兵士は、戦場から帰らないことがある。
矢。
病気。
寒さ。
海。
道端。
名もない穴。
だが給金も、戦場から帰らないことがある。
王が払うと約束した銀。
議会が認めた手当。
負傷者の年金。
死者の家族へ渡されるはずだった補償。
それらは、兵士よりも長く生きる。
紙になって。
箱の底へ。
梁の隙間へ。
未亡人の衣装箱へ。
修道院の帳簿へ。
価値がないと言われながら。
捨てれば、死者との約束まで捨てることになると思われて。
何十年も残る。
そしてある日。
誰かが、その紙にはまだ王璽が押されていると気づく。
王が死んでも。
戦争が終わっても。
国が忘れても。
王璽は、約束を取り消していない。
---
## 一
アルビオン議会の石段へ、最初の給金証書を持ってきたのは、トーマス・ウェルズではなかった。
七十二歳の女。
アグネス・ヴェイル。
東部羊毛郡の小作人。
夫は三十一年前の北方海峡戦役へ徴募された。
帰還した。
左足の指を三本失い。
咳を抱え。
二年後に死んだ。
王国は、未払給金銀貨十四枚と、負傷手当六枚を約束していた。
証書。
二枚。
アグネスは、それを油布へ包み、三十一年間保存した。
「支払いを」
議会門衛。
「請願窓口は」
「閉まっていると言われた」
「旧戦役債務は調査前で」
「夫も調査前に死んだ」
「今日は受け付けられません」
「明日は」
「分かりません」
「三十一年、明日を待った」
門衛は困る。
命令。
群衆を入れるな。
議会前には、既に百人。
証書。
封筒。
木札。
軍務局の印。
王璽。
偽物も。
本物も。
誰にも、その場では分からない。
アグネスは石段へ座る。
「帰りません」
「逮捕を」
「してください」
「なぜ」
「牢には屋根がある」
門衛は逮捕できない。
彼女を引きずれば、兵士の未亡人を議会が追い払ったと見られる。
中へ入れれば、百人が続く。
門衛は上官を呼ぶ。
上官は議員を。
議員は財務官を。
財務官は委員会を。
委員会は、翌週の予定を。
その間に。
アグネスは石段へ座り続けた。
昼。
夜。
雨。
翌朝。
彼女の隣には、三百人が座っていた。
---
## 二
三日目には、議会前の広場が紙で埋まった。
古い給金証書。
北方戦役。
西海賊討伐。
アルサク遠征支援。
王位継承内乱。
海峡封鎖。
名も忘れられた小競り合い。
戦争の名前より、未払いの種類の方が多い。
基本給。
航海手当。
弓弦補給費。
自前馬匹損失。
寡婦給付。
孤児給付。
負傷年金。
埋葬費。
「埋葬費を、本人が持って帰った?」
若い議会書記。
「死体が見つからなかったからです」
老兵。
「では誰へ」
「家族へ払うはずだった」
「証書は本人名義」
「軍務局が間違えた」
「本人が死んだ証明は」
「帰らなかった」
「それだけでは」
老兵が書記の机を叩く。
「三十年帰らない男を、まだ脱走兵と呼ぶのか!」
衛兵。
緊張。
「落ち着いて」
「お前の父は」
「存命です」
「なら黙れ!」
書記の顔。
若い。
十九歳。
自分の規則。
「私の父が生きていることと、証書確認は」
「言葉を」
トーマス・ウェルズが間へ。
臨時記録補助。
「彼は、あなたの夫を脱走兵と決めたわけではありません」
「では払う?」
老女。
「確認を」
「また」
「ただし、今日受け取ります」
「銀を?」
「証書を」
「預けたら消える」
三十一年。
「三部の受領証を」
トーマス。
一部。
本人。
一部。
議会。
一部。
旧兵士組合。
「旧兵士組合が買収されていたら」
「教区金庫でも」
「教会は嫌い」
「町役場」
「徴税官に二度取られた」
誰も信用できない。
「では」
トーマス。
「あなたが選んだ人へ一部」
アグネス。
「娘」
「同居?」
「別の村」
「使者を」
「金が」
「議会が負担」
初めて。
証書を預けるための費用。
「銀はあるのか」
「少しは」
アグネスは証書を離さない。
「写しだけ」
「原本確認が」
「ここで見ろ」
議会石段。
机。
雨除け。
鑑定官。
王璽。
紙。
署名。
番号。
その場で。
列。
遅い。
だが原本を持ち去らない。
最初の受付は、議会建物の中ではなく、議会前広場で始まった。
---
## 三
女王アデライン一世は、旧戦役証書調査会を設置した。
名称。
《王命給金債務公開審査院》。
議会は長すぎると反対した。
兵士家族は、名前などどうでもよいと言った。
通称。
《帰還院》。
帰らなかった給金を帰す場所。
委員。
王室二席。
上院二席。
下院三席。
海軍二席。
陸軍二席。
旧兵士・遺族四席。
都市会計二席。
地方農村二席。
刻印民銀行一席。
合計二十席。
「多い」
海軍。
「証書が十二万枚です」
財務府。
「二十人で」
「下部審査所を」
「何か所」
「二十四郡、七港、王都」
「費用」
「証書額の前に、審査費で国庫が」
財務大臣オズリック・ペンブローク。
五十五歳。
細長い顔。
髪はほとんどない。
一枚の紙を三度読み直す癖。
「現時点で確認された額面は」
議会。
「銀貨換算四百八十万」
「王国歳入は」
「年三百十万」
「利子を」
「証書により年二分から五分」
「三十年分なら」
「計算しないでください」
「なぜ」
「国が死にます」
「約束は」
