『血と香料の戦争』― 灰燼の回廊 ―   作:MOZIO

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第6編「灰燼の会戦」

【1】静寂

 

朝。

 

風はなかった。

 

ザルツ南方の平野に、両軍は展開している。

 

王国軍。

帝国軍。

 

数千の兵が、互いを見据えていた。

 

誰も動かない。

 

ただ――

 

待っている。

 

「……重いな」

 

ヴォルフラムが呟く。

 

「ええ」

 

アルベリクは答えた。

 

「これが“戦争”です」

 

【2】陣形

 

王国軍は重厚だった。

 

中央に重装歩兵。

両翼に騎兵。

後方に弓兵。

 

典型的な正面決戦の布陣。

 

一方、帝国軍は違う。

 

散開した騎兵。

柔軟な配置。

 

「来るぞ」

 

ヴォルフラムが言う。

 

アルベリクは頷いた。

 

「ええ」

 

「どう動く」

 

「待ちます」

 

【3】開戦

 

最初に動いたのは帝国だった。

 

騎兵が走る。

 

一直線ではない。

 

波のように、揺れる。

 

「……来たか」

 

アルベリクの目が細くなる。

 

「中央は動かすな」

 

命令が飛ぶ。

 

「弓兵、準備」

 

矢が番えられる。

 

距離が縮まる。

 

「撃て」

 

空が黒くなる。

 

【4】機動

 

サイードは矢の軌道を見ていた。

 

「浅いな」

 

「当たるわよ」

 

ザフラが叫ぶ。

 

「問題ない」

 

彼は手を振る。

 

騎兵が分裂する。

 

矢は空を切る。

 

「左右に展開」

 

命令が走る。

 

王国軍の側面へ。

 

「囲む気か」

 

サイードは呟く。

 

「ならば――」

 

【5】衝突

 

カスパーの隊に命令が届く。

 

「前進だ!」

 

「ようやくか!」

 

彼は笑う。

 

「行くぞ、野郎ども!」

 

盾がぶつかり合う。

 

槍が突き出される。

 

帝国騎兵が迫る。

 

「来い!」

 

そして――

 

激突。

 

衝撃。

悲鳴。

血。

 

「押せぇぇぇ!!」

 

カスパーが叫ぶ。

 

だが、相手は止まらない。

 

流れるように、すり抜ける。

 

「なんだこいつらは!」

 

【6】崩し

 

サイードは戦場を俯瞰していた。

 

「重い」

 

王国軍は強い。

だが遅い。

 

「削る」

 

騎兵が再び突入する。

 

今度は別の角度から。

 

「統制を崩せ」

 

ザフラが笑う。

 

「楽しいわね」

 

戦場が歪む。

 

隊列が乱れる。

 

そこに――

 

「今だ」

 

サイードの声。

 

【7】罠

 

アルベリクは待っていた。

 

この瞬間を。

 

「中央、前進」

 

「!?」

 

ヴォルフラムが目を見開く。

 

「今か!?」

 

「今です」

 

重装歩兵が動く。

 

遅く、だが確実に。

 

「圧し潰せ」

 

帝国軍の突撃の“隙間”に、楔のように突き刺さる。

 

「……そう来るか」

 

サイードが呟く。

 

【8】極点

 

戦場は混沌だった。

 

トビアスは走っている。

 

何を伝えたかも覚えていない。

 

ただ――

 

「生きたい」

 

それだけだった。

 

その視界に。

 

ザフラ。

 

再び。

 

「またね!」

 

彼女は笑いながら斬りかかる。

 

「うわあああ!!」

 

トビアスは転ぶ。

 

刃が――止まる。

 

「……遅い」

 

ザフラは舌打ちする。

 

背後から槍が迫る。

 

「チッ!」

 

彼女は跳んで回避する。

 

「次はないわよ」

 

そう言って離脱する。

 

トビアスは動けなかった。

 

【9】決着

 

夕刻。

 

戦いは終わった。

 

両軍とも、限界だった。

 

「……引け」

 

サイードが言う。

 

「いいの?」

 

ザフラが問う。

 

「これ以上は無意味だ」

 

王国側。

 

アルベリクもまた、同じ判断を下していた。

 

「追うな」

 

「なぜだ」

 

ヴォルフラムが問う。

 

「これ以上は損です」

 

【10】結果

 

戦場には、死体が残った。

 

数えきれないほどの。

 

「勝ったのか?」

 

ヴォルフラムが言う。

 

アルベリクは答えない。

 

ただ――

 

「いいえ」

 

静かに言った。

 

「始まっただけです」

 

【11】理解

 

夜。

 

サイードは火を見つめていた。

 

「どうだった?」

 

ザフラが座る。

 

「強いな」

 

彼は言う。

 

「敵は」

 

そして続けた。

 

「だが――」

 

火が揺れる。

 

「終わらない」

 

【12】同じ結論

 

アルベリクもまた、同じことを考えていた。

 

「終わらない」

 

彼は地図を見る。

 

線は増え続ける。

 

戦場も。

兵も。

死も。

 

「……構造が完成した」

 

誰も止められない。

 

戦争は、もう。

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