Tandem Shape Force Fantasia!!   作:EMM@苗床星人

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Log3-2『リベンジ』

 西暦206X年――地球。

 北米大陸、カナダの広大な山岳地帯。鬱蒼と生い茂る針葉樹林の森の中は、鳥の囀り一つ聞こえない、異様なまでの張り詰めた緊張に支配されていた。

 

 深い木々の隙間、暗がりの奥底で。

 ギチチチ……チュゥゥゥン……。

 

 突如として、冷たい金属の歯車が噛み合わさるような不気味な駆動音と共に、六つの赤いカメラアイの複眼が、ドロドロとした『怨念』を宿して点灯した。

 赤い光が、暗い森の中に不気味な光条(トレイル)を残しながら、ゆっくりと動き始める。

 

『デナンジーヨリ、ゼロムードノ休眠戦力ヘ告グ……。死ンダ――死ンダゾォ――!!』

 

 それは、全長にして10メートルを優に超える、巨大なシェイプシフターの雄個体であった。

 金属の歯軋りのような、地球人には到底理解できないヘイブンガーデンの言語(電波通信)で怨念の声の如く低く唸りながら。

 その個体――デナンジーは、下半身を構成する一輪車のような規格外の巨大タイヤを猛烈に駆動させ、大木をなぎ倒し、隙間を縫うようにして森の中を駆け出し始めた。

 その声には、長きに渡る潜伏生活の鬱憤を晴らすかのような、ドス黒い歓喜が満ち溢れていた。

 仲間たちのシステムを強制的に叩き起こし、鼓舞するように絶叫する。

 

『我ラガ仇敵! 偉大ナル皇帝エイト様ノ仇ノ片割レ! アノ忌々シキ炭素(ヒト)ノ軍人、レオン=タケル=ラブーフガ、遂ニ寿命デくたばったゾォォォォッ!!』

 

 その報告は、地下深くや湖の底で、ひっそりと時を待っていた帝国の残党たちにとって、何よりも待ち望んでいた福音だった。

 嬉々として語るデナンジーの周囲の森の木々の隙間に、一つ、また一つと、いくつもの凶悪な赤いカメラアイが灯っていく。

 

『ギギギギギッ!』

『ガァァァァッ!』

 

 嘗ての英雄ヤマトは、とうの昔に月で砕け散った。

 そして今、地球人とシェイプシフターを繋ぎ、その防衛の要として君臨し続けていたあの悪魔のような相棒も、ついに老衰という寿命でこの世を去ったのだ。

 この世界にはもう、我らを止める絶対的な守護者など誰もいない。

 そう言わんばかりに、起動した帝国残党たちは歓喜の雄たけびを上げた。

 

『今コソ、憎キコノ地球(ホシ)ハ! 我々ゼロムードノ、大イナル破壊ニ呑マレル時!!』

 

 ギギギ、ギチギチギチギギギ……ッ!!

 

 古き帝国の破壊衝動そのものを具現化したような残存兵力たちが、一斉にエンジンをレッドゾーンまで吹かし、破壊活動への移行シークエンスを起動していく。

 

 ――しかし。

 その、熱狂と狂気に満ちて昂っていく彼らの荒々しいエンジン音を、完全に氷点下まで冷やし切り、遮るように。

 

「あら。それは随分と、虫が良い話じゃない?」

 

 凛とした、しかし絶対零度の冷酷さを帯びた『女性の声』が、森の静寂の中に響き渡った。

 

『!?』

 

 警戒音のような驚愕の電子音を上げて、デナンジーは即座に巨大な一輪車の駆動に急ブレーキをかけた。

 ズザザザザッ!と土を削って巨体を止め、声の方向へと振り向きざまに、腕部と一体化した大口径のプラズマカノンを一切の躊躇なく発射する。

 

 キュオッ——ドバァァァァァァァァンッ!!

 

 青白い閃光が森を灼き払い、声の発信源であったはずの木々一帯を一瞬にして灰燼に帰した。

 

『チッ……ネオ・グレート・ワンスノ猟犬メ! ドコダ!?』

 

 デナンジーが焦燥に駆られて複眼を光らせるが、燃え盛る焦土にはもう、何もいない。

 その直後だった。

 

 ブルルォォォォォォォォオンッッ!!

 

 耳をつんざく、けたたましいV8エンジンの咆哮。

 背後の茂みを突き破り、デナンジーの巨大な一輪車の足元スレスレを、猛スピードで通過していく漆黒に紫のラインが入った『四輪駆動車』の姿があった。

 

『ココカァッ!!』

 

 デナンジーが砲口を下へと向けようとした、その刹那。

 通過した黒紫の四駆は、まるで体操選手が前転をするような軽やかな動きで、空中に向かって跳躍した。

 

 ガチャッ、ガキィィンッ! ギャコンッ!!

 空中で四駆の装甲が幾重にも組み替わり、スライドし、車体からしなやかで鋭角的な『女性型のロボットモード』へと鮮やかに変形(シェイプシフト)を果たす。

 

 それは、亡きヤマトの遺志を継ぐ、ネオ・グレート・ワンスの現リーダー。

 戦士としては珍しい生来の女性型(メス)個体であり、冷酷なる鋼鉄の猟犬――『ヤガーコール』。

 

 ヤガーコールは空中で姿勢を捻りながら、変形と同時に背部の装甲内から分離・射出された、彼女自身の体躯の半分ほどもある巨大な『エナジーショットガン』を片手で軽々と掴み取った。

 

 ジャコォォォッ!!

 

 そのまま遠心力を利用し、ショットガンを片手で豪快にスピンコックする。

 装填と排莢の鋭い金属音が鳴り響き、銃口内に致死の青白いプラズマ・エネルギーがチャージされた。

 ヤガーコールは空中でくるりと身を翻し、着地の前に、眼下のデナンジーの『一輪車(駆動部)』のど真ん中へと、冷酷な照準をピタリと定めた。

 

「役不足よ。大根」

 

 氷のような低い電子音声で、短く、ただ冷たく言い放つ。

 

 バゴンッッ!!

 

 エナジーショットガンが、強烈な反動と共に火を噴いた。

 近距離から放たれた極太の散弾プラズマが、デナンジーの防御を容易く貫通し、彼の下半身を支えていた巨大な脚部タイヤの軸と駆動系を、木っ端微塵に粉砕したのである。

 

『ギギィィィッ!? 帝国の精鋭ヨ!何ヲシテイル!!俺二構ウナ、殺セエエエ!!』

 

 駆動部を失い、無様な姿で大地に倒れ伏すデナンジー。

 しかし恐るべきはその怨念、至近距離にいるからこそデナンジーは自らの無事よりも死人の敵の命を奪うことを優先した。

 倒れた彼は起動したばかりで、指揮権を持つデナンジーごと撃つのをためらう同胞たちに叫ぶ。

 それを冷酷に見下ろしながら、ヤガーコールは着地と同時に自らの背後に向けて、重く鋭い号令を響かせた。

 

「ネオ・グレート・ワンス――出動(ロールアウト)!」

 

 シュァァァンッ!!

 ヤガーの叫びと同時に、周囲の静寂な森一帯の景色が、まるで巨大な布を剥ぎ取るようにして一斉に揺らいだ。

 空間を偽装していた光学迷彩の隠れ蓑(ステルス・フィールド)が解除され、空気の擦れる音が幾重にも響き渡る。

 

『ギギガッ!?周囲二、未知ノ迷彩技術ニヨル伏兵ヲ確認、包囲サレテ、イルっ!!』

 

『ヒィ、ヒイイッ!?』

 

 森の中から躍り出たのは、狂気に赤く光る帝国残党の瞳へ、正確無比に照準を合わせている『混成部隊』の威容だった。

 人間と、シェイプシフター。

 全く異なる種族でありながら、互いの極端な体格差によって生じる射線妨害や電波ジャミングを起こさないよう、完璧に、そして冷酷に計算し尽くされた殺戮の陣形(フォーメーション)。

 地球の人間たちもまた、旧式の兵器などに頼ってはいない。その全員が、あの『エグゾ・ソウル・システム(IZUMO)』の後継機であり、霊子操縦形態の恩恵を極限まで引き出した最新鋭の黒き人型装甲(パワードスーツ)に身を包んでいる。

 

 炭素であれ、珪素であれ。

 此処に並び立つ者の中に、「戦士」でない人間は一人として存在しない。

 ただ、時代遅れの破壊衝動にすがる卑劣な襲撃者(ゼロムード残党)を除いては。

 

「――蹴散らせ」

 

 ヤガーコールの無慈悲な号令が下る。

 

 ガガガガガガガガガッ!!

 チュドォォォンッ!!

 

 森の静寂は一瞬にして、圧倒的な破壊の嵐へと塗り替えられた。

 シェイプシフターたちの放つ高圧縮の霊子弾と、人間たちの機体から唸りを上げて放たれる、最低でも14.5mm KPVT重機関銃に相当する規格外の実体弾の雨。それらが一切の隙間なく、起動しかけていた帝国残党の装甲を容赦なく蜂の巣へと変えていく。

 

『司令ぃ。日本語間違ってますよぉ』

 

 一方的な殲滅戦の最中。ヤガーの通信回線に、部下の一人から、緊張感のない軽い調子の声が響いた。

 

『「役不足」ってのは、『お前のような実力者にはその役目は軽すぎる』って意味っすよ?』

 

 地球の言語のニュアンスにツッコミを入れる、部下の嗤い混じりの軽口。

 ヤガーコールは銃を下ろすことなく、無線に短く応えた。

 

「あっそ」

 

 ――だが、その一瞬の油断(?)を。

 倒れ伏していたはずの巨体が、見逃すはずもなかった。

 

『ギ……ヂ、ヂィィィッ!!』

 

 ガチャッ、ギゴガゴゴゴゴゴッ!!

 ヤガーの背後で、脚を失ったデナンジーの機体が、悍ましい駆動音を立てて強引に『変形』を開始したのだ。

 それは正常なシェイプシフトではない。破壊された下半身の配線を無理やり触手のように編み上げ、無数の鋼鉄の触手を這わせた、辛うじて『龍の顎(アギト)』の形だけを保った異形の機龍形態。

 デナンジーの残骸が、ズルズルと怨念を引きずりながらゆっくりと這い上がり、ヤガーの背後からその脳天を食い破ろうと、巨大な顎と触手を伸ばして襲い掛かった。

 

「……じゃあ、こうしときましょう」

 

 ヤガーコールは、振り返りもしなかった。

 

 ガキンッ!!

