空の王冠は、空ではない。
誰も被っていないあいだ、人々はそこへ自分の望む顔を入れる。
兵士は将軍の顔を。
商人は帳簿を読む王の顔を。
貧民は自分の言葉を聞く王の顔を。
貴族は古い権利を守る王を。
役人は命令を変えない王を。
罪人は赦す王を。
被害者は赦さない王を。
王冠が一つしかないからこそ、すべての望みは同じ場所で押し合う。
そして、誰か一人がそれを被った瞬間。
残りの顔は、王冠の外へ追い出される。
灰暦八百七十三年、冬第一月。
バイバルス三世の死から四十日目。
宝石を二つ失ったナフル王冠は、王宮中央法廷の鉄格子の内側に置かれていた。
鍵は六つ。
軍。
財務。
水利。
首都。
地方。
法。
一人では開けられない。
王冠の前には、三つの椅子。
長子ジャマール。
次子ユースフ。
末子サイード。
どの椅子が王の椅子になるか。
故王の封書だけが知っている。
少なくとも、そう信じられていた。
---
## 一
夜明け前、六部の封書が中央法廷へ集められた。
王宮保管庫。
水利庁。
王立会計院。
軍総監府。
刻印民共同金庫。
聖座使節保管庫。
六つの箱。
六つの道。
六つの護衛。
一部が奪われても、残りがある。
一部が偽造されても、照合できる。
それでも、中央法廷へ運ぶ最後の百歩が最も危険だった。
王宮回廊。
壁。
柱。
窓。
人間。
「箱を床へ置くな」
水利副長官ナディア。
「罠を?」
「入れ替えを」
「六箱すべて?」
「一つでも」
軍印を預かるファリド・イブン・ハサンは、箱の下へ鏡を差し入れた。
鏡はアルカシャ製。
磨いた銀板。
爆薬のない時代でも、油。
針。
毒。
底に異常なし。
会計印代理サルマ・ベン=ナタンは、箱の重さを量る。
輸送前記録と一致。
首都印代表ライラ・ビント・マフムードは、封蝋の気泡まで確認した。
地方印代表アブドゥル・ラーマンは、細かい印を見ても分からない。
「私がいて役に立つのか」
老人。
「鍵を持っています」
法印のカーディー・サフワーン。
「それだけ?」
「それが重要です」
「字を読めなくても?」
「王の候補名は読めるでしょう」
「王子三人の名なら」
アブドゥルは杖を壁へ立てかける。
「外国人の名なら困る」
誰も笑わなかった。
故王が三人以外を選んだ可能性。
王族の従弟。
将軍。
官僚。
あるいは、封書へ名前がない可能性。
鉄格子の前。
六人。
六箱。
「開けます」
サフワーン。
「同時に」
六つの蓋。
中。
白い封筒。
故王の指輪印。
封筒の重さ。
紙。
透かさない。
「各自、別室で読む」
「候補名だけ?」
ファリド。
「全文」
「六人が同じ内容を確認後、公開法廷で開封を再現」
「今読めば、我々は先に知る」
ライラ。
「規則です」
「顔に出る」
アブドゥル。
「出さないでください」
「老人へ難しいことを」
六室。
扉。
封を切る。
紙の音。
名。
理由。
第二候補。
条件。
六人が読む。
別々に。
最初に出てきたのは、ファリドだった。
軍人。
顔を動かさない訓練。
それでも顎が固い。
次にサルマ。
紙を持つ指が白い。
ナディア。
長く息を吐く。
ライラ。
目を閉じる。
サフワーン。
何も言わない。
最後にアブドゥル。
「王は」
老人が言いかける。
全員が止める。
「まだ」
ナディア。
「分かっている」
アブドゥルは口を閉じる。
六枚を中央机へ。
一字ずつ照合。
候補名。
同じ。
理由。
同じ。
第二候補。
同じ。
署名。
同じ。
「偽造の可能性」
ファリド。
「六部すべてなら」
サルマ。
「王が書いたことと、正しいことは別」
ナディア。
誰も反論しない。
「公開法廷へ」
サフワーン。
王を選んだ死者の意思を、生者が審査する。
---
## 二
王宮外庭には、四万人が集まっていた。
全員は法廷へ入れない。
広場。
屋根。
塔。
街路。
朗読人を五十人。
同じ文を順に伝える。
誤りを防ぐため、二人一組。
一人が読み。
一人が写しと照合。
それでも、広場の端へ届くころには言葉が変わる。
《候補資格審査》
が、
《王子裁判》
となり。
《故王封書》
が、
《王の遺言》
となる。
遺言の方が重く聞こえる。
中央法廷。
三王子。
同じ高さの椅子。
王冠は鉄格子の奥。
空の高座。
故王の椅子には誰も座らない。
最初に、アルカシャ使節報告が読まれた。
ハーディ。
サルマ。
マルヤム。
三人。
軍使節。
財務使節。
救済使節。
偽造された三契約。
軍馬。
銀。
巡礼路。
偽印工房。
毒物。
黒口鉱山落盤。
死者八十七。
リヴィア・サン・ジェルマーノ。
あるいは《灰杯》。
「三王子は、外国契約を命じたか」
法印サフワーン。
ハーディ。
「長子ジャマール殿下は、アルカシャ軍馬の必要性を認識していました」
広場がざわめく。
「だが、当該契約を命じていません」
「秘密交渉は」
「行っていません」
「使節として、正規軍馬契約の機会は」
「ありました」
「結んだか」
「いいえ。六印承認がないため」
ジャマールはハーディを見る。
軍馬は必要だった。
使節が契約しなかったことへ、不満もある。
だが表情を動かさない。
サルマ。
「次子ユースフ殿下は、アルカシャ銀の融資条件を調査する意向を持っていました」
商人席。
「当該偽契約は命じていません」
「火口銀融資組合と接触は」
「書面照会前に、不正口座と判明」
「契約は」
「なし」
マルヤム。
「末子サイード殿下は、南部巡礼路の保護と、外国巡礼宿の法的地位を検討していました」
宗教席。
「自治権を与えたか」
「いいえ」
「無償塩寄進を」
「命じていません」
「似た政策は」
「主張していました」
三人の本当の望み。
灰冠は、完全な嘘を作っていない。
「三王子の印は」
アルカシャで発見された型。
公開。
同じ蝋から複製。
《青い蓮》共同宣言。
共同で押した印が、三人別々の偽命令へ。
「印管理責任は」
サフワーン。
三王子全員。
「あります」
ジャマール。
「あります」
ユースフ。
「あります」
サイード。
候補資格。
六印投票。
長子。
五対一。
維持。
一票の反対は財務印代理サルマ。
「理由」
「外国軍馬契約を必要と考えていたこと自体ではありません」
「では」
「最初の灰冠書簡を父王へ即時報告しなかった」
ジャマールは受ける。
次子。
六対零。
維持。
ただしサルマは投票を辞退。
「私が次子殿下の元側近と見られるため」
代わりに会計院副監査官イスハーク・ベン=ダウド。
賛成。
末子。
五対一。
維持。
反対は法印サフワーン。
「最初の無償小麦書簡を、王へ提出する前に広場で公開した」
サイード。
「認めます」
「民衆支持を得る効果を知っていた」
「はい」
三人とも残った。
第一候補の名を読む資格がある。
---
## 三
六つの封書が、群衆の前へ置かれた。
今度は、代表六人が同時に封を切る。
既に一度読んでいる。
だが公開手続。
朗読は法印サフワーン。
「故バイバルス三世の名と印により」
広場。
静か。
