土地は、人を覚えない。
誰が最初に森を切ったか。
誰が畑へ石を運び。
誰が種をまき。
誰がその土の上で死んだか。
春になれば草は同じように芽を出す。
雪解け水は、領主の境界線を避けない。
麦は、種をまいた者の宗派を知らない。
それでも人は、土地が自分を覚えていると信じる。
祖父の畑。
父の牧草地。
子供を埋めた丘。
故郷。
その言葉がなければ、奪われた土地を取り戻す理由がなくなる。
その言葉が強すぎれば、今そこに住む者を追い出す理由になる。
灰暦八百七十三年。
ヴェリグラード西部の雪が解け始めた。
黒い雪の下から現れたのは、去年の草ではなかった。
境界石だった。
三百十一本。
五年前にノルハイム難民へ与えられた土地を囲む石。
石の上には、二つの印が刻まれていた。
一つは、ヴェリグラード諸公国の双頭鷲。
もう一つは、雪片をかたどった灰冠救済会の印。
土地保全契約の期限は、春分の日まで。
残り。
十九日。
---
## 一
最初の境界石を掘り起こしたのは、ルーナの息子アルネだった。
十五歳。
ノルハイムから逃げた時は十歳だった。
海氷の上で父を失い。
母と妹を連れてヴェリグラードへ来た。
今では、故郷の言葉よりもヴェリグラード語の方が上手い。
「母さん!」
泥。
畑。
石。
雪解け水に半分沈んでいる。
「何」
ルーナは麦袋を抱えていた。
春まき用の種。
「印が増えてる」
石の表。
双頭鷲。
裏。
黒い雪片。
「前から?」
「雪片はなかった」
ルーナは手袋を外す。
石。
新しい傷。
冬の間に刻まれた。
「触るな」
「もう」
「手を洗って」
毒ではない。
だが、灰冠の印には触れたくない。
近隣の畑。
トール。
ノルハイム人の鍛冶師。
斧を持って来る。
「石を割る」
「待って」
ルーナ。
「我々の畑だ」
「だから」
「契約の証拠でもある」
「灰冠の」
「土地を得た証拠でも」
トールは斧を下ろさない。
「土地は、耕したから得た」
「契約書にも」
「契約書がなければ、最初の冬に追い出されていた」
「契約書があるから、今追い出される」
二人。
---
道の向こうから、地元農民が来た。
アンネシュカ・コヴァリク。
五十歳。
夫と長男を、東部戦役で失っている。
難民が来る以前、この低湿地の一部を共同牧草地として使っていた村の代表。
「石が戻った」
彼女。
「戻った?」
アルネ。
「五年前、救済会が埋めた」
「なぜ」
「土地を測るため」
「昨日までなかった」
「雪の下に」
アルネは石の周囲を見る。
土。
掘り返されたばかり。
「今置いた」
「証拠は」
「泥の色」
「子供の言葉で」
「十五だ!」
アンネシュカは少年を見る。
「五年前は子供だった」
「今は耕してる」
「五年前、私の牛がここで草を食べていた」
「荒地だった」
トール。
「牛が沈む沼だ」
「それでも村の土地」
「使っていなかった」
「戦争で男がいなかった!」
「我々も死んだ!」
声。
近隣。
人が集まる。
ノルハイム難民。
在地農民。
鍬。
鎌。
斧。
まだ武器ではない。
農具。
最も古い武器。
---
ルーナは境界石の裏側を布で拭いた。
雪片印の下。
小さな文字。
《期限到来時、未償還債務をもって救済会所有へ移転》
「未償還?」
アルネ。
ルーナ。
答えない。
救助船費。
冬の食糧。
種麦。
毛布。
埋葬料。
住居木材。
利子。
五年間。
返した。
麦で。
労働で。
銀で。
それでも帳簿では残っていた。
「幾ら」
トール。
「うちは銀貨四十二」
「最初は」
「十九」
「増えてる」
「利子と、排水路費」
「排水路は自分たちで掘った」
「救済会の工具を」
「壊れた鍬二本?」
「帳簿では十二本」
トールの斧が上がる。
「割る」
アンネシュカ。
「石を割っても、昔の土地は戻らない」
「戻る?」
「期限が切れれば」
彼女も契約を知っている。
「お前たちが出た後、村が買い戻す」
「救済会から?」
「公が」
「誰の金で」
「税で」
「我々も税を払ってる!」
アルネ。
「難民税免除が」
アンネシュカ。
「最初の二年だけ!」
「その二年、村は二倍払った」
両方。
真実。
---
## 二
春分十九日前。
灰冠救済会の土地執行官が到着した。
名はオットー・ヘルマン。
セレスタ人。
四十代。
毛皮の縁がついた灰色外套。
護衛二十。
護衛は《雪守り》と呼ばれた。
救済会の私設警備。
武装は槍。
短弓。
法的には債権回収人の護衛。
見た目は兵。
「立退きを命じるものではありません」
オットー。
集会所。
「まだ」
ダニロ公子。
ヴェリグラード西部監督官。
三十二歳。
大公ムスティスラフ二世の従弟。
以前、黒雪救済会の土地買収を止めるため、共同土地委員会を設けた人物。
「期限後は」
「契約に従います」
「何を」
「債務完済世帯は土地所有権を確定」
「未完済世帯は、土地を救済会へ移転」
「住民は」
「耕作借地人として残る選択も」
「地代は」
「収穫の三割」
集会所。
怒号。
「今まで自分の畑だった!」
「契約では条件付保全地です」
「五年耕した!」
「救済債務を返すため」
「返した!」
「帳簿上は」
オットー。
紙。
「三百十一世帯中、完済は二十七」
静か。
「二十七?」
ルーナ。
「残り二百八十四世帯」
「全員が?」
「平均債務、銀貨三十八」
「最初は」
「平均二十一」
「なぜ増える」
「利子、共同設備、警備、道路、種子保険、冬季価格調整」
「雪守りの給金まで?」
トール。
「土地を保全しました」
「誰から」
「盗賊、在地の不法奪還」
アンネシュカが立つ。
「我々を盗賊と?」
「契約地へ侵入した者は」
「村の牧草地だった!」
オットー。
「戦時没収後、ヴェリグラード公領へ移管され、救済会へ五年間の管理権が与えられています」
ダニロ。
「移管令は暫定だった」
「期限の記載なし」
「戦時終了まで」
「戦時終了宣言は?」
ない。
サルグァ騎馬氏族との緊張。
国境。
凍河。
正式な終戦ではなく、休戦。
「なら今も戦時?」
アンネシュカ。
「税だけ平時へ戻ったのに」
---
オットーは契約書を掲げる。
ノルハイム語。
ヴェリグラード語。
セレスタ商業語。
三言語。
「署名、指印」
ルーナ。
自分の印。
母指。
「読まれた内容と違う」
「通訳が」
「《五年耕せば土地は家族のもの》と」
「債務完済を条件に」
「その言葉を言わなかった」
「証人は」
通訳。
死亡。
黒雪の冬、病死。
「救済会書記は」
「転任」
「どこへ」
「不明」
「都合がよい」
オットーは動じない。