「守るべきです」
「なら」
「守り方を」
女王。
「誰へ、いくら、いつ」
---
証書の種類。
第一。
本人または直系遺族が保有。
第二。
親族以外へ売却。
第三。
商会や銀行が大量保有。
第四。
教区、旧兵士組合、慈善基金が集団保管。
第五。
名義人不明。
第六。
偽造疑い。
第七。
同じ給金へ複数証書。
第八。
王国側に支払済み記録があるが、本人は否定。
「最後が最も多い」
会計官。
「支払済み?」
「軍務局帳簿では」
「誰へ」
「部隊長一括」
「部隊長が」
「死亡、失踪、貴族化」
兵へ届いたか不明。
国は払った。
兵は受けていない。
誰の債務。
「もう一度払えば二重」
財務大臣。
「払わなければ兵はゼロ」
トーマス。
「部隊長家へ返還請求を」
「三十年前」
「家は残る」
「記録が」
「調べる」
時間。
---
アデラインは、証書一枚を手にした。
トーマスの父。
ジョナサン・ウェルズ。
北方戦役。
未払給金銀貨九枚。
「九枚」
女王。
「当時、小作地の一年賃料に近いです」
トーマス。
「今なら」
「麦価が違う」
「額面でよい?」
「分かりません」
「あなたは請願者でしょう」
「はい」
「では、九枚を」
「欲しいです」
「利子は」
「欲しい」
「灰冠も、同じ証書を持っている」
「はい」
「同じ条件で?」
トーマスは答えない。
自分の父の紙。
灰冠の紙。
王璽は同じ。
---
## 四
灰冠自由会議が保有する証書の割合は、最初の推定より多かった。
三割。
ではない。
直接保有三割。
関連商会。
銀行。
慈善基金。
旧兵士組合。
個人名義。
合わせれば、四割七分。
ほぼ半分。
「いつ買った」
帰還院。
「過去十五年」
「価格」
額面の一分から一割。
多くは二分。
銀貨十枚の証書を、銅貨数枚で。
「売った者は」
「困窮した遺族」
「騙した?」
「証書は支払われないと説明」
「実際、支払われなかった」
灰冠系弁護士。
「買主が危険を取った」
「王国が払うと知っていた?」
「予測です」
「議会で債務問題を起こす計画は」
「知りません」
「大量購入の理由」
「長期投資」
「三十年支払われない紙を?」
「だから安い」
市場。
「もし満額払えば」
財務大臣。
「灰冠系へ二百二十万以上」
「利子を含めれば」
「言うな」
「国庫の大半」
「払わなければ」
弁護士。
「王国は債務不履行」
「あなた方は、兵士から二分で買った」
「契約です」
「困窮中に」
「売主は自由意思で」
アグネス・ヴェイル。
遺族席。
「空腹は、自由か」
弁護士。
「契約法では」
「空腹を知らない法だ」
「証書を売らなかったあなたは」
「夫の約束だから」
「売った者は」
「子供のパンを買った」
「なら代金を受けた」
「パン一斤で、夫の三年を買ったのか」
弁護士。
「感情では」
「給金は感情ではない」
アグネス。
「働いた日数だ」
---
## 五
議会には、四つの案が出た。
第一案。
全証書を額面と法定利子で支払う。
王の約束を完全履行。
国庫破綻の可能性。
灰冠巨利。
第二案。
本人・直系遺族だけへ支払い。
譲渡証書は無効。
兵士家族を守る。
契約法と商業信用が崩れる。
既に証書を正当に相続・購入した者も損失。
第三案。
すべて額面の一定割合。
国庫を守る。
困窮家族と投機家を同じ比率。
第四案。
個別審査。
正義に近い。
数十年かかる。
「第五案を」
トーマス。
「何です」
「支払いを二つへ分ける」
給金。
労働への未払。
証書。
債権としての取引価値。
「本人と直系遺族には、給金として」
「買主には」
「購入代金と一定利益」
「額面ではなく?」
「兵士の労働を買ったのではなく、紙を買った」
弁護士。
「債権譲渡は権利全部を」
「その法を作ったのは誰」
議会。
「商業慣習」
「戦時給金も同じ商品に?」
「証書に譲渡禁止がない」
「当時の兵士が、三十年後に灰冠へ売ることを」
「法は予見を」
「しなくても変えられる」
議会。
危険。
過去契約の変更。
商人が震える。
「国が都合よく」
「給金債権だけ」
「次は国債」
「銀行預金」
市場恐慌。
---
財務大臣ペンブローク。
「譲渡証書へ額面を払わなければ、王国債の価格が下がります」
アグネス。
「今まで払わなかったから、既に下がっている」
「今、認めれば」
「兵の紙と商人の紙を同じにしたのは国」
「軍給金証書へ利子を付け、譲渡可能と」
古い王令。
戦費不足。
兵士へ銀の代わりに紙。
「最初から、兵士を銀行にした」
トーマス。
「しかも返さない銀行に」
議会。
---
女王は問う。
「灰冠系保有を没収する案は」
法務長官。
「構成員と犯罪資産の立証が必要」
「四割七分すべて?」
「無理です」
「自由会議の計画と」
「購入時点で、違法でないものが多い」
「正しい契約で国を殺す」
女王。
「それが狙いです」
エレノア・グレイヴ。
---
## 六
証書の列は、議会から王都大橋まで伸びた。
人は、支払いが決まる前に来る。
早い者が得ると思うから。
「順番で支払わない!」
告示。
「受付順は、支払順位を決めません!」
誰も信じない。
王国は、前にも名簿を失った。
今、先に名を載せたい。
夜。
焚火。
