灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第二十四章 火を抱く山

山は動かないと、人は言う。

 

だが、山を越える道は動く。

 

雪崩で消え。

 

戦争で閉じ。

 

商人が新しい峠を見つけ。

 

王が税所を置き。

 

巡礼者が石を積み。

 

兵士が死体を埋める。

 

百年後、山は同じ場所にある。

 

だが、その山を越えて結ばれる国は、まったく違う形になっている。

 

アルカシャ山岳王国は、蒼環海の南東にそびえる黒い山脈の内側にあった。

 

外から見れば、石。

 

雪。

 

切り立った崖。

 

細い道。

 

だが山の腹には、銀があった。

 

鉄。

 

銅。

 

白石粉。

 

黒根。

 

硫黄。

 

そして、地の底から絶えず噴き出す熱い息。

 

アルカシャの人々は、それを《山の火》と呼んだ。

 

聖火古教の祭司は言う。

 

山は眠っている。

 

火は、その寝息である。

 

怒らせれば、国も王も石の下へ埋まる。

 

だからアルカシャでは、王冠より火の方が古かった。

 

王が即位するときも、火へ膝をつく。

 

契約を結ぶときも、火の前で読み上げる。

 

外国の金貨は信用されない。

 

火へ入れれば王の顔は消える。

 

残るのは金と銀の重さだけ。

 

その国へ、ナフル王国から一月分の塩が運び込まれた。

 

盗まれた塩。

 

三人の王子の印を押された偽命令。

 

軍馬のため。

 

市場のため。

 

巡礼者のため。

 

同じ荷車。

 

三つの理由。

 

行き先は一つ。

 

火を抱く山だった。

 

---

 

## 一

 

長子ジャマールの使節は、兵の形をしていた。

 

隊長ハーディ・イブン・ラシード。

 

ジャマールの副官。

 

偽の死鐘の際、長子の軍を止めるよう進言した男。

 

三十八歳。

 

頬へ古い矢傷。

 

騎兵四十。

 

軍書記二人。

 

馬医一人。

 

表向きの目的は、ナフルから盗まれた塩荷車の追跡と、アルカシャ国境での軍馬取引調査。

 

「軍使節に四十騎は多い」

 

国境関所のアルカシャ兵が言った。

 

岩壁。

 

一本の道。

 

頭上から石を落とせば、全員死ぬ。

 

「盗賊が多い」

 

ハーディ。

 

「この道では、盗賊より落石が多い」

 

「落石は交渉できない」

 

「盗賊とはできる?」

 

「金額による」

 

関所兵は笑わない。

 

アルカシャ人は、冗談を言う時ほど真顔になる。

 

「武器を預けろ」

 

「王国使節です」

 

「山では、外国王の剣も荷物だ」

 

「護衛は」

 

「こちらが付ける」

 

「信用できない」

 

「なら帰れ」

 

細い道。

 

選択。

 

ハーディは騎兵を見る。

 

「長剣を封印。弓は弦を外す。短剣一本」

 

「隊長」

 

「従え」

 

封印。

 

アルカシャ側の赤い蝋。

 

ナフル軍印。

 

二つ。

 

「馬は」

 

「何だ」

 

「蹄鉄を調べる」

 

「なぜ」

 

「山道へ火打石を打ち込む者がいる」

 

蹄鉄の釘。

 

火花。

 

乾いた硫黄地帯。

 

「我々を放火犯と?」

 

「全員を」

 

確認。

 

時間。

 

軍人にとって屈辱。

 

だがハーディは待つ。

 

以前なら、使節の威厳を理由に突破したかもしれない。

 

長子が学んだ遅さを、使節も使う。

 

「塩荷車は通ったか」

 

検査中に尋ねる。

 

「毎日通る」

 

「ナフル王室印を押した二百台」

 

関所兵の目が少し動く。

 

「見ていない」

 

嘘。

 

「通行帳を」

 

「外国軍へ見せない」

 

「盗品です」

 

「アルカシャ法では、関所を越えた荷は購入証があれば商品になる」

 

「偽造命令で」

 

「偽造だと誰が」

 

「我々が」

 

「自国王子の印を、自国使節が偽造と?」

 

「はい」

 

「なら王子本人が否定文を」

 

三人分。

 

ハーディは長子ジャマールの否定文を持つ。

 

一通。

 

他の二人のものは持たない。

 

「長子分だけ」

 

関所兵。

 

「では残る二通は本物かもしれない」

 

灰冠が狙う分断。

 

「後続使節が持ってくる」

 

「一緒ではない?」

 

「別の任務」

 

「同じ塩を追って?」

 

「はい」

 

関所兵が初めて笑った。

 

「三人の王子が、同じ荷を別々に追う」

 

「今のところは」

 

「山へ入れば、道は一つだ」

 

---

 

次子ユースフの使節は、帳簿の形をしていた。

 

サルマ・ベン=ナタン。

 

王立会計院上級官。

 

刻印民共同体出身。

 

女。

 

それだけで、アルカシャの一部役人は彼女を商人の妻だと思った。

 

「使節代表は」

 

関所会計官。

 

「私です」

 

「財務官は」

 

「私です」

 

「男性の署名者は」

 

「必要ありません」

 

アルカシャ法では女性の鉱山所有権が認められている。

 

だが外国人について、関所役人は知らないふりをした。

 

「王子の印は」

 

「ユースフ殿下のものです」

 

「本人では」

 

「全権状があります」

 

「塩契約を否定?」

 

「はい」

 

「契約額を調べたか」

 

「銀貨換算で八万四千」

 

関所会計官の眉。

 

「正確だ」

 

「偽契約ほど数字を整えます」

 

「アルカシャ側の支払人は」

 

「《火口銀融資組合》」

 

「王国公認だ」

 

「実所有者は」

 

「三人死亡。一人失踪。残る二人は鉱山領主ヴァフラム・ダルヴァズの親族」

 

関所兵の表情が固くなる。

 

山岳王国の内政。

 

「どこで調べた」

 

「セレスタ開帳会」

 

「外国人が我が国の口座を」

 

「我が国の塩を買った口座です」

 

「山の法へ従え」

 

「従うため、帳簿を持参しました」

 

荷車。

 

箱十二。

 

契約写し。

 

保険。

 

塩務院記録。

 

三王子印の比較。

 

「多い」

 

「少ないより」

 

検査。

 

一枚ずつ。

 

サルマは関所で二日止められた。

 

ハーディの軍使節は一日で通った。

 

「兵には道を開き、帳簿には閉じる」

 

彼女が言う。

 

関所会計官。

 

「兵は見える」

 

「帳簿も」

 

「読めば」

 

「だから時間が」

 

「読まない理由にしないでください」

 

二日目の夜、関所会計官は彼女の宿へ来た。

 

一人。

 

「塩荷車は通った」

 

「何台」

 

「百八十七」

 

「記録は二百」

 

「十三台は」

 

「国境前で別路」

 

「どこへ」

 

「旧巡礼道」

 

「通行禁止では」

 

「祭司の許可」

 

「誰の」

 

「火守アータシュ・ナーヴィド」

 

王国最高祭司。

 

「なぜ祭司が塩を」

 

「巡礼者用」

 

末子サイードの偽命令。

 

「残り百八十七台は」

 

「黒口鉱山へ」

 

「鉱山で塩を?」

 

「坑夫の冬備蓄」

 

表向き。

 

「支払は」

 

「銀ではない」

 

「何で」

 

役人は答えない。

 

「なぜ教えるのです」

 

サルマ。

 

「山が、外国の契約で売られるのが嫌いだからだ」

 

「王へ報告を」

 

「王が知っているか分からない」

 

「女王では?」

 

「今は王女が摂政だ」

 

情報。

 

アルカシャ王アシュヴァル四世は病。

 

公表されていない。

 

どの国でも。

 

王が病む。

 

「誰が実権を」

 

「火口宮は王女。鉱山は領主。祭司は巡礼路」

 

三つ。

 

また。

 

「灰冠は」

 

「その名を山で言うな」

 

「なぜ」

 

「灰は火の死だ」

 

---

 

末子サイードの使節は、巡礼者の形をしていた。

 

マルヤム・ビント・ハサン。

 

施療院の管理官。

 

サイードの側近。

 

医師ではない。

 

だが病人をどの順番で診察室へ入れるかを決めてきた。

 

彼女の同行者は、聖職者二人。

 

水運商人。

 

避難民代表。

 

塩職人。

 

護衛十二。

 

そして、ナフル東岸で親を失った十四歳の少年アミール。

 

「なぜ子供を」

 

国境祭司。

 

「巡礼路の証人です」

 

「未成年を政治へ?」

 

「塩荷車を見た」

 

「どこで」

 

「王都南門」

 

アミール。

 

「荷車の印も?」

 

「サイード王子の」

 

「読めるのか」

 

「絵は」

 

末子の印は、開いた手と葦。

 

「荷車の御者が、巡礼者へ塩を配ると言っていた」

 

「善行では」

 

祭司。

 

「王子は命じていません」

 

マルヤム。

 

否定文。

 

「無償塩を拒む?」

 

「盗まれた塩です」

 

「山の冬、塩がなければ肉を保存できない」

 

「ナフルでも」

 

「返せと?」

 

「行き先と契約を公開し、正当に買ってください」

 

「金は誰へ」

 

「ナフル共同備蓄基金」

 

「王子へでは」

 

「はい」

 

祭司は不満。

 

「末子殿下は、巡礼者の保護を説く」

 

「だから盗品を使いません」

 

「巡礼者が飢えても?」

 

「別の塩を買います」

 

「どこから」

 

マルヤムは答えられない。

 

塩不足。

 

王都。

 

山岳国。

 

双方。

 

「美しい答えは、山道で凍る」

 

祭司。

 

「だから契約を」

 

「火の前で」

 

アルカシャでは、契約は聖火前で読み上げる。

 

秘密契約は法的効力を持たない。

 

少なくとも、建前では。

 

「我々を火口宮へ」

 

「使節は三組来ている」

 

「知っています」

 

「一緒にするか」

 

マルヤム。

 

「はい」

 

ハーディとサルマは、別々に来た。

 

だが同じ塩。

 

「最初から?」

 

「最初からではありません」

 

正直。

 

「途中で学びました」

 

---

 

## 二

 

アルカシャの首都アズラグは、山の内側にあった。

 

古い火口。

 

直径三里。

 

周囲を黒い崖が囲む。

 

斜面に石造りの家。

 

中央に聖火神殿。

 

その下へ鉱山道。

 

遠くから見ると、夜でも赤い光が谷底に浮かぶ。

 

地中の熱。

 

炉。

 

鍛冶場。

 

銀精錬。

 

煙。

 

空は常に薄い灰色。

 

雪が降っても、町の中心では積もらない。

 

「地獄だ」

 

ナフル兵。

 

アルカシャ護衛が睨む。

 

「我々には故郷だ」

 

ハーディは兵を黙らせる。

 

火口宮は、王宮というより要塞。

 

黒い玄武岩。

 

窓が小さい。

 

門の上に王冠ではなく、七つの炎。

 

アルカシャ王家は、聖火古教の守護者。

 

だが祭司の下ではない。

 

王と火守は、互いに相手が必要で、互いに相手を嫌う。

 

三使節は、同じ中庭で初めて顔を合わせた。

 

ハーディ。

 

サルマ。

 

マルヤム。

 

三人とも、他の使節が来ることは知っていた。

 

到着日までは知らない。

 

「長子殿下の軍は速い」

 

サルマ。

 

「会計院は荷物が多い」

 

ハーディ。

 

「施療院は、道中の病人を診て遅れました」

 

マルヤム。

 

三人。

 

軽い刺。

 

それぞれの王子。

 

