磁石みたいな呪力してたら厄ネタも寄ってくるんだが 作:トルへパ
土御門家から帰ってきて一か月。伏黒と一緒に任務をこなし、時刻は昼の一時半。そろそろお腹もすいてきたので、近くのファミレスに入り料理をとドリンクバーを頼み終えたとことだった。
「お疲れ。今回は楽な任務だったな。伏黒の式神…玉犬だっけ。おかげですぐに呪霊を見つけれたし」
「・・・」
なぜか伏黒は黙り込んでいる。思えば任務が終わってからずっとこんな調子だ。俺なんか悪いことしちまったのか?
なんとなく気まずくなっていると伏黒が口を開く。
「お前、なんかめっちゃ強くなってるな」
「そうか?」
「体術もできるようになってるし、呪力操作も今までより磨きがかかってる。この前土御門家に行ってから簡易的な式神も使うようになった。後何より」
そういうとこちらをじっと見て
「背伸びすぎだろ。
「一昨日測ったら3㎝伸びてた。今は185㎝だな」
陽明さんが占っていた通り、俺はあれ以降背が一気に伸び始めた。手足が伸びて格闘戦の感覚も結構変わったので慣れるまで苦労した。虎杖には感謝しないといけない。向こうからすると歯ごたえの無い相手だろうに根気強く相手してくれた。おかげで今までより強くなったと思う。
「五条先生といい蓮奈さんといい、あの家系が背が高いのはわかるが、お前もかよ」
「先生なんか190あるもんな。ていうか、俺は違うだろ。養子なんだから」
とはいったものの、この前聞いた話だと400年前に五条家に嫁入りして子供が生まれたといってたから、一応五条家の血が流れているということはできるだろうか。その意味では間違っていないかもしれない。
のどが渇いたのでドリンクバーを取りに行き戻ってくると、伏黒が渋い顔をしてコーラを睨んでいた。席について事情を聞くと、なんでも味が濃すぎて頭が痛いらしい。まさかと思いこちらも口をつけると、明らかに味が濃い。これは原液だ。出が悪いと思っていたが、水で薄まっていなかったかららしい。仕方ないので水を持ってきて食事を進める。
食事も終わりそろそろ出ようかという頃、伏黒が
「なあ、蒼夜は結界術得意だよな。少し相談したいんだが」
「? いいけど」
「俺は領域を展開するとき、どうしても外殻のイメージがうまくいかない。おかげで不完全な領域だ。お前結界術得意だろ?何かコツとかないのか」
「うーん…」
領域の外殻なぁ…正直俺は特になんも考えずに結界術を使ってるし、アドバイスできることはあまりない気がするが。そもそも俺は術式を持ってないので領域展開の勝手はわからんし。
領域展開は高度な結界術に生得領域を具現化して術式を付与することで完成する必中必殺の技。いや、別に必殺である必要はないんだっけか。とにかく領域に術式を付与するもの、のはずだ。伏黒の話だと、影を際限なく押し出していく形になるらしい。つまり術式の付与と生得領域の具現化はできてて、それをせき止める結界のイメージがつかないと。何か良いたとえは…あ、これか。俺はテーブルにあった原液のコーラを取り
「伏黒。領域展開ってのはこのコーラだ」
「真面目な相談なんだが?」
伏黒は俺がふざけていると感じたのか額に青筋を立てて睨んでくる。失敬な。こっちは割と真剣だぞ。抗議をスルーして話を続ける。
「慮域展開って術式への理解度、出力?が高くないとできないんだろ?つまりここでいう原液は術式の理解度ってことだ。んで、結界はそれを注ぐコップ、器って言うことなんじゃないか?だから外殻を作るんじゃなくて、術式を注ぐコップを用意するイメージでやってみるってのはどうだ?」
「なるほど?」
これがアドバイスになっているかはわからんが、伏黒は何かぼそぼそとつぶやきながら考えこんでいる。得るものがあったらいいのだが。領域展開に術式の理解度が必要なのは薄い理解度では領域を満たせないからなんだろう。…ん?薄める?そんな話をこの前聞いたような。
「そうか。領域展延ってそういう理屈なのか」
「どうした急に」
考え事から戻ってきていた伏黒が領域展延とは何か聞いてくる。俺は五条先生から聞いた、空の術式を流し込んで相手の術気を中和する技術であり、これを使えば五条先生の無下限を突破できることを伝える。そういいながら俺は原液のコーラが入っているコップに水を入れて混ぜる。こうすれば味が薄まって飲めるようになるだろう。領域展延の原理はこんなイメージなんじゃなかろうか。
