しは」

 

「ありません」

 

「嘘をつくな」

 

「要約だけ」

 

「どこ」

 

財務官は机の下の鍵。

 

鉄箱。

 

赤い蝋。

 

開く。

 

頁。

 

戦争利益。

 

王弟即位可能性。

 

《エドガー四世が戦時指導力不足と評価された場合》

 

《王弟を海軍摂政へ》

 

エドマンドの目が止まる。

 

「お前は、私を王にする気か」

 

「国が必要とすれば」

 

「私が望んだと?」

 

オズワルドは答えない。

 

望んでいないとは言い切れない。

 

王弟も自分を知る。

 

「この箱を王へ」

 

「殿下」

 

「今すぐ」

 

「渡せば、殿下は拘束」

 

「お前も」

 

「私は」

 

オズワルドの手が衣へ。

 

毒。

 

エドマンドが腕を掴む。

 

若くはない。

 

だが軍人。

 

指を折る。

 

小瓶。

 

床。

 

「死ぬな」

 

「殿下」

 

「全部話せ」

 

「家族が」

 

「どこ」

 

「舟守が」

 

「私が守る」

 

「王弟でも」

 

「王弟だから」

 

「王は殿下を」

 

「兄は私を恐れている」

 

「なら」

 

「恐れながら、まだ信じている」

 

エドマンドは衛兵を呼ぶ。

 

「オズワルド・フェインを拘束」

 

「罪状」

 

「私の印の不正使用。外国秘密資金。戦争誘発の共謀」

 

「殿下ご自身の」

 

「私の署名も調べる」

 

衛兵が驚く。

 

「全部だ」

 

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## 五

 

白断崖港へ到着したトーマスたち徴募弓兵は、海を見て言葉を失った。

 

村から見える川とは違う。

 

地平線。

 

塩の匂い。

 

船。

 

百隻近い。

 

軍艦。

 

商船。

 

漁船。

 

補給艇。

 

港は怒鳴り声。

 

荷役。

 

羊毛袋。

 

矢束。

 

乾パン。

 

水樽。

 

馬。

 

病人。

 

妻と別れる男。

 

給金を求める女。

 

「弓兵は第六埠頭!」

 

軍吏。

 

「名前!」

 

「トーマス・ウェルズ。ウィリアム・ウェルズ」

 

「村」

 

「グリーン沼、聖オスウィン村」

 

「弓力」

 

「百二十斤」

 

「百」

 

ウィルが嘘。

 

実際は八十。

 

軍吏は測らない。

 

人数。

 

「第七弓兵隊。船《白樺姫》」

 

船名。

 

高い船腹。

 

商船改造。

 

乗員。

 

船員六十。

 

弓兵百二十。

 

槍兵四十。

 

書記一。

 

船長サイモン・ローク。

 

太い腹。

 

赤い鼻。

 

「お前たち」

 

甲板。

 

「海で弓を引いたことは」

 

誰も。

 

「地面は動く。吐く。弓を海へ落とすな。矢筒を濡らすな。船員の綱へ触るな。鐘三つで戦闘。二つで火災。一つで祈れ」

 

「一つは何です」

 

ウィル。

 

「沈む」

 

笑い。

 

半分本気。

 

「王命を読む」

 

書記。

 

防衛。

 

領海。

 

明確な敵対行為。

 

拿捕。

 

村焼き禁止。

 

捕虜。

 

弓兵代表。

 

隊から二人。

 

読み書き。

 

トーマスは少し読める。

 

父の給金紙を理解するため、司祭に習った。

 

「お前」

 

指名。

 

もう一人は靴職人。

 

命令書末尾へ印。

 

「これで船長を監視?」

 

ウィル。

 

「記録するだけ」

 

トーマス。

 

「船長が破ったら」

 

「書く」

 

「止めない?」

 

「止められれば」

 

「農民が」

 

「弓は持ってる」

 

冗談。

 

怖い。

 

夜。

 

港酒場で、漁民の死体が公開される。

 

怒りを高めるため。

 

白布。

 

十二。

 

「見ろ!」

 

王弟派の説教師。

 

「ルシタニアの残虐!」

 

「復讐を!」

 

トーマスも。

 

死体。

 

一人。

 

少年。

 

ウィルと同じくらい。

 

衣の赤十字は、縫い目が新しい。

 

「これ」

 

トーマスが呟く。

 

「何」

 

ウィル。

 

「糸が」

 

「母親が縫ったかも」

 

「死んだ後に」

 

「なぜ」

 

分からない。

 

説教師が叫ぶ。

 

「夏至に南の港を焼け!」

 

王命は防衛。

 

誰も気にしない。

 

---

 

## 六

 

ルシタニア九王冠会議は、サンタ・ブランカ大聖堂で開かれた。

 

九人全員ではない。

 

七人。

 

一人は病気。

 

一人は使者。

 

「アルビオンへ宣戦を」

 

サンタ・ブランカ王アフォンソ五世。

 

五十歳。

 

大きな体。

 

海軍四十隻。

 

九王冠最大。

 

「証拠は偽装」

 

イネス。

 

「我が巡礼者は死んだ」

 

「偽装工作員の証言」

 

「敵の男だ」

 

「灰冠の」

 

「灰冠がアルビオンを使った」

 

「両方を」

 

「なら、アルビオン艦隊が出る前に」

 

「すでに出ています」

 

「だから」

 

円。

 

「開帳会の警告を」

 

イネスが写し。

 

赤帳。

 

夏至。

 

王族暗殺。

 

王弟財務官。

 

「セレスタ商人の罠」

 

山岳王。

 

「我々を武装解除させる」

 

「武装解除ではない。共同監視」

 

「アルビオン船を見逃せと」

 

「先制しない」

 

「同じだ」

 

若いディニス王。

 

イネスの息子。

 

二十歳。

 

正式にはポルテラ王。

 

母が会議を主導する。

 

「私が祝福式へ出ます」

 

イネスが振り返る。

 

「中止です」

 

「中止すれば、暗殺計画に屈したと」

 

「命が」

 

「王です」

 

「私の息子です」

 

会議が静まる。

 

公と母。

 

「だから、王族暗殺の標的を一人にしない」

 

アフォンソ。

 

「九人全員で船へ?」

 

「灰冠が喜ぶ」

 

誰か。

 

苦い笑い。

 

「海上祝福は港内」

 

イネス。

 

「王族は分散。民間船を近づけない。アルビオンへ同じ条件を提案」

 

「共同夏至停戦?」

 

「七日」

 

「弱腰」

 

