嵐の始まり   作:KF

1 / 2
1 FIRST WAVE 上

 

 

 負傷した仲間を引き摺りながら後退する。

 片足がアーマーごと焼け爛れ、肉の焦げる嫌な臭いが鼻腔を突いた。友を引き摺る男の歯はカチカチと鳴り続け、眼前に広がる光景が信じ難いとばかりに目に涙を浮かべていた。

 

 

 

 2022年初頭。

 

 地球文明は、突如として宇宙からやってきた生命体による攻撃を受けた。

 これに対し、全地球防衛機構は即座に軍を対応させ、戦火は瞬く間に地球全土へと広がる。

 

 プライマー戦争の幕開けであった。

 

 

 

 

 

 

 ───爆音。

 耳鳴りが酷い。まるで何も聞こえない空間に一人きりみたいだ。砂煙が視界を被って何も見えない。

 

 何かに押し倒される。

 

 違う。

 

 

 

「───ろ! 起きろ! 新兵、無事か!?」

 

「う……あ……ッ」

 

 痛みに呻く。

 小隊長に何かの残骸の陰から引き摺り出された。

 

 目の前にあるのは、巨大な飛行物体。翼もなく、円盤状の機体の下部には実弾を用いない未知のエネルギー砲塔が搭載されている。

 敵性勢力プライマーの展開する戦闘ドローンだ。

 

 ドローンといえば小さなものをイメージするが、これは人が数人集まっても足りないほどに巨大な円盤だ。

 

 俺達ハンターチームは、レンジャーという精鋭歩兵として主戦場に配置されている。

 

 それが、たった一度の交戦でボロボロ。逃げ帰ってきたところにドローンの追撃があって、俺達の命は風前の灯火だった。

 

「よし、生きてるな……ジョー、メディックは?!」

 

「もう死んでます、曹長!」

 

 俺より少し年上くらいのレンジャーが叫び返した。ドローンによる奇襲で、ただでさえ半壊に近い損耗率だったハンターチームは、その人数を数人にまで減らしていた。

 

(四十人の精鋭小隊がこのザマか…)

 

 曹長は俺と同じことを考えたのか、舌打ちした。

 生きているとわかったからか、曹長は俺から手を離し、近くのドローンにショットガンの弾丸をバラ撒き、応戦する。

 

「新入り、向こうで倒れてる奴がAAPMを持ったまま死んでる。援護するから拾って戻ってこい」

 

 背中を向けながら曹長は言う。俺はただ立ち上がり、そのまま走った。返事なんてする暇もなかった。

 AAPMというのは、対空用個人携行ミサイル。戦闘ヘリや戦闘機を相手するためにEDFが配備する、通称エメロード・ミサイルランチャーだ。

 

 対空戦闘にはミサイルを搭載する車両や狙撃部隊による攻撃で対応していたが、戦力の磨耗を受けて戦前のモデルを改良した型を各地に配備しているらしい。

 

 弾の尽きかけたライフルを握りしめて走る。留め具が破損してヘルメットが滑り落ちそうになるのを必死に留め、ただひたすらに味方の死体のもとまで駆けた。

 

 途中、目をつけられたか、こちらに迫っていたドローンに狙いを定め、ライフルの引き金を引いた。弾倉内の全ての弾薬を吐き出す勢いで放たれた銃弾は、ドローンの機関部に命中したか、敵が轟音と共に黒煙を挙げて墜落していく。

 

 呆気に取られる間もなく、使命を思い出して走り出す。AAPMまで後少し。

 

 取った。

 握りしめたグリップに力が籠り、セイフティを解除すると、羽毛のように軽いトリガープルを引いた。

 

 弾が出ない。

 

 …そんなはずは無い。

 弾倉を確認した。

 

 弾は、ある。

 

 ロックオンが出来ていなかったようだ。

 焦って事前準備を無しに引き金を引いてしまったらしい。改めてカメラユニットを敵に向け、ピコン、という小気味良い電子音が発せられるのを聞き届けた俺は、もう一度ミサイルのトリガーを引いた。

