――Side 頼久
「なんやかんやあったけど最終日!」
「ぶっちゃけ体験しにきた子を酷使した事実に罪悪感半端ない!」
「なんかお礼とか便宜とかでお返ししないとってスゴク焦燥感!」
「心理学で学ぶ返報性の原理!」
朝のラジオ体操終えたらいきなりプッシーキャッツ登場のポーズでなんか言い出した。
「どうした急に」
「いろんなところに駆けつけるための足代わりになって、現場で救助から治療までこなして、プロ顔負けな働きぶりがあったからね、仕方ないね」
サクラコが遠い目をしてる。
「それでなんか返せることない?」
「ないですね……」
「それでいいのか……」
おや、ちょくちょくツッコミしてくれてる洸汰君が今回もツッコんでくれたな。
「強いて言えば……その少年について、かな?」
「……」
帽子を目深に被り、目線をそらす少年。
「答えることはできるけど」「ソレあちきたちのお返しとはちょっと違うというか」「しかしそうなると弱ったな、返せるものがない」「やっぱり私たち3人が脱ぐしか」
「頼久の初めては先約いるからダメです」
「「「アッハイ」」」
サクラコの言葉に3名撃沈。
そんな会話の間に、やってられないのか、いなくなっている洸汰君。
「……いない両親、ヒーローに反発、だけど養ってくれてるプッシーキャッツには反抗期を見せてない……」
オレが独り言ちたあと、
「……あの子、ここ数年でヒーローやってた両親……あるいは片親を亡くしていて、身寄りがない。たぶんヒーローとして活躍してて……あまり構ってもらえなかったというところか……?」
「だいたい合ってる」「ただ、親戚としては、2人とも家にいるとき洸汰に精一杯の愛情を向けていたとだけ弁護させてもらうよ」「あちきたちに不満を言わないあたり、頭では理解してる賢い子だよね」「あの子は強いよ、泣かずに堪えて……」
オレは少し考えて首を横に振る。
「あ、リクエストありましたわ。とりあえず色紙それぞれに渡すんで、オレ宛と緑谷宛にサインお願い良いですかね? その間ちょっと席外すんで」
「こっちとしては全然構わないけど」「サインだけでいいの?」「もっとこう……どっかでパーッと遊びたいとか……」「無欲も過ぎればというが、こういうことか……」
とりあえずサクラコにあとを任せて、少年を探す。
「こんなところにいたか」
「! 良いだろ、何処にいても」
隠れ家みたいなところで寝転がり空を眺めていた彼は、オレの声に背を向ける。
「……育ち盛りで、親に甘えられないのは、つらいよな」
「なんだよ、お前。知ったような口をたたいて」
「最近朧げにだが、いくつか前世を思い出してな。当時前世の記憶がなくてただのガキだったんだが、親に捨てられて、甘えられなくて寂しかった記憶も思い出したんだ。だから方向性違うけど、ちょっと分かるってことだ」
「……そう」
また帽子を目深に少年。
オレは片手を皿のようにしてから零す。
「……雨が降ってきたな」
「……」
山の天気は変わりやすいというが……ちょうど良かったかもしれない。
すすり泣く少年の音は、雨音に呑まれてくれるから。
ほんの少しだけ、気が楽になったのか、洸汰君の表情に付いていた影が薄くなる。
「それはそれとして、虎以外の御三方のサイン、なんでオレ宛にはキスマーク付いてるんです??」
「……なんとなく?」「プレミア感つくかなって」「サービスサービスゥ!」
戻ってきて受け取ったもの見た感想。
ツッコミどころしかない。
ちなみに虎のサインは筆を用意したのか真ん中に達筆な『虎』の文字に、送る相手への名前が右下に載っている。
「一回りの年齢差『心はいつでも18』アッハイ」
言い切る前に顔を両手で挟み、圧をかけてきたピクシーボブ。
これは頷くほかあるまいて。
「……ん?」
とか会話してたら、なんか位置情報だけのメールが緑谷からクラスメイト全員に飛ばされてる。
場所は……保須市か。
「ちょっとクラスメイトから穏やかじゃないメール着てるんで、ちょっと行ってきます」
「む、できれば連れて行ってもらえると助かるんだが」「一応職業体験のお客さんだし」「仮免持ってるから問題ないと思うけど」「念には念を入れておくべきかなって」
「そうしますが……留守中の防犯のため、サクラコに個性使用許可もお願いします」
「OK牧場」「許可しよう」「安全第一!」「すまないが、洸汰君も頼む」
「あ、はい。怪我しないでくださいね」
サクラコがそう返したのを確認し、オレは4人と手をつなぎ転移する。
コンクリートジャングルの狭間に着地するオレたち。