「契約がなければ、皆様は五年前の冬を越せなかった」
「だから何でも?」
ルーナ。
「受けた支援を否定しますか」
彼女。
止まる。
救助船。
毛布。
黒パン。
妹の薬。
灰冠救済会がなければ、死んでいた者もいる。
「否定しない」
「なら」
「助けたことと、畑を取ることは同じではない」
「支援は無償では」
「無償と書いた旗を掲げていた」
「旗は契約ではありません」
オットー。
その言葉で。
集会所の空気が変わる。
旗。
《黒雪救済》。
救うと。
「帰れ」
誰か。
「執行官を!」
雪守りが槍。
ダニロの兵が間へ。
「武器を下げろ!」
両側。
「期限まで十九日」
オットー。
「期限内に債務を償還すれば、土地は移転しません」
「銀をどこから」
「土地担保融資を」
集会所。
笑い。
狂ったような。
「土地を守るため、土地を担保に?」
「新しい貸主から」
「誰」
《北方再建信用組合》。
実所有者。
灰冠関連。
同じ。
「借金で借金を返せと」
ダニロ。
「市場では一般的です」
「人の家でも?」
「土地は資産です」
ルーナ。
「墓も?」
オットー。
答えない。
畑の端。
ノルハイム人が埋めた死者。
土地契約書には、墓地の扱いがない。
---
## 三
大公ムスティスラフ二世は、土地執行を四十日停止した。
灰冠側は即座に異議。
「契約期限後の停止は、事実上の没収」
救済会弁護士。
「期限前に停止令」
大公府。
「だから有効」
「債権者の権利を」
「審査のため」
「何年」
「四十日」
世界中で使われる期限。
「四十日後に」
「判決」
「遅延利子は」
「停止」
「違法です」
「では法廷へ」
「この国の法廷は、債務者側」
「救済会は、この国の土地を求める」
ムスティスラフ。
「なら、この国の法を」
---
共同土地審査会。
通称。
《三畝法廷》。
三種類の土地を同時に見る。
昔の所有。
現在の耕作。
契約上の債権。
席。
大公府。
地方諸侯。
在地村落。
難民共同体。
都市会計。
契約債権者。
宗教・墓地代表。
七席。
「債権者にも席を?」
難民。
「判決へ関与?」
「証拠と制度案」
「投票は?」
全席。
「自分の取り分を」
「ほかも」
在地村落も。
難民も。
完全な中立者はいない。
「裁判官を外国から」
「誰を信用」
「セレスタ開帳会」
灰冠発祥地。
「オルシャ」
宗教。
「ナフル」
遠い。
「自分たちで」
ダニロ。
「利益を隠さず」
---
委員長はイリヤ・ストヤノフ。
ヴェリグラードの老法官。
六十八歳。
農奴の子。
読み書きを覚え、都市裁判官になった。
貴族を嫌うと貴族に言われ。
農民に厳しいと農民に言われる。
「土地は、誰のものか」
開廷。
「その質問は最後にする」
「最初では」
「最初に答えた者は、最後まで証拠を自分の答えへ曲げる」
机。
三枚の地図。
戦前地図。
難民入植時地図。
現在地図。
重ねる。
線。
合わない。
川が変わった。
排水路。
畑。
村。
墓。
「同じ土地ではない」
イリヤ。
「場所は同じ」
アンネシュカ。
「形が違う」
トール。
「なら昔の権利は消える?」
「今の労働も消えない」
始まる。
---
## 四
ルーナの土地。
戦前。
共同牧草地七割。
アンネシュカ家の小麦畑二割。
公領湿地一割。
戦争。
村の男が徴募。
堤防崩壊。
畑が沼へ。
税滞納。
公が一時没収。
黒雪難民流入。
救済会が排水工具を提供。
難民が三年かけて水路。
現在。
麦畑。
豆。
家。
井戸。
墓。
「元の土地を返せ」
アンネシュカ。
「どこを」
イリヤ。
地図。
川が東へ二十歩移動。
排水路。
昔の畑の半分は今、ルーナの家。
残りは道。
「家を壊せと?」
「私の夫が耕した」
「私の夫は氷で死んだ」
「関係ない!」
「あなたの夫も戦で」
「この土のため!」
「王のためでしょう!」
アンネシュカ。
椅子を。
立つ。
「夫は、この村を守ると言って行った!」
「帰った?」
「帰らない!」
ルーナ。
「私の夫も」
二人。
同じ。
「だから土地を?」
イリヤ。
「死者は、土地の境界を証言できない」
冷たい。
「生者が」
「では証拠を」
---
戦前税帳簿。
アンネシュカ家。
二反。
共同牧草権。
あり。
難民契約。
ルーナ。
四反。
重なる。
「二重に与えた」
都市会計。
「誰が」
当時の地方代官。
ヴァディム・ロストフ男爵。
現存。
審査席の後ろ。
「戦時没収地として」
「没収手続は」
「税滞納」
「男が戦へ行っている間に?」
「税法は」
「徴募免除は」
「申請が」
「誰が申請」
「家族」
アンネシュカ。
「私は字が書けなかった」
「教区司祭が」
「死んだ」
また死者。
「男爵は、救済会から管理料を」
帳簿。
銀貨八千。
「地方復旧費」
「使途」
橋。
道路。
実際。
一部。
残り。
男爵家の新館。
「館も避難所」
ヴァディム。
「冬に難民を」
「三日だけ」
ルーナ。
「一人銀貨半枚を救済会が」
「食費」
「黒パン一切れ」
「暖房」
「馬小屋」
男爵の顔。
「審査は土地契約です」
イリヤ。
「土地を二重に与えた理由を調べています」
---
ヴァディム男爵は、在地農民へ言う。
「難民へ土地を与えたのは大公府と救済会だ」
難民へは。
「在地村が返還を求めている」
両側へ。
自分を中間に。
灰冠が好む。
「男爵領の土地は」
都市会計。
「難民契約地の外」
「はい」
「なぜ」
「先祖代々」
「荒地は公領へ?」
「戦時法」
「自分の土地は守った」
「税を払った」
「誰の金で」
救済会管理料。
線。
---
## 五
ペタル・ドラゴヴィチが証人席へ連れてこられた。
黒雪事件で捕らえられた灰冠救済会の現地契約係。
四年前は二十八。
今は三十二。
拘禁中。
痩せ。
髪が伸び。
指に墨。
彼は契約書へ難民の指印を押させた者の一人だった。
「翻訳内容は」
イリヤ。
「標準文を」
「《五年耕せば土地はあなたのもの》と言ったか」
「言いました」
集会。
怒号。
「条件を」
「続けて、債務完済時と」
「全員へ?」
ペタル。
「覚えていません」
「何世帯」
「百以上」
「覚えていない?」
「毎日」
「人の土地を」
「私は書記でした」
「誰の命令」
「救済会北方支部」
「黒雪計画を知っていたか」
「後半に」
「最初は」
「本当に救済だと」
「いつ変わった」
「土地証書を債権束へまとめた時」
「何年目」
「二年目」
「難民が排水を終えた頃?」
「はい」
「最初から?」
「上の者は」
「証拠」
帳簿。
《第一段階、生存》
