灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第二十二章 三人の王子

王が死ねば、王冠は軽くなる。

 

生きている王の冠には、命令がある。

 

兵が従う。

 

役人が印を押す。

 

商人が貨幣を受け取る。

 

死んだ王の冠には、金と宝石しか残らない。

 

誰がそれを拾うか。

 

誰が最初に被るか。

 

誰が、拾った者を王と認めるか。

 

その三つが決まるまで、王冠は国を守らない。

 

ただ、人を殺す理由になる。

 

バイバルス王には三人の息子がいた。

 

三人とも健康だった。

 

三人とも成人していた。

 

三人とも、自分は王になれると考えるだけの理由を持っていた。

 

長子ジャマールは、軍を知っていた。

 

次子ユースフは、金を知っていた。

 

末子サイードは、人の声を知っていた。

 

王が一人しかいない国では、そのどれか一つを持つ者が、残り二つを奪おうとする。

 

灰冠自由会議は、その順番を売っていた。

 

---

 

## 一

 

長子ジャマールに届いた書簡は、軍馬の鞍袋へ入れられていた。

 

王宮の使者ではない。

 

東軍の負傷兵が、洪水救助から戻る途中、道端で見つけたという。

 

紙は乾いていた。

 

雨の中で。

 

それだけで、偶然ではない。

 

封蝋は赤。

 

小さな冠。

 

署名なし。

 

《王国は、水利官と商人に王権を奪われつつある》

 

《軍は、洪水の間にも国を守った》

 

《老王の死後、軍の統一を保てる者は長子殿下のみ》

 

《必要であれば、軍給金六か月分を即時融資する》

 

条件。

 

王位継承後、洪水復興債務の優先返済。

 

ナフル下流港の関税権。

 

軍馬市場の独占契約。

 

王室宝石の買戻し権。

 

「燃やせ」

 

ジャマールは言った。

 

東軍司令部。

 

五十歳。

 

父に似た大きな肩。

 

髭は短い。

 

左膝に古傷。

 

「殿下」

 

副官ハーディ。

 

「内容を」

 

「読んだ」

 

「証拠として」

 

「写せ」

 

「誰へ報告を」

 

ジャマールは答えなかった。

 

父へ。

 

三帝報告。

 

紫の毒杯。

 

白紙印。

 

秘密資金。

 

すべて知っている。

 

報告すべき。

 

だが報告すれば、父は自分を疑う。

 

軍は、長子が王位を望まないと見れば離れる。

 

弟たちは、長子だけが外国融資を受けたと公表する。

 

「条件を詳しく聞く」

 

「殿下」

 

「受けるとは言っていない」

 

「返書を?」

 

「軍給金の出所を確認する」

 

「報告せずに」

 

「国を守るためだ」

 

ハーディは黙る。

 

灰冠の書簡へ返事を書く者は、皆、同じ言葉を使う。

 

《受けるとは言っていない》

 

ジャマールは短い返書を命じた。

 

《融資元、利率、担保範囲、兵站経路を示せ》

 

拒絶ではない。

 

承諾でもない。

 

軍人の偵察。

 

同時に、交渉の入口。

 

「使者は」

 

「兵ではなく、商人を」

 

「なぜ」

 

「捕まっても軍と切り離せる」

 

言った後、自分で気づく。

 

責任を分けようとしている。

 

「待て」

 

副官。

 

「返書は保留」

 

「燃やしますか」

 

ジャマールは紙を見る。

 

父が死ぬ日。

 

弟。

 

軍。

 

洪水で給金は遅れている。

 

「写しを二部」

 

「一部は」

 

「私の金庫」

 

「もう一部」

 

「お前が持て」

 

「陛下へは」

 

「まだだ」

 

まだ。

 

その一語が、灰冠へ時間を与える。

 

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## 二

 

次子ユースフに届いた書簡は、王立会計院の正式帳簿へ挟まれていた。

 

誰かが門を越えたわけではない。

 

帳簿そのものが、セレスタの銀行から返送されたものだった。

 

洪水復興資金。

 

王冠担保。

 

舟代。

 

小麦輸入。

 

頁の間に、薄い紙。

 

《軍人が王になれば、国庫は戦費へ消える》

 

《宗教家が王になれば、商人は逃げる》

 

《財務を知る王だけが、洪水後の国家を救える》

 

《次子殿下へ、債務再編権を提供する》

 

条件。

 

既存洪水債券の利率半減。

 

代わりに、新王即位後の小麦輸入免許。

 

水利税の一部。

 

王都両替所の設置権。

 

「実に丁寧だ」

 

ユースフは呟いた。

 

四十五歳。

 

細身。

 

髪に白いもの。

 

剣より算盤を持つ姿が似合うと、軍人から侮られる。

 

商人からは、王族でなければ優秀な銀行家になったと言われる。

 

本人は褒め言葉と受け取っていない。

 

「灰冠ですか」

 

会計院副官サルマ。

 

三十八歳。

 

刻印民出身。

 

王立会計院で初めて上級官となった女。

 

「同じ赤蝋」

 

「開帳会へ送りますか」

 

「その前に、数字を」

 

「返事を?」

 

「違う」

 

ユースフは契約条件を分解する。

 

利率半減による年間軽減。

 

輸入免許による将来損失。

 

水利税。

 

両替所利益。

 

「十年で、彼らの利益が我々の軽減分を上回ります」

 

サルマ。

 

「七年です」

 

「洪水が再来すれば」

 

「五年」

 

「悪い契約」

 

「短期には良い」

 

「だから危険」

 

ユースフは書簡の余白に数字を書く。

 

王になれば。

 

財務を整理できる。

 

兄は軍へ金を使う。

 

弟は施しへ。

 

自分なら国家を救える。

 

その思いと、王位を望む心はどこで分かれるか。

 

「融資元の実口座を調べる」

 

「開帳会経由で?」

 

「知られれば資金が逃げる」

 

「秘密調査」

 

「一時的に」

 

また。

 

「殿下」

 

サルマ。

 

「報告しないのですか」

 

「父上は、六十日で制度案を」

 

「はい」

 

「その前に債務を知る必要が」

 

「王が知らず、王子だけが?」

 

「最終的には報告する」

 

「いつ」

 

ユースフは紙を折る。

 

「口座を特定したら」

 

「特定できなければ」

 

「その時点で」

 

「期限を」

 

「十日」

 

灰冠の期限に、こちらの期限。

 

「十日後、結果にかかわらず陛下と開帳会へ」

 

「記録します」

 

ユースフが顔を上げる。

 

「私の命令を?」

 

「はい」

 

「私を疑う?」

 

「財務官ですから」

 

ユースフは少し笑った。

 

「正しい」

 

彼は、兄より早く自分の秘密へ監視者をつけた。

 

それでも秘密であることは変わらない。

 

---

 

## 三

 

末子サイードの書簡は、避難民の子供が持ってきた。

 

王宮外庭。

 

洪水天幕。

 

子供は七歳。

 

裸足。

 

「白い服の人が」

 

「どこで」

 

「薔薇の便所の近く」

 

王家の薔薇園。

 

今は避難民用の穴。

 

サイードは膝をつき、子供と同じ高さ。

 

「顔は」

 

「笑ってた」

 

「男?」

 

「女」

 

「年は」

 

「お母さんより若い」

 

「何と言った」

 

「王子様へ。パンをくれるって」

 

封。

 

赤蝋。

 

《長子は軍を、次子は金を選ぶ》

 

《末子殿下だけが民を選べる》

 

《避難民五万人へ、無償小麦を提供する》

 

条件。

 

王位継承後、宗教慈善基金の保護。

 

王国南部の巡礼路運営権。

 

洪水復興地への自治共同体設置。

 

文章は善意に見える。

 

軍事融資でもない。

 

利子もない。

 

「無償?」

 

サイード。

 

三十七歳。

 

三兄弟の中で最も若い。

 

聖典を学び、地方を歩き、民衆語で説教する。

 

母が違う。

 

南方の小領主家の娘。

 

王宮では、半ば聖職者、半ば政治家。

 

「無償の小麦はありません」

 

側近マルヤム。

 

施療院出身。

 