証書を守るため眠らない。
盗人。
偽鑑定人。
「あなたの証書は失効しています」
「銀貨一枚で買い取る」
「今なら」
灰冠の下位商人。
さらに買う。
「支払いが近いのに」
「議会は譲渡無効にする」
「売るなら今」
噂を使う。
「証書売買を一時停止」
議会。
「個人間も?」
「はい」
「売りたい者の自由を」
「また」
市場。
「期限」
四十日。
「その間、食べる金が」
アグネス。
「緊急生活貸付」
「証書を担保に?」
「違う」
「返済は」
「支払い後」
「担保では」
「無利子」
「支払いがなければ」
「免除」
国が先に少額。
「財源」
王室私財。
議会緊急費。
海軍補償基金残余。
少ない。
一世帯銀貨半枚。
「足りない」
「ゼロより」
「証書売却を止めるため」
広場。
「女王が銀貨半枚で証書を奪う!」
噂。
給付を受けると、証書が国家へ移ると。
偽の受領票。
本物に似る。
「受け取るな!」
群衆。
また紙。
---
帰還院は、緊急生活貸付の受領票へ大きく書く。
《証書所有権は移らない》
字が読めない者。
赤い糸。
受領票へ縫う。
「赤糸は、権利保持」
偽糸。
「誰でも」
特殊結び。
旧兵士組合。
「覚えられない」
歌。
《赤い糸、紙は家》
子供まで。
制度が民謡になる。
灰冠も歌詞を変える。
《赤い糸、紙は王へ》
どちら。
確認所。
---
## 七
証書をめぐる最初の死者は、議会前ではなく、地方の納屋で出た。
老兵アイザック・リード。
八十。
証書三枚。
西海討伐。
孫が、灰冠系仲買へ売ろうとした。
銀貨二枚。
家の屋根修理。
祖父は拒否。
「これは、俺の仲間の血だ」
「紙だよ」
孫。
「屋根が落ちる」
「王が払う」
「いつ」
「今度こそ」
「三十年そう言った」
口論。
孫が紙を取る。
祖父が杖。
孫が押す。
老兵。
倒れる。
頭。
死亡。
殺意なし。
証書は、仲買が持ち去る。
翌日、仲買も死体。
道端。
喉。
証書なし。
「灰冠が仲買を」
「孫が」
「旧兵士が」
噂。
孫。
逮捕。
「俺は祖父を」
「押した」
「殺すつもりは」
「ない」
「証書を」
「屋根を」
「祖父より?」
「雨が入っていた!」
正しさ。
困窮。
「王が払わないから」
孫。
「俺が殺した。でも最初に押したのは王だ!」
法廷。
強い言葉。
事実ではない。
完全な嘘でもない。
---
女王は報告を読む。
「王が押したと」
「群衆が繰り返しています」
「否定を」
広報官。
アデライン。
「殺したのは孫です」
「はい」
「不払いは国です」
「はい」
「一つにするな」
「説明を」
「誰が聞く」
「演説を」
「また女王が」
「地方へ行く」
側近。
「危険」
「証書を持つ者へ、王都へ来いと言い続ける方が危険」
王が地方を巡る。
給金証書巡回審査。
「全国を」
「全部は」
「では誰の村を」
選べば政治。
最初。
アイザック・リードの村。
死者を利用。
「家族へ」
孫は拘禁。
娘。
「女王に来てほしい?」
「来ても父は」
「来ないで」
女王。
「では行かない」
代わりに、帰還院の巡回所。
家族の希望。
王は、行くことを善意と思わない。
---
## 八
トーマスは、自分の証書を売るべきか、初めて考えた。
家。
娘アンの靴。
屋根。
種麦。
弟ウィルの将来。
父の証書。
額面銀貨九枚。
今、灰冠と無関係な商人でも、銀貨四枚を提示する。
支払い案が決まれば、さらに。
「四枚なら」
メアリー。
「借地料と種」
「はい」
「売る?」
「分からない」
「父さんの約束」
「死者の約束で、今の家族を飢えさせる?」
アグネスの言葉。
空腹は自由か。
「議会で、譲渡証書を」
「あなたが売れば、買主は満額を求める」
「そうなる」
「なら売れない?」
「家が」
メアリーは証書を見る。
「あなたは、国の全部を考える」
「また」
「でも、この紙は私たちの家のものでもある」
「父の」
「あなたの父だけではない。私が畑を耕し、あなたが戦へ行き、アンが待った家の」
「どうしたい」
「半分」
「証書を?」
「売れないなら、支払いを受けた時、半分を今の家へ。半分を父の名で」
「何に」
「未払兵士の家族基金」
「私たちも」
「だから、全部寄付しない」
現実。
「九枚、払われるか」
「分からない」
「なら、払われる前に分ける話をするのは」
「王みたい?」
トーマス。
笑う。
少し。
---
ウィル。
「俺の分は」
「お前の給金は払われた」
「サン・テルモの」
「はい」
「遅れたけど」
「三部名簿が」
「兄さんが」
「皆で」
「俺は、父さんの証書を売ってもいいと思う」
「なぜ」
「父さんじゃなく、祖父さん」
「そうだ」
「会ったことない」
「はい」
「紙より、今の家」
メアリー。
「それも正しい」
家族の中でも。
---
## 九
退位提督セドリック・ヴォーンは、旧病院拘禁中に呼び出された。
帰還院。
「旧給金制度について」
議会。
「海軍本部にいた期間」
「三十七年」
「未払を知っていた?」
「知っていた」
広間。
「どの程度」
「戦役後、常に」
「議会へ」
「要求した」
「記録は」
「あります」
「なぜ払われなかった」
「船を造った」
「兵より?」
「次の戦争へ備えた」