《第二段階、定着》
《第三段階、債務固定》
《第四段階、土地集約》
「土地集約」
地図。
三百十一世帯の土地。
ばらばらに見える。
繋ぐと。
北方街道。
凍河支流。
銀毛皮路の中継点。
一本の回廊。
「農地ではない」
ダニロ。
「道を取る計画」
ペタル。
「通行料、倉庫、私設警備」
「難民は」
「借地人として残す」
「在地村は」
「土地買戻しを提案し、債務を負わせる」
両方。
「男爵は」
ペタルがヴァディムを見る。
「協力者」
広間。
「嘘だ!」
男爵。
「署名は」
契約。
暗号名。
《北鷹》。
「私では」
「支払い口座」
男爵家執事。
「執事が」
「知らなかった?」
黒口鉱山。
父の城。
繰り返される言葉。
ヴァディム。
「管理を任せていた」
イリヤ。
「自分の土地が契約地へ入らなかったことも?」
沈黙。
---
「ペタル」
ルーナ。
「あなたは、私へ指を押させた」
「はい」
「娘が熱を」
「覚えて」
「薬を先にと言ったら、契約後だと」
ペタルの顔。
「はい」
「娘は生きた」
「はい」
「だから、あなたへ感謝すべき?」
「いいえ」
「薬がなければ死んだ」
「はい」
「では」
「私も分かりません」
ペタル。
「薬を渡した。契約も取った」
「どちらが本当」
「両方です」
四鏡。
人は一つではない。
「罪を軽く?」
「しません」
「生きたい?」
「はい」
「なぜ」
「私が押させた指印を、全部読み直す」
「それで」
「戻せるものを」
「土地は」
「分かりません」
「また」
「守れる約束だけです」
彼は、世界各地の言葉を知らない。
同じ場所へ来る。
---
## 六
法廷の外では、土地の奪い合いが始まっていた。
停止令。
四十日。
だが境界石は増える。
夜。
雪守りが測量。
在地農民が石を抜く。
難民が別の場所へ。
翌朝。
地図が変わる。
「測量を止めろ」
ダニロ。
「債権保全行為です」
オットー。
「土地執行停止」
「境界確認は執行では」
「護衛を」
「盗難防止」
「誰から」
全員。
---
ミラ・ロストフ。
十二歳。
ヴァディム男爵の遠縁ではない。
同じ姓でもない? Better use ミラ・コヴァリク, Aneszka's granddaughter perhaps. Let's define.
アンネシュカの孫娘ミラ。
十二歳。
羊飼い。
境界石の下に、白い木片を見つけた。
数字。
日付。
《冬第三月十五日》。
一月前。
「石は今置かれた」
アルネ。
「全部?」
「この石は」
二人。
難民少年。
在地少女。
互いの家族は争う。
「見せる」
ミラ。
「祖母に」
「法廷へ」
「祖母が先」
「隠すかも」
「あなたの母も」
「法廷」
二人。
信頼なし。
「一緒に」
石。
重い。
木片だけ。
「証拠を取ったと言われる」
「戻す」
木片の位置を炭で写す。
紙。
二人の指印。
それから。
アンネシュカとルーナへ同時に。
「なぜ二人で」
「一人だと嘘って」
ミラ。
子供たちは、大人の制度を自分で作る。
二証人。
同時。
---
境界石三百十一本のうち。
新設。
百八十九。
昔から。
七十六。
不明。
四十六。
「新設を命じた者」
救済会測量部。
「期限確認」
「停止令前」
「夜に?」
「雪が硬い」
「刻印は」
「契約上」
「土地へ印を追加する権利は」
小条文。
《債権保全に必要な標識》。
「石を新しく置けるとは」
「標識です」
「以前の境界と違う」
測量図。
契約地が拡大。
排水路。
道。
墓地。
「なぜ」
「自然変化に合わせた」
「救済会に有利に?」
「測量基準」
「誰が」
救済会。
自分で。
---
新しい境界線は、難民家屋だけでなく。
在地村の井戸。
共同墓地。
橋。
市場予定地。
通行を支配。
「土地集約」
ペタル。
計画。
「境界石は契約期限前の既成事実」
ダニロ。
「灰冠は土地だけでなく、道を」
---
## 七
火は、十日目の夜に上がった。
黒柳集落。
難民世帯八十四。
在地村と最も近い入植地。
共同種麦倉。
難民と在地農民が、春まき用の種を預けていた。
前年、土地委員会が作った共同倉庫。
どちらのものでもない。
だから狙われた。
最初の火。
屋根。
干し草。
「火だ!」
鐘。
難民の鐘。
在地村の鐘。
音が違う。
互いに襲撃と。
「難民が種を!」
「村が焼いた!」
人が集まる。
鍬。
斧。
雪守り。
なぜ。
「契約地を守る!」
「誰から!」
混乱。
---
ルーナとアンネシュカは、別々の道から倉庫へ。
アルネ。
ミラ。
子供たち。
倉庫横の寝所。
季節労働者。
「中に!」
煙。
扉。
鍵。
三鍵。
難民。
村。
委員会。
委員会鍵守がいない。
法廷へ。
「壊せ!」
アンネシュカ。
「種が」
「人が先!」
ルーナ。
槌。
トール。
扉。
---
矢。
闇。
在地農民の肩。
「難民が!」
矢羽。
ノルハイム式。
次。
難民の男。
胸。
ヴェリグラード式。
混合。
サン=リュシアン。
同じ。
「撃つな!」
ダニロの兵。
遅い。
一人が斧。
雪守りの盾。
「救済会が焼いた!」
「我々は守っている!」
「槍を持って?」
雪守り。
押す。
在地農民。
転ぶ。
難民。
踏む。
火。
---
倉庫内。
アルネ。
ミラ。
小さい子三人。
梁。
煙。
「窓へ!」
高い。
麦袋を積む。
アルネ。
「先に子供」
ミラ。
「あなたも」
「後」
梁。
落ちる。
麦袋。
火。
ミラが咳。
外。
ルーナの声。
「アルネ!」
壁。
トールが斧。
板。
穴。
「ここ!」
アルネが子供を。
一人。
二人。
三人。
ミラ。
「アルネは」
中。
梁が脚。
「戻る!」
ルーナ。
アンネシュカが止める。
「落ちる!」
「息子!」
「私の孫も」
「出た!」
「だから止める!」
二人。
ルーナがアンネシュカを殴る。
アンネシュカ。
離さない。
「トール!」
鍛冶師。
穴へ。
煙。
アルネ。
脚。
梁。
持ち上がらない。
種麦袋。
「切る」
「脚を?」
「梁を!」
斧。
火。
トールの背。
燃える。
外から水。
ミラ。
戻ろうと。
祖母が。
「行くな!」
「アルネが!」
「トールが!」
---
梁。
切れる。
アルネ。
引く。
トール。
背中。
火傷。
外。
倉庫屋根が崩れる。
種麦。
火。
人は。
出た。
全員ではない。
季節労働者二人。
奥。
見つからない。
後。
遺体。
---
外の戦闘。
矢。
誰が最初か。
雪守り指揮官が、契約地へ入る者を排除と。
在地農民三人を槍。
難民が雪守りへ。
ダニロ兵が間。
夜。
火。