「寄進なら」

 

「誰かが払っています」

 

「今、子供が飢えています」

 

「だから受ける?」

 

「条件を公開して」

 

「相手が公開を拒めば」

 

「小麦だけ」

 

「契約は」

 

「署名しない」

 

「船を入れるだけで、相手は恩人に」

 

サイードは天幕を見る。

 

洪水避難者。

 

配給。

 

列。

 

一人一斤。

 

足りない。

 

「父上へ持っていく」

 

即答。

 

マルヤムが少し驚く。

 

「兄上たちにも」

 

「なぜ」

 

「私だけへ来たと思わせたくない」

 

「本当に、殿下だけかも」

 

「なら、兄たちは疑う」

 

「民への小麦は」

 

「条件を全部公開し、贈与主の名を」

 

「名を出さなければ」

 

「受けない」

 

「子供が」

 

サイードの顔。

 

最も苦しい場所。

 

「王室備蓄を」

 

「少ない」

 

「私の荘園を売る」

 

「洪水で価値が」

 

「安くても」

 

「一日分にも」

 

「それでも」

 

マルヤム。

 

「英雄になります」

 

「何をしても?」

 

「今は」

 

「では、英雄にならない方法で小麦を」

 

「無理です」

 

サイードは笑わない。

 

「父上へ」

 

彼は三人の中で最も早く書簡を公開しようとした。

 

同時に、その公開が自分を《民を選んだ王子》として強くすることも知っていた。

 

善意は、野心を消さない。

 

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## 四

 

三通の書簡が、同じ日に王宮へ集まったわけではない。

 

最初はサイード。

 

公開。

 

次にユースフ。

 

十日目。

 

約束どおり。

 

最後にジャマール。

 

父から召喚状が届いた後。

 

長子は、自分からではなかった。

 

バイバルスは三通を、宝石の二つ欠けた王冠の前へ並べた。

 

赤蝋。

 

形は同じ。

 

紙質は違う。

 

筆跡も。

 

内容は三人に合わせてある。

 

「返事をした者」

 

王。

 

公開法廷ではない。

 

家族会議。

 

三王子。

 

ナディア。

 

宰相。

 

軍総監。

 

財務官。

 

宗教法官。

 

記録官。

 

ジャマール。

 

「条件照会の返書を作らせました。送ってはいません」

 

「本当に」

 

「副官が写しを」

 

ハーディが証人。

 

「保留命令後、使者を止めました」

 

「なぜ最初に報告しない」

 

「軍を探るため」

 

「誰から軍を守る」

 

「弟たちからも」

 

室内。

 

ユースフが顔を上げる。

 

「私を?」

 

「王位争いになれば」

 

「まだ父上が」

 

「死ぬ前に準備するのが軍だ」

 

バイバルス。

 

「私は死んだか」

 

「いいえ」

 

「なら、誰の軍を準備した」

 

「王国の」

 

「お前の印で?」

 

ジャマールは黙る。

 

「ユースフ」

 

「口座調査を命じました。十日後に報告すると記録し、実行しました」

 

「相手へ返事は」

 

「していません」

 

「なぜ秘密に」

 

「資金経路を逃がさないため」

 

「私にも」

 

「最後には」

 

「最後とは今日か」

 

「はい」

 

「サイード」

 

「すぐ持参しました」

 

兄二人の視線。

 

サイードは優位に見える。

 

王が見る。

 

「書簡を避難民広場で読み上げたそうだな」

 

「はい」

 

「私へ見せる前に」

 

「民へ届いた小麦提案です」

 

「王の許可なく、外国資金の条件を」

 

「秘密にすれば、私が取引したと」

 

「公開すれば、自分が民を救う王子と」

 

サイードは黙る。

 

「そう思われると知っていたか」

 

「はい」

 

「利用したか」

 

「止めませんでした」

 

三人。

 

それぞれ違う。

 

全員、王位から自由ではない。

 

「父上」

 

ジャマール。

 

「王位を望まない王子は嘘つきです」

 

「お前は望む」

 

「はい」

 

「ユースフ」

 

「望みます」

 

「サイード」

 

「はい」

 

王は頷く。

 

「よい」

 

宰相が驚く。

 

「陛下」

 

「望まないと言う者よりよい」

 

「では、後継を」

 

「決めない」

 

三人の顔。

 

「六十日で規則を」

 

「その間に」

 

ジャマール。

 

「国が」

 

「だから公開法廷へ立て」

 

「王子を?」

 

「私の息子だから先に」

 

---

 

## 五

 

《王位継承事前審査会》

 

王が生きている間に、王子たちを王位候補として審査する。

 

ナフル史上、前例なし。

 

王子は生まれで資格を持つ。

 

能力と契約を民前で問われることはない。

 

「王権を市場へ売る」

 

貴族。

 

「息子を侮辱」

 

軍。

 

「民衆に王を選ばせる?」

 

宗教法官。

 

「選ばせない」

 

バイバルス。

 

「見る権利を」

 

「見るだけなら」

 

「記録する」

 

「それが票になる」

 

「なら、今までの秘密よりよい」

 

審査会参加。

 

軍。

 

財務。

 

水利。

 

首都。

 

地方農村。

 

商人。

 

宗教法官。

 

刻印民共同体。

 

洪水避難民。

 

九席。

 

多い。

 

「王子一人を九人が」

 

「毒を九杯に」

 

ナディア。

 

バイバルスが笑う。

 

「誰の言葉だ」

 

「紫宮から」

 

「よい」

 

審査項目。

 

外国融資。

 

私兵。

 

財産。

 

宗教関係。

 

地方統治。

 

災害対応。

 

王位観。

 

「王位観?」

 

ジャマール。

 

「王とは何かを」

 

「言葉で」

 

「行動も」

 

「過去の」

 

「はい」

 

軍人に不利。

 

商人に。

 

宗教家に。

 

全員。

 

「審査で一位が王太子?」

 

ユースフ。

 

「違う」

 

「では何のため」

 

「誰が何を隠すか知るため」

 

「隠さなければ」

 

「民も知る」

 

「王位は」

 

「最後に私が決める」

 

結局。

 

王。

 

「なら公開は演出」

 

サイード。

 

「私が間違うための材料を増やす」

 

バイバルス。

 

「陛下が死ねば」

 

ナディア。

 

「決定前なら」

 

室内。

 

核心。

 

「空冠規則を」

 

「何です」

 

「私が死んだ日から十日間、誰も王冠を被らない」

 

軍が反発。

 

「空位は内乱!」

 

「だから六印摂政」

 

軍。

 

財務。

 

水利。

 

首都。

 

地方。

 

法。

 

六者。

 

「王子は入らない?」

 

「候補だから」

 

「軍を誰が」

 

「軍印代表」

 

「ジャマール殿下では」

 

「違う」

 

長子の顔。

 

「国庫はユースフでは」

 

「違う」

 

「民衆救済はサイード」

 

「違う」

 

三人から権限を外す。

 

王位候補が、王位獲得のため国家機構を使えないように。

 

「十日後」

 

「審査記録と私の封書を開く」

 

「陛下の指名」

 

「はい」

 

「指名者が死んでいれば」

 

「第二候補」

 

「両方」

 

「六印が新候補を」

 

選挙に近い。

 

「王家が」

 

貴族。

 

「続かない可能性」

 

「無能なら」

 

バイバルス。

 

王子たち。

 

「父上は、我々を信じない」

 

ジャマール。

 

「はい」

 

即答。

 

「息子なのに」

 

「息子だから」

 

---

 

## 六

 

審査会初日。

 

王宮外庭。

 

洪水避難者がいた場所。

 

薔薇園の土はまだ色が違う。

 

高座。

 

王。

 

ただし王子たちは同じ高さの三つの椅子。

 

九席は半円。

 

民衆。

 

兵。

 

商人。

 

書記。

 

最初の質問者は、軍代表。

 

「王になった場合、最初の命令は」

 

ジャマール。

 

「全軍の再誓約」

 

「誰へ」

 

「王冠へ」

 

「自分では」

 

「王冠を被る者へ」

 

「弟支持の部隊は」

 

「解散させない。指揮官を交代」

 

