嵐の始まり   作:KF

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2 FIRST WAVE 下

 

 

 

 

 欧州方面軍。

 複数の大国を防衛するにあたり、地球規模で見ても数多くの戦線を支え、そして恐らくは、最も多くの死者を出した軍でもある。

 

 幾人もの戦死者を抱えつつも、その絶え間のない攻勢を耐え凌ぎ続け、そして彼らはついに機会を得た。

 

 

 

 ───マザーシップ。

 

 あれを破壊すれば、戦争は終結する。

 頑なに信じ続け、人類は戦いの部隊を欧州へ移し、開戦から五年目にして漸く、血戦の刻を迎えた。

 

 

「マザーシップが、ドローンを展開しています!」

 

『アーム-1、ミサイル攻撃を開始する』

 

 敵母船が戦闘用の無人ドローンを展開し始め、それが瞬く間に覆われていく。だが備えはある。

 コンバットフレーム・ニクスが、ミサイルによる対空攻撃を実施する。それは誘導性能をそこそこに対装甲貫徹力を極限まで高めた、言わば最終作戦仕様とも言える代物で、一発当たるだけでドローンが塵となっていく。

 

「この戦いに敗北は認められない。各員の奮戦を期待する。スコール中隊……突撃!」

 

 俺の指示で、敵の防衛網に穴を開けるべく、120人ものレンジャー部隊が一斉に射撃を始めた。

 

 T3ストーク・アサルトライフルや、グラントM41・ロケットランチャー、KFF60・アンチマテリアルライフルなど、多種多様の弾幕が続々と敵軍に殺到する。

 弾丸、榴弾、それらは次から次へと迫り来るα型や、糸を吐くβ型の怪物を食い破っていく。

 

 それだけではない。すぐ近くの戦線では、オメガチームが獅子奮迅の働きを見せていた。

 

 試作型レーザー照射器・ブレイザーを的確に命中させ敵を倒していくオメガ-1リーダー。その部下三人も、卓越した射撃技術と身のこなしで、接近された敵を易々と捌き、そもそもリーダーの元へ敵を通さない。

 

 オメガ-2もまた、飛行ユニットのエネルギーの繊細な管理が継続しての空中戦を可能とし飛翔する敵の攻撃を次々に回避、致命的なレーザーランスを叩き込んで沈黙させていく。

 

 …だが、何より畏怖と敬意を抱くのは、オメガ-3だ。フェンサーの武器は大型砲とシールド。生身には持ち得ない大口径機関砲を持ち、接近された際にもその見た目に違わぬ堅牢さを発揮する。

 本来であればフェンサーとはそういうものだ。

 

 しかしながら、オメガ-3…もとい元となるグリムリーパーだけは、専用装備となるブラストホール・スピアを用いた捨て身の戦闘を敢行する。命とは誰しも惜しいもの。だが彼らにとってはその自らの命ですら、敵殲滅にかけるひとつのコストに過ぎない。

 シールドとスピアに命を賭ける、まさに鬼気迫る戦いぶりだった。

 

 盾を構え、槍を突き出せば、敵を二体、三体と瞬く間に貫いていく。反撃をものともせず、恐れを知らず進み続けるその姿は、何よりも戦場に愛された存在と言えた。

 

 

 だが、彼らとてレーダーの支援無くば乱戦においていつか背を取られるのは必定。

 

 元々はそういう予定ではなかったが、俺達はその背を守るための存在。彼らがマザーシップと直接刃を交える、その機会を作り出すための布石。

 俺達という杭が敵陣の楔に打ち込まれたならば、彼らはきっと人類の悲願を成し遂げるだろう。

 

 

「撃て! 弾は地獄には持っていけないぞ!」

 

 尤もらしい事を垂れて部隊の士気を高めるのも、隊長の務めだ。人類一丸となって臨む最大最後の反攻作戦に参加するのだ、部下は浮き足立っているだろう。

 彼らを統率し、導き、正しく使う。それが部隊指揮官としての役割であり、俺が最も苦手としている事だった。

 