「次の戦争の兵へ払わず、船を?」
「国が生き残れば、後で払えると」
「払ったか」
「いいえ」
「それでも次も」
「はい」
忠誠。
速さ。
同じ。
「王は」
「知っていた?」
「歴代王は一部」
「エドガー四世は」
「報告した」
女王。
父。
「何と」
「国庫が整い次第」
「整った時は」
「別の戦争」
「提督は、自分の給金を」
「全額」
広間。
「士官は」
「概ね」
「水兵は」
「遅延」
「なぜ」
「士官が辞めれば船が」
「水兵は?」
「代わりが」
言った後。
セドリックの顔。
「それが制度でした」
「制度だから」
「正しくない」
「今、気づいた?」
「前から知っていた」
「では」
「必要だと」
「今は」
「必要だったと言い切れない」
遅い。
---
アグネス。
「夫は足指を失った」
セドリック。
「戦役は」
「北方海峡」
「海軍?」
「輸送兵」
「船名」
「知らない」
「名は」
「ロバート・ヴェイル」
提督は記録官を見る。
名簿。
ある。
《輸送船カロライン号、荷役兵》
未払。
「知りませんでした」
「誰が知る」
「部隊長」
「死んだ」
「なら、夫は誰の兵」
「王国の」
「王国とは誰」
提督。
答え。
「私も、その一部です」
「なら払え」
セドリック。
自分の年金。
既に半分補償基金。
残る半分。
「私の年金債権を、旧給金基金へ」
「英雄になる?」
アグネス。
「なりません」
「名前を付けるな」
「はい」
寄付。
記録。
免罪ではない。
---
## 十
《聖ブリジット》は、北西の自由港ケルン・ロックへ入った。
アルビオン王法が届きにくい岩島。
海賊。
保険商。
亡命貴族。
債権売買。
船倉の旧給金証書。
一万八千枚。
灰冠自由会議は、それを競売にかけようとした。
《アルビオン王璽債務》。
買主。
セレスタ投機商。
アルカシャ銀商人。
アルサク馬商人。
ヴェリグラード公家代理。
「外国人が、アルビオン兵の給金を」
自由港司会。
「債権です」
「王国が払えば」
「利益」
「払わなければ」
「外交圧力」
証書が外国債務へ。
国内の兵士問題が、国際金融問題になる。
「女王は、外国債権者を無視できない」
灰冠代理。
「兵士家族は無視したのに」
笑い。
---
競売前。
証書束が公開される。
名前。
死者。
住所。
家族。
個人情報。
「この男は脱走兵」
商人。
「その証書は無効」
「部隊長印が」
「本物」
「王国へ」
値段。
人の人生が束で。
一束百人。
「北方弓兵、額面銀貨千二百」
「開始価格百」
二分より上。
支払い期待。
---
アルビオン議会は、競売停止をケルン・ロックへ要求。
自由港。
「管轄外」
「盗品を」
「正規購入証書」
「聖ブリジットは逃亡船」
「証書は船と別」
「灰冠犯罪資産」
「立証を」
時間。
競売は三日後。
「海軍を」
議会。
三鐘海令。
女王。
海軍。
議会。
越境。
自由港。
攻撃すれば、証書を焼かれる。
死者の権利。
「封鎖」
海軍。
「食糧を」
「民間港」
「競売船だけ」
「港が拒否」
「共同捜査」
セレスタ開帳会へ。
証書買主の多く。
「支払い停止警告を」
財務大臣。
《競売取得証書の支払条件は未決》
価格を下げる。
だが、王国が過去契約を無効にするとの印象。
「それが狙い」
女王。
「競売を止めず、買値を記録する」
「なぜ」
トーマス。
「買主への支払いを、購入価格基準にするなら」
競売価格が証拠。
「買わせる?」
「灰冠へ銀が」
「売主も灰冠」
「同じ内部取引で値を上げる」
「上限を」
市場操作。
---
## 十一
帰還院は、第五案を正式に作った。
《兵役給金二層償還令》。
第一層。
兵役労働債務。
本人、配偶者、子、扶養家族へ。
額面全額。
利子は一律ではなく、生活補償加算。
最大額面の半分。
「法定利子より少ない」
「三十年で」
「国庫」
「死者へ利子は」
「家族へ」
議論。
第二層。
譲渡債権。
正当購入者へ、実購入価格と年二分の保有補償。
ただし額面を上限。
「満額で買った者は」
「実購入価格」
「証明が」
「なければ市場平均」
「灰冠が高値契約を偽造」
「支払記録を」
「現金なら」
「証人」
「また」
第三。
強制・欺罔・生活困窮下の著しく不公正な購入は、原所有者へ請戻し権。
「著しく不公正とは」
「額面の一割未満?」
「二割?」
「支払可能性がない時は、一割でも」
「何を知っていたか」
個別。
「数十年」
第四。
慈善基金・旧兵士組合が、受益者のために保有する場合は第一層に準ずる。
「本当に受益者へ」
「監査」
第五。
灰冠自由会議関係者の犯罪利益は凍結。
第六。
支払いは一括ではなく、三年。
生活困窮世帯を先。
本人存命。
寡婦・孤児。
負傷者。
次。
一般相続。
譲渡債権。
最後。
「早い者順では」
「ない」
「高齢者が」
「先」
「証明が遅れれば」
仮給付。
---
「本人と直系遺族だけを優遇するのは、契約法違反」
商人議員。
「兵役は普通の商取引ではない」
トーマス。
「証書に譲渡可能と」
「国が銀を払えず、紙を渡した」
「受け取った」
「選択肢が?」
徴募兵。
「債権市場が、兵士に現金を」
「額面の二分で」
「それでもパンを」
「空腹は自由か」
アグネス。