「抵抗すれば」

 

「武装解除」

 

「流血は」

 

「必要なら」

 

正直。

 

ユースフ。

 

「国庫と軍給金の公開」

 

「軍より金?」

 

「給金がなければ軍は略奪」

 

兵が不満。

 

「最初に兵を疑う?」

 

「飢えた人間を」

 

サイード。

 

「洪水避難民の帰還と食糧」

 

「国境は」

 

「軍が守る」

 

「兄へ任せる?」

 

「王命の下で」

 

それぞれ。

 

二問目。

 

財務代表サルマ。

 

「外国融資を受けるか」

 

ジャマール。

 

「必要なら」

 

「どの条件まで」

 

「港湾権は渡さない。軍給金に限定」

 

「返済は」

 

「戦後税」

 

「戦争がなければ」

 

「軍備税」

 

「民が反対すれば」

 

「国防は人気投票ではない」

 

ユースフ。

 

「公開競争入札」

 

「戦時でも」

 

「緊急枠を」

 

「秘密?」

 

「金額と担保は即時、貸主名は七日以内」

 

「なぜ七日」

 

「市場攻撃を避ける」

 

サイード。

 

「外国融資は原則拒否」

 

「飢饉でも」

 

「寄進を」

 

「無償小麦の書簡を受けるつもりだった?」

 

「条件公開なら」

 

「寄進者が自治共同体を」

 

「認めない」

 

「なら小麦は来ない」

 

サイードは黙る。

 

「子供が飢える」

 

サルマ。

 

「それでも?」

 

「王室と宗教財産を先に売る」

 

「足りなければ」

 

長い。

 

「融資を受ける」

 

同じ場所へ。

 

---

 

## 七

 

水利代表ナディアの質問。

 

「洪水時、穀倉と貧民区のどちらを守る」

 

三人とも、答えを知っていると思っていた。

 

カリム。

 

東岸。

 

王家狩猟地。

 

実例。

 

「両方を分ける」

 

ジャマール。

 

「時間がない場合」

 

「軍で避難」

 

「舟が足りない」

 

「徴発」

 

「それでも」

 

「人口の多い方」

 

「穀倉を失えば冬に多く死ぬ」

 

「備蓄で」

 

「ない」

 

ジャマールの顔。

 

「その場の水位で決める」

 

「誰が」

 

「水利官」

 

「王は」

 

「承認する」

 

「間に合わない」

 

「事前基準」

 

ナディアは頷く。

 

軍人が、王の即断より基準を選んだ。

 

変化。

 

ユースフ。

 

「予測死者と経済損失を数値化」

 

民衆がざわめく。

 

「人を金へ?」

 

「違います」

 

「同じ表へ」

 

「比較しなければ」

 

「墓と市場を」

 

「両方」

 

ユースフは、自分の言葉が冷たく聞こえると知る。

 

「ただし、生命を最低価値として金額換算しない」

 

「では比較不能」

 

「別列」

 

「最後に誰が」

 

「共同水利会議」

 

「時間が」

 

「判断線前に」

 

ナディアが少し頷く。

 

サイード。

 

「貧民区を守る」

 

「穀倉は」

 

「王室と富裕層が負担」

 

「小麦は身分で育つ?」

 

「違う」

 

「穀倉を沈めれば、貧民から先に飢える」

 

サイードが止まる。

 

民を選ぶという言葉。

 

その先。

 

「では」

 

「人を避難。穀倉も可能な限り」

 

「両立しない場合」

 

「貧民区」

 

「冬の飢饉」

 

「後で輸入」

 

「誰の金」

 

「王室」

 

「足りない」

 

「融資」

 

サルマが記録する。

 

外国融資拒否から戻る。

 

「答えを変えます」

 

サイード。

 

民衆がざわめく。

 

「今?」

 

「はい」

 

「何に」

 

「一人で決めない」

 

「逃げ?」

 

「そう見えても」

 

「時間が」

 

「判断線前に基準を作る」

 

兄二人と同じ。

 

制度。

 

三人の違いが、少しずつ形を変える。

 

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## 八

 

地方農村代表は、アブドゥル・ラーマンだった。

 

洪水避難民。

 

村長。

 

杖。

 

「王になったら、最初に私の村へ何をする」

 

ジャマール。

 

「堤防復旧」

 

「家は」

 

「軍工兵で」

 

「土地札は」

 

「役所」

 

「王の兵が、私の家を別人へ渡したら」

 

「処罰」

 

「証明は」

 

「三印」

 

洪水で学んだ。

 

ユースフ。

 

「帰還台帳と低利再建融資」

 

「借金?」

 

「無利子枠も」

 

「誰に」

 

「家を失った者」

 

「証明がない者」

 

「証人二人」

 

「二人とも死んだら」

 

「共同体名簿」

 

「それも流れたら」

 

ユースフが黙る。

 

「名前だけでも登録」

 

サイード。

 

「家は戻るか」

 

「戻らないかもしれない」

 

老人が見る。

 

「正直だ」

 

「だから共同地を」

 

「先祖の土地ではない」

 

「はい」

 

「王子は、移れと言う」

 

「沈み続ける場所なら」

 

「王宮も沈むなら移る?」

 

サイード。

 

「はい」

 

「本当に」

 

「王宮を売る」

 

民衆。

 

拍手。

 

政治。

 

アブドゥルは杖を鳴らす。

 

「拍手するな」

 

静まる。

 

「王宮を売っても、王子は別の宮殿へ行く。農民は土地が仕事だ」

 

サイードの顔。

 

「では」

 

「簡単に同じと言うな」

 

「はい」

 

「王になる前に、一月村へ住め」

 

「私が?」

 

「王になる者が」

 

「受けます」

 

ジャマールが口を挟む。

 

「全員?」

 

老人。

 

「全員」

 

三王子。

 

洪水村。

 

一月。

 

審査規則へ追加されかける。

 

王が止めない。

 

「父上」

 

ユースフ。

 

「時間が」

 

「六十日のうち三十日」

 

「国務は」

 

「王子が一月いなくても国が動くかを見る」

 

痛烈。

 

採用。

 

---

 

## 九

 

宗教法官の質問。

 

「王権は神からか、民からか」

 

ジャマール。

 

「法と勝利から」

 

反発。

 

「神は」

 

「王を選んだと、勝った者が言う」

 

正直すぎる。

 

宗教者が怒る。

 

「冒涜」

 

「父上は奴隷兵から王になった」

 

バイバルスは笑わない。

 

ユースフ。

 

「神の許しと、法の承認と、民の納税」

 

「納税?」

 

「国が動く」

 

「金を払えば王を」

 

「違う。払われなくなれば王権は空になる」

 

サイード。

 

「神から預かり、民へ責任を」

 

最も美しい。

 

「では異教徒の民へも」

 

刻印民代表。

 

「はい」

 

「改宗を拒む者へ」

 

「税と法は同じ」

 

「宗教税は」

 

「廃止を検討」

 

宗教法官が立つ。

 

「王子!」

 

サイードの支持者から歓声。

 

政治。

 

「検討とは」

 

刻印民代表。

 

「即時ではない?」

 

「財源が」

 

また。

 

美しい言葉。

 

帳簿。

 

「王になると、言葉が遅くなる」

 

刻印民代表。

 

「はい」

 

サイード。

 

「今、学びました」

 

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## 十

 

三日目。

 

外国融資の書簡が、すべて公開された。

 

三通。

 

広場で朗読。

 

群衆は、自分が支持する王子の書簡だけを善意と解釈した。

 

軍人。

 

「長子へ給金。国防支援だ」

 

商人。

 

「次子へ債務整理。合理的」

 

避難民。

 

「末子へ小麦。命を救う」

 

灰冠は、三人それぞれの支持者へ別の正義を売っている。

 

開帳会ナフル支部が、赤蝋契約を照合。

 

条文の裏。

 

細字。

 

三通すべてに同じ一文。

 

《他の王位候補が本契約に反する外国支援を受けた場合、債権者は受益者の防衛を目的として追加支援を行う》

 

一人が受ければ、他の二人が契約違反。

 

全員が受ければ、灰冠は全員へ軍事支援。

 