 ひとりで戦う方が性に合っていた。

 仲間を失うことが辛いのなら、背を預ける仲間はいらない。必要に応じて出動しようとも、現地の見方と合流しようとも、生き残るのはいつも俺だけだった。

 

(部下を死なせる隊長か…)

 

 最悪の状況。それは、オメガチームが敗れ、全ての望みが絶たれることだろう。そうなれば俺は、きっと発狂してしまうかもしれない。

 

 だが間違いなく、オメガチームは事を成す。

 ならば俺のやることはたった一つ。

 

 

「敵中突破を試みる! スコール2、スコール3は俺に続け! 各小隊は残って敵を食い止めろ!」

 

 スローターE22TS・ショットガンを装備する、近接戦闘部隊。フェンサー、特にオメガ-3のスピアほどではないものの、優れた貫通性能と破壊力を併せ持ち、まさに前線突破にうってつけのハードパンチャー部隊だ。

 

「スコール2、行けます!」

「スコール3、腕が鳴るぜ…!」

 

 スコール三個小隊が集い、槍の穂先のように鋭い陣形を組む。

先頭はT4ストークMk.IIライフルを供与された俺達スコール1チームが務め、両翼を近接防御を担当するスコール2、スコール3チームが固める。

 

「オメガに負けるな! 俺たちレンジャーの意地を見せてやれ!」

 

「おお!!」

 

 ライフルをバースト射撃しながら、α型を薙ぎ払っていく。壁を形成するα型の一部を確実に削っていけば、必ず防御網を突破できるはずだ。

 

 T4ストークは、レンジャーの精鋭部隊に支給されるアサルトライフルの中でも最高位の性能を誇る。

 オメガ-1に所属する三人のレンジャーには、試作型ながら既存兵器のどれをも凌駕するという5()()が与えられているという話だが、この4型も非常に優れた武装だ。

 

 Mk.IIというからには、これはその4型の改良型である。その威力たるや、後期生産型コンバットフレームであるニクスB型、その更に後継機となるニクス・ミサイルガンの主砲リボルバーカノンの火力を上回る攻撃性能を実現する。

 

 これならば、一丁で全ての戦況に対応可能だ。

 対怪物、対ドローンと戦場を選べないこの戦争では殊更に有効である。

 

「敵一撃破!」

「上手いぞ!」

 

 優れた武器は優れた戦果を叩き出し、それはより選りすぐられた精兵を生む。

 スコール中隊が、怪物退治のエキスパートとされ、このマザーシップ攻撃作戦に召喚された理由。それこそが、この五年間を生き延び、選び抜かれた兵士による的確な状況判断とスキルにある。

 

 戦力の底上げのために量産されたT3ストークは、それぞれの小隊に与えられている。そうしたスコール小隊各位は防衛に徹し、この三部隊が彼等を守るために敢えて攻める。

 

 守るための攻め。攻勢こそが最大の守勢であるとし、それを成しうる能力と装備を兼ね備えたのが、このスコール三個小隊なのだ。

 

「リロード!」

「よし、カバーするぞ!」

 

 各小隊が十人単位の作戦人数を持つ。それはEDFにおける一個分隊としては最大の人数であり、何も無い平地で継続した火力を吐き出し続けられる最小単位でもある。

 

 互いを守り、互いの敵を撃つ。

 精錬された対怪物戦術は、俺が彼らに教え込んだものだ。それまでの、対人訓練を積んだ軍人の戦い方ではなく、直線的な弾道を描く射撃武器を持たない怪物が相手だからこその戦い方。

 

「リロード完了!」

「よし行け!」

 

 ガン、と破壊的な爆発音が一斉に響く。ショットガンの火力は怪物の甲殻を破って有り余るほどだ。

 怪物の鮮血が辺りを塗り潰すが、それを踏みにじり、どんどんと先へ進んでいく。肉薄されつつあるものの、すぐさまライフル部隊が狙い撃つ。対処し切れない数はショットガンが押し返す。

 

 そして後方は、スコール中隊のライフル部隊が担う。攻撃と防御。それを高いレベルで兼ね備えたこの部隊ならではの戦い方だ。

 

「見てください、隊長。敵が途切れる箇所が!」

 