 

 1、2、3、4発。

 強化弾頭を搭載した小型ミサイル群がドローンの群れに殺到する。戦果を確認するまもなく、リロードに移る。

 

 装弾が始まったあとも、敵の砲火は止まない。焦りが手許を狂わせそうになるのを必死にこらえた。

 

「…っ!?」

 

 レーダーがけたたましいアラートを発した。

 視線を落とすと、そこには膨大な数の赤いポインタ。

 

 俺はすぐに走り、脇目も振らず味方の下に戻った。

 そして叫んだ。

 

「曹長、敵の大群です! 囲まれています!」

 

「わかってる! クソ…本部に応援は!?」

 

「即応部隊はどこも出ずっぱりで、割ける戦力は無い…とのことです」

 

「クソッ!」

 

 頼みの綱は切れ、周囲を囲まれるという絶体絶命の状況。俺はまだ、トリガーを引いて敵を倒すだけだからマシだが、ここから部隊をどう動かすか考えなければならない小隊長の心労は計り知れない。

 

「クソ、クソ! ハンターチームは全員着いてこい! 死体はもう放っておけ!」

 

 もうどうすべきか分からず、曹長が叫ぶ。敵の大群、しかも恐らくは敵軍の最小単位にして最大の脅威であるα型の大群に包囲されている。しかも数を減らしたとはいえ、ドローンの脅威も拭い去れてはいない。

 

 絶対包囲網とでも言うべき絶望だ。

 

 

「弾丸をありったけぶち込め! 殺せば殺すほど長生きできるぞ!」

 

 勝ちの目はない、そう自分から宣言しているようなものだ。

 それでも、そうせざるを得ない。それ以上のことは何も出来ない。

 

 俺は一兵士に過ぎない。

 一人で戦局を覆す英雄なぞ、どこにもいない。

 

 

 

 

『こちらはニクス隊。レンジャーチーム、無事か!』

 

 天からの声。それは味方機甲部隊の無線通信だった。

 EDFの誇る最新型戦闘マシーンを駆る部隊からの通信。例え誰であろうと、死を待つだけだった俺達には、まさに恵みの雨のようなものだった。

 

『予定されてた作戦区域に何の反応もないから、味方の反応を追ってきたんだ。まさか囲まれているとはな』

 

「どこの所属か分からんが、有難い!」

 

『とりあえず援護するぞ。全機ミサイル弾を放つ、各員巻き込むなよ!』

 

 コンバットフレーム・ニクスの最新機種には、地対地、地対空両用の汎用型連装ミサイル砲が搭載されている。ミサイルのロック方式は、高熱源反応とレーダーユニットの複合計算。これのお陰で敵のみを狙い、味方にはミサイルが飛ばないようにしている。

 先程俺が使ったエメロード・ミサイルと同じ誘導方式を採用しているが、戦術外骨格に搭載するほどの大型のため、威力は桁違いだ。

 

『ロック完了! …撃て!』

 

 かつての対空ミサイルであれば、近接信管を用いて破片を直撃させるPF式であったが、プライマーが運用する怪物相手では金属片程度では威力に不足が見られたため、直撃時炸裂させる接触信管式に推移したという。

 

 EDF制式採用のアーマーであれば、爆風の直撃でなければ耐えうる耐久性を持っているため、敵を殲滅するという目的ならば最優の選択肢である。

 

「ミサイルが来る! 支援が止み次第突破するぞ!」

 

 曹長の言葉通り、何十発ものミサイル群が大挙してα型の怪物に殺到する。それらは瞬く間に怪物の群れを薙ぎ払っていき、残り少ないとはいえ脅威だったドローンさえ一撃で粉砕していく。

 爆発に備えて屈んでいた俺達は、ミサイル攻撃に乗じて包囲の薄くなった箇所を集中的に攻撃し、突破を試みた。

 

 遠くにいる敵はまだ放置できた。

 だが、弾幕を抜けて噛み付こうとしてきた怪物が眼前に飛び出してくる。

 

