灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第二十五章 空の王冠

空の王冠は、空ではない。

 

誰も被っていないあいだ、人々はそこへ自分の望む顔を入れる。

 

兵士は将軍の顔を。

 

商人は帳簿を読む王の顔を。

 

貧民は自分の言葉を聞く王の顔を。

 

貴族は古い権利を守る王を。

 

役人は命令を変えない王を。

 

罪人は赦す王を。

 

被害者は赦さない王を。

 

王冠が一つしかないからこそ、すべての望みは同じ場所で押し合う。

 

そして、誰か一人がそれを被った瞬間。

 

残りの顔は、王冠の外へ追い出される。

 

灰暦八百七十三年、冬第一月。

 

バイバルス三世の死から四十日目。

 

宝石を二つ失ったナフル王冠は、王宮中央法廷の鉄格子の内側に置かれていた。

 

鍵は六つ。

 

軍。

 

財務。

 

水利。

 

首都。

 

地方。

 

法。

 

一人では開けられない。

 

王冠の前には、三つの椅子。

 

長子ジャマール。

 

次子ユースフ。

 

末子サイード。

 

どの椅子が王の椅子になるか。

 

故王の封書だけが知っている。

 

少なくとも、そう信じられていた。

 

---

 

## 一

 

夜明け前、六部の封書が中央法廷へ集められた。

 

王宮保管庫。

 

水利庁。

 

王立会計院。

 

軍総監府。

 

刻印民共同金庫。

 

聖座使節保管庫。

 

六つの箱。

 

六つの道。

 

六つの護衛。

 

一部が奪われても、残りがある。

 

一部が偽造されても、照合できる。

 

それでも、中央法廷へ運ぶ最後の百歩が最も危険だった。

 

王宮回廊。

 

壁。

 

柱。

 

窓。

 

人間。

 

「箱を床へ置くな」

 

水利副長官ナディア。

 

「罠を?」

 

「入れ替えを」

 

「六箱すべて?」

 

「一つでも」

 

軍印を預かるファリド・イブン・ハサンは、箱の下へ鏡を差し入れた。

 

鏡はアルカシャ製。

 

磨いた銀板。

 

爆薬のない時代でも、油。

 

針。

 

毒。

 

底に異常なし。

 

会計印代理サルマ・ベン=ナタンは、箱の重さを量る。

 

輸送前記録と一致。

 

首都印代表ライラ・ビント・マフムードは、封蝋の気泡まで確認した。

 

地方印代表アブドゥル・ラーマンは、細かい印を見ても分からない。

 

「私がいて役に立つのか」

 

老人。

 

「鍵を持っています」

 

法印のカーディー・サフワーン。

 

「それだけ?」

 

「それが重要です」

 

「字を読めなくても?」

 

「王の候補名は読めるでしょう」

 

「王子三人の名なら」

 

アブドゥルは杖を壁へ立てかける。

 

「外国人の名なら困る」

 

誰も笑わなかった。

 

故王が三人以外を選んだ可能性。

 

王族の従弟。

 

将軍。

 

官僚。

 

あるいは、封書へ名前がない可能性。

 

鉄格子の前。

 

六人。

 

六箱。

 

「開けます」

 

サフワーン。

 

「同時に」

 

六つの蓋。

 

中。

 

白い封筒。

 

故王の指輪印。

 

封筒の重さ。

 

紙。

 

透かさない。

 

「各自、別室で読む」

 

「候補名だけ?」

 

ファリド。

 

「全文」

 

「六人が同じ内容を確認後、公開法廷で開封を再現」

 

「今読めば、我々は先に知る」

 

ライラ。

 

「規則です」

 

「顔に出る」

 

アブドゥル。

 

「出さないでください」

 

「老人へ難しいことを」

 

六室。

 

扉。

 

封を切る。

 

紙の音。

 

名。

 

理由。

 

第二候補。

 

条件。

 

六人が読む。

 

別々に。

 

最初に出てきたのは、ファリドだった。

 

軍人。

 

顔を動かさない訓練。

 

それでも顎が固い。

 

次にサルマ。

 

紙を持つ指が白い。

 

ナディア。

 

長く息を吐く。

 

ライラ。

 

目を閉じる。

 

サフワーン。

 

何も言わない。

 

最後にアブドゥル。

 

「王は」

 

老人が言いかける。

 

全員が止める。

 

「まだ」

 

ナディア。

 

「分かっている」

 

アブドゥルは口を閉じる。

 

六枚を中央机へ。

 

一字ずつ照合。

 

候補名。

 

同じ。

 

理由。

 

同じ。

 

第二候補。

 

同じ。

 

署名。

 

同じ。

 

「偽造の可能性」

 

ファリド。

 

「六部すべてなら」

 

サルマ。

 

「王が書いたことと、正しいことは別」

 

ナディア。

 

誰も反論しない。

 

「公開法廷へ」

 

サフワーン。

 

王を選んだ死者の意思を、生者が審査する。

 

---

 

## 二

 

王宮外庭には、四万人が集まっていた。

 

全員は法廷へ入れない。

 

広場。

 

屋根。

 

塔。

 

街路。

 

朗読人を五十人。

 

同じ文を順に伝える。

 

誤りを防ぐため、二人一組。

 

一人が読み。

 

一人が写しと照合。

 

それでも、広場の端へ届くころには言葉が変わる。

 

《候補資格審査》

 

が、

 

《王子裁判》

 

となり。

 

《故王封書》

 

が、

 

《王の遺言》

 

となる。

 

遺言の方が重く聞こえる。

 

中央法廷。

 

三王子。

 

同じ高さの椅子。

 

王冠は鉄格子の奥。

 

空の高座。

 

故王の椅子には誰も座らない。

 

最初に、アルカシャ使節報告が読まれた。

 

ハーディ。

 

サルマ。

 

マルヤム。

 

三人。

 

軍使節。

 

財務使節。

 

救済使節。

 

偽造された三契約。

 

軍馬。

 

銀。

 

巡礼路。

 

偽印工房。

 

毒物。

 

黒口鉱山落盤。

 

死者八十七。

 

リヴィア・サン・ジェルマーノ。

 

あるいは《灰杯》。

 

「三王子は、外国契約を命じたか」

 

法印サフワーン。

 

ハーディ。

 

「長子ジャマール殿下は、アルカシャ軍馬の必要性を認識していました」

 

広場がざわめく。

 

「だが、当該契約を命じていません」

 

「秘密交渉は」

 

「行っていません」

 

「使節として、正規軍馬契約の機会は」

 

「ありました」

 

「結んだか」

 

「いいえ。六印承認がないため」

 

ジャマールはハーディを見る。

 

軍馬は必要だった。

 

使節が契約しなかったことへ、不満もある。

 

だが表情を動かさない。

 

サルマ。

 

「次子ユースフ殿下は、アルカシャ銀の融資条件を調査する意向を持っていました」

 

商人席。

 

「当該偽契約は命じていません」

 

「火口銀融資組合と接触は」

 

「書面照会前に、不正口座と判明」

 

「契約は」

 

「なし」

 

マルヤム。

 

「末子サイード殿下は、南部巡礼路の保護と、外国巡礼宿の法的地位を検討していました」

 

宗教席。

 

「自治権を与えたか」

 

「いいえ」

 

「無償塩寄進を」

 

「命じていません」

 

「似た政策は」

 

「主張していました」

 

三人の本当の望み。

 

灰冠は、完全な嘘を作っていない。

 

「三王子の印は」

 

アルカシャで発見された型。

 

公開。

 

同じ蝋から複製。

 

《青い蓮》共同宣言。

 

共同で押した印が、三人別々の偽命令へ。

 

「印管理責任は」

 

サフワーン。

 

三王子全員。

 

「あります」

 

ジャマール。

 

「あります」

 

ユースフ。

 

「あります」

 

サイード。

 

候補資格。

 

六印投票。

 

長子。

 

五対一。

 

維持。

 

一票の反対は財務印代理サルマ。

 

「理由」

 

「外国軍馬契約を必要と考えていたこと自体ではありません」

 

「では」

 

「最初の灰冠書簡を父王へ即時報告しなかった」

 

ジャマールは受ける。

 

次子。

 

六対零。

 

維持。

 

ただしサルマは投票を辞退。

 

「私が次子殿下の元側近と見られるため」

 

代わりに会計院副監査官イスハーク・ベン=ダウド。

 

賛成。

 

末子。

 

五対一。

 

維持。

 

反対は法印サフワーン。

 

「最初の無償小麦書簡を、王へ提出する前に広場で公開した」

 

サイード。

 

「認めます」

 

「民衆支持を得る効果を知っていた」

 

「はい」

 

三人とも残った。

 

第一候補の名を読む資格がある。

 

---

 

## 三

 

六つの封書が、群衆の前へ置かれた。

 

今度は、代表六人が同時に封を切る。

 

既に一度読んでいる。

 

だが公開手続。

 