 部下の言葉を聞き、敵全体に目を向ける。

 確かにまばらに散っている部分が見受けられた。そこを目指して突破すれば、オメガの道を作ってやれる。

 

「よし…全員、あのポイントを起点に敵を排除しろ!」

 

 この作戦にはスコール中隊以外にも多くの部隊が参加している。それこそ、欧州で活躍するエース部隊もその中には含まれているだろうし、北米のような怪物の爆撃を受けてなお生き残った選りすぐりのレンジャーもここに集まっていた。

 

 だからこそ、一個中隊単位程度なら好きに動かせる。それが勝利をもたらせるのなら、他の戦線は味方に任せ、内側から食い破らんと敵のはらわたに食いつこうとする。

 

「よく狙って撃てよ!」

 

 笑いが巻き起こる。

 拡散率を低く設定することで、全ペレットの命中精度を高めたTS型スローターE22であるが、所詮はショットガン。

 近距離の枠を越えれば、甲殻を貫く事もままならないほどに威力の減退を引き起こすものを、遠くの敵に狙ったところで仕方がないという冗句だろう。

 

「目的地は近いぞ、気を抜くな!」

 

 マガジンを抜き、捨てながら叫ぶ。

 予備弾倉はたんまりとある。使う人がいなくなるなら、それらが余るのはもはや必然と言えた。

 

 食料、武器、弾薬。

 それらの需要は高まり続けるのに対し、生産者は急速に減っている。だのに今こうして戦えているのは、兵士や民間人のような消費者までもが減ることで、一人当たりが使える弾薬の量が増えているからに他ならない。

 

「兵器工廠は無人稼働だと聞くが、皮肉だな」

 

「どうしました、隊長?!」

 

「…何でもない!」

 

 激戦のさなかにぽつりと零した独り言を聞き取るとは、耳の良い奴もいる。

 無駄な考えを捨て、眼前の敵を撃った。

 

「見えました! マザーシップへの直線道路です!」

 

「瓦礫が多いな…ビークルは通れるか?!」

 

『俺達の心配はするな。お前達はお前達の心配をしていろ』

 

 呼び集められたビークル部隊の、特に戦績が高いチーム。俺達より一足先に極東からこの欧州に派遣された彼らは、怪物全体の殲滅を任務とする駆除チーム。

 正式な部隊名こそないものの、その名自体が彼ら対怪物ビークル部隊の総称でもある。

 

『歩兵はニクスの陰に隠れていろ。』

 

『こちらAFV、ゴールドチーム。シルバーチームと共に前進するぞ!』

 

 俺達歩兵が切り開いた道を、磐石なものとするべくビークル部隊が先行していく。そのすぐ後ろをオメガチームが固まって移動する。怪物を瞬く間に薙ぎ倒す様は、まさに嵐のようだった。

 

『ドローンが来たぞ!』

 

『問題ない、迎え撃つ!』

 

 オメガ-1リーダー、大尉がレーザーを細かく照射する。スコープが無いらしく、狙撃には向かないそうだが、それを感じさせない長距離射撃は、機械のような正確さでドローンを叩き落としていく。

 

『ブレイザーなら、どんな敵だろうと…!』

 

『マザーシップが見えたぞ!』

 

 攻撃隊がマザーシップの直下に到達したようだ。

 付近に展開されている敵を次々と殲滅していくオメガチーム。その戦いぶりはまさに百戦錬磨と言えた。

 

「よし。スコール中隊は指定のポイントに集合、オメガチームを守れ!」

 

 部下を全て集め、防衛線を構築する。プライマーが築いたマザーシップ防御網、その更に内側に線を巡らせたことで、瓦礫の海はふたつの勢力を明確に二分させた。怪物を銃撃するレンジャー部隊の弾幕と、殺到し眼前の人間を殺そうとその牙を鳴らす怪物。

 

 俺達は、怪物を撃ち続けた。ライフル弾の雨が叩きつけられ、何体もの怪物が死んでいく。

 それを更に、輸送船が補填する。まさに文字通りの消耗戦だ。問題は、俺達にはあとがないことと、敵は無尽蔵に現れてくるということだ。

 

