桜が5月の間も咲き誇る桜の街にて、昔から桜を綺麗と思うことのなかった少年は、高一の春、巨大桜の下で地縛霊の少女に出会う。
出会い、そして別れとなるまでのお話。日記要素は後々の話があれば。

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とりあえず桜咲いてる時期には投稿しておきたかったので投稿します。新生活に入るので本編はしばらく投稿できないかもしれません。


別れ後

 

 6回目だったか。

 

 丘の上、低草が踏みわけられ作られた獣道。その先にある、今となっては散った大きな桜の木。

 

 異常な程に大きく、ある程度近づくと一度に視界で全貌を捉えられない。

 

 あの記憶の中、自分は桜の花も咲き誇るこの木にただただ圧倒されていた。

 今となっては、見慣れてインパクトは薄い。花、葉が散った今でも雄大さではあるのだが、しかし見劣りする。

 

 散った花の代わりか、今の木にはあの頃の記憶にはなかった縄が巻かれている。それのせいで、もはや神木にしか見えない。

 ここまでの桜の木だと周囲に神社でもありそうだが、それらしきものはなく質素な木の祠が一つ麓にあるだけ。

 

 自分は6回目となる祠の掃除をしようと布を取り出す。

 

 しかし、どこから飛んできたか、そよ風に運ばれてきたか祠の上にちょこんと桜の花びらがのっていた。

 布に巻き込むわけにもいかず、せっかくならと丁寧につまみ、祠を開け、中にある白い箱に入れておく。箱に入れる時、中には数枚の花びらと赤い桜桃が見えた。

 

 花びらを移したので、遠慮なく布を取り出し乾拭きしていく。もともと綺麗ではあるが、より綺麗になるように。掃除というより、心を込める意味合いの方が強いのかもしれない。

 

 

 木の麓には影があり、幾多もの枝を通り抜けた太陽の光がそれを照らす。祠にも光は注がれ、心を込めて綺麗にしたからか心なしか輝いているようにも見える。木なので反射しないのだが。

 

 

 

 桜の周りを回ったり、写真を撮ったり、触ったり、幹を背もたれにこの一年の出来事を語り尽くしたり。

 

 いつもの一連の流れを終わらせ、最後に、お酒をほんの少し祠の中の徳利に注ぐ。

 そして祠を閉め、固く閉ざす。

 

 これは、彼女の遺していったもの。そして、また彼女と胸を張って再会するための行為。1回2回、重ねて今は6回と。

 

 回数を重ねるごとにあの記憶への郷愁、追慕が強くなる。

 

 この桜の木に囚われ、しかし笑顔を絶やさず、神様気取りでいた彼女。

 

 頬を伝う雫は今、なんのためにあるのだろうか。

 

 

 しかし、そんな様を見せてばかりではいけないと意地を張り、辿ってきた獣道を戻る。桜の木の全貌が見えるほどに丘を降りた頃。風が、どこかからか声を運んできた気がした。

 ふよふよと舞う桜の花びら、それに誘導されてみた先、彼女と初めて出会った場所にいた気がする。

 

 

 あの時は、ずっと一緒にいようと思っていなかった。

 

 あの頃は、ずっと一緒にいれると思っていた。

 

 今はまた、いつか一緒にいれると思っている。

 

 

 時が流れ、長い果ての終わりが来たその時きまた会おうと約束した。

 だからこそ、本当に彼女が見えるのはその果ての先。約束が違えられていなければ、今見えるのはつくりだされた幻なのだろう。

 

 しかし、どうしようもなく体は雫をつくり、涙として流していく。

 その気になれば、彼女にはすぐに会いに行ける、そんな場所にいる。しかし、彼女はそれを望まないだろう。長い果てにまでちゃんと辿り着いて、ようやく胸を張れる。

 

 グッと拳を握り込み、ふっと力を抜く。たとえ、涙が流れていようと、かっこ悪い顔になっていようと。開いた手を振り、桜から目を背けて丘を下り切る。

 

 街に降り、まだ4月の始めなのに満開を終えた桜の木に囲まれる。その頃には、あの大きな桜の木が見えなくなっていた。

 見えないものの、その方角に一礼をする。

 バイクに乗り、車道上で静じていた桜の花びらを舞わせながら走る。次会えたならば、後ろに彼女を乗せて走ろうと思いながらハンドルを握る。

 

 すでに太陽の光はなく、月光へと移り変わっていた。

 久しぶりに、彼女と出会う少し前に始めたあの日記。あれを最初から読みたくなっている自分がいる。

 より、彼女への想いが強まってしまうと分かっていながらも。

 

 

 

 

 

 

 

 2026年4月6日。

 

 今年もこの日記を開き、書き記す。5年前から一年に一度、普段の日記とは別枠で書き始めたこの日記だが、これで6日分書かれることとなる。

 最近は雨も少なく、冷え込みが続くかと思えば急に暑くなったりと大変な一年だった。それでもあの桜の木は変わらず元気。花は咲かないけど。

 今後、歳をとってもあの丘を歩けるように足腰を鍛えていかないといけない。あの丘の獣道が残っている限り、自分は歩き続けたい。

 

 あと、書きたいことはまだまだあるが、それらは後回しとしする。今は、あの桜に縛られていた彼女、桃桜麗花と出会った頃からの日記を読み返すこととする。


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