灰冠と香路の年代記   作:MOZIO

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第三十二章 二つの聖典

言葉は、剣より軽い。

 

持ち上げるだけなら。

 

紙へ書き。

 

声に出し。

 

子供へ教える。

 

それだけなら、片手で足りる。

 

だが一つの言葉を、国中の人間が同じ意味だと信じた時。

 

それは城門より重くなる。

 

王は、その言葉で税を取る。

 

司祭は、その言葉で罪を定める。

 

反逆者は、その言葉で王を裁く。

 

兵士は、その言葉を胸に矢を放つ。

 

そして翻訳者は、ある日、自分が選んだ一語の下に、見知らぬ死体が積まれているのを見る。

 

剣を作った鍛冶師は、剣が人を殺すと知っている。

 

言葉を選んだ者は、最後まで知らないことがある。

 

自分の言葉が、誰の手へ渡ったのかを。

 

---

 

## 一

 

神聖エーレン帝国の帝都には、同じ朝に二冊の聖典が届いた。

 

どちらも青い革表紙。

 

どちらにも、一灯教聖典共同翻訳委員会の金印。

 

どちらにも、皇帝コンラート五世の出版許可印。

 

どちらにも、聖座ルミナの教理確認印。

 

紙。

 

同じ。

 

活字。

 

同じ工房製。

 

頁数。

 

一頁だけ違う。

 

第一巻。

 

『灯火と務めの書』。

 

第十二章第七節。

 

皇帝派の版。

 

《すべての冠は、唯一の灯より授けられる。ゆえに、地上の者は定められた権威に従え》

 

改革派の版。

 

《すべての務めは、唯一の灯の下で人々より託される。ゆえに、権威を担う者は共同体へ答えよ》

 

原典の古語。

 

一つ。

 

《エクソウシア・パラディドタイ・ヒュポ・フォートス》

 

《権威は、灯の下に置かれる》

 

とも。

 

《権威は、灯より引き渡される》

 

とも。

 

《務めは、灯の前で委ねられる》

 

とも読めた。

 

古代語には、冠という語も、人々という語もなかった。

 

どちらの版も、翻訳ではなく解釈を本文へ入れていた。

 

どちらの版も。

 

本物の印を持っていた。

 

---

 

帝都の北門では、皇帝派の冊子が無料で配られた。

 

表紙には黄金の冠。

 

《民衆の言葉で知る、正しい秩序》

 

配布者は帝国書記局の下級官吏。

 

兵士。

 

聖職者。

 

地主の代理人。

 

南門では、改革派の版。

 

黒い活字。

 

飾りなし。

 

《民衆の言葉で読む、託された務め》

 

職人組合。

 

学校教師。

 

印刷工。

 

農民代表。

 

二つの門から入った人々は、大聖堂へ向かった。

 

同じ聖典を掲げて。

 

違う一節を叫びながら。

 

---

 

## 二

 

皇帝コンラート五世は、二冊を並べて見た。

 

五十六歳。

 

灰色の髭。

 

右手の中指が、若い頃の戦傷で曲がっている。

 

王冠は机の上。

 

被ってはいない。

 

「どちらを、余が命じた」

 

宰相アウグスト・フォン・ラーベン。

 

「皇帝版の序文は、陛下の許可を得ています」

 

「一節は」

 

「共同翻訳委員会の最終稿と理解していました」

 

「改革版も同じ印だ」

 

「はい」

 

「では、余は二つの権威を命じたことになる」

 

「印の不正使用を」

 

「どちらが不正だ」

 

部屋。

 

誰も。

 

---

 

大司教セヴェリン。

 

帝都大聖堂の主。

 

かつて改革説教者ヨハン・アイゼンを火刑台へ送ろうとした男。

 

十三章の事件以後、公開翻訳委員会へ参加した。

 

彼は皇帝版を指す。

 

「こちらが教会の伝統に沿います」

 

「だから本物?」

 

コンラート。

 

「内容として」

 

「印は」

 

「委員会印です」

 

「改革版にも」

 

「印の濫用」

 

「そちらだけが?」

 

セヴェリン。

 

「人々から権威が託されるという文は、原典にありません」

 

宰相。

 

「冠もありません」

 

静か。

 

「冠は、権威の具体化です」

 

「人々は、共同体の具体化でしょう」

 

「同じではない」

 

「誰が決める」

 

皇帝。

 

大司教。

 

「教会が」

 

コンラートの眉。

 

「皇帝ではなく?」

 

「教理は」

 

「だが余の冠についての文だ」

 

権威をめぐる一節を、誰の権威で解釈するか。

 

最初から円になっている。

 

---

 

選帝侯ハインリヒ。

 

帝国最大の諸侯の一人。

 

皇帝を支える。

 

同時に、皇帝権が強くなりすぎることを恐れる。

 

「二冊とも回収すべきです」

 

「何冊出た」

 

宰相。

 

「確認分、皇帝版二万四千。改革版一万八千」

 

「回収は」

 

「不可能です」

 

「禁書指定」

 

セヴェリン。

 

「どちらを」

 

皇帝。

 

また。

 

「両方」

 

選帝侯。

 

「原典へ戻るまで」

 

「民衆は、読める聖典を取り上げられたと」

 

「暴動より」

 

「既に持っている」

 

皇帝は窓。

 

大聖堂へ向かう群衆。

 

冠の版。

 

務めの版。

 

「今日は、冠盟誓更新式だ」

 

即位二十五年。

 

帝国の諸侯、都市、聖職者が、皇帝と相互誓約を更新する儀式。

 

民衆語聖典の完成を、その象徴にする予定だった。

 

「延期を」

 

宰相。

 

「延期すれば、皇帝が改革版を恐れたと」

 

ハインリヒ。

 

「続ければ」

 

「皇帝版を正典化したと」

 

どちらでも。

 

灰冠の鏡。

 

---

 

## 三

 

ヨハン・アイゼンは、帝都の古い製本所にいた。

 

火刑台から生きて降りた改革説教者。

 

以前より痩せ。

 

髪には白いもの。

 

共同翻訳委員会を三日前に離脱した。

 

理由。

 

皇帝派が彼の注釈を、軍税勅令の序文へ引用したから。

 

《共同体へ託された務めは、共同体を守る剣を必要とする》

 

ヨハンが書いたのは、都市の自警と貧民保護についてだった。

 

帝国軍務局は。

 

《共同体を守る剣》

 

だけを取り。

 

新軍税の正当化へ使った。

 

「あなたが去った翌日に、これです」

 

エルザ・クリューガー。

 

学校教師。

 

翻訳委員会の民衆語読解席。

 

弟ルーカスは帝都守備隊。

 

彼女は改革版を机へ置く。

 

「私は、この文を書いていない」

 

ヨハン。

 

「似ています」

 

「似せた」

 

「皇帝版も」

 