 

 背後から迫る極太の触手の束を、彼女は全くのノールックで、鋭いヒールストライク一発で上空へと弾き飛ばした。

 同時に、片手に持ったエナジーショットガンを背中越しに構え、弾き上げた触手の束の中心へ向けて残る二発を同時に放ちプラズマ散弾を叩き込む。

 

 ドバァンッ!!

 

 空中で触手が四散する火花と爆炎を背に。

 ヤガーは、しなやかな動作でくるりと振り向きざまに、ショットガンをもう一度豪快にスピンコックした。

 

 ジャコォッ!!

 

 装填完了と同時。ヤガーコールの冷酷な銃口が、迫り来ていたデナンジーの機龍の顎――その脳天の装甲の隙間へと、ピタリと、そして深々と突き立てられていた。

 

「私と戦うための悪役としては、お前では格下過ぎるわ。……来世で出直しな」

 

『ヤガーコオオォォォルァァ!!』

 

 ドンッ!!

 

 ヤガーの静かな、しかし確かな修正の言葉と共に。

 無慈悲な銃声が森に響き渡り、憎き女兵士の名を叫んだ古き帝国の怨念を宿す機龍の頭部は、内部から爆発して粉々に吹き飛んだ。

 

 頭を失った巨大な鉄屑が、ズゴォンと音を立ててカナダの冷たい大地に崩れ落ちる。

 そのあっけない決着を見下ろしながら、ヤガーコールは銃口から立ち上る硝煙を静かに払うのだった。

 

「ふぅっ、結構な腐れ縁だけど……あっけないものね、デナンジー。」

 

 

     * * *

 

 

 一方的な蹂躙劇が終わり、静寂を取り戻しつつある森の上空。

 ネオ・グレート・ワンスの反重力推進輸送船が、次々とカナダの大自然の中へと降り立ってくる。

 最後まで戦い抜いた帝国残党の無惨な残骸の回収と、戦意を喪失して降伏した元帝国兵の拘束作業が手際よく進められ、部隊の面々と共に続々と輸送機へと乗り込んでいく。

 

 そんな撤収作業の喧騒から少し離れた、湖の畔。

 ヤガーコールのMMSは、波打ち際にある大岩の上に腰を下ろし、静かに黄昏ていた。

 

 黒紫の軍用ジャケットに身を包み、紫がかった黒髪をなびかせる少女の姿。

 その女性として控えめな体格もあり、物静かな冷たさを漂わせているが……

 これも血縁のなせる業か、その顔立ちや髪型は、遠く離れた異世界で転生し、今や地下のアイドルとして熱狂的な支持を集めているアメノオヅマのMMSの姿と、不思議なほどの共通点する面影を持っていた。

 

 尤も、異世界の因果など知る由もないヤガー本人は、そんな事実に気づくはずもないのだが。

 もし会うことがあれば、同じ顔のオヅマのボンネットの大きさに拒絶反応を起こしてエナジーショットガンをぶっ放すことだろう。

 

 彼女の本体(四輪駆動車)はとうに輸送機に乗り込んでいるが、MMSである彼女自身は、出発の刻限までこうして外の風を感じているつもりなのだろう。

 

 ザッ、ザッ。

 

 岩場を踏みしめる足音が近づいてきた。

 チームのエンブレムを軍服の胸に誇らしげに刻んだ、人間の若い青年だった。

 彼はヤガーの隣まで来ると、両手に持っていたスポーツドリンクの片方を、岩の上に座る少女へと無造作に差し出した。

 

「お疲れ様っす、名女優」

 

「はっ。あんたは監督気取り?」

 

 ヤガーは渡されたドリンクを受け取ると、先のやり取りを思い出し、皮肉に皮肉で返しながら二人はフッと短く笑い合った。

 

 青年の名は、スパイク=タケル=ラブーフ。

 かつて地球とシェイプシフターの未来を繋いだ英雄、レオンの孫にあたる青年将校である。

 

「気取ってられる余裕があんのも、じいちゃんのおかげっすよ」

 

 スパイクは、冷たいドリンクの缶を自身の額に当てながら、深く息をついた。

 

「彼の残したデータのおかげで、彼ら残党軍の位置も、適切な装備も、全部わかってんですから。……本当に、どんだけ準備のいい人だったんだか」

 

「そうね」

 

 ヤガーはドリンクのプルタブを開けながら、目を細めた。

 

「今頃、あの頑固爺は、ヤマト司令官に自慢してることでしょうね……お爺ちゃん(オヅマ)にも」

 

「僕らもいつか、彼らに自慢できる戦果を上げれればいいっすね」

 

 スパイクの、英雄たちへの純粋な憧れと野心を滲ませた発言に。

 ヤガーは、「馬鹿」と小さく吐き捨てて、スパイクの脇腹を尖った肘で軽く小突いた。

 

「あんな戦争、もう二度とごめんよ」

 

 その声には、冷徹な猟犬のそれではない、戦場を知り尽くした者特有の重く切実な痛みが混ざっていた。

 

「もう……あんな戦いは、あっちゃいけないし、あったら止めに行く。そのために、私達は存在するのよ」

 

 ヤガーは手元のドリンクを一気に飲み干すと、缶を潰して立ち上がった。

 そして、傍らに立つスパイクの腕をぐいと引き、大岩から軽やかに飛び降りる。

 

「さっ、次の予測地域に行くわよ。まだまだあのしぶといゴキブリ帝国どもは残ってんだから」

 

「了解っす、リーダー」

 

 輸送船へと向かって歩き出しながら。

 ヤガーコールは不意に、澄み切ったカナダの青空を見上げた。

 

 未だに、ふとした瞬間に思い出す。

 あの絶望的で辛かった戦いの日々と。それに慣れ切り、泥まみれになって笑い合っていた、愛すべき不器用な仲間たちの面影を。

 

 (みんな……今も、どこか別の世界で戦っているのかも知れないわね)

 

 ヤマトが最期に胸に抱いていた筈の、『勇者のカテドラル』。

 ヤガーは、その星の遺物の性質を知っている。

 あれは、ヘイブンガーデンであれ、地球であれ、惑星を救う勇気ある者と、絶対的な脅威が存在する時にのみ必要とされる「惑星の力」だ。

 あの月での最終決戦の後、遺されていたヤマトの骸からカテドラルが消え失せていたのは、単純に『もう必要なくなったから消滅した』はずだ。

 

(――でも、ひょっとしたら。)

 

 ヤマトが、そのカテドラルを抱いたまま、その気高い魂だけが次なる別の戦場へと持って行ってしまったのだとしたら?

 あり得ない話ではない、ネオンワンスの設立理由がまさにそれだった。

 まだ見ぬ何処かの、『知性』という同胞を求め、その手を取り合い助ける力……彼が常に掲げていたのは、そんなどうしようもないお人好しの力だったのだから。

 

「……は、生まれ変わったりだとか、オカルトやファンタジーに期待するとか、私も歳とったわね」

 

 胸をよぎる、そんな言いようのない不安。

 それを振り払うように、ヤガーコールは自らを嘲笑し、ただ静かに空を見上げるのだった。

 

 

     * * *

 

 

 ――マギア・ラージ・キャリアーの艦橋(ブリッジ)。

 

 操縦の魔術盤を操作するモルガンの背後で、村娘の衣装を着たヤマトは、遠い地球での記憶を静かに語り継いでいた。

 

「あの砂漠でレオンと出会った私たちは、追撃してくるゼロムード帝国の尖兵と交戦しながらも、彼の案内で命からがら中東の『カタール基地』へとたどり着くことができた。

 ……そしてそこから、地球人の軍が保有する巨大な輸送機に強引に乗り込み、アメリカ本国へと逃げ切る事が出来たのだ」

 

 ヤマトの語る、硝煙と逃走の記憶。

 その言葉を受けて、メイド服姿のベンザイアが腕を組み、ふと当時の驚きを思い出したように口を挟んだ。

 

「あれは、たどり着いたのが対空装備の豊富だったあそこの基地で運が良かったよなぁ。

 シトリーの野郎のライフルだって、一応は物理弾ではあるが霊子コーティングされてるってのに……。

 地球の連中は『ただの鉛玉』を火薬の爆発力だけで直接飛ばすなんていう、単純極まりない原始的な兵器を主力にしててさ。

 しかもそれが、俺たちシェイプシフターの展開する霊子シールドに対して、力場干渉をすり抜けて地味に有効だったなんてよ

 おかげであの場では帝国は一時撤退を余儀なくされたからな」

 

 ベンザイアが語る、地球の『実弾兵器』の有用性。

 その話を聞いたモルガンは、操縦の手を止めずに、片眼鏡の奥の瞳をキラリと輝かせ、どこからともなく取り出した手帳に猛烈な勢いでメモを取り始めた。

 

「ほうほう……!」

 

 モルガンは、未知の星の技術体系に興奮を隠しきれない様子で頷く。

 

「つまり、炸裂晶(ゴートナイト)のような炸裂性の紛薬を生贄の儀式代用や、純粋な爆弾として使うのではなく……

 発生する爆発のエネルギーそのものを、筒の中で『推進剤』として利用し、物理的な質量兵器を射出するわけですか……。

 確かに、その発想はわたくしたち魔術師にはありませんでしたねぇ! 大変興味深いアプローチです!」

 

 魔力という便利な万能の力があるからこそ、純粋な物理的爆発力のみに特化して発達した地球の銃火器という概念は、このファンタジー世界に生きる彼女たちにとっては全くの盲点(カルチャーショック)であった。

 

「あぁ。当時の私達からしても、黒色火薬の爆発力だけで金属の弾を飛ばすなんていう代物は、原始的すぎて逆に考えもつかなかったからな」

 

 ヤマトもまた、地球の重火器のシンプルゆえの恐ろしさを懐かしむように同意した。

 

 もし仮に、今のこの会話の場に、仮眠室で休んでいるはずのレイニア(仮にも元アメリカ空軍だったレオン)が同席していたならば。

 

『いや、火薬もないのに、いきなりロボットに変形してレーザーを撃ち合ったり、よく分かってない魔術をよくわかんないままぶっ放してるお前らの技術ツリーも大概おかしいんだよ!』

 

 と、思わず盛大なツッコミを入れてしまっていたかもしれない。

 そんな、互いの世界の常識がズレにズレまくった技術的考察を交わしながら。

 

「……だが」

 

 ヤマトは、ふと視線を伏せ、声のトーンを少しだけ重くした。

 