「七日で調査」

 

「アルビオンが拒めば」

 

「防衛」

 

アフォンソは腕を組む。

 

「指揮権を私へ」

 

「条件」

 

イネス。

 

「全艦の航海記録。私掠船禁止。攻撃命令は、三王冠の確認」

 

「戦場で会議か!」

 

「単一信号で軍を動かさない」

 

凍河協定の写し。

 

サルグァとヴェリグラード。

 

「草原人の法を海へ?」

 

「罠は同じ」

 

「敵船が目の前で」

 

「緊急防衛は船長。追撃は三印」

 

「遅い」

 

「戦争を広げる命令だけ」

 

アフォンソは迷う。

 

最大艦隊。

 

一人で指揮したい。

 

だが他王冠は彼を恐れる。

 

「二印」

 

「三」

 

「二と、記録官一名」

 

「記録官は誰」

 

「九王冠外」

 

「聖座?」

 

「オルシャ六席」

 

遠い。

 

間に合わない。

 

「港湾組合」

 

サンタ・ブランカの船大工代表。

 

貴族ではない。

 

王が嫌がる。

 

「船を作る者に戦を」

 

イネス。

 

「沈む船も見る」

 

最終。

 

二王冠印と港湾記録官。

 

七日停戦提案。

 

同時に防衛艦隊。

 

完全ではない。

 

---

 

## 七

 

アルビオンの警告使節は、国王エドガーへ到着した。

 

赤帳。

 

オズワルド拘束。

 

王弟の自白。

 

「私掠免許を」

 

国王。

 

「十二通」

 

エドマンド。

 

「私の海軍総監印で」

 

「王印は」

 

「使っていない」

 

「文面は《王家の敵への自由攻撃》」

 

「違法です」

 

海軍卿。

 

「戦時でなければ」

 

「戦時と考えた」

 

王弟。

 

「誰の判断で」

 

「私の」

 

「お前は王ではない」

 

エドガーの声。

 

兄弟。

 

「知っている」

 

「免許船は」

 

「七隻出港。五隻は港」

 

「目的」

 

「ルシタニア海賊船拿捕」

 

「海賊と決める基準」

 

「オズワルドの名簿」

 

「灰冠の」

 

「はい」

 

エドガーは椅子へ。

 

怒り。

 

疲労。

 

「お前を海軍総監から解任」

 

「受ける」

 

「宮殿内待機」

 

「受ける」

 

「なぜ」

 

「私の印で戦争が始まる」

 

弟は初めて速さを失った。

 

「それで責任を取ったつもりか」

 

「違う」

 

「なら」

 

「止めに行かせてくれ」

 

「宮殿待機と」

 

「免許船は私の信号しか聞かない」

 

「海軍卿が」

 

「私掠船長は、王家より金を」

 

オズワルドの契約。

 

「お前が行けば」

 

「逃げると思う?」

 

「分からない」

 

「兄上」

 

エドマンドは膝をつかなかった。

 

王族同士。

 

「私を信用しなくていい。船長たちが私を信用しているうちに使え」

 

国王は海軍卿を見る。

 

「監視下で」

 

ローワン。

 

「王弟旗を下ろす。王使として一隻」

 

「武器は」

 

「剣一本」

 

「信号印は」

 

「王印と共同」

 

二つ。

 

「受ける」

 

エドマンド。

 

「逃げれば」

 

「王弟を討て」

 

自分で。

 

「言うな」

 

エドガー。

 

弟を殺す命令。

 

簡単に。

 

「戻れ」

 

「はい」

 

兄は、弟を恐れる。

 

それでも使う。

 

---

 

## 八

 

《白樺姫》は沿岸防衛艦隊とともに白断崖港を出た。

 

トーマスは出港直後に吐いた。

 

ウィルは笑った。

 

その一刻後、自分も。

 

弓兵の半分が。

 

船員は慣れている。

 

「王国の壁が海へ流れてるぞ!」

 

笑う。

 

屈辱。

 

翌日。

 

慣れない。

 

弓を引く練習。

 

甲板。

 

揺れる。

 

矢は海。

 

「敵へ届く前に魚を殺す」

 

船長。

 

「矢を無駄に」

 

トーマスが怒る。

 

「海戦では三本に一本が海だ」

 

「陸なら」

 

「海で陸の話をするな」

 

船長サイモンは粗野。

 

だが命令書を守る姿勢はある。

 

「領海線は」

 

トーマス。

 

「見えない」

 

「海図に」

 

「潮で動く」

 

王弟と同じ。

 

「では、どこまで」

 

「白断崖を後ろへ見られる場所」

 

「曇れば」

 

「神へ聞け」

 

書記が航海記録。

 

方角。

 

距離。

 

帆。

 

三日目。

 

水平線に船。

 

低い。

 

櫂。

 

旗なし。

 

「戦闘準備!」

 

鐘三つ。

 

弓。

 

矢。

 

船が近づく。

 

突然、ルシタニア赤十字旗。

 

同時に弓。

 

矢が《白樺姫》へ。

 

一人。

 

胸。

 

倒れる。

 

「撃て!」

 

船長。

 

弓兵斉射。

 

トーマスも。

 

敵船。

 

甲板。

 

人。

 

狙えない。

 

面。

 

矢。

 

何本も。

 

敵船員が倒れる。

 

「近づけ!」

 

槍兵。

 

拿捕。

 

敵船は逃げる。

 

櫂。

 

速い。

 

「追うな」

 

書記。

 

「攻撃を受けた!」

 

船長。

 

「領海内防衛。追撃は」

 

「敵対行為を受けた場合」

 

「明確です」

 

追う。

 

《白樺姫》は帆。

 

他船二隻。

 

低い船は南へ。

 

海霧。

 

一刻。

 

白断崖が見えない。

 

「領海を」

 

トーマス。

 

「黙れ」

 

船長。

 

「記録します」

 

書記。

 

「書け」

 

敵船が入り江へ。

 

岸。

 

小村。

 

白い家。

 

ルシタニア。

 

「敵港!」

 

弓兵が歓声。

 

「攻撃船を拿捕!」

 

低い船は岸へ乗り上げる。

 

乗員が逃げる。

 

武器。

 

村人も。

 

区別。

 

「火矢を」

 

副長。

 

「村へ?」

 

トーマス。

 

「船を焼く」

 

風。

 

船から家へ。

 

「王命で村焼きは禁止」

 

書記。

 

船長が迷う。

 

「上陸」

 

槍兵。

 

「追う」

 

「村人が」

 