「私の敵が書いたと?」

 

「それも、誰かが似せた」

 

「なら、私が何を」

 

「戻ってください」

 

「委員会へ?」

 

「大聖堂へ」

 

「群衆が」

 

「あなたの名を叫んでいます」

 

外。

 

《ヨハンの聖典を!》

 

「私の聖典ではない」

 

「だから言ってください」

 

「言えば、第三の版になる」

 

「黙れば、二つのどちらかへ使われます」

 

ヨハン。

 

机。

 

両手。

 

「言葉が人を殺す」

 

エルザ。

 

「沈黙も」

 

---

 

製本所の主人マルティン・ブレヒト。

 

改革派印刷工。

 

五十歳。

 

指先が黒い。

 

「改革版を刷ったのは、私の工房です」

 

ヨハンが見る。

 

「委員会の最終稿だと」

 

「誰から」

 

「修正票」

 

「見せろ」

 

紙。

 

一枚。

 

共同翻訳委員会の補助印。

 

《第十二章第七節は、民衆理解のため、共同体責任を明示する》

 

署名。

 

翻訳委員会記録官ハインツ・ベルナー。

 

「本人は」

 

「帝国書庫」

 

「確認した?」

 

「印が」

 

マルティン。

 

言った後。

 

自分で。

 

王璽。

 

命令。

 

繰り返し。

 

「皇帝版の印刷所も、別の修正票を受けた?」

 

エルザ。

 

「おそらく」

 

「なぜ、同じ印が」

 

「ハインツは」

 

ヨハン。

 

顔。

 

善良な記録官。

 

何でも写し。

 

皆に急かされ。

 

委員会が四十日で第一巻を仕上げるため、校正票へ事前に印を押していた。

 

白紙ではない。

 

章番号。

 

頁番号。

 

印。

 

本文訂正欄。

 

空。

 

「また空欄」

 

エルザ。

 

海軍緊急令。

 

遠い国のことは知らない。

 

だが同じ過ち。

 

急ぐため。

 

信じるため。

 

空いた場所を残す。

 

---

 

## 四

 

ルーカス・クリューガーは、大聖堂南広場で盾を持っていた。

 

帝都守備隊百人隊長補佐。

 

三十歳。

 

姉エルザとは、改革思想をめぐって何度も争った。

 

彼は皇帝を必要だと思っている。

 

帝国は、諸侯と都市と司教領が互いに争う国。

 

王冠がなければ。

 

次の日から税所が増える。

 

街道ごとに兵が止める。

 

「南門群衆、約六千」

 

部下。

 

「武器」

 

「職人槌、木棒、一部短弓」

 

「皇帝版の北広場は」

 

「八千」

 

「互いに大聖堂正門へ」

 

「隔てろ」

 

「柵を」

 

「狭い」

 

広場。

 

祭礼用屋台。

 

巡礼者。

 

子供。

 

「屋台を撤去」

 

「所有者が」

 

「後で補償」

 

「誰が」

 

「記録しろ」

 

ルーカス。

 

制度。

 

---

 

上官。

 

帝都守備長官ゲオルク・ヴァイス。

 

「改革群衆を南通りへ押し戻せ」

 

「北群衆は」

 

「皇帝盟誓式へ参列する臣民だ」

 

「南も」

 

「反皇帝の冊子を」

 

「印は本物です」

 

「内容が反逆」

 

「誰が決めた」

 

「大司教」

 

「皇帝は」

 

「命令待ちだ」

 

「なら待つ」

 

「群衆は待たない!」

 

「だから両方を止める」

 

「皇帝派へ盾を向けるのか」

 

「大聖堂へ同時に入れないため」

 

長官。

 

「お前の姉が南にいると聞いた」

 

「はい」

 

「それで」

 

「だから、南だけを押せば私情と見られます」

 

「普通は逆だ」

 

「どちらでも同じです」

 

「命令だ」

 

「書面を」

 

「今?」

 

「群衆へ槍を向ける命令です」

 

長官。

 

怒る。

 

「口頭だ!」

 

「記録官を」

 

「敵が門を」

 

「まだ敵ではありません」

 

遅い。

 

危険。

 

正しい。

 

---

 

鐘。

 

大聖堂。

 

七回。

 

皇帝盟誓式の開始。

 

同時に、南の職人会館鐘。

 

五回。

 

民衆聖典朗読会。

 

二つ。

 

群衆。

 

動く。

 

柵。

 

押す。

 

「止まれ!」

 

盾。

 

北から。

 

《冠は灯より!》

 

南から。

 

《務めは民より!》

 

古語には、どちらもない。

 

人は、ない言葉のために押し合う。

 

---

 

## 五

 

最初の死体が見つかったのは、皇帝印刷所の地下だった。

 

若い校正工。

 

フリッツ・アドラー。

 

十九歳。

 

胸に改革版。

 

首には、印刷用の革紐。

 

死後、吊られた。

 

壁。

 

血で。

 

《冠を民へ返せ》

 

改革派の標語。

 

ほぼ同時に。

 

南のマルティン・ブレヒト工房。

 

帝国書記局の伝令。

 

オスカー・リーデル。

 

二十七歳。

 

胸に皇帝版。

 

頭部を活字箱で殴られ。

 

壁。

 

《権威へ従え》

 

皇帝派の標語。

 

二人。

 

別の場所。

 

相手の版。

 

「改革派が皇帝印刷工を!」

 

「皇帝兵が伝令を!」

 

噂。

 

死体が広場へ運ばれる前に。

 

号外が出る。

 

《聖典殉教者フリッツ》

 

《秩序の殉教者オスカー》

 

印刷速度。

 

人が死んでから一刻も経っていない。

 

「準備していた」

 

マルティン。

 

「名前まで」

 

エルザ。

 

号外には、年齢。

 

出身。

 

母の名。

 

正しい。

 

「誰が知る」

 

雇用名簿。

 

王室印刷組合。

 

帝国書記局。

 

両方へ出入りする紙問屋。

 

《聖ゲルトルード紙房》。

 

灰色の冠の透かし。

 

高原市場と同じ系列。

 

---

 

群衆に死者名が届く。

 

「フリッツを!」

 

改革派。

 

実際、彼は皇帝印刷所で働きながら、改革派の集会へも出ていた。

 

「オスカーを!」

 

皇帝派。

 

実際、伝令は皇帝派ではなく、給金のために働いた。

 

死者が、自分の側へ。

 

---

 

ルーカス。

 

「死体を広場へ出すな」

 

上官。

 

「隠蔽と」

 

「家族へ先に」

 

「群衆が」

 

「だから」

 

長官。

 

「南群衆を排除」

 

「両方」

 

「皇帝派は死者を」

 

「両方に死者」

 

「フリッツは皇帝印刷工だ!」

 

「改革集会にも」

 

「裏切り者?」

 

「人です」

 

長官。

 

