灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第三十一章 海から上がった王冠

海は、沈んだものを返すことがある。

 

死体。

 

船板。

 

樽。

 

手紙。

 

誰かの靴。

 

返す時期を、海は説明しない。

 

昨日まで沈めていたものを、王が死んだ日に返す。

 

戦争が終わった後で、戦争の証拠を浜へ押し上げる。

 

相続人が全員死んでから、財宝箱を網へ掛ける。

 

だから人は、海が意志を持つと考える。

 

海が王を選んだ。

 

海が罪を告発した。

 

海が故郷を返した。

 

本当は、潮と風と腐食が動いただけかもしれない。

 

だが意味を必要とする人間にとって、偶然はいつも説明不足だった。

 

ノルハイム北湾で王冠が引き上げられたのは、帰還船団が港へ着いた翌朝だった。

 

王冠は、海から上がった。

 

その瞬間から、誰のものでもない銀の輪が、国全体の未来を決める道具になった。

 

---

 

## 一

 

王冠を引き上げたのは、漁師の姉弟だった。

 

姉。

 

アストリッド・クヌーツダッテル。

 

四十一歳。

 

夫と長男を黒雪の冬に失った。

 

避難船には乗らず、ノルハイム沿岸へ残った者。

 

残留住民の共同配給所を運営し、氷海の漁船を五隻まとめていた。

 

弟。

 

ビョルン・クヌーツソン。

 

三十四歳。

 

右目を海賊の矢で失っている。

 

二人の網に掛かったのは、魚ではなかった。

 

最初は、沈没船の肋材だと思った。

 

黒い木。

 

海藻。

 

錆びた鉄。

 

その奥に銀色の曲線。

 

「杯か」

 

ビョルン。

 

「大きすぎる」

 

アストリッド。

 

網を切らずに引く。

 

船が傾く。

 

「捨てろ」

 

「待って」

 

海藻の下。

 

銀輪。

 

尖った装飾。

 

白い鹿。

 

九つの波。

 

「王冠だ」

 

若い船員。

 

「馬鹿を言うな」

 

「白鹿王冠!」

 

伝説。

 

ノルハイム最後の統一王、オーラヴ六世が戴冠したとされる王冠。

 

七十四年前、王位内戦で王船が沈んだ際、海へ消えた。

 

それ以来、ノルハイムには統一王がいない。

 

沿岸諸侯。

 

都市。

 

修道院領。

 

漁民共同体。

 

それぞれが自分の法で暮らしてきた。

 

「触るな」

 

アストリッド。

 

「もう触ってる」

 

ビョルン。

 

「港へ戻す」

 

「隠す?」

 

船員。

 

「なぜ」

 

「諸侯が」

 

「救済会が」

 

「帰還者が」

 

全員。

 

王冠を必要とする。

 

「海へ戻す?」

 

ビョルン。

 

アストリッドは銀輪を見る。

 

海藻。

 

小さな貝。

 

「見つけたことを、もう五人が知っている」

 

「六人」

 

「港へ」

 

秘密は、人数ではなく時間で腐る。

 

---

 

港へ着く前に、王冠発見の噂は岸へ届いた。

 

見張り船が信号旗を見誤った。

 

《大型漂流物》

 

を、

 

《王船の遺物》

 

と読み。

 

港鐘が三度鳴った。

 

三度は、古い王家の遺物発見を示す鐘だった。

 

誰がその規則を覚えていたのか。

 

教会鐘守の老人。

 

本人も驚いていた。

 

「昔の符号だ」

 

「なぜ鳴らした」

 

「旗が」

 

「王冠とは」

 

「まだ」

 

遅い。

 

人々が港へ。

 

残留住民。

 

帰還者。

 

沿岸諸侯の兵。

 

灰冠救済会。

 

世界樹信仰の祭司。

 

ノルハイム旧王家の旗。

 

何十年も使われなかった白鹿旗が、倉庫から出される。

 

王冠が岸へ着いた時には。

 

既に王国復活を叫ぶ者がいた。

 

---

 

## 二

 

「誰にも渡さない」

 

アストリッド。

 

船上。

 

岸壁。

 

「発見物は、海岸領主の所有だ」

 

北湾領主ホーコン・ヴァルグソン。

 

五十二歳。

 

大柄。

 

毛皮。

 

胸に古い銀鎖。

 

沿岸諸侯の中で最も多くの船と兵を持つ。

 

黒雪の冬も、港を閉じなかった。

 

ただし、避難民一人につき銀貨一枚の入港税を取った。

 

払えない者は港外の氷上宿営地へ。

 

多くが死んだ。

 

彼は言う。

 

「あれは秩序を守るためだった」

 

他人は言う。

 

「死者から門銭を取った」

 

「この湾は我が領地だ」

 

ホーコン。

 

「海は?」

 

アストリッド。

 

「湾内は」

 

「魚も?」

 

「漁税を払う」

 

「王冠も魚?」

 

岸壁の漁師が笑う。

 

兵は笑わない。

 

---

 

灰冠救済会の北湾代表。

 

エヴァ・セルク。

 

三十七歳。

 

金色に近い淡い髪。

 

黒ではなく白い手袋。

 

自らを《王冠保全官》と名乗った。

 

「遺物は、専門保全が必要です」

 

「誰が任命した」

 

アストリッド。

 

「北方海岸評議会」

 

「救済会の金で作った評議会?」

 

「諸都市、領主、帰還者代表も」

 

「残った漁民は?」

 

「港共同体代表が一席」

 

「誰」

 

「ホーコン領主の港代官」

 

アストリッド。

 

笑わない。

 

「渡さない」

 

---

 

帰還者の群衆から、若い男が前へ出た。

 

ヨルン・オーラフソン。

 

二十三歳。

 

母とともに十歳でセレスタへ逃れた。

 

父は、最後のノルハイム王家の傍系に連なると主張していた。

 

証明書。

 

家系図。

 

修道院洗礼簿。

 

セレスタ公証印。

 

彼自身は読み書きに優れ。

 

商業語。

 

ノルハイム語。

 

ヴェリグラード語。

 

一灯教西方聖冠派と世界樹信仰の両方の儀礼を知っている。

 

帰還者の一部は、彼を《白鹿公子》と呼ぶ。

 

「王冠は、王家のものです」

 

ヨルン。

 

「王家は滅びた」

 

アストリッド。

 

「完全には」

 

「あなたが王?」

 

「まだ、言っていません」

 

「言ってほしい顔だ」

 

群衆。

 

「ヨルン王!」

 

誰か。

 

彼は止めない。

 

止める時機を計っているようにも見える。

 

「私は、王冠の公開鑑定を求めます」

 

「その費用は」

 

エヴァ。

 

「救済会が負担します」

 

アストリッド。

 

「だから最初からいる」

 

---

 

王冠は、岸壁の上で三者に囲まれた。

 

領主。

 

救済会。

 

帰還王族。

 

発見者。

 

そして、群衆。

 

「港倉庫へ」

 

ホーコン。

 

「漁民会館へ」

 

アストリッド。

 

「王家礼拝堂へ」

 

ヨルン。

 

「保全所へ」

 

エヴァ。

 

四つ。

 

「海へ戻せ!」

 

一人。

 

群衆が笑う。

 

だがアストリッドは、その案を一瞬考えた。

 

海は、所有権を主張しない。

 

少なくとも文書では。

 

---

 

## 三

 

王冠は、九つの鍵を使う仮保管箱へ入れられた。

 

その案を出したのは、ヴェリグラード使節として到着したダニロ公子だった。

 

帰還者の土地権問題を調査するため、ルーナとアルネを伴ってノルハイムへ来ていた。

 