「我が死後、ナフル王冠の第一候補として」
三王子。
ジャマールの背筋。
ユースフの手。
サイードの唇。
「次子、ユースフ・イブン=バイバルスを指名する」
音が消えた。
次の瞬間。
市場側から歓声。
「ユースフ王!」
軍人地区から怒号。
「長子を!」
東岸から悲鳴に近い声。
「サイードではない!」
朗読人の声が届く前に、候補名だけが走る。
《ユースフ》
《次子》
《商人王》
《帳簿王》
《灰冠が選んだ》
誰か。
「偽書だ!」
六部。
「会計院が!」
「刻印民が王を買った!」
サルマへ石。
鉄格子へ当たる。
兵が盾。
ジャマールは座ったまま。
サイードも。
ユースフだけが立ちかける。
サフワーン。
「まだ全文があります」
候補は王ではない。
朗読。
故王の字。
《ジャマールは、軍を止める力を持つ。だが脅威を見れば、確認より先に軍を動かそうとする》
軍人が怒る。
ジャマールは動かない。
《サイードは、人の声を聞く力を持つ。だが目の前の一人を救うため、明日の千人が必要とする穀物を軽く見ることがある》
東岸。
罵声。
サイードは下を見る。
《ユースフは、国家が支払えるものと支払えないものを知る》
商人席。
《ゆえに、洪水と冬と債務の後に、第一候補とする》
ユースフの顔。
《ただし、ユースフは帳簿へ記されない者を見失う》
広場。
少し静まる。
《数えられない痛みを、存在しない費用として扱う危険がある》
ユースフの指。
《よって、ジャマールが軍を、サイードが民の声を、六印が王の誤りを監視することを条件とする》
《一人へ王冠を与えるが、一人へ国を与えない》
《ユースフがこの条件を拒む場合、第二候補の封書を開け》
第二候補の名は別紙。
非公開。
「以上」
法廷。
王の選択。
同時に、王への不信。
父は次子を選んだ。
だが一人では足りないと書いた。
「ユースフ候補」
サフワーン。
「立ってください」
ユースフが立つ。
歓声。
罵声。
「王ではありません」
最初の言葉。
「候補です」
「王!」
市場。
「違います」
ユースフ。
「まだ、故王の指名を受けただけです」
「受けるか」
「審査と異議を聞いた後に答えます」
商人たちが不満。
即位を。
市場安定。
外国承認。
「今、受けろ!」
「軍が動くぞ!」
「末子を!」
ユースフは座らない。
「異議申立て権を」
三王子誓約。
選ばれなかった二人は一度。
最初に立ったのはジャマールだった。
軍人席から歓声。
「異議あり」
広場が爆発する。
「長子を!」
兵が槍。
「静粛に!」
六印。
ジャマールは弟を見る。
「第一候補指名そのものへ、異議を申し立てるのですか」
サフワーン。
「違う」
歓声が止まる。
「では」
「候補資格の財務利益相反へ」
ユースフ。
目。
「《青い蓮》入港保証債券」
ジャマール。
「ユースフは自らの荘園財産で購入した」
「公開済みです」
ユースフ。
「利息を放棄した」
「元本返済は受ける」
「はい」
「王になれば、返済順位を決める側になる」
市場がざわめく。
「さらに、会計院上級官サルマは候補の近臣と見られている」
「投票を辞退しました」
「今後も財務印へ影響する」
サルマの顔。
「私の異議は、弟が王に適さないというものではない」
ジャマール。
軍人が困惑。
「王になる前に、候補個人の債券と外国保証に関する権利を、本人の手から外せ」
「兄上」
「軍人が、自分の軍を王位へ使えないのと同じだ」
自分も。
「私は東軍印を返す」
広場。
ジャマールは腰袋から、古い青銅印を出した。
東軍総監時代。
王子の私印ではない。
兵たちが従う印。
既に正式権限は停止。
だが象徴。
机へ置く。
短剣。
印柄を二つに割る。
金属。
一度では。
二度。
割れる。
軍人席。
声なし。
「私の名で軍を動かす者は、私の兵ではない」
ジャマール。
「弟も、自分の名で金を動かせないようにせよ」
異議。
一度。
王位を求めるためでなく、王を縛るために使った。
ユースフは、自分の債券証書をサルマへ渡す。
「会計院ではなく」
サルマ。
「六印共同信託へ」
「元本は」
「王位在任中、返済停止」
「王を退いた後は」
「公開審査」
「死亡した場合」
「国家へ寄付?」
ユースフは一瞬。
自分の財産。
「半分を遺族へ、半分を共同備蓄基金」
「なぜ遺族」
「私の荘園で働く者の財産でもある」
「個人だけではない?」
「はい」
帳簿。
異議は採用。
六対零。
ジャマールの一度は終わる。
---
## 四
次にサイードが立った。
東岸から歓声。
「異議あり」
市場側が怒る。
「末子が!」
「民衆王を!」
サイードは手を上げる。
「私を王と呼ぶな」
支持者の声が少し弱くなる。
「異議は、候補の帳簿に記されない者について」
ユースフ。
父の手紙。
「具体的に」
法印。
「洪水で戸籍を失った者」
「居住札が三印揃わない者」
「宗教税記録へ載らない者」
「移民」
「孤児」
「家族を失い、証人二名を持たない者」
「帳簿に名がないから、配給、帰還、裁判を拒まれた」
「既に暫定制度を」
ユースフ。
「暫定です」
「何を求める」
サイード。
「《無記録者保護条項》」
「内容」
「公的記録がないことだけを理由に、食糧、水、緊急医療、避難場所を拒んではならない」
「所有権まで?」
「そこは審査」
「なら、偽申告が」
「救命と財産を分ける」
ナディアが頷く。
「緊急保護は先」
サイード。
「身元確認は後」
「配給が二重に」
ユースフ。
「死ぬ者と、二重に受け取る者のどちらを先に」
群衆。
「数字で」
サイード。
「父上が書いた危険です」
ユースフは兄ではなく、群衆でもなく、サイードを見る。
「無制限には受けられない」
支持者が怒る。
「帳簿王!」
「聞け!」
サイードが自分の側へ怒鳴る。
「無制限なら、後ろの者の分がなくなる!」
民衆王子が、自分の支持者へ制限を言う。
「条件を」
ユースフ。
二人。
その場で作る。
第一。
緊急食糧、水、医療、避難は、記録不備だけでは拒否しない。
第二。
同一人物の重複受給を防ぐため、暫定木札または身体特徴を記録。
「身体特徴?」
刻印。
差別。
「傷、身長、本人が選ぶ印」
「宗派印は使わない」
第三。
所有権、相続、長期給付は別法廷。
第四。
虚偽申告が判明しても、既に与えた最低限の食糧と医療費を刑罰債務へしない。
「食べたパンを返せと」
サイード。
「言わない」
第五。
暫定記録は三十日以内に本人へ写し。
「王が管理?」
「本人も」
ヨナの道。
名前。
複製。
六印。
採用。
五対一。
反対は財務印代理。
「理由」
「重複受給対策が弱い」
「改善期限」
二十日。
サイードの一度も終わる。
彼は王位を求めず、王の帳簿へ名のない者を入れた。
支持者の一部は拍手。
一部は失望。
彼が王でないことは変わらない。
---
## 五
「第一候補ユースフ」
法印サフワーン。
「二つの異議を受けた上で、指名を受諾しますか」
ユースフは、鉄格子の中の王冠を見る。
宝石の穴。
