元おじさんの転生者が生活魔法を極めていたら、なぜか賢者と呼ばれ始めた   作:せいかま

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2 元おじさん、生活魔法の研究を決意する。

 七歳になった。

 この世界では十歳からが仮の成人、十五歳からが本成人として扱われる。

 つまり、リネア姉さんが仮の成人として冒険者になった。

 もうすでに一番上のダリル兄さんは十六歳で成人して、父さんの直弟子になっている。

 一つ上のカイルと俺はまだまだ子ども扱いで、ちょっとした手伝いしかさせてもらえないものの、将来のことを考える必要に迫られつつある感じだ。

 カイルは正直乱暴だし周りにも嫌われているしで、これからどうするんだかって感じだが、俺はスキル構成からしてほぼ冒険者一択である。

 そのために、生活魔法の研究に勤しんでいた。

 リネア姉さんが冒険者――といっても見習いだけど――になったことで、家にいる時間が少なくなり、剣の鍛錬をする相手がいなくなったというのもある。

 カイルは剣術スキルどころか、戦闘系のスキルを持っていないから普通にやっても相手にならないので、俺には挑んでこない。

 最初に一方的にボコれると思って挑んだら、逆にボコボコにされたのが効いてるんだろう。

 

 何にしても、今は生活魔法だ。

 生活魔法といっても、その基本は概ね創作にでてくるそれから外れたりはしない。

 火種を生み出し、新鮮な水を生み出し、風を起こして洗濯物を乾かし、土を隆起させて畑作りを助けたり。

 光を発生させたり、逆に一定の場所を暗くしたりもできる。

 この世界には六大属性と呼ばれる魔法の属性があるが、生活魔法はその基礎中の基礎を誰でも再現できるというもの。

 

 誰でも、というのがミソだ。

 生活魔法は俺みたいにスキルを持っていなくても使うことができる。

 俺の母さんはスキルを持っていないし、むしろ父さんのほうが生活魔法スキルを持っていたりするらしい。

 父さんが生活魔法を使ってるところ、一度も見たことないけど。

 おかげで、特級生活魔法なんて持ってても、普通に考えたら宝の持ち腐れ。

 バカにされるのもわかるというものだ。

 とはいえ、特級っていうのは伊達ではないんだけど。

 

「下級、中級、上級、最上級、そして特級。普通の人間が持ってるスキルは最上級までで、特級ともなれば神にも等しい才能を約束される……か」

 

 俺は家に置いてあった本の一節を口にする。

 そういえばこの世界は識字率が高い、カイルですら最低限の読み書きはできるのだ。

 街に一つは寺子屋みたいな教育機関があるのが大きい。

 更には魔法で紙の印刷とかもやっているらしく、本も多数出回っていた。

 流石に漫画なんかの文化はまだないけど、娯楽小説くらいは期待できそうだ。

 で、その関係で我が家にも色々と本があるわけだけど、その中にあったスキルに関する説明で、特級について書かれていた項目がこれである。

 正確に言うと、特級に関する記述は()()()()だった。

 

「といってもな、生活魔法の神になって何ができるんだよ」

 

 これが火魔法の神だったら、ヤバすぎる魔法の威力で世界すら滅ぼせたんだろうか。

 でも生活魔法が神だったとしても、それで何かができるわけではないんだよな。

 前世の記憶を取り戻してから二年、俺は生活魔法についての研究を色々と行っていた。

 中でも威力を上げることにかんしては、結構な時間を費やしたと言っていい。

 しかし成果は、ほぼゼロ。

 どれだけ魔力を注ぎ込んでも、生み出す火種は火種に過ぎなかった。

 

「まぁこれが、使いにくいかって言われるとそういうわけじゃないけどな」

 

 ただ、別の角度からみれば成果がなかったわけじゃない。

 生活魔法に魔力を注ぎ込むと、その精度が上がる。

 ようするに、自由自在に操れるようになる。

 水を生み出す生活魔法、”魔法水”が良い例だろう。

 俺はこれを視認さえしていれば自由な位置に生み出すことができる。

 これがまた、非常に便利なのだ。

 

「こうして寝転がりながら、前世では味わうことのできなかった最高級の水を飲むこともできる……」

 

 前世で、寝ながらペットボトルの水を口に含むと、角度に気をつける必要があった。

 そんな心配一切なく、好きなときに好きな体勢で喉を潤せる。

 こんなに素晴らしいことって、他にあるか?

