灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第二十八章 女王の密命

忠誠は、命令に従うことだと人は言う。

 

だが、命令が二つあったらどうする。

 

一つは、王が口で否定した命令。

 

もう一つは、王の印が肯定している命令。

 

王の顔を信じるか。

 

王璽を信じるか。

 

王のために急ぐか。

 

王のために立ち止まるか。

 

海では、立ち止まることができない。

 

船は風を受ければ進む。

 

命令を疑って帆を下ろせば、敵船を逃す。

 

命令を信じて帆を上げれば、戦争を始めることがある。

 

アルビオン海王国の海軍は、王の言葉より速かった。

 

だからこそ、王の誤りも、王より先に海へ出る。

 

---

 

## 一

 

アルビオン王宮の白い塔には、二つの肖像が並んでいた。

 

退位王エドガー四世。

 

そして娘、アデライン一世。

 

エドガーは、サン・テルモ沖の戦いから三月後、右半身の麻痺によって退位した。

 

死んではいない。

 

だが長い文章を読めず、右手で署名できず、会議の途中で言葉を失うようになった。

 

王弟エドマンドは、私掠免許事件によって継承権を停止されていた。

 

そのため王冠は、エドガーの長女へ渡った。

 

アデライン一世。

 

三十四歳。

 

夫を持たない。

 

子もいない。

 

少女の頃から航海図を読み、王立造船所の予算を調べ、海軍士官の名簿を暗記していた。

 

議会からは《海を知る女王》と呼ばれた。

 

海軍からは《我らの女王》。

 

商人からは《羊毛税を上げる女》。

 

地方農民からは、まだ顔を知られていない。

 

即位式で彼女が用いた王冠は、祖父の時代からのものだった。

 

アルビオン王冠には、ナフルのような欠けた宝石はない。

 

だが王冠の内側には、新しい文字が刻まれた。

 

《命令は、記録されなければ風になる》

 

アデライン自身が命じて入れた言葉だった。

 

即位から六十七日後。

 

その女王の名で、三十隻の私掠船が再武装された。

 

議会の承認なしに。

 

---

 

## 二

 

再武装命令書は、海軍本部の青い金庫に保管されていた。

 

厚い羊皮紙。

 

王室書記局の書式。

 

王璽。

 

女王の署名。

 

日付。

 

《沿岸防衛緊急令第十二号》

 

内容。

 

退役私掠船三十隻を、《王立沿岸予備船団》として再編。

 

弓兵。

 

投石器。

 

衝角補強。

 

火矢。

 

海兵。

 

積載。

 

任務は、北西羊毛船団の護衛、海賊掃討、偽装巡礼船の臨検。

 

議会への報告は、作戦開始後七日以内。

 

「本物です」

 

王璽管理官。

 

議会海軍委員会。

 

「印影は」

 

「本物」

 

「署名は」

 

王室筆跡鑑定官。

 

「女王陛下のものです」

 

「紙は」

 

「王室備蓄」

 

「命令番号は」

 

「正式台帳と一致」

 

議員たち。

 

沈黙。

 

海軍提督セドリック・ヴォーンは、机の前に立っていた。

 

六十一歳。

 

広い胸。

 

右頬に海戦の火傷。

 

三十七年間、海軍。

 

女王が幼い頃、初めて軍船へ乗った際に案内した男でもある。

 

「命令を受領したのは」

 

海軍委員長。

 

「冬第二月四日、夜半」

 

「誰から」

 

「王室騎馬使者」

 

「名は」

 

「ヘンリー・ボルトン」

 

「本人は」

 

「死亡」

 

ざわめき。

 

「いつ」

 

「使者任務の二日後。街道で落馬」

 

「事故?」

 

「記録上は」

 

「命令を疑わなかった?」

 

「王璽、署名、番号、使者符号が揃っていた」

 

「議会承認は」

 

「緊急令には、作戦後報告の前例がある」

 

「私掠船再武装は、前年のサン=リュシアン停戦に反する可能性が」

 

「沿岸予備船団です」

 

「名を変えただけでは」

 

「王国商船を守る船です」

 

「大砲はない時代でも fire arrows etc.」

 

Fine.

 

「出港した船は」

 

「十八隻」

 

「残り十二」

 

「どこへ」

 

「武装中」

 

「十八隻の航路」

 

セドリックは答えない。

 

「軍機です」

 

「議会は」

 

「公開審査中でも、敵は地図を読む」

 

「敵とは」

 

委員長。

 

「海賊、偽装船、灰色艦隊残党」

 

「ルシタニアでは」

 

「敵ではない」

 

「では航路を」

 

「委員会非公開室で」

 

議会。

 

海軍。

 

いつもの境界。

 

「女王は、命令を否定しています」

 

委員長。

 

セドリックの顔が初めて動いた。

 

「何と」

 

「命令していないと」

 

「あり得ません」

 

「女王が嘘を?」

 

「王璽が」

 

「質問へ答えてください」

 

セドリック。

 

長い。

 

「陛下が、この命令を出したことを忘れている可能性を考えます」

 

議員たちが立つ。

 

「不敬!」

 

「女王を病者と!」

 

「退位王と同じだと?」

 

「私は王璽を見た」

 

提督。

 

「王璽が女王より正しいと?」

 

「王璽は女王の公的な声です」

 

「女王本人が違うと言っている」

 

「では、どちらが公的です」

 

誰も、すぐには答えられなかった。

 

---

 

## 三

 

アデライン一世は、王宮小評議室で命令書を見た。

 

手袋を外す。

 

紙へ触れない。

 

「私の署名です」

 

女王。

 

「はい」

 

王室書記長。

 

「書いた記憶はありません」

 

「筆跡は」

 

「私のものに見える」

 

「王璽も」

 

「本物」

 

「番号も」

 

「はい」

 

「では、私が忘れたと?」

 

誰も答えない。

 

退位王エドガー。

 

病。

 

王家の血。

 

「医師を呼ぶ?」

 

女王自身が言う。

 

側近たち。

 

「陛下」

 

「疑うべきです」

 

「しかし」

 

「王が自分の記憶だけで、王璽を偽と呼ぶ方が危険でしょう」

 

王室情報監督官エレノア・グレイヴ。

 

四十二歳。

 

黒髪。

 

海軍士官の家。

 

女王即位後、宮廷書記・使者・暗号を監査する役職へ。

 

「陛下は、沿岸船団について何を命じましたか」

 

「準備案を」

 

「いつ」

 

「冬第一月二十九日」

 

「誰へ」

 

「セドリック提督」

 

「言葉は」

 

女王は目を閉じる。

 

私的会談。

 

暖炉。

 

羊毛船団の海賊被害。

 

ルシタニアの私掠船。

 

議会の遅さ。

 

「必要なら、すぐ動けるようにしておけ」

 

「それだけ?」

 

「おそらく」

 

「おそらく」

 

「記録官を下げていました」

 

部屋。

 

「なぜ」

 

「海軍配置を、議会へ漏らしたくなかった」

 

「記録しない命令を」

 

「命令ではなく意見交換です」

 

「提督は」

 

「準備命令と受け取った可能性」

 

「再武装まで?」

 

「許可していない」

 

「出港は」

 

「絶対に」

 

「密命を示唆する言葉は」

 

女王。

 

思い出す。

 

セドリックが尋ねた。

 

《議会がまた二十日議論すれば、羊毛船団は春潮を逃します》

 

女王は答えた。

 

《アルビオンの海を、紙の遅さで失うな》

 

エレノア・グレイヴ。

 

「それは」

 

「出港命令ではありません」

 

「提督がそう望めば?」

 

「王の言葉を、自分の望みに変えたことになります」

 

女王。

 

怒り。

 

同時に、恐怖。

 

「命令書を誰が作った」

 

「調査中です」

 

「十八隻を戻せ」

 

「どの印で」

 

室内。

 