朗読は法印サフワーン。

 

「故バイバルス三世の名と印により」

 

広場。

 

静か。

 

「我が死後、ナフル王冠の第一候補として」

 

三王子。

 

ジャマールの背筋。

 

ユースフの手。

 

サイードの唇。

 

「次子、ユースフ・イブン=バイバルスを指名する」

 

音が消えた。

 

次の瞬間。

 

市場側から歓声。

 

「ユースフ王!」

 

軍人地区から怒号。

 

「長子を!」

 

東岸から悲鳴に近い声。

 

「サイードではない!」

 

朗読人の声が届く前に、候補名だけが走る。

 

《ユースフ》

 

《次子》

 

《商人王》

 

《帳簿王》

 

《灰冠が選んだ》

 

誰か。

 

「偽書だ!」

 

六部。

 

「会計院が!」

 

「刻印民が王を買った!」

 

サルマへ石。

 

鉄格子へ当たる。

 

兵が盾。

 

ジャマールは座ったまま。

 

サイードも。

 

ユースフだけが立ちかける。

 

サフワーン。

 

「まだ全文があります」

 

候補は王ではない。

 

朗読。

 

故王の字。

 

《ジャマールは、軍を止める力を持つ。だが脅威を見れば、確認より先に軍を動かそうとする》

 

軍人が怒る。

 

ジャマールは動かない。

 

《サイードは、人の声を聞く力を持つ。だが目の前の一人を救うため、明日の千人が必要とする穀物を軽く見ることがある》

 

東岸。

 

罵声。

 

サイードは下を見る。

 

《ユースフは、国家が支払えるものと支払えないものを知る》

 

商人席。

 

《ゆえに、洪水と冬と債務の後に、第一候補とする》

 

ユースフの顔。

 

《ただし、ユースフは帳簿へ記されない者を見失う》

 

広場。

 

少し静まる。

 

《数えられない痛みを、存在しない費用として扱う危険がある》

 

ユースフの指。

 

《よって、ジャマールが軍を、サイードが民の声を、六印が王の誤りを監視することを条件とする》

 

《一人へ王冠を与えるが、一人へ国を与えない》

 

《ユースフがこの条件を拒む場合、第二候補の封書を開け》

 

第二候補の名は別紙。

 

非公開。

 

「以上」

 

法廷。

 

王の選択。

 

同時に、王への不信。

 

父は次子を選んだ。

 

だが一人では足りないと書いた。

 

「ユースフ候補」

 

サフワーン。

 

「立ってください」

 

ユースフが立つ。

 

歓声。

 

罵声。

 

「王ではありません」

 

最初の言葉。

 

「候補です」

 

「王!」

 

市場。

 

「違います」

 

ユースフ。

 

「まだ、故王の指名を受けただけです」

 

「受けるか」

 

「審査と異議を聞いた後に答えます」

 

商人たちが不満。

 

即位を。

 

市場安定。

 

外国承認。

 

「今、受けろ!」

 

「軍が動くぞ!」

 

「末子を!」

 

ユースフは座らない。

 

「異議申立て権を」

 

三王子誓約。

 

選ばれなかった二人は一度。

 

最初に立ったのはジャマールだった。

 

軍人席から歓声。

 

「異議あり」

 

広場が爆発する。

 

「長子を!」

 

兵が槍。

 

「静粛に!」

 

六印。

 

ジャマールは弟を見る。

 

「第一候補指名そのものへ、異議を申し立てるのですか」

 

サフワーン。

 

「違う」

 

歓声が止まる。

 

「では」

 

「候補資格の財務利益相反へ」

 

ユースフ。

 

目。

 

「《青い蓮》入港保証債券」

 

ジャマール。

 

「ユースフは自らの荘園財産で購入した」

 

「公開済みです」

 

ユースフ。

 

「利息を放棄した」

 

「元本返済は受ける」

 

「はい」

 

「王になれば、返済順位を決める側になる」

 

市場がざわめく。

 

「さらに、会計院上級官サルマは候補の近臣と見られている」

 

「投票を辞退しました」

 

「今後も財務印へ影響する」

 

サルマの顔。

 

「私の異議は、弟が王に適さないというものではない」

 

ジャマール。

 

軍人が困惑。

 

「王になる前に、候補個人の債券と外国保証に関する権利を、本人の手から外せ」

 

「兄上」

 

「軍人が、自分の軍を王位へ使えないのと同じだ」

 

自分も。

 

「私は東軍印を返す」

 

広場。

 

ジャマールは腰袋から、古い青銅印を出した。

 

東軍総監時代。

 

王子の私印ではない。

 

兵たちが従う印。

 

既に正式権限は停止。

 

だが象徴。

 

机へ置く。

 

短剣。

 

印柄を二つに割る。

 

金属。

 

一度では。

 

二度。

 

割れる。

 

軍人席。

 

声なし。

 

「私の名で軍を動かす者は、私の兵ではない」

 

ジャマール。

 

「弟も、自分の名で金を動かせないようにせよ」

 

異議。

 

一度。

 

王位を求めるためでなく、王を縛るために使った。

 

ユースフは、自分の債券証書をサルマへ渡す。

 

「会計院ではなく」

 

サルマ。

 

「六印共同信託へ」

 

「元本は」

 

「王位在任中、返済停止」

 

「王を退いた後は」

 

「公開審査」

 

「死亡した場合」

 

「国家へ寄付?」

 

ユースフは一瞬。

 

自分の財産。

 

「半分を遺族へ、半分を共同備蓄基金」

 

「なぜ遺族」

 

「私の荘園で働く者の財産でもある」

 

「個人だけではない?」

 

「はい」

 

帳簿。

 

異議は採用。

 

六対零。

 

ジャマールの一度は終わる。

 

---

 

## 四

 

次にサイードが立った。

 

東岸から歓声。

 

「異議あり」

 

市場側が怒る。

 

「末子が!」

 

「民衆王を!」

 

サイードは手を上げる。

 

「私を王と呼ぶな」

 

支持者の声が少し弱くなる。

 

「異議は、候補の帳簿に記されない者について」

 

ユースフ。

 

父の手紙。

 

「具体的に」

 

法印。

 

「洪水で戸籍を失った者」

 

「居住札が三印揃わない者」

 

「宗教税記録へ載らない者」

 

「移民」

 

「孤児」

 

「家族を失い、証人二名を持たない者」

 

「帳簿に名がないから、配給、帰還、裁判を拒まれた」

 

「既に暫定制度を」

 

ユースフ。

 

「暫定です」

 

「何を求める」

 

サイード。

 

「《無記録者保護条項》」

 

「内容」

 

「公的記録がないことだけを理由に、食糧、水、緊急医療、避難場所を拒んではならない」

 

「所有権まで?」

 

「そこは審査」

 

「なら、偽申告が」

 

「救命と財産を分ける」

 

ナディアが頷く。

 

「緊急保護は先」

 

サイード。

 

「身元確認は後」

 

「配給が二重に」

 

ユースフ。

 

「死ぬ者と、二重に受け取る者のどちらを先に」

 

群衆。

 

「数字で」

 

サイード。

 

「父上が書いた危険です」

 

ユースフは兄ではなく、群衆でもなく、サイードを見る。

 

「無制限には受けられない」

 

支持者が怒る。

 

「帳簿王!」

 

「聞け!」

 

サイードが自分の側へ怒鳴る。

 

「無制限なら、後ろの者の分がなくなる!」

 

民衆王子が、自分の支持者へ制限を言う。

 

「条件を」

 

ユースフ。

 

二人。

 

その場で作る。

 

第一。

 

緊急食糧、水、医療、避難は、記録不備だけでは拒否しない。

 

第二。

 

同一人物の重複受給を防ぐため、暫定木札または身体特徴を記録。

 

「身体特徴?」

 

刻印。

 

差別。

 

「傷、身長、本人が選ぶ印」

 

「宗派印は使わない」

 

第三。

 

所有権、相続、長期給付は別法廷。

 

第四。

 

虚偽申告が判明しても、既に与えた最低限の食糧と医療費を刑罰債務へしない。

 

「食べたパンを返せと」

 

サイード。

 

「言わない」

 

第五。

 

暫定記録は三十日以内に本人へ写し。

 

「王が管理?」

 

「本人も」

 

ヨナの道。

 

名前。

 

複製。

 

六印。

 

採用。

 

五対一。

 

反対は財務印代理。

 

「理由」

 

「重複受給対策が弱い」

 

「改善期限」

 

二十日。

 

サイードの一度も終わる。

 

彼は王位を求めず、王の帳簿へ名のない者を入れた。

 

支持者の一部は拍手。

 

一部は失望。

 

彼が王でないことは変わらない。

 

---

 

## 五

 

「第一候補ユースフ」

 

法印サフワーン。

 

「二つの異議を受けた上で、指名を受諾しますか」

 

ユースフは、鉄格子の中の王冠を見る。

 

宝石の穴。

 

父が売った二つ。

 