混乱。
死者。
在地農民。
九。
難民。
七。
雪守り。
四。
公兵。
二。
倉庫内労働者。
二。
計二十四。
負傷。
八十六。
種麦焼失。
六割。
春まき。
危機。
---
火元。
油。
倉庫内から。
鍵。
三鍵の一つ。
委員会鍵の複製。
誰が。
法廷補助書記。
失踪。
部屋。
灰色の紙。
報酬。
境界石設置費。
雪守り指揮官へも。
《群衆が倉庫へ侵入した場合、契約資産防衛》。
事前命令。
救済会。
オットーの署名はない。
支部警備長。
「知らなかった」
オットー。
「また」
ダニロ。
「あなたの護衛です」
「現場裁量」
「槍で九人」
「群衆が」
「火災から種を」
「契約資産を奪うと」
「誰の種」
共同。
救済会のものではない。
「指揮官を」
生存。
拘束。
「命令どおり」
「誰の」
《北方資産保全部》。
灰冠自由会議の別名。
---
## 八
倉庫火災の翌朝。
法廷は、焼けた畑で開かれた。
「なぜここで」
救済会弁護士。
「審査場が安全で」
アンネシュカ。
「ここが土地です」
ルーナ。
二人。
顔に傷。
昨夜、殴った。
まだ謝っていない。
トールは施療所。
背中と腕に火傷。
アルネは脚を折ったが生存。
ミラは煙を吸い、声が出にくい。
---
死者名簿。
二十四。
一人ずつ。
難民。
在地。
雪守り。
公兵。
労働者。
「雪守りも?」
村人。
「槍で」
「死者です」
イリヤ。
「同じ欄?」
「所属を分ける」
「被害者と加害者」
「調査前」
「見た!」
「名前は消さない」
責任は別。
---
法廷。
「土地執行停止を、さらに」
救済会。
「反対」
「死者が」
「契約と火災を混ぜるな」
オットー。
ルーナ。
「混ぜたのは誰」
「救済会全体では」
「護衛へ金を」
「契約のため」
「安全の」
「土地を取る安全?」
---
大公ムスティスラフ二世が、自ら来た。
王冠ではなく、黒い毛皮帽。
雪解けの泥。
「全契約を無効にする」
広場。
歓声。
難民。
一部在地。
救済会。
怒号。
イリヤ法官。
「大公殿下」
「灰冠は殺した」
「一部実行者です」
「土地を奪う計画」
「証拠があります」
「なら」
「全て無効にすれば」
法官。
「正当な救済資金を出した者も失います」
「誰」
帳簿。
北方都市の寡婦基金。
修道院。
職人組合。
船員年金。
灰冠自由会議と知らず、救済債券を買った者。
「また兵士給金のように」
アルビオンから来た写し。
二層償還令。
「土地と紙を分ける」
都市会計。
「救済会の犯罪と、救済費用を」
「難民に払わせる?」
ムスティスラフ。
「受けた支援は」
ルーナ。
「払います」
皆が見る。
「なぜ」
「薬と食糧は受けた」
「土地を取られても?」
「それは払わない」
「分ける」
ルーナ。
「いくら」
「分からない」
「帳簿を」
「読み直す」
ペタル。
証人席。
「全部」
---
アンネシュカ。
「難民だけの土地にしないでください」
「火災の後で?」
「火をつけたのは、村ではない」
「土地を返せと」
「昔の畑は」
「今、家が」
「だから、全部では」
彼女。
「私の夫が耕した二反を、私のものだと認めてほしい」
「家を壊す?」
ルーナ。
「壊せとは言わない」
「では」
「名を消すな」
土地権。
所有。
記憶。
別。
---
## 九
三畝法廷は、新しい地図を作った。
一枚ではない。
第一図。
戦前権利。
所有地。
共同地。
牧草権。
墓。
道。
第二図。
難民入植時。
救済会契約。
戦時没収。
暫定公領。
第三図。
現在。
家。
畑。
排水路。
井戸。
墓。
橋。
第四図。
将来必要。
洪水路。
共同牧草地。
市場。
学校。
「四畝になった」
誰か。
「三畝法廷なのに」
イリヤ。
「名前は変えない」
人は簡単な名を好む。
---
土地を四種類へ。
一。
居住地。
現在住む世帯の占有を優先。
元所有者がいても、即時立退きなし。
補償または持分。
二。
耕作地。
現在耕作者の労働権と、旧所有者の権利を重ねる。
一定期間、収穫分配または代替地。
三。
共同地。
村と難民共同体の共同管理。
牧草。
井戸。
道。
墓。
四。
戦略地。
橋、倉庫、街道。
公有化。
灰冠回廊を防ぐ。
「公が奪う?」
救済会。
「補償を」
「誰へ」
正当権利者。
「複数」
「だから」
---
最も難しい。
ルーナの家。
旧アンネシュカ畑。
判決案。
家はルーナ家の居住権。
永久ではない。
世襲可能。
土地売却は、アンネシュカ家と共同委員会へ先買権。
アンネシュカ家には、旧所有権を《地分権》として記録。
何を得る。
別の公領畑一反半。
共同麦倉持分。
土地売却時の一部。
「自分の土地なのに、別の土地?」
アンネシュカ。
「今の家を壊さないため」
「ルーナは」
「救済債務の正当分を」
「私も税を二重に」
「還付」
「銀は」
「公とヴァディム男爵」
男爵。
顔。
「私が?」
「二重付与と不正没収」
個人財産。
「家が」
「新館を」
「先祖の」
「五年前です」
---
ヴァディム男爵の責任。
戦時没収の不正。
救済会との利益契約。
境界石拡大。
土地管理料流用。
地方領主権停止。
財産四割凍結。
「反逆では」
「灰冠へ道を売った」
大公側。
「署名は」
「利益契約あり」
ディートリヒと違う。
「土地回廊を」
「知っていた?」
暗号書簡。
《街道が一本化されれば、北西徴税権を共同で》。
「知らなかった?」
言えない。
ヴァディム。
「地域を再建するため」
「自分が徴税する?」
「秩序」
「誰の」
彼は拘束。
支持家臣。
兵。
「男爵を!」
ダニロ。
軍。
小競り合い。
だが男爵自身が命じない。
「勝てない」
現実。
---
## 十
救済債務の再計算。
元本。
実際に渡された物資。
適正価格。
当時価格。
救済時の高騰。
「冬のパンは高い」
オットー。
「救済会が買い占めて価格を上げた」
都市会計。
「一部市場」
「自分で上げた価格を難民へ」
「輸送費」
「本物」
「警備費」
「一部」
「雪守りが」
火災。
「犯罪分は除外」
「道路」
「公も使う」
「難民だけへ全額は」
「分担」
---
三百十一世帯。
平均債務三十八。
再計算。
平均十二。
「それでも払えない」
ルーナ。
「三年」
「土地担保なし」
「収穫の一割上限」
「不作なら」
「水位・収穫基準で減免」
「誰が測る」
難民。
村。
都市。
三者。
「また」
「一つより」
---
元本債権者。
正当な救済基金へ。
支払い。
灰冠犯罪関連は凍結。
不公正購入者。