土地判決の後、帰還した三十一世帯の状況。

 

労働契約。

 

土地権放棄。

 

船団。

 

その確認。

 

「王冠の話は任務外です」

 

ダニロ。

 

「でも、巻き込まれた」

 

同行した老法官イリヤ。

 

「いつものことです」

 

九鍵。

 

発見者。

 

港共同体。

 

帰還者。

 

残留住民。

 

沿岸諸侯。

 

祭司団。

 

海岸評議会。

 

外国監査。

 

債権者。

 

「債権者?」

 

ルーナ。

 

エヴァ。

 

「王冠保全費用を負担する機関です」

 

「まだ一枚も払っていない」

 

「鑑定費を」

 

「王冠へ鍵を持つほど?」

 

「費用負担者には」

 

「王冠を買う?」

 

「守る」

 

「鍵は」

 

イリヤ。

 

「投票権ではなく、箱の開閉だけ」

 

「それでも」

 

「一つでは開かない」

 

最終。

 

救済会鍵は、単独の債権者ではなく《資金提供機関共同鍵》。

 

監査付き。

 

---

 

箱は港中央の《櫂の館》へ。

 

昔、九つの湾の船長が冬の航路を決めた場所。

 

王宮ではない。

 

礼拝堂でもない。

 

領主館でもない。

 

「魚臭い」

 

ヨルンの側近。

 

アストリッド。

 

「海から上がった王冠には、ちょうどよい」

 

---

 

王冠を箱へ入れる前。

 

全員の前で記録。

 

銀輪。

 

重さ。

 

欠損。

 

海藻。

 

貝。

 

刻印。

 

写真はない。

 

絵師六人。

 

別々に。

 

寸法。

 

糸。

 

型。

 

「貝を取る?」

 

保全官。

 

「証拠」

 

「塩が腐食を」

 

「一部採取し、残す」

 

「どこまで」

 

「三分の一」

 

「誰が」

 

「三者」

 

細かい。

 

箱が閉じるまで、夜になった。

 

九本の鍵。

 

一つ目。

 

二つ目。

 

最後。

 

アストリッド。

 

発見者鍵。

 

回す。

 

「これで王冠は」

 

群衆。

 

「誰のもの?」

 

アルネ。

 

小さく。

 

ルーナ。

 

「箱の中のもの」

 

---

 

## 四

 

王冠鑑定会は、七日後に始まった。

 

専門家。

 

銀工。

 

古文書官。

 

祭司。

 

海難船大工。

 

宝石商。

 

王家史官。

 

そして、灰冠救済会が雇ったセレスタの鑑定師。

 

パオロ・デ・セルヴァ。

 

五十九歳。

 

指が細い。

 

片耳に銀環。

 

「王冠は本物です」

 

最初の日。

 

早い。

 

「まだ開けたばかり」

 

アストリッド。

 

「銀の純度、意匠、腐食、刻印」

 

「全部?」

 

「主要部分」

 

「本物とは」

 

イリヤ。

 

「白鹿王冠として?」

 

「少なくとも、王家工房の十三世紀様式」

 

この世界の暦表現 maybe "灰暦七百年代様式". Use local.

 

「灰暦七百年代初頭の工房」

 

「オーラヴ六世の?」

 

「可能性が高い」

 

「全部?」

 

「下輪は」

 

下輪。

 

頭に触れる銀の帯。

 

白鹿。

 

九波。

 

「上部の弧は」

 

「後代補修」

 

「いつ」

 

鑑定師。

 

「腐食が浅い」

 

「何年」

 

「五年以内」

 

広間。

 

「五年?」

 

帰還船団。

 

黒雪。

 

「宝石台も」

 

「新しい」

 

「宝石は」

 

空。

 

抜かれている。

 

「元から?」

 

「台は新設」

 

「誰が」

 

「分かりません」

 

---

 

王冠は、一部本物。

 

一部新しい。

 

古い銀輪へ、新しい王冠の形を足した。

 

「なら偽物」

 

アストリッド。

 

「王冠の本体は下輪です」

 

ヨルン側史官。

 

「上弧は儀礼装飾」

 

「都合がよい」

 

「歴代修理は」

 

「五年前の修理を、誰が」

 

「海中で?」

 

銀工。

 

「海から上げ、修理し、また沈めた」

 

群衆。

 

「今回が最初の発見ではない」

 

イリヤ。

 

王冠は以前に回収されていた。

 

修理。

 

再投入。

 

「海が返したのでは」

 

アルネ。

 

「誰かが、海へ置いた」

 

---

 

貝の種類。

 

北湾浅瀬のもの。

 

付着期間。

 

銀工では。

 

海洋修道士。

 

「一年から三年」

 

「七十四年では」

 

「下輪内部の黒い腐食は古い」

 

「長く海中にあった後、引き上げられ」

 

「再び」

 

「はい」

 

「どこで修理」

 

銀の成分。

 

アルカシャ銀。

 

新しい弧。

 

「アルカシャ産」

 

救済会の輸入記録。

 

「北方再建用聖器銀」

 

五年前。

 

購入者。

 

《白鹿文化保全基金》。

 

実所有。

 

灰冠救済会。

 

エヴァ・セルク。

 

「文化財修復です」

 

「王冠を見つけていた?」

 

「前任者が」

 

「報告は」

 

「真偽不明だったため」

 

「修理して海へ戻した?」

 

「記録がありません」

 

「知らなかった?」

 

「はい」

 

ルーナ。

 

小さく。

 

「また」

 

---

 

## 五

 

王冠の内側には、文字が刻まれていた。

 

海藻と黒錆を除くと。

 

古ノルハイム語。

 

《九つの火が同じ夜に燃える時、王は海より来る》

 

帰還者。

 

歓声。

 

「予言!」

 

「王が!」

 

ヨルン。

 

黙る。

 

表情。

 

期待。

 

だが古文書官が止める。

 

「刻みが新しい」

 

「何」

 

「文字の溝に古い腐食がない」

 

「いつ」

 

「弧と同じ頃」

 

偽の古文。

 

「内容は」

 

世界樹祭司長ビルギッタ。

 

六十六歳。

 

「古い戴冠歌に似ています」

 

「本物?」

 

「歌は」

 

《九つの炉が同じ夜に消えぬ時、冬の船を出せ》

 

王ではない。

 

海より来るでもない。

 

船団出航の歌。

 

言葉を変えた。

 

「九つの火」

 

投票。

 

九湾。

 

王。

 

「灰冠は、歌を」

 

ヨナなら言う。

 

本物の素材に偽の意味を。

 

---

 

ヨルンが初めて、明確に言う。

 

「この文字を根拠に、王位を求めません」

 

帰還者が。

 

「公子!」

 

「王家の血は」

 

「王冠が本物でも」

 

「陛下と!」

 

「呼ぶな」

 

強く。

 

一部は失望。

 

一部は、彼が慎重だからこそ王にと。

 

「王になりたくない者こそ」

 

危険な言葉。

 

---

 

ホーコン領主。

 

「予言が偽でも、王冠下輪は本物」

 

「だから王を?」

 

アストリッド。

 

「国を統一する」

 

「誰が王」

 

「九湾諸侯が選ぶ」

 

「あなたを?」

 

「候補の一人」

 

正直。

 

「漁民は」

 

「領主を通じて」

 

「帰還者は」

 

「土地を持つ者を通じて」

 

「土地のない者は」

 

「家長を通じて」

 

「女は」

 

「家の代表が」

 

アストリッド。

 

笑う。

 

「王国を統一する前に、港を百年前へ戻す?」

 

---

 

エヴァ・セルクは別の案を。

 

《王冠選挙登録令》。

 

投票権。

 

第一。

 