「通すな! 必ず止めろ!」

 

『クラウド中隊、押されている…!』

『こちらクエイク中隊! 敵が多すぎる!』

 

 別のエリアでも、足止め部隊が当初の目的通り防衛線を構築したようであるが、その敵の数に圧倒されているようだ。

 

「何としても持ちこたえろ! オメガチームの負担を少しでも減らすんだ!」

 

 激を飛ばす。

 ただ、いくらここぞという時に駆り出された精鋭部隊とはいえ、その中には半ば強制的に入隊して日の浅い兵士や、傷病者まで混じっている現実。だが、みな心は一つだ。

 

 その命の灯火ひとつを擲つ事でプライマーに勝利できるのなら。この命くれてやる。

 

 次々と足元に薬莢が散らばっていく。その一つ一つが、オメガチームの背中を押していると信じた証だ。

 

『うわあああっ!』

『クエイク4! 押し込まれた!』

 

 戦線のひとつがくじかれた。

 

 そこから流れてきた敵が、俺達のことも食いつくそうと押し寄せる。俺は単身、銃をそちらに向け身を翻した。

 

「隊長、どちらに!?」

 

『聞いていただろ、クエイク中隊が抜かれてる! 俺はひとりで支援に向かう、お前たちは敵を食い止め続けろ!』

 

 無茶を通さねば、この戦いには勝てない。それなら、俺一人が抜けることで少しでも向こうの助けになることを信じ、助けに行かねばならないだろう。

 幸い、この中隊は被害も少なかった。

 

 銃を手に瓦礫の山から立ち上がり、陣形を抜け味方の背を後ろに駆け出した───その時だった。

 

 

 

 

『お…おいおいおい!』

 

『…なんだ、あれは!?』

 

 

 戦闘中にも関わらず、その視線をマザーシップに向ける。それは言葉を聞いたからではない。並々ならぬ光量が、マザーシップの下部から発せられていたからだ。

 

 緑色の光を伴う大きな光球は、その周囲を取り囲むように展開される複数のピラーからの電磁的な可視エネルギーを経て集約している…ように見える。

 

『おい、アレ……まずいんじゃねえのか!?』

 

『まずい…退避を!』

 

 大尉の部下達が焦ったような声を出す。明らかに攻撃兵器…それも恐らくは、あってはならない規模の戦略兵器であることは想像に難くないからだった。

 

『光球が落ちてくる!』

 

『ま…待て待て待て!!』

 

 光が、落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 な……に、が…。

 

 

 

 

 

 ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「───!」

 

「   ───尉!」

 

 誰かが俺を呼んだ。

 

 

「少尉! 起きてくださいよ、少尉ぃ…!!」

 

 薄らと開いた目が、涙と、生暖かい何か…恐らくは鮮血で濡れそぼった。だが、激しい痛みはない。なにかの衝撃を受けたのだろう、体の節々が傷んだものの、それはさしたる問題ではない。

 

 なんだ、これは。

 

 

 クレーター。

 それも、複数個のクレーターがある。

 

 マザーシップとドローン以外に敵は見えなかった。

 

 だが、味方の姿もほとんど見えない。

 

「おい…スコール隊は…」

 

「中隊は壊滅です…クエイクも、クラウド中隊も。マザーシップの砲撃で…」

 

 ありえない。

 あんな破壊兵器を出し惜しみした理由はなんだ?

 

「て、撤退しましょう! 幸い怪物はいません。生き残った味方を集めれば、今なら───」

 

「逃、げて……何になる……」

 

 俺はふらつく足で立ち上がった。

 ライフルが使い物にならない。それを捨て、近くに落ちていたT4ストークを拾い上げた。

 

「戦うぞ…俺は……」

 

「負けてばかりの人生…最後に、一発…」

 

 痛みが引いていく。

 いや、感じなくなったと表現した方が近いだろう。それは多分、眼前の絶望的な状況を目の当たりにしたことから来る、アドレナリンのような何かしらの分泌が原因だと思える。

 

「お前は逃げろ……味方を集めて民間人を守りにいけ」

 

「し、しかし、少尉は…」

 