同じ王璽。

 

同じ署名。

 

命令書が本物と認定されている。

 

取消命令を出しても。

 

海上の船長は、どちらを信じる。

 

「女王本人の音声は運べません」

 

この時代。

 

「合言葉」

 

「緊急海軍符号は、命令書にも記載されています」

 

漏れている。

 

「新しい符号を」

 

「船長は知らない」

 

「セドリック本人を」

 

「提督が命令を本物と信じています」

 

「なら、まず彼を説得する」

 

「議会は逮捕を」

 

「逮捕すれば、海軍が」

 

女王は命令書を見る。

 

自分の署名。

 

「私は、書いていない」

 

誰へ言うのか。

 

自分へ。

 

---

 

## 四

 

王璽は、王が自分で押すものではなかった。

 

女王が署名。

 

王室書記長が文書番号を確認。

 

大法官府が王璽を押す。

 

使者局が封筒。

 

海軍暗号官が符号。

 

通常、五つの手。

 

今回。

 

五つすべてが正しかった。

 

王室書記長。

 

「番号は、陛下が即位直後に準備した緊急令の空き番号です」

 

「空き番号?」

 

議会。

 

「疫病、港湾火災、外国艦隊出現に備え、二十通分を予約」

 

「文面なしで?」

 

「番号と紙だけ」

 

「署名は」

 

「一部へ、陛下が事前署名」

 

室内が凍る。

 

「白紙署名?」

 

「完全な白紙ではありません」

 

書記長。

 

「上部に《沿岸防衛緊急令》の表題と、下部に署名」

 

「本文が空」

 

「緊急時、書記官が口述を」

 

「何通」

 

「八通」

 

「残り」

 

「使用済み五。保管三」

 

「その一通が」

 

「可能性」

 

女王。

 

「私は、署名した」

 

「即位二日目」

 

混乱。

 

海軍危機。

 

エドマンドの私掠船。

 

父王の退位。

 

議会。

 

「王璽は」

 

大法官代理。

 

「文面完成後に押す規則です」

 

「誰が押した」

 

王璽副管理官トマス・クロフト。

 

四十九歳。

 

二十五年勤務。

 

「命令文を確認しました」

 

「誰から」

 

「王室書記局」

 

「署名があった」

 

「はい」

 

「女王の口頭確認は」

 

「不要」

 

「緊急令では?」

 

「署名が」

 

「白紙署名だと知っていた?」

 

「知りません」

 

「本文筆記者」

 

若い王室書記。

 

ロバート・ニーヴ。

 

二十三歳。

 

「誰の口述」

 

「女王秘書官代理」

 

「名」

 

「マーガレット・アシュコーム」

 

女王の侍女上がり。

 

秘書官。

 

所在。

 

失踪。

 

「家族は」

 

弟。

 

海軍少尉。

 

私掠船《赤狐》へ乗船。

 

再武装十八隻の一隻。

 

「自分の弟を」

 

エレノア・グレイヴ。

 

「あるいは人質」

 

部屋。

 

マーガレットの私室。

 

衣服。

 

金。

 

残っている。

 

机に、一枚。

 

《陛下のために、陛下が言えない命令を作った》

 

署名なし。

 

「忠誠?」

 

女王。

 

「そう見せたい者の文です」

 

---

 

命令書は、一人の偽造者が作ったのではなかった。

 

女王が事前署名した。

 

秘書官代理が口述した。

 

若い書記が書いた。

 

副管理官が王璽を押した。

 

海軍暗号官が符号を付けた。

 

使者が運んだ。

 

提督が実行した。

 

誰も、全体を偽造していない。

 

それぞれが、自分の部分だけ本物にした。

 

その結果。

 

王璽は本物。

 

署名も本物。

 

命令だけが、誰のものでもなかった。

 

---

 

## 五

 

議会は、海軍予算を凍結した。

 

全額ではない。

 

沿岸予備船団分。

 

だが水兵にとって、違いは給金が来るかどうかだった。

 

ポーツ・グレイ造船所。

 

武装中の十二隻。

 

「給金停止!」

 

水兵。

 

「議会が女王の船を!」

 

「私掠船を止めるためだ」

 

「俺たちは海軍だ!」

 

「昨日まで私掠船」

 

「王命で編入!」

 

「女王は否定!」

 

「王璽は!」

 

岸壁。

 

叫び。

 

工具。

 

弓。

 

酒。

 

海軍警備隊。

 

「武器を置け!」

 

「俺たちへだけ!」

 

一人の水兵が、議会告示を破る。

 

「紙で船を止めるな!」

 

別の者。

 

「紙で出した命令だ!」

 

殴り合い。

 

---

 

港には、トーマス・ウェルズがいた。

 

サン・テルモ沖で弓兵代表となった小作農。

 

妻メアリー。

 

娘アン。

 

弟ウィル。

 

今は、王立未払給金登録所の臨時記録補助。

 

父が旧戦争で受け取れなかった給金証書。

 

その経験から。

 

彼は造船所へ、再武装船の乗組員名簿と給金保証を確認しに来ていた。

 

「トーマス!」

 

船長サイモン・ローク。

 

《白樺姫》の船長。

 

今は沿岸護衛船の監督。

 

「議会が銀を止めた」

 

「全部では」

 

「水兵は全部と思っている」

 

「名簿を」

 

「今それか」

 

「給金が止まる時ほど」

 

トーマス。

 

「誰が乗っているか残さないと」

 

サイモンは彼を見る。

 

「農夫が、海軍へ帳簿を」

 

「船長が、陸の麦へ口を出すでしょう」

 

「出す」

 

「なら」

 

二人。

 

---

 

騒ぎ。

 

一人の若い水兵が弓へ手。

 

「議会の犬を!」

 

トーマス。

 

「弦を張るな!」

 

「誰だ!」

 

「弓兵だ!」

 

「農夫だろ!」

 

「両方だ!」

 

水兵。

 

止まらない。

 

「命令書を信じるなら、給金名簿も信じろ!」

 

「何を」

 

「王命で乗るなら、王国が名を記録し、死ねば家族へ払う!」

 

「議会が止めた!」

 

「だから名簿を見せろ!」

 

怒りの出口を、別の紙へ。

 

サン・テルモ。

 

撃つ前に記録。

 

水兵たちが。

 

「俺の名は」

 

「載ってない?」

 

一人。

 

実際。

 

再武装が急だったため、三百人以上が仮登録。

 

給金保証なし。

 

「王の船だと言いながら」

 

トーマス。

 

「王国は、あなたたちをまだ人として数えていない」

 

武器。

 

少し下がる。

 

「登録所を」

 

船長サイモン。

 

岸壁へ机。

 

議会凍結中でも。

 

名を。

 

給金額。

 

家族。

 

死亡時。

 

「銀は」

 

「後で」

 

「また紙か!」

 

トーマス。

 

自分の父の紙を取り出す。

 

古い。

 

折れ。

 

《戦時給金未払証》。

 

「これが父を殺したとは言わない」

 

「だが、これだけが戻った」

 

水兵。

 

見る。

 

「だから、今の紙は三部」

 

一部。

 

本人。

 

一部。

 

海軍。

 

一部。

 

港組合。

 

「払われなければ」

 

「全員の名で議会へ」

 

「お前が?」

 

「代表を選べ」

 

水兵たちは、すぐには従わない。

 

だが弓へ弦は張られなかった。

 

---

 

## 六

 

セドリック・ヴォーン提督は、女王との直接会談へ呼ばれた。

 

王宮。

 

議会代表。

 

海軍代表。

 

記録官。

 

女王。

 

「二人だけで話したい」

 

セドリック。

 

「駄目です」

 

アデライン。

 

「陛下」

 

「前に二人だけで話した言葉が、今こうなっています」

 

記録官。

 

二人。

 

一人は王室。

 

一人は議会。

 