「空の術式っていうのがよく分からなかったんだが、つまりは術式の出力を極限まで薄くして流す、原液という相手の術式と自分の術式の要素を極限まで薄くした水のようなものを混ぜることで中和することができるっていうことなんだろう。これなら術式の理解度が高いほど水の量が増えるから、使うには領域展開が使えるだけの容量が必要というのもわかる」
あの後蓮奈に聞いたら領域展延を使っている間は術式が使えないといっていたが、それは術式の容量を中和に使っているから。なるほど確かにこれは難易度が高いしリスクもある。流行らないわけだな。
「術式の中和…そういうのもあるのか」
「伏黒の場合は使ったら式神が消えちゃうだろうから使いどころ難しいだろうけどな」
伏黒はどうにか使えそうなものがないか考えこんでいる。最近の伏黒はなんか焦っているような気がする。五条先生に稽古をつけてもらうことも増えているし、あまり無理はしないでほしいが。
「まあ領域についても展延についても俺の推論だ。鵜呑みにするなよ、ていうか最近無理してないか?この前新しい式神調伏したって聞いたけど」
「…別に無理してねぇよ」
「そうか」
まあ俺がどうこう言ったところで変わるような奴じゃないか。
ちょっと気まずくなったので話の流れを変えようと別の話題を切り出す。
「そうだ、話変わるんだけどさ。伏黒は家族との思い出ってあるか?」
「家族との思い出?」
「この前土御門家で父親のことについて覚えてないかって聞かれたんだよ。正直母親と過ごした記憶も事故のせいかよく思い出せないし、そもそも父親は生まれる前に亡くなってたし。ただ…」
あの時父親のことを聞かれてからずっと感じていた違和感。小さい時に事故にあってから思い出せない記憶。俺が生まれる前に亡くなっているのに、本当になんとなくではあるが。
「
「は?どういうことだよそれ」
「俺もよくわかんねぇよ。でもこの前写真を見せてもらった時、なんか見たことあるなと思って。いつだったかはわかんないけど」
「他人の空似だったんじゃねぇか?世の中には似た顔が3人はいるっていうだろ」
「だから聞いてるんだよ、思い出とかって覚えてるもんなのかなって」
「俺が覚えてんのは親父が姉貴の母親と蒸発したことぐらいだ。思い出とか呼べるようなもんはねぇよ」
思わぬ重い内容に申し訳なくなった。そうだ、伏黒との家庭環境もあまりよくはなかったことを失念していた。
「悪い、嫌なこと聞いちまったな」
伏黒は気にしてないと続きを促してくる。あんまり聞くべきじゃなかったと後悔しながらも、聞きたいことを続けた。
「伏黒のお母さんは生まれてすぐ亡くなったって聞いたけど、親父さんが母親について話してたことはあったか?」
「そりゃあないことはなかったが」
そう。そのはずだ。
「俺には亡くなった父親について母親から聞いた記憶すらない」
いくら何でも覚えていなさすぎる。俺が生まれる前に亡くなっている父親についてはともかく、父親について母親から聞いた記憶もないのは不自然だ。まるで、
「…そもそもなんで
「?」
「別に引き取るだけなら養子にする必要ないだろ。俺は五条先生のおかげで禅院家に売られずに済んだが、別に養子になったわけじゃない。話を聞く限りじゃ蒼夜と俺の状況は近いのに対応が違う。そこには何か理由があったんじゃねぇのか?」
俺が引き取られた理由か。あまり考えたことなかった。確かに俺を育てるだけなら養子にする必要はない。でも、だとするとなんで、俺を養子に、自身の弟ということにしたのか。五条先生は、何を考えているのだろう。
店を出て、俺はどっと疲労を感じていた。いろいろと考えすぎて頭が痛い。昔のことを思い出そうとしたせいか、自分の現状に疑問を感じたからなのか。こうして話していく中で不自然な点がいくつもあったのに、気づかなかった。いや、気にしないようにしていた。朧気でしかない記憶、会ったことがないのに記憶にある父親、会うことのできない母親。きっとこれらは繋がっているのだろう。この数か月、強くなっていくにつれて知ろうとしなかったことに向き合わされている。もう少しで答えに手が届く感覚がある。同時に嫌な予感がする。謎が解けるのは、果たしていいことなのか。そんな風に悩む暇もないまま、否応なしに迫るかのような。そんな考えがぐるぐると回りながら、ベッドに倒れ込み泥のように眠りについた。
季節は10月。ハロウィンまで、あと少し。