「ここでは王子名を使わない」

 

サルマ。

 

「なぜ」

 

「三人の代理として見られれば、別々に契約を」

 

「我々は別々の全権状」

 

ハーディ。

 

「それが罠です」

 

「なら一つへ」

 

マルヤム。

 

「権限を合わせられる?」

 

三人の文書。

 

軍事。

 

財務。

 

巡礼・救済。

 

重なる部分。

 

塩。

 

偽命令。

 

「共同調査声明を」

 

サルマ。

 

「王子の許可なしに」

 

ハーディ。

 

「偽契約否定は共通」

 

「そこだけ」

 

「そこから」

 

中央で決める者はいない。

 

三王子が学んだ問題を、使節が繰り返す。

 

「火口宮へ入る前に」

 

マルヤム。

 

「同じ文を作りましょう」

 

内容。

 

《三使節は、三王子の個別命令を代表する》

 

《ただし、ナフル王国から不正に移送された塩、三王子印の偽造、王位継承に関係する外国契約については共同調査を行う》

 

《一使節だけの承認は、他二使節及びナフル六印の承認を意味しない》

 

「長い」

 

ハーディ。

 

「短くすると、誰かが抜く」

 

サルマ。

 

「兵は読まない」

 

「読ませる」

 

「山の契約は読み上げ」

 

マルヤム。

 

「ちょうどよい」

 

三人が署名。

 

三王子の印ではない。

 

代理本人の印。

 

責任。

 

---

 

## 三

 

アルカシャ王アシュヴァル四世は、謁見へ姿を見せなかった。

 

代わりに、長女ザレフ王女。

 

三十一歳。

 

摂政。

 

赤銅色の髪。

 

左頬に細い火傷。

 

王族は即位前、聖火へ近づく儀礼を行う。

 

その際の傷。

 

王女の右側に、最高火守アータシュ・ナーヴィド。

 

七十歳。

 

白い眉。

 

灰色の衣。

 

左側に、鉱山領主ヴァフラム・ダルヴァズ。

 

五十三歳。

 

黒い毛皮。

 

指へ銀環。

 

三つの権力。

 

王宮。

 

神殿。

 

鉱山。

 

「ナフル王の病状は」

 

最初の質問。

 

ザレフ。

 

「安定しています」

 

サルマ。

 

嘘ではない。

 

完全でもない。

 

「死の鐘が鳴った」

 

「偽報でした」

 

「三王子は」

 

ハーディ。

 

「継承令へ従っています」

 

「誰が次王か」

 

「非公開です」

 

「使節も知らない?」

 

「はい」

 

ヴァフラムが笑う。

 

「自国の未来を知らず、我が山の契約を調べる?」

 

サルマ。

 

「知らないから、三人分を調べます」

 

「塩は」

 

最高火守。

 

「我が巡礼宿へ届いた」

 

「盗品です」

 

マルヤム。

 

「火の前で購入された」

 

「誰が売った」

 

「ナフル三王子の代理」

 

「我々ではありません」

 

「契約書が」

 

三通。

 

中央へ。

 

長子印。

 

次子印。

 

末子印。

 

本物に見える。

 

長子契約。

 

塩七十台と引き換えに、アルカシャ軍馬二千頭の優先購入権。

 

王位継承後、ナフル東軍が山岳国境道を保護。

 

次子契約。

 

塩六十台と引き換えに、銀貨二十万の融資。

 

担保はナフル塩税と王立両替所。

 

末子契約。

 

塩五十七台を巡礼者へ寄進。

 

引き換えに、南部巡礼路上のアルカシャ聖火宿へ自治権。

 

合計百八十七台。

 

残る十三台は別。

 

「すべて偽造です」

 

三人。

 

同時。

 

ザレフ王女が契約書を見る。

 

「印は」

 

「複製」

 

「署名は」

 

「偽筆」

 

「火の前で読み上げた者は」

 

最高火守。

 

「ナフル王子代理を名乗る三名」

 

「どこに」

 

「二名は帰国。一名は黒口鉱山」

 

「名は」

 

ハーディ。

 

「長子代理、ハリール・アル=ワシード」

 

王宮から逃げた連絡官。

 

サルマ。

 

「次子代理は」

 

「レオーネ・ディ・バルディ」

 

セレスタ名。

 

「末子代理」

 

「リヴィア・サン・ジェルマーノ」

 

紫衣の女。

 

「彼女が」

 

マルヤム。

 

現場指揮。

 

杯。

 

塩。

 

「なぜ外国人が末子代理を」

 

「全権状」

 

「偽造です」

 

「火の前で、サイード王子の救済思想を詳しく語った」

 

「思想を知れば代理に?」

 

最高火守の目。

 

「末子殿下は、巡礼者を見捨てるのか」

 

「盗んだ塩では救いません」

 

「山の冬は始まっている」

 

ザレフ王女。

 

「返還すれば、我が民が死ぬ」

 

「買ってください」

 

サルマ。

 

「金は」

 

「適正価格で」

 

ヴァフラム。

 

「我々はすでに銀を払った」

 

「誰へ」

 

「ナフル王子代理へ」

 

「金はどこへ」

 

「契約口座」

 

灰冠。

 

「二重に払えと」

 

「盗品を買った者が」

 

ハーディ。

 

「我々を盗品商と?」

 

「確認せず買った」

 

「火の前で契約した!」

 

最高火守。

 

アルカシャ法の核心。

 

公開朗読。

 

証人。

 

それが真実の証。

 

「火は印の偽造を見抜けない」

 

サルマ。

 

宮廷が凍る。

 

聖火への侮辱。

 

「言葉を選べ」

 

祭司。

 

「火ではなく、人が見抜くべきです」

 

「火の前で嘘をつく者は、魂を」

 

「嘘つきが恐れなければ?」

 

現実。

 

「ナフルでは、王印も複製されました」

 

「王が弱い」

 

ヴァフラム。

 

「印が弱い」

 

サルマ。

 

「火の前の契約も、代理権を照合しなければ同じです」

 

ザレフ王女は、怒る祭司を手で止める。

 

「王女殿下」

 

アータシュ。

 

「聞く」

 

ザレフ。

 

「外国人の言葉でも」

 

「聖火法を」

 

「法が騙された」

 

「騙した者が罪」

 

「法に穴はない?」

 

王女。

 

祭司が黙る。

 

王と火守。

 

亀裂。

 

灰冠はそこへ入る。

 

---

 

## 四

 

ヴァフラム・ダルヴァズは、塩だけでなく別の契約を持っていた。

 

「ナフル使節は、我々が一方的に利益を得たと思っている」

 

鉱山領主。

 

「違うと?」

 

「塩の対価として、我々は銀だけでなく、薬石を提供した」

 

「薬石」

 

マルヤム。

 

「黒根、白石粉、硫黄塩」

 

毒。

 

紫宮。

 

「誰へ」

 

「三王子代理へ」

 

「量」

 

サルマ。

 

帳簿。

 

黒根乾燥根。

 

二百斤。

 

白石粉。

 

五百斤。

 

硫黄塩。

 

三百斤。

 

「薬用量ではない」

 

マルヤム。

 

「鉱業、皮革、害獣駆除」

 

「黒根二百斤で何人を」

 

「使い方は買主の責任」

 

「輸出許可は」

 

ザレフ王女がヴァフラムを見る。

 

「鉱山自治権」

 

「毒物は王室許可が必要」

 

「白石粉は鉱物」

 

「黒根は薬草」

 

「言葉を分けた?」

 

サルマ。

 

同じ契約を複数品目へ。

 

法の穴。

 

「王女殿下は知らなかった」

 

「鉱山領の商取引だ」

 

ヴァフラム。

 

「国境を越える毒物」

 

「ナフル代理が正式なら」

 

「正式でない」

 

「今、言っている」

 

「なら返還を」

 

ハーディ。

 

「既に渡した」

 

「どこへ」

 

「十三台の塩荷車」

 

残り。

 

旧巡礼道。

 

塩荷の底に毒物。

 

出国した?

 

「通行記録では山へ入ったまま」

 

サルマ。

 

関所役人から。

 

「別の道」

 

ヴァフラムは答えない。

 

ザレフ。

 

「黒口鉱山」

 

「殿下」

 

「十三台は黒口へ?」

 

沈黙。

 

「答えろ」

 

「精錬用の塩として」

 

「毒物は」

 

「保管」

 

「誰が」

 

「リヴィア・サン・ジェルマーノ」

 

王女が立つ。

 

「外国人へ鉱山倉庫を?」

 

「共同事業監査官」

 

「誰が任命」

 

「火口銀融資組合」

 

「お前の親族だ」

 

ヴァフラム。

 

「鉱山を救うためです」

 

「何から」

 

「銀価格の下落。坑道補修。坑夫給金」

 

「外国融資」

 

「王室は出さなかった」

 

ザレフの顔。

 

「求めたか」

 

「三度」

 

「帳簿は」

 

「財務院へ」

 

財務院は王の病を隠し、支出を止めていた。

 

「だから灰冠へ?」

 

サルマ。

 

「灰冠とは知らない」

 

「利益を見れば」

 

「ナフルの塩と市場を得る」

 

「銀と毒を渡す」

 

「交易だ」

 

「三王子へ同じ土地を売る者とも?」

 

ヴァフラムは契約の重複を知らなかった可能性。

 

あるいは。

 

「黒口鉱山へ行きます」

 

ハーディ。

 

「軍使節が鉱山へ」

 

「盗品と毒物の確認」

 

「王国領」

 

「王女の許可を」

 

ザレフはヴァフラムを見る。

 

「許可する」

 

最高火守。

 

「黒口は聖火下層域」

 

「祭司も同行を」

 

マルヤム。

 

「なぜ」

 

「巡礼塩が」

 

「毒と同じ倉庫へ」

 

祭司の顔。

 

聖なる寄進。

 

汚染。

 

「私が行く」

 

アータシュ。

 

「最高火守自ら?」

 

「火が騙されたなら、私が見る」

 

三権力。

 

使節。

 

黒口鉱山へ。

 

灰冠が一か所へ集めたかった者たち。

 

それに気づいたのは、サルマだけだった。

 

「全員で行くのは危険です」

 

「では誰を残す」

 

ザレフ。

 

「王女殿下」

 

「王室が逃げたと」

 

「ヴァフラム」

 

「証拠を消す」

 

「火守」

 

「聖火法の責任」

 

全員、行く理由。

 

「それが計画かもしれません」

 

「なら」

 

ザレフ王女は短剣を腰へ。

 

「計画の中へ入り、出口を増やす」

 

「軍を」

 

ハーディ。

 

「目立つ」

 

「鉱夫を」

 

王女。

 

地元。

 

「坑道図を三部」

 

サルマ。

 

「入口と別の出口」

 

「黒口に出口は一つ」

 

ヴァフラム。

 

王女が見る。

 

「本当に?」

 

鉱山領主は答えない。

 

---

 

## 五

 

黒口鉱山は、アズラグから北へ半日。

 

山腹に開いた巨大な坑口。

 

周囲の岩が煤で黒い。

 

内部から熱い風。

 

銀鉱。

 

白石。

 

地下水。

 

火気。

 

坑夫二千。

 

家族を含めれば町。

 

監督は、シャヒーン・バヌー。

 

四十四歳。

 

鉱山領主の家臣ではあるが、坑夫組合から選ばれた現場長。

 

右腕が肘からない。

 

落盤。

 

革と鉄の義手。

 

「王女殿下」

 

膝をつかない。

 

鉱山法では、坑内で身分差を小さくする。

 

落石は王も坑夫も同じように潰す。

 

「十三台の塩荷車は」

 

ザレフ。

 

「第七倉庫」

 