購入額のみ。
アルビオンの二層償還を応用。
「外国法」
「参考」
「土地は違う」
「債務と紙を」
「分ける」
---
墓地費。
救済会が、埋葬一人銀貨半枚を請求。
「穴を掘ったのは我々」
トール。
施療所から証言。
包帯。
「布を」
「自分たちの毛布」
「救済会は木札を」
「銀貨半枚?」
「記録費」
「死者から?」
「家族債務」
全額削除。
「記録は残す」
ヨナなら。
「金は」
なし。
---
子供薬。
正当。
だが価格。
通常の八倍。
救済会が薬商を支配。
適正価格二倍まで。
「冬季輸送」
「認める」
全部ゼロにしない。
ルーナ。
娘の命。
払う。
銀貨二。
四十ではない。
---
## 十一
土地判決案が公開されると、両方が怒った。
難民。
「土地を完全所有できない!」
「五年耕した!」
「旧所有者へ持分?」
在地。
「自分の畑へ戻れない!」
「難民優先!」
「別の公領は石だらけ!」
救済会。
「債権侵害!」
地方貴族。
「領主権破壊!」
誰も満足しない。
イリヤ。
「全員が不満なら公平とは限らない」
「では」
「証拠を」
---
トール。
「土地は耕した者のものだ」
アンネシュカ。
「なら、夫が耕した年は」
「今は」
「死者を消すな」
「今の子供を追い出すな」
「追い出さないと言ってる」
「持分で、いつか」
「お前たちも売るかもしれない」
「なぜ」
「故郷へ帰れるなら」
空気。
ノルハイム。
帰る。
「帰りたい?」
ルーナ。
答えない。
海氷。
家。
父母。
墓。
「帰れると思う?」
アンネシュカ。
「分からない」
「なら土地を」
「帰るかもしれない人は、土地を持てない?」
「違う」
「そう聞こえる」
---
在地村の若者。
「難民は五年で家を得た。我々は領主の土地を借りている」
核心。
難民対在地ではない。
領主制。
「なぜ難民だけ」
大公府。
「救済入植」
「我々も戦争で」
「土地改革を」
言葉。
貴族席。
ざわめく。
難民土地問題が、在地農奴の土地問題へ。
灰冠は狙っていた?
分裂。
同時に。
正当な要求。
「共同地の一部を、在地無地農へ」
「誰の土地」
男爵凍結地。
「大公が」
「補償」
「犯罪財産から」
変化。
---
## 十二
最終判決の日。
春分。
契約上の移転日。
夜明け。
雪守り百人が、境界石へ集まった。
停止令四十日は続いている。
だが救済会は主張。
《所有権は期限到来と同時に自動移転。執行停止は立退きだけ》
法の穴。
境界石へ灰色旗。
「土地は救済会所有となった!」
オットーではない。
本部から来た特別執行官。
エーリヒ・ザール。
黒い手袋。
男。
「判決前に」
ダニロ。
「契約どおり」
「大公令が」
「所有権移転を明示的に止めていない」
文面。
《土地執行、立退き、売却、抵当実行を停止》。
自動移転は執行か。
「違う」
救済会。
「詭弁」
「契約」
「旗を下ろせ」
「新所有者の表示」
雪守り。
槍。
公兵。
難民。
在地農民。
両方。
今度は同じ側?
完全ではない。
「土地を救済会へ渡すな!」
在地。
「我々の土地でもある!」
難民。
境界石。
---
特別執行官が文書を読む。
「期限到来」
鐘。
春分。
「移転完了」
その瞬間。
三畝法廷の鐘。
判決。
同時。
「土地保全契約の土地移転条項を停止」
イリヤ法官。
「後から」
「春分日の日の出前に採決済み」
「公表は今」
「成立は」
時刻。
証人。
水時計。
夜明け前。
「偽造」
「七席」
投票。
五対二。
反対。
救済会。
地方諸侯。
「大公承認」
印。
「移転は」
無効。
救済会弁護士。
「国際法廷へ」
「どうぞ」
---
雪守りの一人が旗を下ろさない。
「本部命令!」
指揮官。
「武器を」
ダニロ。
「契約地を守れ!」
槍。
誰が最初。
黒柳の再来。
トール。
包帯。
斧なし。
「下がれ!」
難民へ。
アンネシュカ。
村人へ。
「鍬を置け!」
二人。
昨夜まで争った。
今。
「土地は我々で争う!」
アンネシュカ。
「お前たちに渡さない!」
救済会へ。
ルーナ。
「争う?」
「後で!」
人々。
農具を下げる者。
一部。
雪守り。
契約。
給金。
「退けば、我々は」
指揮官。
「職を失う」
ダニロ。
「武器を置けば、拘束後に審査」
「給金は」
「凍結資産から未払分」
「信じろと」
「三部名簿」
アルビオンの水兵制度。
「家族は」
「人質にしない」
「犯罪命令者と従属者を分ける」
世界がつながる。
雪守り。
一人。
槍を置く。
二人。
十人。
指揮官は。
置かない。
特別執行官エーリヒ。
「反乱だ!」
「誰の国で」
イリヤ。
「外国商会が土地へ兵を」
「警備員です」
「槍を持つ百人は」
「合法」
「今から、私設武装団の土地執行を禁止」
大公令。
「遡及」
「今後です」
「今?」
「今後に含まれる」
法の言葉を返す。
指揮官。
槍を下げる。
戦闘なし。
黒柳の二十四人が、次の死者を止めた。
---
## 十三
最終判決。
第一。
灰冠救済会への土地自動移転条項は、不公正救済契約として無効。
第二。
救済債務そのものは全否定しない。
再計算後、正当分のみ。
土地と住居を担保にしない。
第三。
現在居住者を、少なくとも三年間立ち退かせない。
その間に個別土地調整。
第四。
戦前所有者の権利を消さない。
返還可能地。
代替地。
共同持分。
補償。
三つから選択。
「元の土地を絶対返せと」
一部。
「家がある場合」
「家を壊す選択も、現在居住者と合意なら」
「合意しない」
「なら代替」
完全ではない。
第五。
共同牧草地と井戸を復元。
難民・在地同数管理。
第六。
街道、橋、倉庫、排水路は公有。
救済会の回廊化を禁止。
第七。
墓地は、土地所有権から分離。
売却・抵当不可。
「死者の土地」
「共同保全」
第八。
ヴァディム男爵領の一部を、在地無地農と代替地へ。
家の領地。
縮小。
第九。
雪守りを解散。
希望者は、公的道路警備または農地復旧労働へ。
武器審査。
第十。
境界石。
灰冠雪片印を削らない。
証拠として残す。
その横へ。
四つの印。
旧権利。
現耕作。
共同地。
公路。
「石が読めない」
農民。
色。
白。
緑。
青。
黒。
「冬に消える」
高い柱。
「邪魔」
「地図も」
複数。
---
## 十四
ルーナとアンネシュカは、選択を迫られた。
旧畑。
家。
代替地。
共同持分。
アンネシュカ。
「元の二反」
「家を」
「壊さない」
「なら」
「地分権」
毎年、ルーナ家の収穫から一部?