「命令書を、いつ本物と判断した」

 

「受け取った時」

 

「私へ確認しなかった」

 

「緊急令でした」

 

「出港まで五日」

 

「武装、乗員、補給」

 

「その間、王宮へ来られた」

 

「密命を、公開の廊下で確認しろと?」

 

「密命なら、なぜ私が否定している」

 

「議会への演技と」

 

室内。

 

「私が嘘をついていると?」

 

「陛下が国家のため、否定せざるを得ない命令もあります」

 

「それを誰が決める」

 

「陛下の忠臣が」

 

「違う」

 

女王。

 

「私が決めます」

 

「王は時に、言えない」

 

「なら命令できない」

 

「敵は待たない」

 

「だから、あなたが王になる?」

 

「私は王冠を望まない!」

 

提督の声。

 

「では、なぜ私が言っていないことを、私のためだと実行した」

 

「王璽が」

 

「あなたは王璽を愛しているのか」

 

「陛下を」

 

「違います」

 

静か。

 

「あなたは、自分が守りたい女王像を愛している」

 

セドリックの顔。

 

火傷。

 

老いた。

 

「陛下は海を知る」

 

「知ります」

 

「議会の遅さを嫌う」

 

「嫌います」

 

「私掠船が必要と」

 

「準備案は求めた」

 

「なら」

 

「出港は命じていない!」

 

「しかし、アルビオンの海を紙の遅さで失うなと」

 

「それは命令ではない」

 

「海軍にとっては」

 

「あなたにとって、都合のよい命令だった」

 

言葉。

 

提督。

 

「私は、サン・テルモの後、二度と敵へ先に撃たせまいと」

 

「だから、先に出した?」

 

「守るため」

 

「王のために、王の確認を省いた」

 

「はい」

 

正直。

 

議会がざわめく。

 

「罪を認める?」

 

「陛下の意図を誤った可能性を」

 

「まだ可能性?」

 

セドリック。

 

王璽を見る。

 

「私は、三十七年、王の印へ従いました」

 

「今、私が目の前にいる」

 

アデライン。

 

「どちらへ従う」

 

提督は女王を見る。

 

初めて。

 

「陛下へ」

 

「十八隻を戻せ」

 

「はい」

 

「戻らない船は」

 

「私が止めます」

 

「指揮権は」

 

議会。

 

「停止すべき」

 

女王。

 

「戻すまで必要です」

 

「自分の誤命令を、自分で」

 

「ほかの提督では、船長が疑う」

 

正しい。

 

利益相反。

 

「共同指揮」

 

エレノア・グレイヴ。

 

「セドリック提督、議会海軍委員、船長代表」

 

「文官が海へ」

 

「行く」

 

議会側。

 

トマス・ヘイル。

 

四十六歳。

 

元造船工。

 

下院議員。

 

海軍予算の強硬監査者。

 

「船酔いは」

 

誰か。

 

「します」

 

「役に」

 

「署名します」

 

三者。

 

さらに。

 

乗組員代表。

 

トーマス・ウェルズ。

 

「なぜ農夫が」

 

提督。

 

「サン・テルモで、発砲前の記録制度を求めた弓兵です」

 

「海軍は農民評議会では」

 

女王。

 

「私掠船は農民を徴募しました」

 

セドリック。

 

黙る。

 

---

 

## 七

 

取消命令は、以前の命令書より長くなった。

 

《沿岸防衛緊急令第十二号の停止》

 

理由。

 

女王の事前署名文書が、不正に完成された疑い。

 

王璽は本物。

 

署名は本物。

 

本文の授権は未確認。

 

「未確認?」

 

議会。

 

「偽と断定しない?」

 

「経路調査中」

 

「女王は命じていない」

 

「準備に関する口頭発言が」

 

アデライン。

 

「書け」

 

《女王は私掠船再武装と出港を命じていない》

 

《ただし沿岸防衛準備を提督へ求め、記録を残さなかった》

 

自分の責任。

 

「取消命令の証明」

 

王璽。

 

同じ。

 

新しい符号。

 

船長は知らない。

 

「三つの鐘」

 

港湾信号官。

 

提案。

 

王室鐘。

 

海軍鐘。

 

議会鐘。

 

同時刻に異なる順で。

 

《三、二、一、三》。

 

沿岸塔へ伝達。

 

船長は、命令書と鐘信号が一致して初めて。

 

だが沖。

 

鐘は届かない。

 

信号旗。

 

火。

 

「偽旗を」

 

高原市場。

 

「三地点から」

 

王宮岬。

 

海軍塔。

 

議会港。

 

三つの信号が一致。

 

「海上で見えるのは」

 

沿岸三十里まで。

 

十八隻は遠い。

 

「中継塔」

 

「すべて信用?」

 

「三系統」

 

王室。

 

海軍。

 

商人灯台。

 

一つが偽でも。

 

「天候」

 

霧。

 

アルビオン。

 

「書面も」

 

取消艦隊。

 

直接。

 

「船長が密命だと」

 

女王。

 

「私の言葉を、提督が伝える」

 

「また口頭」

 

「記録官二名」

 

「私は何と言う」

 

アデラインは書く。

 

《私は、あなたたちの出港を命じていない》

 

《あなたたちが忠実であるなら、戻れ》

 

《戻ることは、戦いから逃げることではない》

 

《王の確認を待つことも、忠誠である》

 

署名。

 

王璽。

 

議会副署。

 

海軍反署。

 

三つ。

 

---

 

## 八

 

十八隻のうち、六隻は既に羊毛船団へ合流していた。

 

四隻は海賊を追跡。

 

三隻はルシタニア北岸へ。

 

二隻は消息不明。

 

三隻は、《赤鹿》船長ギデオン・ブラックの指揮下で南西へ。

 

《赤鹿》は、サン・テルモで最初に発砲した《黒鹿》の姉妹船だった。

 

船長は違う。

 

だが乗組員の一部は同じ。

 

命令書の付属図には、偽装海賊の補給地としてルシタニアの小港が三つ記されていた。

 

そのうち一つ。

 

サンタ・マリア漁港。

 

実際は、停戦後の共同漁業回廊。

 

「図は誰が」

 

海軍地図局。

 

「海賊情報局から」

 

「情報源」

 

《白い鴎》。

 

匿名。

 

灰冠。

 

「地図も」

 

セドリック。

 

「本物の海岸線に、偽の意味を」

 

アルベリクがいれば言う。

 

リヴィアの方法。

 

偽造しない。

 

本物の港を、敵拠点と呼ぶ。

 

---

 

取消艦隊は五隻。

 

セドリック旗艦《王冠なき星》。

 

議会監査船《自由鐘》。

 

船長代表サイモン・ロークの《白樺姫》。

 

商人灯台船。

 

小型伝令船。

 

トーマス・ウェルズは《白樺姫》へ。

 

弟ウィルは残る。

 

「兄さんだけ?」

 

「代表だから」

 

「俺も弓兵だ」

 

「前の戦いで、お前は眠れなかった」

 

「今は」

 

「まだ」

 

ウィル。

 

怒り。

 

「子供扱い」

 

「十六だ」

 

「十七になった」

 

「なら、港で名簿を」

 

「紙?」

 

「船を戻す紙だ」

 

ウィルは嫌そうに。

 

「俺がいなくても」

 

「誰かが必要」

 

「兄さんは、いつも誰かが」

 

「自分が必要だと思うなと、将軍たちが」

 

「誰の話」

 

「知らない」

 

遠い国。

 

同じ教訓。

 

「戻って」

 

メアリー。

 

妻。

 

「約束は」

 

「努力する」

 

「王みたい」

 

トーマス。

 

苦笑。

 

---

 

## 九

 

最初の六隻は、取消信号を受け入れた。

 

王室。

 

海軍。

 

議会。

 

三信号。

 

船長が命令書を読み。

 

乗組員代表が確認。

 