洪水救助船。

 

水甕。

 

「受諾します」

 

市場側。

 

歓声。

 

「ただし」

 

また。

 

「王冠を被れば、父の指名だけで王になったと思われる」

 

「法が」

 

サフワーン。

 

「誓約と六印承認が必要です」

 

「はい」

 

「誓約を」

 

ユースフは読み上げる。

 

王室財産と国家財産を分ける。

 

白紙印を使わない。

 

外国融資と軍事契約を公開。

 

六印の権限を認める。

 

兄弟を即位前後七日間拘束しない。

 

相互不殺誓約。

 

無記録者保護。

 

個人債券信託。

 

軍給金名簿。

 

水利判断線。

 

「外国からの承認を、国内誓約より先に求めない」

 

追加。

 

「なぜ」

 

サフワーン。

 

「既に、国境外で三つの承認条件が待っていると報告があります」

 

アルカシャ。

 

アルサク。

 

オルシャ。

 

「すべて公開法廷へ」

 

「即位後?」

 

「即位前に届けば、即位前」

 

「市場が」

 

「外国の承認で国内王位を買わない」

 

ユースフは父と違い、強い声ではない。

 

朗読人が繰り返す。

 

遅い。

 

だが届く。

 

「兄弟の地位は」

 

軍人席。

 

「今、決めません」

 

罵声。

 

「ジャマール殿下を軍へ!」

 

「サイード殿下を民訴院へ!」

 

「王が恩賞を!」

 

「恩賞として権限を渡せば、支持基盤が私兵になります」

 

ジャマールが少し笑う。

 

自分の言葉。

 

「六印中四印と、公開審査後に」

 

「弟が兄を審査?」

 

「王も審査されます」

 

ユースフ。

 

受諾。

 

六印承認投票。

 

軍印。

 

ファリド。

 

「賛成」

 

財務印。

 

イスハーク。

 

「賛成」

 

水利。

 

ナディア。

 

「賛成」

 

首都。

 

ライラ。

 

「賛成」

 

地方。

 

アブドゥル。

 

老人。

 

ユースフを見る。

 

「王子」

 

「はい」

 

「村へ来た時、数字を聞く前に名前を聞け」

 

「約束します」

 

「守れるか」

 

「守る努力を」

 

バイバルスと同じ。

 

「賛成」

 

法。

 

サフワーン。

 

「賛成」

 

六。

 

候補資格。

 

承認。

 

残るのは、王冠。

 

---

 

## 六

 

鉄格子の鍵が開けられる前に、王宮東門から伝令が入った。

 

「東軍第七騎兵団、王都へ接近!」

 

法廷。

 

軍人席。

 

「兵数」

 

ジャマール。

 

「八百!」

 

「旗は」

 

「長子殿下旗!」

 

広場。

 

歓声と悲鳴。

 

「ジャマール王を!」

 

「軍が!」

 

「反乱!」

 

ジャマールは椅子から立つ。

 

「指揮官」

 

「ラシード・アル=カーシム千人長」

 

三十四歳。

 

ジャマールの旧部下。

 

偽の第一候補号外を信じた若手将校。

 

七日不動誓約中、駐屯地維持を命じられていた。

 

「命令違反」

 

ファリド。

 

「王都をユースフ派商人から守ると」

 

「私の命令ではない」

 

ジャマール。

 

「兵は、殿下を守ると」

 

「誰から」

 

「六印から」

 

灰冠が外側を動かす。

 

「王子は法廷へ留まってください」

 

サフワーン。

 

「私が行く」

 

「候補の兄が軍へ」

 

「行かなければ、私の名で門を」

 

「軍印が」

 

ファリド。

 

「私では止まらない」

 

「なら共同で」

 

ジャマール。

 

自分一人では。

 

軍印ファリド。

 

首都印ライラ。

 

ジャマール。

 

三者。

 

「王冠開封は」

 

「待つ」

 

ユースフ。

 

市場が反発。

 

「今、被れ!」

 

「軍に負ける!」

 

ユースフは王冠を見る。

 

「兄の軍が門前にいる時、被れば」

 

「王権を示せる」

 

商人。

 

「軍に追われて被った王になる」

 

「空位が」

 

「一刻延ばす」

 

「規則は」

 

「緊急事態」

 

法印。

 

「六印承認で延期可能」

 

五対一。

 

軍印は出るため代理。

 

王冠はまだ格子。

 

空。

 

---

 

東門。

 

八百騎。

 

鎧。

 

槍。

 

青い旗。

 

ジャマールの旧軍旗。

 

門上に弓兵。

 

市民が逃げる。

 

ラシード千人長。

 

「殿下!」

 

ジャマールが門上へ。

 

鎧なし。

 

剣なし。

 

割った軍印の半分を持つ。

 

「開門を!」

 

ラシード。

 

「王冠を奪われました!」

 

「奪われていない」

 

「故王は長子を!」

 

「封書は偽造!」

 

「六部一致した」

 

「会計院が!」

 

「軍総監府の封書も」

 

「買われた!」

 

兵たち。

 

信じたいもの。

 

「私は第一候補ではない」

 

ジャマール。

 

自分で。

 

八百騎。

 

ざわめく。

 

「殿下が命じられたのですか」

 

一兵。

 

「違う」

 

「なら王は」

 

「ユースフが第一候補だ」

 

軍から罵声。

 

「商人王!」

 

「刻印民の王!」

 

「殿下が命じれば」

 

「命じない」

 

ラシード。

 

「我々は殿下のために!」

 

ジャマールは割れた印を掲げる。

 

「私の軍印は、ここにある」

 

半分。

 

「もう半分は法廷だ」

 

「印がなくとも、我々は」

 

「なら、お前たちは私の兵ではない」

 

ラシードの顔。

 

「殿下」

 

「私の名で王都へ兵を向けた者は、私の命令に逆らった」

 

「国を守るため」

 

「誰から」

 

「ユースフから!」

 

「弟は敵ではない」

 

「王位を」

 

「父が選んだ」

 

「父王は軍を」

 

「父上を侮辱するな」

 

ジャマールの声。

 

軍人が静まる。

 

「殿下は負けを受け入れるのですか」

 

ラシード。

 

最も痛い。

 

「はい」

 

一語。

 

門。

 

「規則が守られたから、受け入れる」

 

「我々は」

 

「駐屯地へ戻れ」

 

「戻れば軍法会議」

 

「はい」

 

「兵も?」

 

「命令者を調べる。従った者すべてを同じ罪にはしない」

 

「私を差し出せと」

 

「自分で来い」

 

ラシードは槍。

 

手が震える。

 

「殿下を王にするため、死ぬ覚悟を」

 

「私を王にしないため、生きて裁かれろ」

 

長い。

 

一人の若い騎兵が槍を下げる。

 

次。

 

十人。

 

百人。

 

ラシードは動かない。

 

後方から矢。

 

誰が。

 

門上へ。

 

ファリドの隣の兵が首へ。

 

倒れる。

 

門上の弓兵が構える。

 

「撃つな!」

 

ジャマール。

 

「誰が射た!」

 

騎兵団内。

 

混乱。

 

灰色の外套の男が、二本目。

 

味方兵が馬から引きずり下ろす。

 

男の口。

 

毒。

 

顎を押さえる。

 

遅い。

 

噛む。

 

死亡。

 

所属札。

 

第七騎兵団ではない。

 

補充兵。

 

三日前。

 

偽命令。

 

「灰冠!」

 

兵。

 

怒りの矛先。

 

「だから戻れ!」

 

ジャマール。

 

「今戦えば、あいつの矢が命令になる!」

 

ラシードは槍を落とす。

 

馬を降りる。

 

「軍法会議へ出頭します」

 

八百騎。

 

武器を門外で封印。

 

一部、六十三騎が逃亡。

 

灰色の使者と接触する可能性。

 

残る者は帰る。

 

死者。

 

門上兵一名。

 

灰冠工作員一。

 

戦闘は起きなかった。

 

だがジャマールは、支持者の前で王位を失った。

 

本当に。

 

---

 

## 七

 

東門の騒ぎと同時に、王都市場では《ユースフ即位債券》が取引されていた。

 

故王の候補名公表前から。

 

当たれば利息。

 

即位後の税収で返済。

 

発行者。

 

四つの商会。

 

二つはユースフ支持。

 

一つは投機。

 

一つは灰冠系。

 

「価格が三倍!」

 

商人。

 

「王が決まった!」

 

「買え!」

 

ユースフが王冠を被る前に、王位が商品になる。

 

さらに噂。

 

《ジャマール軍が王都へ》

 

債券価格。

 

急落。

 

銀行へ人。

 

「銀を返せ!」

 

「ユースフは負ける!」

 

「軍が!」

 

会計院。

 

サルマ。

 

腕の添え木。

 

「取引停止」

 

「市場を閉じれば恐慌」

 

イスハーク。

 

「即位債券だけ」

 

「他名義へ」

 