「毒物は」

 

「第九」

 

「同じ場所では」

 

「隣です」

 

「リヴィアは」

 

「地下計量室」

 

「なぜ入れた」

 

「領主印」

 

ヴァフラムへ視線。

 

「今も」

 

「昨日から見ていない」

 

「出口は一つ?」

 

サルマ。

 

シャヒーンが笑う。

 

「公式には」

 

「非公式は」

 

「密輸道」

 

ヴァフラム。

 

「知らん」

 

「領主が知らない方が、我々は生きられる」

 

坑夫の現実。

 

税。

 

危険。

 

「どこへ」

 

「山北側の灰谷」

 

「馬車は」

 

「小型なら」

 

十三台全部は無理。

 

毒だけなら。

 

「地下計量室へ」

 

一行。

 

王女護衛十。

 

ナフル使節代表三。

 

ハーディの兵六。

 

サルマの書記二。

 

マルヤム。

 

最高火守。

 

ヴァフラム。

 

シャヒーン。

 

坑夫十。

 

多い。

 

坑道は狭い。

 

列。

 

「灯りは」

 

油灯。

 

火。

 

硫黄。

 

「場所によって消す」

 

シャヒーン。

 

「気体が」

 

「山の息」

 

毒ガス。

 

坑夫は鳥籠。

 

小鳥。

 

止まり木。

 

鳥が弱れば引く。

 

「鳥を」

 

マルヤム。

 

「人より先に死なせる?」

 

「人を先に?」

 

シャヒーン。

 

答え。

 

鉱山の倫理。

 

---

 

第七倉庫。

 

塩。

 

袋。

 

ナフル王国塩務院印。

 

三王子偽印。

 

「量」

 

サルマ。

 

「百七十四台分」

 

「百八十七では」

 

「十三台が第九へ」

 

「塩も?」

 

「はい」

 

十三台は毒運搬用だけでなく、塩と交換。

 

第九倉庫。

 

扉。

 

領主印。

 

火口銀融資組合印。

 

そして、灰色の冠。

 

鍵。

 

ヴァフラム。

 

「私の鍵では」

 

「組合鍵」

 

サルマ。

 

「誰が」

 

「リヴィア」

 

扉を壊す。

 

ハーディの兵。

 

鉄。

 

坑夫の楔。

 

開く。

 

中。

 

白石粉。

 

黒根。

 

硫黄塩。

 

銀塊。

 

偽印。

 

三王子だけではない。

 

アルカシャ王室印。

 

最高火守印。

 

鉱山領主印。

 

ナフル六印のうち四つ。

 

セレスタ開帳会印。

 

聖座。

 

アウレリア三帝の燭台。

 

「工房」

 

サルマ。

 

印璽複製。

 

蝋。

 

金属型。

 

「ここで」

 

ヴァフラムが青ざめる。

 

「知らなかった?」

 

ザレフ。

 

「組合の計量室だと」

 

「鍵を渡した」

 

「融資条件」

 

また。

 

「帳簿」

 

サルマ。

 

棚。

 

燃えていない。

 

敵が逃げたばかり?

 

「触るな」

 

彼女。

 

配置。

 

油の匂い。

 

床へ細い綱。

 

「罠」

 

ハーディ。

 

全員後退。

 

遅い。

 

坑道奥から鐘。

 

鉱山警報。

 

三回。

 

火災。

 

同時に地面。

 

震動。

 

爆薬はない。

 

支柱。

 

切断。

 

水路門。

 

落盤を人為的に。

 

天井。

 

石。

 

「走れ!」

 

シャヒーン。

 

支柱が折れる。

 

坑道。

 

轟音。

 

王女護衛の一人が、石に潰される。

 

頭。

 

血。

 

灯り。

 

消える。

 

塵。

 

叫び。

 

入口側。

 

崩落。

 

分断。

 

「人数!」

 

ハーディ。

 

暗闇。

 

鳥籠が落ちる。

 

小鳥。

 

鳴かない。

 

「灯りをつけるな!」

 

シャヒーン。

 

「山の息!」

 

ガス。

 

「口を布で!」

 

マルヤム。

 

毒ではない。

 

酸素不足。

 

硫黄。

 

「出口は」

 

「公式坑道は塞がれた」

 

「密輸道」

 

ヴァフラム。

 

「知らない」

 

「本当に役に立たない領主だ」

 

シャヒーン。

 

「無礼な」

 

「死ねば同じだ!」

 

坑内法。

 

王女。

 

「地図は」

 

「持っている」

 

三部。

 

一部は入口側に残った。

 

一部サルマ。

 

一部シャヒーン。

 

「密輸道は図に」

 

「ない」

 

「では」

 

「水の流れ」

 

シャヒーンが床。

 

傾斜。

 

冷たい風。

 

「風がある」

 

出口。

 

「第九倉庫の奥」

 

「罠の中へ」

 

「他にない」

 

崩落の向こう。

 

叫び。

 

生存者。

 

坑夫。

 

「置いていけない」

 

「戻れば全員」

 

ハーディ。

 

「掘る」

 

王女。

 

「どれくらい」

 

シャヒーンが石。

 

音。

 

「薄い」

 

坑夫が鍬。

 

義手。

 

掘る。

 

ハーディの兵。

 

祭司。

 

ヴァフラムも。

 

身分。

 

石。

 

一人。

 

腕だけ。

 

引く。

 

潰れている。

 

生存。

 

「切らないと」

 

脚が石下。

 

「石を」

 

「動かせば天井」

 

マルヤム。

 

「止血」

 

「脚を」

 

坑夫の斧。

 

男。

 

意識。

 

「切れ」

 

本人。

 

「名前」

 

「ダリウス」

 

「家族」

 

「第三区、妻ミトラ、子二人」

 

記録。

 

切断。

 

叫び。

 

布。

 

生きる。

 

ほか三人。

 

一人死亡。

 

二人生存。

 

救助。

 

時間。

 

空気。

 

小鳥一羽が弱る。

 

「急げ」

 

---

 

## 六

 

第九倉庫の奥には、壁がなかった。

 

銀塊棚の裏。

 

隠し扉。

 

黒い馬車が通れる幅ではない。

 

人。

 

毒袋。

 

印璽。

 

密輸道。

 

「リヴィアはここから」

 

サルマ。

 

床に黒い糸。

 

手袋の縫い糸。

 

「いつ」

 

「落盤前」

 

一本道。

 

先に敵。

 

後ろはガス。

 

「進む」

 

ハーディ。

 

「罠」

 

「他に」

 

シャヒーンが前。

 

「鉱山は私の道だ」

 

「護衛を」

 

「軍靴は音が大きい」

 

彼女。

 

義手。

 

短槍。

 

坑夫四人。

 

ハーディ。

 

サルマ。

 

マルヤム。

 

王女。

 

「殿下は」

 

「残らない」

 

「王家が」

 

「王家だから」

 

最高火守。

 

「私は負傷者と」

 

老人。

 

呼吸。

 

「火を運ぶ」

 

小さな聖火壺。

 

密閉。

 

「ガスで」

 

「消せる」

 

聖火を自分で消す?

 

祭司。

 

迷う。

 

「人が」

 

マルヤム。

 

アータシュは壺の蓋。

 

火を消す。

 

聖火古教。

 

禁忌に近い。

 

「記録を」

 

彼は言う。

 

「最高火守アータシュ・ナーヴィドは、坑内の生者を守るため火を消した」

 

サルマが書く。

 

火より人。

 

後で裁かれるか。

 

「再びつける」

 

祭司。

 

「外で」

 

---

 

密輸道。

 

狭い。

 

冷たい。

 

上へ。

 

途中。

 

荷車跡。

 

毒袋が破れている。

 

白い粉。

 

「触るな」

 

マルヤム。

 

布。

 

回避。

 

一人の坑夫が咳。

 

粉を吸った。

 

水で口。

 

「吐け」

 

黒根ではない。

 

白石粉。

 

少量でも。

 

「外へ急ぐ」

 

道の先。

 

二つに分かれる。

 

右。

 

風。

 

左。

 

車輪跡。

 

「敵は左」

 

ハーディ。

 

「出口は右」

 

「追う?」

 

王女。

 

「証拠は」

 

サルマ。

 

「逃がせば」

 

「全員が死ねば」

 

選択。

 

シャヒーン。

 

「右へ負傷者。左へ六人」

 

「分けるな」

 

ハーディ。

 

「道は狭い」

 

「敵は一人とは」

 

「罠」

 

「だから」

 

王女が決める。

 

「負傷者と帳簿は右。追跡は左。ただし半刻で戻る」

 

「半刻をどう」

 

水時計なし。

 

「油縄」

 

坑夫。

 

燃える長さ。

 

火は危険。

 

ここは風があり、ガス薄い。

 

細い灯。

 

「火守は消した」

 

誰か。

 

「ここでは」

 

祭司不在。

 

王女。

 

「つけろ」

 

法。

 

現場。

 

---

 

左道。

 

ハーディ。

 

シャヒーン。

 

王女護衛二。

 

坑夫二。

 

ヴァフラムが続こうとする。

 

「領主は」

 

ザレフ。

 

「来い」

 

責任。

 

サルマは帳簿と右へ。

 

マルヤムは負傷者。

 

役割。

 

左。

 

足跡。

 

血。

 

誰か負傷。

 

先に声。

 

女。

 

「王女殿下」

 

リヴィア。

 

暗闇。

 

「火を持たないでください」

 

「姿を」

 

「白石粉が」

 

袋。

 

火では爆発しない? Arsenic dust maybe not explosive. But sulfur dust maybe.

 

「硫黄塩が散っています」

 

火気。

 

危険なガス。

 

「灯りを置け」

 

シャヒーン。

 

「暗闇で」

 

リヴィアの声。

 

「アルカシャは、火を信じすぎる」

 

「ナフルは印を」

 

「どちらも騙された」

 

ザレフ。

 

「あなたも?」

 

「私は騙している側です」

 

正直。

 

「名は」

 

「リヴィア・サン・ジェルマーノ」

 

「本名」

 

「それで十分」

 

「灰冠での役割」

 

沈黙。

 

「杯守?」

 

ハーディ。

 

紫宮から。

 

女が笑う。

 

「人は役職へ名前をつけたがる」

 

「ミハイル帝へ毒を」

 

「私は杯を回しただけです」

 

認める?