「俺は…あのマザーシップに一発、食らわせる」

 

 走り出した。静止する声も聞かず。

 マザーシップは悠然と飛び続けているが、あの砲台は焦げたような煙を各所から吹き出している。どうやら一発撃つ事にかなり長いクールダウンが挟まると思われる。

 

 それなら、今のうちに叩けば勝ち目はある。

 通りがけに落ちていたKFF60を拾う。予備弾薬はありったけ持っていけるが、スコープにヒビが入ってしまっている。元の持ち主の末路は想像したくなかった。

 

 狙撃銃を構え、トリガープルを強く引き絞った。

 

 鋭い音と共に発射された弾丸はそのまま真っ直ぐと砲台を目掛けて飛翔する。

 

 そして、貫いた。

 爆炎が着弾点から吹き出した。

 

「効いてる…マザーシップを撃墜できる!」

 

 次を撃とうとした瞬間、無線通信機から声が聞こえてきた。

 

『──誰か聞こえている者はいるか!』

 

 極東方面の本部司令官の声だ。ここが欧州にも関わらず、極東本部が出張ってきた…それはつまり、欧州本部の壊滅と共に、作戦の指揮権限が全て極東本部に渡ってしまったということなのだろう。

 

「こちらは欧州派遣部隊、スコール1リーダー!」

 

『聞こえないのか、誰か応答しろ!』

 

 俺の声が届いていない…。

 よく見れば、通信機のマイク部分は破片が食い込んでおり、恐らくは音声の入力部位が完全に破損してしまっているのだろう。

 

『こちら、スコール9…何とか、無事です…』

 

『生きていたか! オメガチームは…マザーシップの攻撃部隊はどうなっている!?』

 

『分かりませんが…マザーシップの砲撃で部隊は壊滅…。マザーシップは今なお健在……!』

 

『クソッ…!』

 

 本部と生存者同士のやり取りを聞いていることしかできない。AMRを再度構え、ストレートプル・ボルトを引いて薬室に弾を込め直し、もう一度引き金を絞った。

 再度放たれた弾丸がマザーシップの下部砲台を撃ち抜くと、またも爆炎が噴き出した。

 

『…いえ…待ってください! マザーシップを攻撃する部隊があります!』

 

『なんだと!? オメガが生きていたのか!』

 

『いえ、分かりません…。分かりませんが…誰かが戦っています! どうぞ!』

 

 彼らにとって、誰が生き残っているかの差はあまり関係ない。重要なのは、その生き残った誰かがマザーシップを攻撃しているということなのだから。

 

 もう一度ボルトを引き、押し込み、薬室に弾を装填する。トリガーが引かれ、弾は放たれた。

 

 またも爆発。しかも今度は、より致命的な破壊を砲台に齎したのだろう。遂に、俺は成し遂げた。

 

『ああ…信じられない! マザーシップが大破しました!』

 

『やったのか!?』

 

『やった…人類は、勝ったんだ!』

 

 砲台が落ちていく────

 

 

 

 

 

 

 ───いや、まさか。

 

 

『…待ってください、何かが……』

 

 

 

『み…見たことの無い兵器です!』

 

『なんだと!?』

 

 投下口から複数の戦闘兵器と思しき何かが放たれていく。

 それは、敵の兵器という存在自体が非常に危険な脅威であるということもそうなのだが、何より、マザーシップが未だ健在であるということを示していた。

 

『マザーシップは依然稼働中! 敵がマシーンらしき何かを放出しています!』

 

『クソ…近隣の部隊は!? 向かえる部隊はあるか!』

 

 俺はそれを聞きながら、首を横に振るった。もうこのエリア近くに展開していた部隊は全滅している。なけなしの戦力を全て呼び集めて()()なのだ。もはや欧州方面軍に戦いを続ける力は残されていない。

 

『無理です──うわっ、来た!』

 

『撃て、撃ち返せ! ……うああっ!!』

 

 くそっ──

 

 生き残りがやられていく。

 街の中心部にクレーターを作るほどの砲撃。それを生き延び、マザーシップの砲台を破壊したところで、待っているのは余裕の表情。

 人類に勝ち目は無い───

 