「購入者名簿を」

 

「秘密取引」

 

「現金交換所を開く」

 

「銀が」

 

「王立準備金」

 

「少ない」

 

「大口ではなく小口を先」

 

洪水。

 

同じ。

 

ユースフから伝令。

 

《即位債券をすべて無効候補として法廷へ》

 

商人が怒る。

 

「王子が、自分の支持者を!」

 

「正規債券ではない」

 

「殿下の名を」

 

「許可していない」

 

「購入者が損を」

 

「発行者資産を」

 

「足りない」

 

「王国が補償?」

 

ユースフ。

 

法廷へ戻っていない。

 

伝令で。

 

《小口購入者の元本半額を暫定保護。大口は裁判》

 

「なぜ半額」

 

「投機責任」

 

「知らずに買った者は」

 

「金額基準だけでは」

 

「販売説明を」

 

時間。

 

市場。

 

群衆。

 

「一人銀貨五枚以下は全額保護」

 

「六枚なら」

 

「境界」

 

「また」

 

最終。

 

生活貯蓄購入者。

 

商業投資。

 

発行者内部。

 

三分類。

 

今日の支払い。

 

生活者へ三割。

 

残り審査。

 

「紙!」

 

人々。

 

それでも、銀行門を開く。

 

閉めない。

 

少額銀貨。

 

列。

 

ユースフ自身の商会持分は凍結。

 

支持商人が離れる。

 

「王になれば返すと」

 

「返さない」

 

伝令。

 

「市場が殿下を」

 

「王は市場の債務者ではない」

 

候補名公表で上がった人気は、同じ日に落ちる。

 

---

 

## 八

 

東岸貧民区では、葦を編んだ王冠が作られていた。

 

《サイード民王冠》

 

故王の封書がユースフを選んだ後。

 

支持者。

 

説教師カマール・アル=ハティーブ。

 

三十歳。

 

洪水で兄を失った。

 

「死者の王が、商人を選んだ!」

 

群衆。

 

「生者はサイードを!」

 

「民の王!」

 

相互不殺誓約。

 

公開異議。

 

支持者は署名していない。

 

説教師は葦冠を掲げる。

 

「王宮へ!」

 

サイードは法廷にいる。

 

使者。

 

「殿下、東岸が」

 

「人数」

 

「五千」

 

「武器」

 

「農具、短弓」

 

「誰が」

 

「カマール」

 

知っている。

 

避難所で説教。

 

「行く」

 

「市場へ来るなと言われた」

 

子供の母。

 

「今度は、行かなければ」

 

「群衆が増える」

 

「既に」

 

サイードはユースフを見る。

 

「行け」

 

候補。

 

「王命では」

 

「兄として」

 

「六印を」

 

首都印ライラ。

 

地方印アブドゥル。

 

サイード。

 

三者。

 

王子一人では。

 

---

 

東岸広場。

 

葦冠。

 

五千。

 

「サイード!」

 

本人が来る。

 

歓声。

 

王宮へ行くと思う。

 

「殿下!」

 

カマールが冠を差し出す。

 

「民が選びました!」

 

「誰が」

 

「ここにいる者が!」

 

「ここにいない者は」

 

「商人と兵は、ユースフとジャマールを」

 

「なら国を三つへ?」

 

「民の国を!」

 

「洪水の時、軍船も商人舟も来た」

 

「遅かった!」

 

「はい」

 

「父王は貧民区を沈めた!」

 

「はい」

 

「ユースフは数字で」

 

「はい」

 

「なら殿下が!」

 

サイードは葦冠を受け取る。

 

群衆。

 

歓声。

 

頭へ。

 

載せない。

 

地面へ置く。

 

「私は選ばれなかった」

 

「故王の紙!」

 

「六部です」

 

「全部、王宮の!」

 

「使節の偽印を見たでしょう」

 

「だから王の封書も!」

 

疑い。

 

終わらない。

 

「私が第一候補でないことを、私が認める」

 

「殿下が弱い!」

 

「そうかもしれない」

 

「民を捨てるのか!」

 

「あなたたちだけを民と呼ばない」

 

群衆。

 

「商人も、兵も、刻印民も、山村も、私を嫌う者も民です」

 

美しい言葉。

 

政治。

 

「ユースフ王へ仕えろと?」

 

「法へ」

 

「商人王の法!」

 

「無記録者保護条項を、今日入れた」

 

「殿下の異議で!」

 

「だから、王でなくてもできた」

 

支持者が静まる。

 

「なら王は要らない!」

 

一人。

 

「それも法で決めろ」

 

カマール。

 

怒り。

 

「兄を失った私へ、待てと?」

 

「私も父を失った」

 

「王の父と、溺れた兄を同じにするな!」

 

サイードが止まる。

 

「同じではない」

 

「なら」

 

「私は父を葬れた。あなたは兄の体を」

 

「見つからない」

 

「はい」

 

「何が分かる!」

 

「全部は分からない」

 

サイードは葦冠を拾う。

 

カマールへ返す。

 

「これを燃やすな」

 

「被れと?」

 

「兄の名を書け」

 

葦冠へ布。

 

《ハサン・アル=ハティーブ、洪水行方不明》

 

「王冠ではなく、墓標に」

 

カマールの手。

 

震える。

 

「私は許さない」

 

「許さなくてよい」

 

「ユースフを」

 

「異議を出せ」

 

「聞くか」

 

「無記録者条項を聞いた」

 

「殿下がいたから」

 

「次はあなたが」

 

群衆の一部が武器を下げる。

 

一部は去る。

 

一部は王宮へ向かおうとする。

 

約四百。

 

首都兵。

 

盾。

 

衝突。

 

石。

 

矢。

 

ライラが叫ぶ。

 

「止まれ!」

 

一人の若者が短弓。

 

サイードへではない。

 

兵へ。

 

サイードが腕を掴む。

 

矢は上。

 

「離せ!」

 

「撃てば」

 

「兄を!」

 

「別の兄を殺す」

 

取っ組み。

 

王子の頬へ拳。

 

護衛が青年を殴ろうとする。

 

「止めろ!」

 

サイード。

 

血。

 

口。

 

「拘束は」

 

「武器使用未遂」

 

「裁判へ」

 

「殿下を殴った」

 

「それは加えなくてよい」

 

法官が後で加えるか。

 

群衆は完全には解散しない。

 

だが王宮へ行かない。

 

その夜、東岸で《サイード王》を叫ぶ者は残る。

 

サイード本人は、彼らの王冠を被らなかった。

 

支持の一部を失う。

 

---

 

## 九

 

三つの騒ぎで、王宮中央法廷の警備は半分になった。

 

軍は東門。

 

首都兵は東岸。

 

市場警備は銀行。

 

鉄格子前。

 

六人の鍵守のうち、三人が外。

 

残る。

 

ナディア。

 

法印サフワーン。

 

会計代理イスハーク。

 

王冠管理人。

 

宮廷金工。

 

見習い。

 

サミーラ・アル=ハッダード。

 

十九歳。

 

王冠の内側へ新しい布を付ける仕事。

 

故王の汗と血を吸った古い革は、埋葬後に外された。

 

新王用。

 

「宝石穴は」

 

管理人。

 

「そのまま」

 

「縁を磨きます」

 

「形を変えるな」

 

「はい」

 

サミーラは鉄格子の外から王冠を見る。

 

内側。

 

黒い革。

 

昨日まではなかった薄い光沢。

 

「管理人様」

 

「何だ」

 

「内革を、誰か替えましたか」

 

「お前が今」

 

「既に蝋が」

 

「保存蝋」

 

「王冠内側へ蝋は使いません」

 

紫宮の杯。

 

毒蝋。

 

アルカシャ。

 

黒根。

 

サミーラは手を伸ばさない。

 

「匂いが」

 

「何の」

 

「苦い花」

 

管理人の顔。

 

「近づくな」

 

遅い。

 

背後。

 

法廷書記の服を着た男。

 

短い針。

 

管理人の脇腹。

 

「警備!」

 

サミーラが叫ぶ。

 

男が彼女へ。

 

腕。

 

針。

 

サミーラは金槌を投げる。

 

男の額。

 

外れる。

 

サフワーンが机を倒す。

 

ナディアが鍵束を投げない。

 

服の内へ。

 

男の狙いは王冠か。

 

鍵か。

 

イスハークが椅子で。

 

針。

 

肩。

 

男は鉄格子へ。

 

懐から鍵。

 

六本。

 

黒口鉱山の偽鍵工房。

 

一本目。

 

軍鍵穴。

 

回る。

 

二本目。

 

財務。

 

回る。

 

三本目。

 

水利。

 

途中で止まる。

 

洪水後に鍵溝を変更していた。

 

「開かない」

 

男。

 

ナディアが水差しを投げる。

 

顔。

 

サフワーンが腕。

 

針。

 

法印の袖を裂く。

 

サミーラが背後から金槌。

 

男の手首。

 

骨。

 

針が落ちる。

 

警備。

 

戻る。

 

男を押さえる。

 

口。

 

毒歯。

 

サミーラ。

 

「顎!」

 

兵が布。

 

間に合う。

 

毒袋を抜く。

 

生け捕り。

 

管理人。

 

脇腹。

 

針。

 

医師。

 

毒。

 

呼吸。

 

「王冠へ触れるな!」

 

サミーラ。

 

法廷。

 

管理人の手が革へ触れかける。

 

止める。

 

銀匙で蝋を削る。

 

小片。

 

小鳥。

 

使用。

 

痙攣。

 

「黒根」

 

医師。

 

「白石粉も」

 

杯と同じ。

 

王冠の内側。

 

新王が被れば、頭皮。

 

汗。

 

熱。

 

毒蝋が溶ける。

 

すぐ死ぬか。

 

量次第。

 

「誰が塗った」

 

捕虜。

 

黙る。

 

衣の下。

 

王宮管理人補佐札。

 

本物。

 

本人。

 

本物の補佐は?