ノルハイムに土地を持つ成年者。

 

第二。

 

帰還労働債務を完済した帰還者。

 

第三。

 

救済債務を完済した残留世帯代表。

 

第四。

 

沿岸都市税を三年以上払った商人。

 

「債務を完済した者だけ?」

 

ルーナ。

 

「国へ責任を果たした者」

 

「土地を失った難民は」

 

「帰還後に労働を」

 

「残った貧民は」

 

「救済費を」

 

「払えない者は、王を選べない?」

 

「債務を負う者は、他人の資産を」

 

「王は資産?」

 

「国家は」

 

「借金のない者だけが国民?」

 

エヴァ。

 

「投票は権利であると同時に資格です」

 

---

 

試算。

 

有権者。

 

沿岸諸侯と家臣。

 

二千。

 

都市商人。

 

千二百。

 

債務完済帰還者。

 

百八十。

 

残留漁民・農民。

 

完済世帯代表。

 

四百。

 

人口。

 

十数万。

 

「四千人で王を?」

 

アストリッド。

 

「歴史的基準より広い」

 

「誰の歴史」

 

「王家法」

 

「王家がない時代を生きた人は」

 

「暫定」

 

「王冠だけ昔へ戻して、人だけ借金で選ぶ」

 

ルーナ。

 

---

 

## 六

 

帰還者の中でも意見は割れた。

 

五年外にいた者。

 

十年。

 

二十年。

 

セレスタで商人になった者。

 

ヴェリグラードで畑を得た者。

 

オルシャで巡礼宿を営む者。

 

「戻ったのだから投票を」

 

「土地を捨てていない者は」

 

「二つの国を」

 

「故郷は一つ」

 

「税はどこへ」

 

「血は」

 

「血で王を選ぶ?」

 

ヨルン支持者。

 

「公子は王家」

 

別。

 

「王家が我々を守ったか」

 

最後の王は、内戦で船を沈めた。

 

「王がいなかったから黒雪を」

 

「諸侯が港を閉じた」

 

「王がいれば」

 

「王も税を」

 

---

 

残留住民。

 

「逃げた者が戻り、王を選ぶ?」

 

「逃げなければ死んだ」

 

「我々は残った」

 

「残ったから港や家を」

 

「我々の家は焼けた」

 

「帰還者は外国の金を」

 

「残留者は灰冠救済を」

 

両方。

 

---

 

アストリッドは、櫂の館で残留住民集会を開いた。

 

「王が必要か」

 

最初。

 

「先に?」

 

「王冠があるからと」

 

漁師。

 

「海賊を止める王が」

 

「船が必要」

 

「諸侯をまとめる王」

 

「諸侯が王を選ぶなら、同じ」

 

「税を統一」

 

商人。

 

「今は湾ごとに」

 

「王税が増える」

 

「裁判を」

 

未亡人。

 

「領主の家臣でなく」

 

「王の法官も王の家臣」

 

「では何が」

 

「九湾会議」

 

「王なし?」

 

「代表」

 

「遅い」

 

どこでも。

 

「海賊は待たない」

 

「だから船長会議はある」

 

「戦争は」

 

「王が始めることも」

 

結論なし。

 

「それを記録」

 

---

 

## 七

 

ルーナとアルネは、帰還者登録所へ行った。

 

「投票登録ですか」

 

書記。

 

「確認です」

 

ルーナ。

 

「ノルハイム出身」

 

「はい」

 

「帰還契約完済」

 

「帰還していません」

 

「ヴェリグラード居住?」

 

「はい」

 

「土地所有」

 

「共同持分」

 

「なら、外国居住者」

 

「ノルハイム人では?」

 

「血統登録は」

 

「あります」

 

「投票資格は居住または完済帰還者」

 

「帰らなければ選べない?」

 

「当然です」

 

「帰還契約へ署名すれば」

 

「労働完済後」

 

三年。

 

「その間に王が」

 

「選ばれます」

 

「王を選ぶために帰り、労働しろと」

 

「国を再建する者が」

 

「私たちはヴェリグラードでも再建しました」

 

「他国です」

 

アルネ。

 

「僕はどこの人」

 

書記。

 

困る。

 

「母親と同じ」

 

「母さんは」

 

「ノルハイム生まれ」

 

「でも投票できない」

 

「条件が」

 

「じゃあ、僕は条件の国の人?」

 

周囲。

 

笑わない。

 

---

 

登録所の横。

 

救済債務清算窓口。

 

「銀貨九枚で完済証」

 

帰還者。

 

「払えば今日登録」

 

「払えなければ」

 

「投票後」

 

銀を持つ者。

 

投票権を買う。

 

直接ではない。

 

債務を払う。

 

「灰冠が貸付を」

 

《市民資格貸付》。

 

「借金を返すため借金」

 

土地と同じ。

 

「新貸付は投票後返済」

 

「担保」

 

将来の漁業権。

 

労働。

 

「王を選ぶ権利に利子」

 

ルーナ。

 

---

 

## 八

 

王冠候補は三人に絞られた。

 

まだ選挙は正式決定していない。

 

だが市場は先に動く。

 

第一。

 

ホーコン・ヴァルグソン領主。

 

沿岸諸侯。

 

海軍。

 

残留保守派。

 

主張。

 

《強い王、統一税、共同艦隊》

 

第二。

 

ヨルン・オーラフソン。

 

帰還者。

 

都市商人。

 

王家復古派。

 

主張。

 

《法による王、外国信用、帰還者の国籍回復》

 

第三。

 

アストリッド・クヌーツダッテル。

 

本人は立候補を否定。

 

漁民。

 

未亡人。

 

残留共同体。

 

一部難民。

 

主張。

 

《王を急がない、九湾会議を先に》

 

「候補ではない」

 

彼女。

 

「名前が」

 

「消せ」

 

「支持者名簿を」

 

「私の支持者では」

 

「王にならない者へ投票?」

 

「抗議票」

 

「それが選ばれたら」

 

「受けない」

 

「王冠を拒む王」

 

市場の歌。

 

彼女は怒る。

 

---

 

灰冠救済会は、三候補それぞれへ別の融資案を出した。

 

ホーコンへ。

 

共同艦隊建造資金。

 

担保。

 

北湾通行税。

 

ヨルンへ。

 

王宮再建、外国承認使節費。

 

担保。

 

王室領と帰還者登録料。

 

アストリッドへ。

 

漁民共同基金。

 

担保。

 

水揚げ税。

 

「私は候補では」

 

「支持者が」

 

エヴァ。

 

「選ばれた場合へ備える」

 

「受けない」

 

「漁船修理は」

 

必要。

 

黒雪で損傷。

 

「別の金を」

 

「どこから」

 

アストリッド。

 

答えない。

 

---

 

ホーコンは融資案を保留。

 

ヨルンは公開審査へ提出。

 

アストリッドは紙を港広場へ貼る。

 

三者。

 

対応が性格になる。

 

灰冠は候補を選ばない。

 

借り方を選ばせる。

 

---

 

## 九

 

王冠の下輪を調べるうち、銀工が小さな継ぎ目を見つけた。

 

内側。

 

白鹿の首の下。

 

「開く」

 

「壊すな」

 

「元から」

 

薄い蓋。

 

九鍵の立会い。

 

開ける。

 

中。

 

巻かれた銀箔。

 

古い。

 

文字。

 

腐食。

 

今度は新刻ではない。

 

《この輪を沈めよ》

 

広間。

 

「何」

 

続き。

 

《九湾が王の名で互いの船を焼いたため》

 

《次に王冠を上げる者は、王を選ぶ前に、九つの湾へ九つの問いを送れ》

 

《誰が飢えているか》

 

《誰が税を二度払ったか》

 