それでは地代。
難民が嫌う。
「代替地を」
石の多い公領。
「耕すのに三年」
「男爵凍結財産から牛と工具」
「夫の土地では」
「はい」
アンネシュカ。
沈黙。
「名を」
「旧権利地図へ」
「紙だけ」
「石にも」
白印。
彼女の家名。
「ルーナの家の前へ?」
「境界外の記憶石」
「毎日見る」
「嫌?」
ルーナ。
「少し」
「かなり?」
「かなり」
「私も」
二人。
「でも、壊すより」
アンネシュカ。
代替地を選ぶ。
旧権利は記録。
売却時の先買権は放棄。
代わりに共同麦倉持分。
「なぜ放棄」
「子供たちが、また争う」
「あなたの孫は」
「ミラは、石の下を見た」
「アルネは」
「一緒に」
二人。
---
ルーナ。
救済債務。
元四十二。
再計算。
銀貨七。
「七でも」
「三年」
「収穫一割」
「払う」
「生活困難時」
「減免」
「土地所有は」
居住地。
家族地。
耕作地。
共同持分付き。
完全私有ではない。
売却制限。
「自分の土地?」
アルネ。
「分からない」
ルーナ。
「住める?」
「はい」
「耕せる?」
「はい」
「なら」
「帰れるかは」
ノルハイム。
「帰りたい?」
アルネ。
「覚えてない」
「私は」
海。
雪。
「覚えている」
「ここは」
「ここも」
二つ。
故郷は一つでなくなる。
---
## 十五
ペタルへの判決は、土地判決とは別だった。
契約欺罔。
強制的指印。
債務操作。
難民薬品と契約の抱き合わせ。
灰冠計画協力。
ただし。
黒雪放火計画を途中で告発。
捕縛後、帳簿解読。
減刑。
「死刑を」
被害者の一部。
「生かして全契約を」
法廷。
最終。
十八年の拘禁・土地記録労働。
最初の六年は監視下で契約再読。
その後、審査。
「自分が押させた指印を」
ルーナ。
「全部?」
「三百十一」
「ほかの地域も」
「千以上」
「生きている間に」
「やります」
「約束?」
「努力します」
「それだけ」
「守れる」
ペタル。
彼は土地を持たない。
家も。
記録の中。
---
オットー・ヘルマン。
現地執行官。
火災への直接関与なし。
だが雪守り制度。
不公正債務執行。
境界石。
職務停止。
国外退去ではなく、裁判中滞在。
「帰国させれば」
「逃亡」
資産。
家族はセレスタ。
「人質に」
「しない」
「本人を」
保釈金。
公開。
---
特別執行官エーリヒ。
私設武装執行。
偽の自動移転宣言。
拘束。
黒い手袋。
リヴィアとの関係。
「会った?」
「一度」
「どこ」
「ケルン・ロック」
アルビオン自由港。
「土地証書を」
《聖ブリジット》。
「彼女は」
「土地が帰らない者は、国も帰らないと」
「何を意味」
「難民を帰す船が来る」
広間。
「何」
「ノルハイム海岸評議会が、避難民帰還事業を」
「故郷が」
「再建中」
「誰が支配」
「北海諸領主連合」
「灰冠が」
「船を融資」
「条件」
「ヴェリグラードの土地権放棄」
ルーナ。
顔。
「帰れば、土地を」
「救済会へ譲渡」
「船賃は」
「帰還後の労働債務」
また。
---
## 十六
判決から七日後。
凍河の西港へ、六隻の船が入った。
春の海氷を割って。
船体。
白。
帆。
青い十字。
ノルハイム旧王国の旗に似る。
違う。
中央に黒い雪片。
《故郷帰還船団》。
岸壁。
ノルハイム難民が集まる。
五年ぶりに聞く船歌。
故郷の言葉。
「ノルハイムへ帰れます!」
船団使節。
「北湾は再建されました!」
「農地を提供!」
「家屋木材!」
「故郷の教会!」
「墓!」
老人。
泣く。
若者。
知らない。
---
条件書。
第一。
ヴェリグラードで得た土地権を放棄。
第二。
救済債務は、帰還労働契約へ移行。
第三。
帰還後五年間、港湾・林業・鉱山で指定労働。
第四。
移動の自由は債務完済後。
第五。
家族単位。
「また同じ」
ルーナ。
「故郷です」
使節。
ノルハイム人。
本物。
彼自身も帰還者。
「私は戻った」
「自由?」
「働いている」
「選べる?」
「故郷のため」
「選べる?」
長い。
「契約中です」
「出られない?」
「必要はない」
忠誠。
---
船には、ノルハイムの土が小袋で積まれていた。
「故郷の土を」
人々。
手。
匂い。
海。
松。
本物か。
誰も。
「帰りたい」
ソルヴェイグ。
老女。
「私は、あそこで死にたい」
「ここに墓が」
「夫は向こう」
「子はここ」
二つ。
「どちら」
「体を二つにできない」
---
トール。
火傷。
「帰らない」
「なぜ」
「鍛冶場を作った」
「故郷の鉄が」
「灰冠の鉱山で」
「それでも」
ルーナ。
「分からない」
アルネ。
「僕は行かない」
「故郷を」
「ここが」
妹。
ノルハイム語を話せない。
家族が割れる。
---
アンネシュカ。
難民へ。
「帰るなら、土地を」
言いかける。
止める。
「何」
ルーナ。
「帰るなら、土地を返せと?」
「前なら」
「今は」
「灰冠へ渡る」
「はい」
「なら帰るな?」
「それを私が」
二人。
「帰りたいなら」
アンネシュカ。
「土地を灰冠へ渡さず帰れ」
「契約が」
「また法廷へ」
疲労。
「いつまで」
「死ぬまで」
土地。
約束。
---
## 十七
大公ムスティスラフ二世は、帰還船団の出港を禁止しなかった。
「難民を留める権利はない」
諸侯。
「土地を持って帰る?」
「土地は持てない」
「権利放棄を」
「強制契約なら無効」