「うわっ!?」

 

 短く叫びながらライフルを向けトリガーを引く。

 弾が出ない。

 

「ジャム!? いや、弾が!!」

 

 後ろに下がりながら予備弾倉を取り出す。しかし、怪物の牙は眼前にまで迫ってきていた。

 やられる───

 

 ──ドガン、巨大な鉄塊が生身を叩きつけるような、重く激しい銃声がすぐ横で聞こえる。

 それと共に目の前の怪物が吹き飛んだ。

 

「怯んでる暇はないぞ。味方の反応のあるところまで行けるな?」

 

 助けてくれたのは曹長だった。

 

「す、すみません!」

 

「礼なぞ要らん。走れ!」

 

 俺は感謝を込めた謝意を吐き出し、そのまま駆け出した。目の前の怪物にライフルの弾を浴びせかけ、先行していた味方と合流した。傍に聳えるニクスの勇姿たるや、父の背中を想起させるほどの安心感があった。

 

 ニクスはリボルバーカノンと一般に呼称される大型機関砲の弾丸を、これでもかと言わんばかりに怪物の群れに撃ち込み続ける。薙ぎ払うと形容しても足りないほどの弾幕が、次々とα型の怪物の甲殻を破っていく。

 

「無事だったか、新人!」

 

 撤退ポイントまで辿り着いていた先輩に腕を引かれ、倒れ込むように瓦礫の裏に押し込まれると、アサルトライフルの連射が狂ったように薬莢を吐き出していった。

 

「隊長ォ!」

 

 …だが、ニクスに搭載されたリボルバーカノンの弾幕の援護があってなお、曹長は敵の包囲を突破できていなかった。

 

 俺が無事に逃げ果せたのは、曹長が敵の中心地に残って囮になったからだ。怪物にも、攻撃してくる者と脇目も振らず逃げる者とでは、どちらが脅威か判断する程度の知能はあるのだろう。

 俺は先輩を援護する味方に加わって、同じようにPA-11ライフルの弾丸をバラ撒いた。

 

「隊長、こっちです!」

「ケン!!」

 

 曹長と親しかった伍長が名前を叫んだ。

 

 曹長はもう、声も聞こえていないと言わんばかりに周囲の敵を叩き続ける。EDFの制式採用するポンプアクションショットガンは、その威力からスローター、虐殺者の異名を持つ。

 その破壊力を存分に発揮し、ひとつのシェルが排莢される度に一体の怪物を粉砕し、貫通したペレットが更に奥の敵を砕く。

 

 その戦い方は、まさに百人力だった。戦前からEDFに所属してきた生え抜きの職業軍人で、プライマーとの戦争状態に入ったあとも数多くの戦線を生き抜いてきた男だ。

 

「うぉぉおおおおっ!」

 

 雄叫びが聞こえる。

 まるで俺達の声が聞こえていないみたいだ。

 

「逃げろ!!」

 

 伍長が叫んだ。みんな分かっている。俺達を生かして逃がすために囮になったことを。呼び掛けに応じる事はないのだろうことも。

 それでも、全員の心の支えである彼の事を呼ばない理由は無かった。

 

 居ても立ってもいられず、俺もライフルを握り締めて曹長のもとに駆け出そうとした。

 

 だが、首根っこを……正確にはうなじを守るアーマープレートを引っ掴まれて引き戻される。

 

「馬鹿野郎、奴がくれた命を無駄にするつもりか!」

 

 伍長の声は震えていた。

 

「守られてばかりは御免です!俺は行きます!」

 

 叫んだ。

 伍長は俺を見ていなかった。

 俺も曹長が戦っていたはずの場所を見る。

 

「曹、長──」

 

 どこにもいない。

 俺が目を離していた僅かな間に、伍長は曹長が敵に呑み込まれていく様を見ていたのだろうか。

 

 

 

『こちら、攻撃機DE-202。攻撃目標を視認。攻撃開始』

 

 遅れてやってきたのだろう攻撃機からの通信が入った。戦場の全員に通知するためのオープン回線だが、俺はそれを聞いて、憤りと安心が同時に来てしまった。

 もう少し早ければ曹長は助かったのか?