「最初から内戦」

 

ナディア。

 

さらに。

 

担保は重複。

 

長子へ約束した下流港関税権。

 

次子へ両替所。

 

末子へ巡礼路自治。

 

地理的に同じ地域。

 

三人へ別名で売る。

 

「誰が王になっても、同じ土地を」

 

ユースフ。

 

「債務不履行に」

 

サルマ。

 

「差し押さえ」

 

ジャマール。

 

軍人も理解する。

 

「返書を送っていれば」

 

「融資前でも交渉者として記録」

 

開帳会。

 

「後で圧力」

 

ジャマールは副官を見る。

 

ハーディ。

 

写し。

 

保留。

 

間一髪。

 

「私の秘密が、軍を」

 

「まだ」

 

ナディア。

 

「隠したことは」

 

「認める」

 

公開記録。

 

《長子ジャマール、条件照会返書を作成。送付前に保留》

 

支持者は、慎重な偵察と。

 

反対者は、裏取引未遂。

 

事実は同じ。

 

---

 

## 十一

 

審査会四日目の朝、バイバルス王が死んだという報せが王都へ流れた。

 

王宮の鐘。

 

六回。

 

王の死を告げる数。

 

人々が立ち止まる。

 

市場。

 

兵営。

 

寺院。

 

「陛下が!」

 

「王冠は!」

 

「誰が!」

 

王宮内では、バイバルスは生きていた。

 

朝食。

 

黒パン。

 

蜂蜜なし。

 

「鐘を止めろ」

 

宰相。

 

「誰が鳴らした」

 

鐘楼守。

 

死んでいる。

 

首へ縄。

 

自殺に見える。

 

鐘綱に血。

 

「王の死を」

 

「偽報」

 

門が閉じる。

 

だが外。

 

ジャマール派東軍が動く。

 

事前命令。

 

《王崩御時、王都東門を確保》

 

長子の安全計画。

 

ユースフ派会計院が国庫支払いを停止。

 

《空位時の資産流出防止》

 

次子の規則案。

 

サイード支持の施療院と避難民が王宮外庭へ集まる。

 

《末子を民の王へ》

 

誰も、今日のために命令していない。

 

だがそれぞれ準備していた。

 

灰冠は鐘を鳴らすだけでよかった。

 

「東軍が!」

 

王宮。

 

ジャマール。

 

「私の命令では」

 

「崩御時命令が発動」

 

「取り消す」

 

「使者が門を」

 

「王印が必要」

 

「父上は生きている!」

 

「外は信じない」

 

ユースフ。

 

「国庫を開ける」

 

「支払停止命令は自動」

 

「解除鍵は三つ」

 

「誰が」

 

会計院長。

 

商人代表。

 

王子ユースフ。

 

本人は王宮。

 

一人欠ける。

 

サイード。

 

「群衆へ話す」

 

「出れば、擁立される」

 

「だから?」

 

「王子が民前へ」

 

「父上も」

 

三人。

 

それぞれ、自分の準備が国家を止める。

 

「空冠規則はまだ未成立」

 

ナディア。

 

「だから、今作った文を使う」

 

「法的に」

 

「王命で暫定発動」

 

バイバルスが立つ。

 

「陛下は外へ」

 

宰相。

 

「死んだ王が?」

 

「暗殺者が」

 

「生きていると見せる」

 

「窓から」

 

「偽者と」

 

王は冠を持つ。

 

宝石二つ欠け。

 

「これを見れば」

 

「複製できます」

 

「穴まで?」

 

できる。

 

「三王子と同時に」

 

ナディア。

 

「一人ずつ別門へ出れば、派閥が」

 

「同じ場所」

 

王宮正門上。

 

四人。

 

王。

 

三王子。

 

「危険です」

 

「だから」

 

---

 

## 十二

 

王宮正門前には、兵と民が混ざっていた。

 

東軍。

 

都市警備。

 

避難民。

 

商人。

 

宗教学生。

 

槍。

 

旗。

 

王冠のない空の台座が、誰かによって運ばれている。

 

「ジャマール王!」

 

「ユースフを!」

 

「民のサイード!」

 

まだ父が生きている。

 

王子たちは門上へ。

 

最初にジャマール。

 

東軍が歓声。

 

次にユースフ。

 

商人。

 

次にサイード。

 

避難民。

 

最後に、バイバルス。

 

冠。

 

欠けた宝石。

 

群衆が静まる。

 

「私は死んだそうだ」

 

王の声。

 

老いている。

 

だが届く。

 

「残念ながら、生きている」

 

笑い。

 

一部。

 

泣く者。

 

「鐘は嘘だ」

 

「だが、動いた兵も、閉じた金庫も、集まった群衆も本物だ」

 

三王子。

 

「息子たちは、私の死に備えていた」

 

「それは罪ではない」

 

群衆。

 

意外。

 

「備えを互いへ隠したことが、罪になる」

 

ジャマールへ。

 

「東軍を戻せ」

 

王子が前へ。

 

「東軍は東門から一日行程後退。武器を封印。命令者名簿を提出せよ!」

 

軍。

 

戸惑い。

 

王の前。

 

従うか。

 

「長子殿下の命令だ!」

 

将校。

 

動く。

 

ユースフ。

 

「国庫支払い停止を解除!」

 

「鍵が」

 

「私の印を撤回。残る二鍵で小口支払いを先に!」

 

制度変更。

 

会計院。

 

サイード。

 

「王宮前の者は、武器を置け! 私を王と呼ぶな!」

 

群衆。

 

「民の王!」

 

「父上が生きている!」

 

「次は殿下!」

 

「次を今決めるな!」

 

自分の支持者へ。

 

最も難しい。

 

一人が石を門へ。

 

「王は水利女に!」

 

ナディアへの憎悪。

 

サイード。

 

「ナディア副長官を侮辱する者は、私の名を使うな!」

 

一部が離れる。

 

支持を失う。

 

それでも。

 

バイバルスは三人を見る。

 

「今日、私は本当に死ぬ可能性を見た」

 

群衆。

 

「次は嘘ではない」

 

王は冠を外す。

 

正門の石台へ置く。

 

被らない。

 

「だから、今日から空冠規則を暫定発動する」

 

「陛下が生きているのに?」

 

宗教法官。

 

「死の鐘が鳴った時だけ」

 

「今回は偽」

 

「本物のように動いた」

 

「王の言葉が」

 

「王が言えない日が来る」

 

六印。

 

軍。

 

財務。

 

水利。

 

首都。

 

地方。

 

法。

 

各代表が門前へ。

 

「王の死を確認するのも、一人の医師ではなく三者」

 

医師。

 

宗教法官。

 

市民代表。

 

「死亡宣告が一致しなければ」

 

「王は死ねない?」

 

群衆から笑い。

 

「身体は死ぬ」

 

王。

 

「王位は空のまま」

 

十日。

 

「王子は私兵を動かさない」

 

「国庫を閉じない」

 

「民衆集会で即位を求めない」

 

三王子が署名。

 

門上。

 

公開。

 

「違反すれば」

 

「王位候補資格を失う」

 

重い。

 

ジャマールの顔。

 

ユースフ。

 

サイード。

 

全員。

 

署名。

 

---

 

## 十三

 

偽の死鐘事件の首謀者は、すぐには見つからなかった。

 

鐘楼守。

 

死亡。

 

縄。

 

だが手首に拘束痕。

 

自殺ではない。

 

鐘楼入口。

 

王宮衛兵印。

 

本物。

 

交代表。

 

死者名義。

 

三年前に病死した衛兵。

 

「また」

 

記録官。

 

死者の印。

 

王宮内部。

 

鐘を鳴らすだけではない。

 

三王子の自動命令を知っていた。

 

「誰が」

 

王。

 

「息子たちの側近」

 

三人。

 

否定。

 

だが側近が情報を灰冠へ売った可能性。

 

長子の崩御時軍命令。

 

次子の国庫停止規則。

 

末子の民衆救済網。

 

別々の秘密。

 

灰冠は全部知っていた。

 

「三人の中に」

 

軍人が言いかける。

 

「王子本人が共謀?」

 

ナディア。

 