「命令を拒むか」

 

ルーカス。

 

「致死武器使用を拒否します」

 

「反逆」

 

「記録してください」

 

盾。

 

部下。

 

見る。

 

姉。

 

皇帝。

 

どちら。

 

---

 

## 六

 

大聖堂正面の階段へ、ヨハン・アイゼンが現れた。

 

王冠派。

 

罵声。

 

改革派。

 

歓声。

 

「ヨハン!」

 

「聖典を!」

 

彼は二冊を持つ。

 

右。

 

皇帝版。

 

左。

 

改革版。

 

「どちらも、私の聖典ではない!」

 

声。

 

届く。

 

近くへ。

 

朗読人が繰り返す。

 

「共同翻訳委員会の最終稿でもない!」

 

「嘘だ!」

 

皇帝派。

 

「印が!」

 

「改革を裏切るな!」

 

南。

 

「原典には、冠という語はない!」

 

北から石。

 

「民という語もない!」

 

南からも。

 

両方を失望させる。

 

「権威は、灯の下に置かれる」

 

ヨハン。

 

「それが直訳です」

 

「意味は!」

 

「意味を言え!」

 

群衆。

 

直訳では足りない。

 

人は、自分が何をすべきかを知りたい。

 

「誰へ従う!」

 

「誰が王を裁く!」

 

ヨハン。

 

「その一節だけでは決められない!」

 

最も不人気な答え。

 

「聖典が答えない?」

 

「答えるために読むのでは」

 

「すべての問いへ、一節が答えると思うな!」

 

石。

 

今度は肩。

 

ヨハンがよろめく。

 

エルザ。

 

支える。

 

---

 

大司教セヴェリンが、大聖堂扉の上へ。

 

「皇帝版は、教会の伝統に従う!」

 

歓声。

 

北。

 

「改革版は、委員会の許可を受けていない!」

 

マルティン。

 

修正票を掲げる。

 

「本物の印だ!」

 

「盗まれた印だ!」

 

「皇帝版も!」

 

帝国印刷所の校正長が。

 

別の修正票。

 

同じハインツ印。

 

《第十二章第七節は、民衆理解のため、冠の神授性を明示する》

 

二枚。

 

同じ印。

 

反対の修正。

 

「では、どちらかが偽」

 

大司教。

 

「両方が不正完成文書です!」

 

エルザ。

 

「印は本物、指示者は不明!」

 

王の密命。

 

同じ構造。

 

---

 

皇帝コンラートが、大聖堂内から出る。

 

王冠を被っている。

 

盟誓式の礼装。

 

剣は持たない。

 

群衆。

 

北。

 

跪く者。

 

南。

 

立つ者。

 

「皇帝版を!」

 

「聖典へ従え!」

 

「冠を外せ!」

 

声。

 

皇帝は階段のヨハンを見る。

 

「説教者」

 

「陛下」

 

「原典は、余の冠を認めないのか」

 

罠。

 

「その一節だけでは」

 

「認めるとも、認めないとも?」

 

「はい」

 

「なら、余の王位は」

 

「聖典の一語だけで成立したのではありません」

 

諸侯。

 

都市。

 

教会。

 

法。

 

戦争。

 

継承。

 

「神からではないと?」

 

大司教が。

 

ヨハン。

 

「神からだけだと証明するため、人間の偽印を必要とした者がいる」

 

群衆。

 

静か。

 

皇帝版の印。

 

人間。

 

「改革版も同じです」

 

南へ。

 

「共同体の権利を証明するため、共同体へ知らせず印を使った」

 

両方。

 

---

 

コンラートは王冠へ手を掛ける。

 

外す。

 

群衆。

 

「陛下!」

 

大司教。

 

皇帝は、王冠を階段へ置かない。

 

侍従へ。

 

渡す。

 

「余は、冠なしでも皇帝か」

 

誰へ。

 

ヨハン。

 

「法がそう定めるなら」

 

「民が否定すれば」

 

「法を変える手続が必要です」

 

「神は」

 

「私には、神の沈黙を王命に変える権利がありません」

 

皇帝。

 

苦笑。

 

「便利でない説教者だ」

 

「はい」

 

---

 

## 七

 

灰冠の実行者は、群衆が静まりかけた時を狙った。

 

大聖堂東鐘楼。

 

十三回。

 

帝国で十三鐘は。

 

《皇帝死去》。

 

本来、皇帝の死を告げる鐘。

 

一度鳴り始めれば、諸侯軍の継承規則が動く。

 

宮門閉鎖。

 

国庫封印。

 

各選帝侯への使者。

 

「皇帝が殺された!」

 

北広場。

 

目の前に皇帝がいる。

 

だが遠くの人々には見えない。

 

「影武者だ!」

 

「改革派が!」

 

南。

 

「皇帝派が、死を偽って戒厳令を!」

 

群衆。

 

再び。

 

北門の守備兵が宮門閉鎖命令を受ける。

 

自動手順。

 

南の職人団は、逮捕を恐れて大聖堂へ。

 

「鐘を止めろ!」

 

ルーカス。

 

鐘楼。

 

扉。

 

内側から閉鎖。

 

---

 

同時に、群衆中央で煙。

 

皇帝版の山。

 

火。

 

改革版の山。

 

火。

 

互いに相手が焼いたように。

 

「聖典を!」

 

人が本を守ろうと前へ。

 

炎。

 

押す。

 

子供。

 

屋台。

 

倒れる。

 

「槍を構えろ!」

 

守備長官。

 

「突進を止める!」

 

ルーカス。

 

「盾を開けろ!」

 

「何」

 

「逃げ道!」

 

「群衆が大聖堂へ」

 

「横へ!」

 

北と南の間に、守備隊の盾壁。

 

通常は閉じる。

 

ルーカスは中央を二列後退させ、東西へ通路。

 

「命令違反!」

 

「圧死します!」

 

人。

 

流れる。

 

一つの狭い正門ではなく。

 

左右の回廊。

 

サン=リュシアンの三室。

 

巡礼宿の壁。

 

別国の制度を知らない。

 

だが現場で同じ答え。

 

出口を増やす。

 

---

 

姉エルザ。

 

群衆の中。

 

「子供を先に!」

 

学校教師。

 

生徒。

 

「手をつないで!」

 

皇帝版を持つ少年。

 

改革版を持つ少女。

 

互いに。

 

泣く。

 

本を落とさない。

 

「本は置け!」

 

「聖典を!」

 

「命は紙より先!」

 

エルザ。

 

二人の冊子を自分の外套へ。

 

手を空けさせる。

 

「返す?」

 

「生きて出たら!」

 

守れる。

 

---

 

鐘楼。

 

ルーカスの部下。

 

扉を破る。

 

中。

 

鐘守。

 

死亡。

 

喉。

 

鐘綱に、重り。

 

自動で十三回。

 

実行者。

 