父が売った二つ。
洪水救助船。
水甕。
「受諾します」
市場側。
歓声。
「ただし」
また。
「王冠を被れば、父の指名だけで王になったと思われる」
「法が」
サフワーン。
「誓約と六印承認が必要です」
「はい」
「誓約を」
ユースフは読み上げる。
王室財産と国家財産を分ける。
白紙印を使わない。
外国融資と軍事契約を公開。
六印の権限を認める。
兄弟を即位前後七日間拘束しない。
相互不殺誓約。
無記録者保護。
個人債券信託。
軍給金名簿。
水利判断線。
「外国からの承認を、国内誓約より先に求めない」
追加。
「なぜ」
サフワーン。
「既に、国境外で三つの承認条件が待っていると報告があります」
アルカシャ。
アルサク。
オルシャ。
「すべて公開法廷へ」
「即位後?」
「即位前に届けば、即位前」
「市場が」
「外国の承認で国内王位を買わない」
ユースフは父と違い、強い声ではない。
朗読人が繰り返す。
遅い。
だが届く。
「兄弟の地位は」
軍人席。
「今、決めません」
罵声。
「ジャマール殿下を軍へ!」
「サイード殿下を民訴院へ!」
「王が恩賞を!」
「恩賞として権限を渡せば、支持基盤が私兵になります」
ジャマールが少し笑う。
自分の言葉。
「六印中四印と、公開審査後に」
「弟が兄を審査?」
「王も審査されます」
ユースフ。
受諾。
六印承認投票。
軍印。
ファリド。
「賛成」
財務印。
イスハーク。
「賛成」
水利。
ナディア。
「賛成」
首都。
ライラ。
「賛成」
地方。
アブドゥル。
老人。
ユースフを見る。
「王子」
「はい」
「村へ来た時、数字を聞く前に名前を聞け」
「約束します」
「守れるか」
「守る努力を」
バイバルスと同じ。
「賛成」
法。
サフワーン。
「賛成」
六。
候補資格。
承認。
残るのは、王冠。
---
## 六
鉄格子の鍵が開けられる前に、王宮東門から伝令が入った。
「東軍第七騎兵団、王都へ接近!」
法廷。
軍人席。
「兵数」
ジャマール。
「八百!」
「旗は」
「長子殿下旗!」
広場。
歓声と悲鳴。
「ジャマール王を!」
「軍が!」
「反乱!」
ジャマールは椅子から立つ。
「指揮官」
「ラシード・アル=カーシム千人長」
三十四歳。
ジャマールの旧部下。
偽の第一候補号外を信じた若手将校。
七日不動誓約中、駐屯地維持を命じられていた。
「命令違反」
ファリド。
「王都をユースフ派商人から守ると」
「私の命令ではない」
ジャマール。
「兵は、殿下を守ると」
「誰から」
「六印から」
灰冠が外側を動かす。
「王子は法廷へ留まってください」
サフワーン。
「私が行く」
「候補の兄が軍へ」
「行かなければ、私の名で門を」
「軍印が」
ファリド。
「私では止まらない」
「なら共同で」
ジャマール。
自分一人では。
軍印ファリド。
首都印ライラ。
ジャマール。
三者。
「王冠開封は」
「待つ」
ユースフ。
市場が反発。
「今、被れ!」
「軍に負ける!」
ユースフは王冠を見る。
「兄の軍が門前にいる時、被れば」
「王権を示せる」
商人。
「軍に追われて被った王になる」
「空位が」
「一刻延ばす」
「規則は」
「緊急事態」
法印。
「六印承認で延期可能」
五対一。
軍印は出るため代理。
王冠はまだ格子。
空。
---
東門。
八百騎。
鎧。
槍。
青い旗。
ジャマールの旧軍旗。
門上に弓兵。
市民が逃げる。
ラシード千人長。
「殿下!」
ジャマールが門上へ。
鎧なし。
剣なし。
割った軍印の半分を持つ。
「開門を!」
ラシード。
「王冠を奪われました!」
「奪われていない」
「故王は長子を!」
「封書は偽造!」
「六部一致した」
「会計院が!」
「軍総監府の封書も」
「買われた!」
兵たち。
信じたいもの。
「私は第一候補ではない」
ジャマール。
自分で。
八百騎。
ざわめく。
「殿下が命じられたのですか」
一兵。
「違う」
「なら王は」
「ユースフが第一候補だ」
軍から罵声。
「商人王!」
「刻印民の王!」
「殿下が命じれば」
「命じない」
ラシード。
「我々は殿下のために!」
ジャマールは割れた印を掲げる。
「私の軍印は、ここにある」
半分。
「もう半分は法廷だ」
「印がなくとも、我々は」
「なら、お前たちは私の兵ではない」
ラシードの顔。
「殿下」
「私の名で王都へ兵を向けた者は、私の命令に逆らった」
「国を守るため」
「誰から」
「ユースフから!」
「弟は敵ではない」
「王位を」
「父が選んだ」
「父王は軍を」
「父上を侮辱するな」
ジャマールの声。
軍人が静まる。
「殿下は負けを受け入れるのですか」
ラシード。
最も痛い。
「はい」
一語。
門。
「規則が守られたから、受け入れる」
「我々は」
「駐屯地へ戻れ」
「戻れば軍法会議」
「はい」
「兵も?」
「命令者を調べる。従った者すべてを同じ罪にはしない」
「私を差し出せと」
「自分で来い」
ラシードは槍。
手が震える。
「殿下を王にするため、死ぬ覚悟を」
「私を王にしないため、生きて裁かれろ」
長い。
一人の若い騎兵が槍を下げる。
次。
十人。
百人。
ラシードは動かない。
後方から矢。
誰が。
門上へ。
ファリドの隣の兵が首へ。
倒れる。
門上の弓兵が構える。
「撃つな!」
ジャマール。
「誰が射た!」
騎兵団内。
混乱。
灰色の外套の男が、二本目。
味方兵が馬から引きずり下ろす。
男の口。
毒。
顎を押さえる。
遅い。
噛む。
死亡。
所属札。
第七騎兵団ではない。
補充兵。
三日前。
偽命令。
「灰冠!」
兵。
怒りの矛先。
「だから戻れ!」
ジャマール。
「今戦えば、あいつの矢が命令になる!」
ラシードは槍を落とす。
馬を降りる。
「軍法会議へ出頭します」
八百騎。
武器を門外で封印。
一部、六十三騎が逃亡。
灰色の使者と接触する可能性。
残る者は帰る。
死者。
門上兵一名。
灰冠工作員一。
戦闘は起きなかった。
だがジャマールは、支持者の前で王位を失った。
本当に。
---
## 七
東門の騒ぎと同時に、王都市場では《ユースフ即位債券》が取引されていた。
故王の候補名公表前から。
当たれば利息。
即位後の税収で返済。
発行者。
四つの商会。
二つはユースフ支持。
一つは投機。
一つは灰冠系。
「価格が三倍!」
商人。
「王が決まった!」
「買え!」
ユースフが王冠を被る前に、王位が商品になる。
さらに噂。
《ジャマール軍が王都へ》
債券価格。
急落。
銀行へ人。
「銀を返せ!」
「ユースフは負ける!」
「軍が!」
会計院。
サルマ。
腕の添え木。
「取引停止」
「市場を閉じれば恐慌」
イスハーク。
「即位債券だけ」
「他名義へ」
「購入者名簿を」
「秘密取引」
「現金交換所を開く」
「銀が」
「王立準備金」
「少ない」
「大口ではなく小口を先」
洪水。
同じ。
ユースフから伝令。
《即位債券をすべて無効候補として法廷へ》
商人が怒る。
「王子が、自分の支持者を!」
