本作には、原作に登場するキャラクターに、オリジナル設定や性格要素を加えて登場させています。原作の公式設定とは異なる描写がありますので、あらかじめご了承ください。
企画されている映画において、ほぼ完成版の台本を読ませてもらった日のことだ。
とあるプロデューサーは、テレビ局の廊下を歩いていた。
美しい金髪の少女が、明るく気さくな調子で近づいていく。まるで偶然を装って笑顔を浮かべているが、その演技力にはまだ幼さがあった。
星野ルビーであり、新生B小町に所属している子だ。
巷で伝説として語られる『アイ』の実の娘であり、世間では悲劇のヒロインのように語られている。
プロデューサーは、ルビーの話を以前から耳にしていた。
彼の知る限り、最近のルビーはかつて純粋で無邪気な性格と違い、ずっと打算的で冷たい性格になっていた。深掘れワンチャンという番組では、周りの人を利用することも覚えていた。
誰も傷つかないよう調整したとはいえ、だ。
天真爛漫な面影はないが、『嘘』は芸能界で有名になる手段の1つだ。恵まれた容姿は標準装備であり、完璧で究極のスター性でもなければ、正々堂々とした手段だけでは厳しい業界だ。
ルビーの母親は、なんとなくでコネを増やして、有名になれたが。
この子は、必死にコネを増やそうとしているらしい。ネットバラエティ以外にも、様々な番組で活躍している。
「プロデューサーさん! 今後のスケジュールで、ご相談したいことがありまして!」
ルビーは企画書を差し出しながら、どこか虚ろな瞳に、惹き込もうとするような笑顔を浮かべていた。
その様子からは、復讐心・怒り・悲しみといった感情を隠すための『仮面』にすぎないことは明白だった。
「会議室で読むから、少し休んでいくといい。でもルビー君はまだ女子高生だから、そろそろまとまった休みをあげようと思ってね」
ルビーの明るい表情が一瞬だけ崩れたのは、多くの人が気づけないだろう。その瞳には、わずかな苛立ちがあったはずだ。
しかし彼女は、すぐに作り物めいた笑顔を再び浮かべる。
「そっか……休むことも仕事のうちってやつですね! でも私はアイドルやってて、体力には自信がありますよ!」
プロデューサーが小会議室で案内するあいだも、ルビーは彼との会話を続けようとしていた。
2人が入った部屋はシンプルであり、座り心地の良い椅子と、真っ白な机と、大きなホワイトボードがあるだけだった。苺プロ事務所と違って、ホワイトボードに落書きされているわけでもなかった。
椅子に座ったプロデューサーは、ルビーから企画書を受け取ると、それは机に置いた。
「ここには僕とルビー君しかいないけど、最近がんばってるのは、人探しのためなんだって?」
プロデューサーは、『アイ君に関係すること?』と的確に問いを重ねた。
「キミが探している人をさ、僕は知っているかもしれないよ」
プロデューサーは、まるで釣り餌を垂らすように話しながら、真剣に少女を見つめていた。
「誰!? 誰なの!? 教えてよ!!!」
作った笑顔が崩れていくルビーの叫ぶ声は、小会議室内に響いた。
必死な表情で、怒りに歪んで、唇は細く結ばれている。
ルビーは、プロデューサーに近づいていって、見下ろす。その細い身体は張りつめ、まるで今にも襲いかかる蛇のように緊張していた。
そこにいるのは、もう無邪気で明るいアイドルではない。憎しみに飲み込まれ、復讐だけを求めて、冷酷で打算的な女だ。
顔立ちは『アイ』に似て綺麗なのに。
目元はプロデューサーも知っている『少年』に似ていた。
「……ねぇ、プロデューサーさん。私が誰を探してるか知ってるんだよね?」
ルビーが一歩踏み出すたび、彼女の声は強くなり、ついに脅すような声に近づいていく。
両手は強く握りしめられ、表情は怒りに歪む。
「私が探してるのはね。私と、あのどうしようもない兄を作って、逃げたクズ野郎! ママを孕ませておいて、ママを捨てて逃げた最低の人間! 挙げ句の果てに、自分の保身のために、あのストーカー野郎にママを殺させたって……そいつに、せんせも……」
ルビーは、銀髪の少女に聞いた話を思い出していた。『当時大学生の男が、せんせを殺したこと』『当時大学生の男はストーカーで、ママも殺したこと』『当時中学生の男子が、たぶん計画したこと』『当時中学生の男子は、たぶん自分たちの父親だということ』
復讐すべきやつが、今も生きている。
