【全話挿絵】TS女神転生~合体事故?でジョブは死霊でした。憑依スキルを使った女性たちの様子が変なんです。   作:よっちゃ

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第21話 盗まれた一張羅

 

 水の都、そして聖都でもあるベネザエラ。

 その中心にそびえる大神殿は、今日も(おごそ)かな空気に包まれていた。

 白亜の回廊。磨き上げられた床。高く差し込む光。

 その最奥──祈りの間に、一人の女性が静かに(ひざまず)いている。

 

 聖女──リシェラ。

 

 長い蒼髪を背に流し、清廉なる衣を纏うその姿は、まさしく神に仕える者にふさわしい気品を備えていた。

 

「……本日もまた、御加護に感謝を」

 

 澄んだ声で紡がれる祈り。

 両手を胸の前で組み目を閉じる。

 信徒たちから見ればそれは完璧な“聖女”の姿だった。

 

 ──ただし。

 

(ああ……女神さま……)

 

 その内面が、完全に同じであるとは限らない。

 

(本日もお美しいのでしょうか……いえ、きっと……間違いなく……)

 

 ほんのわずかに、頬が緩む。

 

(直接お会いしたい……その御姿を……この目で……)

 

 祈りの言葉は続いている。

 だが、その内容は次第に──

 

(触れてみたい……クンクンしたい、ああ、でも恐れ多い……しかし……)

 

 少しずつ、少しずつ、方向がずれていく。

 

 やがて。

 

「……聖女様、本日の務め、以上にございます」

 

 すっと立ち上がる。

 表情は、再び完璧な聖女へと戻っていた。

 振り返れば、控えていた侍女が一礼する。

 

「この後のご予定はいかがなさいますか?」

 

「そうですね……」

 

 柔らかく微笑む。

 

「少し、出掛けてきます。気分転換に」

 

「……かしこまりました」

 

 侍女は何も言わない。

 だが、その行き先を察していることは明らかだった。

 

 聖女は一人で出かけることがある。

 しかも、決まって“同じ場所”へ。

 

「では、しばらく席を外します」

 

「お気をつけて」

 

 軽く頷き、リシェラは人払いされた一室へと向かう。

 

 扉が閉まる。

 空気がわずかに揺らいだ。

 

「……ふふ」

 

 誰もいないはずの部屋で、彼女は小さく笑う。

 

「今日も、あの場所へ行こうかな……」

 

 指先が、空間をなぞる。

 すると──

 何もない空間に、ゆらりと歪みが生まれた。

 聖女のみが扱える、秘匿中の秘匿、転移スキル。

 

「ふふ、私だけの秘密の温泉」

 

 期待に胸を膨らませながら。

 彼女はためらいなくその歪みへと足を踏み入れる。

 光が弾け──姿は消えた。

 

 

 ──────────

 

 少し前

 

 

「そろそろ上がりましょうか。

 TS女神さま、もうよろしいでしょうか」

 

 エリーゼの一言で、全員が頷いた。

 

「ここの湯は最高だったな。霊体の体でも、たっぷりと温泉を堪能できたぞ。……機会があれば、また来よう」

 

 名残惜しさを感じつつ、湯から上がる。

 四人はそれぞれ体を拭き、着替えに手を伸ばした──その時。

 

「……あれ?」

 

 おれは、ぴたりと動きを止めた。

 

「どうしました?」

 

 ミーナが不思議そうに振り返る。

 

「ない」

「え?」

「おれの服がないぞ」

 

 一瞬の沈黙。

 

「……え?」

 

 ミーナが固まる。

 

「いや、ちょっと待て。確かにここに置いたはずなんだが……」

 

 岩の上。荷物の置き場。湯気の向こう側。

 視線を走らせる。

 だが──

 

「……ないな」

「え、ええええ!?」

 

 ミーナが慌てて声を上げた。

 

「ちょっと待ってください!? 時間が経って消えちゃったとかじゃないですよね!?」

 