可能性。

 

バイバルスは三人を見る。

 

「自白する者は」

 

誰も。

 

「なら、側近名簿を全部」

 

「軍機」

 

ジャマール。

 

「財務秘密」

 

ユースフ。

 

「避難民の個人情報」

 

サイード。

 

それぞれ、理由。

 

「全部公開ではなく、共同監査へ」

 

ナディア。

 

「誰が」

 

「九席から三人ずつ」

 

「多い」

 

「秘密が漏れる」

 

「すでに漏れた」

 

王。

 

側近名簿。

 

提出。

 

一人。

 

三つの網に関わる人物。

 

ハリール・アル=ワシード。

 

王宮連絡官。

 

軍へ文書。

 

会計院へ伝票。

 

施療院へ配給。

 

役割は調整。

 

三王子本人は、彼を自分の人間だと思っていない。

 

誰の側近でもない。

 

だから全員の情報へ触れた。

 

所在不明。

 

部屋。

 

赤蝋。

 

三王子宛書簡の下書き。

 

「灰冠連絡官」

 

開帳会。

 

実名か。

 

不明。

 

「家族は」

 

妻子なし。

 

記録。

 

孤児。

 

王宮育ち。

 

「なぜ」

 

王。

 

自分の宮殿で育った人間。

 

給金。

 

地位。

 

何が足りなかった。

 

机に一枚。

 

《王冠は一つである限り、三人を敵にする》

 

署名。

 

《黒雪の書記》

 

本人は黒雪ではない。

 

役職。

 

「逃亡先」

 

東港。

 

船。

 

アルカシャ方面。

 

紫衣の女と同じ道。

 

山岳王国。

 

新しい拠点。

 

---

 

## 十四

 

王子たちは、一月の地方滞在へ送られた。

 

同じ村ではない。

 

比較できるよう、条件の近い洪水被災地。

 

ジャマール。

 

退役兵村。

 

軍支持が強い。

 

ユースフ。

 

市場町。

 

債務と再建。

 

サイード。

 

東岸貧民区。

 

民衆支持。

 

「自分に有利な場所」

 

批判。

 

そこで三人は、途中で入れ替わる。

 

十日ごと。

 

全員が三地域へ。

 

王子の到着前に、住民へ質問。

 

《王子へ何を見せたいか》

 

《何を隠したいか》

 

隠す権利も。

 

「王子が来るなら、道を直す」

 

役人。

 

「直すな」

 

ナディア。

 

「危険箇所だけ」

 

「ありのままを」

 

「王子が怪我」

 

「国が見るべき道で」

 

王族の視察で村が一時きれいになる。

 

それ自体が偽装。

 

---

 

ジャマールが最初に退役兵村へ入る。

 

軍人たちは歓迎。

 

「王に!」

 

叫ぶ者。

 

「言うな」

 

彼は止める。

 

カリムは軍権を失い、復旧作業の監督。

 

二人。

 

長子王子。

 

元将軍。

 

「軍は殿下を」

 

カリム。

 

「父上は信じない」

 

「王は、軍を知っている」

 

「将軍を切った」

 

「私が法を破った」

 

「悔しくない?」

 

「悔しい」

 

「なら」

 

「王位は、悔しさで取るな」

 

ジャマール。

 

「将軍なら、私を」

 

「以前なら支持した」

 

「今は」

 

「お前は、軍を自分のものと考えた」

 

「王国の」

 

「自分の印で動かした」

 

「崩御時」

 

「王が生きていた」

 

「偽報」

 

「軍は報せでなく、確認で動け」

 

凍河。

 

三室。

 

「遅い」

 

「それで千人が生きることも」

 

カリム自身が水門。

 

「将軍は変わった」

 

「将軍ではない」

 

痛み。

 

「私は王になれるか」

 

「なれる」

 

「よい王に」

 

「分からん」

 

「何が足りない」

 

「負ける練習」

 

「戦で」

 

「弟に」

 

長子は顔。

 

「王位を譲れと?」

 

「譲れる者だけが、取ってもよい」

 

簡単ではない。

 

---

 

## 十五

 

ユースフは市場町で、百三十七件の債務相談を受けた。

 

家。

 

牛。

 

種。

 

船。

 

葬儀。

 

洪水行方不明給付。

 

数字。

 

「利率を」

 

「返せない」

 

「返済猶予」

 

「冬に」

 

「税から控除」

 

「税を払えない」

 

表。

 

制度。

 

一人の女。

 

夫死亡。

 

家流失。

 

借金銀貨十二。

 

子供四人。

 

「再建融資をまとめて」

 

ユースフ。

 

「また借金?」

 

女。

 

「利率を下げる」

 

「返すのは」

 

「十年」

 

「十年後、私は」

 

「生きて」

 

「分からない」

 

「では一部免除」

 

「なぜ最初から」

 

「財源が」

 

「王子は数字で私を助ける?」

 

「はい」

 

正直。

 

「抱きしめてくれないの」

 

群衆が笑う。

 

ユースフは困る。

 

「それは」

 

「冗談」

 

女。

 

「でも、サイード王子なら手を握る」

 

「それで借金は」

 

「減らない」

 

「なら」

 

「人は両方欲しい」

 

数字。

 

声。

 

ユースフは女の手を握る。

 

ぎこちない。

 

その後、融資表。

 

政治的演出。

 

同時に人間。

 

夜。

 

サルマへ。

 

「私は、民を数字に」

 

「数字へしないと分配できません」

 

「兄は命令。弟は言葉」

 

「殿下は帳簿」

 

「王として弱いか」

 

「帳簿を他人へ読ませるなら」

 

「自分で」

 

「一人で読んで決めると、会計王」

 

ユースフは黙る。

 

「私を監査官へ残す?」

 

サルマ。

 

「王になれば」

 

「王にならなくても」

 

「はい」

 

「それを公開して」

 

「なぜ」

 

「私が殿下の人間と思われる」

 

忠誠を、個人から制度へ。

 

---

 

## 十六

 

サイードは東岸貧民区で歓迎された。

 

花。

 

歌。

 

《民の王子》。

 

彼が最も恐れた言葉。

 

家へ入る。

 

泥。

 

壁。

 

避難札。

 

三印のうち二つ。

 

役所が帰還を拒否。

 

「寺院印と市場印が」

 

「役所印がない」

 

「役所は流された」

 

「再発行を」

 

「元帳が」

 

「家はここです」

 

「証明が」

 

サイードは役人へ。

 

「認めよ」

 

「王子の命令権は」

 

「人が」

 

「一人を認めれば偽造が」

 

「証人が」

 

近隣。

 

「全員、同じ共同体」

 

「それで」

 

「法は」

 

サイードは怒る。

 

「法が人を家から」

 

「法がないと、強い者が」

 

ナディアの書記が見ている。

 

「では特例」

 

「殿下個人の特例は、殿下が去れば」

 

サイードが止まる。

 

美しい即断。

 

持続しない。

 

「帰還法廷を今日」

 

「裁判官が」

 

「連絡」

 

「三日」

 

「家族は」

 

「一時入居許可」

 

「所有権は保留」

 

「それで」

 

「不満」

 

「でも、住める」

 

住民。

 

「紙を」

 

サイード。

 

自分が嫌った紙。

 

必要。

 

「私の印だけでなく、共同体代表と水利庁」

 

「役所は」

 

「仮印」

 

制度。

 

彼は一軒を救うため、規則を作る。

 

時間。

 

その日、予定していた百軒のうち、十七軒しか訪ねられない。

 

「遅い」

 

支持者。

 

「兄なら兵で」

 

「ユースフなら一枚の表で」

 

「殿下は」

 

「話しすぎる」

 

マルヤム。

 

「民の声を」

 

「全部聞けない」

 

「では誰を」

 

「代表を」

 

「代表が嘘を」

 

「また」

 

サイードは笑う。

 

「椅子を増やす」

 

---

 

## 十七

 

三十日後。

 

三王子は王宮へ戻った。

 

服。

 

泥。

 

日焼け。

 

ジャマールは、退役兵から贈られた古い軍外套。

 

ユースフは帳簿十冊。

 

サイードは避難札の束。

 