暗い光を宿した瞳には、怒りと苦痛の涙があふれていた。
「今更、知らないなんて言い訳を、聞くと思わないで。プロデューサーはコネもあるんだし、だから教えてほしい。いや、教えてくれなくたって、私は復讐を果たすまで、絶対に止まらないから」
ルビーは、抑えきれない怒りと苦しみの中で、必死に自分を保とうとしているのがわかる。
もし彼女の手元にナイフがあれば、本気で脅してでもプロデューサーから聞き出していただろう。
「プロデューサーに迷惑はかけないから安心して。私が、せんせとママを殺したクズを……」
ルビーは声を絞り出していたが、やがて言い淀んだ。
その涙は、彼女の迷いを示しているらしい。
プロデューサーは、静かにほほえんだ。
「僕も、アイ君のことを忘れたことはないよ」
そう言ったプロデューサーは、まるで自分の娘を思い出すかのように、慈愛の表情を浮かべていた。
ルビーはその瞬間、目を見開き、信じられないものを見るようにプロデューサーを凝視する。そして、しばらくのあいだ、彼女は言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
また1つ、また1つと涙がこぼれ、ついに抑えきれていなかった。
「プロデューサー……ママを覚えてたの……? なら…なんで…どうして……? どうして、そんな顔して……復讐しないの…ママは……きっと…絶望しながら……死んだんだよ?」
声は低く震え、様々な感情がにじんでいる。言葉のひとつひとつが、息を詰まらせるように途切れながら紡がれた。
ルビーは涙をこらえながら、プロデューサーの顔を必死に探った。
だが、そこに映るのは、ルビーをまるで娘を見るように受け止める、保護者のような慈愛だった。
それは、彼女の怒りを煽ってしまうこととなる。
「なんで今まで黙ってたの……! ずっと、ずっと探してたのに……ママの過去を……クズの父親を……! あんたは、全部知ってたっていうの!?」
ルビーは、プロデューサーの胸倉を掴んでしまった。
もう冷静ではいられなかった。
息は荒く、短く途切れ、必死に感情を抑え込もうとしている。
手は震え、顔は怒りで真っ赤に染まっていた。
「……まさか……ママの死にも関わってるんじゃないの!? クズに協力して、せんせとママを殺した協力者なんじゃないの!? 全部、全部教えてよ!!!!」
その声はかすれ、痛みと怒りに引き裂かれているようだった。
まるで理性を失った獣のようだ。復讐という渇きに取り憑かれた、逃げ場のない存在のようだ。
きっと今の彼女に、父親の正体を教えても、その復讐の炎は止まらないだろう。
そしてプロデューサーは、とある映画の脚本を思い出していた。その結末をどうするか、まだ決まっていなくて。
「アイ君は、キミたちの父親を恨んでいて。キミたちの復讐を、願っているんだろうか」
プロデューサー自身も、天国にいるだろうアイに向かって、それを問いかけることしかできない。
しかしルビーは目を見開いた。
ルビーには、過去から届けられた手紙がある。母の本物の愛情を知っている。『なんにせよさ、元気に育ってください。母の願いとしては、それだけだよ』って。
母は、復讐を望んでいないのかもしれない。
せんせと過ごした記憶も、復讐を否定しようとする。
ルビーは、さりなは、とびきりの愛情を思い出し始めていた。
「違う……違うよ、そんなはずない…… ママが、せんせが、そんなこと望むわけ……全部忘れて……何事もなかったみたいに生きろなんて……そんなの……」
ルビーは、自分の身体を抱きしめるように腕を回して、強く締めつける。
まるで分裂してしまいそうな自分を、無理やり繋ぎ止めるかのようだ。
やがて、首を振った。
「そうだ、本当にママがそう思うなら……それは、何も知らなかったからだよ……自分に何が起きたのか……真実を知らなかったからだ……」
誰もが、嘘を吐く。
自分の兄が裏切って、ママが守りたかった『嘘』を、公開したように。
「ママもそうだ! 裏切られて、見捨てられて……本当は、愛して、守ってくれるはずの父親に! 全部奪われたことを……知らなかったからだ!!!」
言葉を重ねるごとに声は強くなり、再び怒鳴り声へと変わっていく。
怒りと迷いで歪んでいく感情を、目の前のプロデューサーにぶつけてしまう。