 

「毒を塗った者は別」

 

「命令者」

 

「投資委員会」

 

「名前」

 

「複数」

 

責任分散。

 

「塩を盗んだ」

 

「運びました」

 

「三王子契約」

 

「作りました」

 

「目的」

 

「三人を継承候補から外す」

 

明確。

 

「偽の外国契約を、審査会へ送る?」

 

「火口宮の正式写し。聖火証人。鉱山支払帳簿」

 

「本物に」

 

「契約は行われた」

 

「代理が偽」

 

「その証明は、王子側の言葉だけ」

 

だから三使節を別々に呼んだ。

 

各自が自分の契約だけ否定すれば、他二つは疑わしい。

 

三人が集まれば。

 

「予定外だった?」

 

ハーディ。

 

「三使節が共同文を作ったことは」

 

「それでも、三人とも山へ使節を送った」

 

「追跡です」

 

「王位候補が外国と秘密交渉した、と記録できる」

 

「公開しています」

 

「山の民は、ナフルの公開記録を読まない」

 

情報の境界。

 

「落盤は」

 

ザレフ。

 

「誰を殺すため」

 

「証拠を消すため」

 

「我々も」

 

「生き残れば、互いを疑う」

 

「死ねば」

 

「三国事件」

 

「灰冠は」

 

「自由会議」

 

訂正。

 

「会計王は古い名に執着した」

 

「あなたは何に」

 

リヴィア。

 

「結果に」

 

「何のため」

 

「王冠が一つの頭に重すぎることを証明するため」

 

「三帝、三王子、六印」

 

「制度を増やすほど、確認が遅くなる」

 

「だから人を毒で」

 

「一人の決定も、多くを殺す」

 

「なら何がよい」

 

「市場」

 

サルマがいない。

 

財務官なら笑ったか。

 

「金を持つ者が決める?」

 

ハーディ。

 

「危険を負う者が」

 

「死ぬのは別人」

 

「市場が未完成だから」

 

マルケルの初期思想を、さらに冷たく。

 

「あなたは、家族を」

 

ザレフ。

 

「いません」

 

「本当に」

 

声が少し。

 

そこ。

 

「黒い馬車の女は、妹を持つ者を使った」

 

若いレオンティオス。

 

「あなた自身は」

 

「質問が長い」

 

音。

 

石。

 

別道。

 

逃げる準備。

 

「前へ!」

 

ハーディ。

 

暗闇。

 

弩。

 

矢。

 

王女護衛が胸へ。

 

倒れる。

 

「火を!」

 

シャヒーン。

 

灯りを投げる。

 

一瞬。

 

紫衣。

 

黒手袋。

 

左肩に包帯。

 

リヴィア。

 

二人の護衛。

 

背後に縄橋。

 

谷裂け。

 

「撃つな!」

 

ハーディ。

 

生け捕り。

 

護衛が橋を切る。

 

シャヒーンが走る。

 

義手で縄を掴む。

 

半分切れる。

 

王女護衛が敵へ。

 

近接。

 

短剣。

 

リヴィアは橋を渡る。

 

「止まれ!」

 

ザレフ。

 

「王女殿下」

 

リヴィアが振り返る。

 

「王が病んでいることは、いつまで隠しますか」

 

ザレフの顔。

 

同行者が見る。

 

アルカシャ王の病。

 

使節へ知られた。

 

「それも契約へ?」

 

「山の王位も一つです」

 

王女には弟二人。

 

継承。

 

「次はアルカシャか」

 

「もう始まっています」

 

橋。

 

切断。

 

リヴィアは向こう側。

 

暗闇へ。

 

シャヒーンが残った縄へ身を。

 

「無理だ!」

 

「向こうへ道が」

 

「落ちる!」

 

義手。

 

金具。

 

縄。

 

彼女は渡らない。

 

代わりに腰の小斧を投げる。

 

リヴィアの護衛の脚へ。

 

当たる。

 

男が倒れる。

 

リヴィアは見捨てる。

 

逃げる。

 

「助けて!」

 

護衛。

 

谷縁。

 

ハーディたちが引く。

 

敵。

 

証人。

 

「彼女を」

 

男。

 

「灰谷出口」

 

「どこ」

 

地図。

 

彼が吐く。

 

「北壁、火葬塔の下」

 

「時間」

 

「一刻」

 

追いつけない。

 

王女。

 

「出口へ兵を」

 

坑外へ連絡できない。

 

「右道から」

 

戻る。

 

油縄。

 

半分。

 

半刻。

 

追跡終了。

 

リヴィアは逃げた。

 

一人の護衛を残し。

 

証言。

 

---

 

## 七

 

右道は、古い排煙塔へ通じていた。

 

サルマたち。

 

負傷者。

 

帳簿。

 

途中で、木箱。

 

十。

 

重い。

 

銀ではない。

 

書簡。

 

三王子宛。

 

未送付。

 

さらに。

 

アルカシャ王子二人宛。

 

ザレフ王女を退ける条件。

 

長弟へ。

 

《王女は外国人へ鉱山を売った》

 

末弟へ。

 

《火守は女性の王位を認めない》

 

両方偽。

 

一部真実。

 

「次は山の継承」

 

サルマ。

 

帳簿。

 

王アシュヴァル四世の病状報告。

 

薬。

 

黒根。

 

投与量。

 

「王へ毒を?」

 

マルヤム。

 

「治療薬として」

 

少量。

 

医師署名。

 

本物か。

 

「増量すれば」

 

「死ぬ」

 

王の病が自然か。

 

灰冠が。

 

「王女へ」

 

急ぐ。

 

排煙塔。

 

鉄格子。

 

外。

 

雪。

 

灰谷。

 

「開かない」

 

シャヒーン不在。

 

坑夫。

 

楔。

 

負傷者。

 

空気。

 

格子。

 

外側から錠。

 

「誰か!」

 

灰谷。

 

遠くに火葬塔。

 

鐘。

 

「火守の鐘を」

 

最高火守。

 

負傷者と後方にいたが、今は合流? We had highest fire keeper with injured in right maybe yes.

 

彼は聖火壺を持つ。

 

消えている。

 

「火がない」

 

坑夫。

 

「鐘は火葬塔」

 

「距離」

 

声届かない。

 

「煙を」

 

「火を」

 

祭司は空の聖火壺を見る。

 

中に火打石。

 

聖火を消した壺へ、普通の火。

 

教義。

 

「それは聖火では」

 

側近祭司。

 

「今は信号だ」

 

アータシュ。

 

火。

 

布。

 

煙。

 

排煙塔から。

 

外の火葬人が気づく。

 

警報。

 

格子。

 

一刻後。

 

救出。

 

最高火守は、聖火壺に普通の火を入れた。

 

後に、古教法廷で問われる。

 

彼は自分で記録させた。

 

《火は、神聖である前に熱であり、光であり、煙である》

 

保守派は激怒する。

 

坑夫は支持。

 

制度が変わる種。

 

---

 

## 八

 

黒口鉱山の落盤による死者は、最終的に八十七人だった。

 

坑夫。

 

七十六。

 

王女護衛。

 

四。

 

ナフル兵。

 

三。

 

火守従者。

 

一。

 

鉱山書記。

 

二。

 

身元不明。

 

一。

 

負傷。

 

二百以上。

 

坑道内部に残された者。

 

救出まで三日。

 

毒ガス。

 

低酸素。

 

落石。

 

「リヴィアの工作員が支柱を」

 

捕虜。

 

「何人」

 

「十二」

 

「坑夫を買収?」

 

「給金未払い」

 

ヴァフラムの鉱山。

 

三月遅れ。

 

「融資金は」

 

サルマ。

 

「坑道補修ではなく、毒物購入と偽印工房へ」

 

帳簿。

 

ヴァフラム。

 

「私は知らなかった」

 

坑夫たちが怒る。

 

「領主は何も知らない!」

 

「金も!」

 

「死者も!」

 

一人が石を投げる。

 

ヴァフラムの額。

 

血。

 

護衛が剣。

 

ザレフ。

 

「抜くな!」

 

「領主へ」

 

「坑内法だ」

 

山の外でも。

 

「ヴァフラム・ダルヴァズ」

 

王女。

 

「鉱山自治権を一時停止」

 

「殿下!」

 

「火口銀融資組合、外国契約、毒物輸出、給金遅延について公開審査」

 

「私の家は」

 

「鉱山は家ではない」

 

「王家が資金を」

 

「出さなかった責任も審査する」

 

自分側も。

 

「私だけを」

 

「違う」

 

「王室財務院も」

 

「火守も?」

 

最高火守。

 

「巡礼塩契約を確認しなかった」

 

「火の前で」

 

「代理権を」

 

祭司が自分で。

 

「私も審査へ」

 

三権力。

 

全員。

 

「王女殿下も」

 

サルマ。

 

外国人。

 

空気。

 

「なぜ」

 

「王の病を隠し、財務院を止めた」

 

ザレフの目。

 

「内政だ」

 

「その結果、鉱山が灰冠融資へ」

 

「王位争いを避けるため」

 

「ナフル王も病を段階公開しました」

 

「我が国は違う」

 

「山でも、病は隠して治りません」

 

王女は怒る。

 

だが帳簿。

 

父。

 

弟。

 

「審査対象へ」

 

自分も。

 

「ただし、王の病状の詳細は医師と王族監査へ。公表範囲を」

 

段階。

 

「理由と期限を」

 

サルマ。

 

「お前は我が国の法官か」

 

「いいえ」

 

「では命じるな」

 

「提案です」

 

「受ける」

 

ザレフ。

 

---

 

## 九

 

塩の処遇が、最も難しかった。

 

盗品。

 

だが山の冬。

 

坑夫。

 

巡礼者。

 

肉。

 

皮革。

 

返せばアルカシャで死者。

 

残せばナフルの冬備蓄が減る。

 

「全量返還」

 

ハーディ。

 

軍使節。

 

「ナフルで一月不足」

 

最高火守。

 

「こちらでも」

 

「買え」

 

「既に払った」

 

「灰冠へ」

 

「我々も被害者」

 

「なら損失を分ける」

 

サルマ。

 

量。

 

百八十七台。

 

現存。

 

百七十九台分。

 

使用済み。

 

八台。

 

「返還百台」

 

ハーディ。

 

「少ない」

 

マルヤム。

 

「山の人を」

 

「ナフルの人は」

 

「金で補償」

 

「塩は金で保存できない」

 

「輸入を」

 

「冬道」

 

「間に合わない」

 

同じ。

 

ザレフ王女。

 

「我が国は、残りを適正価格で買う」

 

「銀で」

 

サルマ。

 

「銀はある」

 

「価格は」

 

「通常」

 

「盗品リスクを」

 

「なぜ我々が高く」

 

「ナフルは損失」

 

「我々も二重払い」

 

「灰冠資産を差し押さえ」

 

偽印工房。

 

銀塊。

 

口座。

 

「それを購入代金へ」

 

「所有者は」

 

「灰冠自由会議」

 

「被害者資産として共同保全」

 

開帳会式。

 

最終案。

 

塩百台をナフルへ返還。

 

七十九台をアルカシャが買い取る。

 

代金の半分は、偽印工房と火口銀融資組合の凍結銀。

 

四分の一はアルカシャ王室。

 

四分の一は鉱山領主財産。

 

既使用八台分は同じ割合。

 

ナフルへの返還輸送費はアルカシャ負担。

 

「ヴァフラム個人分」

 

領主。

 

「なぜ」

 

「自治権で契約した」

 

「王室も」

 

「負担する」

 

「火守は」

 

「巡礼基金から」

 

三者。

 

責任。

 

「ナフル三王子は」

 

ザレフ。

 

「印の管理責任を」

 

ハーディ。

 

「偽造被害です」

 

「印型は、共同宣言の蝋から」

 

サルマ。

 

ナフル側の管理。

 

「ナフルも輸送費の一部を」

 

マルヤム。

 

他二人が見る。

 

「なぜ」

 

「印型を守れなかった」

 

「盗まれた側が」

 

「山も騙された」

 

損失分担。

 

ナフルは返還後の国内運送費を負担。

 

「王子個人ではなく六印」

 

三人。

 

共同。

 

契約。

 

火の前。

 

今度は代理権を照合。

 

全権状三通。

 

ナフル六印へ照会。

 

返答には十二日。

 

「待つ?」

 

山の冬。

 

暫定。

 

三使節本人の共同署名で塩を動かす。

 

最終承認は六印。

 

「また後で」

 

「期限」

 

二十日。

 

「間に合わなければ」

 

「暫定契約を公開審査」

 

完全ではない。

 

---

 

## 十

 

毒物は返還できなかった。

 

返す先が犯罪者。

 

廃棄すれば、鉱山薬や害獣駆除に必要。

 

保管すれば、再び使われる。

 

「全部焼く」

 

ハーディ。

 

「黒根を焼けば煙が毒」

 

マルヤム。

 

「埋める」

 

「地下水へ」

 

「王国管理」

 

「誰が王か」

 

ザレフの父。

 

病。

 

継承。

 

「共同毒物庫」

 

サルマ。

 

アルカシャ王室。

 

火守医療院。

 

坑夫組合。

 

外国監査?