 

「…もう、終わりだ。もう無理だ………──」

 

「無理? …何か問題があるのか?」

 

 振り返った。

 その声は、今ここにいるはずのない人の物──

 

「大尉…!? 生きていたんですか!!」

 

「連中が守ってくれた。」

 

 大尉は視線を遠くへとやる。

 グリムリーパーの部隊徽章が記された特注のディフレクション・シールド諸共、自らを壁にするようにマザーシップへ立ち塞がり──その後ろを守るように息絶えた、三人の黒いフェンサーの姿があった。

 

「生き残ってるのは、俺達だけのようだがな。」

 

「そんな…しかも、大尉も重傷では……」

 

 どう見てもボロボロなどという言葉では済まない程の欠損。左腕が消し飛び、片腕だけであのレーザーライフルを保持しているような状態だ。

 

「勘違いをするな。俺は立っている。戦える。」

 

「無茶な…」

 

 大尉は立ち上がり、ブレイザーをマザーシップへと向けた。バイザー越しに光ったような気がしたその双眸からは、まだ勝つという鋼のように強い思いを捨てていないと思えた。

 

「──なら、俺も手伝います。EDFの兵士として……いや、大尉を尊敬する一人の男として。」

 

 大尉は不敵な笑みを浮かべ、血を吐きながら笑い、言った。

 

「いい心がけだ」

 

 レーザーライフルのエネルギーが銃口の先に集束していく。大尉はその様子を気にも留めず、ただマザーシップをだけ見続ける。それでも、俺がやるべきことを指示してくれた。

 

「俺に近くの敵を近付けるな。マザーシップに攻撃が通るのはお前の狙撃を見てわかった。ブレイザーなら貫通して撃沈を狙える。

 …悔しいが、長くは持たん。俺の最後の一撃を…お前に賭ける。」

 

 マザーシップの正面に立つ俺たちは、マシーンにとってはマザーシップに最も近い脅威であり、故に優先排除対象だ。俺はAMRを構え直し、マガジン丸ごとを敵にくれてやる勢いで射撃を始めた。

 

 二足歩行で、両腕に重火器らしきものを搭載している。試しに胴体部を攻撃してみるも、浅い角度で命中した対物ライフル弾は跳弾してしまう。

 だが、今度はしっかりと中央部を狙い、引き金を絞ると、放たれた弾丸は凄まじい破壊音と火花を伴ってその部位を貫いた。

 敵兵器は非常に堅固な装甲で強化されている。だが、それをすら貫きうるのがKFF60。三から四発も当てれば撃破できる。

 

「敵一…撃破!」

 

「いいぞ! ──ぐっ…」

 

 苦痛に呻きつつも、その照準は、その視線は、その殺意はひたむきにマザーシップへ向け続けられていた。

 

「撃破!」

 

 二機目のマシーンを破壊する。重火器と強化装甲による、総合的な耐久性の向上が、新たな敵兵器の特徴だろう。それほどの重武装化、重装甲化には、相応のコストがかかると推察できる。

 このような重要な局面になって初めて投入されたそれは、間違いなくマザーシップの直掩部隊。奴らが焦っている証拠と言えた。

 

「…! 危ないぞ!」

 

 大尉の言葉に振り向いた俺は、キャノンらしき兵装を構えていたマシーンを銃撃した。受けた衝撃で逸れた銃口からはプラズマ砲弾が飛び出した。

 逸れていったそれは、遠方に着弾したかと思えば、異様なまでの威力の爆発を巻き起こした。爆心地はともかく、有効範囲内にいる歩兵は問答無用で消し飛ぶような威力だ。

 

 それは敵の排除ミスをひとつするだけで、今この場における負けが確定するということだ。

 そしてこの戦場での負けとは即ち、人類最強の部隊、オメガチームの敗北であり、イコール人類の敗北となる。それだけは阻止せねばならなかった。

 

「くっ…数が多い……!」

 

「倒せ ! 何とか…持たせろ!」

 

 命令通りに何機も何機も破壊する。これまでにない集中力のためか、もはや弾を外すことはなかった。

 それでも、アンチマテリアルライフルとは複数の敵を連続して破壊するにはどうしても向かない。数の差が俺たちを如実に追い詰めていた。

 