「敵を匿う」

 

また。

 

最終的に船だけへ火壺。

 

だが油が波で流れ、桟橋へ。

 

火。

 

家一棟。

 

女が叫ぶ。

 

子供。

 

トーマスは弓を置く。

 

水桶。

 

船員。

 

「敵地で降りるな!」

 

「火を消す!」

 

「弓兵は」

 

ウィルも。

 

兄について。

 

数人。

 

小舟。

 

岸。

 

村人は石。

 

「火を消す!」

 

言葉通じない。

 

槍。

 

書記がルシタニア語を少し。

 

「王命! 家を焼かない!」

 

誰の王。

 

村人は信用しない。

 

それでも水。

 

屋根。

 

火は一棟で止まる。

 

逃げた敵船員は見つからない。

 

低い船の中。

 

アルビオン矢束。

 

新しい。

 

王家倉庫印。

 

「我が軍の」

 

書記。

 

「偽旗」

 

船長。

 

「最初から」

 

「でも矢を射た」

 

「契約兵」

 

トーマスは倒れた敵船員を見る。

 

衣の下。

 

アルビオン銅貨。

 

ルシタニア聖印。

 

どちら。

 

「船を持ち帰る」

 

船長。

 

証拠。

 

「村へ補償」

 

書記。

 

「敵国へ?」

 

「家一棟」

 

「銀は」

 

「船長負担?」

 

船長が顔をしかめる。

 

「火壺命令は副長」

 

副長。

 

「船を守るため」

 

責任が下へ。

 

トーマスは言う。

 

「弓兵隊で払う」

 

「なぜ」

 

ウィル。

 

「俺たちも追った」

 

「撃たれた」

 

「家の子供は撃ってない」

 

弓兵から不満。

 

「給金から?」

 

「一人銅貨一枚」

 

「王が」

 

「王へ請求」

 

書記。

 

「先に払う」

 

村長へ。

 

銅貨。

 

言葉。

 

謝罪。

 

村人は受け取らない。

 

地面へ落とす。

 

「それで終わりと思うな」

 

通訳。

 

トーマス。

 

「思ってない」

 

通じる。

 

村長は銅貨を拾わない。

 

あとで誰かが拾う。

 

補償の記録は残る。

 

許しではない。

 

---

 

## 九

 

夏至停戦の提案は、海上で失われた。

 

ルシタニア使節船。

 

白旗。

 

アルビオン王都へ。

 

途中で私掠船《黒鹿》が拿捕。

 

船長はエドマンドの免許を持つ。

 

「ルシタニア王冠船は敵性」

 

「白旗」

 

「偽装」

 

「文書を王へ」

 

「我々が運ぶ」

 

使節を拘束。

 

船を没収。

 

その夜、《黒鹿》の船長は文書を読む。

 

七日停戦。

 

共同調査。

 

王族分散。

 

「これを届ければ戦争が止まる」

 

副長。

 

「止まれば賞金なし」

 

「王命は防衛」

 

「王弟免許」

 

「王弟は」

 

「海軍総監」

 

解任を知らない。

 

「使節を殺す?」

 

「身代金」

 

私掠。

 

利益。

 

灰冠が望む行動を、直接命令なしで。

 

翌朝、使節船はルシタニア旗を下ろされ、アルビオン商旗へ。

 

文書は船長の箱。

 

届かない。

 

一人の使節書記が夜、小舟で逃げる。

 

海。

 

櫂。

 

一日。

 

漁船に救われる。

 

文書写しを衣へ。

 

王都ではなく白断崖。

 

間に合うか。

 

---

 

## 十

 

夏至の七日前。

 

サン・テルモ海峡で、ルシタニア商船三隻がアルビオン私掠船に襲われた。

 

一隻拿捕。

 

一隻沈没。

 

一隻逃亡。

 

死者三十七。

 

翌日。

 

アルビオン羊毛船二隻が、ルシタニア沿岸艇に焼かれた。

 

報復。

 

死者二十一。

 

誰も正式に宣戦していない。

 

市場は戦争価格。

 

羊毛下落。

 

塩上昇。

 

造船材。

 

矢。

 

保険。

 

赤帳の予測どおり。

 

国王エドガーは私掠免許の無効を布告。

 

だが海上へ届くまで。

 

王弟エドマンドの使節船は、白断崖を出る。

 

海軍旗なし。

 

王使旗。

 

オズワルド拘束文書。

 

免許無効。

 

同時に、王弟が裏切ったとの噂。

 

私掠船は彼を信じるか。

 

「殿下」

 

海軍卿。

 

「戻れなくなる可能性」

 

「兄は戻れと言った」

 

「海が」

 

「なら海へ命じる」

 

「王族は」

 

「冗談だ」

 

エドマンドは笑わない。

 

「自分が王になりたいと思ったことは」

 

海軍卿が尋ねる。

 

「ある」

 

正直。

 

「今も」

 

「兄が失敗すれば」

 

「それが赤帳の餌です」

 

「知っている」

 

「なら」

 

「望みを消せない」

 

「行動を」

 

「止める」

 

船。

 

白波。

 

「海軍卿は、兄上をよい王と」

 

「はい」

 

「私より」

 

「はい」

 

「即答」

 

「殿下は、速すぎます」

 

「王には向かない?」

 

「戦場では必要」

 

「王宮では」

 

「危険」

 

エドマンドは海を見る。

 

「なら、今日だけ戦場で使え」

 

---

 

## 十一

 

ルシタニア共同艦隊は、サン・テルモ岬沖へ集結した。

 

合計五十六隻。

 

同じ形ではない。

 

大帆船。

 

櫂船。

 

漁船改造。

 

聖堂船。

 

九王冠の旗。

 

指揮官アフォンソ五世。

 

二王冠印。

 

港湾記録官。

 

命令は紙。

 

戦場で船を回る時間はない。

 

そのため、旗信号を三種類。

 

防衛。

 

追撃。

 

撤退。

 

追撃だけ二印。

 

だが海上では、旗が風で見えない。

 

煙。

 

霧。

 

誤認。

 

イネスは息子ディニスを港に残した。

 

本人は旗艦《聖クララ》へ。

 

「女王が」

 

将軍。

 

「王族を分散」

 

「陛下が標的に」

 

「息子より」

 

母。

 

同時に女王。

 

「死ねば」

 

「息子が王」

 

「すでに」

 

「なら制度は続く」

 

「陛下」

 

「死にたいわけではない」

 

「では」

 

「誰かが甲板へ立つ」

 

アフォンソ旗艦は別。

 