「アメノオヅマという、偉大な師を喪った私たちは……深い失意と、それでも戦い抜くという決意を同時に胸に抱えながら、アメリカ本国へと渡った。

 しかし、そこで我々を待ち受けていたのは、決してお世辞にも『対等』とも『丁寧』とも言えない、酷く厳しい仕打ちだった」

 

 当時のアメリカ軍上層部や政府が、未知の巨大エイリアンに対して向けた、強烈な警戒心と解剖すら辞さない恐怖の視線。

 それを思い出しながらも、ヤマトは恨み言を口にするのではなく、ただ静かに、客観的な事実としてそれを受け入れるように語った。

 

「……まぁ、当然の話であり、妥当な対応だったのだろうな。

 彼ら人類の目から見れば、当時の私たちは、彼らの最新鋭の戦闘機をいきなり理不尽に破壊し、中東の砂漠で正体不明の化け物同士で暴れ回った挙句、基地に転がり込んできた『危険なエイリアンの群れ(一団)』に過ぎなかったのだからな」

 

 窓の外、地下坑道の暗闇を見つめるヤマトの青い瞳。

 そこには、地球という星で人類の信頼を勝ち取るために、レオンと共にどれほどの苦難と泥臭い交渉を乗り越えてきたのか。

 その果てしない苦労の記憶が、静かに、しかし確かな重みを持って映し出されていた。

 

 

     * * *

 

 ――記憶の景色が、砂漠の熱砂から、ひどく冷たく無機質なコンクリートの平原へと切り替わった。

 わたくし(レイニア)の魂の奥底で、俺(レオン)の泥臭い記憶が、さらに深く再生されていく。

 

 舞台はアメリカ本国――バージニア州アーリントン。

 ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港の、一般機の立ち入りを完全に封鎖した軍用滑走路は、異様なまでの緊張感に包まれていた。

 

 ギギギギギギ……ガシャンッ。

 

 中東のカタール基地から命からがら飛び立ち、長い空の旅を経てようやくたどり着いた超大型輸送機の後部ハッチが、重々しい音を立てて開く。

 だが、降り立った俺たちを出迎えたのは、不慮の事故で墜落から生還した一パイロットを安堵して迎える声でもなければ、当然、未知の異星人との歴史的なファーストコンタクトを歓迎する華やかなファンファーレでもなかった。

 

 ガシャリッ。

 

 ハッチが開ききった瞬間に待ち構えていたのは、滑走路を半円状に包囲し、こちらへ一斉に照準を合わせた、重武装の兵士たちが構える無数の銃口だった。

 

「――説明しろよ。何だ、これは」

 

 俺は、背後のヤマトたちを庇うように一歩前に出ると、眉を激しく顰めて怒鳴った。

 その俺の目の前に、黒服のスーツの襟元にCIAのバッジを目立つように光らせた男が、護衛を連れてツカツカと歩み出てきた。

 初老の渋い顔立ちに全く似合っていない、ティアドロップ型の黒いサングラスをかけた男だ。彼は俺の威嚇などどこ吹く風といった様子で、偉そうに言い返してきた。

 

「それは、こちらが聞きたいところなんだがね。レオン=タケル=ラブーフ少尉」

 

 サングラスの男――CIAのエージェント・ジョーンズは、冷徹な口調で俺の『罪状』を読み上げ始めた。

 

「貴官は命令に背き、最新鋭の軍事機密である試作ステルス戦闘機を中東の空にまで乗り回し、大破させた。

 そして、未知のエイリアンたちと砂漠のど真ん中で派手な戦闘と破壊行為を繰り広げた挙句、カタール基地の設備に甚大な被害を出しながら我々の輸送機に飛び乗ってきた……とんでもない無法者だ」

 

「それは俺から仕掛けたんじゃなく、あいつらの敵の帝国が……!」

 

「オマケにだ」

 

 ジョーンズは俺の弁明を冷酷に遮った。

 

「そのエイリアンの難民どもを、国家の許可なくバージニア州の本土にまで連れて来た訳だ。

 ……口には気を付けたまえ、少尉。

 それが事実だろうが言いがかりだろうが、君にはいくらでも外患誘致や国家反逆レベルの『余罪』を追加できるのだからな?」

 

「てめぇっ……!」

 

 似合わないサングラスのおっさんは、俺を侮蔑するように鼻で笑うと、サングラスの奥の冷たい視線を、俺の後ろで立ち尽くす巨大なシェイプシフター達へと向けた。

 

「そこのクソデカいエイリアン共もだ。宇宙戦争なんぞという馬鹿げた内輪揉めに、この地球を巻き込む気なら、今すぐ即刻お帰り願おう」

 

「何よっ! あんた達の星に迫る危機を、わざわざ伝えに来てやったのよこっちは!」

 

 ジョーンズの冷酷な言葉に、真っ先に牙を剥いたのはヤガーコールだった。

 

「私のおじいちゃんが、どんな思いで……っ!」

 

 彼女は巨大な四輪駆動車の姿からロボットモードに変形したばかりの細い装甲をワナワナと震わせ、今にも飛びかからんばかりの勢いで怒鳴り返した。

 無理もない。カタールで祖父であるアメノオヅマを目の前で喪ったばかりのヤガーは、アメリカに向かう空の旅路の中でも、些細なことで仲間に噛みつきかねないほどに気が立っていたのだ。

 いや……そうやって強気に、怒りとして発散して振舞っていなければ、大切な家族を喪った深い悲しみで、彼女の心がどうにかなってしまいかねなかったのは、端から見ていた俺の目にも容易に想像できた。

 

「よすんだ、ヤガーコール」

 

 激昂するヤガーの肩に、巨大な手をそっと置いて。ヤマトがずいと前に出た。

 

「我々の……いや、彼の戦闘機の撃墜に関しては、すべて私個人の落ち度だ。この惑星の兵器にも、我々のものと同じ『霊子(サイコ・パーティクル)関連技術』の波長が存在していたことを、我々は知らなかったのだ」

 

 ヤマトは、決して自らの正当性を感情的に主張せず、ただ理路整然と、この事態を招いた責任は自分にあると、毅然とした態度でジョーンズを見下ろして語った。

 

「――はっ」

 

 だが、ジョーンズはそのヤマトの高潔な態度を、鼻で短く笑い飛ばした。

 

「いかにも宇宙人らしい、驕り高ぶった余裕の態度だな。だが、ここは君たちの星ではない。……おい!」

 

 ジョーンズが背後の部隊に顎で合図をする。

 

「この得体の知れない鉄くずどもを、ラグーンの『緊急焼却処理装置つき隔離倉庫』にて厳重に拘束しておけ!

 解析班と科学者も総動員だ。宇宙のデータとやらを、分解して徹底的に吐いて貰おうじゃないか」

 

 ジョーンズの残酷な命令が下ると同時。俺を突き飛ばして押しのけ、幾人もの武装した軍人たちが列を成し、シェイプシフター達の巨体へ向かってアサルトライフルを突きつけながら「動け!」「歩け!」と怒鳴り散らした。

 

「ったく……小さい炭素生命体は、よく吼える……!」

 

 緑色のプテラノドンから変形したシトリーが、心底から忌々しげに、体内のジェットエンジンを威嚇するように唸らせる。

 しかし、ヤマトの「我慢しろ」という無言の制止の手前、シトリーはすぐに上がりかけた装甲の翼を降ろし、舌打ちをしてその理不尽な命令と拘束に従った。

 ベンザイアも、ヤマトも。圧倒的な武力を持っていながら、人類をこれ以上刺激しないために、ただ無抵抗で兵士たちに囲まれながら歩き出す。

 

「おい、待て! あいつらは敵じゃない! 俺たちに危機を知らせに来たんだぞ!」

 

 俺が彼らを追いかけようと声を荒げた、その時。

 

 ドンッ。

 

 ジョーンズがわざわざ俺の目の前を横切り、すれ違いざまに俺の肩に強くぶつかって、俺の歩みを物理的にどかしてきた。

 

「ここから先は我々政府の仕事だ。脳みそまで筋肉でできている飛行機乗り(パイロット)は、とっとと自分の基地のベッドにでも戻って寝ていろ」

 

 冷たく、見下すようにそう言い捨てて。

 ジョーンズは黒服の部下たちを引き連れ、ヤマトたちが連行されていく隔離倉庫の方へと歩き去っていった。

 

「くそっ……!」

 

 見上げれば、青く澄み切ったアメリカの空。

 だが、滑走路に取り残された俺と、共に逃げ延びてきた輸送機のクルーたちは、己の無力さと、あの心優しき鋼の巨人たちに対する申し訳なさで、ただギリギリと拳を握りしめながら……遠ざかる彼らの背中を、悔しさの底から見送ることしかできなかったのだ。

 

 

     * * *

 

 

 ――夢は、続く。

 深い眠りの中で、わたくし(レイニア)は、ひどく奇妙な感覚に囚われていた。

 

 (おかしい。なんで『俺』は、この光景を知っているんだ?)