何度も。
---
法務長官。
「過去の譲渡契約を全面的に変えるのは危険」
女王。
「全面ではない」
「債権者の権利を減らす」
「労働者本人の権利と分ける」
「今まで法にない」
「作る」
「王国信用が」
「払わない信用より」
議会。
---
上院は拒否。
下院は可決。
王室は支持。
海軍は、本人優先を。
商業都市は反対。
法案が止まる。
その夜。
議会前の証書群衆が五千へ。
「満額を!」
「売った証書を戻せ!」
「商人も権利!」
三つの群衆。
衝突。
---
## 十二
灰冠は、三種類の紙を撒いた。
兵士家族へ。
《二層令は、死者の利子を奪う》
証書購入者へ。
《王国は私有財産を没収する》
現役兵へ。
《女王は、過去の兵へ払うため現役給金を削る》
三つ。
全部、可能性がある。
「現役給金を削るのか」
兵舎。
「財源案は未決」
「なら」
海軍。
陸軍。
不安。
「旧兵へ払うため、今の兵を」
若手士官。
真王璽派。
利用。
「王は紙へ屈した」
「王璽の約束だ」
「死者より、国境を」
セドリックの古い論理。
次の戦争。
---
アデラインは、現役兵給金を削らないと宣言。
「財源は」
議会。
「王室私領収入一割」
「足りない」
「海軍新造船延期」
海軍反発。
「二隻」
「安全を」
「三鐘制度で」
「船は必要」
「旧兵へ払うため、未来の船を」
同じ選択。
「羊毛特別税」
商人。
「海軍攻撃の補償も」
「税ばかり」
「高額相続税」
貴族。
拒否。
「灰冠凍結資産」
足りない。
「王冠宝石を」
誰か。
アルビオン王冠。
「売る?」
ナフル。
アデライン。
「二つ」
側近。
「象徴が」
「兵士へ払うため」
「外国商人が買えば」
「王冠の宝石を」
市場。
「王権が弱い」
「約束を守らない方が」
女王。
だが父の退位。
新王。
海軍危機。
王冠。
「売らない」
最終。
「なぜ」
「一度の財源で、構造を隠す」
長期。
税。
歳出。
「王室祝典費を半減」
「宮廷雇用が」
「段階」
「新造船二隻を一年延期」
「海軍」
「現役給金は守る」
「羊毛輸出へ一時一分」
「商人」
「高額証書譲渡利益へ課税」
灰冠利益。
「遡及税?」
「支払い時に」
「契約法」
「また」
複数。
誰か一人へ。
完全ではない。
---
## 十三
議会前の衝突は、雨の夜に起きた。
兵士家族。
証書商人。
現役水兵。
誰が最初に。
不明。
「商人が死者を買った!」
石。
「契約を盗むな!」
「現役給金を守れ!」
盾。
議会警備。
「下がれ!」
アグネス・ヴェイルは最前列ではない。
だが証書を胸へ。
押される。
倒れる。
トーマスが腕。
「立って!」
「紙が!」
「あります!」
別の男が証書を奪う。
トーマスが追う。
群衆。
殴る。
男。
少年。
十五歳。
「返せ!」
「母の証書を売った! 戻す金が!」
奪ったのは、他人の紙。
「それはアグネスさんの!」
「同じ王璽だ!」
「名前が違う!」
「王は名前を見ない!」
「帰還院が」
「遅い!」
少年。
紙を破ろうと。
トーマスが手。
「破るな!」
「俺の母のを返せ!」
「誰が持ってる」
「白鹿債権社!」
灰冠系。
「名前は」
「サラ・ノース!」
「記録へ」
「紙を返せ!」
「探す!」
「今!」
「今、アグネスさんのを返せ!」
少年。
泣く。
紙。
返す。
「俺のは」
「一緒に行く」
白鹿債権社の受付。
閉鎖。
倉庫。
空。
証書はケルン・ロックへ。
《聖ブリジット》。
「船に」
少年。
「母の夫の紙が」
「競売へ」
「海軍を!」
「撃てば紙が燃える」
「なら」
「取り戻す方法を」
「いつ!」
時間。
少年の怒り。
正しい。
---
衝突。
死者。
六。
圧死三。
石一。
警備槍二。
負傷。
百二十。
警備が槍。
「誰の命令」
首都警備隊長。
「群衆が門を」
「致死槍を」
「押されて」
「命令は」
「下半身を狙え」
一人は腹。
一人は胸。
「混乱」
責任。
また。
議会前の石段。
血。
給金証書。
濡れる。
王璽の赤蝋が雨で黒く見える。
---
## 十四
女王は、衝突翌日に議会へ入らなかった。
石段へ出た。
アグネス。
トーマス。
少年。
遺族。
商人。
水兵。
警備。
「女王だ!」
「払え!」
「契約を守れ!」
「兵を飢えさせるな!」
三方向。
アデラインは王冠を被らない。
王室外套だけ。
「二層償還令を支持します」
商人が罵声。
「没収女王!」
「同時に、正当な購入者へ購入額と保有補償を払います」
兵士家族。
「利子を奪う!」
「法定利子全額は払えません」
「王の約束!」
「はい」
「破る?」
女王。
「一部を」
広場。
正直。
「私は、王璽の約束を完全には果たせません」
罵声。
「なら王ではない!」
真王璽派。
「かもしれません」
側近が顔。
「ですが、払えない銀を払うと再び書くことはしません」
「父王と同じ!」
「違いを作るため、額と期限を公開します」
「三年?」
「第一層は三年以内」
「その前に死ぬ!」
アグネス。
七十二。
「存命本人と高齢配偶者は一年以内」
財務大臣が驚く。
決まっていない。
「財源は」
議員。
「王室私領、祝典費、船二隻延期、特別税」
「足りない!」
「不足額を月ごとに」