 ついに、俺と大尉に一機のマシーンが狙いを定めた。砲口が赤い光を帯び、砲を発射する寸前なのだとわかった。

 

「しまっ──」

 

 咄嗟に反応するも、弾切れ。アサルトライフルに切り替えようにも、咄嗟に取り出すには時間がかかる。

 

 ここで負けるのか。

 

 

 覚悟は、だが直前に僅かな希望を齎した。

 

 マシーンが爆発した。その爆炎の中から、一人のウイングダイバーが瓦礫の上に硬着陸する。身体を引きずりながら墜ちてきた彼女は、見るからに死に体に鞭打って動いたとしか言えない様相だった。

 

 …んこの戦場にウイングダイバーは数える程も参戦していない。それはオメガ-2のリーダーだった。

 

 だが、彼女もまた同じく、欠損をしていた。

 左足を根元から失い、左半身を酷く火傷しており、フライトユニットが片翼となってしまっていた。

 それは、姿勢制御など到底不可能な状態で、あのマシーンを狙い撃ったという事実だった。

 

「借りは…、返したぞ……オメガ、3……」

 

 最後の力を振り絞って、オメガ-2は力尽きた。

 

 大尉の悔しい表情とは裏腹に、ブレイザーはフル充電が完了していた。

 

「この…一撃にかける!」

 

 ブレイザーは重く鈍く、だが何よりも明るく輝いた。

 

 それを邪魔するためか、砲撃を試みるマシーン。思考能力があるのかは分からないが、マザーシップを守るという意志を感じる。

 

 俺はそれを撃ち抜き、全ての敵兵器を粉砕した。倒れそうになる大尉の代わりに銃本体を支え、狙いを定める。

 

「行けぇぇえええっ!!!」

 

 腕が震える大尉と共に、ブレイザーを全力で照射する。銃身が焼き溶け、金属が俺と大尉の腕に付着していく。肌が焼け焦げていく嫌な音と痛みが耳と神経を貫くが、それでも狙いは外さなかった。

 

 膨大な熱エネルギーの照射を受けた、マザーシップの赤い弱点部と思われる部位が、黒く変色し燃え盛る。各部から爆発が絶え間なく続き、その推力を急速に失っているようだった。

 

 マザーシップは、落ちた。

 

 

 

 

 

「やった…やった!! やりましたよ大尉!」

 

 俺は嬉々として大尉の顔を見る。感慨深い以上に、今まで失った命が遂に報われたという思いが、俺の目頭を熱くさせた。

 

「俺達……俺達、ついに地球を救──」

 

 大尉は、満足そうにマザーシップが落ちていく様を見届けていた。割れたバイザーの隙間から覗くその瞳に、最早光も色もなかった。呼吸も止まり、その肉体の全てから生気が失われていた。

 

 

 

 …大尉は、目を失っていた。

 あの爆撃を受けた時、光をまともに受けて失明したのだろうか。あるいはそれよりも前からなのか、今となっては計り知ることもできない。

 

 マザーシップは緩慢さを保ちながらも、着実にこの地上に落ちつつあった。それはまるで、世界がその死を受け入れたかのように、ゆっくりと眠りにつくような。

 

「…お疲れ様でした、大尉。」

 

 

 逃げ場は無い。ここは恐らく、マザーシップの誘爆に巻き込まれ、崩壊する。

 

 そうなる前に俺は、立ったまま亡くなった彼に、哀悼と、労いと、多くの感情の込められた敬礼を向けたかった。

 

 

 

 星が、落ちた。

 

 

 

 







 マザーシップ
 ()()()の装甲を持ち、その巨体から事前攻撃では有効打を与えられなかった、敵の巨船。
 地上部隊の決死の攻撃により撃墜。



 マザーシップ撃墜作戦、成功

 直接戦闘部隊
 作戦従事者数1506名
 コンバットフレーム4機、装甲戦闘車両12両

 うち、死者219名、行方不明者1271名
 ビークル、全機・全車両喪失

 生存者、16名。



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