「ママが愛してた男が……ただの嘘つきで、最低の男で、自分のためにママを利用しただけの! クズだったってこともね……!」
ルビーの声はさらに張り上げられ、感情は制御を失っていく。
「あんな理不尽なこと……なかったことにできるわけないじゃん!! ママはあれだけ血を流して……せんせは何年も見つからなくて……痛かった!! 絶対に痛かった!!!」
胸を張り、震える声で言い切る。
「私はママの娘なんだ……この記憶は、復讐するための運命なんだ!! だから、せんせとママの、命を踏みにじったやつらが後悔するまで、私は絶対に止まらないから!」
ママが、せんせが、復讐を望んでいなかったかもしれない。それを信じてしまいそうだったが、どうしてもルビーの心は、受け入れられずにいた。
「僕もね。アイ君を殺されたと知った時は、冷静じゃなかったよ。絶対に、犯人を見つけて後悔させてやるってね」
プロデューサーは、当時のことを思い出していた。
とても長く感じる数日間だった。
「結局、僕では見つけられず、犯人の男は自宅で自殺してしまっていた。僕の復讐から逃げられてしまったんだよ。あの時の無力感は今も覚えてるけど」
そんな時に、彼は『アイ』の歌を聞いた。
「復讐の必要がなくなったあとにね。アイ君の歌を聴くと、とても解放された気持ちになったんだ」
たとえナイフを使って復讐をしたとしても、それは恐怖で感情を上書きするだけだ。
ナイフでは、決して罪を懺悔させることはなかっただろう。
「だから、こう思った。僕が復讐なんかしなくたって、天国にいるアイ君は、すでに安らかに眠っているんじゃないか」
プロデューサーは、そう自分にも言い聞かせた。
ルビーの息が、喉で詰まる。よろめき、後ずさる。
涙が頬を伝い、こぼれ落ちる。
身体は小刻みに震え、消そうとしていた感情が漏れる。
思い出が、記憶が、少しずつ心に染み込んでいく。
「もし……それが本当なら……ママが、せんせが、本当に安らかに眠ってるなら……なんで私は、こんなにも怒りと痛みを抱えてるの……?」
なぜ復讐をしようとするのか。それは、2人の無念を晴らそうとしていたからだ。
ルビーの声は震え、途切れ途切れになる。
「ママは…せんせは……私の復讐なんて必要としてなかったの……? もう、とっくに安らかに眠ってたの……?」
ルビーの身体は、崩れ落ちるように床へと沈んでいく。
ママとの思い出、せんせとの記憶、それらは彼女が導き出す答えを肯定していく。
「でも……わからないよ……どうやって許せばいいの……私も…お兄ちゃんも……」
復讐の炎は消えていくけれど。
いまだ怒りと悲しみと憎しみは残っている。
だが、確かに、ママとせんせの愛情を思い出していた。
兄の過保護すぎる愛情も、思い出してきていた。
「アイ君は、知っての通り人付き合いが苦手だったからね。でもさ、僕とか五反田君とか、それと斉藤君かな。本当の彼女を気にかけていた大人は、結構いるよ」
それでもほとんど本音は見せなかったと思うけれど、何も怖がることなく、過ごしていた時間はあるはずだ。
「ルビー君は、友達が多いんだよね。僕が知ってるだけでも、かなちゃん、MEMちょだ。他にも、あかねちゃんもかな? アクア君だっている」
そう言ったプロデューサーは、様々な話を思い返して、この結論を出している。
確かにルビーは、誰かを利用してでも、人気になろうとしている。
でも、その評判はとてもいい。なぜなら誰も傷つかないように、互いに上手く利用し合おうとするからだ。
噂によれば、他事務所の情報を聞き出そうとしているうちに、結局は他のアイドルたちの話を親身になって聞いているとか。あまり男に話せないような、彼氏の愚痴も聞いていそうだ。それはリークしないという信頼があってこそ。
深掘れワンチャンの炎上だって、運があったにせよ、多くの人にとって良い結果となった。拝金主義のプロデューサー自身としては、番組が平和的に盛り上がるなら、最良の結果だ。
「正直に言って、ルビー君たちは、業界内でも人気だよ。僕としては、できるだけ長くタレントをやっていてほしいな」
それは長年プロデューサーをやっている男からの、タレントへの愛情なのかもしれない。
「ありがとう…ございます……いろいろ……」
ルビーは、ためらいがちに笑みを浮かべた。
「そうなんです。私を大切にしてくれる人、いっぱいいます」
ルビーは、ちゃんと思い出していた。