「紙!」
「銀が足りなければ、国有地使用権、税控除、穀物給付を本人が選べるように」
「土地を?」
「売れない土地を押し付けるな!」
「選択です」
「王が決める?」
「本人が」
複数。
---
少年。
「サラ・ノースの証書を返せ!」
女王。
聞こえない。
トーマスが。
「陛下!」
石段。
「名を!」
女王。
「誰です」
「サラ・ノース!」
記録官。
「証書は白鹿債権社から《聖ブリジット》へ」
女王。
少年。
「あなたは」
「エドワード・ノース!」
「関係」
「息子!」
「証書名義人は」
「父、マシュー・ノース!」
「取り戻すと約束はできません」
少年が石。
衛兵。
女王が止める。
「でも、競売証書の原所有者へ請戻し申立てを認めます」
「金は」
「売却代金を」
「使った!」
「生活困窮下の売却なら、分割または免除審査」
「紙を返す?」
「買主が同意しなければ、証書自体でなく第一層給付を家族へ。買主には第二層だけ」
「同じ紙で二回払う?」
財務。
「二層だから」
制度。
少年は理解しきれない。
「母に銀が来る?」
「審査で」
「また!」
女王。
「仮給付を今日」
「銀貨半枚?」
「はい」
「父の三年が?」
「違います」
「同じに見える!」
女王。
何も。
「そう見えることを記録します」
少年。
怒り。
石を落とす。
---
## 十五
二層償還令は、議会衝突の三日後に可決された。
上院は最後まで反対。
女王が王室拒否権ではなく、上院への公開再審要求を使った。
「王が議会を脅す」
「解散はしない」
「民衆を」
「石段の死者を利用」
「では、死者がなかったように延期?」
最終投票。
僅差。
成立。
---
償還順位。
第一。
生存兵本人。
第二。
配偶者。
第三。
未成年子。
第四。
負傷扶養家族。
第五。
成人子・一般相続。
第六。
慈善保管。
第七。
譲渡債権。
「成人子が遅い」
トーマス。
「あなたは」
成人。
父。
「はい」
「高齢配偶者を」
アグネスが先。
「受けます」
正直。
「不満は」
「あります」
記録。
---
本人・直系家族の給付。
額面全額。
生活補償。
戦後経過年数に応じる。
最大額面の半分。
法定利子より少ない。
「王が利子を」
「払えない」
「破棄」
「再編」
言葉。
譲渡債権。
実購入額。
年二分。
生活困窮売却の場合、原家族の第一層権利は残る。
つまり。
紙を売っていても、兵役給金部分は家族へ。
買主は投資部分のみ。
「同じ債務を分けた」
商人。
「国の都合」
「元から二つあった」
トーマス。
「労働と紙」
法が後から。
---
灰冠系弁護士は、国際商事法廷へ提訴。
「財産権侵害」
「予見可能性」
「王国の信用」
セレスタ。
アルカシャ。
アルサク。
外国債権者。
長い戦い。
「勝てる?」
女王。
法務長官。
「分かりません」
「負ければ」
「追加支払い」
「国が」
「それでも」
「はい」
守れる約束。
---
## 十六
最初の支払い日は、王宮ではなく議会広場で行われた。
女王が銀を手渡す案は却下。
英雄演出。
代わりに、二十四の窓口。
王室。
議会。
旧兵士組合。
都市会計。
各一人。
四人確認。
遅い。
「一人目」
アグネス・ヴェイル。
生存配偶者。
証書二枚。
額面二十。
生活補償十。
合計銀貨三十。
一括?
財源。
高齢。
「全額」
例外。
「銀で」
「銀貨二十、穀物券五、税免除五相当」
「私は税を」
小作。
「税免除は地主が得る」
「では」
「銀を」
「不足」
「穀物を」
「一人で」
「娘へ」
「譲渡可能?」
「家族内」
「商人へ売れない?」
「売れるが割引」
「また」
最終。
銀貨二十五。
穀物券五。
「夫の三十一年が」
誰も。
「受け取りますか」
「受ける」
「王国を許しますか」
記録官が聞きかける。
アグネス。
「誰がそんなことを」
「質問を削除」
トーマス。
補償受領は責任免除ではない。
既に他国で。
制度が渡る。
アグネスは銀貨を数える。
一枚ずつ。
「足りない」
「額は」
「人生に」
「はい」
それでも袋へ。
---
二人目。
生存老兵。
三人目。
未亡人。
四人目。
孤児だった老人。
「父の顔を知らない」
「受ける?」
「受ける」
「何に」
「孫の学費」
死者の給金が、会ったことのない孫へ。
約束は形を変える。
---
トーマスの順位は後。
成人子。
「父の証書を持ち込んだのに」
記者。
「先に問題を起こした功績で優先を」
「要りません」
「英雄に」
「違います」
「不満は」
「かなり」
笑い。
記録。
---
## 十七
ケルン・ロックの競売は、二層償還令成立後に行われた。
価格。
暴落。
額面の三割を期待していた商人。
今は購入額と年二分。
灰冠の原価が二分なら利益はある。
だが巨利ではない。
「競売中止」
一部。
《聖ブリジット》船長。
「持っていても」
「法廷で争う」
灰冠代理。
「外国債権者は、王国法に拘束されない」
「国際商事法廷へ」
「買え」
証書束。
開始価格。
額面の五分。
買い手。
少ない。
「原家族が第一層を取れば、紙は」
「第二層」
「購入額証明は」
「この競売記録」
つまり、今高く買えば、その購入額を王国へ請求できる?