帆を返す。

 

「海賊を逃す!」

 

一部水兵。

 

「女王命令」

 

「前のも」

 

「今度は三つ」

 

制度。

 

四隻目。

 

船長が尋ねる。

 

「女王が議会に脅されている可能性は」

 

トマス・ヘイル議員。

 

船上。

 

「議会代表として否定します」

 

「議会が王を脅していないと、議会が」

 

「海軍提督も」

 

「提督は誤命令を」

 

「本人が?」

 

セドリック。

 

「私が誤った」

 

海上の水兵。

 

動揺。

 

提督が。

 

「王璽は」

 

「本物だった」

 

「なら」

 

「王璽だけを見た」

 

「王を見ずに」

 

「はい」

 

「我々を犯罪者に?」

 

「戻れば、命令経路の被害者として審査を求める」

 

「戻らなければ」

 

「新しい命令違反」

 

船長。

 

「一刻」

 

「待つ」

 

議員。

 

「敵が」

 

「今は敵がいない」

 

待つ。

 

一刻。

 

乗組員投票ではない。

 

軍船。

 

だが船長は士官と水兵代表を集める。

 

帰還。

 

---

 

二隻は、取消を拒否した。

 

《海燕の王》。

 

《聖ブリジット》。

 

理由。

 

取消文書が、女王の自由意思によると確認できない。

 

「王宮へ戻れば確認できる」

 

「戻る途中で海賊が」

 

「任務を継続しつつ、王都へ使者を」

 

「命令は即時帰還」

 

「前命令は即時掃討」

 

二つ。

 

「どちらが後か」

 

「取消が後」

 

「偽なら」

 

終わらない。

 

セドリック。

 

「私の命令だ。帰れ」

 

「提督は議会に拘束されている!」

 

「私が船上に」

 

「文官と農夫に囲まれて!」

 

トーマス。

 

名指しされていない。

 

「農夫です」

 

叫ぶ。

 

海。

 

「だがサン・テルモで、同じ王命を受けました!」

 

「何が言いたい」

 

「王命だから撃った。後で、王も命令経路を知らなかった!」

 

「王命を疑えと?」

 

「撃つ前に、誰が命じたか記録しろと!」

 

「海賊が待つ?」

 

「港を敵と決める前に、漁師か見ろ!」

 

《聖ブリジット》の船長。

 

「農夫に海を」

 

「農地を燃やした火矢は、海から来た!」

 

沈黙。

 

「一刻だけ、共同確認」

 

トーマス。

 

「何を」

 

「任務図の三港へ、停戦共同標識があるか」

 

「敵が偽装を」

 

「ルシタニア側の共同記録船へ」

 

「外国を信じる?」

 

「撃つ相手に、撃つ前に名を聞く」

 

船長は拒む。

 

《海燕の王》は帰還。

 

《聖ブリジット》は南へ逃走。

 

一隻。

 

---

 

## 十

 

《赤鹿》三隻は、サンタ・マリア港を襲撃していた。

 

取消艦隊到着の二日前。

 

港。

 

漁船。

 

塩蔵庫。

 

小さな礼拝堂。

 

アルビオン矢。

 

最初の一射。

 

港の見張り塔が、共同漁業旗を掲げた。

 

《赤鹿》側は、海賊の偽旗と判断。

 

二射目。

 

見張り塔の男。

 

死亡。

 

ルシタニア側が応射。

 

戦闘。

 

港の防衛兵。

 

漁民。

 

アルビオン私掠船。

 

三時間。

 

死者。

 

ルシタニア。

 

五十八。

 

民間人二十一。

 

アルビオン。

 

三十六。

 

負傷。

 

百以上。

 

倉庫火災。

 

塩蔵魚。

 

冬の食糧。

 

「女王命令だ!」

 

《赤鹿》船長ギデオン。

 

「停戦違反を掃討!」

 

捕虜。

 

漁師。

 

「我々は海賊ではない!」

 

「港に武装兵」

 

「私掠船から守るため!」

 

循環。

 

---

 

港へ、ルシタニア女王イネス一世の監視船が到着。

 

共同停戦旗。

 

船長。

 

ジョアン・フェレイラ。

 

以前、トーマスと短い言葉を交わした漁師兵。

 

兄ミゲルをアルビオン矢で失った男。

 

今は港湾監視艇の副長。

 

「アルビオン船へ!」

 

彼が叫ぶ。

 

「停戦共同帳簿を見ろ!」

 

《赤鹿》。

 

「偽書!」

 

「お前たちの王の印も?」

 

「女王命令!」

 

「我々の女王は敵拠点指定を受けていない!」

 

両方の女王。

 

王。

 

印。

 

「確認船を」

 

ジョアン。

 

小舟。

 

白旗。

 

《赤鹿》が拘束。

 

「海賊の使者」

 

「共同停戦委員会!」

 

書類。

 

セレスタ開帳会印。

 

オルシャ六席確認。

 

ヴァルネリア仲介。

 

多数。

 

ギデオンは見る。

 

「印はいくらでも」

 

今の世界。

 

信じないことも、忠誠になる。

 

「港を占領」

 

部下。

 

「取消艦隊が来る前に」

 

彼らは、既に取消の噂を商船から聞いていた。

 

「議会が女王を」

 

「だから、成功を示す」

 

王のために。

 

王が止める前に。

 

---

 

## 十一

 

取消艦隊がサンタ・マリア沖へ着いた時、港は煙に覆われていた。

 

《赤鹿》三隻。

 

ルシタニア監視船五隻。

 

港内。

 

捕虜。

 

《聖ブリジット》が北から合流しようとしている。

 

合計。

 

アルビオン四。

 

ルシタニア五。

 

取消艦隊五。

 

十四隻。

 

風。

 

狭い湾。

 

一隻が誤射すれば。

 

サン・テルモ。

 

再び。

 

「全船、弦を外せ!」

 

セドリック。

 

「敵前です!」

 

「弦を外せ!」

 

《王冠なき星》。

 

旗。

 

取消命令。

 

三印。

 

《赤鹿》。

 

返答。

 

《女王自由確認を求む》

 

「本人が」

 

「王宮に」

 

「なら戻れ!」

 

「港を放棄すれば、海賊が」

 

ギデオン。

 

自分の行動を正当化するため、港を海賊にする。

 

「捕虜を甲板へ!」

 

《赤鹿》。

 

ルシタニア捕虜。

 

盾。

 

「奴らは」

 

トーマス。

 

弓。

 

「撃てない」

 

「撃たない」

 

サイモン船長。

 

---

 

ルシタニア側。

 

ジョアン。

 

「アルビオン同士の争いに」

 

「攻撃準備」

 

上官。

 

「待て」

 

「港を焼かれた!」

 

「共同停戦信号」

 

「奴らが信じない」

 

「我々は信じるか」

 

ルシタニア船にも、アルビオン取消命令の写しが届いている。

 

ヴァルネリア経由。

 

「本物?」

 

「共同印」

 

「印は」

 

同じ病。

 

「救助信号を」

 

ジョアン。

 

「戦闘中だ」

 

「港に負傷者」

 

「先に救助船」

 

「私掠船が」

 

「救助船を撃てば、誰が敵か記録できる」

 

冷たい。

 

だが。

 

救助信号。

 

三鐘。

 

白旗。

 

小舟。

 

---

 

《赤鹿》から、一射。

 

誰が。

 

救助船の前へ落ちる。

 

警告か。

 

狙ったか。

 

ルシタニア側が弓。

 

「撃つな!」

 

ジョアン。

 

一人が放つ。

 

矢。

 

《赤鹿》甲板。

 

水兵の肩。

 

叫び。

 

「攻撃!」

 

ギデオン。

 

「待て!」

 

セドリックの旗。

 

間に合わない。

 

《赤鹿》弓兵が構える。

 

トーマスは《白樺姫》の弓兵列。

 