《誰が戦へ行き戻らないか》

 

《誰が港から締め出されたか》

 

《誰の墓が海にあるか》

 

《誰の言葉が法へ書かれないか》

 

残り。

 

腐食。

 

読めない。

 

「誰が書いた」

 

古文書官。

 

「最後の王妃スヴァラの書式に似る」

 

「本物?」

 

「銀箔の年代は下輪と同じ可能性」

 

「王妃が王冠を」

 

伝説。

 

王船沈没。

 

事故。

 

実際は。

 

「沈めた?」

 

アストリッド。

 

「内戦を止めるため」

 

祭司長。

 

「王冠を隠した」

 

「では、上げるなと?」

 

「問いを送れと」

 

九つ。

 

全部は読めない。

 

「都合のよい文」

 

ホーコン。

 

「王を選ぶ前に会議を、と」

 

アストリッド側。

 

「本物でも」

 

ヨルン。

 

「死者の命令です」

 

ユースフの封書。

 

「従う必要は?」

 

「王家の遺言」

 

「王家を復活させる根拠にしながら、王妃の言葉を無視?」

 

ホーコン。

 

「質問を送ることと、選挙は両立」

 

「いつ」

 

「一月」

 

「九湾すべて?」

 

「代表を」

 

「答えが来る前に?」

 

「海賊は」

 

また。

 

---

 

銀箔の発見は、選挙延期派を強くした。

 

同時に。

 

灰冠は別の紙を撒く。

 

《王冠を沈めた王妃は反逆者》

 

《女が王統を断った》

 

《漁民女アストリッドは、再び王冠を海へ捨てる》

 

残留保守派。

 

怒り。

 

「王妃は国を滅ぼした!」

 

「王がいなかった七十年!」

 

別。

 

《王妃は諸侯の戦争を止めた》

 

《王冠を上げるな》

 

二つ。

 

---

 

## 十

 

九つの問いを送ることが決まった。

 

完全な古文は六問。

 

残り三問は。

 

勝手に作る?

 

「欠けたまま」

 

アストリッド。

 

「九問と言うのに六つ」

 

「新しい三つを」

 

ヨルン。

 

「誰が」

 

「今の人々」

 

「古い王妃と混ぜる?」

 

「分けて記録」

 

イリヤ。

 

六つは銀箔文。

 

三つは現代追加。

 

公開。

 

候補案。

 

ホーコン。

 

《誰が海を守るか》

 

ヨルン。

 

《誰が国外へ追われたか》

 

アストリッド。

 

《誰が王を必要としているか》

 

最後。

 

「王を必要としていない者も」

 

「答える」

 

採用。

 

九問。

 

---

 

九湾へ使者。

 

一つの使節ではない。

 

各湾から一人ずつ。

 

男女。

 

帰還者。

 

残留者。

 

領主家臣。

 

漁民。

 

商人。

 

祭司。

 

「選ぶ基準」

 

抽選?

 

代表選挙?

 

時間。

 

「各湾が」

 

「領主が」

 

「共同集会」

 

「集会がない湾は」

 

「作る」

 

「遅い」

 

「王より先」

 

---

 

ルーナとアルネは、第七湾への外国居住ノルハイム人証人として同行。

 

「外国人?」

 

アルネ。

 

「ノルハイム人」

 

「ヴェリグラード居住者」

 

「両方」

 

「役職名が長い」

 

「短く」

 

《外に住む者》。

 

「追放者と」

 

「帰還しなかった者も」

 

「違う」

 

「全部入れる?」

 

最終。

 

《外ノルハイム人証人》。

 

奇妙。

 

---

 

## 十一

 

九湾への問いは、王冠より多くのものを引き上げた。

 

第一湾。

 

誰が飢えているか。

 

漁民の未亡人。

 

冬の配給帳簿に名がない孤児。

 

救済会倉庫の魚が、債務者へ高値で売られている。

 

第二湾。

 

誰が税を二度払ったか。

 

領主税。

 

救済復旧税。

 

帰還者港税。

 

同じ網へ三つ。

 

第三湾。

 

誰が戦へ行き戻らないか。

 

沿岸兵。

 

私掠船。

 

灰冠護衛。

 

名簿なし。

 

第四湾。

 

誰が港から締め出されたか。

 

黒雪の避難民。

 

入港税未払。

 

死者。

 

ホーコン領。

 

「過去です」

 

ホーコン。

 

「問いは過去も」

 

第五湾。

 

誰の墓が海にあるか。

 

名前のない水葬者。

 

ソルヴェイグ。

 

二つの土。

 

第六湾。

 

誰の言葉が法へ書かれないか。

 

古ノルハイム語しか話せない老人。

 

帰還二世。

 

女性戸主。

 

隷属漁夫。

 

第七湾。

 

誰が海を守るか。

 

領主艦隊。

 

漁民見張り。

 

女性の船団。

 

借金で武装した救済会船。

 

第八湾。

 

誰が国外へ追われたか。

 

帰還者。

 

政治亡命者。

 

債務逃亡者。

 

海賊化した水兵。

 

第九湾。

 

誰が王を必要としているか。

 

答え。

 

ばらばら。

 

---

 

第九湾は、最も貧しい岩島。

 

住民三百。

 

領主なし。

 

冬は、船長会議で暮らす。

 

「王は必要か」

 

使者。

 

老人。

 

「医師が必要」

 

若者。

 

「橋が」

 

「海賊へ船が」

 

「裁判官」

 

「王でなくても」

 

「誰が金を」

 

「王?」

 

「税を取る」

 

「では」

 

「必要かもしれない」

 

結論。

 

《王そのものより、王がすると言われる仕事が必要》

 

この答えが港へ届く。

 

アストリッド派。

 

歓声。

 

ホーコン派。

 

「王がその仕事を」

 

ヨルン派。

 

「法で」

 

全員、自分へ。

 

---

 

## 十二

 

九湾使節が戻るまでの二十六日間。

 

灰冠は、債務完済証の買い集めを進めた。

 

投票権が正式決定していないのに。

 

「完済すれば、市民登録へ有利」

 

噂。

 

救済会は否定しない。

 

完済資金貸付。

 

土地。

 

漁船。

 

労働。

 

「誰が借りた」

 

帰還者。

 

残留者。

 

合わせて二千世帯。

 

「投票がなければ」

 

「市民資格は残る」

 

「何の」

 

「新王国の」

 

まだない国。

 

---

 

ヨルン・オーラフソンの支持団体、《白鹿帰還会》も貸付を。

 

救済会より低利。

 

資金源。

 

セレスタ商人。

 

「外国が」

 

アストリッド。

 

「帰還者の募金」

 

「三割」

 

「残り」

 

「王国復活債券」

 

「王国はまだ」

 

「将来」

 

即位債券。

 

ユースフ。

 

同じ。

 

「王になれば返す?」

 

ヨルン。

 

「私個人の即位を条件にしていません」

 

「新王国が」

 

「はい」

 

「誰が王でも借金」

 

「国を作る前に借金」

 

ヨルン。

 

止まる。

 

「公開しました」

 

「公開すれば正しい?」

 

「隠すより」

 

「止める?」

 

「帰還者の完済が」

 

「投票を買うため?」

 

「投票資格案に反対します」

 

「でも完済を助ける」

 

「債務は消すべき」

 

「貸付で?」

 

矛盾。

 

「無償基金へ」

 

「足りない」

 

「なら」

 

彼も。

 

---

 

ホーコンは、自領民の救済債務を一括で肩代わりした。

 

銀貨三万。

 

「寛大な領主!」

 

支持者。

 

条件。

 

今後五年間、港税収から返済。

 

結局領民。

 

さらに。

 