一人。

 

修道士服。

 

窓から。

 

逃げる。

 

屋根。

 

「生け捕り!」

 

部下。

 

弩。

 

撃つ。

 

脚。

 

男。

 

落下。

 

大聖堂屋根から広場の庇へ。

 

重傷。

 

生存。

 

口。

 

毒袋。

 

顎を。

 

間に合う。

 

---

 

十三鐘は八回で止まった。

 

皇帝死去符号は十三。

 

未完成。

 

だが遠い地区では。

 

八回を。

 

《選帝侯召集》。

 

古い符号。

 

別の危機。

 

帝国西門。

 

ハインリヒ選帝侯の護衛が武装。

 

「皇帝が」

 

「八鐘!」

 

「召集か」

 

「王宮へ」

 

軍が。

 

皇帝派に見える。

 

ほかの選帝侯は。

 

クーデターと。

 

帝都外で軍が動く。

 

---

 

## 八

 

大聖堂広場の死者は、五十七人だった。

 

圧死。

 

三十一。

 

火傷。

 

八。

 

石・刃物。

 

九。

 

守備隊槍。

 

四。

 

矢。

 

三。

 

鐘守。

 

一。

 

灰冠実行者の一人。

 

後に死亡。

 

負傷。

 

四百を超える。

 

「戦闘ではない」

 

記録官。

 

遺族。

 

「では何」

 

「群衆事故、放火、武力衝突」

 

「三つ?」

 

「全部」

 

「夫は、どれで」

 

圧死。

 

「事故?」

 

「誰かが鐘を」

 

「なら殺人」

 

「直接は」

 

「言葉を分けるな!」

 

いつもの。

 

だが分けなければ。

 

誰の責任も一つへ。

 

---

 

ルーカス・クリューガー。

 

守備長官の命令拒否。

 

盾列変更。

 

致死槍不使用。

 

結果。

 

正面突破なし。

 

大聖堂への侵入なし。

 

側路の圧死も。

 

死者が出た。

 

「命令違反です」

 

軍法官。

 

「はい」

 

「姉を救うため?」

 

「姉がいると知っていました」

 

「だから南を」

 

「南だけではなく、北も通しました」

 

「上官命令を」

 

「書面なし」

 

「緊急時に」

 

「群衆は武装」

 

「農具」

 

「短弓も」

 

「撃たれた?」

 

「三本」

 

「なら」

 

「百人を槍で押せば、五十七より」

 

「予測」

 

「はい」

 

「正しかったと」

 

「分かりません」

 

「後悔」

 

「あります」

 

「間違い」

 

「同じでは」

 

遠い将軍。

 

同じ言葉。

 

---

 

守備長官ゲオルク。

 

「命令は正当だった」

 

「南群衆だけの排除は」

 

「反皇帝活動」

 

「皇帝版の群衆は」

 

「盟誓式」

 

「石を」

 

「一部」

 

「改革派も」

 

「だから両方を」

 

「皇帝派へ盾を向ければ、軍の忠誠が」

 

軍の忠誠。

 

どの民を守るか。

 

---

 

暫定。

 

ルーカス。

 

指揮停止。

 

拘束なし。

 

守備長官。

 

同じ。

 

二人。

 

審査。

 

エルザ。

 

「弟は人を救った!」

 

「死者も」

 

遺族。

 

彼女。

 

言葉を止める。

 

---

 

## 九

 

捕らえられた鐘楼の男は、帝国人ではなかった。

 

名。

 

ペーテル・ヴァス。

 

ヴェリグラード出身。

 

元修道院鐘職人。

 

黒雪の冬に家族を失い。

 

灰冠救済会の復旧部門で働いた。

 

「なぜ帝国へ」

 

「仕事」

 

「十三鐘を」

 

「重りを付けろと」

 

「誰から」

 

「聖典保全連盟」

 

架空。

 

「報酬」

 

「妹の土地債務免除」

 

ヴェリグラード。

 

「妹の名」

 

「カタリナ・ヴァス」

 

照合。

 

土地契約。

 

実在。

 

妹。

 

既に債務再計算で免除対象。

 

本人は知らない。

 

「知らせれば」

 

「やらなかった?」

 

「分からない」

 

「皇帝を殺したと」

 

「殺していない」

 

「死の鐘を」

 

「鐘だけ」

 

分業。

 

「群衆が」

 

「知らなかった」

 

「想像は」

 

「八鐘で止まると思った」

 

「なぜ」

 

「重りの長さ」

 

実際。

 

十三回用。

 

「誰が計算」

 

「紫の袖の女」

 

リヴィア?

 

「黒い手袋?」

 

「片方だけ」

 

左手。

 

右は白布。

 

「顔」

 

「火傷跡」

 

リヴィアにはない情報? Could be変装.

 

「名」

 

《シスター・クララ》。

 

「女?」

 

「はい」

 

また。

 

---

 

ペーテルの荷物。

 

聖ゲルトルード紙房の帳簿。

 

二つの版。

 

号外。

 

鐘。

 

同じ資金口座。

 

《十三灯基金》。

 

灰冠自由会議。

 

「十三番目の鐘」

 

ヨハン。

 

オルシャの十三番目の鐘。

 

偶然か。

 

同じ役割。

 

制度外の一音。

 

---

 

## 十

 

翻訳委員会記録官ハインツ・ベルナーは、自ら出頭した。

 

四十五歳。

 

丸い眼鏡。

 

指に印蝋の火傷。

 

「私が校正票へ印を押しました」

 

共同審査会。

 

「何枚」

 

「二百」

 

「空欄へ?」

 

「章、頁、欄は指定」

 

「本文訂正欄は空」

 

「なぜ」

 

「印章管理官が、会議ごとに」

 

「時間」

 

「第一巻完成期限」

 

「誰が急がせた」

 

皇帝書記局。

 

教会。

 

改革派。

 

印刷組合。

 

全員。

 

民衆語聖典を早く。

 

「反対は」

 

「ヨハン師」

 

「それでも」

 

「彼が離脱し」

 

「あなたは」

 

「続けた」

 

「完成させたかった」

 

「二つの修正票は」

 

「書いていません」

 

「署名は」

 

「模写」

 

「印は」

 

「本物」

 

「票を盗まれた」

 

「いつ」

 

「保管箱は」

 

鍵。

 

二つ。

 

ハインツ。

 

委員会副長。

 

副長。

 

誰。

 

大司教側の神学者。

 

死亡。

 

三日前。

 

病死。

 

「本当に」

 

遺体。

 

検査。

 

毒なし。

 

高齢。

 

「鍵は」

 

家族が教会へ返却。

 

途中。

 

使者。

 

失踪。

 

「箱を開けられた?」

 

「はい」

 

「何枚盗まれた」

 

「十一」

 

「二つ以外は」

 

不明。

 

「まだ九枚」

 