 

 夢の中で展開されるのは、俺が軍から隔離され、基地の個室で腐っていた時の出来事。

 つまり、レオン自身は『絶対に直接見ていないはず』の光景だった。

 だが、その映像と音声は、まるで自分がその場に立って体験していたかのように、不気味なほど鮮明に脳内に再生されていく。

 まるで、誰かの魂の記録そのものを、ダイレクトに受信しているかのように。

 

 

     * * *

 

 

 厳重に封鎖された、ペンタゴン・ラグーンの湖面。

 その人工的な水上には、急造された高さにして10メートルにも及ぶ、巨大な円筒形の隔離施設群がいくつも林立していた。

 

 分厚い耐熱防弾ガラスに囲まれたその筒状の容器の中に、ネオンワンスのシェイプシフターたちが、まるで巨大な試験管の標本のように一体ずつ隔離・拘束されている。

 壁面には夥しい数の火炎放射口が設置されており、少しでも彼らが敵対的な動作を見せれば、いつでも致死量の高熱(プラズマ)を浴びせ、文字通り『緊急焼却処理』を実行できるという、極めて非人道的な尋問環境だった。

 

『……』

 

 プテラノドンから人型に変形したシトリーは、その屈辱的な環境の中で、腕を組んで壁にもたれかかり、質問を投げかけてくる人間たちを冷たいカメラアイで見下ろしたまま、完全にクールな黙秘を貫いていた。

 

『ヘイ、そこの白衣のアンタ! ちょっと聞きたいんだけどよ!』

 

 一方、ベンザイアは全く緊張感のない態度だった。ガラスをコツンと叩き、外でデータを取る研究員に向かって軽口を放つ。

 

『さっきから外の道路を、俺様好みのカーブを持った美女(ビークル)がいっぱい走り回ってるんだけどよ! あいつらにも人格はあるのか? あるなら、ぜひ俺様に紹介してほしいんだけどなぁ!』

 

「……エイリアンの言語モジュールがバグを起こしているようです。精神安定剤代わりに、電磁ショックを投与しますか?」

 

『おいコラ無視すんな!』

 

 そして、祖父であるアメノオヅマを喪ったばかりのヤガーコールは。

 

『……っ……くそっ、見るな、ちくしょう……っ』

 

 ロボットモードのまま膝を抱え、ただ静かに、絶望と悲しみに暮れて冷却液(涙)をポロポロと流し続けていた。

 人間たちからの呼びかけには一切応えず、ひたすらに自分の内側に閉じこもっている。

 

 そんな中。

 ヤマトが収容されている隔離施設の正面には、あのティアドロップ型のサングラスをかけたCIAのエージェント――ジョーンズが、特設された尋問用のマイクの前に立っていた。

 

「さあ、巨大な宇宙人くん。君たちのそのエネルギー供給システムと、自己修復する金属細胞の原理について、そろそろ詳しく聞かせてもらおうか。

 君たちが我々の軍事技術にどれだけ貢献できるかによって、君たちの今後の『処遇』が決まるのだからね」

 

 ジョーンズの言葉には、彼らを対等な知的生命体として扱う意思など微塵もなかった。

 ただ、転がり込んできた『未知の兵器(テクノロジー)』から、いかにして有益なデータを引き出すかという欲望だけが透けて見えた。

 

『何度でも言う。私たちの技術体系など、今の君たちにはどうでもいいことだ。

 それよりも、すぐに事態に対処しなければ手遅れになる!』

 

 ヤマトは耐熱ガラスに両手を突き、声を荒げて必死に訴えかけた。

 

『ゼロムード帝国という破壊の権化が、何らかの明確な目的を持って、この地球という星に集結しつつあるのだ!

 そして何より、彼らを率いる最大の脅威……『皇帝のカテドラル』の所持者であるエイトが、すでにこの星のどこかに存在し、何か恐ろしいことを企んでいる!』

 

「ゼロムード帝国。そして、エイト」

 

 ジョーンズは手元のタブレットに目を落とし、ため息をついた。

 

「君の言うその『カテドラル』とやらが、強力な大量破壊兵器であることは分かった。

 しかしだ、それが地球に存在するという物的証拠はどこにある? 我々のレーダー網は、君たち以外に巨大な隕石の落下など感知していない」

 

『彼らは我々と違い、武力による制圧と破壊を是としている!

 彼らが本格的に活動を開始すれば、もう遅い! 君たちの軍隊など一晩で壊滅させられるぞ!』

 

「ふむ。つまり、君たちの技術を提供してもらわなければ、我々は防衛もままならないということだね?

 ますます君たちのテクノロジーを我々が管理する必要性が高まったわけだ」

 

 完全に、論点がすれ違っていた。

 ジョーンズは、ヤマトが語る『星を滅ぼすほどの宇宙規模の脅威』を、ただの「地球の国家間紛争の延長」程度のスケールでしか理解しきれていないのだ。

 

『ちがう……! そういう次元の話ではないのだ! なぜわかってくれない!』

 

 ガンッ!!と、ヤマトが苛立たしげにガラスを叩く。

 その瞬間、防衛システムが作動し、施設内に威嚇の青白い放電が走り、ヤマトの装甲をバチッと焼いた。

 

『ぐっ……!』

 

「暴れるなよ、異星人。我々は野蛮ではないが、君たちが敵対的であるなら、それ相応の対処をせざるを得ない」

 

 (これでは、ダメだ……。このままでは、いずれ必ずやってくる帝国の侵攻に、間に合わない……!)

 

 ヤマトの青い瞳に、深く、暗い焦燥感が募っていく。

 この閉鎖された空間の中で、鋼の勇者の心は、静かに削られ続けていたのだ。

 

 

 

 一方で、俺はというと。

 一人、最寄りの空軍基地に隔離され、そこでも一通り「エイリアンの秘密を教えろ」だの「宇宙人に何かされてないか」だのと、身体検査込みで尊厳も何もない検査を散々受けまくった。

 挙句の果てに「謹慎」だと抜かされ、独房同然の監視付き個室に閉じ込められ、ふて寝を余儀なくされていた。

 

 正直、お手上げだ。

 此処までくれば、この先の俺の運命は、悪くてあの狂った科学者どもの「第三種接近遭遇の解剖サンプル」、よくても空軍での立ち位置(キャリア)はおじゃんだろう。

 しかしそれよりも、あの激闘を生き抜いた通夜みたいなヤマトたちを、まるで犯罪者のように連行していったあの鼻持ちならないCIAの態度が、どうしても俺を苛立たせていた。

 

 そんな時だった。

 

 ――キイイィィィィンッ!

 

「ッが……。あっ!?」

 

 ベッドに寝そべっていた俺の頭蓋骨の内側に、唐突にガラスを引っ掻いた音を何十倍にもアンプで増幅したような、強烈なノイズが鳴り響いた。

 

「おい! どうした!?」

 

 頭を押さえて悲鳴を上げた俺に、ドアの外で立っていた見張りの兵士が叫んでくる。しかし、その声は心配というよりは、C級ホラー映画でよくある「エイリアンに関わった人間の無惨な末路」の目撃者になることに怯えているような様子だった。

 だが、ある意味それも正しかった。

 頭が割れるように痛い。いよいよもってエイリアンの寄生か何かの第一犠牲者になる時か、と俺がどこか冷静に思い始めた矢先。俺の脳内に、奇妙な『声』が響き始めたのだ。

 

『wi■■e地球fhoqi■fo古代a;iera@■■古き者epoa:ojio門jeaio石の門……』

 

 最初は、殆ど一発では理解不能な、出鱈目な電子ノイズの羅列にしか聞こえなかった。

 だが、やがてそれはノイズの波長が合うように、明確な『言葉』となって脳髄に直接語りかけてきた。

 

『ペンタゴンと呼ばれる施設――地下セクター7に保管――古き者どもの石の輪――我々の門』

 

「………っ!」

 

 言葉の内容が、頭に直接流し込まれ、自動的に理解させられる。

 

 (ヤマトたちの敵……帝国軍の狙いは、それか!)

 

 これは、ヤマトたちに伝えなければならない。

 

(あいつらは今、拘束されて身動きが取れないはずだ。

 俺が動くしかない。手段を選んでいる暇なんて、無い!)

 

 バタンッ!と、ドアが乱暴に開かれる音がした。

 俺は咄嗟に布団のシーツに隠れ、自らの指を思い切り喉の奥へと突っ込んだ。

 

「おい! 大丈夫か! 宇宙人に何かされた痕跡か!」

 

 医者らしき白衣の集団が、護衛の兵士と共にゾロゾロと怪しげな機材を持って駆け込んでくる。

 俺は気づかれないように喉奥を刺激していた指を離し、さも『未知のウイルスで体調を急変させた被害者』のように体をよじらせた。

 

「げぇ……ぇっ!」

 

 そして、わざとベッドのシーツに盛大にゲロを吐き散らした。

 

「うわっ! おい! もっと機材を持ってこい! やはり何かされているぞコイツ!」

 

 白衣の糞科学者の一人が、嬉々として後ろを向いて仲間に指示を飛ばす。

 未知の感染症のサンプルが手に入るとでも思ったのだろう。

 俺は、その後ろ頭めがけて。ベッドからバネのように飛び上がり、渾身の膝蹴りをそのみぞおちに喰らわせた。

 

「ぐえっ!?」

 

 一瞬で意識を刈り取られた白衣を、着地と同時に首根っこを抱え込んで『肉の盾』にする。

 そして、事態の急変に対処が一瞬遅れ、機銃を構えようとした監視の兵隊めがけて、そのまま突進した。

 

「ぐあッ!」

「悪いね、貰ってくぜ!」

 

 兵隊の腕から半ば引きちぎらんばかりにのけ反らせ、機銃を一瞬の隙をついてひったくる。

 ――その時、だった。

 当時の俺は、奇妙な『違和感』を覚えた。

 

 (何だこれ。……時間って、こんなにゆっくり進んでたか?)

 

 ペアでこの部屋を監視していたもう一人の兵隊が、慌ててこちらに銃口を向けようとする。

 だが、その動きが、まるで水中のスローモーションのように、ひどく緩慢に見えたのだ。銃のセーフティを外す指の動きまでが、はっきりと知覚できる。

 頭の中に、直接『はじめから知ってたかのような情報』が思い出されるかのように提示される。

 

 (IZUMOシステムとやらを通じた、『霊子(サイコ・パーティクル)』による高速思考の覚醒……『んかい』との接続未遂の名残?)

 

 理由はわからない、浮かんだ知識も正直言って気味が悪い。

 だが、この極限の集中力がもたらす身体能力のブーストは、今の俺には好都合すぎた。

 俺はその緩慢な動きの間に、兵隊が向けてきた銃口を片手でガシッと掴み、大きく上へと逸らす。

 そして、空いた膝をそいつの腹のど真ん中に、情け容赦なく叩き込んだ。

 

「ごふぁッ……!?」

 

 カエルのように潰れた悲鳴を上げ、兵隊が崩れ落ちる。

 俺は気絶した白衣の科学者をその場に捨て去ると、奪った機銃を構え直し、警報の鳴り響く基地の廊下へと一気に駆け抜けていった。

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

 非常ベルがけたたましく鳴り響く中、俺は超感覚化された知覚で次々と現れる警備兵たちの配置を完璧に見切っていた。

 

 タンッ! タンッ!