法律。
実購入額。
ただし、成立後の購入は上限。
《法施行後の取得は、前保有者購入額を承継》
抜け道を塞いだ。
「価値がない」
商人。
「ゼロでは」
「長期訴訟」
価格。
原価近く。
灰冠は大儲けできない。
それでも一部売却。
銀を回収。
完全敗北ではない。
---
競売所へ、アルビオン・ルシタニア・セレスタ共同捜査官が入る。
自由港は拒む。
「市場法」
「逃亡船の犯罪資産」
「証書は」
「名簿個人情報の不正公開」
「それは自由港法に」
「売主同意なし」
「債権譲渡で」
「家族住所は」
個人情報。
オルシャ開帳規則の影響。
「住所欄を公開した束は押収」
自由港法官。
市場の評判を守るため。
一部。
証書六千枚。
押収。
《聖ブリジット》の船倉残り。
一万二千。
船は夜に出港。
灰色の帆。
追跡。
三鐘海令。
王室。
海軍。
議会。
今回は一致。
「拿捕。ただし証書焼却を防ぐ」
命令。
---
## 十八
《聖ブリジット》追跡戦。
アルビオン艦四。
ルシタニア監視船二。
セレスタ快速船一。
共同。
海。
霧。
《聖ブリジット》は、証書束を甲板へ積む。
火鉢。
「近づけば燃やす!」
船長エイモン・レーク。
「死者の給金を!」
追跡艦。
「王国へ返せ!」
「王国が払わなかった!」
「今、払う!」
「紙を奪い、家族へだけ!」
「投資家の権利も!」
船長自身は灰冠構成員か。
不明。
逃亡水兵。
真王璽派。
証書運搬。
複数。
「女王は、最初の王命を裏切った!」
「お前たちは、どの命令へ」
海軍追跡隊。
新しい提督代理。
ヘンリー・コール。
「三鐘命令だ!」
「議会の王!」
「王だけの命令を信じる!」
「その王が否定した!」
「王は変わる!」
「なら忠誠も変われ!」
「それは忠誠ではない!」
終わらない。
---
トーマスは追跡艦へ乗っていない。
今回は港。
乗組員代表は別。
エイモンの弟。
アルビオン港で拘束されていない。
使者。
「兄へ」
三鐘共同使者。
「家族を人質に?」
「違う」
「本人が」
弟は拒否。
「兄は王の船」
「証書を焼けば、兵士家族の名を」
「写しが」
「全部ではない」
「灰冠は」
「灰冠は王より先に父の証書を買った」
「だから正しい?」
「王国よりは」
弟。
怒り。
使者。
「王国は遅い。灰冠は早い」
「はい」
「でも、早く買ったのは助けるため?」
弟。
答えられない。
「兄へ、紙を燃やすなと」
「なぜ」
「父の名もある」
エイモン兄弟の父。
旧海軍。
未払。
証書束に。
「どの束」
「分からない」
「だから全部?」
「はい」
弟の書簡。
小舟。
《兄さん、父の紙を燃やさないでくれ》
個人。
---
夜。
《聖ブリジット》。
船長が読む。
火鉢。
水兵。
「追跡船が」
「燃やせ!」
「父の」
エイモン。
「全部の父だ!」
一人。
「燃やせば王国が払わなくて済む!」
「写しが」
「ないものも」
「なら」
船内で分裂。
真王璽派。
灰冠契約者。
ただ逃げた水兵。
証書を守る者。
燃やす者。
争い。
火鉢。
倒れる。
甲板。
一束に火。
「水!」
船員。
自分たちで消す。
追跡艦が近づく。
矢。
撃たない。
「火を消している!」
「待つ!」
船内反乱。
エイモン船長が刺される。
誰に。
灰冠契約監督。
逃亡を続けろと。
水兵が監督を海へ。
船長。
負傷。
「降伏旗を」
「女王へ?」
「証書へ」
白布。
《聖ブリジット》は降伏。
焼失証書。
四百三十二枚。
一部名簿写しあり。
百二十七枚。
残り三百五枚。
名前不明。
「燃えた給金は」
帰還院。
「家族が原本を」
一部。
買い取られた時、写しなし。
「証明できない」
「売却帳簿」
灰冠。
押収。
一部焼け。
「名を」
炭。
復元。
手作業。
「分からない者は」
無記録者。
証人。
部隊名。
家族記憶。
仮申請。
証書が燃えても、兵役が消えない制度。
新しい。
---
## 十九
二層償還令の最初の一年。
支払済み。
生存兵。
六千二百人。
配偶者。
一万一千。
未成年・扶養家族。
八千。
成人相続。
まだ少数。
譲渡債権。
審査中。
灰冠系凍結。
三万枚。
国庫。
重い。
新造船延期。
羊毛商人反発。
王室祝典縮小。
宮廷料理人解雇。
「女王が兵士へ払うため、料理人が」
失業。
善意の費用。
解雇ではなく、王立配給所へ配置転換。
「給金は」
減る。
「兵士のために、我々が」
「税で」
不満。
制度は誰かへ。
---
海軍。
現役給金は守られた。
だが新造船遅延。
造船工が失業。
議会。
復旧船、商船改修へ。
「軍艦では」
「仕事を」
「賃金が低い」
「差額補助」
また財源。
旧兵へ払うと、現役産業へ。
王国全体。
---
アグネスは、銀貨二十五枚のうち、十枚で娘の家へ屋根。
五枚で夫の墓石。
墓は空。
遺体なし。
《ロバート・ヴェイル。王国の船で働き、給金が帰る前に死んだ》
「帰還後に死んだのでは」
石工。
「給金が」
「はい」
言葉。
「王国を責める?」
「記録する」
残り。
自分の生活。
「全部墓へ使わない?」
「死者は雨に濡れない」
生者。
---
トーマスの支払いは、二年目に来た。
額面九。
生活補償四。
合計十三。
銀貨八。
穀物券三。
借地税控除二。
「複雑」
メアリー。
「受ける?」
「はい」
半分。
家。
種。
靴。
屋根。
残り。
父ジョナサン名義の旧兵士家族基金。
「全部の半分では」
「銀貨四、穀物券一」
「税控除は使う」
現実。
「父さんは」
ウィル。
「喜ぶ?」
「会ったことない」
トーマス。
「分からない」
「なら、俺たちが」
家族。
---
## 二十
アデライン一世は、償還開始一周年の演説を短くした。
前回、九十四人の名を三時間。
今回は数字。
支払った人数。
残額。
遅延。
訴訟。
「約束を果たした」とは言わない。