次の版。

 

別の一節。

 

---

 

ハインツ。

 

「私の印で、人が」

 

五十七。

 

「あなた一人では」

 

ヨハン。

 

「でも」

 

「責任は」

 

「あります」

 

「何で取る」

 

「職を辞す」

 

「それだけ?」

 

遺族席。

 

「牢へ」

 

一部。

 

「反逆!」

 

「故意では」

 

「空欄を」

 

王室白紙文書。

 

制度。

 

「当時規則違反では」

 

「危険を」

 

「知るべき」

 

判決は後。

 

---

 

## 十一

 

二冊の聖典をどうするか。

 

焼く。

 

回収。

 

訂正。

 

併記。

 

「焼けば、殉教本になる」

 

マルティン。

 

「回収は無理」

 

「訂正版を」

 

「誰が信じる」

 

「原典を」

 

民衆は読めない。

 

「三段印刷」

 

エルザ。

 

第一段。

 

原典。

 

第二段。

 

逐語訳。

 

第三段。

 

解釈注。

 

色と枠を分ける。

 

「字を読めない者は」

 

「朗読も三段」

 

「長い」

 

「必要」

 

「本が厚く」

 

「高い」

 

「民衆聖典が富者だけに」

 

「簡易版」

 

「また要約が解釈に」

 

終わらない。

 

---

 

ヨハン案。

 

《三灯版》。

 

左頁。

 

原典。

 

中央。

 

逐語訳。

 

右。

 

複数の解釈。

 

皇帝派。

 

改革派。

 

教会伝統。

 

異論。

 

「聖典に反対説を」

 

セヴェリン。

 

「注釈です」

 

「異端も」

 

「公開し、反論を」

 

「民衆が混乱」

 

「既に」

 

大司教。

 

「真理は一つだ」

 

ヨハン。

 

「人の訳は一つとは限らない」

 

「教会権威を」

 

「だから教会説も載せる」

 

「ほかと同列?」

 

「誰が上へ置く」

 

また。

 

---

 

皇帝コンラート。

 

「余の版を、注釈の一つへ?」

 

「はい」

 

ヨハン。

 

「皇帝の冠が」

 

「聖典本文ではありません」

 

「では、余の権威をどこへ」

 

「帝国法と盟誓へ」

 

「神ではなく」

 

「神を、法の空欄へ使わないでください」

 

強い。

 

皇帝。

 

怒り。

 

「余へ説教するか」

 

「職業です」

 

一瞬。

 

宰相が下を見る。

 

笑いを隠す。

 

---

 

大司教セヴェリン。

 

「改革版の共同体責任は、暴動を」

 

エルザ。

 

「皇帝版の服従は、弾圧を」

 

「それは濫用」

 

「両方」

 

「正しい解釈なら」

 

「誰が」

 

セヴェリン。

 

「私は、皇帝版の解釈を正しいと思う」

 

初めて。

 

隠さず。

 

「印の不正を命じた?」

 

「命じていない」

 

「望んだ?」

 

「はい」

 

正直。

 

「改革版が消えれば」

 

「望む」

 

「それでも、不正印を」

 

「否定する」

 

意見。

 

犯罪。

 

分ける。

 

---

 

## 十二

 

聖座ルミナからの使節は、広場事件の五日後に到着した。

 

教皇ルキウス十世。

 

かつての枢機卿マルクス・ヴァレリウス。

 

火刑台でヨハンを救った人物。

 

使節。

 

ベネディクトゥス・コルヴィ。

 

黒衣。

 

白い椅子の公開監査に関わった修道士。

 

書簡は三部。

 

別の道。

 

同時確認。

 

「教皇聖下の見解」

 

大司教。

 

期待。

 

「どちらが正典か」

 

ベネディクトゥス。

 

「書簡を」

 

読む。

 

《民衆語聖典は、信徒が灯火へ近づく道であり、王権または反王権の単独証書ではない》

 

《原典にない冠を本文へ加えた版も、原典にない人民を本文へ加えた版も、教理確認を再審査する》

 

「両方」

 

セヴェリン。

 

「はい」

 

《聖座教理印は、委員会が提出した逐語訳に対して与えられた》

 

「印が」

 

「印刷版へ転用された」

 

聖座側も。

 

確認不足。

 

《聖座は、自らの印管理責任を認める》

 

教皇。

 

謝罪。

 

《印を押したからといって、印の外に書かれた解釈まで教皇の言葉にはならない》

 

王璽。

 

同じ。

 

《今後、原典、逐語訳、解釈注を分ける》

 

三灯版。

 

ヨハン案と近い。

 

「事前に連絡を?」

 

「ありません」

 

同じ必要から。

 

---

 

最後。

 

《皇帝の冠が神の秩序に属するか否かを、翻訳委員会の一節だけで裁いてはならない》

 

《同時に、皇帝は神の名を用いて法と盟誓を省いてはならない》

 

コンラート。

 

読む。

 

「教皇が、余を」

 

「皇帝権を否定していません」

 

ベネディクトゥス。

 

「縛る」

 

「教皇権も、白い椅子と六つの木椅子で」

 

ルミナ。

 

自分も。

 

「聖下は」

 

「自らを含むと」

 

皇帝。

 

「便利でない教皇だ」

 

ヨハンと同じ。

 

---

 

## 十三

 

新しい冠盟誓式は、大聖堂ではなく帝国議場で行われた。

 

群衆死者の葬儀後。

 

王冠。

 

皇帝。

 

諸侯。

 

都市。

 

聖職者。

 

職人。

 

農村。

 

初めて。

 

民衆語聖典の一節を、盟誓文の根拠へ使わない。

 

代わりに。

 

帝国法。

 

封建契約。

 

都市特許。

 

教会権。

 

農村請願。

 

複数。

 

「神の言葉なしで戴冠を?」

 

セヴェリン。

 

「祈りは」

 

皇帝。

 

「法の根拠と混ぜない」

 

「世俗化」

 

「聖典を守るためだ」

 

コンラート。

 

学ぶ。

 

---

 

皇帝の盟誓。

 

《我が冠は、唯一の灯の前で負う務めの印である》

 

冠は入る。

 

だが。

 

《その務めの内容は、帝国法、諸侯盟約、都市権、教会法及び公開された勅令により定める》

 

《聖典の一節を、税、徴兵、処刑または継承の単独根拠としない》

 

軍務局。

 

反発。

 

《口頭の神意を、法令へ代えない》

 

《翻訳上の異議を、暴力または扇動の証拠なく反逆としない》

 

改革派。

 

《同時に、翻訳上の異議を理由として、公務命令への武力不服従を自動的に正当化しない》

 

両方。

 

《皇帝は、聖典を所有しない》

 

大きい。

 

《共同体も、単独の一派も所有しない》

 

ヨハン。

 

「神が」

 

「それは祈りで」

 

---

 

諸侯。

 

都市。

 

教会。

 

それぞれ誓う。

 

皇帝へ従う。

 

ただし法の範囲。

 

異議手続。

 

軍税。

 

期限。

 

「皇帝が法を破れば」

 

ハインリヒ選帝侯。

 

「三身異議会」

 

帝国版。

 

王室。

 

諸侯。

 

都市。

 

教会。

 

四身?