「まさか」

 

「でも結界は張っていたはずだよね?」

 

 ニキも周囲を見回しながら眉をひそめる。

 

「うん。外部からの侵入、特に“魔物”と“男”は弾くはずだ」

 

 エリーゼが冷静に状況を整理する。

 

「……つまり」

 

 三人の視線が、同時におれへと向けられる。

 

「女性なら通れる、ということですよね?」

 

 おれは静かに(うなず)いた。

 

 湯気の向こうに、わずかな違和感。

 言われてみれば、誰かに見られていた気もする。

 

「……まあ仕方ない」

 

 おれは近くのタオルを手に取り、体に巻き付けた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「裸でうろつくわけにはいかないからな。

 といって、おれのような美少女がタオル一枚でふらふらするのも問題だ」

 

「TS女神さま、魔法で犯人がわかりませんか?」

 

「ふむ、あの一張羅には俺のムフフな匂いが染み付いているはずだ。それを探ってみよう」

 

 目を閉じ、意識を集中させる。

 失われた“唯一の一張羅”の香りを──

 

「……む、見つけた!」

 

 ゆっくりと目を開く。

 

「場所は──んんん? 水の都ベネザエラとなってるぞ」

 

「え?」

 

 ミーナが目を瞬かせる。

 

「み、水の都って……私たちが今から向かう場所ですよね?」

 

「ああ、そのはずだ」

 

 ニキが腕を組む。

 

「いやいやいや、ちょっと待って。偶然にしては出来すぎじゃない?」

 

 エリーゼも静かに頷く。

 

「確かに。盗まれた衣服が、目的地にある……偶然とは考えにくいですね」

 

「ふむ……」

 

 おれはタオルの端を押さえながら考える。

 

「つまりだ」

 

 三人がごくりと息を呑む。

 

「サービス回は……終わったと油断していたが、エタりのやつはまだ続けるつもりだ。しばらくはこの“タオル”がおれの唯一の衣装になるだろう」

 

「「えええええ!?」」

 

「まあ、それはいい。こうやっておれが体を張ってお色気担当をすれば、それだけ他の者が被害に遭わずに済む」

 

 おれは胸を張ってそう言い切った。

 実際それは正しいだろう。お色気担当にも自信はある。

 

 しかしそれはともかく、敵は少なくとも神聖魔法の結界をすり抜け、なおかつ気配を残さず衣服を持ち去る存在……相当な手練れかもしれん。

 

「温泉は堪能したし、せっかくいい気分なんだ。服のことは水の都に行くついでだと思えばいい」

 

「それなら、あちらで何か新しい服を買いましょうよ。TS女神さまなら何を着ても似合います!」

 

 ミーナが目を輝かせる。

 

「そうと決まれば、早く参りましょう」

 

 エリーゼも続く。

 

「盗んだのが誰か知らないが、必ず後悔させてやる」

 

 ニキが低く呟く。

 

「……私だって、ちょっと欲しかったのに」

 

「まあまあ、そう怖い顔をするな。

 服がなくたってな、おれは透明になって不可視にもなれるんだぞ」

 

 おれはそう言うと、意識を集中し体を透明にする。

 

「あ、本当だ。TS女神さまが見えなくなった!」

 

 フフフ、びっくりさせてやろう。

 おれはタオルを脱ぎ捨て三人の正面に回る。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「どうだ見えないだろう? それに驚くなよ? 

 今、おれは何も纏っていないのだ!」

 

「ちょっとTS女神さま! 変なことをしていないで、タオルを巻いてください!」

 

「わははは、何かいけないことをしている解放感を感じるな。このまま水の都に行ってやってもいいんだぞ!」

 

「貴女様は()()女神さまなんですから、変なことを言わないでください!」

 

 こうして。

 温泉での一幕は、思わぬ形で終わりを迎え──

 物語は、いよいよ水の都ベネザエラへと、大きく動き出すのだった。

 

 

 次回、水の都編突入。

 

 

 

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