「引くな!」

 

「味方が!」

 

「誰の命令!」

 

「船長!」

 

サイモン。

 

「発射待て!」

 

「敵が」

 

「捕虜が前!」

 

「弦を」

 

一人の若い弓兵が引く。

 

トーマスが弓を押す。

 

矢は海。

 

「何を!」

 

「発射者名を!」

 

「今?」

 

「今だから!」

 

サン・テルモの制度。

 

記録官。

 

「ルシタニア側一射、赤鹿側準備、救助船前」

 

声。

 

全船へは届かない。

 

だが《白樺姫》は撃たない。

 

《王冠なき星》も。

 

議会監査船も。

 

取消艦隊が撃たなければ、戦線が二つに分かれない。

 

---

 

セドリックは小舟へ。

 

「提督!」

 

「《赤鹿》へ行く」

 

「撃たれる」

 

「私の命令で出た船だ」

 

「女王の偽命令で」

 

「私が本物とした」

 

責任。

 

トマス・ヘイル議員。

 

「私も」

 

「議員が」

 

「戻らなければ、海軍が提督に隠したと」

 

トーマス。

 

「乗組員代表も」

 

セドリックが見る。

 

「農夫は残れ」

 

「水兵が、文官と提督だけの密約だと」

 

三人。

 

小舟。

 

白旗。

 

議会旗。

 

海軍旗。

 

乗組員札。

 

《赤鹿》へ。

 

矢。

 

撃たない。

 

---

 

## 十二

 

《赤鹿》甲板。

 

ギデオン・ブラック。

 

四十四歳。

 

元商船護衛。

 

兄を海賊に殺された。

 

私掠免許で財産を築いた。

 

停戦で船を失い。

 

再武装命令で戻った。

 

「提督」

 

敬礼。

 

「帰還命令だ」

 

「陛下の自由意思を確認できません」

 

「私が確認した」

 

「陛下と二人で?」

 

「記録官二名」

 

「議会の前で」

 

「はい」

 

「脅迫を」

 

トマス・ヘイル。

 

「議会は、女王を脅していない」

 

「議会が言う」

 

「王室情報監督官も」

 

「宮廷」

 

「では誰を信じる」

 

ギデオン。

 

「王璽を」

 

「その王璽で、帰還命令が」

 

「前の命令を否定する王璽は、敵が女王を捕らえた証拠かもしれない」

 

信じない理由は無限。

 

「では」

 

セドリック。

 

「私を信じろ」

 

「提督は誤ったと」

 

「はい」

 

「なら、誤った提督を?」

 

「そうだ」

 

ギデオン。

 

笑う。

 

疲れた。

 

「我々は、何のために死んだ」

 

「誤った命令のため」

 

「三十六人」

 

「私の責任だ」

 

「陛下の?」

 

「陛下も、曖昧な言葉と白紙署名の責任を認める」

 

「議会は?」

 

「給金を止め、混乱を広げた責任を審査」

 

「全員が責任と言えば、誰も」

 

「私の名を最初に書け」

 

セドリック。

 

ギデオンの顔。

 

「提督は、軍法会議へ」

 

「出る」

 

「我々は」

 

「戻れば、命令経路の被害者と実行者を分けて裁く」

 

「民間人二十一」

 

「消えない」

 

「なら、帰って説明しろ」

 

「ルシタニアへ引き渡される?」

 

「越境被害は共同法廷」

 

「死刑に」

 

「求めないよう申し立てる」

 

「約束できない」

 

「守れる約束だけだ」

 

遠い世界。

 

同じ。

 

---

 

ギデオン。

 

「女王の言葉を、直接聞きたい」

 

「無理だ」

 

「なら」

 

トーマス。

 

口を開く。

 

「女王の言葉は、紙だけではない」

 

「農夫が女王を語る?」

 

「陛下は、あなたの名を知っていますか」

 

「名簿に」

 

「本当に?」

 

「船長だ」

 

「王は、三十隻の船長全員を」

 

セドリック。

 

「知らない」

 

「では、女王のためと死ぬ前に、女王があなたを命じたか確認する仕組みが必要だった」

 

「今さら」

 

「今戻れば、次へ」

 

「次?」

 

「また誰かが王のためと」

 

ギデオンは港。

 

煙。

 

「私は海賊を殺したかった」

 

「知っています」

 

「兄を」

 

「記録へ」

 

「だから港を?」

 

「海賊の補給地だと」

 

「漁師が」

 

「武装していた」

 

「あなたが来たから」

 

循環。

 

ギデオンの手。

 

「捕虜を解放」

 

セドリック。

 

「先に安全を」

 

「解放が安全の始まりだ」

 

長い。

 

ギデオン。

 

「全船へ、弦を外せ」

 

《赤鹿》水兵。

 

驚く。

 

「船長!」

 

「命令だ!」

 

「どの王の?」

 

一人。

 

痛い。

 

「私の船長命令だ」

 

「王命では」

 

「今は私が責任を取る」

 

弦。

 

一つ。

 

二つ。

 

捕虜。

 

解放。

 

ルシタニア側も、弓を下げる。

 

《聖ブリジット》。

 

沖。

 

状況を見て。

 

逃走。

 

一隻は戻らない。

 

---

 

## 十三

 

サンタ・マリア停戦。

 

七日間。

 

港の死者名簿。

 

アルビオン三十六。

 

ルシタニア五十八。

 

民間人二十一を含む。

 

合計九十四。

 

行方不明十一。

 

「戦争ではない?」

 

港の女。

 

夫。

 

「正式宣戦なし」

 

記録官。

 

「なら何」

 

「違法武力衝突」

 

「夫は、違法に死んだ?」

 

「違う」

 

言葉。

 

「私掠船襲撃」

 

「王命で?」

 

「命令は不正完成文書」

 

「何それ」

 

女。

 

「夫へ説明できる言葉を使え」

 

ジョアン。

 

記録官へ。

 

「アルビオン船が、偽の敵情報と争われた王命で港を攻撃した」

 

長い。

 

「それで」

 

女。

 

「書け」

 

責任。

 

---

 

共同法廷。

 

アルビオン側。

 

セドリック。

 

ギデオン。

 

命令経路。

 

ルシタニア側。

 

最初の応射。

 

捕虜。

 

港武装。

 

全員。

 

「被害国で裁く」

 

ルシタニア強硬派。

 

「アルビオン国内で」

 

議会。

 

「二段階」

 

サン=リュシアン方式。

 

国内罪。

 

越境被害。

 

刑は国内執行。

 

越境法廷が公開勧告。

 

「また」

 

ギデオン。

 

「何です」

 

「法廷が二つ」

 

「港も国も二つです」

 

「一つの命令で」

 

「だから」

 

---

 

港の補償。

 

誰が払う。

 

女王私財?

 

王室。

 

海軍。

 

議会。

 

命令書作成者。

 

灰冠凍結資産。

 

「女王が命じていないのに」

 

議会。

 

「白紙署名」

 

「一部」

 

「提督が」

 

「海軍責任」

 

「議会が予算を」

 

「攻撃前では」

 

責任分担。

 

王室私領基金。

 

二割。

 

海軍予備基金。

 

三割。

 

灰冠・偽命令関係資産。

 

三割。

 

残り。

 

停戦共同補償基金。

 

アルビオン議会負担一割。

 

ルシタニア側監視制度不備一割?

