【1】静寂
朝。
風はなかった。
ザルツ南方の平野に、両軍は展開している。
王国軍。
帝国軍。
数千の兵が、互いを見据えていた。
誰も動かない。
ただ――
待っている。
「……重いな」
ヴォルフラムが呟く。
「ええ」
アルベリクは答えた。
「これが“戦争”です」
【2】陣形
王国軍は重厚だった。
中央に重装歩兵。
両翼に騎兵。
後方に弓兵。
典型的な正面決戦の布陣。
一方、帝国軍は違う。
散開した騎兵。
柔軟な配置。
「来るぞ」
ヴォルフラムが言う。
アルベリクは頷いた。
「ええ」
「どう動く」
「待ちます」
【3】開戦
最初に動いたのは帝国だった。
騎兵が走る。
一直線ではない。
波のように、揺れる。
「……来たか」
アルベリクの目が細くなる。
「中央は動かすな」
命令が飛ぶ。
「弓兵、準備」
矢が番えられる。
距離が縮まる。
「撃て」
空が黒くなる。
【4】機動
サイードは矢の軌道を見ていた。
「浅いな」
「当たるわよ」
ザフラが叫ぶ。
「問題ない」
彼は手を振る。
騎兵が分裂する。
矢は空を切る。
「左右に展開」
命令が走る。
王国軍の側面へ。
「囲む気か」
サイードは呟く。
「ならば――」
【5】衝突
カスパーの隊に命令が届く。
「前進だ!」
「ようやくか!」
彼は笑う。
「行くぞ、野郎ども!」
盾がぶつかり合う。
槍が突き出される。
帝国騎兵が迫る。
「来い!」
そして――
激突。
衝撃。
悲鳴。
血。
「押せぇぇぇ!!」
カスパーが叫ぶ。
だが、相手は止まらない。
流れるように、すり抜ける。
「なんだこいつらは!」
【6】崩し
サイードは戦場を俯瞰していた。
「重い」
王国軍は強い。
だが遅い。
「削る」
騎兵が再び突入する。
今度は別の角度から。
「統制を崩せ」
ザフラが笑う。
「楽しいわね」
戦場が歪む。
隊列が乱れる。
そこに――
「今だ」
サイードの声。
【7】罠
アルベリクは待っていた。
この瞬間を。
「中央、前進」
「!?」
ヴォルフラムが目を見開く。
「今か!?」
「今です」
重装歩兵が動く。
遅く、だが確実に。
「圧し潰せ」
帝国軍の突撃の“隙間”に、楔のように突き刺さる。
「……そう来るか」
サイードが呟く。
【8】極点
戦場は混沌だった。
トビアスは走っている。
何を伝えたかも覚えていない。
ただ――
「生きたい」
それだけだった。
その視界に。
ザフラ。
再び。
「またね!」
彼女は笑いながら斬りかかる。
「うわあああ!!」
トビアスは転ぶ。
刃が――止まる。
「……遅い」
ザフラは舌打ちする。
背後から槍が迫る。
「チッ!」
彼女は跳んで回避する。
「次はないわよ」
そう言って離脱する。
トビアスは動けなかった。
【9】決着
夕刻。
戦いは終わった。
両軍とも、限界だった。
「……引け」
サイードが言う。
「いいの?」
ザフラが問う。
「これ以上は無意味だ」
王国側。
アルベリクもまた、同じ判断を下していた。
「追うな」
「なぜだ」
ヴォルフラムが問う。
「これ以上は損です」
【10】結果
戦場には、死体が残った。
数えきれないほどの。
「勝ったのか?」
ヴォルフラムが言う。
アルベリクは答えない。
ただ――
「いいえ」
静かに言った。
「始まっただけです」
【11】理解
夜。
サイードは火を見つめていた。
「どうだった?」
ザフラが座る。
「強いな」
彼は言う。
「敵は」
そして続けた。
「だが――」
火が揺れる。
「終わらない」
【12】同じ結論
アルベリクもまた、同じことを考えていた。
「終わらない」
彼は地図を見る。
線は増え続ける。
戦場も。
兵も。
死も。
「……構造が完成した」
誰も止められない。
戦争は、もう。