 

「ナフルが山の毒を」

 

ヴァフラム。

 

「ナフルで人が毒を飲んだ」

 

「我が国の責任では」

 

「輸出した」

 

「偽代理へ」

 

「だから確認」

 

最終。

 

毒物はアルカシャ国内の共同庫。

 

四つの鍵。

 

王室。

 

火守医療院。

 

坑夫組合。

 

都市医師会。

 

外国輸出には、さらに受取国六印または相当共同機関。

 

一回の輸出上限。

 

用途。

 

受取者。

 

期限。

 

使用後残量。

 

「薬一瓶に」

 

医師。

 

「小口は別規則」

 

「抜け道」

 

「量を」

 

黒根一斤未満。

 

白石粉五斤未満。

 

それ以上は共同。

 

「分割購入」

 

「同一受取人は合算」

 

「名義を変える」

 

「実所有者」

 

「また帳簿」

 

制度。

 

灰冠は、複雑さを使う。

 

対抗制度も複雑になる。

 

「管理費は」

 

「毒物輸出税」

 

「輸出を管理するため輸出で稼ぐ?」

 

「必要」

 

危険。

 

税収を守るため、輸出を続けたくなる。

 

「上限を」

 

年間。

 

「医療研究を」

 

「誰が」

 

長い。

 

それでも作る。

 

---

 

## 十一

 

リヴィアの護衛は、三日目に証言した。

 

名。

 

アルカシャ人。

 

ダリク・サヴァン。

 

三十二歳。

 

元坑夫。

 

落盤で弟を失い、ヴァフラム鉱山の補償を受けられなかった。

 

灰冠自由会議が支払った。

 

「リヴィアは」

 

「名は違う」

 

「何と」

 

「《灰杯》」

 

「役職?」

 

「現場では」

 

「本名」

 

「知らない」

 

「家族は」

 

「いないと言っていた」

 

「信じた?」

 

「聞かなかった」

 

「落盤を」

 

「支柱を切った」

 

「坑夫が」

 

「避難警報を先に鳴らす予定だった」

 

「実際は」

 

「鐘役が殺された」

 

「誰に」

 

「無貌部門」

 

また分業。

 

ダリクは落盤で八十七人。

 

「弟の補償のため?」

 

シャヒーン。

 

同じ坑夫。

 

「最初は」

 

「いつから」

 

「鉱山を領主から取り戻すと」

 

「灰冠が?」

 

「融資組合を坑夫共同体へ」

 

「本当に」

 

「契約には」

 

「読んだ?」

 

「一部」

 

「全部は」

 

「読めない」

 

字。

 

「誰が読んだ」

 

「リヴィア」

 

火の前の契約と同じ。

 

朗読者が嘘をつけば。

 

「何と」

 

「領主の負債が増えれば、鉱山所有権が組合へ。組合の半分を坑夫へ」

 

実際の契約。

 

サルマ。

 

「坑夫持分は五分」

 

「五分?」

 

「半分では」

 

「議決権なしの利益持分」

 

「意味は」

 

「利益が出れば配当。決定権なし」

 

「騙された」

 

「はい」

 

シャヒーン。

 

「だから人を埋めた?」

 

「領主を倒すため」

 

「死んだのは坑夫だ」

 

「予定では」

 

「予定では!」

 

彼女の義手が、男の顔を殴る。

 

鉄。

 

歯。

 

護衛が止める。

 

「やめろ」

 

ザレフ。

 

「坑内法なら」

 

「ここは審査場」

 

「死者は坑夫!」

 

「だから裁く」

 

「誰が」

 

「お前たちだけでなく、私も」

 

王女。

 

シャヒーンは怒り。

 

「王女は生きている」

 

「はい」

 

「領主も」

 

「はい」

 

「死んだのは」

 

「八十七」

 

「数字で」

 

「名前を読む」

 

全員。

 

一人ずつ。

 

坑夫。

 

護衛。

 

兵。

 

祭司。

 

身元不明。

 

ダリクも聞く。

 

弟の名前はない。

 

昔の死者。

 

「弟の名も」

 

シャヒーン。

 

「今回では」

 

「だが始まりだ」

 

追加記録。

 

《ダリクの弟、アルメン・サヴァン。三年前の落盤死。補償未払い》

 

原因。

 

灰冠参加の背景。

 

罪を消さない。

 

利用された理由を消さない。

 

「刑は」

 

法廷へ。

 

死刑の可能性。

 

ダリク。

 

「死にたくない」

 

「なぜ」

 

「弟の墓を」

 

「今回の死者は」

 

「分かっている」

 

「生きて働けと?」

 

「それで許される?」

 

「許されない」

 

世界中。

 

同じ場所へ。

 

---

 

## 十二

 

王アシュヴァル四世の病は、完全には公表されなかった。

 

だが、病んでいる事実。

 

執務時間。

 

継承規則を作ること。

 

三点。

 

火口広場で、ザレフ王女が発表。

 

「王は生きている」

 

ナフルと同じ言葉。

 

「重い肺病により、一日一刻のみ執務」

 

「王位継承規則を四十日以内に」

 

民衆。

 

「王女が王に?」

 

「弟は」

 

「火守は女王を」

 

最高火守アータシュが前へ。

 

「聖火古教は、火を守れる者の性を問わない」

 

過去の教義解釈。

 

保守派祭司がざわめく。

 

「以前は」

 

「以前の解釈が、王国を割るなら見直す」

 

自分の立場。

 

「最高火守は、坑内で聖火を消した!」

 

誰かが叫ぶ。

 

噂。

 

「はい」

 

アータシュ。

 

「生者を守るため」

 

「冒涜!」

 

「審査を受ける」

 

「退位を」

 

「法廷が」

 

「火守が法廷へ?」

 

「火の前で嘘をついた契約を見抜けなかった」

 

祭司が自分の権威を下げる。

 

同時に守る。

 

「王女も審査へ」

 

ザレフ。

 

「王の病を隠し、鉱山財務を止めた責任」

 

ヴァフラム。

 

「私も」

 

民衆が怒号。

 

「領主は牢へ!」

 

「坑夫を殺した!」

 

「私は殺していない!」

 

「知らなかった!」

 

最悪の言葉。

 

「だから罪がない?」

 

シャヒーン。

 

「違う」

 

ヴァフラム。

 

初めて。

 

「知らなかった責任を、認める」

 

「何を」

 

「鉱山自治権を、家の所有物と考えた」

 

「実際、領主の」

 

「法では」

 

「では」

 

「法を変える」

 

自分の権限を失う言葉。

 

本心。

 

追い詰められ。

 

両方。

 

黒口鉱山の暫定運営。

 

坑夫組合四席。

 

王室二席。

 

領主家一席。

 

火守医療院一席。

 

計八。

 

ヴァフラム家は一席だけ。

 

「鉱山を奪う!」

 

領主家。

 

「負債を」

 

「王室も」

 

「利益を坑夫へ」

 

「損失も?」

 

「はい」

 

坑道補修費。

 

給金。

 

配当。

 

坑夫は所有権を得る。

 

同時に負債。

 

「灰冠と同じ」

 

シャヒーン。

 

「何が」

 

「利益持分を渡し、危険を押しつける」

 

「では賃金だけ」

 

「決定権も」

 

「損失は国が?」

 

「それも」

 

設計。

 

簡単ではない。

 

暫定四十日。

 

また。

 

---

 

## 十三

 

三使節は、ナフルへ戻る前に、三王子の偽契約を聖火前で焼くかを問われた。

 

アルカシャの古い慣習。

 

無効契約は火へ。

 

「焼けば証拠が」

 

サルマ。

 

「写しを残す」

 

祭司。

 

「原本が」

 

「火が浄める」

 

「証拠を浄めないでください」

 

再び。

 

聖火法。

 

「原本は共同金庫へ」

 

ザレフ。

 

「火へは、無効宣言の写し」

 

妥協。

 

最高火守は、火の前で読む。

 

《本契約は、代理権確認の不備、偽造印、重複担保及び欺罔により無効》

 

《火の前で読み上げられた事実は、真実を保証しない》

 

祭司たち。

 

重い。

 

「最後の文を」

 

保守派。

 

「火を侮辱」

 

アータシュ。

 

「火ではなく、人の読み方を」

 

「削れ」

 

「残す」

 

最高火守の権限。

 

写しを火へ。

 

燃える。

 

原本は残る。

 

人々は、火が契約を消したと思いたい。

 

帳簿は、消えていないと示す。

 

両方。

 

---

 

## 十四

 

塩返還隊は、百台。

 

アルカシャ兵。

 

ナフル使節護衛。

 

坑夫組合監視。

 

火守書記。

 

王室会計官。

 

多い。

 

「盗まれる」

 

ハーディ。

 

「誰が」

 

「全員から」

 

道。

 

雪。

 

狭い。

 

灰冠の襲撃を警戒。

 

だが最初に襲ったのは、アルカシャの山村民だった。

 

「塩を返すな!」

 

百人。

 

農具。

 

弓。

 

「冬に肉が腐る!」

 

「王女は外国へ!」

 

「塩は山のもの!」

 

購入済みと思っている。

 

「七十九台は残る」

 

火守書記。

 

「足りない!」

 

「王室が追加を」

 

「いつ」

 

「春」

 

「冬は」

 

「今」

 

期限。

 

村人。

 

「荷車を」

 

ハーディの兵が槍。

 

「下げろ!」

 

マルヤム。

 

「交渉を」

 

「矢が」

 

一本。

 

兵の盾。

 

誰が先。

 

「撃つな!」

 

ハーディ。

 

村人が荷車へ。

 

塩袋。

 

奪う。

 

兵が押す。

 

一人倒れる。

 

脚。

 

群衆。

 

サルマが荷車上。

 

「七十九台分は、アルカシャ国内で買い取られました!」

 

「どこに」

 

「火口倉庫」

 

「王都のため!」

 

「村へ配る契約を」

 

「聞いてない!」

 

「今、書く」

 

王室会計官が青ざめる。

 

「権限」

 

「王女の緊急塩配給令は」

 

同行。

 

内容。

 

鉱山と巡礼宿。

 

山村が抜けている。

 

「だから」

 

村人。

 

「我々は肉を食うなと?」

 

制度の穴。

 

「七十九台のうち、十台を山村共同配給へ」

 

火守書記。

 

「勝手に」

 

「襲撃報酬になる」

 

ハーディ。

 

奪えば得る。

 

危険。

 

「追加購入分から」

 

「今ない」

 

「百台返還を九十へ?」

 

ナフルの冬。

 

「駄目です」

 

ハーディ。

 

「では村人を撃つ?」

 

マルヤム。

 

「道を開ける」

 

「死者を」

 

「塩を守る」

 

「人も」

 

「両方は」

 

また。

 

村人代表。

 

老女。

 

「一袋ずつ」

 

村百二十戸。

 

「百二十袋」

 

一台分。

 

「それで道を」

 

「施し?」

 

「前払い」

 

春の追加塩から差し引く?