 

「被害国へ負担を」

 

ルシタニア。

 

「港防衛兵が共同標識確認前に応射」

 

「攻撃された!」

 

「一部」

 

議論。

 

最終。

 

ルシタニアは金銭負担なし。

 

ただし港の共同標識改修と武装記録を自費。

 

補償金はアルビオン側。

 

九割。

 

灰冠資産。

 

一割。

 

「王国税で」

 

アルビオン農民。

 

「女王と提督の」

 

「王室私財と海軍基金を先に」

 

それでも不足。

 

「羊毛税を」

 

議会。

 

反発。

 

---

 

## 十四

 

アデライン一世は、王宮大広間で国民へ演説した。

 

演説文。

 

王室書記。

 

議会。

 

海軍。

 

三者。

 

だが最初の一文は、自分で変えた。

 

《私は、この命令を出していない》

 

強い。

 

次。

 

《しかし、私が何の責任も負わないとは言わない》

 

広間。

 

朗読。

 

各港へ写し。

 

《私は、白紙の緊急令へ事前署名した》

 

《私は、海軍提督と記録官なしに沿岸防衛を語った》

 

《私は、議会の遅さを嫌い、海軍が私の意図を先回りすることを期待したことがある》

 

側近が止めたかった文。

 

残す。

 

《その期待が、王のためなら王の確認を省いてよいという忠誠を育てた》

 

《セドリック・ヴォーン提督は、王璽を信じた》

 

《同時に、自分が聞きたかった女王の命令を信じた》

 

《私は、女王が言えない命令を忠臣が作るという考えを認めない》

 

《言えない命令は、命令ではない》

 

海軍。

 

重い。

 

《今後、アルビオン王は、海軍を出港させる秘密命令を単独の王璽のみでは発しない》

 

王権を縛る。

 

新制度。

 

《三鐘海令》

 

第一。

 

王署名。

 

第二。

 

海軍本部反署。

 

第三。

 

議会海軍監督印。

 

緊急時。

 

王と海軍の二つで十二時間。

 

十二時間以内に議会印がなければ、自動失効。

 

「戦争中に」

 

海軍。

 

「十二時間」

 

「敵が」

 

「防衛戦闘は現場指揮官権限」

 

「出港と越境は」

 

分ける。

 

第四。

 

口頭命令は、記録官二名。

 

一名は王室。

 

一名は命令受領機関。

 

第五。

 

事前署名白紙文書を禁止。

 

第六。

 

王璽管理記録を四部。

 

王室。

 

大法官府。

 

議会。

 

都市金庫。

 

第七。

 

命令へ疑義を申し立てた士官を、疑義だけでは反逆としない。

 

「命令不服従が」

 

「疑義申立て後、確認までの行動基準を」

 

敵前。

 

現場。

 

詳細。

 

第八。

 

王の秘密命令を主張する者は、秘密の理由と解除期限を命令書へ。

 

「敵が読む」

 

「封印欄」

 

「誰が」

 

三者。

 

制度。

 

---

 

演説の最後。

 

「サンタ・マリア港の死者九十四名」

 

アルビオン名。

 

ルシタニア名。

 

民間人。

 

兵。

 

一人ずつでは時間。

 

要約。

 

完全名簿を港と議会へ。

 

「女王が名前を読まない」

 

遺族。

 

「九十四人を演説で」

 

難しい。

 

アデラインは、代表六名だけを読む案を拒否。

 

「六名が九十四名の代表になる理由は」

 

全員。

 

時間。

 

三時間。

 

読む。

 

王が。

 

声。

 

水。

 

途中。

 

一人の名を誤る。

 

訂正。

 

消さず。

 

《女王、名を誤読。直後訂正》

 

記録。

 

最後。

 

声が枯れる。

 

「以上」

 

女王は王冠を外さない。

 

アルビオン王冠。

 

重い。

 

---

 

## 十五

 

セドリック・ヴォーン提督の審査会は、軍法廷だけでは行われなかった。

 

海軍。

 

議会。

 

王室。

 

船員代表。

 

四者。

 

「反逆か」

 

議会強硬派。

 

「女王を無視」

 

「王璽へ従った」

 

海軍。

 

「命令を作ったのでは」

 

「確認を怠った」

 

「怠慢で九十四人」

 

「直接攻撃命令は」

 

「作戦図に港が」

 

責任。

 

---

 

セドリック本人。

 

「私は、海軍の速さを王国の強さと思ってきた」

 

「今は」

 

「確認できない速さは、敵の速さです」

 

「刑を」

 

「法廷へ」

 

「自分では」

 

「死刑は望まない」

 

「なぜ」

 

「生きて、全命令経路を説明する」

 

「英雄になる?」

 

「ならないように」

 

「どう」

 

「軍服を着ない」

 

処分案。

 

海軍指揮権永久停止。

 

提督位剥奪。

 

年金の半分を補償基金へ。

 

五年間、三鐘海令の教育証言。

 

国外渡航禁止。

 

軍港立入は監査付き。

 

「牢は」

 

「一年」

 

議会。

 

「軽い」

 

遺族。

 

「重い」

 

海軍。

 

最終。

 

二年の王城内拘禁。

 

その後、軍務教育証言。

 

「王城?」

 

「女王の近くで保護」

 

「優遇」

 

「一般牢へ」

 

セドリック。

 

「海軍派が奪還を」

 

「なら」

 

王立修道院付属の旧病院。

 

警備。

 

質素。

 

二年。

 

「陛下へ会う?」

 

「許可しない」

 

アデライン。

 

個人。

 

公。

 

分ける。

 

---

 

判決の日。

 

セドリックは軍服を脱いだ。

 

肩章。

 

剣。

 

女王へ返さない。

 

海軍本部へ。

 

「陛下のものでは」

 

「国のものです」

 

アデライン。

 

「はい」

 

「私を恨むか」

 

「陛下は」

 

「女王でなく」

 

「アデラインとして?」

 

「はい」

 

「少し」

 

女王。

 

「かなり?」

 

「かなり」

 

ナフルの王のように。

 

「私も」

 

二人。

 

「私は、陛下が言ってほしい命令を」

 

「私も、あなたが先に動いてくれることを期待した」

 

「では」

 

「だから両方」

 

「陛下は王位を」

 

「あなたは指揮権を失う」

 

不平等。

 

「王だから?」

 

「はい」

 

「それが王権」

 

「だから、三鐘で縛った」

 

「それでも王」

 

「はい」

 

セドリック。

 

「女王陛下」

 

「何」

 

「次は、私のような忠臣を近くへ置かないでください」

 

「忠臣を?」

 

「陛下の言葉より、陛下の理想を愛する者を」

 

「見分け方は」

 

「陛下へ反対する者を」

 

女王。

 

エレノア・グレイヴ。

 

議会。

 

「多すぎる」

 

「安全です」

 

二人。

 

最後の会話。

 

---

 

## 十六

 

ギデオン・ブラック船長は、アルビオン国内法廷で有罪となった。

 

違法越境。

 

停戦違反。

 

民間港攻撃。

 

捕虜の盾利用。

 

取消命令への不服従。

 

ただし。

 

最初の出港は、争われた王命に基づく。

 

敵拠点情報は海軍本部から。

 

命令経路の被害者でもある。

 

刑。

 

終身刑ではない。

 

十八年の拘禁及び港湾復旧労働。

 

船長資格永久剥奪。

 

財産の半分を補償。

 

残りは家族。

 

「半分も」

 

ルシタニア遺族。

 

「家族は」

 

「罪を負わない」

 

「利益は私掠で」

 

財産の由来調査。

 

違法利益分は全額。

 

正規商業分は家族。

 

帳簿。

 

また。

 

---

 

《聖ブリジット》は戻らなかった。

 

南へ逃亡。

 

灰色艦隊残党と合流したとの報告。

 

乗組員百四十。

 

全員が灰冠ではない。

 

帰れないと思った水兵。

 

罪を恐れた者。

 

王璽を信じ続ける者。

 

「海賊船指定」

 

議会。

 

「全員を?」

 

トーマス・ウェルズ。

 

証人席。

 

「船長と命令者を」

 

「船は武装」

 

「遭遇時は」

 

「降伏勧告」

 

「応射されれば」

 

「戦う」

 

「家族給金は」

 

「逃亡者へは停止」

 

「残された家族は」

 