 

「教会を含める」

 

「聖典問題だから」

 

「税では」

 

「案件ごと」

 

複雑。

 

「また会議が」

 

「戦争より」

 

---

 

## 十四

 

翻訳委員会は解散されなかった。

 

再編。

 

名称。

 

《公開聖典翻訳院》。

 

席。

 

古語神学者。

 

教会。

 

改革派。

 

民衆語教師。

 

印刷職人。

 

農村朗読者。

 

女性席。

 

刻印民言語学者。

 

東方七燭派観察員。

 

南方啓句派観察員。

 

「異宗派を」

 

セヴェリン。

 

「同じ古語を別に読む」

 

「教理が」

 

「観察員です」

 

「発言は」

 

「ある」

 

「投票は」

 

一部。

 

段階。

 

---

 

印管理。

 

白紙校正票禁止。

 

訂正票は、本文を完全に書いた後に印。

 

二印。

 

翻訳院。

 

印刷所。

 

さらに。

 

受領者が、読み上げ確認。

 

「印刷所が内容を」

 

「はい」

 

「職人が神学を」

 

「文字を組む者が、最後に本文を見る」

 

マルティン。

 

「今までも見た」

 

「でも、質問する権利がなかった」

 

付与。

 

---

 

一つの節へ。

 

逐語訳。

 

解釈。

 

出典。

 

異論。

 

期限。

 

改訂履歴。

 

「聖典が帳簿に」

 

一部信徒。

 

「人の訳を帳簿に」

 

ヨハン。

 

「神の言葉ではなく」

 

---

 

民衆向け簡易版。

 

解釈を一つに絞る場合。

 

表紙へ大きく。

 

《皇帝派注釈版》

 

《改革派注釈版》

 

《聖座伝統注釈版》

 

正典のふりをしない。

 

「分裂を公認」

 

「隠れた分裂より」

 

エルザ。

 

---

 

## 十五

 

ハインツ・ベルナーへの判決。

 

反逆。

 

無罪。

 

印章管理重大違反。

 

有罪。

 

公文書危険行為。

 

有罪。

 

共同責任。

 

「刑」

 

遺族。

 

五十七。

 

「死刑を」

 

一部。

 

「故意では」

 

「死んだ!」

 

「印を」

 

「空欄へ」

 

最終。

 

翻訳院職永久停止。

 

八年間の公文書監督下労働。

 

最初の三年、二つの版の配布先・印刷数・訂正通知の全記録。

 

私財の二割を被害基金。

 

年金の一部。

 

「牢は」

 

一年。

 

その後監督労働。

 

「軽い」

 

「重い」

 

いつもの。

 

---

 

ハインツ。

 

「私は、早く聖典を」

 

ヨハン。

 

「皆が望んだ」

 

「だから」

 

「あなた一人の罪ではない」

 

「では」

 

「あなたの罪は消えない」

 

「戻れる?」

 

「委員会へは」

 

「いいえ」

 

「信徒として」

 

「それは、誰も」

 

ヨハンは決めない。

 

---

 

守備長官ゲオルク。

 

南群衆のみ排除命令。

 

致死槍許可。

 

書面なし。

 

処分。

 

指揮権停止二年。

 

「皇帝を守った」

 

「南だけが敵と、確認なしに」

 

「改革版が」

 

「印は本物だった」

 

「内容が」

 

「あなたが神学を」

 

「軍は秩序を」

 

「両群衆の秩序を」

 

降格。

 

辺境守備訓練。

 

---

 

ルーカス。

 

命令違反。

 

有罪。

 

緊急避難路開放。

 

正当。

 

致死武器拒否。

 

状況下で相当。

 

軍規違反への正式戒告。

 

昇進停止一年。

 

同時に。

 

帝都群衆安全隊の臨時指揮官へ。

 

「罰と任命を同時に?」

 

「同じ行為に、違う面」

 

「便利」

 

ルーカス。

 

「かなり」

 

「受ける?」

 

「はい」

 

姉。

 

「出世した?」

 

「止まった」

 

「でも指揮官」

 

「臨時」

 

「複雑」

 

「帝国です」

 

---

 

ペーテル・ヴァス。

 

死の鐘。

 

群衆暴動誘発。

 

殺人共同責任。

 

家族債務。

 

減刑要素。

 

終身刑求刑。

 

最終。

 

二十五年の拘禁・鐘楼安全設備労働。

 

最初の十年は外へ出ない。

 

以後。

 

監視。

 

「鐘を作る?」

 

「偽鐘を防ぐ仕組み」

 

「自分が」

 

「はい」

 

「妹の土地は」

 

「本人の審査で既に」

 

「守られる?」

 

「あなたの刑と分ける」

 

泣く。

 

遅い情報。

 

灰冠の速さ。

 

---

 

## 十六

 

二冊の聖典は、回収されなかった。

 

代わりに。

 

訂正紙。

 

全戸?

 

二万。

 

一万八千。

 

所在。

 

不明。

 

「貼り付け」

 

「捨てられる」

 

「頁を切り取る?」

 

「信徒が拒否」

 

「印を」

 

訂正印。

 

三角形。

 

《本文に解釈混入》

 

皇帝版。

 

改革版。

 

両方。

 

「汚す?」

 

「証拠」

 

焼かない。

 

残す。

 

---

 

フリッツ・アドラーとオスカー・リーデル。

 

二人の殺害。

 

実行者。

 

紙房の荷役人二名。

 

捕縛。

 

「誰の命令」

 

《十三灯基金》。

 

「なぜ死体へ相手の本を」

 

「言われた」

 

「相手を憎んでいた?」

 

「フリッツは賃金を」

 

「オスカーは」

 

「知らない」

 

分業。

 

「号外の情報は」

 

雇用名簿。

 

買収された書記。

 

多数。

 

---

 

二人の葬儀。

 

別々にしたい家族。

 

フリッツの母。

 

「息子は改革集会へ行っていた」

 

「でも皇帝印刷所の仲間も」

 

「両方来て」

 

オスカーの妻。

 

「夫は皇帝のためではなく、給金のため」

 

「皇帝派葬儀を」

 

「しない」

 

共同ではない。

 

同日。

 

同じ通り。

 

二つの列。

 

途中。

 

すれ違う。

 

争わない。

 

互いの死者名を知っている。

 

号外ではなく。

 

家族から。

 

---

 

## 十七

 

ヨハン・アイゼンは、公開翻訳院へ戻った。

 

条件。

 