 

 角から飛び出してきた重武装のMPたちに向け、走りながら機銃を放つ。

 放たれた弾丸は彼らの急所を寸分違わず逸れ、持っていた武器の銃身や、足元の床材を跳弾させて彼らの足を的確にすくっていく。

 流れるような、一切の無駄を省いた制圧。

 

「ひぃっ!? な、何だアイツは!」

 

「くそっ、動きが読めねえ! どこの映画から飛び出した『キリングマシーン』だよ奴はッ!」

 

 足を押さえて呻く憲兵が、恐怖に顔を引き攣らせて吐き捨てる。

 『キリングマシーン』。

 そう呼ばれながらも、俺は誰一人としてその命を奪うことはしなかった。

 急所を完全に外す、機械じみた我ながら異常な射撃精度と状況判断能力だけで、基地の警備網を文字通り無力化していったのだ。

 

「悪いな、急いでるんだ」

 

 俺は地下のガレージに到達すると、キーが挿しっぱなしになっていた軍用バイクに飛び乗り、エンジンを全開に吹かした。

 そのまま跳ね上がったゲートをくぐり抜け、追っ手を置き去りにして、夜のアメリカへと猛スピードで飛び出していく。目指すは、ペンタゴンの地下セクター7だ。

 

 

     * * *

 

 

「……何だと? ラブーフ少尉が脱走した?」

 

 一方、ペンタゴン・ラグーンの隔離施設。

 ヤマトへの尋問を続けていたジョーンズの元に、部下から慌ただしく俺の脱走の報せが舞い込んでいた。

 

「監視付きの隔離室から、たった一人で一個小隊を無力化して軍用バイクで逃走中だと? 馬鹿な、彼はただの優秀なパイロットに過ぎないはずだぞ!」

 

 ジョーンズが苛立たしげに通信機に向かって怒鳴る。

 その声を、耐熱ガラスの向こう側で聞いていたヤマトは、青い瞳を見開いて息を呑んだ。

 

 (レオン=タケル=ラブーフ……何故、あの人間はそこまでして……?)

 

 ヤマトは、帝国軍の目標がペンタゴン地下にあることなど、一切知らなかった。

 だからこそ、俺の無茶な行動の理由が全く理解できず、激しい困惑を覚えていた。

 

(彼は私のせいで乗機を失い、軍のキャリアをふいにしてしまった被害者だ。

 私など、彼にとってはただの迷惑な厄介者でしかないはずだ。

 それなのに……なぜ、彼は何故脱走という道を選んだのだ?)

 

 ヤマトが思考を巡らせていた、その時だった。

 

 ――ズズンッ!!

 

 突如として、巨大な隔離施設全体が、下から突き上げられるような猛烈な地響きに見舞われた。

 

「な、なんだ!? 地震か!?」

 

 ジョーンズが足元をよろめかせ、周囲の兵士たちが天井を見上げる。

 ズゴゴゴゴォォォォォンッ……!!

 

 夜空を分厚く覆っていた暗雲が、内側から燃えるような赤黒い光を放ち、無惨に引き裂かれた。

 雲を突き破り、大気との摩擦で赤熱した数条の『巨大な隕石』が、耳を劈くような轟音と共に、バージニア州の市街地やビル群を無差別に粉砕しながら、次々と地上へと降り注いできたのだ。

 

 ドバァァァァァァンッ!!

 

 遠くのビル群が炎を上げて崩壊し、衝撃波がラグーンの水面を激しく波立たせる。

 

「なんだあれは!? お前たちの仲間の襲撃か!?」

 

 ジョーンズが血相を変え、マイク越しにヤマトを怒鳴りつけた。

 しかし、ヤマトの顔はジョーンズ以上に青ざめ、戦慄に満ちていた。

 

「いや、この乱暴な着地は……我々を追って、そこまでするというのか!? ゼロムード帝国ッ!」

 

 それは、人類の防衛網など意に介さずに強行降下してきた、帝国軍の最悪の尖兵たちだった。

 

 もうもうと立ち上る土煙と爆炎の中から、重い駆動音と共に巨大な影が立ち上がる。

 

『よーし、暴れるぞぉ!』

 

 無邪気な子供のような合成音声を響かせ、巨大な砲門を備えた『多脚戦車』へと姿を変えたのは、ダチカル。

 

『炭素生命体、殲滅……』

 

 ウネウネと蠢く無数の鋼鉄の触手でビルをへし折りながら、異形の『蛸龍(オクトパス・ドラゴン)』の姿を現した、デナンジー。

 

『食べて、良い?』

 

 シューッと不気味な排気音を立てながら、高架橋に巻き付き、巨大な鎌首をもたげた『蛇型龍』、アシナヅ。

 

 凶悪な7メートル超級の機龍たちが、一斉に破壊の産声を上げる。

 彼らこそ、ゼロムード帝国が誇る強く巨大な突然変異個体(ミュータントマシーン)強襲部隊『オーバークレイドルズ』。

 

『地下への潜行が最優先だ、餓鬼ども! 無駄な破壊で遊んでいる暇はない!』

 

 そして、その狂犬どもを統率するように、一際巨大なブラキオサウルス型の機龍から、理知的なロボットモードへと変形(シェイプシフト)を果たした影。

 黄色いモノアイを不気味に光らせる帝国の知将、シンクバイだった。

 

 彼女の冷酷なモノアイが、一直線にペンタゴンの方角へと向けられる。

 地球という青き星に、本当の『絶望』が舞い降りた瞬間だった。

 

 

 ――空を切り裂くようなジェットエンジンの唸り声と、市街地が炎に包まれる光景を横目に。

 俺が乗る奪取した軍用ダートバイクは、ペンタゴン・ラグーンの湖畔に敷かれた封鎖線へと猛スピードで突っ込んでいた。

 湖面に浮かぶ隔離施設群。それを岸辺で監視・防衛するために展開していた海兵隊の歩兵小隊は、突然空から降ってきた隕石(エイリアン)の群れと、そこから立ち上がる巨大な機龍の姿に完全なパニック状態に陥っていた。

 そこへ、俺は道路に転がっていたコンクリートの瓦礫をスロープ代わりにして、バイクのアクセルを全開に吹かした。

 

 ギュオォォォォンッ!!

 

「な、何だ!?」

 

 宙を舞ったダートバイクが、湖畔に土嚢と有刺鉄線で築かれた前線指揮所のド真ん中、警戒にあたっていた海兵隊員たちのすぐ目の前に、激しい土煙を上げて着地する。

 俺はバイクが完全に止まる前に強引に飛び降り、砂利を滑るようにして、背中に巨大な野戦用軍用無線機を背負った通信兵(RTO)の元へと肉薄した。

 

「動くな! 手を挙げろ!!」

「止まれ! 撃つぞ!!」

 

 遅れて事態に気づいた周囲の海兵隊員たちが、一斉にアサルトライフルの銃口を俺に向ける。

 赤外線レーザーサイトの赤い点が、俺の胸や額に無数に灯った。

 

「撃つなぁッ!!」

 

 俺は両手を高く上げながらも、周囲を鋭く牽制し、必死の形相で部隊の現場指揮官と思しき中尉に向かって怒鳴りつけた。

 

「俺は敵の情報を持っている!

 今すぐ、中の尋問室にいるCIAのジョーンズに回線を繋げ! 早くしねえと、ペンタゴンの中心に、あのクソデカい化け物どもが通れるほどのどでかい『穴』を空けられるぞ!!

 アメリカ国防の要がエイリアンに『掘られる』のを指くわえて見てたいなら、今すぐ俺を撃ち殺せ!!」

 

 俺の鬼気迫る絶叫に、若い警備兵たちが慄き、引き金にかかった指を震わせて判断を迷う。

 俺は間髪入れずに、中東からの撤退戦と、輸送機の中での暗い通夜のような空気の中で、ヤマトたちから聞き出した戦術情報(ファクト)を追い討ちとして周囲に叩きつけた。

 

「いいか! お前らが今構えてるような5.56mmの豆鉄砲じゃ、あいつらの装甲には傷一つつけられねえ!

 奴らの展開する霊子シールドと金属細胞の装甲をブチ抜くには、最低でもブラッドレーに積んでる25mm機関砲か、14.5mm以上の重機関銃、それか対物徹甲弾が必要だ!

 弾幕で牽制した気になってると、一瞬で距離を詰められてミンチにされるぞ!」

 

 具体的な口径と装甲の貫徹力。パイロットとしての経験と、実際に奴らの戦闘を見た者だけが語れる、血の通ったミリタリーデータの提示。

 俺は、震える兵士たちの顔を一人一人見据えて吠えた。

 

「相手はヤマト達みてえに、言葉を交わして話に付き合ってくれるような『理性的な連中』じゃねえ! 破壊と殺戮のためだけにやってきた、ただの狂った『獣』だぞ!」

 

 その言葉の圧倒的な重みと迫力に。  ついに折れた現場指揮官の中尉が、舌打ちをして通信兵の肩を叩いた。

 

「……通信兵! 統合指揮所を経由して、隔離施設のジョーンズ局員へ直通回線を開け!」

「は、ハイッ!」

 

 通信兵が慌てて周波数を合わせ、ハンドセットを俺に渡す。  数秒のノイズの後、回線が繋がった。

 

『何だ、騒々しい! 外の化け物どもへの応戦は軍に任せておけ、我々は今重要な尋問の……』

 

 通信機から聞こえてきたのは、緊急事態にも関わらず未だに机上の空論を優先しようとする、几帳面で鼻持ちならないジョーンズの苛立った声だった。  俺は、その言葉を容赦なく叩き斬って叫んだ。

 

「俺だ、ラブーフ少尉だ! ヤマトに伝えろ!! 奴ら帝国軍の目標は、ペンタゴン地下研究施設『セクター7』に保管されている、巨大な『石の輪』だ!!」

 

 その言葉が発せられた瞬間。

 通信の向こう側で、ジョーンズの喉がヒクッと痙攣したような音がはっきりと聞こえた。

 

『キッ……貴様!? なぜ、そのことを知っている!!?』

 

 ジョーンズの普段の冷徹な声が完全に裏返り、パニックを起こしたような悲鳴に変わった。

 

『その物体が我が国に保管されているというのは、地球外生命体の存在を決定づける最上級機密事項で……!』

 

「黙れ! その最上級機密とやらを狙って、今まさにエイリアンの本隊がペンタゴンに突っ込んできてるんだろうが!!」

 

 俺とジョーンズが怒鳴り合っている通信回線に。

 突如、横から割って入るように、重々しくも酷く焦燥した『ヤマトの声』が響いた。  

 おそらく、尋問室のマイクを通じ霊子通信によるジャックで強引に割り込んだのだろう。

 

『まさか……「天乃岩橋(スターゲート)」か!?

 まさかこの惑星に……いや、古き者の立ち寄った惑星であるなら……

 彼らが真っ直ぐにこの地帯を目指してきたということは、此処に在るのか、それが!?納得はいった、だが、マズい……!