完済証は領主家金庫で保管。

 

「本人へ」

 

「紛失防止」

 

「投票証明に」

 

「領主がまとめて」

 

「一票ずつ?」

 

「家長が」

 

ホーコンの票田。

 

---

 

アストリッドは、借金を払わない。

 

「投票できなくなる」

 

支持者。

 

「借金で資格を買えば、制度を認める」

 

「なら負ける」

 

「選挙へ出ない」

 

「あなたが出なくても、ホーコンが」

 

「だから、選挙を急がせない」

 

「王が」

 

「九湾会議を」

 

「遅い」

 

「知ってる」

 

---

 

## 十三

 

九湾使節が戻った日。

 

櫂の館で、王冠箱が開けられた。

 

九鍵。

 

銀箔。

 

答書。

 

一湾ごと。

 

読み上げ。

 

延べ三千人以上の名。

 

要望。

 

苦情。

 

税。

 

墓。

 

港。

 

「全部読めば三日」

 

「要約を」

 

「誰が」

 

各湾代表。

 

本人。

 

三日。

 

王冠選挙を求める者は、一日で終えたい。

 

問いの答えは、三日かかる。

 

---

 

三日目。

 

最後。

 

《誰が王を必要としているか》。

 

回答。

 

《領主は、ほかの領主へ命令できる王を必要とする》

 

ホーコン席。

 

《商人は、税を一つにする王を必要とする》

 

ヨルン支持商人。

 

《帰還者は、自分たちを再びノルハイム人と呼ぶ王を必要とする》

 

帰還者。

 

《残留者は、逃げた者より自分たちを先に数える王を必要とする》

 

残留。

 

《債権者は、契約へ国印を押す王を必要とする》

 

救済会。

 

《貧民は、王でなくパンを必要とする》

 

群衆。

 

《死者は、王を必要としているか答えない》

 

静か。

 

《子供は、王がいなくても生まれた》

 

アルネが書いた答え。

 

第七湾外ノルハイム人証人。

 

「お前が?」

 

ルーナ。

 

「みんなに聞いて」

 

「最後は」

 

「僕」

 

---

 

イリヤ法官。

 

「王冠を上げる前の問いは、終わりました」

 

「なら選挙を」

 

ホーコン。

 

「誰が投票するか」

 

「債務完済」

 

エヴァ。

 

「否決を」

 

アストリッド。

 

「何で」

 

「九湾全住民会議」

 

「投票資格を決める投票資格は」

 

ヨルン。

 

「成人住民と、登録帰還者」

 

「外国居住者は」

 

ルーナ。

 

「どうする」

 

「国籍を」

 

まだ国がない。

 

---

 

## 十四

 

投票権会議。

 

最初の争点。

 

債務。

 

「債務完済を条件にしない」

 

アストリッド案。

 

「国へ義務を」

 

救済会。

 

「債権者へ払うことが国への義務?」

 

「救済費」

 

「犯罪利子も」

 

「再審済み分だけ」

 

「払えない者は」

 

「段階」

 

「なら貧困で投票を」

 

「財産資格は歴史的」

 

「歴史が正しい?」

 

---

 

ヨルン案。

 

居住者。

 

帰還者。

 

国外居住者。

 

三群。

 

成人一人一票。

 

ただし国外居住者は、帰還意思または国内税負担を登録。

 

「税を払えば」

 

「国へ関係」

 

「貧しい国外者は」

 

「帰還意思」

 

「口だけ」

 

「血統証明」

 

「書類がない」

 

「証人」

 

複雑。

 

---

 

ホーコン案。

 

九湾ごとに百票。

 

人口にかかわらず。

 

領主。

 

都市。

 

漁民。

 

帰還者。

 

四部会。

 

「小湾と大港が同じ?」

 

「湾の平等」

 

「領主がいない湾は」

 

「船長会議」

 

「帰還者が少ない湾は」

 

「最低席」

 

連邦。

 

---

 

アストリッド案。

 

まず王を選ばず、《九湾暫定会》を一年。

 

王冠は封印。

 

一年後に王が必要か再投票。

 

「一年?」

 

海軍派。

 

「海賊は」

 

「共同艦隊を会が」

 

「指揮は」

 

「輪番」

 

「戦場で」

 

「提督を選ぶ」

 

「王でなく」

 

「提督が反乱」

 

「王も」

 

終わらない。

 

---

 

ルーナ。

 

「国外に土地を持つ私が、ノルハイム王を選べるべきか分かりません」

 

帰還者。

 

驚く。

 

「あなたは難民代表」

 

「ヴェリグラードで家を」

 

「故郷を捨てた?」

 

「いいえ」

 

「なら」

 

「二つの場所に責任がある」

 

「票を半分?」

 

アルネ。

 

「人を半分に」

 

「できない」

 

ユースフの半分の王。

 

同じ。

 

---

 

イリヤ。

 

「投票を一種類にしない」

 

提案。

 

第一。

 

国内統治制度。

 

現在居住者。

 

第二。

 

帰還・国籍制度。

 

帰還者、国外共同体。

 

第三。

 

王冠を誰が被るか。

 

一と二の制度成立後。

 

「分ける」

 

灰冠が嫌う。

 

「王を選ぶ前に、国を」

 

「王が国を作る」

 

ホーコン。

 

「国が王を作る」

 

アストリッド。

 

「王冠が」

 

ヨルン。

 

「王冠は箱の中です」

 

イリヤ。

 

---

 

## 十五

 

会議六日目。

 

王冠が盗まれた。

 

九鍵箱。

 

鍵は全部。

 

箱も。

 

壊れていない。

 

朝。

 

開ける。

 

中。

 

空。

 

銀箔も。

 

「誰が」

 

九鍵。

 

全員が疑われる。

 

同時に開けなければ。

 

箱の底。

 

薄い板。

 

秘密の抜き口。

 

櫂の館の床下。

 

海へつながる古い荷下ろし溝。

 

「箱を置く場所を知る者」

 

港共同体。

 

「箱を作った者」

 

救済会資金。

 

「設計は」

 

ホーコン領の木工。

 

「鍵は意味がなかった?」

 

アルネ。

 

「箱の裏を見なかった」

 

ミラなら。

 

「一つでは開かないが」

 

ルーナ。

 

「下から取れた」

 

制度の外。

 

---

 

港。

 

封鎖。

 

船。

 

王冠は重い。

 

陸路?

 

市場。

 

噂。

 

《ホーコンが戴冠》

 

《ヨルンが王冠を王家礼拝堂へ》

 

《アストリッドが海へ戻した》

 

三つ。

 

群衆。

 

それぞれへ。

 

「また鏡」

 

ルーナ。

 

---

 

ホーコン邸へ群衆。

 

領主兵。

 

ヨルン礼拝堂へ。

 

帰還者。

 

漁民会館へ。

 

アストリッド。

 

「私が捨てたと?」

 

「前に」

 

「考えただけ」

 

「知ってる者は」

 

船上の五人。

 

一人。

 

灰冠救済会の貸付を受けた。

 

「言った?」

 

「酒場で」

 

噂の種。

 

---

 

王冠保全官エヴァ。

 

「救済会保全所を捜索してよい」

 

自信。

 

何もない。

 

「白い手袋を」

 

アストリッド。

 

「何」

 

「外せ」

 

「なぜ」

 

「黒い手袋の女を」

 

「私は違う」

 

「外せ」

 

手。

 

普通。

 

指先に銀黒。

 

鑑定作業。

 

「王冠を」

 

「触れました」

 

「いつ」

 

九鍵立会い。

 

「それ以外」

 

「ない」

 

---

 

床下溝。

 

海。

 

足跡。

 

小舟。

 

夜。

 