自分の名を版名に使わない。

 

単独の最終決定権を持たない。

 

異論を記録。

 

翻訳院の文を、軍税・処刑・継承へ使う場合は、別の法的審査。

 

「説教者が制度を」

 

エルザ。

 

「嫌ですか」

 

「かなり」

 

「戻る?」

 

「はい」

 

「なぜ」

 

「黙れば、誰かが私の沈黙を翻訳する」

 

---

 

最初の公開会議。

 

第十二章第七節。

 

逐語訳。

 

《権威は、唯一の灯の下に置かれる》

 

解釈一。

 

神より授与。

 

解釈二。

 

共同体へ委託。

 

解釈三。

 

神の前で責任を負う公務。

 

解釈四。

 

教会権威。

 

解釈五。

 

世俗法の外に出ない。

 

多い。

 

「民衆は何を」

 

農村朗読者。

 

「明日、領主が税を求めたら」

 

神学。

 

現実。

 

ヨハン。

 

「この一節だけでは、税が合法か決められません」

 

「では、どこを」

 

「税法と領主契約」

 

「聖典は役に立たない?」

 

「隣人を飢えさせる税なら、ほかの節が」

 

「また複数」

 

「はい」

 

「難しい」

 

「信仰は、簡単な命令だけではありません」

 

農民代表。

 

「でも役人は簡単に来る」

 

会議。

 

静か。

 

「だから」

 

エルザ。

 

「聖典だけでなく、税告示も民衆語へ」

 

翻訳院の外。

 

行政。

 

つながる。

 

---

 

新規則。

 

宗教文書だけでなく。

 

勅令。

 

税。

 

徴兵。

 

処罰。

 

民衆語。

 

原文。

 

要約。

 

異議期限。

 

「仕事が」

 

書記。

 

「増える」

 

「人が死ぬより」

 

「予算」

 

皇帝。

 

「出す」

 

「どこから」

 

また。

 

宮廷祝典費。

 

一部。

 

印刷税。

 

「聖典へ税?」

 

「商業印刷へ」

 

印刷工。

 

反発。

 

制度の費用。

 

---

 

## 十八

 

コンラート五世は、王冠を被り直した。

 

大聖堂ではなく。

 

帝国議場。

 

だが一度、外した事実は残る。

 

皇帝派の一部。

 

「ヨハンに屈した」

 

改革派の一部。

 

「芝居」

 

諸侯。

 

「権力は変わらない」

 

都市。

 

「異議会が」

 

農民。

 

「税は」

 

王冠。

 

一つ。

 

意味。

 

多数。

 

---

 

皇帝は、ヨハンへ私的に問う。

 

今度は記録官二名。

 

「余の冠は、神からか」

 

「私の答えを、勅令へ使いますか」

 

「使わない」

 

「記録されます」

 

「はい」

 

ヨハン。

 

「私は、陛下の冠が神に許されている可能性を信じます」

 

「可能性?」

 

「同時に、神が陛下の全命令を承認しているとは思いません」

 

「共同体は」

 

「陛下へ務めを託した」

 

「いつ」

 

「盟誓、法、服従、税、沈黙、反乱しないこと」

 

「沈黙も同意?」

 

「常にでは」

 

「では」

 

「完全な起源は分かりません」

 

皇帝。

 

「役に立たない」

 

「はい」

 

「それでも戻した」

 

「王冠を?」

 

「委員会へ」

 

「役に立たない答えを言う者が必要だからでは」

 

コンラート。

 

笑う。

 

「余を侮辱したか」

 

「解釈の一つです」

 

---

 

## 十九

 

大司教セヴェリンは辞任しなかった。

 

皇帝版を支持した責任を認める。

 

不正印は否定。

 

「教会は一つの教えを示す必要がある」

 

公開会議。

 

「複数の注釈を載せれば、信徒は」

 

エルザ。

 

「選ぶ」

 

「誤る」

 

「司祭も」

 

「教会が正す」

 

「公開で」

 

「はい」

 

変化。

 

少し。

 

「改革版を異端と」

 

「現時点で、本文混入は不正。共同体責任の解釈自体は審査継続」

 

以前なら火刑。

 

今は。

 

審査。

 

遅い。

 

---

 

選帝侯ハインリヒは、皇帝権制限を利用しようとした。

 

三身異議会を、諸侯主導に。

 

都市が反対。

 

教会が。

 

皇帝が。

 

「共同体とは諸侯だ」

 

彼の版。

 

職人。

 

「我々も」

 

農民。

 

「誰が共同体」

 

新しい争い。

 

灰冠がいなくても。

 

本物の対立。

 

制度は、敵を消さない。

 

殺す方法を少し減らす。

 

---

 

## 二十

 

灰冠自由会議は、《二つの聖典計画》を次のように記録した。

 

《皇帝版・改革版同時流通、達成》

 

《本物の委員印使用、達成》

 

《皇帝盟誓式崩壊、達成》

 

《皇帝死亡偽鐘、未完》

 

《選帝侯軍動員、限定》

 

《大聖堂群衆死者五十七、達成》

 

《皇帝・改革派全面衝突、未達》

 

《ヨハン・アイゼン再火刑、未達》

 

《大司教セヴェリン失脚、未達》

 

《聖座・帝国分裂、未達》

 

《公開聖典翻訳院成立、敵制度強化》

 

《原典・逐語訳・解釈分離、敵制度強化》

 

《勅令民衆語化、長期的危険》

 

《選帝侯と都市の共同体定義争い、継続》

 

無貌。

 

「皇帝は残った」

 

鴉筆。

 

「聖典も」

 

「二冊は」

 

「回収されていない」

 

「訂正印が」

 

「信者の一部は、訂正を拒む」

 

「皇帝版教会」

 

「改革版集会」

 

「分裂は」

 

「残る」

 

黒雪。

 

「成功?」

 

「完全ではない」

 

「五十七人」

 

「制度を作らせた」

 

「だが、言葉は制度より速い」

 

机。

 

盗まれた校正票。

 

十一枚。

 

使用済み。

 

二枚。

 

残り。

 

九枚。

 

「次の節は」

 

《兄弟の血は、土へ叫ぶ》

 

「どこへ」

 

ヴェリグラード。

 

難民と在地。

 

「その次」

 

《海を支配する者は、道を支配する》

 

アルビオン。

 

「その次」

 

《鍵を持つ者は、門を閉じよ》

 

オルシャ。

 

九枚。

 

九国。

 

一節ずつ。

 

「同じ印で」

 

「聖典は国境を越える」

 

「ルキウス十世は」

 

「三部確認を各国へ」

 

「間に合う?」

 

黒雪。

 

「言葉は船より速い」

 

---

 

リヴィア・サン・ジェルマーノ。

 

あるいは《灰杯》。

 

帝都を離れていた。

 

彼女の左手には黒い手袋。

 

右手には白い包帯。

 