そしてマンダレイの手を離して即座に敵と緑谷たちの交戦にインターセプト。
敵――ヒーロー殺し――のナイフをこちらは宝物庫から取り出しておいた十手で受け止める。
「ハァ……ハァ……貴様は……千手頼久……本物のヒーローか……」
「さてな。だが友のピンチなら駆けつけるくらいの情は持ち合わせてるつもりだ」
オレの回答を聞き終えるや否や、ナイフを引き下げて間合いをとり、再び攻撃を仕掛けてきた。
オレは最低限の回避と防御でナイフを受け流し、ヒーロー殺しに対して遅滞戦術を行う。
「……?」
オレの行動に疑念を持ったのか、攻撃に牽制を混ぜるようになったヒーロー殺し。
ソレも最小限に対応する。
すると間合いを取ってヒーロー殺しは口を開く。
「……お前は対価を求めぬ意味で本物なのだろうな」
言い終るや否や、すぐさま肉薄して――オレの回避や防御を想定し、後ろにいる緑谷と飯田と多分ヒーローの大人を狙ったが――
「なっ!?」
オレはナイフの刃を腕で受け止める。
ヒーロー殺しはすぐさま引き抜いて距離を取る。
「千手君!」「ソイツは血を舐めると身体を硬直させるんだ!」
飯田とヒーローの大人が何か言ってるが……それはあまり影響与えないんだよな、オレの場合。
ヒーロー殺しがナイフを舐めたら確かにオレの身体は硬直し、ソレを見たヒーロー殺しは落胆したような顔で近づく。
そして本物?認定したオレを差し置いて飯田たちに向かうが――
「奥の手も何も持たねば、この振る舞いは阿呆のソレだろうが――」
須佐之男を発動し、チャクラによる骨の腕でヒーロー殺しを捕獲する。
「会話できる程度に意識の残る硬直なら、いくらでもやりようはある。油断大敵だ」
「貴様……離せ……!」
ヒーロー殺しは藻掻くが……須佐之男壊すなら概念系破壊か高火力……あるいは須佐之男の自己修復を上回る速度の蓄積ダメージが必要。
ヒーロー殺しのようなスピード回避盾兼クリティカル特化ではどれも満たせない。
「世の中のヒーローの多くが英雄譚に出てくるようなヒーローではない。……が、この歪な世界のために働いて、悪を為していない人間だ。それを傷つけ害なすならば看過できん」
「……それでいい。ヒーローとは、かくあるべきだ」
オレの言葉に納得したのかおとなしくなるヒーロー殺し。
「とりあえず警察に引き渡すか」
とか言ってる間に、エンデヴァーに連れられた焦凍がやってきて、一悶着あったがそれは別の話。
――Side ???
「生まれ変わったらメタルビーストだった件について」
とある縦貫坑道奥の研究所にて、オレと言う意識が目覚めると、目の前?には金色の髪と黒い肌の科学者コーウェンと青白い顔の科学者スティンガー、そして灰色の髪と髭の男……早乙女博士が揃い踏みしており、こちらを見ていた。
「我々に統括個体ともいえる存在が遂に生まれ落ちたわけだ。そうだろ、スティンガー君」
「う、うん。そうだねコーウェン君」
……色々ツッコミたいけどそれはさておき。
「……ヒロアカ世界の片隅でこの3人とごく一部の日本政府がゲッター線を識別し、研究してたところ、ゲッター線で反応した個性持ちが暴走し、3名の研究者を取り込み、今に至る……か」
流れ込む記憶と知識を噛み砕き、消化しながらまとめる。
「……?何故わざわざ口にした?」
早乙女博士が怪訝そうな顔をする。
コーウェンとスティンガーは早乙女の言葉に首をかしげる。
「どうした早乙女。頭のなかにある思考を言葉にすることでまとめるのはよくあることだろう。そうだよね、スティンガー君」
「そうだね。喋ることで頭の中が整理されることはよくあることだよね、コーウェン君」
コーウェンとスティンガーに比べて繋がりがほとんど感じられない早乙女を見て何となくこの違いに納得する。
「とりあえず……目下の目標は生存と進化だ。最終的に人類と統合し、さらなる高みを目指すことだ」
「我々が地球圏で十全に活動するためにも、ゲッター線の発表とソレを用いた機械の作成が必要というわけだ」
オレの言葉にコーウェンが補足してくれる。
「ゲッター線の観測、取得は実用化の目処が立っている。あとはスポンサーだ」
「我々が交渉すれば容易いことだろう」
「オレはこの個性の持ち主に成り代わり、ロビー活動しておこう。3人はゲッター線に関する論文にゲッター線収集の機械やソレを用いた有用な機械を作成してくれ」
オレはそう指示を出しつつ、暴走した個性の持ち主の姿に化ける。
オールマイトが雄英高校に教師として就任したらしいし、この世界の本編が始まってることだろう。
ならオレは裏で動き回り、自分の生存圏を確立させてもらうとしよう。