ミヤコがまるで母親のように過保護でいてくれる。事務所では、有馬先輩やMEMちょは、仲間として接してくれる。学校でも、みなみやフリルなど、友達がたくさんいる。
そして芸能界でも、たくさんの知り合いができている。
「お兄ちゃんも……めっちゃ頑固で、よく何を考えてるかわからなくて、勝手なとこもありますけど……みんな、私の側にいてくれます」
ルビーは、みんなに謝ろうと思っていた。冷たく接していた時も多かったかもしれないから。それでも、誰も自分から離れていかなかった。
「アイドルは楽しくて、みんなのことも大事で、忙しくなりそうです。プロデューサーさんも、ありのままの私でも、たくさんお仕事くれますよね!」
「そこは、ルビー君の売り込み次第だね。これからも面白い企画書をたくさん持ってくるといいよ」
プロデューサーは冗談っぽく、笑って言った。
ルビーは『えぇ!?』と、自然なリアクションを見せた。
そして涙を指で拭いていて、ルビー本来の魅力がある。
もしかすると『アイ』と違って、まっすぐ綺麗に、『スター』になっていけるかもしれない。それはとても理想的なことであり、この芸能界では特別なことだ。
プロデューサーは、これからのキャスティングがますます楽しみだった。
だからこそ大人として、次の一手を打つ。
彼は真剣な表情を浮かべた。
「お仕事とは直接関係ないんだけどね、ルビー君に個人的なお願いごとがあるんだ。これはキミに、いや、キミたちにしかできない」
プロデューサーは、少し悩んで様子を見せてから。
「お願いごとを達成すれば、キミたちへの貸しにしておく。必ず借りは返すよ」
「えっと、はい、私にできることなら……?」
ルビーは快く頷いたが、深刻な雰囲気に、不安もあった。
貸し借りは芸能界っぽいが、プロデューサーの表情はもっと真剣だった。
「アクア君のことだ。彼ね、スケジュールを完全に開けるよう頼んできた。医学系の大学に進学するからとも言ってて、最初はもう芸能界辞めちゃうのかと思ってたけど」
プロデューサーは映画の脚本を見て、なんとなくそう思った。
彼の復讐の炎は、こんな形で終わる気がしないと。
「これは僕の妄想かもしれない………アクア君は復讐の末に自殺するつもりだと思う」
それは様々な人の『嘘』を見てきたプロデューサーにとって、どこか確信を持てることだった。
ルビーは驚いた。
そして、どこか殺風景だった部屋を思い出す。ママが亡くなり、育ての母であるミヤコの負担も考えて、昔から節約家だとは思っていたが。
ドラマで、恋愛リアリティで、舞台で、バラエティで、どれだけ活躍しようとも。
兄の部屋は、殺風景のままだ。
「……最近ずっと自分で復讐することばっかりで……ママみたいなアイドルになることばっかりで……アクアが何を抱えてるのか……ちゃんと考えたことなかった……」
アクアは、ママと自分たち双子の関係を世間に公表した。
冷静でいられなかったルビーは、有馬かなを助けるためのバーター記事として、もしくは自分が有名になる方法として、その『嘘』を使ったと考えていた。
ルビーは、兄が昔から隠し事をしていることは知っていた。復讐のために、真犯人探しをしていることも知った。もしすでに、兄が真犯人を知っていて、すでに1人で復讐して自殺する予定なら。
「ぜっっっったい! 止めなきゃ!!」
その決意に満ちた瞳は、純粋さ・スター性を、兼ね備えている。
これはいくらなんでも、この芸能界において特別すぎる。
プロデューサーは心の底から感動させられた。
「僕ができるのは、ルビー君とアクア君の、芸能界での警備をもっと増やすよう頼み込むくらいだ」
プロデューサーは、目の前のタレントの魅力を、決して枯れさせてはいけないと思った。
どんな手を使ってでも守らなければならない。
大人として、もうあんな悲劇を繰り返してはいけない。
「だからルビー君には、アクア君の心のケアを頼みたい。彼さ、仲良しな子が多いみたいだし、みんなで囲んでおいてよ」
プロデューサーは、ルビーに明るくお願いごとをした。
難しいことは、大人でやっておくべきことだから。
「そっか……お兄ちゃんは、あかねちゃんと別れたのも、そういうことだったんだ!?」
ルビーは、最近アクアが黒川あかねというカノジョと破局したことを思い出す。あれだけ献身的で、包容力があって、たまにアイのような魅力があったのに。