「生活給付まで止めない」

 

「本人へ送金は」

 

「禁止」

 

家族。

 

分ける。

 

「水兵名簿が」

 

港登録。

 

三部。

 

役に立つ。

 

ウィルたちが作った。

 

「仮登録者は」

 

一部。

 

名前がない。

 

「家族が」

 

「証人申告」

 

無記録者のように。

 

別国の制度。

 

---

 

## 十七

 

マーガレット・アシュコーム秘書官代理は、二月後に見つかった。

 

死体ではない。

 

アルビオン北部の女子修道院。

 

自ら名乗った。

 

「命令書を口述したか」

 

エレノア・グレイヴ。

 

「はい」

 

「誰の命令」

 

「女王陛下の意思だと」

 

「誰から」

 

「父から」

 

「父は」

 

故人。

 

王室書記局の元次官。

 

三年前死亡。

 

「死者から?」

 

「手紙」

 

古い。

 

《王が議会に妨げられる時、忠実な秘書は王が言えない命令を形にする》

 

父の教え。

 

さらに。

 

灰冠から届いた文。

 

女王の私的発言記録。

 

《アルビオンの海を、紙の遅さで失うな》

 

本物。

 

盗聴ではなく、会談後に提督側書記が覚書。

 

そこから。

 

「弟は」

 

《赤狐》。

 

再武装船。

 

「弟を海へ戻したかった?」

 

「はい」

 

「なぜ」

 

「停戦で除隊。借金。酒」

 

「命令書で」

 

「王国のために戻れる」

 

「人を殺した」

 

「弟は」

 

消息。

 

《赤狐》は羊毛船団へ合流し、帰還済み。

 

戦闘なし。

 

「生きています」

 

マーガレット。

 

泣く。

 

「私は、弟を救った」

 

「九十四人が」

 

「知らなかった」

 

「想像できた?」

 

「海賊掃討だけ」

 

「港名を」

 

「地図局が」

 

分業。

 

「灰冠自由会議の構成員か」

 

「違います」

 

「連絡者」

 

「《王の友》」

 

「顔」

 

「見ていない」

 

「報酬」

 

「弟の海軍復帰、借金清算」

 

「誰が払った」

 

《王冠忠誠基金》。

 

灰冠系。

 

「あなたは、女王を愛していた?」

 

「はい」

 

「女王の言葉を聞いた?」

 

「言えない言葉を」

 

「聞いていない」

 

「なら、自分の言葉」

 

マーガレット。

 

「私は、よい女王に必要な命令を」

 

「女王がよいかを、あなたが」

 

「議会より」

 

「王になりたかった?」

 

「違う!」

 

「王の意思を作る者は」

 

沈黙。

 

---

 

刑。

 

偽造ではない。

 

公文書不正作成。

 

王権詐称。

 

越境武力行使の原因。

 

終身刑の求刑。

 

証言。

 

灰冠経路。

 

弟を人質としない。

 

最終。

 

二十年の拘禁。

 

五年ごと再審。

 

「なぜ再審」

 

「命令経路の全容解明への協力」

 

「命を買う」

 

「はい」

 

透明。

 

---

 

若い書記ロバート・ニーヴ。

 

文を書いた。

 

「内容を疑わなかった?」

 

「秘書官代理の口述」

 

「王璽前」

 

「署名あり」

 

「港名が」

 

「軍機だと」

 

「責任は」

 

「あります」

 

刑。

 

職務停止五年。

 

公文書教育。

 

牢なし。

 

「軽い」

 

「部分だけ」

 

「全体を確認する義務は」

 

今後制度。

 

当時規則なし。

 

副王璽管理官。

 

本文を読んだ。

 

「私掠船再武装は議会承認が」

 

「緊急令と」

 

「疑問を」

 

「持った」

 

「なぜ押した」

 

「署名が」

 

「疑義を出せば、女王への不忠と」

 

三鐘海令。

 

疑義権。

 

彼は一年の職務停止。

 

年金減額。

 

「マーガレットだけ重い」

 

「口述した」

 

「提督は」

 

「実行」

 

「女王は」

 

「王位維持」

 

不平等。

 

記録。

 

《制度上の責任差》

 

消さない。

 

---

 

## 十八

 

議会は、三鐘海令と同時に《王室空白文書禁止法》を可決した。

 

白紙署名。

 

空欄王璽。

 

予約番号。

 

すべて。

 

ただし疫病や侵攻時。

 

例外。

 

「例外を作れば」

 

野党。

 

「緊急時に」

 

「また」

 

例外文書は本文様式を事前固定。

 

変えられるのは。

 

日付。

 

場所。

 

兵数上限。

 

期間。

 

「それでも」

 

「欄を」

 

「上限を」

 

「敵が」

 

細かい。

 

---

 

海軍は反発した。

 

「議会が船を机へ縛る」

 

若手士官。

 

「三鐘を待っている間に」

 

「沿岸防衛は現場権限」

 

「越境だけ」

 

「海賊は国境を」

 

「追跡権」

 

一定距離。

 

六海里。

 

それ以上は二印。

 

「海に線は」

 

「時間で」

 

一刻追跡。

 

「逃げる」

 

「逃がすことと、戦争を始めること」

 

「どちらを」

 

また。

 

海軍教育。

 

セドリックの証言。

 

「私は、速さを強さと思った」

 

若手。

 

「提督は議会に屈した」

 

「そう思うなら、私の失敗を繰り返す」

 

「女王を守った」

 

「女王が止めろと言った後も?」

 

「王が脅されて」

 

「そう考えれば、永遠に止まらない」

 

一部は聞く。

 

一部は、提督を裏切り者と。

 

支持者。

 

海軍内。

 

《真王璽派》。

 

前命令が本物。

 

女王は議会に屈した。

 

小さな派閥。

 

灰冠が狙う。

 

解散命令。

 

地下へ。

 

---

 

## 十九

 

トーマス・ウェルズは、王都議会で証言した。

 

農夫の服。

 

海軍外套。

 

どちらでもない。

 

「王命を疑う兵士を増やせば、軍は動かない」

 

議員。

 

「疑うだけでは」

 

「何を求める」

 

「確認する道」

 

「戦場で」

 

「命令者の名、時刻、理由」

 

「理由まで兵へ」

 

「全部でなく」

 

「では誰が」

 

「船長と乗組員代表」

 

「代表が反対すれば」

 

「遅れる」

 

「敵が」

 

同じ。

 

「あなたはサン・テルモで敵を殺した」

 

「はい」

 

「命令を確認していたら」

 

「間に合わなかったかもしれない」

 

「後悔?」

 

トーマス。

 

「殺したことを」

 

「命令に従ったことを?」

 

「分けられません」

 

「では制度で」

 

「次の者が、少し分けられるように」

 

議員たち。

 

---

 

「父親の未払給金証書を持っているそうだな」

 

別の議員。

 

「はい」

 

「今回と関係が」

 

「命令は、出した時だけで終わりません」

 

「何を」

 

「戻った兵へ払うまで」

 

紙。

 

父。

 

《旧北方戦役給金証書》。

 

二十年前。

 

王璽。

 

本物。

 

署名。

 

本物。

 

支払い。

 

されていない。

 

「王命で戦えと言い、王命で払うと書き、払わなかった」

 

「今回の水兵給金と」

 

「同じになりかけた」

 

「だから名簿を」

 

「はい」

 

議会。

 

古い給金証書。

 

何万枚。

 

王国各地。

 

「総額は」

 

財務官。

 

「不明」

 

「不明?」

 

「記録が戦災で」

 

「証書は」

 

「個人が」

 

「偽造も」

 

「本物の王璽」

 

今回。

 

王璽が本物でも。

 

支払われない。

 

「調査を」

 

トーマス。

 

「全旧戦役」

 

「国庫が」

 

「父は死にました」

 

「今さら」

 