《約束を返し始めた》
始めただけ。
《全ては返っていない》
《灰冠自由会議及び関連商会への支払いは、法廷で争われている》
《正当な購入者もいる》
《困窮した家族から買い叩いた者もいる》
《同じ商会の中に、両方がある》
単純に悪と。
しない。
不人気。
「女王は灰冠を擁護」
逆。
「商人を犯罪者扱い」
両方。
---
演説後。
退位王エドガー。
娘。
海戦盤。
「払った」
父。
「一部」
「兵」
「一部」
「灰冠」
「一部は止めた」
父。
左手。
王の駒。
船員駒。
銀貨。
一枚を兵へ。
一枚を船へ。
残りなし。
「足りない」
アデライン。
父。
頷く。
「父上は、なぜ払わなかった」
エドガー。
言葉。
「次の」
「戦争」
頷く。
「怖かった?」
「はい」
「私も」
次の戦争。
船。
「私は、旧兵へ払ったため、船を二隻遅らせた」
「敵」
「来るかもしれない」
「なら」
「分かりません」
父。
娘。
「王なのに」
アデライン自身が。
エドガー。
少し笑う。
「毎日」
また。
毎日決める。
---
## 二十一
灰冠自由会議は、《帰らなかった給金計画》を、敗北とも勝利とも記録しなかった。
《旧給金債務の全面否認、未達》
《国庫破綻、未達》
《灰冠保有証書の満額償還、未達》
《原家族・譲渡債権分離、敵制度強化》
《王国商業信用低下、限定達成》
《海軍新造船遅延、達成》
《羊毛特別税による商人反発、達成》
《旧兵士・現役兵衝突、限定》
《議会前死者、達成》
《聖ブリジット拿捕、失敗》
《真王璽派地下化、継続》
《旧債権国際訴訟、開始》
無貌。
「利益は減った」
鴉筆。
「ゼロではない」
「王国は三年、銀を縛られる」
「海軍船二隻」
「遅れる」
「次の戦争へ」
「誰が」
黒雪。
地図。
北。
ノルハイム。
西。
アルビオン。
東。
ヴェリグラード。
「海氷が解ける」
「難民船」
「灰冠救済の負債が」
「期限を迎える」
「ノルハイムの土地証書」
「黒い雪」
以前。
難民。
土地。
債務。
「ヴェリグラードの共同土地委員会は」
「四十日暫定が終わる」
「返済できない難民へ」
「土地返還を」
「帰る故郷は」
「ない」
「なら」
「新しい国を」
灰冠。
「難民が土地を持てば、在地民が怒る」
「取り上げれば、難民が」
「アルビオンは銀を失った」
「救済船を出せない」
「ナフルは」
「塩と継承」
「セレスタは」
「監査」
各国。
疲労。
制度。
「次は王命ではなく」
黒雪。
「土地の記憶だ」
---
## 二十二
《聖ブリジット》から回収された証書の中に、一枚だけ、兵士給金ではない文書があった。
古い。
灰色。
王璽なし。
代わりに、黒い雪片の印。
《北方避難民土地保全証》。
発行者。
灰冠救済会。
対象地。
ヴェリグラード西部。
三百家族。
条件。
五年間の耕作。
救済債務返済。
返済不能時、土地は救済会へ。
発行日。
四年前。
期限。
春。
「なぜアルビオン船に」
エレノア・グレイヴ。
「給金証書と一緒に買い集めた債権束」
「価値は」
「土地」
「所有者は」
「難民家族」
「今」
「耕作中」
「返済は」
「不可能」
「なら灰冠が土地を」
「契約上」
「ヴェリグラード法では」
「戦時救済契約の再審中」
「期限が」
四十日。
また。
文書の裏。
紫色の細字。
《土地が帰らない者は、国も帰らない》
リヴィア。
署名なし。
「彼女は北へ」
報告。
黒い馬車。
アルビオンから直接ではない。
別の道。
「次の計画」
女王。
「我が国の問題では」
「土地証書を運んだ船は、我が海軍の逃亡船です」
網。
国境。
「ヴェリグラードへ知らせる」
「公開?」
「家族名は伏せ、契約期限を」
「灰冠が逃げる」
「家族が先」
理由。
期限。
---
トーマスは、その文書の写しを見た。
「土地が帰らない者」
父の給金。
帰らない。
「何か」
エレノア。
「同じです」
「何が」
「兵は帰った。給金は帰らなかった」
「難民は帰れない。土地だけ」
「誰へ帰る?」
「分かりません」
北方。
雪。
「あなたは行く?」
「農夫だから?」
「土地証書を読む証人として」
トーマスは家。
メアリー。
アン。
ウィル。
屋根。
種。
「すぐには」
「使節を」
「私は」
「必要だと思う?」
必要な自分。
「一人では」
「では」
「ヴェリグラードの農民代表、難民代表、会計官、土地法官と」
共同。
「考えます」
「断っても」
「はい」
---
夜。
トーマスは畑へ。
春の土。
父の給金で買った種。
まだ袋。
土地。
借地。
自分のものではない。
それでも耕す。
「北へ行くの」
メアリー。
「分からない」
「行きたい?」
「少し」
「必要とされたい?」
「かなり」
「正直」
「でも、畑も」
「種をまく時期」
「ウィルが」
「俺が?」
弟。
「名簿の次は畑?」
「嫌か」
「少し」
「かなり?」
「かなり」
家族。
笑う。
---
アデラインの王冠は、王宮にある。
三鐘は、海側塔に。
給金証書は、帰還院の棚。
何万枚。
一枚ずつ。
兵士の名。
家族。
王璽。
支払い。
未払い。
訴訟。
給金は、すべて帰ったわけではない。
帰る道が作られただけだった。
だが道があれば、人は歩ける。
同時に、道があれば、灰冠もその先へ行く。
海から回収された一枚の土地証書は、北を指していた。
王の約束が国を揺らした次は。
故郷を失った者へ与えられた土地の約束が、別の国を揺らそうとしていた。
兵士は戦場から帰る。
難民は、どこへ帰ればよい。
春の雪解けとともに。
黒い雪の下から、土地の境界線が姿を現し始めていた。
書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?
-
死ぬ気でがんばれ
-
可能な範囲でがんばれ
-
そんなに急ぐこたーないぞ