 それを知る術は、もうない。

 

 上空からのA1ミニガン、並びに150ミリ砲が降り注ぐ。破壊的な弾幕が、怪物丸ごと、地形を粉砕してしまう。

 

『味方は無事のようだな。間に合ってよかった』

 

 パイロットが安心させる言葉をかけてくれたが、それは曹長に届くことはないだろう。

 もう少し早ければ、なんて無粋な言葉は誰も出せない。助かったのは事実だし、助けに来るために数個分隊程度の戦力を地上・航空部隊問わず投入してくれた本部の事を、誰が責められるだろう。

 

 

 その日曹長は死んだ。

 後にそのエリアが怪物に占拠されてしまい、戦略核による巣の破壊が敢行されると、EDFは一時的に体勢を持ち直すことに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三年後。

 

 瓦礫と化した廃墟の街で勇ましく響く軍靴の音と共に、俺は───いや、俺たちは、とある作戦に従事していた。

 

 戦況は、まずこうである………。

 

 

 

『昨日、これまでにない規模の大型船が確認された。我々はこれをプライマーが地球侵攻のために用いる最大級の攻撃艦であると推測し、マザーシップと命名した。

 

 マザーシップは敵防御網の後方に陣取り、怪物を投下し続けている。この欧州での侵攻も長らく続いていたが、このマザーシップを破壊することができれば、プライマーの攻撃線を大きく押し戻せる。

 

 ───いや、もしかすれば、この戦争に終止符を打つことができるやもしれん。スカウトチームから得た情報を用いて敵勢力の展開から作戦を練っているが、諸君には苦しい戦いを強いることになる。

 

 だが、同時に人類が勝利を掴む唯一の機会である事も覚えておいてほしい。私からは以上だ。作戦決行は翌日、07:00!』

 

 

 

 

 ………昨日のブリーフィングの通りならば、敵の保有する最大戦力と目されるマザーシップを撃墜することができれば、絶望の渦中から一転、勝利を掴むことができるという。

 

 

 ──だが、しかしと言うべきか、やはりと言うべきか、マザーシップは敵にとっても最重要戦力らしく、人類の最大最後の反攻拠点であるここ、欧州マルセイユ基地にもプライマーの魔の手が迫っていた。

 

 マルセイユに集まったEDF各国部隊は、そうした戦況を鑑みてマルセイユ基地が招集した最後の一大戦力にして、最強の精鋭部隊であるというわけだ。

 

 

「しかし、マザーシップか。怪物を放逐していくだけで人類は息切れ寸前だってのに、なんでまた急に出てきたんだか…」

 

「士気の高揚だとか、最高戦力をぶつけて勝利を磐石にするだとかなんじゃないかって話だ。研究者連中は言いたい放題だぜ」

 

 行軍中、暇を持て余したレンジャー部隊の生存者が雑談に興じていた。俺達が歩む瓦礫の街は、ここがかつての仏国最古の都マルセイユであったとは信じ難いものだ。

 百万人近かった人口は、その殆どが虐殺され、数千人単位を残すばかり。数だけ膨大に用意された非常食を、恐怖に駆られた人々は毎日宴のように貪っていた。

 

「本部も言っていたが、これが俺達が勝てる最後の機会かもしれん。全力を尽くすぞ。」

 

「はい、少尉!」

 

 ()の言葉で部隊の全員が気を引き締めた。

 

 五年も無駄に生き延びた俺は、かつて一等兵だったのが今やかつての上官を越えて少尉だ。一個小隊どころか中隊ひとつを預かる立場になり、それに伴う重責や、戦闘の度に仲間を失う喪失感に苛まれてきた。

 

 だが、欧州本部の言うところの()()に俺達は該当しているようだ。そして、マザーシップの直接攻撃を担当する部隊は俺達()()()()

 

 俺達は怪物の撃破数最多を理由に呼ばれただけの、今次攻撃隊最大の『露払い部隊』であるというわけだ。

 