審査会最終日。

 

王の質問。

 

「王位を得られなかったら、何をする」

 

ジャマール。

 

最初。

 

「軍へ戻る」

 

「新王が弟でも」

 

長い沈黙。

 

「命令へ従う」

 

「本当に」

 

「継承規則が守られれば」

 

条件。

 

「守られなければ」

 

「異議を申し立てる」

 

「兵で」

 

「法廷で」

 

「法廷が弟のものなら」

 

「六印へ」

 

軍を使わないと、完全には言わない。

 

「最後まで」

 

「国が破壊されるなら」

 

「自分が救う?」

 

「はい」

 

危険。

 

正直。

 

ユースフ。

 

「会計院へ」

 

「新王が財務を秘密に」

 

「公開を求める」

 

「拒否」

 

「辞任し、帳簿を開帳会へ」

 

「国家機密を外国へ?」

 

「国内監査へ。なければ」

 

「外国へ?」

 

「必要範囲」

 

国を守るため、主権を越える。

 

危険。

 

サイード。

 

「地方へ戻る」

 

「支持者が王へと」

 

「止める」

 

「新王が貧民を弾圧」

 

「抵抗する」

 

「武力で」

 

「最初は民衆集会」

 

「軍が撃てば」

 

「兄へ止めるよう」

 

三人の役割。

 

争いにも。

 

支えにも。

 

「お前たちは、互いを必要としている」

 

バイバルス。

 

「同時に、互いを最も危険にする」

 

誰も否定しない。

 

---

 

## 十八

 

王は後継規則案を読み上げた。

 

《ナフル王冠継承及び六印摂政令》

 

第一。

 

王の死後十日間、王冠を空位とする。

 

第二。

 

六印摂政が行政を維持。

 

軍。

 

財務。

 

水利。

 

首都。

 

地方。

 

法。

 

第三。

 

王位候補は私兵動員、国庫停止、民衆擁立集会、外国融資を禁止。

 

第四。

 

故王の封書による第一候補を公開。

 

第五。

 

六印のうち四印が、候補の誓約を確認。

 

誓約。

 

私的外国債務の全面公開。

 

王室と国家財産の区別。

 

白紙印禁止。

 

水利判断線。

 

軍給金名簿。

 

宗教・刻印民の法的保護。

 

第六。

 

候補が誓約を拒否、または重大契約違反の場合、第二候補へ。

 

第七。

 

十日以内に決まらなければ、六印が王族から候補を選ぶ。

 

「王族から」

 

刻印民代表。

 

「民間人は」

 

「今回は」

 

王。

 

「今回は?」

 

「将来改定できる」

 

貴族が騒ぐ。

 

「王家を」

 

「王家が国を壊せば」

 

バイバルス。

 

第八。

 

新王即位後四十日、審査記録を公開。

 

第九。

 

王の恩赦でも、王位争いに関わる外国債務と私兵動員の記録は消せない。

 

第十。

 

王冠は、国家債務の担保に単独で供せない。

 

「今回、陛下が」

 

財務官。

 

「だから」

 

王冠の宝石二つ。

 

「王自身の行為を禁止?」

 

「はい」

 

法は後継だけでなく、自分へ。

 

「施行は」

 

「今日」

 

「陛下も」

 

「私が再び王冠を担保にするには六印」

 

自分を縛る。

 

---

 

「第一候補は」

 

広場。

 

静か。

 

王は封書を持つ。

 

まだ死後に開く文書。

 

「今、名を」

 

ジャマール。

 

「死後」

 

「なぜ」

 

「今日言えば、残り二人が今日から敵になる」

 

「すでに」

 

「完全には」

 

「誰か分からないまま」

 

ユースフ。

 

「三人とも準備」

 

「準備はする。だが、自分だけが選ばれた確信を持たない」

 

「灰冠が偽封書を」

 

ナディア。

 

「封書は六部」

 

王宮。

 

水利庁。

 

会計院。

 

軍総監府。

 

刻印民金庫。

 

聖座使節保管庫。

 

六部。

 

内容は同じ。

 

封印。

 

「全部を偽造」

 

「難しい」

 

「一部が違えば」

 

「一致しない場合、無効。六印選出へ」

 

「王の意思が」

 

「不明なら使わない」

 

死者の意思より、生者の確認。

 

バイバルスは三人を見る。

 

「誰を選んだか、私へ聞くな」

 

「父上」

 

サイード。

 

「一度だけ」

 

「何だ」

 

「三人とも選ばない可能性は」

 

「ある」

 

広場。

 

王子たち。

 

「王族の別の者?」

 

「封書には」

 

「言わない」

 

王冠は、息子の財産ではない。

 

---

 

## 十九

 

継承令への署名。

 

王。

 

六印。

 

三王子。

 

ジャマールは署名前に尋ねた。

 

「私が第一候補でなくても、軍印へ影響を」

 

「してはならない」

 

「軍は私を」

 

「お前から誓約を取り直す」

 

「従わない部隊は」

 

「解散」

 

「敵が」

 

「その時は、六印が」

 

「遅い」

 

「だから今、誓わせる」

 

東軍の将校名簿。

 

全員。

 

王冠ではなく、継承令へ。

 

ジャマールは署名。

 

ユースフ。

 

「国庫支払い停止の緊急規則は」

 

「六印中三印」

 

「市場攻撃時」

 

「小口支払いを止めない」

 

「銀行が倒れる」

 

「大口から」

 

「受けます」

 

署名。

 

サイード。

 

「民衆集会を禁止すると、弾圧へ」

 

「擁立集会のみ」

 

「何が違う」

 

「王を名乗る旗と宣誓」

 

「抗議は」

 

「認める」

 

「軍が」

 

「六印記録官を」

 

「守れない場合」

 

「公開」

 

「受けます」

 

署名。

 

三人。

 

同じ紙。

 

王位を争う者が、争い方を制限する。

 

守られるか。

 

まだ。

 

---

 

## 二十

 

継承令が成立した夜、三王子は王の私室へ呼ばれた。

 

公の制度ではない。

 

家族。

 

食事。

 

黒パン。

 

豆。

 

羊肉は少し。

 

同じ皿ではない。

 

紫宮毒杯報告後、王宮も飲食規則を変えた。

 

杯は抽選。

 

バイバルス。

 

「面倒だ」

 

三王子。

 

「生きている方が」

 

ユースフ。

 

「誰の言葉だ」

 

「医師」

 

食事。

 

沈黙。

 

「父上は、誰を」

 

ジャマールが言いかける。

 

三人が見る。

 

「聞くなと」

 

王。

 

「はい」

 

「それでも聞く?」

 

「息子として」

 

バイバルスはパンをちぎる。

 

「息子として答える」

 

三人。

 

「全員、王にしたくない」

 

顔。

 

「なぜ」

 

サイード。

 

「お前たちは王になりたい」

 

「父上も」

 

ジャマール。

 

「私は、生き残るためになった」

 

奴隷兵。

 

「違いは」

 

ユースフ。

 

「ないかもしれん」

 

王は自分を美化しない。

 

「では」

 

「全員、王にできる部分がある」

 

「一人だけ」

 

「だから、選ぶ」

 

「誰を」

 

「聞くな」

 

また。

 

「父上は怖いですか」

 

サイード。

 

「死ぬのが?」

 

「息子たちが」

 

王は三人を見る。

 

「私の葬儀の前に殺し合うことが」

 

「しません」

 

三人が同時に言わない。

 

ジャマール。

 

遅れて。

 

「規則が守られれば」

 

ユースフ。

 

「帳簿が開けば」

 

サイード。

 

「民が撃たれなければ」

 

条件。

 

バイバルスは笑った。

 

「正直でよい」

 

「父上は」

 

ジャマール。

 

「私たちを愛していますか」

 

王。

 

長い。

 

王宮では、聞かれない問い。

 

「愛している」

 

三人。

 

「だから、一人へ全部渡さない」

 

愛は、相続を平等にしない。

 

権力は分ければ国を割る。

 

「恨むか」

 

「誰が選ばれても」

 

ユースフ。

 

「少し」

 

サイード。

 

「かなり」

 

ジャマール。

 

父は笑う。

 

咳。

 

長い。

 

三人が立つ。

 

「座れ」

 

「医師を」

 

「食べ物が」

 

咳は収まる。

 

血。

 

布へ。

 

小さな赤。

 

三人が見る。

 

「誰にも言うな」

 

王。

 

「規則では」

 

ユースフ。

 

「医師へ」

 

「息子ではなく財務官か」

 

「はい」

 

「呼べ」

 

病。

 

本物の死。

 

近い。

 

---

 

## 二十一

 

医師の診断は、肺の古い病。

 

すぐではない。

 

だが長くもない。

 

「半年」

 

「一年」

 

「三月かもしれない」

 

「六十日規則は」

 

「間に合う可能性」

 

王。

 

「可能性」

 

「はい」

 

三王子へは知らせる。

 

六印へ。

 

民衆へは?