「本人が」
「自由意思?」
空腹。
故郷。
自由。
「全員へ説明期間」
二十日。
船団が反発。
「潮が」
「次の月」
「船費」
「誰が」
「船団」
「帰還者へ転嫁するな」
「契約では」
「停止」
「また」
---
帰還説明会。
三言語。
ノルハイム。
ヴェリグラード。
商業語。
契約を一文ずつ。
ペタルも監視下で。
「この条文は」
「移動制限」
「故郷内です」
船団。
「故郷でも牢は牢」
トール。
「指定労働は」
「再建」
「賃金」
「債務控除後」
「手元へ」
「食糧券」
「銀は」
「完済後」
同じ。
---
帰還希望。
三百十一世帯中。
最初。
百四十。
説明後。
九十二。
家族内不一致。
四十七。
「家族単位だから」
夫が帰りたい。
妻が。
親が。
子が。
「誰に従う」
「戸主」
船団。
女性たち。
怒り。
「家族単位条項を無効」
大公府。
「ノルハイム法では」
「ここで契約する」
「戸主が」
「個人意思」
子供。
年齢。
「十五以上」
アルネ。
選べる。
妹。
母に。
家族が分裂する。
「船は、家族を分けないため」
「だから一人が全員を」
「違う」
---
ソルヴェイグ。
一人で帰る。
「老女を」
船団。
「労働できない」
「故郷へ帰す船でしょう」
「再建契約対象外」
「では乗れない?」
「扶養家族として」
「誰の」
家族は死んだ。
「保証人」
いない。
故郷へ帰したいと言いながら、働けない者は乗せない。
「帰還ではない」
ルーナ。
「労働船」
船団。
「国を再建するには」
「正直に旗へ書け」
---
## 十八
船団の本当の積荷が見つかったのは、港の子供が船底へ落ちたからだった。
アルネではない。
港の少年。
船荷の隙間。
木箱。
《北方土地証書》。
ヴェリグラードの難民地。
家族名。
帰還契約に署名すれば、自動譲渡。
船団は、土地を集めるために来た。
帰還者を運ぶ。
同時に。
ヴェリグラードの街道回廊を完成。
「故郷と土地を交換」
ダニロ。
「本人の選択」
船団代表。
「故郷を値札に」
「土地は二つ持てない」
「なぜ」
「不在者が」
「売れる」
「灰冠へだけ?」
優先譲渡条項。
「船費の担保」
同じ。
---
船団代表を拘束するか。
「帰還を止める」
難民が暴動。
「船を!」
「故郷へ!」
「灰冠でも!」
人。
絶望。
「契約を知っても帰りたい」
ソルヴェイグ。
「はい」
「なら」
ルーナ。
「止められない」
「でも土地を」
「私には要らない」
「灰冠へ」
「死ぬ場所を買う」
老女。
土地権。
彼女の入植地。
小さな家。
墓。
「それでも」
「何が自由か、あなたが決めないで」
ルーナ。
黙る。
空腹は自由か。
故郷への渇きは。
---
解決。
帰還希望者は行ける。
ただし。
土地権を灰冠へ譲渡しない。
共同土地基金へ返す。
旧所有者・現在共同体・無地農へ。
船賃。
個人労働債務ではなく、ノルハイム海岸評議会とヴェリグラードの国家間清算。
「国が払う?」
「上限」
「誰の税」
「帰還者の土地持分を基金へ」
灰冠ではなく。
「船団が拒否」
「なら、別船を」
「ない」
「アルビオンは財政難」
「セレスタ」
「運賃」
「オルシャ」
遠い。
時間。
---
帰還者自身が船を雇う案。
難民共同体。
土地持分の一部。
売却。
誰へ。
ヴェリグラード公有基金。
銀がない。
債券。
「また紙」
「土地を灰冠へ渡すより」
不確実。
帰還は延期。
ソルヴェイグ。
「私は次の冬まで生きない」
「今の船へ」
「契約が」
「私だけ」
個別。
彼女には土地権がない。
共同家屋。
労働義務なしの老齢帰還。
船団は拒否。
「利益が」
言わない。
大公。
「ソルヴェイグ一人を乗せない船を、帰還船と認めない」
「全船を」
「出港許可」
交渉。
最終。
老齢者十二名。
孤児四名。
労働契約なし。
人道枠。
残り帰還者。
契約再交渉。
「十二名のために」
船団。
「名を」
ソルヴェイグ。
「数ではなく」
---
## 十九
ソルヴェイグが船へ乗る日。
難民集落。
在地村。
両方。
見送り。
彼女はヴェリグラードの土を小袋へ。
「ノルハイムの土を持ってきたのに」
アルネ。
「向こうへ、ここの土を」
「なぜ」
「子供がここにいる」
墓。
「帰るのに」
「置いていくものを持つ」
彼女。
「故郷は」
「一つではなくなった」
---
ルーナ。
「向こうで、家を」
「残っていれば」
「なければ」
「土へ座る」
「契約を」
「読みます」
「読める?」
「ペタルに教わった」
老女。
笑う。
「遅い」
「生きている」
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船。
青い十字。
黒い雪片は、港の規則で覆われた。
完全に外さない。
証拠。
ソルヴェイグ。
甲板。
手。
船は海へ。
帰る。
本当に故郷へ着くか。
分からない。
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帰還希望九十二世帯。
最終。
三十一世帯が、再交渉後に出発を選ぶ。
土地権。
共同基金へ。
家族個人意思。
労働契約。
三年上限。
賃金半分以上現金。
移動制限なし。
「ノルハイム側が」
「受ける?」
海岸評議会。
灰冠融資を失う。
一部拒否。
船団二隻だけ。
残る四隻は出港。
空で?