 

倉庫。

 

死体。

 

二日前。

 

首を折られている。

 

「王冠を毒杯に」

 

ナディア。

 

「ユースフを殺すため?」

 

「誰が被っても」

 

サフワーン。

 

候補名を知らなくてもよい。

 

王冠そのものを毒に。

 

殺された新王。

 

兄弟。

 

六印。

 

外国。

 

「格子を開けなくても、昨日の整備時に」

 

「誰が監視」

 

管理人。

 

重傷。

 

「私と補佐」

 

偽補佐。

 

「気づかなかった」

 

「知らなかった責任」

 

アルカシャ。

 

「今は治療を」

 

ナディア。

 

責任は後。

 

王冠。

 

証拠。

 

被れない。

 

空のまま。

 

---

 

## 十

 

三王子が中央法廷へ戻ったのは、日が傾いた後だった。

 

ジャマール。

 

門の泥。

 

ユースフ。

 

市場帳簿。

 

サイード。

 

頬の血。

 

王冠の毒。

 

「父上と同じ」

 

サイード。

 

「杯です」

 

医師。

 

「黒根と白石粉の混合蝋」

 

「被れば」

 

ジャマール。

 

「汗と体温で溶けます」

 

「致死量」

 

「一刻から半日」

 

「誰が」

 

「生存」

 

捕虜。

 

口を割らない。

 

「王冠を洗う」

 

宮廷金工。

 

「革を外し、金属を」

 

「毒が継ぎ目へ」

 

「時間」

 

「最低七日」

 

「七日で安全?」

 

「保証できません」

 

市場。

 

空位。

 

軍。

 

外国。

 

「別の冠を」

 

貴族。

 

「複製冠は」

 

「王冠ではない」

 

伝統。

 

「父上の軽冠を」

 

「埋葬具」

 

「冠なしで即位」

 

サイード。

 

宗教法官たち。

 

「前例が」

 

「戦場即位では」

 

ファリド。

 

「旗と誓約だけ」

 

「平時です」

 

「今が平時?」

 

市場暴動。

 

軍。

 

毒。

 

「王冠は象徴」

 

ユースフ。

 

「だから必要です」

 

サフワーン。

 

「毒を塗られた象徴を被る?」

 

「浄化後に」

 

「それまで王を空位?」

 

「六印摂政を延長」

 

「いつまで」

 

「七日」

 

「安全保証なし」

 

「四十日」

 

「国が」

 

また期限。

 

アルカシャ最高火守の書簡が思い出される。

 

《火は、人が作ったのではない》

 

教義。

 

ナフルの法では、王冠は王権の証か。

 

法印が古法を読む。

 

《王位は、故王の指名、法の誓約、軍と民の承認、王冠の戴冠によって完成する》

 

四つ。

 

「戴冠がないと」

 

「未完成」

 

「候補執政?」

 

「六印の第一執行者」

 

「王ではない」

 

外国。

 

「だから敵は王冠へ毒を」

 

ユースフ。

 

空位を続けるため。

 

「被る」

 

彼が言う。

 

全員。

 

「何を」

 

ジャマール。

 

「革を外し、布を置く」

 

「毒が」

 

「金の上へ直接」

 

「頭皮が」

 

「死ぬかもしれない」

 

「王位を」

 

「馬鹿な」

 

ジャマールが弟の胸倉。

 

「軍人より無謀だ」

 

「今日、王が決まらなければ」

 

「死んだ王より」

 

「兄上の軍がまた」

 

「私が止める」

 

「毎回?」

 

「お前が死ねば、私が疑われる!」

 

ジャマールの声。

 

法廷。

 

本音。

 

「サイードも」

 

「はい」

 

末子。

 

「冠を被るな」

 

「では」

 

ユースフ。

 

「何で王位を」

 

サイードは鉄格子を見る。

 

「空の王冠の前で誓う」

 

「被らず?」

 

「王冠は存在する」

 

「戴冠とは」

 

法。

 

「頭へ載せることだけか」

 

古法。

 

言葉。

 

祭司。

 

議論。

 

最高宗教法官ムフティー・ハキームが初めて口を開く。

 

八十一歳。

 

これまで沈黙。

 

「王冠は、王の頭へ王国の重みを載せる儀礼だ」

 

「なら」

 

「重みは、金属だけか」

 

誰も。

 

「故王は宝石を二つ外した」

 

「それでも王だった」

 

「冠が軽くなっても」

 

「はい」

 

「では、金属がなくとも」

 

保守派。

 

「詭弁です!」

 

「かもしれない」

 

老人。

 

「だが、毒を被せる方が信仰か」

 

「延期を」

 

「敵が次の七日を使う」

 

「法を変える?」

 

「緊急解釈」

 

「後世に」

 

「記録する」

 

条件。

 

戴冠儀礼を二段階へ。

 

第一。

 

王冠を鉄格子内に置いたまま、候補がその前で誓約。

 

六印と三王子が王冠へ手を触れず証人。

 

王権を暫定完成。

 

第二。

 

王冠の安全確認後、物理的戴冠。

 

それまで称号。

 

《空冠のスルタン》

 

侮辱にも。

 

制度名。

 

「外国が認めない」

 

ユースフ。

 

「国内が先です」

 

ムフティー。

 

「受けますか」

 

ユースフは兄二人を見る。

 

ジャマール。

 

「死ぬより」

 

サイード。

 

「王冠がなくても、あなたが何をするかは見える」

 

「受けます」

 

---

 

## 十一

 

日没。

 

王宮外庭。

 

群衆は減っていない。

 

噂。

 

《王冠に毒》

 

《ジャマールが》

 

《サイード派が》

 

《刻印民金工が》

 

《アルカシャ毒》

 

《王冠は偽物》

 

全部。

 

鉄格子ごと、王冠が外庭へ運ばれる。

 

六鍵。

 

王冠へ触れない。

 

毒の証拠札。

 

群衆へ。

 

「毒冠を!」

 

「被せろ!」

 

「王なら死なない!」

 

神話。

 

「王を試せ!」

 

ユースフは空の高座へ上がる。

 

頭に何もない。

 

父の冠は格子の中。

 

宝石の穴。

 

黒い内革は外され、別箱。

 

「ユースフ・イブン=バイバルス」

 

ムフティー。

 

「故王の第一候補、六印承認者として」

 

誓約。

 

一つずつ。

 

ユースフが答える。

 

「王室の財産を、国の財産と混ぜないか」

 

「混ぜません」

 

「外国の金を、秘密の王位債務としないか」

 

「しません」

 

「軍を、自らの家の兵としないか」

 

「しません」

 

ジャマールを見る。

 

「記録にない者を、存在しない者として扱わないか」

 

「扱いません」

 

サイード。

 

「六印の異議を、反逆と呼ばないか」

 

「呼びません」

 

「兄弟の異議を」

 

「一度、公開で聞きます」

 

「二度目は」

 

少し。

 

「法に従わせます」

 

笑いなし。

 

「自らの誤りを」

 

「記録します」

 

「訂正を」

 

「消さずに残します」

 

「王冠を被らずとも、その責任を負うか」

 

ユースフ。

 

空の頭。

 

「負います」

 

六印。

 

承認。

 

三王子。

 

ジャマールが最初に膝をつくか。

 

軍人が見る。

 

彼は膝をつかない。

 

代わりに、右拳を胸へ。

 

ナフル軍礼。

 

「法に選ばれたスルタンへ、軍人として服従する」

 

王個人ではなく。

 

ユースフ。

 

「受けます」

 

サイードは膝をつかず、両手を開く。

 

民衆語の祈り。

 

「王が、聞こえない声を忘れないように」

 

「受けます」

 

六印。

 

一人ずつ。

 

最後にアブドゥル。

 

杖をつき。

 

「王よ」

 

初めて。

 

「はい」

 

ユースフ。

 

「パンを数字だけで小さくするな」

 

広場で少し笑い。

 