「正規債券ではない」
「殿下の名を」
「許可していない」
「購入者が損を」
「発行者資産を」
「足りない」
「王国が補償?」
ユースフ。
法廷へ戻っていない。
伝令で。
《小口購入者の元本半額を暫定保護。大口は裁判》
「なぜ半額」
「投機責任」
「知らずに買った者は」
「金額基準だけでは」
「販売説明を」
時間。
市場。
群衆。
「一人銀貨五枚以下は全額保護」
「六枚なら」
「境界」
「また」
最終。
生活貯蓄購入者。
商業投資。
発行者内部。
三分類。
今日の支払い。
生活者へ三割。
残り審査。
「紙!」
人々。
それでも、銀行門を開く。
閉めない。
少額銀貨。
列。
ユースフ自身の商会持分は凍結。
支持商人が離れる。
「王になれば返すと」
「返さない」
伝令。
「市場が殿下を」
「王は市場の債務者ではない」
候補名公表で上がった人気は、同じ日に落ちる。
---
## 八
東岸貧民区では、葦を編んだ王冠が作られていた。
《サイード民王冠》
故王の封書がユースフを選んだ後。
支持者。
説教師カマール・アル=ハティーブ。
三十歳。
洪水で兄を失った。
「死者の王が、商人を選んだ!」
群衆。
「生者はサイードを!」
「民の王!」
相互不殺誓約。
公開異議。
支持者は署名していない。
説教師は葦冠を掲げる。
「王宮へ!」
サイードは法廷にいる。
使者。
「殿下、東岸が」
「人数」
「五千」
「武器」
「農具、短弓」
「誰が」
「カマール」
知っている。
避難所で説教。
「行く」
「市場へ来るなと言われた」
子供の母。
「今度は、行かなければ」
「群衆が増える」
「既に」
サイードはユースフを見る。
「行け」
候補。
「王命では」
「兄として」
「六印を」
首都印ライラ。
地方印アブドゥル。
サイード。
三者。
王子一人では。
---
東岸広場。
葦冠。
五千。
「サイード!」
本人が来る。
歓声。
王宮へ行くと思う。
「殿下!」
カマールが冠を差し出す。
「民が選びました!」
「誰が」
「ここにいる者が!」
「ここにいない者は」
「商人と兵は、ユースフとジャマールを」
「なら国を三つへ?」
「民の国を!」
「洪水の時、軍船も商人舟も来た」
「遅かった!」
「はい」
「父王は貧民区を沈めた!」
「はい」
「ユースフは数字で」
「はい」
「なら殿下が!」
サイードは葦冠を受け取る。
群衆。
歓声。
頭へ。
載せない。
地面へ置く。
「私は選ばれなかった」
「故王の紙!」
「六部です」
「全部、王宮の!」
「使節の偽印を見たでしょう」
「だから王の封書も!」
疑い。
終わらない。
「私が第一候補でないことを、私が認める」
「殿下が弱い!」
「そうかもしれない」
「民を捨てるのか!」
「あなたたちだけを民と呼ばない」
群衆。
「商人も、兵も、刻印民も、山村も、私を嫌う者も民です」
美しい言葉。
政治。
「ユースフ王へ仕えろと?」
「法へ」
「商人王の法!」
「無記録者保護条項を、今日入れた」
「殿下の異議で!」
「だから、王でなくてもできた」
支持者が静まる。
「なら王は要らない!」
一人。
「それも法で決めろ」
カマール。
怒り。
「兄を失った私へ、待てと?」
「私も父を失った」
「王の父と、溺れた兄を同じにするな!」
サイードが止まる。
「同じではない」
「なら」
「私は父を葬れた。あなたは兄の体を」
「見つからない」
「はい」
「何が分かる!」
「全部は分からない」
サイードは葦冠を拾う。
カマールへ返す。
「これを燃やすな」
「被れと?」
「兄の名を書け」
葦冠へ布。
《ハサン・アル=ハティーブ、洪水行方不明》
「王冠ではなく、墓標に」
カマールの手。
震える。
「私は許さない」
「許さなくてよい」
「ユースフを」
「異議を出せ」
「聞くか」
「無記録者条項を聞いた」
「殿下がいたから」
「次はあなたが」
群衆の一部が武器を下げる。
一部は去る。
一部は王宮へ向かおうとする。
約四百。
首都兵。
盾。
衝突。
石。
矢。
ライラが叫ぶ。
「止まれ!」
一人の若者が短弓。
サイードへではない。
兵へ。
サイードが腕を掴む。
矢は上。
「離せ!」
「撃てば」
「兄を!」
「別の兄を殺す」
取っ組み。
王子の頬へ拳。
護衛が青年を殴ろうとする。
「止めろ!」
サイード。
血。
口。
「拘束は」
「武器使用未遂」
「裁判へ」
「殿下を殴った」
「それは加えなくてよい」
法官が後で加えるか。
群衆は完全には解散しない。
だが王宮へ行かない。
その夜、東岸で《サイード王》を叫ぶ者は残る。
サイード本人は、彼らの王冠を被らなかった。
支持の一部を失う。
---
## 九
三つの騒ぎで、王宮中央法廷の警備は半分になった。
軍は東門。
首都兵は東岸。
市場警備は銀行。
鉄格子前。
六人の鍵守のうち、三人が外。
残る。
ナディア。
法印サフワーン。
会計代理イスハーク。
王冠管理人。
宮廷金工。
見習い。
サミーラ・アル=ハッダード。
十九歳。
王冠の内側へ新しい布を付ける仕事。
故王の汗と血を吸った古い革は、埋葬後に外された。
新王用。
「宝石穴は」
管理人。
「そのまま」
「縁を磨きます」
「形を変えるな」
「はい」
サミーラは鉄格子の外から王冠を見る。
内側。
黒い革。
昨日まではなかった薄い光沢。
「管理人様」
「何だ」
「内革を、誰か替えましたか」
「お前が今」
「既に蝋が」
「保存蝋」
「王冠内側へ蝋は使いません」
紫宮の杯。
毒蝋。
アルカシャ。
黒根。
サミーラは手を伸ばさない。
「匂いが」
「何の」
「苦い花」
管理人の顔。
「近づくな」
遅い。
背後。
法廷書記の服を着た男。
短い針。
管理人の脇腹。
「警備!」
サミーラが叫ぶ。
男が彼女へ。
腕。
針。
サミーラは金槌を投げる。
男の額。
外れる。
サフワーンが机を倒す。
ナディアが鍵束を投げない。
服の内へ。
男の狙いは王冠か。
鍵か。
イスハークが椅子で。
針。
肩。
男は鉄格子へ。
懐から鍵。
六本。
黒口鉱山の偽鍵工房。
一本目。
軍鍵穴。
回る。
二本目。
財務。
回る。
三本目。
水利。
途中で止まる。
洪水後に鍵溝を変更していた。
「開かない」
男。
ナディアが水差しを投げる。
顔。
サフワーンが腕。
針。
法印の袖を裂く。
サミーラが背後から金槌。
男の手首。
骨。
針が落ちる。
警備。
戻る。
男を押さえる。
口。
毒歯。
サミーラ。
「顎!」
兵が布。
間に合う。
毒袋を抜く。
生け捕り。
管理人。
脇腹。
針。
医師。
毒。
呼吸。
「王冠へ触れるな!」
サミーラ。
法廷。
管理人の手が革へ触れかける。
止める。
銀匙で蝋を削る。
小片。
小鳥。
使用。
痙攣。
「黒根」
医師。
「白石粉も」
杯と同じ。
王冠の内側。
新王が被れば、頭皮。
汗。
熱。
毒蝋が溶ける。
すぐ死ぬか。
量次第。
「誰が塗った」
捕虜。
黙る。
衣の下。
王宮管理人補佐札。
本物。
本人。
本物の補佐は?