 

「冬を越すため」

 

サルマ。

 

「誰が払う」

 

「アルカシャ王室緊急費」

 

会計官。

 

「ない」

 

「ヴァフラム家」

 

「凍結」

 

「共同鉱山利益から」

 

「まだ」

 

「ナフル使節予備費」

 

ハーディ。

 

「盗品返還に、なぜ」

 

マルヤム。

 

「人を撃たないため」

 

三使節。

 

自分たちの旅費。

 

半分。

 

塩百二十袋を適正価格で買い、村へ緊急販売。

 

無料ではない。

 

払える者。

 

払えない者は春の労働。

 

「借金?」

 

老女。

 

「道補修」

 

「老人は」

 

「村全体で」

 

共同負担。

 

「嫌だ」

 

「では」

 

「受ける」

 

完璧でない。

 

道は開く。

 

「襲えば塩が」

 

別村が真似る。

 

だから記録。

 

《山村配給制度の欠落による緊急措置。襲撃への報酬ではない》

 

言葉。

 

実際は、襲ったから。

 

正直に。

 

《襲撃により欠落が判明》

 

二つ。

 

---

 

## 十五

 

三使節がアルカシャを離れる前夜。

 

ザレフ王女は、三人を火口宮の屋上へ呼んだ。

 

山。

 

火。

 

雪。

 

「リヴィアは逃げた」

 

王女。

 

「灰谷から北」

 

ハーディ。

 

「追跡隊は」

 

「足跡を失った」

 

「黒い馬車」

 

「山外へ」

 

サルマ。

 

「行き先は」

 

「東」

 

「アルサク?」

 

「あるいは聖地諸侯領」

 

「灰冠は」

 

「自由会議」

 

マルヤムが訂正。

 

「名前はどうでも」

 

ザレフ。

 

「我々の国も、次の継承標的です」

 

「王子二人へ書簡」

 

サルマ。

 

「はい」

 

「公開を」

 

「一部」

 

「なぜ」

 

「弟たちが、まだ受け取っていない可能性」

 

「受け取れば」

 

「罠」

 

「公開すれば、王女が弟を疑っていると」

 

「既に疑う」

 

ザレフの顔。

 

「家族です」

 

ナフルと同じ。

 

「三人の王子は」

 

「相互不殺誓約」

 

「守ると思う?」

 

「分かりません」

 

「あなたの弟たちは」

 

「兄は軍。弟は火守派」

 

「王女は」

 

「鉱山都市と王室官僚」

 

三つ。

 

「同じ」

 

「違う」

 

王女。

 

「我が山は、一人の王を求める」

 

ナフルも。

 

「だから規則を」

 

「外国の制度をそのまま入れれば、反発」

 

「そのままでは」

 

サルマ。

 

「火の前で」

 

マルヤム。

 

「何を」

 

「三人が、自分の望みを言う」

 

「王位を?」

 

「はい」

 

「神聖な火の前で野心を」

 

「隠すより」

 

王女は笑う。

 

「ナフルの王子たちは、そんな恥を?」

 

「公開で」

 

「山の王子は、剣を抜く」

 

「抜く前に」

 

ハーディ。

 

「武器を封印する」

 

王女は三人を見る。

 

軍。

 

帳簿。

 

民衆。

 

「あなた方は、別々の王子に仕えている」

 

「はい」

 

「敵では」

 

「まだ」

 

「王が死ねば」

 

三人。

 

答えられない。

 

「それでも同じ塩を」

 

「返します」

 

「なぜ」

 

ハーディ。

 

「一人で持ち帰れないから」

 

サルマ。

 

「契約が重なるから」

 

マルヤム。

 

「塩を食べる人は、王子を選べないから」

 

三つの答え。

 

「どれが正しい」

 

ザレフ。

 

「全部」

 

今度はサルマ。

 

王女は火口を見下ろす。

 

「私は、父が死ぬのが怖い」

 

公では言わない。

 

「王位が?」

 

マルヤム。

 

「弟たちが」

 

ナフル王と同じ。

 

「法を」

 

「四十日」

 

「間に合わなければ」

 

「未完成で公開」

 

「それもナフル」

 

「使えるものは使う」

 

王女。

 

「山は動かないが、道は」

 

サルマ。

 

「誰の言葉」

 

「国境の役人が」

 

「違う形で」

 

王女は頷く。

 

「ナフル王へ、父から書簡を」

 

「病床です」

 

「だから」

 

二人の病んだ王。

 

一つは大河。

 

一つは山。

 

「内容は」

 

「継承規則の交換」

 

外国同士が、自国王位の制度を共有する。

 

危険。

 

同時に灰冠対策。

 

「公開しますか」

 

「病状部分は期限付き封印」

 

「理由を」

 

「書く」

 

学ぶ。

 

---

 

## 十六

 

ナフルへの帰路。

 

百台の塩荷車。

 

三使節。

 

護衛。

 

負傷者。

 

帳簿。

 

偽印。

 

毒物輸出記録。

 

リヴィアの護衛。

 

雪。

 

道。

 

ハーディは、長子へ何を報告するか考える。

 

軍馬契約は偽。

 

だがアルカシャの馬は必要。

 

王位継承後でなく、今、王国として公開購入できる。

 

「殿下は、私が軍馬交渉をしなかったと」

 

副書記。

 

「追跡任務だ」

 

「機会を」

 

「灰冠の契約と混じる」

 

「別契約を」

 

「帰国後、六印で」

 

遅い。

 

でも。

 

サルマは、銀融資を考える。

 

火口銀融資組合は汚染。

 

だが王国冬財政は不足。

 

アルカシャ銀は安い。

 

「次子殿下は」

 

書記。

 

「条件がよければ」

 

「今は契約しない」

 

「なぜ」

 

「相手の財務審査中」

 

「四十日」

 

「待つ」

 

「国庫が」

 

「別を」

 

「高い」

 

「それでも」

 

マルヤムは、巡礼塩を。

 

七十九台の一部が巡礼宿へ。

 

盗品由来。

 

買い直した。

 

「末子殿下は、寄進として」

 

「王子名を入れない」

 

「支持者が」

 

「入れない」

 

「誰の塩と」

 

「アルカシャ山岳共同冬備蓄」

 

「ナフルの金も」

 

「共同契約」

 

王子の功績を消す。

 

また支持を失う。

 

三人は、それぞれ自分の王子へ不利な報告を持ち帰る。

 

軍使節は、軍馬を得ず。

 

財務使節は、銀を借りず。

 

救済使節は、王子名の寄進を認めず。

 

ただ塩を戻す。

 

「殿下方は怒る」

 

ハーディ。

 

「はい」

 

サルマ。

 

「多分」

 

マルヤム。

 

「それでも」

 

三人。

 

荷車。

 

王国へ。

 

---

 

## 十七

 

ナフル国境まで、あと一日。

 

王都から急使。

 

黒い布。

 

死亡を示す。

 

だが鐘の確認符号。

 

六回。

 

間。

 

一回。

 

三医師と市民代表。

 

本物。

 

三使節は道上で立ち止まる。

 

「いつ」

 

ハーディ。

 

「七日前」

 

「七日?」

 

雪で遅れた。

 

「王は」

 

使者。

 

「バイバルス三世陛下は、冬第一月二十三日、夜明け前に崩御」

 

三人。

 

王。

 

病床。

 

小麦。

 

塩。

 

「三王子は」

 

サルマ。

 

「空冠規則を発動」

 

「王冠は」

 

「王宮中央室、六鍵封印」

 

「第一候補封書は」

 

「十日目に開封」

 

「今日は」

 

「七日目」

 

あと三日。

 

「軍は」

 

ハーディ。

 

「東軍、駐屯地維持」

 

「国庫」

 

「小口支払い継続」

 

「民衆」

 

「末子擁立集会が一件。本人が解散」

 

規則。

 

今のところ。

 

「第一候補は」

 

使者も知らない。

 

「我々の報告は」

 

「十日目の前に必要」

 

三王子の外国契約疑惑。

 

偽造証拠。

 

継承資格。

 

もし間に合わなければ、封書開封時に灰冠が契約を公表する。

 

三人とも失格と。

 

「急ぐ」

 

ハーディ。

 

「荷車は」

 

「遅い」

 

「証拠を先に」

 

サルマ。

 

帳簿。

 

偽印。

 

護衛捕虜。

 

「分ける?」

 

これまでの問題。

 

「三組で別道」

 

「また別々に見える」

 

マルヤム。

 

「同じ使節として」

 

「速い者だけ」

 

「誰」

 

騎兵。

 

ハーディ。

 

帳簿は重い。

 

捕虜は。

 

「写しを作る」

 

一夜。

 

三部。

 

主要証拠。

 

三使節共同声明。

 

アルカシャ王女印。

 

最高火守。

 

坑夫組合。

 

鉱山領主。

 

共同。

 

「原本は」

 

塩隊。

 

「写しだけで」

 

「開封を止めるには」

 

「原本がないと」

 

「十日目は三日後」

 

「荷車は五日」

 

「原本を騎兵へ」

 

危険。

 

「全部では」

 

「重要分」

 

封筒。

 

三つ。

 

別騎手。

 

同じ航路ではなく。

 

一通が。

 

それでも三使節本人は一緒に行く?

 

ハーディは速い。

 

サルマとマルヤムは馬に慣れない。

 

「先に行け」

 

サルマ。

 

「軍使節だけが」

 

「共同声明を持つ」

 

「私たちの印」

 

「本人がいないと」

 

「使者として」

 

「灰冠が、長子の軍が証拠を作ったと」

 

「では」

 

マルヤム。

 

「三人とも行く」

 

「塩隊は」

 

「副使へ」

 

「危険」

 

「王国の継承が」

 

優先。

 

三人。

 

最小護衛。

 

捕虜ダリク。

 

証拠箱一。

 

夜通し。

 

山道。

 

雪。

 

馬。

 

サルマが落ちる。

 

腕。

 

続ける。

 

マルヤムの馬が脚を。

 

替える。

 

ハーディは速度を下げる。

 

「先へ」

 

「三人で」

 

最初の共同文。

 

一人だけなら、罠。

 

「間に合わなければ」

 

「未完成と」

 

今度は未到着。

 

「早馬を先に」

 

共同声明写し。

 

三印。

 

出す。

 

本人たちは後。

 

二段。

 

---

 

## 十八

 

ナフル王都では、空の王冠が六つの鍵で封じられていた。

 

バイバルスの遺体は、まだ葬られていない。

 

規則。

 

王位確定前に葬儀を盛大に行えば、誰が喪主かで王位が決まる。

 

そのため遺体は王宮礼拝堂。

 

簡素。

 

三王子は別々の時間に弔問。

 

同時に近づかない。

 

相互不殺誓約。

 

長子ジャマール。

 

「父上」

 

返事なし。

 

次子ユースフ。

 

帳簿を持たず。

 

末子サイード。

 

祈り。

 

三人とも、父の封書に自分の名があると思う瞬間。

 

ないと思う瞬間。

 

七日目。

 

灰冠自由会議が動く。

 

火口宮からの契約写し。

 

三通。

 

匿名で王都広場へ。

 

《長子、軍馬と山岳軍路を秘密契約》

 

《次子、銀融資と塩税を秘密契約》

 

《末子、巡礼路自治権を秘密契約》

 

聖火証人印。

 

アルカシャ王室受付印。

 

鉱山支払帳簿。

 

本物。

 

代理権だけが偽。

 

「三王子全員、継承令違反!」

 

群衆。

 

「失格!」

 

「誰が王に」

 

「六印が!」

 

「軍が作った偽書!」

 

「商人が!」

 

「宗教派が!」

 

三人。

 

審査会。

 

「否定を」

 

ジャマール。

 

「使節報告が」

 

ユースフ。

 

「まだ」

 

サイード。

 

共同文の早馬。

 

到着。

 

雪。

 

濡れ。

 

《三使節共同調査中》

 

《契約代理は偽造》

 

《原本及び証人を搬送中》

 

三印。

 

「使節本人がいない」

 

反対派。

 

「軍使節の印は長子」

 

「財務使節は次子」

 

「救済使節は末子」

 

「三人が組んで隠す!」

 

何を出しても。

 

「封書開封を延期」

 

六印会議。

 

軍印。

 

「予定どおり」

 