「今だから」

 

死者の債権。

 

家族。

 

灰冠が買い集めている可能性。

 

《戦争給金債権》。

 

安値で。

 

誰も価値がないと思った紙。

 

もし議会が支払いを認めれば。

 

灰冠が巨額を得る。

 

支払わなければ。

 

兵士家族が怒る。

 

次の罠。

 

---

 

## 二十

 

灰冠自由会議は、《女王の密命計画》を次のように記録した。

 

《私掠船三十隻再武装、達成》

 

《十八隻出港、達成》

 

《ルシタニア港攻撃、達成》

 

《アルビオン・ルシタニア全面戦争、未達》

 

《女王・議会・海軍分裂、限定》

 

《セドリック・ヴォーン指揮権喪失、達成》

 

《王室白紙文書制度、消滅》

 

《三鐘海令、敵制度強化》

 

《海軍真王璽派、形成》

 

《聖ブリジット逃亡、成功》

 

《王権否定、未達》

 

《王権自己制限、達成》

 

無貌。

 

「女王は残った」

 

鴉筆。

 

「提督は失った」

 

「海軍は怒っている」

 

「議会も」

 

「次は」

 

古い給金証書。

 

山。

 

箱。

 

農家。

 

未亡人。

 

退役兵。

 

「王璽の命令で戦った者へ、王璽の約束が払われていない」

 

「何枚」

 

「確認分だけで十二万」

 

「額面」

 

「王国歳入の一年半」

 

「灰冠保有は」

 

「三割」

 

「買値」

 

「額面の二分」

 

「議会が払えば」

 

「利益」

 

「払わなければ」

 

「兵士の家族が」

 

「女王の三鐘は、未来の命令を守る」

 

新しい黒雪。

 

「過去の命令は?」

 

「守れない」

 

「トーマス・ウェルズが、議会へ持ち込んだ」

 

「本人は」

 

「家族へ払わせたい」

 

「正しい」

 

「だから使える」

 

灰冠は、正しい要求を嫌わない。

 

支払えない量にするだけ。

 

「次の計画名は」

 

《帰らなかった給金》。

 

「女王へ」

 

「選ばせる」

 

「国庫か、兵士か」

 

「両方では」

 

「できないように」

 

---

 

## 二十一

 

アデライン一世は、退位王エドガーの部屋を訪れた。

 

父。

 

椅子。

 

右手は動かない。

 

左手で駒を並べている。

 

海戦盤。

 

「父上」

 

エドガーは娘を見る。

 

言葉。

 

遅い。

 

「船」

 

「戻りました」

 

「全部」

 

「一隻は逃亡」

 

「死者」

 

「九十四」

 

父の顔。

 

「私の」

 

「私の時代です」

 

「王璽」

 

「本物でした」

 

「命令」

 

「私ではない」

 

父は盤。

 

王の駒。

 

提督。

 

議会。

 

船。

 

左手で、王の駒を倒す。

 

「王が悪い?」

 

アデライン。

 

父。

 

首を振る。

 

議会駒。

 

倒す。

 

提督駒。

 

倒す。

 

三つ。

 

「全部?」

 

頷く。

 

「それでは誰も」

 

父。

 

残った駒。

 

小さな船員。

 

農民。

 

港。

 

王の駒より多い。

 

「国?」

 

父。

 

頷く。

 

王だけでない。

 

「私は、王でいるべきですか」

 

エドガー。

 

娘を見る。

 

長い。

 

左手で王の駒を起こす。

 

その周りに、三つの小さな鐘駒を置く。

 

「縛れと?」

 

父。

 

微笑。

 

少し。

 

「父上は、私を認める?」

 

エドガーは答えようとする。

 

声。

 

「毎日」

 

一語。

 

ディートリヒと同じ。

 

王は、一度で終わらない。

 

---

 

## 二十二

 

王宮の海側塔に、三つの鐘が設置された。

 

王室鐘。

 

海軍鐘。

 

議会鐘。

 

大きさ。

 

音。

 

違う。

 

同じ命令を出す時。

 

三つが順に鳴る。

 

最初の試験。

 

《北港火災》

 

王室鐘。

 

三。

 

海軍鐘。

 

二。

 

議会鐘。

 

一。

 

最後。

 

三つ同時。

 

一つ遅れる。

 

議会鐘の綱が絡む。

 

「実戦なら」

 

海軍。

 

「失敗」

 

「直す」

 

鐘職人。

 

「人が」

 

「当番を」

 

「三者」

 

「また」

 

制度は、完成した瞬間から故障する。

 

それでも。

 

鐘を直す。

 

---

 

港の子供たちは、三鐘を遊びにした。

 

三回。

 

二回。

 

一回。

 

「出港!」

 

別の子。

 

「議会が遅い!」

 

笑う。

 

大人は嫌な顔。

 

だが子供は覚える。

 

王の命令は、一つの鐘だけでは船を出さない。

 

---

 

トーマス・ウェルズは家へ戻った。

 

メアリー。

 

アン。

 

ウィル。

 

父の証書。

 

議会へ提出した写し。

 

原本は手元。

 

「払われる?」

 

メアリー。

 

「分からない」

 

「また」

 

「はい」

 

「父さんの分は」

 

「認められても、灰冠が証書を買っている」

 

「関係ない」

 

「国庫が」

 

「私たちだけなら」

 

「全部の家族が」

 

「分かってる」

 

メアリー。

 

「でも、あなたはいつも全部の人を考えて、家のことを後へ」

 

痛い。

 

「ごめん」

 

「謝るなら」

 

「何を」

 

「アンの靴を直して」

 

王。

 

海軍。

 

議会。

 

給金。

 

家。

 

トーマスは娘の靴を見る。

 

底。

 

穴。

 

「今夜」

 

「議会へ行かない?」

 

「行かない」

 

守れる約束。

 

針。

 

革。

 

彼は弓より下手。

 

ウィルが笑う。

 

「曲がってる」

 

「お前が」

 

「俺は名簿を」

 

「靴を」

 

家族。

 

---

 

夜。

 

トーマスは父の給金証書を開く。

 

王璽。

 

本物。

 

王の署名。

 

本物。

 

約束。

 

果たされていない。

 

今回の命令書と同じ。

 

王璽が本物であることは、王国が正しいことを意味しない。

 

ただ。

 

誰が責任を負うべきか、逃げにくくする。

 

彼は紙の裏へ書く。

 

《父、ジョナサン・ウェルズ。北方戦役従軍。給金未払。帰還後三年で病死》

 

《王国の命令で出征》

 

《王国の約束で帰還》

 

《王国の不払いの中で死亡》

 

強い。

 

証明できる部分。

 

病死と不払いの因果は。

 

「書きすぎ」

 

メアリー。

 

「では」

 

《不払い期間中に死亡》

 

訂正。

 

消さない。

 

線。

 

真実へ近づける。

 

---

 

アルビオンの海では、《聖ブリジット》が灰色の帆を掲げていた。

 

船長は、自分たちを海賊と呼ばない。

 

《真王命船》。

 

王璽の最初の命令に従い続ける船。

 

女王が否定しても。

 

提督が戻っても。

 

議会が法律を変えても。

 

彼らにとって、忠誠とは止まらないことだった。

 

船倉には、羊毛でも塩でもなく。

 

古い戦争給金証書が積まれていた。

 

灰冠自由会議が各地から買い集めた紙。

 

何万枚。

 

次の戦争に必要なのは、火矢ではない。

 

王が昔、兵士へした約束。

 

守られなかった約束。

 

それを海へ運ぶ船だった。

 

女王の密命は止められた。

 

だが、死んだ王たちの命令は、まだ国中に残っている。

 

城の箱。

 

農家の梁。

 

未亡人の衣装箱。

 

修道院の金庫。

 

兵士の墓。

 

本物の王璽を押されたまま。

 

支払われる日を待っていた。

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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