倉庫。
死体。
二日前。
首を折られている。
「王冠を毒杯に」
ナディア。
「ユースフを殺すため?」
「誰が被っても」
サフワーン。
候補名を知らなくてもよい。
王冠そのものを毒に。
殺された新王。
兄弟。
六印。
外国。
「格子を開けなくても、昨日の整備時に」
「誰が監視」
管理人。
重傷。
「私と補佐」
偽補佐。
「気づかなかった」
「知らなかった責任」
アルカシャ。
「今は治療を」
ナディア。
責任は後。
王冠。
証拠。
被れない。
空のまま。
---
## 十
三王子が中央法廷へ戻ったのは、日が傾いた後だった。
ジャマール。
門の泥。
ユースフ。
市場帳簿。
サイード。
頬の血。
王冠の毒。
「父上と同じ」
サイード。
「杯です」
医師。
「黒根と白石粉の混合蝋」
「被れば」
ジャマール。
「汗と体温で溶けます」
「致死量」
「一刻から半日」
「誰が」
「生存」
捕虜。
口を割らない。
「王冠を洗う」
宮廷金工。
「革を外し、金属を」
「毒が継ぎ目へ」
「時間」
「最低七日」
「七日で安全?」
「保証できません」
市場。
空位。
軍。
外国。
「別の冠を」
貴族。
「複製冠は」
「王冠ではない」
伝統。
「父上の軽冠を」
「埋葬具」
「冠なしで即位」
サイード。
宗教法官たち。
「前例が」
「戦場即位では」
ファリド。
「旗と誓約だけ」
「平時です」
「今が平時?」
市場暴動。
軍。
毒。
「王冠は象徴」
ユースフ。
「だから必要です」
サフワーン。
「毒を塗られた象徴を被る?」
「浄化後に」
「それまで王を空位?」
「六印摂政を延長」
「いつまで」
「七日」
「安全保証なし」
「四十日」
「国が」
また期限。
アルカシャ最高火守の書簡が思い出される。
《火は、人が作ったのではない》
教義。
ナフルの法では、王冠は王権の証か。
法印が古法を読む。
《王位は、故王の指名、法の誓約、軍と民の承認、王冠の戴冠によって完成する》
四つ。
「戴冠がないと」
「未完成」
「候補執政?」
「六印の第一執行者」
「王ではない」
外国。
「だから敵は王冠へ毒を」
ユースフ。
空位を続けるため。
「被る」
彼が言う。
全員。
「何を」
ジャマール。
「革を外し、布を置く」
「毒が」
「金の上へ直接」
「頭皮が」
「死ぬかもしれない」
「王位を」
「馬鹿な」
ジャマールが弟の胸倉。
「軍人より無謀だ」
「今日、王が決まらなければ」
「死んだ王より」
「兄上の軍がまた」
「私が止める」
「毎回?」
「お前が死ねば、私が疑われる!」
ジャマールの声。
法廷。
本音。
「サイードも」
「はい」
末子。
「冠を被るな」
「では」
ユースフ。
「何で王位を」
サイードは鉄格子を見る。
「空の王冠の前で誓う」
「被らず?」
「王冠は存在する」
「戴冠とは」
法。
「頭へ載せることだけか」
古法。
言葉。
祭司。
議論。
最高宗教法官ムフティー・ハキームが初めて口を開く。
八十一歳。
これまで沈黙。
「王冠は、王の頭へ王国の重みを載せる儀礼だ」
「なら」
「重みは、金属だけか」
誰も。
「故王は宝石を二つ外した」
「それでも王だった」
「冠が軽くなっても」
「はい」
「では、金属がなくとも」
保守派。
「詭弁です!」
「かもしれない」
老人。
「だが、毒を被せる方が信仰か」
「延期を」
「敵が次の七日を使う」
「法を変える?」
「緊急解釈」
「後世に」
「記録する」
条件。
戴冠儀礼を二段階へ。
第一。
王冠を鉄格子内に置いたまま、候補がその前で誓約。
六印と三王子が王冠へ手を触れず証人。
王権を暫定完成。
第二。
王冠の安全確認後、物理的戴冠。
それまで称号。
《空冠のスルタン》
侮辱にも。
制度名。
「外国が認めない」
ユースフ。
「国内が先です」
ムフティー。
「受けますか」
ユースフは兄二人を見る。
ジャマール。
「死ぬより」
サイード。
「王冠がなくても、あなたが何をするかは見える」
「受けます」
---
## 十一
日没。
王宮外庭。
群衆は減っていない。
噂。
《王冠に毒》
《ジャマールが》
《サイード派が》
《刻印民金工が》
《アルカシャ毒》
《王冠は偽物》
全部。
鉄格子ごと、王冠が外庭へ運ばれる。
六鍵。
王冠へ触れない。
毒の証拠札。
群衆へ。
「毒冠を!」
「被せろ!」
「王なら死なない!」
神話。
「王を試せ!」
ユースフは空の高座へ上がる。
頭に何もない。
父の冠は格子の中。
宝石の穴。
黒い内革は外され、別箱。
「ユースフ・イブン=バイバルス」
ムフティー。
「故王の第一候補、六印承認者として」
誓約。
一つずつ。
ユースフが答える。
「王室の財産を、国の財産と混ぜないか」
「混ぜません」
「外国の金を、秘密の王位債務としないか」
「しません」
「軍を、自らの家の兵としないか」
「しません」
ジャマールを見る。
「記録にない者を、存在しない者として扱わないか」
「扱いません」
サイード。
「六印の異議を、反逆と呼ばないか」
「呼びません」
「兄弟の異議を」
「一度、公開で聞きます」
「二度目は」
少し。
「法に従わせます」
笑いなし。
「自らの誤りを」
「記録します」
「訂正を」
「消さずに残します」
「王冠を被らずとも、その責任を負うか」
ユースフ。
空の頭。
「負います」
六印。
承認。
三王子。
ジャマールが最初に膝をつくか。
軍人が見る。
彼は膝をつかない。
代わりに、右拳を胸へ。
ナフル軍礼。
「法に選ばれたスルタンへ、軍人として服従する」
王個人ではなく。
ユースフ。
「受けます」
サイードは膝をつかず、両手を開く。
民衆語の祈り。
「王が、聞こえない声を忘れないように」
「受けます」
六印。
一人ずつ。
最後にアブドゥル。
杖をつき。
「王よ」
初めて。
「はい」
ユースフ。
「パンを数字だけで小さくするな」
広場で少し笑い。
「数字で大きくできるよう努力します」
「難しい言葉だ」
「一斤二分は守ります」
「それでよい」
老人は印。
ムフティーが宣言。
「ナフル王国のスルタン、ユースフ」
冠なし。
歓声。
罵声。
鐘。
王の即位鐘。
六回。
間。
二回。
新しい符号。
偽鐘対策。
王宮。
寺院。
市場。
水利塔。
別々の鐘が照合。
一つが違えば。
今夜は全部。
ユースフは王になった。
頭は空。
---
## 十二
即位後の最初の命令は、兄弟の処遇ではなかった。
塩だった。
「アルカシャ返還塩百台を、軍・市場・施療院へ同率ではなく用途別最低量で配分」
ユースフ。
法廷。
まだ式服。
冠なし。
「軍へ二十五」
ジャマール。
「冬の肉保存に三十」
「市場へ四十」
サルマ。
「価格安定に四十五」
「施療院と避難民へ」
サイード。
「三十五」
合計。
百十。
また足りない。
「百台です」
ユースフ。
「分かっている」
三人。
王になっても。
「現在国内残量を」
塩務院。
二月分。
返還で二月半。
「不足分を、価格ではなく腐敗量で」
軍肉。
魚。
医療。
皮革。
漬物。
「皮革は後」
商人が反発。
「軍靴が」
「最低量を」
「魚保存を先」
沿岸。
「肉は」
「家畜を生かせば」
飼料。
冬。
議論。
ユースフは即断しない。
「明日正午まで」
「遅い」
ジャマール。
「今夜、暫定配分」
軍二十五。
市場三十五。
施療・避難二十五。
水運・漁業十五。
「百」
「皮革は」
「三日停止」
「職人が」
「補償」
「銀が」
「塩税将来控除」
ユースフ。
帳簿。
「また未来を」
「上限二十日」
最初の王命。
完全でない。
公開。
署名。
王印。
どの印を使う?