財務印。

 

「証拠確認まで」

 

水利印。

 

ナディア。

 

「規則では十日目」

 

首都印。

 

「暴動が」

 

地方印。

 

「延期は王の意思を」

 

法印。

 

「外国契約疑惑は重大」

 

三対三。

 

決まらない。

 

「規則に」

 

王が想定していない。

 

「開封はする」

 

ナディア。

 

「候補名を公開せず、六印だけで確認?」

 

「秘密を増やす」

 

「公開すれば、候補が失格か不明」

 

「封書を開けず延期」

 

「期限違反」

 

選択。

 

「封書の外側に」

 

王の追加文。

 

誰も見ていなかった。

 

《候補資格に重大な新証拠がある場合、十日目に候補名を六印内で確認し、四十日以内に公開法廷へ付す。候補名は法廷開始まで封印》

 

王は考えていた。

 

一部。

 

「六印だけで」

 

「誰かが漏らす」

 

「それも記録」

 

十日目。

 

候補名を六人だけ。

 

三王子も知らない。

 

民衆は怒る。

 

「王を隠す!」

 

「空位を!」

 

軍が動く危険。

 

三王子が共同で広場へ。

 

同じ壇上。

 

「第一候補名を、我々も聞かない」

 

ジャマール。

 

「疑惑が解明されるまで」

 

ユースフ。

 

「候補名を理由に擁立集会を開かない」

 

サイード。

 

「三人とも?」

 

群衆。

 

「はい」

 

「自分が選ばれていても?」

 

「はい」

 

三人。

 

守れるか。

 

「四十日は長い!」

 

「使節は三日以内」

 

早馬報告。

 

「三日待て」

 

サイード。

 

「パンは」

 

「配給継続」

 

「塩は」

 

「返還隊が」

 

「王は死んだ!」

 

一人。

 

静まる。

 

事実。

 

「だから」

 

ジャマール。

 

「父上が作った規則を、最初の十日で破らない」

 

軍人。

 

待つ。

 

---

 

## 十九

 

三使節が王都へ着いたのは、空冠規則十日目の夕方だった。

 

馬。

 

泥。

 

雪。

 

サルマの腕に添え木。

 

マルヤムの顔は青い。

 

ハーディの馬は口から泡。

 

王宮前。

 

群衆。

 

「契約者!」

 

「王子の犬!」

 

石。

 

護衛。

 

三人は別々の門へ行かない。

 

正門。

 

「共同使節です!」

 

ハーディ。

 

「原本を!」

 

サルマ。

 

「証人を!」

 

マルヤム。

 

ダリク。

 

捕虜。

 

「灰冠の男だ!」

 

殺せ。

 

群衆。

 

ナディアが門上。

 

「入れろ!」

 

三使節。

 

王宮中央。

 

六印。

 

三王子は別室。

 

規則。

 

報告。

 

偽代理。

 

偽印工房。

 

毒物。

 

落盤。

 

リヴィア。

 

契約の目的。

 

三王子全員を失格に。

 

「証拠は」

 

原本。

 

アルカシャ共同無効宣言。

 

聖火法の写し。

 

ザレフ王女印。

 

最高火守印。

 

坑夫組合。

 

ヴァフラム。

 

「鉱山領主も」

 

「審査対象」

 

「王女も」

 

「はい」

 

「外国が自国の責任を認めた?」

 

「一部」

 

サルマ。

 

「ナフルの責任は」

 

「印管理、塩務院監査、三使節の分離」

 

「王子本人は」

 

「契約命令なし」

 

「完全に無罪?」

 

ハーディ。

 

「長子殿下は、アルカシャ軍馬を必要としていた」

 

サルマ。

 

「次子殿下は、銀融資を検討していた」

 

マルヤム。

 

「末子殿下は、巡礼宿自治を議論した過去がある」

 

三人。

 

灰冠は、本人の本当の望みへ偽契約を。

 

「だから、完全な作り話では」

 

ナディア。

 

「はい」

 

「しかし署名、代理、条件は」

 

「偽造」

 

「使節として秘密交渉を?」

 

「調査中に、正規契約の機会はあった」

 

ハーディ。

 

「結ばなかった」

 

「なぜ」

 

「六印承認がない」

 

学んだ。

 

六印。

 

三対三から。

 

証拠を確認。

 

三王子の候補資格。

 

維持。

 

「第一候補名を」

 

六印。

 

開封。

 

六人だけ。

 

紙。

 

王の字。

 

誰か。

 

顔。

 

誰も声にしない。

 

「候補は」

 

記録官。

 

「資格を維持」

 

それだけ。

 

封印。

 

三王子へ。

 

《第一候補は資格を維持。名は四十日法廷開始まで非公開》

 

「私か」

 

三人とも思う。

 

「なぜ言わない」

 

ジャマール。

 

「王命」

 

「父上は死んだ」

 

「だから残した命令」

 

ユースフ。

 

「漏れれば」

 

「六人の誰か」

 

サイード。

 

「疑うな」

 

自分へ。

 

空の王冠は、さらに四十日空く。

 

前例なし。

 

市場。

 

軍。

 

民衆。

 

耐えられるか。

 

「暫定行政を」

 

六印。

 

三王子は候補であり、執行権なし。

 

父の遺体。

 

葬儀。

 

誰が喪主。

 

三人共同。

 

同じ棺の三辺。

 

四辺目は六印代表。

 

王冠なし。

 

バイバルスは、宝石の欠けた冠を被らず葬られる。

 

冠は空の部屋。

 

「父上は」

 

サイード。

 

「冠なしを望んだ?」

 

封書別紙。

 

《王冠は、次王が誓約を終えるまで私の棺へ入れるな》

 

最後まで。

 

---

 

## 二十

 

バイバルス三世の葬儀は、王位を決めないため、短く行われた。

 

だが民衆は長い列。

 

洪水。

 

欠けた冠。

 

小麦船。

 

老王。

 

批判した者も。

 

王宮の薔薇園を便所にした王。

 

自分の像を堤防へ。

 

友カリムの軍権を奪った王。

 

三人の息子を公に疑った父。

 

棺。

 

長子。

 

次子。

 

末子。

 

三人が持つ。

 

誰が前か。

 

棺は四人で。

 

前左ジャマール。

 

前右ユースフ。

 

後左サイード。

 

後右アブドゥル・ラーマン。

 

村長。

 

「なぜ平民が」

 

貴族。

 

王の遺言。

 

《洪水の時、王宮へ便所を求めた者を、棺の一角へ》

 

笑い。

 

泣く。

 

アブドゥルの杖は持てない。

 

別の者が。

 

「重い」

 

老人。

 

「王だから?」

 

ジャマール。

 

「棺が」

 

現実。

 

四人。

 

墓。

 

冠なし。

 

土。

 

サイードが祈り。

 

宗教法官。

 

刻印民代表。

 

水利。

 

軍。

 

複数。

 

一人の王の葬儀へ、多くの声。

 

完全な統一ではない。

 

---

 

葬儀後。

 

三王子。

 

父の私室。

 

空。

 

杯。

 

抽選札。

 

黒パンの皿。

 

「第一候補は」

 

ジャマール。

 

「また」

 

ユースフ。

 

「知りたい」

 

「私も」

 

サイード。

 

「四十日」

 

「父上の死から?」

 

「法廷開始まで」

 

「長い」

 

「国が」

 

「六印」

 

「父上は、我々を王にしないつもりか」

 

ジャマール。

 

「一人は」

 

「第一候補」

 

「三人以外かも」

 

サイード。

 

三人。

 

「それでも誓約を」

 

ユースフ。

 

相互不殺。

 

公開異議。

 

「守る」

 

サイード。

 

ジャマールは窓。

 

軍。

 

「第一候補が弟なら」

 

「異議は一度」

 

「それで」

 

「兵を動かす前に」

 

「法廷が弟側なら」

 

「父上の問い」

 

負ける練習。

 

カリム。

 

「分かっている」

 

長子。

 

「でも、できるかは」

 

「今決める」

 

サイード。

 

「何を」

 

「候補名が出る前に、三人で」

 

「また契約」

 

「はい」

 

追加誓約。

 

《第一候補名公開後、三人は七日間、軍・資金・群衆を動かさず、互いの家族と側近を拘束しない》

 

「七日で暗殺者が」

 

ジャマール。

 

「共同護衛」

 

「誰を信用」

 

「六印」

 

「六印も分裂」

 

「三人から一人ずつ護衛を出し、混成」

 

「敵が内部に」

 

「完璧でない」

 

ユースフ。

 

「それでも」

 

署名。

 

父がいない。

 

三人自身。

 

---

 

## 二十一

 

アルカシャから戻った塩百台は、王都へ到着した。

 

バイバルスの葬儀翌日。

 

人々は塩荷車を見る。

 

「王が死んだ日に」

 

「遅い」

 

「戻った」

 

一月分すべてではない。

 

百台。

 

不足の半分以上。

 

残りは買い取り代金。

 

「誰の功績」

 

支持者。

 

軍使節。

 

財務使節。

 

救済使節。

 

また。

 

三使節は共同報告会。

 

ハーディ。

 

「兵が守った」

 

サルマ。

 

「帳簿が契約を」

 

マルヤム。

 

「山の民も塩を必要とした」

 

「結局」

 

「共同」

 

群衆は分かりにくい話を嫌う。

 

「どの王子が」

 

「三人とも、契約していない」

 

歓声にならない。

 

功績がない。

 

それが成功。

 

「王子が何もしなかった?」

 

一人。

 

「使節を送った」

 

「別々に」

 

「はい」

 

「金の無駄」

 

「最初は」

 

サルマ。

 

「そのため、罠に入りかけた」

 

「では失敗」

 

「失敗を途中で変えた」

 

市民は、完全な英雄を求める。

 

三使節は与えない。

 

---

 

## 二十二

 

アルカシャでは、黒口鉱山審査会が始まった。

 

ザレフ王女。

 

最高火守。

 

ヴァフラム。

 

三人とも被審査者。

 

同時に国家運営者。

 

「審査中は権限停止」

 

坑夫組合。

 

「全員止めれば国が」

 

「暫定代理」

 

「誰」

 

王女の弟?

 

火守副官?

 

領主家?