指揮権を監視。

 

信用しない。

 

それでも同じ海。

 

「アルビオン艦隊」

 

見張り。

 

北。

 

二十七隻。

 

王家白獅子。

 

私掠船も。

 

どれが正式艦隊。

 

「停戦使節は」

 

「返らない」

 

「拒否と」

 

アフォンソ。

 

「届いていない可能性」

 

イネス。

 

「いつまで可能性を」

 

「攻撃されるまで」

 

「すでに商船が」

 

「私掠船」

 

「アルビオン旗」

 

「王命か不明」

 

「民は区別しない」

 

「王はすべき」

 

アフォンソは追撃旗の準備。

 

「先に海峡入口を封鎖」

 

「防衛配置なら」

 

「そう呼ぶ」

 

言葉。

 

艦隊が前進。

 

アルビオン側も。

 

互いに、自分は防衛線へ。

 

海に線はない。

 

距離。

 

五里。

 

三里。

 

一里。

 

弓の届く外。

 

旗。

 

白。

 

停戦?

 

アルビオン先頭船。

 

王使船。

 

エドマンド。

 

だが後方の私掠船《黒鹿》は、王弟旗を見て別の意味に取る。

 

《総監到着、攻撃承認》

 

王弟の赤い横旗。

 

本来は集合。

 

私掠船長は戦闘旗。

 

「攻撃!」

 

《黒鹿》から火矢。

 

一射。

 

長い距離。

 

届かない。

 

海へ。

 

だがルシタニア側から見える。

 

攻撃。

 

アフォンソ旗艦。

 

「防衛射撃!」

 

赤旗。

 

弓。

 

投石。

 

アルビオン前衛へ。

 

エドマンドの船に矢。

 

護衛が倒れる。

 

「撃つな!」

 

王弟。

 

信号。

 

白旗。

 

集合。

 

煙。

 

見えない。

 

後方アルビオン艦隊は、王弟船が攻撃されたと。

 

「王族を守れ!」

 

前進。

 

双方。

 

戦争。

 

---

 

## 十二

 

トーマスの《白樺姫》は、アルビオン艦隊中央にいた。

 

鐘三つ。

 

矢。

 

甲板。

 

「距離二百五十!」

 

船長。

 

「高射!」

 

長弓。

 

陸の距離。

 

海。

 

揺れ。

 

トーマスは矢をつがえる。

 

前方にルシタニア船。

 

人影。

 

誰か分からない。

 

「放て!」

 

百本。

 

空。

 

黒い線。

 

一部は海。

 

一部は船。

 

人。

 

ウィルが歓声。

 

「当たった!」

 

何に。

 

次の矢。

 

敵から。

 

盾。

 

甲板へ刺さる。

 

船員の首。

 

血。

 

「火矢!」

 

副長。

 

「王命は」

 

書記。

 

「敵艦です!」

 

火。

 

帆へ。

 

海戦。

 

ルシタニアの櫂船が側面へ。

 

衝角。

 

《白樺姫》の船腹。

 

木。

 

割れない。

 

揺れ。

 

槍兵。

 

乗り移り。

 

トーマスは近距離。

 

弓が長すぎる。

 

短剣。

 

敵兵。

 

若い。

 

槍。

 

ウィルへ。

 

トーマスが矢を手で持ち、首へ刺す。

 

人間。

 

温かい血。

 

初めて。

 

敵兵の目。

 

驚き。

 

倒れる。

 

ウィルが震える。

 

「兄貴」

 

「次!」

 

考えない。

 

敵。

 

また。

 

甲板。

 

滑る。

 

海へ落ちる者。

 

鎧。

 

沈む。

 

トーマスは射る。

 

今度は顔が見える。

 

髭。

 

歯。

 

矢が胸。

 

船と船が離れる。

 

海へ落ちたルシタニア兵が綱へ。

 

《白樺姫》の側。

 

船員が斧で指を。

 

「待て!」

 

トーマス。

 

「敵だ!」

 

「捕虜!」

 

王命。

 

綱。

 

引く。

 

男を上げる。

 

別の弓兵が蹴る。

 

「仲間を」

 

「殺した」

 

「こいつが?」

 

「ルシタニアだ!」

 

国籍。

 

個人。

 

区別が消える。

 

トーマスが弓を向ける。

 

味方へ。

 

「止めろ」

 

「裏切るか」

 

「王命だ」

 

書記も。

 

「捕虜殺害禁止!」

 

男は縛られる。

 

助かる。

 

許されない視線。

 

船戦は続く。

 

---

 

## 十三

 

海戦の中央で、両軍の指揮官は何が起きたか分からなかった。

 

アルビオン王弟は攻撃停止を叫ぶ。

 

ルシタニアのアフォンソは、王弟船を先鋒と判断。

 

「旗艦を取れ!」

 

追撃印。

 

二王冠。

 

一つはアフォンソ。

 

もう一つ必要。

 

近くの小王が署名板へ。

 

「攻撃されています!」

 

印。

 

港湾記録官が記す。

 

《防衛的追撃》。

 

言葉。

 

実際は王弟船への集中攻撃。

 

イネスの《聖クララ》が割って入る。

 

「王弟を殺すな!」

 

「敵の王族だ!」

 

「暗殺計画が」

 

「戦場で死ねば暗殺ではない!」

 

正しい。

 

灰冠は戦場を作ればよい。

 

誰が殺すかは、正規軍。

 

「拿捕を!」

 

イネス。

 

旗。

 

捕虜。

 

アフォンソは不満。

 

だが王弟を生け捕れば交渉。

 

命令変更。

 

その瞬間、海峡南の崖から煙。

 

三本。

 

ルシタニアの岸信号では《王族死亡》。

 

誰が。

 

港にいるディニス王が殺された?