「数字で大きくできるよう努力します」

 

「難しい言葉だ」

 

「一斤二分は守ります」

 

「それでよい」

 

老人は印。

 

ムフティーが宣言。

 

「ナフル王国のスルタン、ユースフ」

 

冠なし。

 

歓声。

 

罵声。

 

鐘。

 

王の即位鐘。

 

六回。

 

間。

 

二回。

 

新しい符号。

 

偽鐘対策。

 

王宮。

 

寺院。

 

市場。

 

水利塔。

 

別々の鐘が照合。

 

一つが違えば。

 

今夜は全部。

 

ユースフは王になった。

 

頭は空。

 

---

 

## 十二

 

即位後の最初の命令は、兄弟の処遇ではなかった。

 

塩だった。

 

「アルカシャ返還塩百台を、軍・市場・施療院へ同率ではなく用途別最低量で配分」

 

ユースフ。

 

法廷。

 

まだ式服。

 

冠なし。

 

「軍へ二十五」

 

ジャマール。

 

「冬の肉保存に三十」

 

「市場へ四十」

 

サルマ。

 

「価格安定に四十五」

 

「施療院と避難民へ」

 

サイード。

 

「三十五」

 

合計。

 

百十。

 

また足りない。

 

「百台です」

 

ユースフ。

 

「分かっている」

 

三人。

 

王になっても。

 

「現在国内残量を」

 

塩務院。

 

二月分。

 

返還で二月半。

 

「不足分を、価格ではなく腐敗量で」

 

軍肉。

 

魚。

 

医療。

 

皮革。

 

漬物。

 

「皮革は後」

 

商人が反発。

 

「軍靴が」

 

「最低量を」

 

「魚保存を先」

 

沿岸。

 

「肉は」

 

「家畜を生かせば」

 

飼料。

 

冬。

 

議論。

 

ユースフは即断しない。

 

「明日正午まで」

 

「遅い」

 

ジャマール。

 

「今夜、暫定配分」

 

軍二十五。

 

市場三十五。

 

施療・避難二十五。

 

水運・漁業十五。

 

「百」

 

「皮革は」

 

「三日停止」

 

「職人が」

 

「補償」

 

「銀が」

 

「塩税将来控除」

 

ユースフ。

 

帳簿。

 

「また未来を」

 

「上限二十日」

 

最初の王命。

 

完全でない。

 

公開。

 

署名。

 

王印。

 

どの印を使う?

 

王冠印璽は毒事件で隔離。

 

故王の指輪印は墓へ。

 

新王印は未製作。

 

「印がない」

 

書記。

 

ユースフは六印を見る。

 

「六印共同で」

 

王の最初の命令に、王印なし。

 

空冠。

 

「明日、新印を」

 

「形は」

 

宝石の欠けた冠?

 

「冠ではなく」

 

ユースフ。

 

「六つの水路と一つの麦穂」

 

「王冠を印にしない?」

 

貴族。

 

「王冠は毒を塗られました」

 

「象徴を捨てる?」

 

「変える」

 

王印から冠を外す。

 

大きな議論。

 

暫定印。

 

六印。

 

---

 

二つ目の命令。

 

即位債券の凍結。

 

三つ目。

 

東軍第七騎兵団の軍法審査。

 

「ラシードを死刑に」

 

強硬派。

 

ジャマール。

 

「公開法廷」

 

「殿下の元部下」

 

「だから」

 

「兄上は審査へ関わらない」

 

ユースフ。

 

「はい」

 

「軍印ファリドも、門で当事者」

 

「代理を」

 

「兵八百を」

 

「命令者、偽命令作成者、従属兵へ分ける」

 

「逃亡六十三騎」

 

「家族を拘束しない」

 

ジャマール。

 

誓約。

 

記録。

 

四つ目。

 

東岸集会。

 

カマール。

 

弓を持った青年。

 

「王への反乱?」

 

法印。

 

サイード。

 

「王宮へ行軍していません」

 

「擁立集会」

 

「規則違反」

 

「死刑では」

 

「扇動」

 

「兄を失った」

 

「罪を」

 

「消さない」

 

ユースフは二人を見る。

 

「兄弟の支持者を、同じ法廷規則で」

 

軍。

 

民衆。

 

「市場の即位債券発行者も」

 

財務。

 

三派。

 

同時。

 

誰かだけを。

 

「三法廷、同じ公開基準」

 

「裁判官は別」

 

「結果を比較」

 

制度。

 

---

 

## 十三

 

ユースフが王になった知らせは、国境へ向けて送られた。

 

通常なら。

 

外国王へ。

 

即位承認を求める。

 

アルカシャ。

 

アルサク。

 

オルシャ。

 

セレスタ。

 

聖座。

 

ヴァルネリア。

 

だがユースフは、使節へ一枚を追加。

 

《本書は即位の通知であり、承認の請願ではない》

 

外交官が反対。

 

「外国承認がなければ」

 

「交易条約が」

 

「請願しないだけです」

 

「認めろと」

 

「通知する」

 

「同じでは」

 

「条件を先に受けない」

 

既に三通。

 

即位前から。

 

アルカシャ摂政ザレフ王女。

 

《銀融資と毒物共同監査を承認するなら、新王を直ちに承認》

 

本物。

 

アルサク・スルタン国。

 

《南東国境の騎兵通行権を認めるなら、軍事承認》

 

本物に近い。

 

オルシャ六席。

 

《巡礼者保護と秘密条約公開を誓約する王を承認》

 

条件。

 

灰冠の改変があるか。

 

照合。

 

「全部を公開」

 

ユースフ。

 

「外交交渉前に?」

 

「国内が知る」

 

「相手が面子を」

 

「秘密条件を出した面子を?」

 

「交渉が」

 

「公開できない部分は、理由と期限」

 

父。

 

制度。

 

「外国は、空冠王と」

 

既に呼ばれている。

 

《冠なき会計王》

 

《六鍵の傀儡》

 

《刻印民のスルタン》

 

「反論を」

 

広報官。

 

「しない」

 

「弱く」

 

「何をしたかを」

 

塩。

 

配給。

 

軍。

 

裁判。

 

「物語が必要です」

 

広報官。

 

「王冠へ毒があった」

 

「英雄譚に」

 

「見習い金工サミーラの名を」

 

「王が」

 

「私は気づかなかった」

 

功績。

 

サミーラ。

 

宮廷金工見習い。

 

褒賞。

 

「銀貨」

 

「本人へ聞く」

 

アンドロニコスの教訓。

 

サミーラは、銀貨十枚と金工組合の正式資格試験免除を提示される。

 

「試験免除は嫌です」

 

「なぜ」

 

「毒に気づいたことと、金工技術は別」

 

「では」

 

「受験料免除。師匠の治療費。王冠調査へ見習い代表席」

 

「危険」

 

「もう」

 

受ける。

 

管理人は生存。

 

右脚に麻痺。

 

自分の補佐を見抜けなかった責任審査。

 

治療後。

 

捕虜は生きている。

 

名前。

 

ハーディ・アル=ムハンナ。

 

王宮管理人補佐として七年前から。

 

本物の職歴。

 

途中で灰冠へ入った。

 

家族。

 

息子の鉱山薬代。

 

また。

 

「いつから」

 

「三年前」

 

「何を」

 

「鍵型、警備交代、冠の革寸法」

 

「候補名を」

 

「知らない」

 

「誰を殺す」

 

「被った者」

 

「兄弟が疑い合う」

 

「はい」

 

「命令者」

 

「《灰杯》」

 

リヴィア。

 

山から逃げながら。

 

前もって。

 

「捕らえた?」

 

「いいえ」

 

「なら、また」

 

王冠は安全になるまで、鉄格子。

 

七日。

 

十四日。

 

一月。

 

分からない。

 

ユースフの頭は空のまま。

 

---

 

## 十四

 

即位から三日後。

 

三つの支持者法廷が始まった。

 

東軍第七騎兵団。

 

即位債券。

 

葦冠集会。

 

傍聴席は同じ人数。

 

王子名旗禁止。

 

第一法廷。

 

ラシード・アル=カーシム。

 

「長子を王にする意図が」

 

「ありました」

 

「故王封書を偽造と」

 

「信じた」

 

「根拠」

 

「軍地区号外」

 

「確認は」

 

「しなかった」

 

「長子本人の命令」

 

「ない」

 

「なぜ動いた」

 

「動かなければ、軍が商人王に解体される」

 

「実際」

 

「まだ」

 

「自分の恐怖で」

 

「はい」

 

「灰冠工作員を」

 

「知らなかった」

 

「補充兵名簿確認を」

 

「副官へ」

 

「副官は」

 

「偽の軍務局印を」

 

責任。

 

刑。

 

軍権剥奪。

 

十年の国境労働?