 だとすれば、彼らの目的は破壊だけではない!』

 

 ヤマトの息を呑む声。

 

『おいエイリアン! 勝手に一人で納得するな! そういう超常の技術情報こそを我々に詳しく教え……』

 

 ザザザッ!というノイズが響き、ジョーンズの言葉はまたしても完全に無視された。  

 そしてヤマトは、目前のジョーンズ(人間)との通信機に向けた言葉ではなく。

 拘束施設にいるシトリー、ベンザイア、ヤガーコールたち……ネオンワンスの全仲間たちに向けて、彼らだけに通じる特殊な『霊子通信(テレパス)』の波長を最大出力で放ち、高らかに告げたのだ!

 

『ネオンワンス、緊急出動せよ! いかなる手段を用いてでも、あの五角形の建物(ペンタゴン)を護れ!!』

 

 それは、誇り高き司令官による、絶望的な未来を防ぐための決死の作戦指令だった。

 

『あのスターゲートが起動し、空間が完全に繋がってしまえば……ヘイブンガーデンから、無尽蔵の帝国の軍勢(ケダモノ)が、この地球へと溢れだしてくるぞ!!』

 

『ヒュッ……』

 

 ヤマトが告げた、文字通りの『この世の終わり(エイリアンによる地球の完全侵略)』を予感させる言葉。

 それを聞いたジョーンズの口から、話を遮られた怒りなどとうに吹き飛び、想定を遥かに超えた最悪の事態の到来に、肺から空気が抜け切ったような情けない悲鳴が漏れ出した。

 

『いよっ、待ってましたっ!』

 

 ヤマトの放ったそのテレパスを聞いて、真っ先に動いたのがベンザイアだった。

 彼女――いや、当時の彼が収容されているこの狭く脆い耐熱防弾ガラス瓶から、最も気軽に脱出可能なのは、まぎれもなく足技に特化した彼なのだ。

 

 ガシャンッ、コン!

 

 と、ロボットモードのベンザイアの両足から、ショックブーツの銃身が鋭くせり出し、その中から太い砲塔が少しだけ伸びる。

 そしてベンザイアは、見た目よりも遥かに柔らかい関節の可動域を活かして、狭いガラス容器の中で器用に真上へと足を振り上げると。

 

『ちょいとごめんよ!』

 

 誰もいない方向――天井の換気口めがけて、ショックブーツのエナジーカノンを容赦なく発砲した。

 

 ズドンッ!!

 

 警報装置が異常を検知し、熱処理システムがガスを吐いて発火用のプラグが通電するよりも遥かに速く、致死の熱線が放たれる前に、分厚い耐熱ガラスの檻は内側からの衝撃波で無惨にも粉砕された。

 

 ガシャァァァァァァンッ!!

 

『ひぃっ!?』

 

『ば、化け物が脱走したぞ!!』

 

 降り注ぐガラスの破片に、外で監視とデータ収集を行っていた研究員たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 その混乱の中。

 別のガラス容器内では、クールな黙秘を貫いていたシトリーが、大きく空中に飛び上がっていた。

 

 ゴン! ガン! ギンッ!

 

 空中で鋭く回転しながら、三段階の淀みない金属音を鳴らし、一瞬のうちに巨大なプテラノドンへと変形を果たす。

 緑色の金属翼が容器のガラスを内側からカチ割り、シトリーは慌てふためく人間達には目もくれず、真っ直ぐに上空の暗雲へと向かって飛び立っていった。

 

『ほら、燃やしてみな?』

 

 さらに別の容器。

 先ほどまで静かに涙を流していたヤガーコールもまた、悲しみを怒りへと塗り替え、背中から巨大なエナジーショットガンを抜き放っていた。

 ガチャキッ!と、その銃口の先端に鋭い銃剣(バヨネット)が展開される。

 

 彼女は一息にその銃剣を振り回し、自身を囲んでいた巨大なガラス瓶を、その胴体から綺麗な円の軌道で両断した。

 ズレて大きく隙間を開けた耐熱ガラスの向こうで、絶句し、腰を抜かす人間の研究員たちを冷ややかに嘲笑いながら。

 ヤガーコールもベンザイアと同様、人間がいない方向を正確に見極めてショットガンを放ち、分厚いコンクリートの壁と残りのガラスを粉砕して、猟犬のように疾風の速度で脱出を果たした。

 

 人間など、誰一人としてその抵抗を許さない。

 圧倒的で、一方的すぎる檻の破壊劇。

 

 そして、尋問用のマイクの前で腰を抜かしていたジョーンズの目の前で。

 

 ジャコンッ!!

 ヤマトが、両腕から極大のエナジーブレードとヒートアックスを同時に展開した。

 

「くっ……! やらせるかぁっ!」

 

 ジョーンズは恐怖に顔を引き攣らせながらも、ヤマトを焼き尽くすべく、ためらうことなく手元の制御盤の『緊急焼却装置』のスイッチを叩き込んだ。

 

 バチチチッ! シュゥゥゥッ……ゴオオオオオォォォォォッ!!

 

 ヤマトを閉じ込めていた容器の壁面から、生成された大量のプラズマ発火が凄まじい勢いで噴き出し、瞬く間にヤマトの巨体を灼熱の炎で包み隠した。

 数千度、常の金属であれば一瞬でドロドロに融解し蒸発するほどの超高熱。

 しかし――。

 

『温い。だが、景気付けには丁度いい』

 

 燃え盛るプラズマの向こう側から、全くダメージを感じさせないヤマトの低い声が響いた。

 ジョーンズは、その信じられない言葉に完全に絶句する。

 

 プラズマの炎が晴れた後。

 焼却処理の終わったガラス容器の向こうには、全身を霊子の薄く光る皮膜(シールド)で完全に保護され、表面のガラスが薄く溶けた蒸気に晒されながらも『傷一つない』ヤマトの威容があった。

 ヤマトはそのまま、右腕のエナジーブレードで眼前の分厚いガラスを溶断してこじ開けると、ジョーンズの目の前へとその巨大な顔を身を乗り出した。

 

『貴殿は、交渉には値しない。……次はもっと、上の者を呼べ』

 

 圧倒的な力を持つ知性体からの、冷酷なまでの拒絶の宣告。

 そう言い残すと、ヤマトは悠々とその巨体で、恐怖に竦み上がるジョーンズの頭上を跨ぎ越え、ペンタゴン・ラグーンの空へと飛翔し、堂々たる脱出を果たしたのである。

 

 

     * * *

 

 

 ――ペンタゴン周辺、バージニア州の市街地。

 

 突如として空から降り注いだ数条の『巨大な隕石』は、合衆国の中枢を囲む美しい街並みを、一瞬にして地獄の業火に包み込んだ。

 アスファルトはめくれ上がり、高層ビルのガラスは衝撃波で粉々に砕け散り、道路に取り残された無数の車がひしゃげた鉄屑となって炎を上げている。

 逃げ惑う市民の悲鳴と、鳴り止まないサイレンの音が、阿鼻叫喚の夜を演出していた。

 

『アシナヅ、この土の匂い、好き!』

 

 もうもうと立ち上る土煙と炎の中から、巨大な蛇型龍(サーペント・ドラゴン)の機体であるアシナヅが、シューッという不気味な排気音を立てながら鎌首をもたげた。

 アシナヅは、ペンタゴンの中心部を狙うように、その巨大な頭部を乱暴に地面へと突き立てた。そして、自身の長大な身体を斜めに傾け、螺旋状に『ギチチチチッ!』と強固に固定する。

 

 ギャギィィッ!!

 

 次の瞬間。アシナヅの背を覆っていた重厚な装甲鱗が、まるで一枚一枚がきめ細かな超硬度カッターの群れのように、鋭く逆立った。

 

 ギュルンッ! ギュルンッ! ギュギュギュガガガガガァァァァッ!!

 

 恐るべきことに、アシナヅは自らの巨体をモーターのように徐々に回転させ、その速度を爆発的に引き上げていった。

 鋭く逆立った鱗が周囲の土砂を抉り出し、彼女自身が全長十数メートルの『巨大な生きたドリル』と化して、ペンタゴンの強固な地下岩盤めがけて凄まじい勢いで大穴を穿ち始めたのだ。

 地下のガス管が破裂し、水道管から水柱が噴き上がるが、アシナヅはそんな障害物など意に介さず、ただ目標である地下セクター7に向けて無邪気に掘り進んでいく。

 

「目標確認(ターゲット・インサイト)! 未知の敵対的巨大兵器群! 各車、交戦規定アルファ! 発砲許可!」

 

 そこへ、轟音を立てて駆けつけてきたのは、ペンタゴンの防衛を担うアメリカ陸軍の装甲部隊だった。

 分厚いチョバム・アーマーと爆発反応装甲(ERA)を纏った、重量60トンを超える鋼鉄の猛獣――M1A2エイブラムス主力戦車の小隊が、キャタピラで瓦礫をすり潰しながら半円状に展開する。

 1500馬力のガスタービンエンジンが唸りを上げ、120mm滑腔砲の極太の砲身が一斉に、眼前のエイリアンたちへと冷酷な照準を合わせた。

 

「装填よし(アップ)! APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、撃て(ファイア)ッ!!」

 

 ズドォォォォォォォォンッ!!

 複数両のエイブラムスから、マッハ5に迫る極超音速で劣化ウランの徹甲弾が一斉に放たれた。どんな近代装甲の主力戦車であろうと、紙のように貫通して鉄くずに変える、人類最高峰の物理破壊力。

 

『……何だ? そのひ弱で女々しいビークル(メス)どもは』

 

 しかし。

 ブラキオサウルス型から理知的なロボットモードへと変形した帝国の知将・シンクバイは、猛スピードで迫り来る必殺の徹甲弾の雨を一瞥すると、その巨体に見合わないほどの恐るべき速さで右腕を振るった。

 

 ピュィィィンッ……!!

 

 甲高い風切り音が響く。

 シンクバイの指先から、霊子の光を帯びた『蛇腹剣(ウィップ・ソード)』のような微細な連結ワイヤーが鞭のように放たれ、空中で幾重にも複雑な軌道を描いた。

 

 ガキンッ! ギャンッ! キンッ!!

 

 信じられないことに、その極細のワイヤーの一閃は、飛来する120mm徹甲弾の先端の運動エネルギーを完璧な角度で相殺し、ビリヤードの球でも弾くかのように、いとも容易くすべて『弾き返した』のだ。

 

「なっ……馬鹿な!?」

 

 ドスッ! ズゴォンッ!