潮。

 

見張り。

 

港の少年が一隻を。

 

《白鹿帰還会》の小舟。

 

ヨルン。

 

「私では」

 

船管理者。

 

失踪。

 

名。

 

フレデリク・オール。

 

帰還者。

 

債務完済貸付。

 

救済会。

 

「ヨルン派と灰冠」

 

結びつける。

 

彼の部屋。

 

手紙。

 

《王冠を王家へ返せば、家族債務を免除》

 

「本人は」

 

海で死体。

 

矢。

 

ノルハイム式。

 

船は。

 

漂流。

 

王冠なし。

 

実行者を殺し。

 

王冠を別へ。

 

---

 

## 十六

 

王冠盗難の目的は、戴冠ではなかった。

 

三日後。

 

九湾すべてへ、王冠の銀片が送られた。

 

九片。

 

白鹿の下輪を切ったように見える。

 

文書。

 

《王冠は九湾へ返された》

 

《各湾は、自らの王を選べ》

 

《統一王冠は、諸侯と債権者の道具である》

 

アストリッド派の思想に似る。

 

「私たちではない」

 

「でも言っていた」

 

「王を急ぐなと、王冠を切れは違う」

 

銀片。

 

本物?

 

鑑定。

 

新しい弧の銀。

 

アルカシャ産。

 

「偽部品」

 

王冠下輪はまだ。

 

「九片は、新設部分」

 

「なら本体は」

 

盗難者が、本物と偽物を知っている。

 

鑑定会内部。

 

「救済会」

 

視線。

 

エヴァ。

 

「鑑定師パオロ」

 

所在。

 

失踪。

 

部屋。

 

血。

 

少量。

 

生存?

 

---

 

銀箔の写しも同封。

 

一部改変。

 

《王を選ぶ前に》

 

が、

 

《王を選ぶな》

 

へ。

 

一字。

 

「本物の言葉を」

 

ヨルン。

 

「自分の主張へ」

 

「あなたたちも」

 

アストリッド。

 

王家復活へ。

 

互い。

 

---

 

ホーコン。

 

「王冠が盗まれた今こそ、王を選ぶ」

 

「何を被せる」

 

「新しく作る」

 

「なら古王冠は不要だった」

 

「象徴は、人が」

 

言う。

 

「本物でなくても?」

 

「国が認めれば」

 

灰冠の論理。

 

ホーコン自身。

 

止まる。

 

---

 

ヨルン。

 

「王冠なしに王を選べば、王家復活の意味が」

 

支持者。

 

「公子が本物」

 

「私は王冠ではない」

 

「血が」

 

「血も、記録が」

 

一部は公証写し。

 

原本。

 

ノルハイム修道院。

 

戦火で。

 

「あなたも半分本物?」

 

アストリッド。

 

厳しい。

 

ヨルン。

 

「はい」

 

正直。

 

---

 

## 十七

 

王冠は、港ではなく海上にあった。

 

《黒い鯨》と呼ばれる救済会の倉庫船。

 

北湾沖。

 

出港記録。

 

小麦運搬。

 

船底に二重倉庫。

 

情報を持ち込んだのは、エヴァ・セルク自身だった。

 

「なぜ」

 

ダニロ。

 

「救済会本部が、私を切りました」

 

「知らなかった?」

 

「箱の設計は知りませんでした」

 

「王冠再沈下は」

 

「記録で知った」

 

「いつ」

 

「鑑定後」

 

「なぜ黙った」

 

「組織を守るため」

 

「今は」

 

「私が責任者にされる」

 

「だから?」

 

「はい」

 

自己保身。

 

証言。

 

「それだけ」

 

ルーナ。

 

「組織が王冠を使って国を債務化する」

 

「前から」

 

「知っていた?」

 

「市民資格貸付は、私が承認しました」

 

「では」

 

「王冠盗難は、北方資産保全部」

 

「エーリヒと同じ」

 

「上部」

 

「リヴィアは」

 

「一度、白い鴎亭で」

 

「指示」

 

「《冠は被せる前に、分けて売れ》」

 

「意味」

 

「各候補へ別の正統性証書を」

 

王冠本体。

 

銀箔。

 

鑑定書。

 

古王家系図。

 

別々。

 

ホーコンへ王冠。

 

ヨルンへ系図。

 

アストリッド派へ銀箔。

 

三者。

 

戦争。

 

「黒い鯨は」

 

「今夜、北へ」

 

「止める」

 

---

 

共同拿捕隊。

 

港漁船。

 

領主船。

 

帰還者船。

 

ヴェリグラード監視船。

 

四者。

 

王冠を追うため、初めて同じ船列。

 

指揮。

 

誰。

 

ホーコン。

 

「最大艦隊」

 

アストリッド。

 

「湾を知る」

 

ヨルン。

 

「中立指揮を」

 

ダニロ。

 

外国。

 

「ノルハイムの海」

 

最終。

 

三指揮。

 

航路。

 

アストリッド。

 

戦闘。

 

ホーコン。

 

交渉・記録。

 

ヨルン。

 

「私は海戦を」

 

「王になりたいなら」

 

「まだ」

 

「なら書け」

 

---

 

《黒い鯨》は逃げない。

 

沖。

 

待つ。

 

「罠」

 

アストリッド。

 

船体。

 

重い。

 

周囲。

 

小舟。

 

火船。

 

「近づけば」

 

黒煙。

 

油。

 

王冠を焼けない。

 

銀。

 

だが文書。

 

「乗り込めば火」

 

ホーコン。

 

「遠くから」

 

「船を沈めれば」

 

王冠は海へ。

 

また。

 

「交渉」

 

ヨルン。

 

旗。

 

《王冠と記録の引渡しを要求》

 

返答。

 

《正当所有者を示せ》

 

誰。

 

「九鍵会」

 

「箱を守れなかった」

 

「海岸評議会」

 

「救済会が作った」

 

「王家」

 

「未確定」

 

「発見者」

 

アストリッド。

 

「私」

 

全員。

 

彼女を見る。

 

「海で私の網に」

 

「王冠は国の」

 

「国がまだ」

 

「なら発見物」

 

海岸法。

 

王冠が遺失財産なら。

 

発見者権。

 

「私へ返せ」

 

アストリッドが旗。

 

《発見者として引渡しを要求》

 

《王冠を被らないことを誓うか》

 

「誓う」

 

《海へ戻さないか》

 

「それは」

 

「誓え」

 

ホーコン。

 

「今は戻さない」

 

条件。

 

《発見者へ一時返還》

 

《九湾会議まで》

 

交渉。

 

黒い鯨の本当の目的。

 

発見者を所有者に。

 

ほかを怒らせる。

 

「受ければ」

 

ヨルン。

 

「アストリッドが王冠を」

 

「受けなければ」

 

「燃やす」

 

「文書を」

 

「乗り込む」

 

---

 

火船。

 

動く。

 

四方。

 

小舟に油藁。

 

無人。

 

風。

 

拿捕隊へ。

 

「散開!」

 

アストリッド。

 

「王冠船を」

 

ホーコン。

 

「先に火船!」

 

分裂。

 

三指揮。

 

「漁船は火船を曳け!」

 

アストリッド。

 

「領主艦は黒い鯨へ!」

 

ホーコン。

 

「帰還者船は救助待機!」

 

ヨルン。

 

役割。

 

三つ。

 

機能する。

 

漁師は火船へ鉤。

 

領主艦は矢の外。

 

帰還者船は、水へ落ちた者。

 

---

 

《黒い鯨》乗員が、船倉へ火を。

 

煙。

 

「文書が!」

 

ヨルン。

 

「人が先!」

 

アストリッド。

 

「王冠を!」

 

ホーコン。

 