王冠印璽は毒事件で隔離。
故王の指輪印は墓へ。
新王印は未製作。
「印がない」
書記。
ユースフは六印を見る。
「六印共同で」
王の最初の命令に、王印なし。
空冠。
「明日、新印を」
「形は」
宝石の欠けた冠?
「冠ではなく」
ユースフ。
「六つの水路と一つの麦穂」
「王冠を印にしない?」
貴族。
「王冠は毒を塗られました」
「象徴を捨てる?」
「変える」
王印から冠を外す。
大きな議論。
暫定印。
六印。
---
二つ目の命令。
即位債券の凍結。
三つ目。
東軍第七騎兵団の軍法審査。
「ラシードを死刑に」
強硬派。
ジャマール。
「公開法廷」
「殿下の元部下」
「だから」
「兄上は審査へ関わらない」
ユースフ。
「はい」
「軍印ファリドも、門で当事者」
「代理を」
「兵八百を」
「命令者、偽命令作成者、従属兵へ分ける」
「逃亡六十三騎」
「家族を拘束しない」
ジャマール。
誓約。
記録。
四つ目。
東岸集会。
カマール。
弓を持った青年。
「王への反乱?」
法印。
サイード。
「王宮へ行軍していません」
「擁立集会」
「規則違反」
「死刑では」
「扇動」
「兄を失った」
「罪を」
「消さない」
ユースフは二人を見る。
「兄弟の支持者を、同じ法廷規則で」
軍。
民衆。
「市場の即位債券発行者も」
財務。
三派。
同時。
誰かだけを。
「三法廷、同じ公開基準」
「裁判官は別」
「結果を比較」
制度。
---
## 十三
ユースフが王になった知らせは、国境へ向けて送られた。
通常なら。
外国王へ。
即位承認を求める。
アルカシャ。
アルサク。
オルシャ。
セレスタ。
聖座。
ヴァルネリア。
だがユースフは、使節へ一枚を追加。
《本書は即位の通知であり、承認の請願ではない》
外交官が反対。
「外国承認がなければ」
「交易条約が」
「請願しないだけです」
「認めろと」
「通知する」
「同じでは」
「条件を先に受けない」
既に三通。
即位前から。
アルカシャ摂政ザレフ王女。
《銀融資と毒物共同監査を承認するなら、新王を直ちに承認》
本物。
アルサク・スルタン国。
《南東国境の騎兵通行権を認めるなら、軍事承認》
本物に近い。
オルシャ六席。
《巡礼者保護と秘密条約公開を誓約する王を承認》
条件。
灰冠の改変があるか。
照合。
「全部を公開」
ユースフ。
「外交交渉前に?」
「国内が知る」
「相手が面子を」
「秘密条件を出した面子を?」
「交渉が」
「公開できない部分は、理由と期限」
父。
制度。
「外国は、空冠王と」
既に呼ばれている。
《冠なき会計王》
《六鍵の傀儡》
《刻印民のスルタン》
「反論を」
広報官。
「しない」
「弱く」
「何をしたかを」
塩。
配給。
軍。
裁判。
「物語が必要です」
広報官。
「王冠へ毒があった」
「英雄譚に」
「見習い金工サミーラの名を」
「王が」
「私は気づかなかった」
功績。
サミーラ。
宮廷金工見習い。
褒賞。
「銀貨」
「本人へ聞く」
アンドロニコスの教訓。
サミーラは、銀貨十枚と金工組合の正式資格試験免除を提示される。
「試験免除は嫌です」
「なぜ」
「毒に気づいたことと、金工技術は別」
「では」
「受験料免除。師匠の治療費。王冠調査へ見習い代表席」
「危険」
「もう」
受ける。
管理人は生存。
右脚に麻痺。
自分の補佐を見抜けなかった責任審査。
治療後。
捕虜は生きている。
名前。
ハーディ・アル=ムハンナ。
王宮管理人補佐として七年前から。
本物の職歴。
途中で灰冠へ入った。
家族。
息子の鉱山薬代。
また。
「いつから」
「三年前」
「何を」
「鍵型、警備交代、冠の革寸法」
「候補名を」
「知らない」
「誰を殺す」
「被った者」
「兄弟が疑い合う」
「はい」
「命令者」
「《灰杯》」
リヴィア。
山から逃げながら。
前もって。
「捕らえた?」
「いいえ」
「なら、また」
王冠は安全になるまで、鉄格子。
七日。
十四日。
一月。
分からない。
ユースフの頭は空のまま。
---
## 十四
即位から三日後。
三つの支持者法廷が始まった。
東軍第七騎兵団。
即位債券。
葦冠集会。
傍聴席は同じ人数。
王子名旗禁止。
第一法廷。
ラシード・アル=カーシム。
「長子を王にする意図が」
「ありました」
「故王封書を偽造と」
「信じた」
「根拠」
「軍地区号外」
「確認は」
「しなかった」
「長子本人の命令」
「ない」
「なぜ動いた」
「動かなければ、軍が商人王に解体される」
「実際」
「まだ」
「自分の恐怖で」
「はい」
「灰冠工作員を」
「知らなかった」
「補充兵名簿確認を」
「副官へ」
「副官は」
「偽の軍務局印を」
責任。
刑。
軍権剥奪。
十年の国境労働?