 

イネスの顔。

 

「息子が」

 

確認できない。

 

煙。

 

三本。

 

事前計画。

 

灰冠。

 

「港へ戻る!」

 

イネス艦隊。

 

アフォンソ。

 

「今退けば」

 

「息子が」

 

「偽信号かもしれない!」

 

「本物かもしれない!」

 

判断。

 

母。

 

女王。

 

イネスは旗を下ろしかける。

 

止める。

 

「確認船を」

 

小型艇。

 

「艦隊は維持」

 

息子を救うため戻れば、戦線崩壊。

 

戻らなければ、本当に。

 

彼女の手が震える。

 

「陛下」

 

記録官。

 

「決定を」

 

「艦隊維持」

 

声。

 

「確認まで」

 

王。

 

母。

 

どちらを選んだか。

 

後で自分を責める。

 

煙は偽信号だった。

 

崖で捕らえられた男。

 

ルシタニア兵服。

 

口に毒。

 

死亡。

 

だが確認には一刻。

 

その一刻で戦闘は深まる。

 

---

 

## 十四

 

王弟エドマンドの船へ、ルシタニア櫂船二隻が接舷した。

 

海軍卿ローワンが剣。

 

王弟も。

 

「殿下は下へ!」

 

「王使が隠れるか!」

 

「王弟が死ねば戦争!」

 

「生きて捕まっても!」

 

「それは交渉になります!」

 

エドマンドは剣を下ろさない。

 

敵兵。

 

甲板。

 

王弟を知る。

 

白獅子と赤横旗。

 

「エドマンド公!」

 

賞金。

 

捕虜。

 

殺さず。

 

だが混戦。

 

一人の矢。

 

誰が射た。

 

エドマンドの肩。

 

倒れる。

 

「殿下!」

 

海軍卿。

 

矢は浅い。

 

鎧。

 

王弟が起きる。

 

敵兵の一人が剣を振り上げる。

 

殺す。

 

別のルシタニア兵が止める。

 

「捕虜だ!」

 

味方同士。

 

その間、アルビオン弓兵が敵船甲板へ斉射。

 

両方。

 

王弟を守るため。

 

ルシタニア兵。

 

アルビオン護衛。

 

矢は旗を選ばない。

 

ローワンの背へ。

 

海軍卿が膝をつく。

 

「ローワン!」

 

エドマンドが支える。

 

矢は深い。

 

「止めろ」

 

老人。

 

「何を」

 

「戦を」

 

「分かってる」

 

「殿下自身を」

 

血。

 

「兄上へ」

 

「自分で言え」

 

「無理そうだ」

 

「言うな」

 

また。

 

老人は生きている。

 

まだ。

 

船が離れる。

 

アルビオン艦隊が王弟船を囲む。

 

ルシタニア側も。

 

海上。

 

漂う死体。

 

燃える帆。

 

---

 

## 十五

 

海戦を止めたのは、セレスタの警告使節船だった。

 

《青い秤》。

 

戦場へ遅れて到着。

 

白旗。

 

開帳会旗。

 

赤帳写しを帆へ貼る。

 

大きな文字。

 

《王族暗殺計画》

 

《両軍攻撃停止》

 

矢が飛ぶ。

 

帆を貫く。

 

船長は鐘。

 

海事法の遭難信号。

 

連続七回。

 

国を問わず救助を求める音。

 

戦闘停止ではない。

 

だが船員は反応する。

 

海の法。

 

沈没者。

 

火。

 

周囲に浮く人間。

 

《青い秤》は双方の溺者を救い始める。

 

アルビオン。

 

ルシタニア。

 

旗を見ない。

 

一隻。

 

次に、商船出身のアルビオン艦。

 

救助。

 

ルシタニア漁船。

 

救助。

 

戦闘艦が続けるか迷う。

 

射れば救助船へ当たる。

 

イネスが白旗。

 

《救助中、攻撃停止》。

 

アフォンソが反対。

 

「敵が立て直す!」

 

「我々も」

 

「勝てる」

 

「何を勝つ」

 

「王弟船」

 

「灰冠の予定を」

 

「灰冠を理由に敵王族を」

 

「生かす」

 

二王冠印。

 

イネス。

 

別の小王。

 

港湾記録官。

 

救助停戦。

 

アルビオン側。

 

エドマンドが肩を押さえ、白旗へ自分の王印。

 

海軍卿は意識なし。

 

「一刻」

 

使者。

 

「二刻」

 

イネス。

 

「日没まで」

 

王弟。

 

交渉。

 

「日没」

 

旗。

 

戦闘が止まる。

 

完全ではない。

 

離れた私掠船二隻が攻撃継続。

 

正規艦が止める。

 

《黒鹿》は逃亡。

 

自分が最初に射た。

 

戦争が止まれば裁かれる。

 

南へ。

 

舟守の船が待つ。

 

---

 

## 十六

 

救助停戦中、トーマスは敵兵と同じ小舟で死体を拾った。

 

弓を置く。

 

綱。

 

水。

 

膨れる前の死体。

 

アルビオン兵。

 

ルシタニア兵。

 

「こっち」

 

敵船員。

 

言葉は少し。

 

死体の腕。

 

引く。

 

重い。

 

甲板へ。

 

顔。

 

トーマスが矢で射た男ではない。

 

「弟」

 

ルシタニア船員が、自分の船の若者を見つける。

 

胸にアルビオン矢。

 

矢羽。

 

青。

 

トーマス隊の色。

 

誰が射たか。

 

分からない。

 

男は矢を抜こうとする。

 

折れる。

 

叫び。

 

トーマスは見ない。

 

次。

 

海へ落ちたアルビオン弓兵。

 

まだ生きる。

 

ルシタニア船員が先に綱。

 

助ける。

 

「なぜ」

 

ウィル。

 

敵へ。

 

言葉通じない。

 

男は肩をすくめる。

 

海だから。

 

凍河と同じ。

 

水の中に旗はない。

 

救助後。

 

捕虜交換。

 

負傷者。

 

王弟とイネス女王の海上会談。

 

中立船《青い秤》。

 

武器なし。

 

各十二人。

 

また。

 

罠を恐れる。

 

船底を共同確認。

 

帆。

 

弓兵を下げる。

 

トーマスは弓兵代表として同行。

 

なぜ自分。

 

命令書署名。

 

農民。

 

イネス側にも港湾記録官と漁師代表。

 

「王弟エドマンド」

 

イネス。

 

「ポルテラ女王」

 

「我々は攻撃を受けた」

 

「我々も」

 

「最初の矢は」

 

「あなた方」

 

「私掠船です」

 

「王弟免許」

 

エドマンドが顔を歪める。

 

「無効にします」

 

「出したのは」

 

「私です」

 

「なら王命」

 

「私は王ではない」

 

「王家印」

 

「海軍総監印」

 

「我々の死者には違いが」

 

「ない」

 

認める。

 

「責任を」

 

イネス。

 

「負います」

 

「どう」

 

「免許船を止める。被害補償。財務官を共同尋問」

 

「アルビオン法廷だけでは」

 

「共同」

 

「王弟自身も」

 

「はい」

 

アルビオン護衛が反発。

 

「殿下!」

 

「署名した」

 

「灰冠に騙された」

 

「騙された者は無罪か」

 