 

兵を再び。

 

「死刑を」

 

一部。

 

ジャマールは証言。

 

「ラシードは私に忠実でした」

 

「減刑を求める?」

 

「いいえ」

 

軍人席。

 

「忠実だから危険だった」

 

「殿下」

 

「私の命令を確認せず、私のためと動いた」

 

「私を」

 

「王にしたかった?」

 

「はい」

 

「なら、私が望まない王位を、私の名で奪おうとした」

 

ラシード。

 

泣かない。

 

「はい」

 

判決は後。

 

第二法廷。

 

即位債券発行商人。

 

「ユースフ殿下支持のため」

 

「利益は」

 

「出ます」

 

「王位が確定すれば」

 

「はい」

 

「軍が動けば損」

 

「はい」

 

「国家の安定へ賭けた」

 

「候補者名を無断使用」

 

「市場では」

 

「王子は商品か」

 

沈黙。

 

ユースフは証言。

 

「私の名で債券を売る許可を与えていません」

 

「陛下の支持者が」

 

「支持は所有権ではない」

 

自分へ。

 

第三法廷。

 

カマール。

 

葦冠。

 

「末子を民王へ」

 

「はい」

 

「本人が拒否」

 

「王子は恐れた」

 

「誰を」

 

「軍と商人」

 

「民の意思を」

 

「広場五千人」

 

「王国は」

 

「もっと」

 

「貧民の声はいつも少数と」

 

「だから聞く制度を」

 

「制度が遅い!」

 

サイード。

 

証言。

 

「遅い」

 

「なら殿下が」

 

「私が王なら速い?」

 

「はい」

 

「市場で二人が死んだ時、私が行って群衆を増やした」

 

「助けた」

 

「死者も」

 

「殿下を責めるのか」

 

「自分を」

 

三法廷。

 

支持は免罪にならない。

 

王子が支持者を守らないと非難。

 

守れば私兵。

 

正しい距離。

 

---

 

判決。

 

ラシード。

 

反逆未遂ではなく、違法軍動員、偽命令確認怠慢、王都威嚇。

 

軍権永久剥奪。

 

五年の洪水堤防・国境道路復旧労働。

 

監督下。

 

公開軍事教育で証言。

 

「軽い!」

 

「重い!」

 

逃亡六十三騎は別。

 

即位債券主犯二名。

 

財産の不正利益分没収。

 

五年間、公的債券業務禁止。

 

生活購入者への補償。

 

灰冠系商会は資産凍結。

 

カマール。

 

違法擁立集会。

 

武器持込管理怠慢。

 

一年の禁固ではなく、三年間の東岸公開評議会監督?

 

「権力を与える?」

 

法官。

 

最終。

 

六か月の拘禁。

 

その後二年、洪水行方不明者名簿事業へ。

 

本人。

 

「兄の名を」

 

「探す仕事」

 

「罰で?」

 

「はい」

 

「受ける」

 

許されない。

 

使う。

 

---

 

## 十五

 

物理的な王冠は、二十三日後に安全と判断された。

 

金属を分解できない部分。

 

洗浄。

 

加熱。

 

銀布。

 

小動物試験。

 

毒見ではなく。

 

宮廷医師は保証を拒む。

 

「絶対安全とは」

 

「では」

 

「検出限界以下」

 

「人が被る」

 

「はい」

 

「陛下」

 

ユースフ。

 

「被りますか」

 

二十三日。

 

空冠王。

 

外国の一部は正式承認を保留。

 

市場では、戴冠日を待つ契約。

 

軍の保守派。

 

「冠を被らない者は摂政」

 

「被る」

 

ユースフ。

 

兄弟。

 

ジャマール。

 

「今度は止めない」

 

「死ねば」

 

「疑われる」

 

「二十三日、調べた」

 

サイード。

 

「怖い?」

 

ユースフ。

 

「はい」

 

正直。

 

「王冠が?」

 

「何かを見落としていることが」

 

父の最後の言葉。

 

自分が見ていないものを、誰が。

 

「サミーラ」

 

金工見習い。

 

「はい」

 

「見落としは」

 

「あります」

 

宮廷官が青ざめる。

 

「何が」

 

「毒ではありません」

 

「では」

 

「内側の革を替えたため、王冠が少し緩い」

 

ユースフ。

 

「落ちる?」

 

「頭を下げれば」

 

戴冠で。

 

「調整を」

 

「新しい革は、また毒を」

 

「布を重ねる」

 

「見栄えが」

 

「落ちるより」

 

王冠の内側へ白い麻布。

 

見える。

 

王冠と頭の間。

 

簡素。

 

「王が包帯を」

 

「毒より」

 

サミーラ。

 

採用。

 

---

 

正式戴冠式。

 

王冠が鉄格子から出る。

 

六鍵。

 

六人。

 

ムフティー。

 

サミーラ。

 

医師。

 

全員。

 

ユースフが膝。

 

王冠。

 

頭。

 

少し大きい。

 

麻布。

 

ムフティーが載せる。

 

宝石二つの穴。

 

群衆。

 

「スルタン・ユースフ!」

 

今度は。

 

王冠あり。

 

だが、ユースフはすぐに外した。

 

「なぜ」

 

「公務中は軽冠を」

 

「正式冠を」

 

「国庫展示?」

 

「六鍵保管」

 

「王が持たない?」

 

「即位儀礼以外では」

 

新しい規則。

 

王冠を王の私室へ置かない。

 

六鍵格子。

 

「王冠を王から離す」

 

貴族。

 

「毒を離す」

 

現実。

 

「王権が」

 

「頭に載せた」

 

「一刻も」

 

「十分です」

 

空の王冠は、再び格子へ。

 

今度は王がいる。

 

---

 

## 十六

 

ユースフの即位後、ジャマールには軍権が与えられなかった。

 

少なくとも、すぐには。

 

「軍が不安定です」

 

ファリド。

 

「だから兄上を?」

 

「求心力」

 

「私兵化」

 

「六印共同の軍務監査使」

 

提案。

 

指揮権なし。

 

各軍の命令確認制度。

 

補充兵名簿。

 

偽印対策。

 

「兄上が受けるか」

 

ジャマール。

 

「兵を指揮できない軍務職?」

 

「はい」

 

「侮辱か」

 

「監視です」

 

「私を?」

 

「軍を。兄上自身も」

 

ジャマールは考える。

 

「任期」

 

「四十日」

 

「短い」

 

「公開審査後更新」

 

「受ける」

 

軍人たちが失望。

 

だが彼は軍へ戻る。

 

命令者ではなく、確認者として。

 

負ける練習。

 

---

 

サイードには民訴院長の地位を与えなかった。

 

支持者が求める。

 

「兄が任命すれば」

 

ユースフ。

 

「恩賞」

 

「では何を」

 

「無記録者保護条項の暫定審査委員」

 

「長では」

 

「六席の一人」

 

「王子が一席?」

 

「ほかは避難民、医師、法官、配給官、刻印民記録者」

 

「私の声が」

 

「一つ」

 

サイードは苦笑。

 

「父上なら」

 

「一つで十分と」

 

「多分」

 

「受ける」

 

末子は民の唯一の声でなくなる。

 

代わりに、六分の一。

 

支持者は怒る。

 

それでも。

 

---

 

ユースフ自身。

 

王立会計院から退く。

 

「王が財務を」

 

サルマ。

 

「知るが、直接帳簿を操作しない」

 

「誰が」

 

公開選任。

 

サルマは候補。

 

「王の側近と」

 

「だから審査を」

 

「落ちるかも」

 

「はい」

 

「殿下」

 

「陛下です」

 

サルマ。

 

初めて。

 

「慣れません」

 

「私も」

 

彼女は公開審査を受ける。

 

刻印民出身。

 

次子派。

 

批判。

 

能力。

 

選ばれるか。

 

別。

 

王は、自分の最も有能な側近を自動で任命しない。

 

遅い。

 

---

 

## 十七

 

即位承認の外国使節は、戴冠式から二日後に王都へ集まった。

 

アルカシャ。

 

アルサク。

 

オルシャ。

 

三つ。

 

リヴィアの予告どおり。

 

アルカシャ王女ザレフの使節。

 

「毒物共同監査、塩契約、鉱山審査協力を条件に、スルタン・ユースフを承認する」

 

「既存契約の履行は」

 

「条件ではなく、確認」

 

言葉。

 

アルサク使節。

 

「南東高原の騎兵通行権と、国境市場の関税減免を条件に、軍事同盟と承認」

 

「承認と同盟を分ける」

 

ユースフ。

 

「我がスルタンは」

 

「王位を認めないなら、交渉相手ではない」

 

強い。

 

危険。

 

オルシャ六席使節。

 

マリアム本人ではない。

 

だが彼女の署名。

 

《秘密条約を結ばず、巡礼者保護を宗派で分けない王として承認する》

 

条件ではなく、誓約確認。

 

「オルシャは承認」

 

即時。

 

アルカシャ。

 

既存共同契約を確認後。

 

アルサク。

 

保留。

 

三つ。

 

「最初にどれを」

 

外交官。

 