 

 弾かれた劣化ウラン弾の破片が、あろうことか放った戦車部隊の足元のコンクリートに突き刺さり、深くえぐり取る。戦車長たちがハッチから顔を出し、その超常の光景に絶望的な声を上げた。

 

『火薬の爆発力で、単純な運動エネルギーを与えた石ころ……いや、金属塊を飛ばすだけか

当たりさえすれば、痛いだろうが……そこまでだな』

 

 シンクバイは、モノアイを冷酷に光らせ、地球人の主力兵器を心底から侮蔑するように言い捨てた。

 

『いかにも、炭素の猿らしい野蛮で原始的な発想の兵器だ。知性のかけらも感じられない』

 

『あははっ! 面白そう! オレ、やりたいやりたい!』

 

 シンクバイの冷笑を遮るように、多脚戦車型のダチカルが、無邪気な子供のような声を上げて前に出た。

 

 ガバァッ!

 

 ダチカルの不気味な多脚の中央部分――装甲の継ぎ目が大きく開き、そこに鋭い金属の牙が並んだ巨大な『捕食機関(アギト)』が姿を現した。

 ダチカルは、その大きな口で、足元に転がっていたビルのコンクリートの瓦礫や、放置された装甲車、市民の自動車の残骸などを、文字通りバクリ、バクリと手当たり次第に貪り喰い始めた。

 

 ぎゅぅぅぅううう……ッ。

 

 ダチカルの機体内部から、何かを尋常ではない圧力で圧搾するような、おぞましい軋み音が鳴り響く。飲み込まれた大量の瓦礫と金属が、未知のテクノロジーによって超高密度に圧縮されていく音だ。

 

 ギリリリッ……ガチンッ!

 そして、ダチカルの背部にそびえ立つ巨大な砲塔が、無慈悲に米軍の戦車部隊へと向けられた。

 砲身の奥で、赤黒い『霊子の発光現象』が激しくスパークし始める。

 それは火薬の燃焼とは根本的に異なる、霊子の反応を利用した未知の化学的強制射出シークエンス。

 

「退避だ! 退避、退避ぃぃいッ!!」

 

 砲口から放たれる圧倒的なエネルギーのプレッシャーに、死の恐怖を本能で悟った戦車兵たちが、慌ててエイブラムスのハッチから転げ出るように降りて、散り散りに逃げ出した。

 だが、遅すぎた。

 

『狙ってぇ……ドーン!』

 

 ダチカルの無邪気な効果音と共に。

 未知のエネルギーによって強制射出された『超高圧縮質量弾(デブリ・カノン)』が、音を置き去りにして放たれた。

 

 ギュバ、ズガァァァァァァァンッッ!!!

 

 戦車部隊の中心に着弾した瞬間。極限まで圧縮されていた瓦礫の質量が、霊子の解放と共に『急速解凍(爆発的膨張)』を引き起こした。

 それは単なる爆発ではない。

 圧縮されていた空間が元に戻ろうとする強烈な反発力により、60トンを超えるM1戦車がまるでおもちゃのように宙に舞い上がり、内部誘爆を起こして粉々に吹き飛んだ。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁっ!」

「た、助けてくれぇっ!」

 

 空を覆う巨大な炎と爆風、空間そのものの揺り戻し。

 吹き飛ばされる装甲板と、紙切れのように舞う兵士たちの身体。

 阿鼻叫喚の地獄絵図と化したペンタゴン前の広場に。

 

『きゃはははははっ! おもちゃがいっぱい壊れたぁ! 楽しいねぇ、シンクバイ!』

 

『はぁぁ……野蛮すぎる、ろくな大人にならんぞお前』

 

 命の重さなど微塵も理解していない、ダチカルのキャッキャと喜ぶ無邪気で残酷な笑い声と、シンクバイの呆れた声が、燃え盛る夜の街に異質に響き渡っていた。

 

 そんな破壊と混沌が支配する戦場の直上。

 氷と電気エネルギーの塊となってペンタゴン上空を分厚く覆い隠す暗雲の上に、巨大な金属の翼を広げたプテラノドン型機龍が躍り出た。

 隔離施設から脱出を果たし、先行して空域を制圧したネオンワンスの狙撃手、シトリーである。

 

 ゴン! ガン! ギンッ!

 

 空中で三段階の淀みない金属音を鳴らし、シトリーはプテラノドンの姿から鋭角的な人型のロボット形態へと一瞬にして変形を果たした。

 背中から滑空用のウィングを展開して高度を維持しながら、プテラノドンの嘴から変形・分離した長大なライフルを滑らかに両腕で構える。

 

 シトリーの鋭いカメラアイは、分厚い暗雲を容易く透視し、眼下の地表で暴れ狂う帝国の尖兵たちを完璧に視認していた。

 

『シトリーより、ネオンワンス各員。敵はオーバークレイドルズのミュータント三機、並びに司令塔シンクバイ一機を確認!』

 

 シトリーは通信回線を開き、クールな声色で戦況を報告する。

 

『これより、上空からの航空支援を開始する! ……っち、人間(炭素生命)にも気を使わなければならないか』

 

 地表で逃げ惑う小さな人類の姿を見て、シトリーは明らかに不機嫌そうに舌打ちを漏らした。

 だが、その冷徹な態度に反して。彼が構えたライフルの銃口は、眼下で孤立している人間たちや、ラグーン(湖面)を渡って戦場へ向かおうとしている味方――ベンザイアやヤガーコールの進路を計算し、やるべき『すべての支援』を想定して極めて正確に稼働していた。

 

 タタッ! タタタタッ!

 

 上空から、小気味良い軽い発射音を立てて、無数の弾丸が放たれた。

 それは地球の火薬兵器のような鉛玉ではない。

 先ほどのダチカルの砲撃と同じく、霊子による未知の化学反応によって打ち出された金属の弾丸だが、その素材はシェイプシフターたち自身の身体を構成するものと同じ『霊子を纏った金属細胞塊』であった。

 

 撃ち出された金属細胞塊は、降下中にヂャキキキキッ!とまるで鱗を整えるように空中でその形を複雑に変えていく。

 

 ザパァンッ!

 

 ペンタゴン・ラグーンの湖面に着弾した弾丸は、瞬時に展開・硬化し、隔離施設から脱出したばかりのベンザイアやヤガーコールが水上を渡るための『強固な浮き橋(足場)』となって水面に浮かび上がった。

 

 ガゴォォォンッ!!

 

 一方、市街地のアスファルトに着弾した弾丸は、本来の質量を完全に無視して爆発的に体積を膨張させ、ダチカルの無差別な破壊砲火から逃げ惑う人々を護るための巨大な『金属の障壁』となって、次々と目前に屹立していった。

 

「なに……何なの!?」

「助かったのか……!?」

 

 突如として空から降り注いだ盾に命を救われ、へたり込む市民たち。

 それを上空から見下ろしながら、シトリーはライフルのボルトをガチャリと引き、次弾を装填した。

 

「こいつは、おまけだ」

 

 ガァァァァァァァァァァンッッ!!!

 

 先ほどの軽快な支援弾とは明らかに異なる。

 明確な『殺意』そのものを重い質量として形にしたような、極大の対物ライフルの発射音が夜空を引き裂いた。

 超高圧縮された霊子徹甲弾が、暗雲を丸く吹き飛ばしながら一直線に地表へと撃ち下ろされる。

 

 ゴォォォォォォォンッ!!!

 

 戦車を吹き飛ばして無邪気に笑っていたダチカルの脳天に、その弾丸がピンポイントで激突した。

 凄まじい衝撃波が巻き起こり、巨大な多脚戦車であるダチカルの機体が、コンクリートの地面へと文字通りめり込むようにして激しく叩きつけられる。

 

『い゛っ……ぐえっ!?』

 

 土煙が舞う中、ダチカルの潰れた声が響いた。

 

『いったぁ……っ!! 誰ぇ!? 上からげんこつ投げてきたの!』

 

 だが。恐ろしいのは、そのダチカルの『反応』であった。

 シトリーが上空から霊子の加速を乗せて撃ち下ろした完全なる殺傷弾。

 まともな装甲であれば一撃で中枢まで貫通し、機能停止に追い込まれるはずの一撃だったにも関わらず。

 ダチカルの強固な頭部装甲は、その徹甲弾を『完全にはじき返して』いたのだ。

 

 装甲には傷一つなく、ただ強烈な拳骨(げんこつ)を頭に見舞われた程度のダメージに留めている。

 上空のシトリーのカメラアイが、その規格外の防御力に微かに戦慄の色を浮かべる。

 それが、ゼロムード帝国が誇る最狂の強襲部隊『オーバークレイドルズ』の、理不尽なまでの頑強さの証明であった。

 

『……ネオンワンス。予想より3分、行動が速いな』

 

 上空のシトリーの狙撃と、先んじて湖上に展開された支援ルートを確認し、シンクバイは顎に巨大な手を当てて思考を巡らせた。

 

『隔離施設での尋問中に、ヤマトが霊子通信(テレパス)をハックしたのか? いや、あの厳重な施設で、そんな高度な技術設備が向こう(地球人)に有るはずが……』

 

 シンクバイのモノアイが怪しく瞬くが、彼女はすぐに首を振り、無駄な思考を即座に振り払い眼前の目標(スターゲートへの到達)を優先するように切り替える。

 

『えぇい、今は後だ。アシナヅを護り、迎撃しろ餓鬼ども!』

 

『あいあーい!』

 

『了解……デナンジー、アシナヅを、弟を守る……!』

 

 シンクバイの冷酷な指令に応じ、アシナヅのドリル掘削の周囲を固めていた蛸龍デナンジーが動いた。

 ズズズッ……と身をよじらせたデナンジーは、無数にうねる鋼鉄の触手の先端を、金属でありながらまるで有機的な軟体動物のような不気味な動きでギャコッ!と花開くように展開する。

 その一つ一つの触手の内側から、殺傷力の高い『熱量砲(ブラスターカノン)』の砲門が無数にせり出してきた。

 

 ——そこへ。

 

 ヒュォォォォォォンッ!!

 

 デナンジーのすぐ横を、一筋の『ワインレッドのワイバーン』が猛烈なスピードで滑空し、弾丸のように通り抜けた。シトリーの作った浮き橋を蹴り飛ばし、いち早く戦場へと突入してきたベンザイアである。

 

「ちょっと通るよっと!」

 

 ガチャッ、ギゴガゴゴゴッ!!