エドマンドは自分へ。

 

「そちらの沿岸艇も商船を」

 

イネス。

 

「裁く」

 

「共同?」

 

「はい」

 

「七日停戦」

 

「受ける」

 

「海軍は」

 

「現位置から一日行程後退」

 

「白断崖へ」

 

「サン・テルモへ」

 

「私掠船は」

 

「両国共同敵」

 

海賊とする。

 

「捕らえた船と賞金は」

 

「被害基金」

 

「船員は」

 

「裁判」

 

「死刑」

 

「実行責任に応じて」

 

簡単ではない。

 

「赤帳警告を両国で同時公開」

 

「王家の関与も」

 

エドマンドが一瞬。

 

「はい」

 

王弟の名。

 

「あなたは王になれなくなる」

 

イネス。

 

「かもしれない」

 

「それで」

 

「兄上が喜ぶ」

 

少し笑う。

 

「本音は」

 

「悔しい」

 

正直。

 

「それでも公開?」

 

「悔しいから隠せば、赤帳どおりになる」

 

イネスは王弟を見る。

 

敵。

 

似ている部分。

 

「七日」

 

「四十日では」

 

「夏至祭が」

 

「中止」

 

「我々も」

 

「共同追悼式を」

 

提案。

 

双方の死者。

 

「民が怒る」

 

「別々に同じ名簿を読む」

 

「名簿は」

 

「国別に分けない」

 

トーマスが口を挟みかける。

 

王族の会談。

 

黙るべき。

 

エドマンドが気づく。

 

「何だ」

 

「国別も必要です」

 

全員。

 

「家族へ分かるよう」

 

トーマス。

 

「でも、同じ紙に」

 

死者名。

 

旗。

 

両方。

 

「名は」

 

「トーマス・ウェルズ」

 

「身分」

 

「弓兵。小作農」

 

「矢を射た?」

 

イネス。

 

「はい」

 

「何人殺した」

 

「分かりません」

 

「後悔」

 

「今は」

 

「今だけ?」

 

「戦ってる時は、考えたら死ぬ」

 

イネスは記録官へ。

 

「そのまま書く」

 

王弟も頷く。

 

---

 

## 十七

 

海戦の損害。

 

アルビオン。

 

沈没四隻。

 

大破六隻。

 

死者四百八十二。

 

行方不明百十。

 

負傷七百以上。

 

ルシタニア。

 

沈没五隻。

 

大破八隻。

 

死者五百三十一。

 

行方不明九十七。

 

負傷六百以上。

 

民間船。

 

三隻。

 

死者四十六。

 

合計。

 

千を超える。

 

正式な宣戦布告なし。

 

戦闘時間。

 

三刻半。

 

赤帳の予測より早い。

 

利益。

 

保険料。

 

造船。

 

矢。

 

すでに上昇。

 

救助停戦が結ばれたことは、市場の予測に入っていない。

 

戦争継続債券は一時下落。

 

七日後に再開すると見た投資家が買う。

 

平和すら投機。

 

開帳会は、セレスタで海戦報告を受ける。

 

ルチアーノ。

 

「戦争債券を凍結」

 

「セレスタ外で売買」

 

「取引先へ」

 

「従わない」

 

「公開」

 

市場へ名。

 

「それで」

 

「評判を」

 

「戦争で儲けることを誇る者も」

 

「税を」

 

同盟評議会。

 

利益の九割を被害基金へ。

 

「取引を地下へ」

 

サフィーヤ。

 

「それでも価格を上げる」

 

制度。

 

追う。

 

「七日停戦を四十日へ」

 

マリアムはオルシャへ戻る途中。

 

書簡。

 

アルビオン。

 

ルシタニア。

 

聖座ルキウスも支持。

 

ヴァルネリアが仲介地を。

 

サン=リュシアン港。

 

中立港。

 

だがアルビオンは補給権を以前求めた。

 

疑い。

 

アドリアン二世は条件。

 

軍艦は外港。

 

武器封印。

 

代表のみ。

 

三身監査。

 

アルベリクが軍事監視。

 

次の舞台。

 

---

 

## 十八

 

王弟エドマンドは白断崖港へ戻ると、歓声と石を受けた。

 

王国を守った英雄。

 

戦争を始めた裏切り者。

 

同じ通り。

 

肩に包帯。

 

海軍卿ローワンは生きている。

 

矢は肺を避けた。

 

だが片脚が動かない。

 

「殿下!」

 

「ルシタニアを滅ぼせ!」

 

「死者を返せ!」

 

「灰冠の犬!」

 

兵が群衆を。

 

エドマンドは馬車へ乗らない。

 

歩く。

 

「殿下、危険」

 

「見せろ」

 

何を。

 

自分を。

 

傷。

 

石。

 

一つが額。

 

血。

 

止めない。

 

王宮。

 

兄。

 

国王エドガー。

 

二人だけ。

 

「戻った」

 

「はい」

 

「ローワンは」

 

「生きています」

 

「死者は」

 

「多い」

 

「お前の免許で」

 

「はい」

 

「灰冠の偽旗で」

 

「はい」

 

「どちらが原因だ」

 

「両方」

 

兄は弟を殴った。

 

一度。

 

王ではなく兄。

 

エドマンドは受ける。

 

「もう一度」

 

「しない」

 

「足りない」

 

「知っている」

 

「お前を裁判へ」

 

「はい」

 

「王弟免責を」

 

「使わない」

 

「大逆罪も」

 

「王位を奪う意図はなかった」

 

「証明は」

 

「できない」

 

「赤帳には」

 

「可能性として」

 

「お前は望んだ」

 

「はい」

 

兄が苦しむ。

 

「なぜ言う」

 

「隠せば、また」

 

「私はお前を死刑にしたくない」

 

「王として?」

 

「兄として」

 

「王としては」

 

エドガーは答えない。

 

「共同法廷へ」

 

「ルシタニアも」

 

「同意した」

 

「王弟を外国法廷へ」

 

「主権が」

 

「死者の家族は両国」

 

「王冠が傷つく」

 

「もう」

 

エドマンドは血を拭く。

 

「兄上」

 

「何だ」

 

「私を生かすため、法を曲げるな」

 

「お前が言うな」

 

「そのとおり」

 

兄弟。

 

王。

 

被告。

 

「宮殿拘束」

 

「はい」

 

「王位継承順位停止」

 

エドマンドの顔が初めて動く。

 

望み。

 

消える。

 

「はい」

 

声は遅い。

 

「悔しいか」

 

「はい」

 