兵を再び。
「死刑を」
一部。
ジャマールは証言。
「ラシードは私に忠実でした」
「減刑を求める?」
「いいえ」
軍人席。
「忠実だから危険だった」
「殿下」
「私の命令を確認せず、私のためと動いた」
「私を」
「王にしたかった?」
「はい」
「なら、私が望まない王位を、私の名で奪おうとした」
ラシード。
泣かない。
「はい」
判決は後。
第二法廷。
即位債券発行商人。
「ユースフ殿下支持のため」
「利益は」
「出ます」
「王位が確定すれば」
「はい」
「軍が動けば損」
「はい」
「国家の安定へ賭けた」
「候補者名を無断使用」
「市場では」
「王子は商品か」
沈黙。
ユースフは証言。
「私の名で債券を売る許可を与えていません」
「陛下の支持者が」
「支持は所有権ではない」
自分へ。
第三法廷。
カマール。
葦冠。
「末子を民王へ」
「はい」
「本人が拒否」
「王子は恐れた」
「誰を」
「軍と商人」
「民の意思を」
「広場五千人」
「王国は」
「もっと」
「貧民の声はいつも少数と」
「だから聞く制度を」
「制度が遅い!」
サイード。
証言。
「遅い」
「なら殿下が」
「私が王なら速い?」
「はい」
「市場で二人が死んだ時、私が行って群衆を増やした」
「助けた」
「死者も」
「殿下を責めるのか」
「自分を」
三法廷。
支持は免罪にならない。
王子が支持者を守らないと非難。
守れば私兵。
正しい距離。
---
判決。
ラシード。
反逆未遂ではなく、違法軍動員、偽命令確認怠慢、王都威嚇。
軍権永久剥奪。
五年の洪水堤防・国境道路復旧労働。
監督下。
公開軍事教育で証言。
「軽い!」
「重い!」
逃亡六十三騎は別。
即位債券主犯二名。
財産の不正利益分没収。
五年間、公的債券業務禁止。
生活購入者への補償。
灰冠系商会は資産凍結。
カマール。
違法擁立集会。
武器持込管理怠慢。
一年の禁固ではなく、三年間の東岸公開評議会監督?
「権力を与える?」
法官。
最終。
六か月の拘禁。
その後二年、洪水行方不明者名簿事業へ。
本人。
「兄の名を」
「探す仕事」
「罰で?」
「はい」
「受ける」
許されない。
使う。
---
## 十五
物理的な王冠は、二十三日後に安全と判断された。
金属を分解できない部分。
洗浄。
加熱。
銀布。
小動物試験。
毒見ではなく。
宮廷医師は保証を拒む。
「絶対安全とは」
「では」
「検出限界以下」
「人が被る」
「はい」
「陛下」
ユースフ。
「被りますか」
二十三日。
空冠王。
外国の一部は正式承認を保留。
市場では、戴冠日を待つ契約。
軍の保守派。
「冠を被らない者は摂政」
「被る」
ユースフ。
兄弟。
ジャマール。
「今度は止めない」
「死ねば」
「疑われる」
「二十三日、調べた」
サイード。
「怖い?」
ユースフ。
「はい」
正直。
「王冠が?」
「何かを見落としていることが」
父の最後の言葉。
自分が見ていないものを、誰が。
「サミーラ」
金工見習い。
「はい」
「見落としは」
「あります」
宮廷官が青ざめる。
「何が」
「毒ではありません」
「では」
「内側の革を替えたため、王冠が少し緩い」
ユースフ。
「落ちる?」
「頭を下げれば」
戴冠で。
「調整を」
「新しい革は、また毒を」
「布を重ねる」
「見栄えが」
「落ちるより」
王冠の内側へ白い麻布。
見える。
王冠と頭の間。
簡素。
「王が包帯を」
「毒より」
サミーラ。
採用。
---
正式戴冠式。
王冠が鉄格子から出る。
六鍵。
六人。
ムフティー。
サミーラ。
医師。
全員。
ユースフが膝。
王冠。
頭。
少し大きい。
麻布。
ムフティーが載せる。
宝石二つの穴。
群衆。
「スルタン・ユースフ!」
今度は。
王冠あり。
だが、ユースフはすぐに外した。
「なぜ」
「公務中は軽冠を」
「正式冠を」
「国庫展示?」
「六鍵保管」
「王が持たない?」
「即位儀礼以外では」
新しい規則。
王冠を王の私室へ置かない。
六鍵格子。
「王冠を王から離す」
貴族。
「毒を離す」
現実。
「王権が」
「頭に載せた」
「一刻も」
「十分です」
空の王冠は、再び格子へ。
今度は王がいる。
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## 十六
ユースフの即位後、ジャマールには軍権が与えられなかった。
少なくとも、すぐには。
「軍が不安定です」
ファリド。
「だから兄上を?」
「求心力」
「私兵化」
「六印共同の軍務監査使」
提案。
指揮権なし。
各軍の命令確認制度。
補充兵名簿。
偽印対策。
「兄上が受けるか」
ジャマール。
「兵を指揮できない軍務職?」
「はい」
「侮辱か」
「監視です」
「私を?」
「軍を。兄上自身も」
ジャマールは考える。
「任期」
「四十日」
「短い」
「公開審査後更新」
「受ける」
軍人たちが失望。
だが彼は軍へ戻る。
命令者ではなく、確認者として。
負ける練習。
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サイードには民訴院長の地位を与えなかった。
支持者が求める。
「兄が任命すれば」
ユースフ。
「恩賞」
「では何を」
「無記録者保護条項の暫定審査委員」
「長では」
「六席の一人」
「王子が一席?」
「ほかは避難民、医師、法官、配給官、刻印民記録者」
「私の声が」
「一つ」
サイードは苦笑。
「父上なら」
「一つで十分と」
「多分」
「受ける」
末子は民の唯一の声でなくなる。
代わりに、六分の一。
支持者は怒る。
それでも。
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ユースフ自身。
王立会計院から退く。
「王が財務を」
サルマ。
「知るが、直接帳簿を操作しない」
「誰が」
公開選任。
サルマは候補。
「王の側近と」
「だから審査を」
「落ちるかも」
「はい」
「殿下」
「陛下です」
サルマ。
初めて。
「慣れません」
「私も」
彼女は公開審査を受ける。
刻印民出身。
次子派。
批判。
能力。
選ばれるか。
別。
王は、自分の最も有能な側近を自動で任命しない。
遅い。
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## 十七
即位承認の外国使節は、戴冠式から二日後に王都へ集まった。
アルカシャ。
アルサク。
オルシャ。
三つ。
リヴィアの予告どおり。
アルカシャ王女ザレフの使節。
「毒物共同監査、塩契約、鉱山審査協力を条件に、スルタン・ユースフを承認する」
「既存契約の履行は」
「条件ではなく、確認」
言葉。
アルサク使節。
「南東高原の騎兵通行権と、国境市場の関税減免を条件に、軍事同盟と承認」
「承認と同盟を分ける」
ユースフ。
「我がスルタンは」
「王位を認めないなら、交渉相手ではない」
強い。
危険。
オルシャ六席使節。
マリアム本人ではない。
だが彼女の署名。
《秘密条約を結ばず、巡礼者保護を宗派で分けない王として承認する》
条件ではなく、誓約確認。
「オルシャは承認」
即時。
アルカシャ。
既存共同契約を確認後。
アルサク。
保留。
三つ。
「最初にどれを」
外交官。
「同じ時刻に公開」
「また」
「はい」
広場。
外国条件。
全部。
アルサク使節が怒る。