思い返せば、口説いてた有馬先輩やMEMちょも、アクアは意図的に避けている。
そしてルビー自身も、ケンカしていることすら彼の計画の一部かもしれないと思った。
「決めました! お兄ちゃんと仲直りしたら、私たちで『お兄ちゃんハーレム計画』やります!!」
「え、まあ、いいんじゃない? 兄妹仲良しでさ」
ルビーにとって、結婚相手は記憶の『せんせ』しかあり得なかったけど、彼は亡くなってしまっていた。
最近は復讐でいっぱいいっぱいだったけど、もしいつか恋愛するなら、せんせのような人がいい。
ルビーが身近な男子を思い出せば、最も過保護で放っておけないアクアが当てはまる。
あのあかねちゃんですら、彼の復讐と自殺の計画を止められない可能性があるなら、自分もハーレムに参戦する気でいた。
「みんなで向き合えば、きっとお兄ちゃんも、ちゃんと前に進めますよね。私も、お兄ちゃんも、みんなとなら!」
ルビーは、心の底から笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、プロデューサーさん! 本当は何をすべきか、私に気づかせてくれて!」
ルビーは丁寧に頭を下げて、心の底から感謝を伝えた。
「どういたしまして。アイ君はきっと、ルビー君とアクア君の幸せを、今も願っているはずだ」
女の子というのは、気が変わりやすいと思っていたけど。
アクアを救いたいと願って、キラキラと輝いている。机に置かれた企画書も忘れて、すぐ仲直りするために、家に帰ろうとしている。
「はい! 私もそう思います!」
たぶん、まだ苦しみや復讐心は抱えたままだ。
ルビーは、明るい未来に向かって駆け出していく。
もう3回目の後悔をしないように。
ルビーがみんなと一緒に、アクアに光を照らしてくれること。
プロデューサーはそれを願っていた。
役者の夢も、映画監督の夢も、挫折したけど。
僕はプロデューサーとして、この地位まで登りつめている。
芸能界は、貸し借りの世界だ。
多くの若いタレントたちに仕事を与えて、恩を売ってきた。
その子たちが有名タレントになれば、今度は仕事を選ぶ側になる。でも僕からお願いすれば、仕事を引き受けてくれる。
だから今日も、貸し借りを作る。
アイ君の魅力を見つけたことは、誇りに思っていた。
そして今日、ルビー君らしい魅力を取り戻すきっかけを作ったことを、誇りに思う。
机に置かれたままの企画書は使えなくて、作り直しが必要だろう。これを作ることにも、ルビー君は時間をかけたはずだ。アイ君がそうだったけど、あの子も努力家だ。
「アイ君……僕のことを恨んでるかい?」
どうやら僕が、アイ君と『少年A』を劇団のワークショップで引き合わせてしまったらしい。
それはキミに、彼と子どもたちを愛する幸せをもたらしたのかもしれないけれど。でも結局はあんな事件が起きてしまった。
最近まで僕は、あれをストーカーによる悲劇だと勘違いしていた。
映画脚本が真実なら、少女と少年のすれ違いから起きた悲劇の、その延長なんだろう。
それは僕たち大人が、15年間も気づけなかったことだ。
「アイ君のことだから、きっと『何のこと?』って笑うのだろうけどね」
アイ君は、たぶん『少年A』のことすら、愛そうとして、許してしまうだろう。
だから僕は、アクア君の復讐に、一部だけ乗っかることにした。
金も、人脈も、全て使って企画を実現させている。もしこの映画がヒットしなければ、僕の立場は危うくなるだろう。
映画で『少年A』の罪を、世間に伝えること。
そのためには本当の『星野アイ』を、撮らなければならない。
最初は、片寄ゆらという、人気も実力も『スター性』もある子に頼もうと思ってたけど。
たぶん行方不明となった彼女は、『少年A』によって殺された。
今日の様子を見れば、不知火フリルよりもルビー君が適役だと思った。
僕たち大人のせいで、危険に巻き込むことにはなる。だから僕のポケットマネーを使ってでも、どんな手段を使っても、警備を過剰にするつもりだ。
「少しくらいは、キミの助けになってるかい?」
きっと天国からもずっと愛してる、そんな子どもたちは元気に育っているよ。
さて、今日はもう少しがんばって。
帰りは久しぶりにハンバーガーでも食べることにしよう。
「……ハンバーガーの食べ方から、たくさんの貸しを作ったよね」
いつか借りを返してくれるのを、楽しみに待ってたんだけどな。