 まぁいっぱいあるけど、これもまた一つの私服ってやつだろう。

 問題は寝転がるにしてもベッドが硬いって点なんだけど――

 

「そこも俺ならなんとかできる」

 

 いいながら、俺は前世よりもずっと快適なベッドに身を委ねていた。

 ただ、端から見ればそれは奇妙な光景に映るだろう。

 なにせ今の俺は()()()()()のだから。

 魔法風、と呼ばれる生活魔法の一つである。

 風を起こす魔法だ。

 しかし自由自在にそれを操れるということは、風をその場に滞留させることもできるのではないか?

 この世界には浮遊や飛行といった、風で人を浮遊させる魔法が存在する。

 その応用で、風を一定の場所に浮かせ続けることで、俺はその上に立つことができるのだ。

 こうして、ベッド代わりに寝転がることもできる。

 これがまた、雲の上に寝転がるような快適さを生む。

 更に風は個体ではないから自由に形を変えられるから、オーダーメイドの布団を常に自分で用意しているような感覚だ。

 

「いやあ、快適だねぇ」

 

 なんて一人でゴロゴロしていると、母さんに声をかけられた。

 夕飯の準備を手伝ってほしいらしい。

 俺は生活魔法の使い手な上に、前世では多少なりとも一人暮らしで自炊をしてきた実績がある。

 今この家の中で、母さんの次に家事ができるのは俺だと言っても過言ではないのだ。

 

「”魔法水よ出ろ”」

「ん……」

 

 そうして二人で家事をしていると、ふとあることに意識が向いた。

 母さんの生活魔法を使う詠唱と、俺の詠唱が違う。

 これはもとからしってはいたことだけど、どうして違うのかはあまり考えてこなかったのだ。

 母さんの方が詠唱は長い。

 これはつまり、詠唱として母さんのほうが未熟ってことだ。

 言葉っていうのは着飾れば着飾るほど難解になっていく。

 「好き」が「月が綺麗ですね」なんて言葉になったりするように。

 だからより洗練された詠唱のほうが、魔法の効果は強くなる。

 しかし同時に、制御が難しくなるのだ。

 より感覚的になっていくというか……まぁどっちにしろ、マニュアルを見ながらやるのと見ずにやるのとでは、難易度が変わってくるのは当然のこと。

 

「でもやっぱり、楽に効果が良くなったほうが母さんも助かるよな」

「んー? よくわかんないけど、そうねぇ」

 

 とはいえ、具体的にどうすればいいのかなんて、簡単に思いつくわけもなし。

 どころか俺は基本感覚だけで生活魔法を使っているから、これを他人に伝えるのも難しいだろう。

 なんとか誰でも簡単に生活魔法の精度を向上させつつ制御も簡単にできないものか。

 

「料理の基本は根気よぉ、じっくりことこと煮込んで、美味しい料理を作るのよー♪」

「楽しそうだなぁ」

「楽しいものね」

 

 なんて話をしながら、夕飯の準備を進めていく。。

 そうして、ゆっくりと煮込まれていく料理――今日はシチューだ、素材は前世の品種改良されまくったものと比べるとまだまだ見劣りするけど、レシピの数は前世と比べて悪くない――を眺める。

 すると、ふと俺はあることに気がつく。

 

「――別に詠唱が洗練されてるのと、詠唱の長さって関係なくないか?」

「急にどうしたの?」

「あ、ごめん。ちょっと考え事」

「うふふ、楽しそうねぇ」

「楽しいからなぁ」

 

 要するに、洗練と言っても色々種類があるんだ。

 俺が魔法水を「魔法水」だけで出現させるのも、無駄を削ぎ落とした効率の極みみたいな洗練さ。

 逆に、装飾をゴテゴテとつけまくって、かつそれを美しいと思わせるのも洗練。

 そうだ、逆もありなんだ。

 今の生活魔法の詠唱は、誰でも覚えることができる。

 けど、無駄は多い。

 本来ならそれで十分だった。

 生活魔法に研究時間を割く魔法使いもそういないだろうし、人々が最低限使いやすければ問題ない。

 これが今までの生活魔法だったのではないだろうか。

 でも、いまここに、生活魔法の神とも呼べる存在がいる。

 だったら――”改善”もできるんじゃないか。

 誰でも覚えやすく、より洗練された詠唱を、俺は作れるはずだ。

 

「……まぁ、研究対象にしてみるのも悪くない……のか?」

 

 自分の生活環境改善に直接寄与することではない。

 しかし、この世界自体の文明レベルが向上することは、俺にとってもメリットだ。

 特に、水が良くなれば普段の母さんが作る料理ももっとうまくなるかもしれない。

 即物的な効果があるなら、試してみるのも悪くないかもしれないな。

 あんまりやりすぎても目立ってしまうが、周囲の生活環境が上がるのは俺にとっての命題だ。

 バランスよくやっていくとしよう。

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