灰冠の別港へ。
土地証書を取れなかった。
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ルーナは残る。
アルネ。
妹。
家。
アンネシュカは代替地へ石を運ぶ。
トールは鍛冶場。
火傷。
ミラは境界記録の見習い。
子供たちが石の下を見る。
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## 二十
土地判決から一年後。
三百十一世帯。
残留。
二百六十八。
帰還。
三十一。
他地域移住。
十二。
救済債務。
平均七から。
支払済み。
一部。
不作。
減免。
在地代替地。
整備。
遅い。
アンネシュカの畑。
石。
多い。
ルーナとアルネが、排水路を手伝う。
「なぜ」
アンネシュカ。
「借りが」
「殴られた借り?」
「止められた」
「息子を助けたのはトール」
「私が止めなければ、あなたも」
「はい」
「なら」
一緒に石。
「ここは私の土地」
アンネシュカ。
「はい」
「手伝っても、あなたの持分は」
「要りません」
「紙へ」
「書く?」
「書きましょう」
笑い。
小さい。
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共同境界石。
白。
緑。
青。
黒。
子供が色を塗る。
雪で消える。
春にまた。
毎年塗る。
「面倒」
アルネ。
「土地が毎年、誰のものか」
ミラ。
「確認する」
王と同じ。
毎日。
毎年。
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ヴァディム男爵の新館は、土地記録学校になった。
皮肉。
男爵本人は拘禁。
家族の一部は残る。
「家族を罰するな」
だが館は犯罪利益。
没収。
子供たちは、契約を読む。
ノルハイム語。
ヴェリグラード語。
商業語。
三つ。
《五年耕せば》
次。
《債務完済を条件に》
省かない。
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ペタルは学校の地下記録室で働く。
監視。
指印。
一枚ずつ。
「この人は」
死亡。
「この家族は」
帰還。
「この債務は」
削除。
「この土地は」
共同。
彼が作った契約を、彼が解く。
全ては戻らない。
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## 二十一
灰冠自由会議は、《帰れない土地計画》を次のように評価した。
《土地保全証による三百十一世帯一括取得、未達》
《北方街道回廊形成、未達》
《難民・在地農民衝突、達成》
《共同種麦倉火災、達成》
《死者二十四名、達成》
《大公による全契約無効化、未達》
《救済債務の一部償還、限定成功》
《私設雪守り解散、損失》
《ヴァディム男爵権限喪失、損失》
《帰還船団による土地権回収、限定》
《ノルハイム労働力獲得、限定》
《土地権・債権分離制度、敵制度強化》
無貌。
「また分けられた」
鴉筆。
「土地と借金」
「昔の権利と今の家」
「故郷と居住地」
「分けるほど」
「契約で一つにできない」
「次は」
地図。
北方街道。
回廊は失敗。
だが。
帰還した三十一世帯。
ノルハイム海岸。
灰冠融資。
「帰還者は、向こうで」
「新しい労働契約」
「再交渉された」
「現地領主が守る?」
「分からない」
「ソルヴェイグは」
「到着前に死んだ」
船上。
故郷を目前に。
「遺体は」
「ノルハイム湾へ水葬」
「土を」
ヴェリグラードの土袋。
一緒に。
「帰れた?」
誰も。
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黒雪。
「土地計画は失敗した」
「なら次は」
「土地を取るのではなく」
「人を帰す?」
「違う」
北方の海。
氷。
ノルハイム沿岸。
古い王国。
王家は滅び。
諸領主連合。
帰還者。
在地生存者。
灰冠融資。
「故郷へ帰った者に」
「誰が本当のノルハイム人かを選ばせる」
「帰還者と残留者」
「五年外にいた者は裏切り者と」
「残った者は灰冠協力者と」
「国を作る?」
「王のいない国へ」
王が多すぎる場所。
今度は王がいない。
「冠を」
古いノルハイム王冠。
海へ沈んだと。
「見つかった?」
黒雪は箱。
海藻。
錆。
銀。
王冠の一部。
「本物か」
「人々が信じれば」
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## 二十二
春の終わり。
ヴェリグラードへ、一通の手紙が届いた。
ノルハイム湾。
帰還船団。
差出人。
ソルヴェイグではない。
船員。
《彼女は岸を見る前に息を引き取った》
《最後に、二つの土袋を持っていた》
《一つはノルハイム》
《一つはヴェリグラード》
《どちらへ埋めるか尋ねた》
《彼女は答えられなかった》
《そのため、二つを混ぜて海へ撒いた》
ルーナ。
読む。
「勝手に」
「遺言は」
「なかった」
「海へ」
「はい」
アルネ。
「どちらにも帰った?」
ルーナ。
「どちらにも、帰れなかった」
「同じ?」
「分からない」
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手紙の末尾。
別の文。
《帰還者の間で、旧王冠発見の噂があります》
《海岸諸侯は、王を立てようとしています》
《灰冠救済会が、王冠鑑定費を負担しています》
《帰還者には、王を選ぶ投票権を与えると言われました》
《ただし、労働契約を完済した者だけです》
土地。
債務。
今度は王位。
「また」
ルーナ。
「帰った人が」
「投票を買う?」
アルネ。
「労働で」
「僕たちは」
「ノルハイム人?」
少年。
ヴェリグラード語。
ノルハイムの血。
「誰が決める」
ルーナ。
「私たち?」
「向こうの人?」
「王冠?」
黒い雪。
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境界石の色塗りをしていたミラが、遠くから叫ぶ。
「ルーナ!」
「何」
「緑が足りない!」
現在耕作地の色。
「倉庫に」
「ない!」
「青を混ぜて」
「違う色になる!」
「少しなら」
「記録と違う!」
ルーナ。
笑う。
「買いに行きます」
「今?」
「今日」
土地は待つ。
色は消える。
毎年塗る。
それでも。
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帰れない土地とは、戻る場所がない土地ではない。
誰かが戻れば、別の誰かが追い出される土地。
昔の名前と今の家が、同じ土の上で重なる土地。
死者が所有し。
生者が耕し。
債権者が値を付け。
子供が境界石の裏を覗く土地。
そこへ、完全な答えはない。
あるのは。
誰を追い出さなかったか。
誰の名を消さなかったか。
誰の借金を、誰の土地へ変えなかったか。
その記録だけだった。
ヴェリグラードでは、難民と在地農民が同じ境界石へ色を塗り直した。
ノルハイムでは、海から引き上げられた古い王冠が、灰冠救済会の机へ置かれていた。
土地を失った者たちへ、今度は王を与えるために。
王冠が本物かどうかより先に。
誰が、その王冠を必要としているかを問う者はいなかった。
まだ。
書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?
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死ぬ気でがんばれ
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可能な範囲でがんばれ
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そんなに急ぐこたーないぞ