「同じ時刻に公開」

 

「また」

 

「はい」

 

広場。

 

外国条件。

 

全部。

 

アルサク使節が怒る。

 

「交渉文を民衆へ?」

 

「秘密指定がない」

 

「外交慣習」

 

「今後、秘密部分は理由と期限を先に」

 

「我が国へ法を」

 

「我が国の王位承認へ条件を出した」

 

対立。

 

アルサクは承認せず帰る。

 

国境緊張。

 

軍。

 

ジャマール。

 

「騎兵通行権を拒めば、彼らは高原へ」

 

「軍備を」

 

「公開範囲で」

 

「王」

 

兄が呼ぶ。

 

「命令を」

 

ユースフ。

 

「国境防衛準備。侵入しない。軍数は六印へ。民衆へ総額」

 

軍事機密と公開。

 

次。

 

---

 

## 十八

 

灰冠自由会議は、ナフル即位計画を失敗と記録しなかった。

 

《第一候補ユースフ、即位》

 

《長子軍反乱誘発、限定》

 

《末子民衆擁立、限定》

 

《市場即位債券混乱、達成》

 

《三王子相互殺害、未達》

 

《王冠毒殺、未達》

 

《物理戴冠遅延、達成》

 

《空冠王の国外正統性低下、達成》

 

《王冠六鍵保管、敵制度強化》

 

《三王子支持基盤分離、未達》

 

《アルサク承認保留、達成》

 

新しい黒雪。

 

「王を殺せなかった」

 

無貌。

 

「王冠を空にした期間は二十三日」

 

「今は被った」

 

「一刻だけ」

 

「象徴は戻った」

 

「格子の中へ」

 

「国内は」

 

「安定し始めた」

 

「国外は」

 

地図。

 

南東高原。

 

アルサク騎兵。

 

アルカシャ継承。

 

オルシャ巡礼。

 

「承認されない王は、国境で試される」

 

「戦争を」

 

「すぐには」

 

「何を」

 

「三つの承認を、三つの国境価格へ」

 

アルカシャへ銀。

 

アルサクへ馬。

 

オルシャへ巡礼者。

 

「ユースフは秘密契約を拒む」

 

「だから公開条件を高くする」

 

「民衆が拒めと」

 

「軍は妥協を」

 

「市場は承認を」

 

「末子派はオルシャを」

 

「長子派はアルサクを」

 

「次子派はアルカシャを」

 

三王子。

 

外から再び。

 

「本人たちは」

 

「王の下で一席ずつ」

 

「支持者は」

 

「自由だ」

 

同じ。

 

「次は王を動かさない」

 

「周りを」

 

黒雪。

 

「そして、王が全部を確認できないほど、同じ日に条件を送る」

 

疲労。

 

制度。

 

遅さ。

 

「いつ」

 

「春の高原市場」

 

軍馬。

 

塩。

 

銀。

 

巡礼。

 

四国。

 

「王冠は空でなくなった」

 

黒雪。

 

「なら、国境を空にする」

 

---

 

## 十九

 

戴冠から十日後。

 

ユースフは父の墓へ行った。

 

冠なし。

 

護衛少数。

 

先にジャマール。

 

軍務監査の報告書。

 

後からサイード。

 

無記録者申告札。

 

三人。

 

また同じ時刻。

 

今度は偶然ではない。

 

ユースフが呼んだ。

 

「父上の封書を」

 

ジャマール。

 

「なぜ私でなかったか、分かった」

 

「全部?」

 

「いや」

 

サイード。

 

「私も」

 

「怒っている?」

 

ユースフ。

 

「はい」

 

二人。

 

正直。

 

「私が王でよいと」

 

「まだ分からない」

 

ジャマール。

 

「私も」

 

サイード。

 

王。

 

兄弟。

 

「では、なぜ従った」

 

「規則が」

 

「父上の」

 

「それだけ?」

 

ジャマールは墓石。

 

「八百騎が来た時、私が王になれば、次は八千が来る」

 

「サイードは」

 

「五千人が私を王と呼んだ」

 

「嬉しかった?」

 

「はい」

 

「私も、商人が歓声を上げた時」

 

ユースフ。

 

「嬉しかった」

 

三人。

 

自分の支持。

 

危険。

 

「父上は、私を選んだ理由を帳簿と」

 

ユースフ。

 

「でも、王になった日に最も必要だったのは、兄上が軍を止め、サイードが群衆を」

 

「なら王は」

 

サイード。

 

「何をした」

 

ユースフは考える。

 

「待った」

 

「それだけ?」

 

「王冠を被るのを」

 

ジャマール。

 

少し笑う。

 

「軍人には難しい」

 

「民衆にも」

 

「市場にも」

 

「私にも」

 

墓。

 

《大河の水をすべて止めることはできなかった》

 

「父上へ、聞きたいことが」

 

ユースフ。

 

「なぜ私を」

 

返事なし。

 

「王だから答えを」

 

ジャマール。

 

「死者へ求めるな」

 

サイード。

 

「生者へ」

 

三人。

 

「春の高原市場」

 

ユースフ。

 

「アルサクが軍事承認を保留」

 

「騎兵を」

 

ジャマール。

 

「アルカシャは」

 

「銀と鉱山監査」

 

「オルシャは」

 

「巡礼者保護」

 

サイード。

 

「また三つ」

 

「一緒に行く?」

 

「王が国外へ?」

 

「危険」

 

「使節を」

 

「別々に?」

 

前の失敗。

 

「共同使節」

 

ユースフ。

 

「誰が」

 

三人が互いを見る。

 

王。

 

軍務監査。

 

無記録者委員。

 

「我々自身が行けば」

 

「王都が空く」

 

空の王冠。

 

「行かない」

 

ユースフ。

 

「使節は三分野から。ただし一つの全権状」

 

「今度は最初から」

 

サイード。

 

「軍馬、銀、巡礼」

 

ジャマール。

 

「一つの市場」

 

「一つの国境」

 

「一つの王」

 

ユースフ。

 

言った後。

 

二人が見る。

 

「王を強調するな」

 

ジャマール。

 

「帳簿へ書く?」

 

サイード。

 

三人が笑う。

 

父の墓前。

 

小さく。

 

---

 

王都へ戻る道。

 

ユースフは王冠を被っていない。

 

市民は一礼する者。

 

しない者。

 

《空冠王》

 

と呼ぶ子供。

 

母が叱る。

 

「よい」

 

ユースフ。

 

「実際、二十三日」

 

「陛下」

 

「名前は記録」

 

侍従。

 

「侮辱として?」

 

「事実として」

 

空冠王。

 

後世、その名が弱さを意味するか。

 

王冠に頼らず即位した王を意味するか。

 

まだ。

 

---

 

ナフル王宮の鉄格子の中で、宝石の二つ欠けた王冠が光っていた。

 

誰も被っていない。

 

だが王はいる。

 

六つの鍵。

 

毒の跡。

 

白い麻布。

 

一刻だけ頭へ載せられ、再び戻された王冠。

 

王冠が空であることと、王位が空であることは、同じではなくなった。

 

少なくともナフルでは。

 

---

 

南東高原では、春市場の杭が打たれ始めていた。

 

アルサクの馬商人。

 

アルカシャの銀商人。

 

オルシャの巡礼宿。

 

ナフルの塩商。

 

その間に、灰色の帳簿を持つ者。

 

新しい契約。

 

《ナフル新王を承認する国へ、国境交易優先権》

 

《承認を保留する国へ、軍事危険保険》

 

《新王の正統性に異議を持つナフル王族へ、亡命保護》

 

王族。

 

二人。

 

ジャマール。

 

サイード。

 

本人たちは望まない。

 

支持者は望むかもしれない。

 

リヴィア・サン・ジェルマーノは、遠い丘から市場予定地を見ていた。

 

左肩の傷は閉じている。

 

黒い手袋。

 

「王冠は空でなくなりました」

 

御者。

 

「いいえ」

 

彼女。

 

「王冠は、いつも空です」

 

「王が」

 

「人は金属へ自分の望みを見る」

 

「では」

 

「次は、外国に別々の王を見せる」

 

アルサクには、軍を抑えられない弱い王。

 

アルカシャには、銀を必要とする会計王。

 

オルシャには、巡礼を守る寛容な王。

 

セレスタには、債務を返す王。

 

軍には、兄を恐れる王。

 

民衆には、弟の声を借りる王。

 

「どれが本物です」

 

御者。

 

リヴィアは笑う。

 

「全部です」

 

一人の人間は、一つの顔だけではない。

 

一つの国も。

 

灰冠自由会議は、嘘を作る必要がなくなりつつあった。

 

本物の顔を、互いに敵となる順番で並べればよい。

 

ナフルに王は生まれた。

 

次に問われるのは、誰がその王を王と認めるかだった。

 

国内の法は、王冠をユースフへ与えた。

 

国境の外では、承認にも値段がついている。

 

そして春市場まで。

 

あと四十七日。

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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