鐘職人ペーテルが見た姿。

 

馬車。

 

南。

 

聖座ルミナではない。

 

東。

 

オルシャ。

 

膝の上。

 

盗まれた校正票。

 

一枚。

 

《鍵を持つ者は、門を閉じよ》

 

原典。

 

《務めを託された者は、夜に備えよ》

 

鍵も。

 

門も。

 

ない。

 

だがオルシャには七つの鍵がある。

 

そのうち一つ。

 

行方不明。

 

---

 

## 二十一

 

大聖堂広場には、死者五十七人の名を刻んだ石が置かれた。

 

一つの碑ではない。

 

二つに分ける案。

 

皇帝派。

 

改革派。

 

却下。

 

全員を同じ思想へまとめる案。

 

却下。

 

長い低い石。

 

名前。

 

持っていた版。

 

皇帝版。

 

改革版。

 

不明。

 

持っていなかった。

 

記録。

 

「なぜ版を」

 

遺族。

 

「政治へ使う?」

 

「当時の状況」

 

「夫は本を拾っただけ」

 

その注記。

 

《拾得》

 

「妻が言っただけ」

 

《家族証言》

 

証拠の種類。

 

分ける。

 

---

 

フリッツ。

 

《皇帝印刷工。改革集会参加。改革版を胸へ置かれた状態で発見。死後配置》

 

オスカー。

 

《帝国伝令。政治所属不明。皇帝版を胸へ置かれた状態で発見。死後配置》

 

死者を、相手の旗にしない。

 

---

 

碑の最後。

 

《この広場で死んだ者たちは、同じ一節を違う言葉で読んだ》

 

ヨハン案。

 

遺族。

 

反対。

 

「読んでいない者も」

 

修正。

 

《この広場で死んだ者たちは、一つの古語をめぐる二つの版が流通した日に死亡した》

 

冷たい。

 

事実。

 

「意味が」

 

「必要?」

 

最終。

 

二文。

 

事実と。

 

《誰の版を持っていても、死者は版の所有物ではない》

 

採用。

 

---

 

エルザは、碑の前で子供たちへ朗読を教える。

 

皇帝版の少年。

 

改革版の少女。

 

あの日。

 

生存。

 

「原典」

 

読めない。

 

「逐語訳」

 

《権威は、灯の下に置かれる》

 

「意味は」

 

少年。

 

「皇帝へ従う」

 

少女。

 

「皇帝が答える」

 

「どちら?」

 

エルザ。

 

「二人の解釈」

 

「先生は」

 

「権威を持つ者は、神と人の両方へ責任を負うと思います」

 

「それが正解?」

 

「私の答え」

 

「間違う?」

 

「はい」

 

子供。

 

困る。

 

「先生なのに」

 

「先生だから、間違えた時に直します」

 

---

 

## 二十二

 

帝都の夜。

 

三つの印刷所が、同じ頁を刷っていた。

 

原典。

 

逐語訳。

 

解釈。

 

それぞれ枠。

 

皇帝派注釈。

 

改革派注釈。

 

聖座注釈。

 

余白。

 

読者記入欄。

 

「書き込んでよい?」

 

信徒。

 

「聖典へ?」

 

「注釈頁へ」

 

「自分の言葉を」

 

「神の言葉と分けて」

 

小さな線。

 

それだけ。

 

だが、その線がなければ。

 

人は自分の言葉を神の言葉として印刷する。

 

---

 

皇帝コンラートは、夜の執務室で訂正版を見る。

 

王冠。

 

机。

 

聖典。

 

「どれが正しい」

 

宰相アウグスト。

 

「陛下は」

 

「皇帝版の意味を信じる」

 

「では」

 

「だが、本文へ入れるべきではなかった」

 

「改革版は」

 

「危険だ」

 

「禁止を」

 

「しない」

 

「なぜ」

 

「余が禁止すれば、共同体へ答えよという文が正しかったと証明する」

 

宰相。

 

「では、許すと」

 

「冠が灯よりという文も、余が命じれば疑われる」

 

王は、自分に都合のよい真理を命令できない。

 

命令した瞬間。

 

都合のよさが証拠になる。

 

「難しい」

 

皇帝。

 

「かなり」

 

---

 

ヨハン・アイゼンは、翻訳院の宿舎で一人。

 

二冊。

 

訂正版。

 

原典。

 

火刑台。

 

広場。

 

五十七。

 

「私の言葉ではない」

 

何度言っても。

 

人は、彼の名を。

 

皇帝版を憎むために。

 

改革版を守るために。

 

使う。

 

彼は紙へ書く。

 

《この訳は、私の最終回答ではない》

 

線を引く。

 

《最終回答は存在しない》

 

止める。

 

それもまた。

 

誰かが標語にする。

 

破る。

 

新しい紙。

 

《第十二章第七節について、私は現在、次のように考える》

 

《権威は所有物ではなく、説明を求められる務めである》

 

《ただし、この解釈も、原典そのものではない》

 

署名。

 

日付。

 

改訂可能。

 

固定しない。

 

---

 

二つの聖典は、帝国を二つには割らなかった。

 

完全には。

 

皇帝も。

 

改革派も。

 

教会も。

 

自分の版だけを真理とすることを、諦めなかった。

 

完全には。

 

人々は、同じ言葉を違う意味で読み続ける。

 

それを止めることはできない。

 

止めようとすれば。

 

読む者を止めることになる。

 

帝国が作ったのは、正しい一冊ではなかった。

 

どの言葉が原典で。

 

どの言葉が翻訳で。

 

どの言葉が人間の解釈なのか。

 

区別する線だった。

 

細い線。

 

紙の上の。

 

剣より軽い線。

 

それでも、五十七人が死んだ後にしか引けなかった線だった。

 

---

 

東へ向かう馬車の中。

 

リヴィアは、盗まれた校正票へ印を押す。

 

共同翻訳委員会の本物の印。

 

空欄。

 

新しい文章。

 

《鍵を持つ者は、門を閉じよ》

 

オルシャ。

 

七つの鍵。

 

一つの聖地。

 

三つの宗派。

 

数え切れない巡礼者。

 

そして、行方不明になった一つの鍵。

 

聖典が王冠を揺らした次は。

 

聖典が門を閉じる。

 

門が閉じれば。

 

外にいる者は敵になる。

 

中にいる者は、人質になる。

 

灰冠自由会議は、一つの言葉を二つに割るだけでは満足しなかった。

 

次は。

 

一つの鍵を、七人全員が奪い合う理由を作ろうとしていた。

書き溜めていた分のストックがほぼ尽きてきましたので… 更新頻度についてアンケートをさせていただきたいと思います。 以降の更新頻度はどの程度がよいでしょうか?

  • 死ぬ気でがんばれ
  • 可能な範囲でがんばれ
  • そんなに急ぐこたーないぞ
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