三人。

 

別。

 

全て。

 

拿捕。

 

衝突。

 

死者。

 

救済会護衛十一。

 

拿捕隊七。

 

負傷三十。

 

《黒い鯨》船長。

 

自害を試み。

 

止める。

 

王冠。

 

二重倉庫。

 

下輪。

 

無事。

 

銀箔原本。

 

無事。

 

新弧。

 

既に切断。

 

九片。

 

鑑定書。

 

三種類。

 

候補ごとに異なる結論。

 

ホーコン用。

 

《王冠は諸侯選挙王制の証》

 

ヨルン用。

 

《王家血統復活の証》

 

アストリッド用。

 

《王妃による王制停止の証》

 

同じ資料。

 

三解釈。

 

売る準備。

 

---

 

## 十八

 

王冠は再び櫂の館へ戻った。

 

今度は箱へ入れなかった。

 

天井から吊るした。

 

透明ではない。

 

網。

 

漁網。

 

銀輪。

 

九本の綱。

 

各鍵守が一本。

 

一つを切っても落ちない。

 

下から抜けない。

 

「魚みたい」

 

ビョルン。

 

「海から来た」

 

アストリッド。

 

「王冠を網へ」

 

ホーコン。

 

不満。

 

「屈辱だ」

 

「人を網に掛けるより」

 

ヨルン。

 

少し笑う。

 

---

 

王冠盗難により、即時選挙案は崩れた。

 

債務完済投票案。

 

救済会関与。

 

違法貸付。

 

否決。

 

九湾暫定会。

 

一年。

 

成立。

 

ただし完全な王なしでは、諸侯が拒む。

 

妥協。

 

《北湾守護会議》。

 

九湾各二席。

 

残留住民一。

 

帰還者一。

 

沿岸諸侯九席。

 

都市九席。

 

祭司三席。

 

国外ノルハイム人三席。

 

合計三十九。

 

「多い」

 

「王一人より」

 

「遅い」

 

「海軍指揮は」

 

別。

 

《共同海務長》。

 

任期四十日。

 

戦時延長は会議承認。

 

最初。

 

ホーコン。

 

「結局」

 

アストリッド。

 

「船を持つ」

 

「監査を」

 

帰還者船長。

 

漁民代表。

 

都市会計。

 

三者。

 

---

 

ヨルン。

 

役職なし?

 

帰還・国籍法の起草席。

 

「王家公子を」

 

支持者。

 

「法を書ける」

 

「王に」

 

「今は」

 

「いつ」

 

「一年後」

 

「必ず選挙?」

 

会議。

 

「王が必要かを再決定」

 

「王冠が」

 

「網に」

 

---

 

アストリッド。

 

九湾会議議長へ推薦。

 

「受けない」

 

「なぜ」

 

「漁船が」

 

「輪番議長」

 

最初四十日。

 

「一人で命令しない」

 

「受ける」

 

王にならない女が、最初の会議を。

 

---

 

投票権。

 

債務に関係なく。

 

現在居住成人。

 

帰還登録者。

 

国外共同体代表。

 

ただし制度投票と王位投票を分ける。

 

王位投票は一年後に再設計。

 

「外ノルハイム人は一人一票?」

 

「共同体代表」

 

ルーナ。

 

「不公平?」

 

「分からない」

 

「受ける?」

 

「暫定」

 

全て。

 

---

 

## 十九

 

エヴァ・セルクの裁判。

 

市民資格貸付。

 

王冠保全不正。

 

情報秘匿。

 

ただし王冠回収協力。

 

「救済会の上部を」

 

名。

 

《北方資産保全部》。

 

《文化保全基金》。

 

《王冠安定委員会》。

 

責任者。

 

複数。

 

一人は死亡。

 

一人はセレスタ。

 

一人はノルハイム内。

 

「リヴィアは」

 

「外部調整者」

 

「本名」

 

「知らない」

 

「何を望む」

 

「王国を作り、最初から債務を」

 

「王へ貸す」

 

「国民へ投票資格を貸す」

 

「港へ艦隊費を」

 

「全て」

 

国が生まれる前に、国の債権者になる。

 

「あなたは」

 

「それが安定だと」

 

「今も?」

 

「一部は」

 

正直。

 

「金がなければ艦隊も」

 

「だから誰が決める」

 

「会議は遅い」

 

「王は」

 

「借金する」

 

「救済会へ」

 

「はい」

 

---

 

刑。

 

王冠盗難の共犯ではない。

 

秘匿。

 

不公正貸付。

 

政治資格取引。

 

七年の職務禁止。

 

財産凍結。

 

公開証言。

 

ノルハイムから即時追放はしない。

 

「なぜ」

 

「上部経路」

 

「保護」

 

「優遇」

 

「監視」

 

本人。

 

「私は帰る場所を」

 

「セレスタ」

 

「組織が」

 

「消す?」

 

「可能性」

 

「なら」

 

「証人保護」

 

家族。

 

なし。

 

「私は、国を作ろうと」

 

「債務で」

 

「ほかに方法が」

 

アストリッド。

 

「魚を捕る者が、網へ借金しなくても船団を作った」

 

「小さい」

 

「国も最初は小さい」

 

---

 

王冠鑑定師パオロ。

 

黒い鯨で発見。

 

拘束。

 

三鑑定書を作成。

 

「どれが真実」

 

「全て、解釈可能」

 

「依頼者ごとに」

 

「求められた問いへ」

 

「結論を売った」

 

「鑑定です」

 

「王冠の年代は」

 

「下輪は古い。弧は新しい。銀箔は古い可能性が高い」

 

「それだけ?」

 

「はい」

 

「最初から、そう書けば」

 

「誰も高い金を」

 

「国が割れなかった」

 

「鑑定師は国を」

 

「割るつもりは」

 

「知っていた」

 

「はい」

 

刑。

 

専門職永久停止。

 

五年拘禁。

 

公開鑑定教育。

 

「知識を」

 

「使う」

 

「許しでは」

 

「ない」

 

---

 

## 二十

 

一年後まで、王冠は誰も被らないと決まった。

 

海へも戻さない。

 

網。

 

九綱。

 

櫂の館。

 

毎日、見張り。

 

見学。

 

入場料?

 

「取る」

 

都市会計。

 

「保全費」

 

「王冠で稼ぐ」

 

アストリッド。

 

「無料に」

 

「警備費」

 

「住民無料、外国人少額」

 

「帰還者は」

 

「住民登録前」

 

「無料」

 

「債権者は」

 

「倍」

 

冗談。

 

記録しない。

 

---

 

王冠の新しい弧は外され。

 

下輪だけ。

 

修復しない。

 

海藻跡。

 

傷。

 

切断痕ではない。

 

新弧接合跡。

 

「王冠として不完全」

 

ホーコン。

 

「国と同じ」

 

ヨルン。

 

「上手いことを」

 

アストリッド。

 

「商人に向いてる」

 

---

 

銀箔の九つの問いは、櫂の館の壁へ。

 

古い六問。

 

現代の三問。

 

作者を分けて。

 

《王妃スヴァラのものと推定》

 

《海務長ホーコン提案》

 

《帰還者ヨルン提案》

 

《漁民アストリッド提案》

 

個人名。

 

後世が混ぜないように。

 

---

 

アルネの言葉も、答書へ残る。

 

《子供は、王がいなくても生まれた》

 

祭司が反発。

 

「不敬」

 

「事実」

 

ルーナ。

 

「王がいない七十年」

 

「国は弱く」

 

「子供は」

 

「生まれた」

 

---

 

## 二十一

 

ルーナは、ヴェリグラードへ戻る前に海岸へ。

 

アルネ。

 

波。

 