「敵母船の破壊には、()()が当たる。何度も言うが、俺達“スコールチーム”の仕事は彼らのもとに敵を行かせない事だ」

 

 俺達に護衛されるように、最強部隊である彼等は歩いていた。

 

 各戦線において多大なる戦果を挙げ、専用のレーザーライフルを支給されるに至った『Ω(オメガ)-1』。

 

 開戦初期に結成され、数々のジャイアントキリングを成した最強の降下翼兵(ウイングダイバー)『Ω-2』。

 

 そして国家間紛争の時代から生き残ってきた伝説の死神を隊長に持つ二刀装甲兵(フェンサー)『Ω-3』。

 

 彼らオメガチームと、彼等を直掩する多数のビークル部隊が、マザーシップへの直接攻撃チームである。

 

「見ろ、オメガチームだ!」

「中隊長は()()の男か…!」

 

 それは、チームと言うにはあまりに少なすぎた。

 

 例えば、敵の輸送船──テレポーションシップを破壊するのに必要なレンジャーは平均で十人前後とされている。既に展開された部隊との殲滅戦では、その倍の二十人。場合によっては戦闘車両やコンバットフレームの援護、空軍の支援、その他バックアップが得られる状態で臨むのが常道、定石というものだ。

 

 

 ──それが、オメガ-1はたったの四人。

 

 たったの四人で、どの大隊にも出来ない仕事をやって退けた。それこそ、()()()が現大尉となった功績、テレポーションシップの船団撃滅に由来する。

 僅かに四個小隊を率いて三十もの輸送船を一隻残らず破壊した男は、まさに伝説の英雄と呼ぶに相応しい。

 

 ──だが、その表情は酷く暗い。

 周囲が英雄だなんだと持て囃す一方で、彼もまた、俺やこの戦線に連なる皆と同じように…様々なものを失ってきたのだろう。

 

 

 

 …オメガ-2も、元はスプリガンというウイングダイバーきっての精鋭小隊だ。十名単位の飛行兵の精鋭部隊は、その名を聞くだけで現地兵士の士気が高まり、勝利をもたらす女神とまで比喩されるほどだ。

 

 それが、オメガというコードネームを与えられ、多くの激戦に駆り出される中、一人また一人と部下を失っていったのだろう。それでも尚、地上最大の脅威、前哨基地を破壊し、少数による大物撃破を成し遂げた。だが、その人数は当時の隊員数からは見る影もなく、僅かに五人を残すこととなった。

 

 

 

 …オメガ-3は、かつてグリムリーパーと呼ばれていた。それは史上最強のフェンサーチームにして、最も人員交代の激しい部隊でもある。二個の小隊を有し、本隊と分遣隊に分けられたそれらは、その戦場に幽鬼のように現れては、自らの肉体と引き換えに敵に確実な死を与え、部隊の名の通り、まさに死神(グリムリーパー)とされた。

 

 だがいつの時代も、身を切り崩す戦い方は持たないものだ。数多の戦場を渡り歩いた男たちは、幾人と傷つき倒れてゆき、今や隊長と副隊長、そして彼らに連なる実力を持ち、絶対的な心酔と共に付き従う一人の兵士が残るばかりである。

 

 

 ──合わせて、十二人。

 それが、マザーシップ攻撃部隊の全貌。

 

 

「…なあ、少なくないか?」

 

 誰もが思っていた疑問を口に出す。

 それは、言わない方が良かったと誰しも感じた。自分もそうだし、全員がそうだ。失いたくて失う命などあるはずもない。

 彼らとて、今英雄と持て囃される裏で何人もの同胞を失ってきたかは想像に難くない。

 

「──確かに、少ないかもしれんな」

 

 オメガ-1リーダー…大尉が切り返す。

 

「だが、俺達は仕事をやり通す。例え死んでもな」

 

 それは、並大抵の覚悟では発せられない言葉であろう。兵士の本懐は死ぬ事とは言えど、自ら望んで命を差し出す者はそうはいない。

 大尉はただ、人類の未来のために殉死する事を厭わない。そう言っただけだ。

 