 

「王の健康は国家情報」

 

財務官。

 

「隠せば市場が」

 

「公開すれば王位投機」

 

開帳会。

 

「段階」

 

ナディア。

 

《王は慢性の肺病》

 

《直ちに執務不能ではない》

 

《医師団が月ごと報告》

 

余命の数字は公開しない。

 

理由。

 

不確実。

 

市場操作。

 

「隠していると言われる」

 

「実際、一部」

 

「理由を」

 

公開。

 

人々は信じない。

 

王はもう死ぬ。

 

まだ十年。

 

毒。

 

洪水病。

 

噂。

 

それでも月次報告。

 

医師三名。

 

別々。

 

王は自分の咳を国家制度へ。

 

---

 

## 二十二

 

灰冠自由会議は、ナフル継承計画を失敗とは記録しなかった。

 

《三王子個別接触、全件露見》

 

《外国融資契約、未成立》

 

《王子間相互疑惑、発生》

 

《偽崩御による軍・財務・民衆自動反応、成功》

 

《即位衝突、未達》

 

《空冠規則及び六印摂政、成立》

 

《王子私権制限、敵制度強化》

 

《王健康悪化情報、獲得》

 

《第一候補、未特定》

 

「封書を奪う」

 

無貌。

 

「六部」

 

「一部ずつ違う偽書を」

 

鴉筆。

 

「一致しなければ無効」

 

「それで六印選出」

 

「買収」

 

「九席審査が記録」

 

「記録は判断を縛るだけ」

 

新しい黒雪。

 

「王が誰を選んだかより、六印を割る」

 

「軍は長子」

 

「財務は次子」

 

「地方と避難民は末子」

 

「水利は」

 

「ナディア」

 

「誰を」

 

「制度を」

 

「買えない」

 

「殺す?」

 

「一人を殺しても」

 

以前の結論。

 

「では、水利庁の失敗を」

 

「洪水は過ぎた」

 

「次は冬」

 

穀物。

 

「三割失った」

 

「小麦輸入を止める」

 

舟守。

 

「どこで」

 

「蒼環海」

 

「セレスタ開帳会が」

 

「すべての船を監視できない」

 

「海賊?」

 

「保険」

 

灰冠は、王子を直接王にするのを諦めていない。

 

ただ、王冠へ向かう道を飢饉へ変える。

 

「王が死ぬ前に」

 

黒雪。

 

「パンを減らせ」

 

「民は、制度より王子の倉庫へ走る」

 

三人が別々に小麦を配れば。

 

再び。

 

---

 

## 二十三

 

ナフルの秋は短かった。

 

洪水の泥が乾く前に、北風。

 

小麦価格。

 

上昇。

 

輸入船。

 

予定より少ない。

 

アルビオンとルシタニアの停戦で海は開き始めたが、私掠船は残る。

 

セレスタ金融危機。

 

保険料。

 

高い。

 

王立穀物院は、冬備蓄を数える。

 

「三月分」

 

ユースフ。

 

「通常は五」

 

「輸入が来れば」

 

「いつ」

 

「二十日」

 

「船名」

 

三隻。

 

《聖マルタ》。

 

《青い蓮》。

 

《北風の娘》。

 

青い蓮。

 

青蓮救済会と似る。

 

「所有者」

 

死者名義。

 

「また」

 

開帳会へ照会。

 

返事。

 

《北風の娘》は出港済み。

 

《聖マルタ》は積荷遅延。

 

《青い蓮》は航路不明。

 

「一隻だけ」

 

「一月分」

 

「残り」

 

国内徴発。

 

「農民が」

 

洪水後。

 

「王子の荘園から」

 

三王子。

 

ジャマールの軍用穀倉。

 

ユースフの商業備蓄。

 

サイードの宗教荘園。

 

それぞれ。

 

王命で共同備蓄へ。

 

「第一候補を」

 

民衆は、誰が多く出すかを見る。

 

ジャマール。

 

軍穀倉の四割。

 

「兵が」

 

「冬の軍備を削る」

 

ユースフ。

 

商業備蓄の半分。

 

「売却価格は」

 

「原価」

 

利益なし。

 

サイード。

 

荘園の七割。

 

「来年の種が」

 

「三割残す」

 

支持者は、自分の王子が最も多いと宣伝。

 

割合。

 

総量。

 

違う。

 

ジャマール四割が最も多い量。

 

サイード七割が最も高い割合。

 

ユースフは最も早く市場へ。

 

数字の見せ方。

 

灰冠が使う。

 

王子も。

 

「共同名義で配れ」

 

バイバルス。

 

「王子名を袋から消す」

 

三人。

 

不満。

 

「自分の穀物を」

 

「王国の」

 

「支持者が」

 

「だから」

 

袋。

 

《ナフル共同冬備蓄》

 

三王子の印。

 

六印。

 

一つ。

 

誰の恩か分からない。

 

「民は王子の名を」

 

サイード。

 

「パンに名は要らん」

 

王。

 

アンドロニコスのように。

 

---

 

## 二十四

 

六十日の最終日。

 

バイバルスは、第一候補の封書六部へ署名した。

 

内容を見た者。

 

王。

 

記録官二人。

 

二人は別々の部屋。

 

文字を照合。

 

その後、記録官は封書の内容を記憶しないようにはできない。

 

「殺される」

 

一人。

 

「可能性」

 

「家族を」

 

「六印保護」

 

「それで」

 

「完全では」

 

「断れますか」

 

王。

 

「断れば、別の書記」

 

「私は」

 

「選べ」

 

書記は受ける。

 

もう一人も。

 

名前は非公開。

 

理由。

 

安全。

 

期限。

 

王の死まで。

 

秘密。

 

残る。

 

だが誰が知り、どこに、なぜ隠すかは記録される。

 

六部。

 

別々の使者。

 

同時。

 

軍総監府。

 

会計院。

 

水利庁。

 

首都議会。

 

地方評議院。

 

宗教法廷。

 

刻印民金庫ではなく? Earlier six included law. Need six. We can say刻印民金庫は副保管写し maybe seventh? Better not conflict. Let's retain six部 as above, with市民監査用要約を刻印民金庫. Hmm previously six部 included刻印民金庫・聖座. Let's not list exact? Yet already in chapter: 王宮、水利庁、会計院、軍総監府、刻印民金庫、聖座使節保管庫. Keep that. Six seals included other bodies but storage can differ.

Let's continue:

封書輸送.