「それでも」

 

「署名します」

 

王弟は、自分の継承停止文へ。

 

---

 

## 十九

 

トーマスとウィルは、白断崖の野営地へ戻った。

 

二十日勤務のはず。

 

七日停戦後も解除なし。

 

「収穫が」

 

兵士。

 

「羊が」

 

「帰せ!」

 

軍吏。

 

「状況継続」

 

「最初の布告は二十日」

 

「延長権限」

 

「誰の」

 

「国王」

 

命令書。

 

本物。

 

「給金は」

 

「十日後」

 

父と同じ。

 

未払い。

 

「また」

 

トーマス。

 

「帳簿に」

 

「金がない」

 

「戦争債券が凍結」

 

セレスタ監査。

 

良いこと。

 

兵の給金が止まる。

 

灰冠口座と軍給金が混じる。

 

「家へ送る分を」

 

「待て」

 

兵士の怒り。

 

「ルシタニアから取れ」

 

略奪の論理。

 

トーマスは命令書代表として、軍吏へ記録を要求。

 

「未払い名簿」

 

「後で」

 

「今」

 

「弓兵が」

 

「父の紙が家にある」

 

軍吏。

 

「何の」

 

「未払い」

 

「昔の戦争」

 

「同じにしない」

 

「金が」

 

「名前を残せ」

 

名簿。

 

村。

 

家族。

 

額。

 

軍吏は嫌がる。

 

時間。

 

それでも弓兵が集まる。

 

「書け!」

 

武器。

 

暴動寸前。

 

トーマスが止める。

 

「弓を下ろせ」

 

「金を」

 

「名簿を先に」

 

軍吏は書記を。

 

記録。

 

父のときは紙一枚。

 

今は複製。

 

村へ。

 

王都へ。

 

開帳会アルビオン支部へ。

 

「開帳会が」

 

軍吏。

 

「灰冠と」

 

「違うと証明させる」

 

トーマス。

 

自分も完全には信じない。

 

利用する。

 

---

 

捕虜となったルシタニア兵は、交換前に《白樺姫》甲板でトーマスへ話しかけた。

 

書記通訳。

 

名はジョアン。

 

二十三歳。

 

漁師。

 

「弟を殺したか」

 

ジョアン。

 

「分からない」

 

「青い矢」

 

「隊の色」

 

「なら」

 

「百二十人」

 

「誰か」

 

「はい」

 

「お前かも」

 

「はい」

 

沈黙。

 

「俺も、アルビオン兵を射た」

 

ジョアン。

 

「弟かも」

 

ウィルを見る。

 

「生きてる」

 

「今は」

 

敵。

 

同じ。

 

「許さない」

 

ジョアン。

 

「はい」

 

「でも助けた」

 

「海で」

 

「次に会ったら」

 

「戦場なら」

 

「射る」

 

「はい」

 

「停戦なら」

 

「水を」

 

「魚を売る」

 

トーマスが少し笑う。

 

「高く?」

 

「アルビオン人には」

 

敵意。

 

商売。

 

人間。

 

捕虜交換。

 

ジョアンは南へ。

 

名前は名簿へ。

 

生きた者。

 

---

 

## 二十

 

七日停戦の最終日。

 

サン=リュシアン港で、アルビオンとルシタニアの代表会談が予定された。

 

ヴァルネリア王国。

 

中立仲介。

 

アドリアン二世。

 

エレノア。

 

三身監査。

 

アルベリク・フォン・ライナーが港湾軍事監視官に指名された。

 

「なぜ私が」

 

アルベリク。

 

国王。

 

「赤帳が、我が港を補給拠点と」

 

「だから王党軍の私を?」

 

「お前は命令を疑う」

 

「褒めていますか」

 

「今回は」

 

エレノアも。

 

「両国船は外港。代表船一隻ずつ」

 

「私兵は」

 

「各二十」

 

「二十でも」

 

「十」

 

「港湾組合警備」

 

「武器は」

 

「短剣」

 

「また会談を狙う」

 

アルベリク。

 

「灰冠は」

 

「自由会議」

 

「名を変えた」

 

「はい」

 

「どちらかの代表が死ねば」

 

「戦争再開」

 

「なら本人を呼ばず」

 

「権限がない使者では決められない」

 

アドリアン。

 

「エドマンド王弟は拘束」

 

「アルビオン代表は海軍卿」

 

「負傷」

 

「副提督」

 

「ルシタニアはイネス女王」

 

「王族」

 

危険。

 

「会場を三つ」

 

アルベリク。

 

「何を」

 

「代表を一堂へ集めない。音声は使者で」

 

「遅い」

 

国王。

 

「殺されるより」

 

エレノア。

 

「三室。文書を複製。同じ時刻に署名」

 

「直接話せない」

 

「最後だけ」

 

「誰かが文を変える」

 

「三書記照合」

 

制度。

 

太る。

 

「港の住民を避難」

 

「経済が」

 

「一日」

 

「費用」

 

「両国負担」

 

「払わなければ」

 

「王室」

 

アドリアン。

 

「また」

 

財務官。

 

「王冠を売りますか」

 

エレノアが皮肉。

 

「宝石を一つ」

 

「次の会談ごとに?」

 

「戦争より安い」

 

---

 

## 二十一

 

灰冠自由会議は、七日停戦を失敗と評価しなかった。

 

赤帳写し。

 

アルビオン西岸。

 

《戦争開始、達成》

 

《正式宣戦、未達》

 

《王弟摂政化、失敗》

 

《海軍損害、十分》

 

《造船・保険市場、拡大》

 

《共同法廷、発生》

 

《サン=リュシアン会談、予定》

 

《次期介入機会》

 

舟守。

 

黒鹿船長。

 

鴉筆。

 

無貌。

 

会議。

 

マルケルはいない。

 

サフィーヤも。

 

新しい黒雪。

 

「会談を襲う」

 

無貌。

 

「凍河、白座で失敗」

 

鴉筆。

 

「同じ方法は警戒」

 

「なら内部」

 

「ヴァルネリア三身監査」

 

「買収しにくい」

 

「買収ではない」

 

「何を」

 

「真実を流す」

 

赤帳。

 

ヴァルネリア王室が、アルビオンへ秘密補給権を過去に約束した契約。

 

本物。

 

ただし失効。

 

「期限を消す」

 

「偽造」

 

「一部だけ」

 

「公開制度は照合する」

 

「照合する前に、ルシタニアが見る」

 

「会談を欠席」

 

「アルビオンは裏切りと」

 

戦争再開。

 