「交渉文を民衆へ?」
「秘密指定がない」
「外交慣習」
「今後、秘密部分は理由と期限を先に」
「我が国へ法を」
「我が国の王位承認へ条件を出した」
対立。
アルサクは承認せず帰る。
国境緊張。
軍。
ジャマール。
「騎兵通行権を拒めば、彼らは高原へ」
「軍備を」
「公開範囲で」
「王」
兄が呼ぶ。
「命令を」
ユースフ。
「国境防衛準備。侵入しない。軍数は六印へ。民衆へ総額」
軍事機密と公開。
次。
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## 十八
灰冠自由会議は、ナフル即位計画を失敗と記録しなかった。
《第一候補ユースフ、即位》
《長子軍反乱誘発、限定》
《末子民衆擁立、限定》
《市場即位債券混乱、達成》
《三王子相互殺害、未達》
《王冠毒殺、未達》
《物理戴冠遅延、達成》
《空冠王の国外正統性低下、達成》
《王冠六鍵保管、敵制度強化》
《三王子支持基盤分離、未達》
《アルサク承認保留、達成》
新しい黒雪。
「王を殺せなかった」
無貌。
「王冠を空にした期間は二十三日」
「今は被った」
「一刻だけ」
「象徴は戻った」
「格子の中へ」
「国内は」
「安定し始めた」
「国外は」
地図。
南東高原。
アルサク騎兵。
アルカシャ継承。
オルシャ巡礼。
「承認されない王は、国境で試される」
「戦争を」
「すぐには」
「何を」
「三つの承認を、三つの国境価格へ」
アルカシャへ銀。
アルサクへ馬。
オルシャへ巡礼者。
「ユースフは秘密契約を拒む」
「だから公開条件を高くする」
「民衆が拒めと」
「軍は妥協を」
「市場は承認を」
「末子派はオルシャを」
「長子派はアルサクを」
「次子派はアルカシャを」
三王子。
外から再び。
「本人たちは」
「王の下で一席ずつ」
「支持者は」
「自由だ」
同じ。
「次は王を動かさない」
「周りを」
黒雪。
「そして、王が全部を確認できないほど、同じ日に条件を送る」
疲労。
制度。
遅さ。
「いつ」
「春の高原市場」
軍馬。
塩。
銀。
巡礼。
四国。
「王冠は空でなくなった」
黒雪。
「なら、国境を空にする」
---
## 十九
戴冠から十日後。
ユースフは父の墓へ行った。
冠なし。
護衛少数。
先にジャマール。
軍務監査の報告書。
後からサイード。
無記録者申告札。
三人。
また同じ時刻。
今度は偶然ではない。
ユースフが呼んだ。
「父上の封書を」
ジャマール。
「なぜ私でなかったか、分かった」
「全部?」
「いや」
サイード。
「私も」
「怒っている?」
ユースフ。
「はい」
二人。
正直。
「私が王でよいと」
「まだ分からない」
ジャマール。
「私も」
サイード。
王。
兄弟。
「では、なぜ従った」
「規則が」
「父上の」
「それだけ?」
ジャマールは墓石。
「八百騎が来た時、私が王になれば、次は八千が来る」
「サイードは」
「五千人が私を王と呼んだ」
「嬉しかった?」
「はい」
「私も、商人が歓声を上げた時」
ユースフ。
「嬉しかった」
三人。
自分の支持。
危険。
「父上は、私を選んだ理由を帳簿と」
ユースフ。
「でも、王になった日に最も必要だったのは、兄上が軍を止め、サイードが群衆を」
「なら王は」
サイード。
「何をした」
ユースフは考える。
「待った」
「それだけ?」
「王冠を被るのを」
ジャマール。
少し笑う。
「軍人には難しい」
「民衆にも」
「市場にも」
「私にも」
墓。
《大河の水をすべて止めることはできなかった》
「父上へ、聞きたいことが」
ユースフ。
「なぜ私を」
返事なし。
「王だから答えを」
ジャマール。
「死者へ求めるな」
サイード。
「生者へ」
三人。
「春の高原市場」
ユースフ。
「アルサクが軍事承認を保留」
「騎兵を」
ジャマール。
「アルカシャは」
「銀と鉱山監査」
「オルシャは」
「巡礼者保護」
サイード。
「また三つ」
「一緒に行く?」
「王が国外へ?」
「危険」
「使節を」
「別々に?」
前の失敗。
「共同使節」
ユースフ。
「誰が」
三人が互いを見る。
王。
軍務監査。
無記録者委員。
「我々自身が行けば」
「王都が空く」
空の王冠。
「行かない」
ユースフ。
「使節は三分野から。ただし一つの全権状」
「今度は最初から」
サイード。
「軍馬、銀、巡礼」
ジャマール。
「一つの市場」
「一つの国境」
「一つの王」
ユースフ。
言った後。
二人が見る。
「王を強調するな」
ジャマール。
「帳簿へ書く?」
サイード。
三人が笑う。
父の墓前。
小さく。
---
王都へ戻る道。
ユースフは王冠を被っていない。
市民は一礼する者。
しない者。
《空冠王》
と呼ぶ子供。
母が叱る。
「よい」
ユースフ。
「実際、二十三日」
「陛下」
「名前は記録」
侍従。
「侮辱として?」
「事実として」
空冠王。
後世、その名が弱さを意味するか。
王冠に頼らず即位した王を意味するか。
まだ。
---
ナフル王宮の鉄格子の中で、宝石の二つ欠けた王冠が光っていた。
誰も被っていない。
だが王はいる。
六つの鍵。
毒の跡。
白い麻布。
一刻だけ頭へ載せられ、再び戻された王冠。
王冠が空であることと、王位が空であることは、同じではなくなった。
少なくともナフルでは。
---
南東高原では、春市場の杭が打たれ始めていた。
アルサクの馬商人。
アルカシャの銀商人。
オルシャの巡礼宿。
ナフルの塩商。
その間に、灰色の帳簿を持つ者。
新しい契約。
《ナフル新王を承認する国へ、国境交易優先権》
《承認を保留する国へ、軍事危険保険》
《新王の正統性に異議を持つナフル王族へ、亡命保護》
王族。
二人。
ジャマール。
サイード。
本人たちは望まない。
支持者は望むかもしれない。
リヴィア・サン・ジェルマーノは、遠い丘から市場予定地を見ていた。
左肩の傷は閉じている。
黒い手袋。
「王冠は空でなくなりました」
御者。
「いいえ」
彼女。
「王冠は、いつも空です」
「王が」
「人は金属へ自分の望みを見る」
「では」
「次は、外国に別々の王を見せる」
アルサクには、軍を抑えられない弱い王。
アルカシャには、銀を必要とする会計王。
オルシャには、巡礼を守る寛容な王。
セレスタには、債務を返す王。
軍には、兄を恐れる王。
民衆には、弟の声を借りる王。
「どれが本物です」
御者。
リヴィアは笑う。
「全部です」
一人の人間は、一つの顔だけではない。
一つの国も。
灰冠自由会議は、嘘を作る必要がなくなりつつあった。
本物の顔を、互いに敵となる順番で並べればよい。
ナフルに王は生まれた。
次に問われるのは、誰がその王を王と認めるかだった。
国内の法は、王冠をユースフへ与えた。
国境の外では、承認にも値段がついている。
そして春市場まで。
あと四十七日。
書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?
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死ぬ気でがんばれ
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可能な範囲でがんばれ
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そんなに急ぐこたーないぞ