 

争い。

 

最終。

 

王女は王室権限を維持するが、鉱山・外国契約への単独権限停止。

 

最高火守は宗教儀礼を維持するが、契約証人権停止。

 

ヴァフラムは領地管理を維持するが、鉱山財務権停止。

 

機能と疑惑を分ける。

 

「中途半端」

 

両側。

 

それでも。

 

聖火壺へ普通の火を入れた件。

 

宗教法廷。

 

アータシュ。

 

「聖火を汚したか」

 

「聖火は消えていた」

 

「壺を」

 

「信号に使った」

 

「神聖器を」

 

「人を救うため」

 

「ほかの火を」

 

「時間が」

 

「また」

 

判決。

 

最高火守位は維持。

 

四十日の儀礼停止。

 

その間に、《緊急時に聖器を人命救助へ用いる規則》を作る。

 

保守派は離脱。

 

《純火派》。

 

王女の弟を支持。

 

灰冠が残した亀裂。

 

制度が強くなっても、派閥は増える。

 

リヴィアの言葉。

 

《もう始まっている》

 

正しい。

 

---

 

## 二十三

 

灰冠自由会議は、アルカシャ計画を失敗と成功の両方で記録した。

 

《三王子外国契約偽造、発覚》

 

《三王子継承資格剥奪、未達》

 

《ナフル空冠規則、維持》

 

《王死亡、自然》

 

《候補名非公開期間延長、政治的不安定》

 

《アルカシャ王病状、公開》

 

《山岳継承争い、開始》

 

《黒口鉱山偽印工房、喪失》

 

《毒物共同管理制度、敵強化》

 

《鉱山領主権縮小》

 

《火守派分裂》

 

《現場指揮者リヴィア、退避》

 

無貌。

 

「工房を失った」

 

新しい黒雪。

 

「型は複製済み」

 

「三王子印は」

 

「使いにくい」

 

「候補名を」

 

「六印の誰か」

 

「買える?」

 

「金では」

 

「家族」

 

「全員、保護」

 

「疲労」

 

また。

 

四十日。

 

会議。

 

葬儀。

 

配給。

 

「第一候補が誰か、我々が先に公表する」

 

「本物を知らず」

 

「三人分、別々に」

 

「偽の候補名?」

 

「軍へ長子」

 

「市場へ次子」

 

「貧民区へ末子」

 

「すでに皆そう思う」

 

「確信へ変える」

 

「同時に」

 

三つの真実。

 

一つの王冠。

 

「七日不動誓約が」

 

「支持者は署名していない」

 

三王子本人が動かなくても。

 

軍。

 

商人。

 

民衆。

 

「次の四十日は」

 

黒雪。

 

「王子を動かすな」

 

「周りを動かせ」

 

灰冠は、個人から制度へ。

 

制度から支持者へ。

 

常に外側へ移る。

 

---

 

## 二十四

 

空冠規則二十日目。

 

ナフル王都で三種類の号外が撒かれた。

 

東軍地区。

 

《故王第一候補、長子ジャマール》

 

王室封書の写し。

 

軍総監府印。

 

本物に見える。

 

市場地区。

 

《第一候補、次子ユースフ》

 

会計院保管印。

 

本物に見える。

 

東岸貧民区。

 

《第一候補、末子サイード》

 

刻印民金庫保管印。

 

本物に見える。

 

三つ。

 

互いに違う。

 

「偽書!」

 

六印。

 

だが誰が本物か言えない。

 

否定すれば、本物の候補名を推測される。

 

「第一候補は三人のうち誰か?」

 

記者。

 

六印は答えない。

 

「三人以外?」

 

答えない。

 

沈黙が、三つの偽書を生かす。

 

東軍が歓声。

 

商人が両替所へ。

 

貧民区で歌。

 

三王子は七日不動誓約を発動するか。

 

候補名は公式公開されていない。

 

「今から」

 

サイード。

 

「偽書でも支持者が」

 

ユースフ。

 

「七日間、動かない」

 

ジャマール。

 

「軍は」

 

「駐屯」

 

「市場は」

 

「小口支払い」

 

「集会は」

 

「王名を掲げない」

 

三人共同声明。

 

《三通すべて未確認》

 

《三王子は、いずれも第一候補を名乗らない》

 

「自分が本物でも?」

 

記者。

 

「はい」

 

三人。

 

支持者。

 

不満。

 

「弱い!」

 

「王位を奪われる!」

 

「今動かなければ!」

 

灰冠の目的。

 

三人本人は動かない。

 

周囲。

 

東軍の若手将校が、ジャマール旗を独自掲揚。

 

会計院商人が、ユースフ即位債券を販売。

 

東岸説教師が、サイード王宣言。

 

三王子が止める。

 

命令が届くまで。

 

一日。

 

その一日で。

 

債券。

 

兵。

 

群衆。

 

「支持者が命令を」

 

ジャマール。

 

「自分の軍だと思っていた」

 

カリムの言葉。

 

「違う」

 

ユースフ。

 

「自分の市場も」

 

サイード。

 

「自分の民も」

 

人は、支持されると所有していると錯覚する。

 

支持者は、自分の判断で動く。

 

三人の王子は、初めて共通の敵が灰冠だけでないと知る。

 

自分たちを王にしたい人々。

 

善意。

 

利益。

 

恐怖。

 

誇り。

 

---

 

## 二十五

 

七日不動期間の最終日。

 

六印は、第一候補の公開法廷日を決めた。

 

空冠規則四十日目。

 

あと十三日。

 

「遅い!」

 

「今すぐ!」

 

「偽書を」

 

「証人を集める」

 

アルカシャ使節。

 

塩務院。

 

偽鐘。

 

外国契約。

 

三王子審査。

 

全部。

 

「王位を裁判で」

 

「故王の指名は」

 

「資格確認」

 

「誰が被告」

 

「第一候補」

 

名前は当日まで。

 

「本人も知らない?」

 

「はい」

 

三人。

 

「準備を」

 

「三人とも同じ資料」

 

公平。

 

「王にならない者も」

 

「異議のため」

 

「候補が三人以外なら」

 

「王族名簿」

 

不安。

 

---

 

その夜。

 

三王子は、父の墓へ別々に行こうとした。

 

同じ時刻。

 

墓前で顔を合わせる。

 

「偶然?」

 

ユースフ。

 

「侍従が」

 

サイード。

 

「同じ時刻を」

 

ジャマール。

 

父の仕掛けではない。

 

死者は予定していない。

 

「帰るか」

 

「三人で」

 

墓。

 

冠なし。

 

石。

 

《バイバルス三世。奴隷兵、将軍、王。大河の水をすべて止めることはできなかった》

 

王自身が生前に選んだ碑文。

 

「誰が第一候補だと思う」

 

サイード。

 

「私」

 

ジャマール。

 

「私も自分」

 

ユースフ。

 

「私も」

 

三人。

 

笑う。

 

苦い。

 

「全員、父上を自分に都合よく」

 

「息子だから」

 

「候補名が出たら」

 

ジャマール。

 

「七日誓約は終わる」

 

「相互不殺は」

 

「続く」

 

「公開異議」

 

「一度」

 

「負けられる?」

 

サイードが兄へ。

 

「分からない」

 

ジャマール。

 

次子へ。

 

「お前は」

 

「帳簿上、負けを計算できる」

 

「心は」

 

「分からない」

 

末子。

 

「私は、民が王と呼べば」

 

「断れる?」

 

「分からない」

 

三人。

 

正直。

 

「父上は、なぜ一人を選んだ」

 

サイード。

 

「国に一人が必要」

 

ジャマール。

 

「制度は複数」

 

ユースフ。

 

「王冠は一つ」

 

墓。

 

欠けた冠は王宮にある。

 

「誰が選ばれても」

 

ユースフ。

 

「残り二人が国を離れる案を」

 

「なぜ」

 

「内戦を避ける」

 

「逃亡と」

 

「大使」

 

「外国へ?」

 

アルカシャ。

 

セレスタ。

 

聖座。

 

「人質になる」

 

「国内にいれば旗になる」

 

どちらも。

 

「決めるのは公開後」

 

ジャマール。

 

「今決めると」

 

「逃げ道を作る?」

 

「はい」

 

「父上なら」

 

「先に作れと」

 

三人。

 

選ばれなかった二人の地位。

 

一人。

 

軍監督?

 

財務監査?

 

巡礼・地方?

 

能力に沿えば、新王がライバルへ権限を。

 

危険。

 

権限なしなら支持者が反乱。

 

「王冠を一人」

 

ユースフ。

 

「統治を三人?」

 

「三帝」

 

ジャマール。

 

「毒杯」

 

「でも続いた」

 

「ナフルに合わないと父上」

 

「合う形へ」

 

サイード。

 

「新王が最終印。残り二人が監査印?」

 

「拒否権?」

 

「分野限定」

 

「軍を兄に」

 

「私が王でなければ、軍を私へ?」

 

「危険」

 

「財務をお前へも」

 

「同じ」

 

「地方救済を」

 

「支持基盤」

 

全部危険。

 

「だから六印が」

 

既にある。

 

「王子を入れない」

 

「そのまま」

 

「選ばれなかった二人は、六印へ入らない」

 

「では何を」

 

「公開異議権と、無給の王族顧問」

 

「何もできない」

 

「それがよい?」

 

ジャマールは墓石へ。

 

「負ける練習」

 

カリム。

 

「私は、できるか分からない」

 

「でも紙へ」

 

「今は書かない」

 

「なぜ」

 

「候補名の後、自分に有利な文を作る」

 

正直。

 

「なら今」

 

ユースフ。

 

「候補を知らないうちに」

 

三人は墓前で、最後の誓約を書く。

 

《選ばれなかった王子は、軍・財務・宗教組織の単独指揮権を持たない》

 

《新王の顧問就任は、六印中四印の承認》

 

《国外退去を強制しない》

 

《本人が国外任務を選ぶ場合、家族を人質として残さない》

 

《相続財産は法に従い保持。ただし私兵と秘密外国契約を禁止》

 

自分たちを弱くする。

 

誰が負けても。

 

署名。

 

墓を証人にしない。

 

死者は署名できない。

 

三人だけ。

 

翌朝公開。

 

支持者は怒る。

 

「王子自ら手足を!」

 

「灰冠に勝てない!」

 

「弟を恐れた!」

 

「兄を!」

 

それでも。

 

---

 

空冠規則四十日目まで、あと十二日。

 

ナフルでは、三王子の誰が王になるか分からない。

 

アルカシャでは、王女と二人の王子が火の前で自分の野心を語る準備をしている。

 

セレスタでは、開帳会が黒口鉱山の印型一覧を複製する。

 

紫宮では、ミハイルが左手でアルカシャ毒物規則へ署名する。

 

聖座では、ルキウス十世が聖火古教の火守へ書簡を書く。

 

宗派は違う。

 

だが聖器を人命救助へ使った祭司へ。

 

《椅子も壺も、人のために作られた》

 

教皇の言葉。

 

アータシュは返事を。

 

《火は、人が作ったのではない》

 

二人の論争は始まる。

 

戦争ではなく。

 

まだ。

 

---

 

そして灰谷のさらに東。

 

雪のない乾いた高原を、紫衣の女が進んでいた。

 

リヴィア・サン・ジェルマーノ。

 

あるいは別の名。

 

黒い手袋。

 

左肩の傷。

 

護衛は一人減った。

 

偽印工房は失った。

 

塩契約は崩れた。

 

三王子は失格にならなかった。

 

それでも彼女は急がない。

 

「空冠法廷まで十二日」

 

御者。

 

「間に合いません」

 

「ナフルへは戻らない」

 

「では」

 

「次の王が決まった瞬間、失うものを用意する」

 

「何を」

 

「国境」

 

地図。

 

ナフル王国南東。

 

アルカシャ。

 

アルサク・スルタン国。

 

オルシャ聖地諸侯領。

 

四国が接する高原。

 

古い巡礼路。

 

塩の道。

 

軍馬の道。

 

銀の道。

 

「新王が最初に必要とするものは」

 

「承認」

 

「国外からの?」

 

「国内の王冠は、外国が認めると重くなる」

 

「誰に認めさせる」

 

「全員に、別の条件で」

 

長子なら軍事同盟。

 

次子なら債務承認。

 

末子なら巡礼保護。

 

候補が別人でも。

 

「契約をまた」

 

「今度は偽造しない」

 

「本物を?」

 

「新王は、即位直後に急ぐ」

 

期限。

 

承認。

 

市場。

 

軍。

 

民。

 

「その時、最初の外国書簡を届ける」

 

「誰の名で」

 

リヴィアは、三つの封筒を見る。

 

アルカシャ王女。

 

アルサク・スルタン。

 

オルシャ六席。

 

すべて偽ではない。

 

署名者の一部は、本当に新王へ条件を出したい。

 

灰冠は嘘だけを運ばない。

 

人々が言いたい本当の要求を、最も悪い順番で届ける。

 

火を抱く山は、崩れなかった。

 

だが山から延びる三本の道は、空の王冠へ向かっていた。

 

王を選ぶ法廷は、国内にある。

 

王を縛る契約は、すでに国境の外で待っていた。

 

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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