「それだけ?」

 

「港湾労働者へ、避難補償の不足を」

 

「暴動」

 

「王室が外国会談へ金を使うと」

 

真実。

 

宝石。

 

税。

 

「嘘を作らない?」

 

「真実を並べる順番を変える」

 

灰冠は学ぶ。

 

偽書簡が警戒されるなら、本物の不満。

 

「会談代表を殺さなくてよい」

 

新しい黒雪。

 

「同じ卓へ着かせなければ」

 

---

 

## 二十二

 

夏至祭の日。

 

アルビオンでは鐘が鳴らなかった。

 

王命。

 

祝祭延期。

 

教会は死者の名を読む。

 

アルビオン人。

 

ルシタニア人。

 

別々の聖堂。

 

同じ順序。

 

最初に民間人。

 

次に兵士。

 

行方不明。

 

身元不明。

 

グリーン沼村では、メアリーと母がトーマスとウィルの名が読まれないことを祈った。

 

読まれなかった。

 

生きている。

 

給金は届かない。

 

畑。

 

羊。

 

二人分の労働。

 

村の女と老人。

 

夏至の的は、片づけられず広場に残っている。

 

赤い布。

 

雨。

 

色が薄くなる。

 

一人の少年が矢を放つ。

 

外れる。

 

誰も笑わない。

 

ルシタニアでは、イネス女王の息子ディニスが港で追悼文を読む。

 

暗殺されなかった王。

 

その事実を勝利と呼ばない。

 

「偽旗によって殺された者と、偽旗を見た後に我々自身の命令で殺した者を、分けて記す」

 

強い言葉。

 

アフォンソ王は不満。

 

自国軍の責任。

 

それでも署名。

 

共同名簿。

 

アルビオン側でもエドガー王。

 

「灰冠が始めた火へ、我々が油を注いだ」

 

王弟派から反発。

 

王権を傷つける。

 

「王は国を侮辱した!」

 

説教師。

 

「王が弱い!」

 

エドガーは読ませる。

 

自分の弟の名。

 

《エドマンド公――不正私掠免許発行責任、調査中》

 

まだ有罪確定ではない。

 

王家。

 

公に。

 

群衆。

 

歓声なし。

 

---

 

トーマスは白断崖野営地で、共同名簿の写しを読んだ。

 

自分が殺したかもしれない者。

 

名。

 

ルシタニア兵。

 

年齢。

 

村。

 

《ジョアン・フェレイラの弟、ミゲル、十九歳》

 

青矢。

 

可能性。

 

「兄貴」

 

ウィル。

 

「何を」

 

「書いてある?」

 

「死者」

 

「読まなくていい」

 

「読む」

 

「誰を射たか分からない」

 

「だから」

 

名を残す。

 

「俺も射た」

 

ウィル。

 

「はい」

 

「眠れない」

 

弟は初めて言う。

 

戦場では歓声。

 

今。

 

「俺も」

 

兄弟。

 

「父さんも」

 

「多分」

 

「帰ってきたら聞けた」

 

戻らない。

 

「俺たちは帰る?」

 

「帰る」

 

「本当に」

 

トーマスは海を見る。

 

停戦。

 

七日。

 

会談。

 

「帰る」

 

母の命令。

 

王命より。

 

「その前に」

 

「何」

 

「給金を取る」

 

ウィルが笑う。

 

少し。

 

---

 

夏至祭は、戦争の始まりとして赤帳へ記されていた。

 

実際には、正式な戦争は始まらなかった。

 

代わりに、千人以上が死んだ。

 

七日停戦。

 

共同名簿。

 

王弟拘束。

 

私掠船狩り。

 

サン=リュシアン会談。

 

戦争と平和の間。

 

歴史家が最も名をつけにくい時間。

 

アルビオン側の年代記は《サン・テルモ防衛戦》と呼ぶ。

 

ルシタニア側は《白獅子侵攻》。

 

開帳会記録は《夏至前海上武力衝突》。

 

水夫たちは《あの馬鹿な三刻》と呼んだ。

 

どの名も一部は正しい。

 

---

 

灰暦八百七十三年、夏至の夜。

 

海に流された矢が、サン・テルモ岬の砂浜へ打ち上げられた。

 

アルビオンの長い矢。

 

青い羽。

 

ルシタニアの少年が拾う。

 

敵の矢。

 

持ち帰り、羽を外し、魚突きへ作り替える。

 

同じ頃。

 

白断崖の漁師が、ルシタニア短弓の矢を拾う。

 

矢尻を抜き、網の錘にする。

 

武器は、持つ者が変われば道具になる。

 

帳簿も同じかもしれない。

 

戦争を売るための赤帳。

 

戦争を止めるための警告。

 

どちらになるかは、頁では決まらない。

 

読む者。

 

信じる者。

 

間に合うか。

 

そして、読んだ後に何を選ぶか。

 

---

 

西の海では七日の停戦が終わろうとしていた。

 

東では、マリアムを乗せた《細月》がオルシャへ近づく。

 

北では、ノルハイム難民が最初の麦を刈る。

 

聖座では、教皇ルキウスが六つの木椅子の代表と予算を争う。

 

セレスタでは、マルケルが暗号索引の最後の頁を書き終える。

 

ナフルでは、雨雲が川上へ現れる。

 

アウレリアでは、三帝のうち一人へ毒杯が運ばれる。

 

そしてサン=リュシアン港では、アルベリク・フォン・ライナーが、会談場の床下から三本の油壺を発見した。

 

油壺には、アルビオン王家の印。

 

その隣に、ルシタニア王冠連盟の印。

 

二つとも本物だった。

 

どちらかが持ち込んだのではない。

 

ヴァルネリア王室倉庫から出た油壺へ、二つの印が後から押されていた。

 

会談まで、あと二日。

 

アルベリクは油壺を見下ろし、部下ハンスへ言った。

 

「誰にも、見つけたと言うな」

 

「秘密に?」

 

「違う」

 

「では」

 

「同じ時刻に、全員へ見せる」

 

一方へ先に知らせれば、もう一方が疑う。

 

「会談を中止しますか」

 

「それが敵の目的かもしれない」

 

「続ければ」

 

「別の罠がある」

 

ハンスは疲れた顔をした。

 

「どちらです」

 

アルベリクは答えなかった。

 

戦争を止める会談は、戦争そのものより多くの疑いを必要とする。

 

夏至の矢は海へ落ちた。

 

次に狙われるのは、人ではない。

 

相手と同じ部屋へ入ろうとする意志だった。

 

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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