 それを真似できるレンジャーが、この場に何人といるだろうか? きっと、誰も真似できない。英雄に縋るのが精一杯の一兵士には、彼らの往く背中を守ることだけが唯一できることだった。

 

「見えてきたぞ。敵の防御網だ。」

 

 誰かが言った。遠方にマザーシップの影だけが見え、その手前を無数のテレポーションシップや怪物、ドローン、レッドカラーが固めている。

 

 文字通り、主力だけで構成された無敵の城砦。地上戦力は怪物と船が、航空戦力はドローンが墜とす算段なのだろう。更に飛行型の怪物に限っては航空戦力と相互援護可能という、まさに鉄壁の防御。

 

 加えて、マザーシップやテレポーションシップが絶えずドローンと怪物を投下している。

 敵は今この瞬間も戦力を増強しつつあり、今突破できるか怪しい戦場が、時を待たずして誰も手がつけられなくなってしまう。

 

 それを、力押しの中央突破でどうにかするのが、最高の頭脳が集まったEDF最大最後のマルセイユ基地参謀官達の出した結論だった。

 

 集められる全ての精鋭を、ただ一丸と成して敵主力にぶつける。それ以上の策を弄するにはEDFは力尽きつつある、あるいは既に敵が強すぎて小細工では如何ともし難い、そんな状況なのだ。

 

「──作戦を開始するぞ!」

 

 オメガ-2リーダーが叫んだ。

 

「うおぉぉぉ!」

 

 呼応して、全員が鬨の声を挙げた。

 

 

『こちらオペレータ。各地の全隊員に告げます。』

 

 だが、煮えたような熱さの男達に冷や水を浴びせるような言葉が続いた。

 

『マルセイユ基地が包囲されました。

 

 これより全ての部隊は独立して戦闘に当たってください。オメガチームの道を切り開いてください。彼らをマザーシップにぶつける事ができれば、人類の勝ちです。かならず成し遂げてください。どうか、人類のために──

 

『クソッ、入ってきたぞ!』

『構えろ! …う、撃て! 撃てーっ!!』

 

 ───ひっ…!』

 

 

 

 通信が途切れた。

 

 オペレータは、文字通り作戦の支援をする情報支援担当官。レーダーにデータが送られて味方と敵の位置を把握できるのも、そういった機能や情報伝達能力をオペレータがまとめあげて全域に伝達できるからだった。

 

 それが無い。

 つまり、一切の支援なく……どこに敵がいるか分からない状態で──盲目のまま戦わなければならない。

 

 それでも───やらねばならない。

 

 曹長ならきっと、そう言ったろう。

 

 

 

「…情報支援が無くとも、やる事は変わらん。オメガチーム、行くぞ!」

 

 人類最後の戦いが幕を開けた。

 






 ハンマーチーム
 粒揃いである極東部隊の中でも上位に食い込む能力を持っていたチーム。装備を柔軟に変えることで、対怪物・対ドローンと幅広く対応していた。
 壊滅後、生存した隊員は各方面軍に再編されたが、生存者の安否は終ぞ確認されていない。

 少尉
 スコール中隊の指揮権限を持つ、当時のハンマーチームに所属していたレンジャー。元は民間人であり、開戦から一年ほど経ってEDFが若い男性を徴用し始めた時、軍属となった。

 オメガチーム
 後が無くなったEDFが新たに設立した、各戦線のエースを集めた独立戦闘部隊。レンジャー、ウイングダイバー、フェンサーと、ごく少数の分隊で構成され、それぞれ専用の装備を供与されている。彼等が挙げた戦果は他の追随を許さないほど。

 ビークルチーム
 コンバットフレーム、タンク、その他戦闘車両で構成された装甲車両部隊。元は随伴歩兵と共に運用される機械化歩兵部隊であったが、人員の減少に伴い、歩兵に護衛される立場から、歩兵を護衛する部隊としての運用に至っている。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。