ソルヴェイグが水葬された方向。

 

「ここ?」

 

「もっと北」

 

「海はつながってる」

 

「そう」

 

二つの土。

 

ノルハイム。

 

ヴェリグラード。

 

混ざった。

 

「母さんは帰らない?」

 

「今は」

 

「一年後、王を選ぶなら」

 

「来る?」

 

「分からない」

 

「投票を」

 

「私が?」

 

「ノルハイム人」

 

「ヴェリグラードの土地持分者」

 

「二つ」

 

「人は半分にできない」

 

アルネ。

 

自分の言葉。

 

「なら二つとも」

 

「二票?」

 

「それはずるい」

 

笑う。

 

---

 

アストリッドが二人へ。

 

「外ノルハイム人席を」

 

「私に?」

 

ルーナ。

 

「三席の一つ」

 

「帰ったら」

 

「書簡会議」

 

「遅い」

 

「王より」

 

「また」

 

「受ける?」

 

「考えます」

 

「いつ」

 

「四十日」

 

アストリッド。

 

笑う。

 

「世界中、そればかり」

 

---

 

ヨルンは港で帰還者に囲まれる。

 

「王にならない?」

 

「一年後に」

 

「候補へ」

 

「国の制度を先に」

 

「王家の責任を」

 

「王家が、王冠を海へ沈めた」

 

「王妃だけ」

 

「それも王家」

 

自分の歴史の都合よい部分だけを。

 

拒まない。

 

「候補になるかは」

 

「逃げる?」

 

「負ける準備を」

 

ユースフの兄弟の話を、セレスタで聞いている。

 

「王を選ぶ前に、負けた者の場所を作る」

 

「勝ってから」

 

「遅い」

 

---

 

ホーコンは共同海務長として、最初の命令。

 

海賊対策。

 

湾ごとの船数。

 

漁民船も。

 

「領主船が指揮」

 

アストリッド。

 

「戦闘は」

 

「救助は漁民」

 

「会計は都市」

 

「帰還者船は」

 

「北航路」

 

分ける。

 

彼は王ではない。

 

それでも海を。

 

満足か。

 

「一部」

 

「かなり?」

 

「かなり不満」

 

正直。

 

---

 

## 二十二

 

灰冠自由会議は、《海上王冠計画》を次のように記録した。

 

《白鹿王冠の回収・修復、達成》

 

《海中再投入による神話形成、達成》

 

《債務完済者限定選挙、未達》

 

《王国創設時債務固定、未達》

 

《ホーコン王擁立、未達》

 

《ヨルン王擁立、未達》

 

《アストリッド反王制運動による分裂、限定》

 

《王冠盗難、達成》

 

《三候補別鑑定書配布、未達》

 

《九湾内戦、未達》

 

《黒い鯨拿捕、損失》

 

《九湾暫定会成立、敵制度強化》

 

《王冠一年封印、政治遅延、限定成功》

 

無貌。

 

「王は生まれなかった」

 

鴉筆。

 

「国は少し生まれた」

 

「債務なしで?」

 

「債務は残る」

 

「我々への」

 

「減った」

 

「王冠は」

 

「網の中」

 

黒雪。

 

「網を切る?」

 

「今は」

 

「一年後」

 

「制度が疲れる」

 

「会議は三十九人」

 

「遅い」

 

「海賊が」

 

「ホーコンへ権限」

 

「彼が成功すれば」

 

「王を要らないと言われる」

 

「失敗すれば」

 

「王が必要と」

 

どちらでも。

 

「ヨルンは」

 

「法を作る」

 

「アストリッドは」

 

「議長」

 

「ルーナは」

 

「国外席」

 

「三人とも、王冠の外で力を」

 

「なら」

 

無貌。

 

「王冠ではなく、会議の議事録を狙う」

 

王国が一人でなく記録から生まれるなら。

 

記録を。

 

「誰が何を言ったか」

 

「一行変えるだけで」

 

「湾を」

 

「投票を」

 

「王を」

 

鴉筆。

 

「次の道具は紙?」

 

「いつも」

 

---

 

だが、黒雪は別の報告書を机へ置く。

 

南。

 

神聖エーレン帝国。

 

聖典共同翻訳委員会。

 

改革派。

 

旧教派。

 

皇帝。

 

教皇。

 

《民衆語聖典第一巻、完成》

 

「宗教か」

 

「一冊の文へ」

 

「二つの訳語」

 

《王権は神より》

 

と。

 

《権威は共同体へ委ねられる》

 

同じ古語。

 

翻訳。

 

「どちらも可能?」

 

「鑑定師なら」

 

「王冠と同じ」

 

本物の言葉。

 

異なる意味。

 

「ヨハン・アイゼンは」

 

「翻訳委員会を離脱」

 

「なぜ」

 

「自分の言葉が、皇帝派の軍税正当化へ使われた」

 

「枢機卿マルクスは」

 

今は教皇ルキウス十世。

 

「ローマに」

 

「皇帝コンラート五世は」

 

「民衆語聖典を戴冠式へ使う準備」

 

王冠。

 

言葉。

 

神。

 

「王冠が王を作れないなら」

 

黒雪。

 

「聖典に王を作らせる」

 

---

 

## 二十三

 

櫂の館の夜。

 

王冠は網に吊られている。

 

警備。

 

鐘。

 

海風。

 

アストリッドは一人で見上げる。

 

「被りたい?」

 

弟ビョルン。

 

「いいえ」

 

「一度も?」

 

「少し」

 

「かなり?」

 

「少しだけ」

 

「正直じゃない」

 

「かなり、どんな重さか知りたい」

 

「被れば」

 

「戻せなくなる」

 

銀輪。

 

宝石なし。

 

弧なし。

 

王冠というより、傷ついた帯。

 

「海へ戻す?」

 

ビョルン。

 

「今は」

 

「いつか」

 

「国が、自分で沈めると決めたら」

 

「国って誰」

 

アストリッド。

 

「それを作っている」

 

---

 

外。

 

港の子供たちが、王冠ごっこ。

 

木の輪。

 

一人が王。

 

三人が会議。

 

「王の命令!」

 

「三十九人で決める!」

 

「遅い!」

 

「海賊が来た!」

 

「ホーコンが!」

 

「アストリッドが!」

 

「ヨルンが!」

 

遊び。

 

王役の子供が、木の輪を外す。

 

「面倒だから、船長でいい」

 

大人たちは笑う。

 

---

 

海から上がった王冠は、王を選ばなかった。

 

帰還者も。

 

残留者も。

 

領主も。

 

債権者も。

 

自分こそが王冠の意味を知っていると思った。

 

だが調べれば。

 

王冠は本物で。

 

偽物で。

 

古く。

 

新しく。

 

王家の遺物で。

 

灰冠の道具だった。

 

一つの答えへはならなかった。

 

そのためノルハイムの人々は、王冠を捨てなかった。

 

誰かへ渡しもしなかった。

 

網へ入れた。

 

九本の綱で吊った。

 

王冠が国を閉じ込める前に。

 

国が王冠を閉じ込めたのである。

 

少なくとも、一年間は。

 

---

 

南の神聖エーレン帝国では。

 

新しく訳された聖典の一節が、同じ日に二種類印刷されていた。

 

皇帝派の版。

 

《すべての冠は、天より授けられる》

 

改革派の版。

 

《すべての務めは、人々より託される》

 

元の古語は、一つ。

 

印刷された意味は、二つ。

 

白鹿王冠が網へ掛けられた夜。

 

帝都では、双方の版を持つ群衆が、同じ大聖堂へ向かっていた。

 

一方は皇帝の戴冠を祝うため。

 

もう一方は。

 

王冠を神から下ろすために。

 

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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