 

三王子は、内容を知らない。

 

「父上」

 

ジャマール。

 

「一つだけ」

 

「何だ」

 

「選ばれた者は、兄弟を殺さないと」

 

「封書に書いた」

 

「本当に」

 

「誓約へ」

 

ユースフ。

 

「選ばれなかった者の地位は」

 

「書いた」

 

サイード。

 

「何に」

 

「言わない」

 

また。

 

三人は父を見つめる。

 

「私が死ねば」

 

王。

 

「泣く前に、鐘を数えろ」

 

偽鐘。

 

「六回だけでは信じるな」

 

新しい死亡信号。

 

六回。

 

間。

 

一回。

 

三医師と市民代表の確認旗。

 

「葬儀より先に制度?」

 

サイード。

 

「葬儀は後でもできる」

 

「父としては」

 

ジャマール。

 

王は冠を外す。

 

机。

 

宝石の穴。

 

「父としては、三人とも来い」

 

「王としては」

 

「十日間、互いへ近づくな」

 

愛と法。

 

「分かりました」

 

三人。

 

---

 

その夜。

 

王宮の屋根で、三王子は久しぶりに三人だけで酒を飲んだ。

 

杯は抽選。

 

毒見。

 

面倒。

 

「父上は誰を」

 

ジャマール。

 

「聞かない約束」

 

ユースフ。

 

「ここなら」

 

サイード。

 

「三人だけの秘密は、灰冠が一番好む」

 

ユースフ。

 

三人が笑う。

 

少し。

 

「私は長子だ」

 

ジャマール。

 

「知っている」

 

「本来なら」

 

「本来を父上が壊した」

 

サイード。

 

「怒っている」

 

「はい」

 

「私も」

 

ユースフ。

 

「末子の私も?」

 

「選ばれる可能性を持たされた」

 

三人。

 

「誰が王でも」

 

サイード。

 

「殺さない?」

 

ジャマール。

 

「さっき父上へ」

 

「父上の前と、三人だけでは」

 

沈黙。

 

「私は殺さない」

 

ユースフ。

 

「ただし、国庫を盗めば裁く」

 

「私は」

 

サイード。

 

「民を撃てば抵抗する」

 

「私は」

 

ジャマール。

 

「軍を割れば止める」

 

「それは殺す?」

 

「必要なら」

 

二人が見る。

 

「嘘は言わない」

 

長子。

 

「では、私たちはまだ敵」

 

サイード。

 

「兄弟でも」

 

ユースフ。

 

杯。

 

「父上が死ぬまで」

 

「その後も」

 

「規則が」

 

三人とも、規則だけでは足りないと知る。

 

「書面を」

 

ユースフ。

 

「三人の?」

 

「選ばれなかった二人は、新王へ一度だけ公開異議を出せる。軍や群衆を動かす前に」

 

「一度だけ?」

 

「何度もなら反乱」

 

「新王が無視」

 

「六印が審査」

 

「また」

 

サイード。

 

「それを今、書く?」

 

「父上抜きで?」

 

ジャマール。

 

「兄弟の契約」

 

危険。

 

同時に必要。

 

「公開する」

 

ユースフ。

 

「明日」

 

「秘密でなくなる」

 

「だから」

 

三人は、屋根の上で文を作る。

 

《三王子相互不殺及び公開異議誓約》

 

王位争いに際し、暗殺、私兵による先制拘束、家族人質を禁ずる。

 

選ばれなかった者は、六印へ一度の公開異議。

 

新王は十日以内に回答。

 

違反者は王族特権を失う。

 

「自分たちで、自分たちを」

 

サイード。

 

「信じない」

 

ジャマール。

 

「父上の息子だ」

 

ユースフ。

 

翌朝。

 

公開。

 

王は文書を読む。

 

「私に相談せず」

 

「兄弟の誓約です」

 

「よい」

 

「怒らない?」

 

「少し」

 

「なぜ」

 

「私より先に作った」

 

王は署名しない。

 

当事者三人だけ。

 

六印が証人。

 

父の契約ではなく、兄弟の。

 

---

 

三人の王子は、その日から敵でなくなったわけではない。

 

長子の軍は彼を王と呼びたがる。

 

次子の商人は、国を救えるのは数字だと言う。

 

末子の民衆は、王冠を彼へ与えろと歌う。

 

三人自身も、自分が最も適しているという考えを捨てていない。

 

だが、王位を望むことを隠さなかった。

 

外国の書簡を隠した期間も記録した。

 

自分の支持者へ、待てと命じた。

 

相互不殺を紙へ。

 

紙が剣を止める保証はない。

 

剣を抜いた後、誰が最初に約束を破ったかは残る。

 

それだけ。

 

それが、灰冠会議のない継承と、灰冠会議が作る継承の違いになるかもしれない。

 

---

 

灰暦八百七十三年、冬の第一月。

 

ナフル王宮の水時計が、夜半を告げた。

 

バイバルスは咳で目を覚ました。

 

血。

 

以前より多い。

 

医師を呼ぶ紐へ手を伸ばす。

 

届かない。

 

床。

 

王は自分で立とうとする。

 

膝。

 

倒れる。

 

扉外の衛兵が音を聞く。

 

入る。

 

「陛下!」

 

王は意識を失っていない。

 

「鐘を」

 

衛兵が走ろうとする。

 

「待て」

 

「しかし」

 

「まだ死んでいない」

 

笑おうとする。

 

血。

 

三王子へ使者。

 

六印へ。

 

医師三人。

 

市民代表。

 

制度が動く。

 

今度は偽鐘ではない。

 

だが死亡の鐘も、まだ鳴らない。

 

王宮の外。

 

冬の風。

 

穀物船の到着を告げる港鐘が、一度。

 

二隻。

 

予定は三隻。

 

《北風の娘》。

 

《聖マルタ》。

 

《青い蓮》は来ない。

 

王の息。

 

国の小麦。

 

両方が減る。

 

三人の王子は、同じ夜に王宮へ向かった。

 

ただし、同じ門からは入らない。

 

規則どおり。

 

長子は東門。

 

次子は北門。

 

末子は南門。

 

父の病床へ至る廊下は、中央で一つになる。

 

三人は、そこで立ち止まった。

 

先に入れば、王位を急いだように見える。

 

譲れば、弱く見える。

 

「同時に」

 

ユースフ。

 

「扉は一つ」

 

サイード。

 

ジャマールが扉を開く。

 

「三人で入る」

 

規則にはない。

 

だから、記録官が書く。

 

《三王子、同時入室》

 

病床のバイバルスは、薄く目を開けた。

 

「鐘は」

 

「まだです」

 

ジャマール。

 

「小麦船は」

 

ユースフ。

 

「二隻」

 

「民は」

 

サイード。

 

「配給を維持」

 

王は三人を見る。

 

誰を第一候補にしたか、言わない。

 

ただ、左手を上げる。

 

三人の手。

 

一つずつ。

 

重ねるのではない。

 

それぞれ別に握る。

 

長子。

 

次子。

 

末子。

 

「まだ」

 

王。

 

「私は、生きている」

 

「はい」

 

三人。

 

「なら、王位の話をするな」

 

「はい」

 

「小麦を」

 

「はい」

 

王が眠る。

 

三人は病床を離れる。

 

誰が最初に。

 

今度は気にしない。

 

港へ。

 

会計院へ。

 

施療院へ。

 

軍穀倉へ。

 

王が死ぬかもしれない夜、三人の王子は王冠ではなく、届かなかった一隻分の小麦を探しに行った。

 

それが、父の審査の最後の問いだったのか。

 

偶然だったのか。

 

誰にも分からない。

 

---

 

蒼環海の西寄り。

 

予定航路から外れた《青い蓮》は、暗い入り江へ停泊していた。

 

船員は殺されていない。

 

船長も。

 

契約で止められていた。

 

《保険上の危険が解消するまで待機》

 

荷。

 

小麦八千袋。

 

灰冠自由会議の舟守が、船長へ新しい条件を出す。

 

「ナフルの三王子へ、別々に売る」

 

「同じ小麦を?」

 

「三分割」

 

「価格は」

 

「一人へは軍用」

 

「一人へは市場安定」

 

「一人へは慈善寄進」

 

同じ小麦。

 

三つの正義。

 

「誰が払う」

 

「王位を得た者」

 

船長は赤蝋を見る。

 

「王がまだ生きている」

 

「長くない」

 

「死ななければ」

 

「小麦は腐る」

 

「人も」

 

舟守は答えない。

 

冬の海。

 

穀物倉。

 

鼠。

 

湿気。

 

時間。

 

灰冠は、王冠を直接買えなかった。

 

だから、王冠を欲しがる三人へ、同じパンを別々の値段で売ろうとしていた。

 

ナフルの継承戦争は、まだ始まっていない。

 

だが最初の包囲は、すでに王都の外で始まっていた。

 

城壁を囲む兵ではない。

 

港へ来ない船。

 

市場へ並ばない袋。

 

空になるパン籠。

 

冬は、戦争より静かに人を降伏させる。

 

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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