 

 ワイバーンの姿から空中で鮮やかにロボットモードへと変身したベンザイアは、両足のショックブーツの砲口を進行方向(地面)に向けて同時に発砲した。

 ズガンッ!という強烈な反作用のノックバックを利用して空中で急減速し、そのままアクロバティックに地面へと着地をキメる。

 そのまま勢いを殺さず、敵の隙間を縫って一気に突破を図ろうとする。

 

『させなぁい!』

 

 だが、その進路を塞ぐように、ダチカルがその重装甲の巨体を身軽に跳ね上げ、巨大な多脚の一本を容赦なく振り下ろしてきた。

 

 ズゴォォォォォォォンッ!!

 

 重い多脚の一撃が、ベンザイアが咄嗟に避けた直後のアスファルトを粉砕し、巨大なクレーターを穿つ。

 

「っ、簡単に通しちゃくれねえかなぁ」

 

 ベンザイアの軽口に、ダチカルが無邪気に遊んでいたのを邪魔されたかのような、怒りに満ちた声を上げる。

 

『ベンザイア、ベンザイアァッ! 小さい弱いオス、今日こそ引きちぎってやる!』

 

 ゴォウッ! バシュゥゥッ!

 

 襲い来るダチカルの剛脚による物理的な粉砕攻撃と、デナンジーの触手による熱量弾の雨。

 二体のオーバークレイドルズによる容赦ない挟撃が、ベンザイアを包み込む。

 

『うぉっ!? 寄ってたかって弱い者いじめ反対! ちょおっと、誰かヘルプ!』

 

 絶体絶命の包囲網。しかし、ベンザイアは全く余裕を失っていなかった。

 両足のショックブーツを細かく点火し、その反作用のノックバックを利用した軽快すぎるステップ。

 昔も今も変わらない、ストリートでブレイクダンスを踊るかのような変幻自在の回避機動で、ダチカルの剛脚をいなし、デナンジーの熱量弾をギリギリのところで全てすり抜けていく。

 

『がぁぁぁぁぁっ!』

 

 苛立ったデナンジーが全触手でベンザイアを捕獲しようと大きく網を広げた、その刹那だった。

 

 ブルルルルォォォォォォンッ!!

 

 背後の瓦礫の山を突き破り、漆黒に紫のラインが入った四輪駆動車が、猛烈なV8エンジンの咆哮と共に宙へと躍り出た。

 

『ほら良い子、こっち向きな!』

 

 ジャキンッ、ガシャァァァンッ!!

 

 空中で流れるように四輪駆動車から女性型のロボットモードへと変身をついでに果たしたヤガーコール。

 彼女はそのまま空中の勢いを乗せて、背中から引き抜いた巨大なエナジーショットガンを振るった。

 その銃口の先端には、凶悪な『銃剣(バヨネット)』が展開されている。

 

 ズバァァァンッ!!

 

 ヤガーコールの一閃が、ベンザイアを捕らえようと伸びきっていたデナンジーの極太の触手の一本を、根元から見事に斬り落とした。

 

『がァァァァァァァァァッッ!!?』

 

 触手を切断された激痛に、デナンジーが絶叫を上げる。

 怒り狂ったデナンジーは、残った無数の触手のすべてをヤガーコールとベンザイアに向け、全砲門から青白い熱量弾を狂ったように乱射して周囲の空気を焼き焦がした。

 しかし、二体のネオンワンスは息の合った連携でその雨を華麗に避け、互いの死角をカバーしながらダチカルとデナンジーを翻弄していく。

 

『……司令官(ヤマト)は、何処へ行った?』

 

 その激しい乱戦を、一歩引いた後方から冷静に俯瞰していたシンクバイは、ハッとある『違感』に気づいた。

 

 いつもであれば、こういった乱戦には必ずと言っていい程、真っ先に陣形をぶち破って巨大な剣を振るいながら乱入してくるはずの、敵のリーダーの姿がないのだ。

 シトリーの狙撃、ベンザイアの突入、ヤガーコールの奇襲。

 個々の動きは素早いものの、肝心のヤマトが前線に現れないのだ。

 

 (この地球という未知の惑星での戦いに、我々の知らない要素(ファクター)が、何か存在する……?)

 

 シンクバイの高度な量子思考回路が、戦場のあらゆる可能性を即座に計算し、一つの最悪の結論を叩き出した。

 彼女は弾かれたように巨大なモノアイを回転させ、戦場の周囲を激しくスキャンした。

 

 ――その、一瞬の隙だった。

 シンクバイたちが交戦していた混沌の戦場の、全くの反対側に位置する『完全なる死角』。

 炎を上げて燃え盛る巨大なビルの残骸の影から、強壮たる白と赤青のトリコロールカラーを纏った巨大な『飛竜』が、音もなく空へと躍り出たのである。

 

 そして、その巨大な飛竜の奇襲を先導するように、地上の瓦礫の隙間を猛烈なスピードで駆け抜け、シンクバイの足元へと肉薄してくる『小さな影』があった。

 

「いくぞ、ヤマトッ!!」

 

 それは、奪取した軍用ダートバイクのアクセルを限界まで吹かし、エイリアンの巨大な戦場のど真ん中へ切り込んできた、いかれたひ弱な炭素生命体――俺(レオン)の姿だった。

 

 

『アシナヅの元へは、行かせんっ!!』

 

 

 ガキンッ、ギゴガゴゴゴゴゴッ!!

 

 シンクバイは即座に反応し、冷酷なモノアイを光らせながら、ロボットモードから巨大なブラキオサウルス型の機龍へと瞬時に変形を果たした。

 その長大な首を、空を翔けるヤマトに向けて真っ直ぐに伸ばし、大きく開いた顎(アギト)を中心に展開された極太の砲塔へと、致死の霊子エネルギーを急速チャージし始める。

 

『人間にも知恵者が居たか! だが、付け焼き刃の奇策など、少し小突けば瓦解するものだ!』

 

「あぁ、そうだな!」

 

 シンクバイの傲慢な宣告に。

 俺は、ニヤリと口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。

 

『!?』

 

 シンクバイが、その炭素生命体(レオン)の顔に浮かんだ「勝利を確信した笑み」に、微かな違和感と戦慄を覚えた、その時だった。

 

 

 

「はぁぁ……。まぁ、これで失敗しても、世界が終わるだけか……」

 

 戦場から遠く離れたペンタゴン・ラグーンの湖畔。

 土嚢の陰にしゃがみこみ、ジョーンズは、胃を痛めたように深く重いため息をついていた。

 彼の手には、通信機が握られている。

 先ほど、隔離施設を脱走したあの無法者のパイロットに言われるがまま、軍の統合指揮所を経由して現場の『ある戦車小隊の一機』へと送ってしまった、常軌を逸した無茶な命令。

 その責任の所在と、自身のキャリアの終焉を心配しながらも……ジョーンズは、半ばヤケクソ気味に祈るしかなかった。

 

 

 そうだ、全ては必然だ。

 俺がヤマト達をわざわざ迎えに出たのも、通信兵で直接話しを通したのがジョーンズであることも、この戦況も。

 

「地球嘗めんな、エイリアン!」

 

 戦場のド真ん中、バイクのシートから立ち上がり、俺はシンクバイに向けて中指を高く突き立てて言い放ってやった。

 

 ズドォォォォォォォンッ!!

 

 シンクバイの死角――先ほどダチカルによって壊滅させられた小隊とは全く違う位置、崩れた高架橋の瓦礫の中に巧妙に息を潜めていた一機の『M1A2エイブラムス』が、火を噴いた。

 取るに足らない、ひ弱なメスと見下していた地球の戦車。

 しかし、ヤマトを撃墜しようと無防備に首を長く伸ばし、完全に足を止めていたシンクバイの『細い首の関節部』に、その照準は完璧にロックオンされていたのだ。

 

 放たれた劣化ウラン弾(APFSDS)が、防御も何もないシンクバイの首の中腹を、容赦なく、そして物理的に大きく抉り取った!

 

『がぁ……あ゛っ!!?』

 

 激しい金属の破砕音と共に、シンクバイの合成音声がノイズ混じりの悲鳴へと変わる。

 首の内部回路を大きく損傷し、チャージしていた霊子エネルギーが暴発して火花を散らしながら、シンクバイの巨大なブラキオサウルスの巨体が、ズズンッと大地に崩れ落ちた。

 かろうじて首の切断という致命傷だけは避けたものの、その重傷は明らかだった。

 

『シンクバイ!』

 

 ヤガーコールとベンザイアを相手に暴れ回っていたダチカルが、司令塔の危機に咄嗟に振り返り、駆け寄ろうとする。

 しかし、その無防備になった多脚の関節部へ。

 

 ドバァァンッ!!

 

 

 ベンザイアのショックブーツから放たれたエネルギー弾が、正確無比に命中した。

 

『あぐぅっ!?』

 

 足を撃ち抜かれ、体勢を崩すダチカル。

 ベンザイアが、挑発的な笑みを浮かべて叫ぶ。

 

「どうしたバーサーカー! 遊びの途中で背中見せるなんて、お前らしくねえ!」

 

 

『……っがあ! ちょこまか鬱陶しい!』

 

 その一瞬の攻防、一瞬の隙。

 レオンの奇策と、地球軍の援護によって完全に崩された帝国軍の連携網。

 

 その頭上を。

 飛竜の姿であったヤマトが、倒れ伏したシンクバイの頭の上を飛び越え、中空へと鮮やかに躍り出た。

 

 ガコンッ、ギャキリリリリッ!!

 

 空中で流れるようにロボットモードへと変身(シェイプシフト)を果たした鋼の勇者は。

 左腕に赤熱する『ヒートソード』を、そして右腕に極大のエネルギーをチャージした『エナジーカノン』を展開する。

 

 ヤマトが眼下に見据え、その砲口をピタリと定めた標的。

 それは、シンクバイでもダチカルでもない。ペンタゴンの地下へ向けて、未だに大穴を穿ち続けている生きたドリル――『アシナヅ』。

 そしてその狙いは、巨大な螺旋の回転の中心軸であり、装甲が最も薄くなる『頭部の頂点』だった。

 

「――安らかに眠れ、鉄のケダモノ……!!」

 

 ズドンッ!!!

 

 ヤマトのエナジーカノンから、霊子とイオンが極限まで圧縮された破壊のエネルギーが放たれた。

 一直線に撃ち下ろされたその光の奔流は、回転するドリルの最も脆い中心軸を完璧に捉え、アシナヅの強固な頭部装甲を容易く貫通し、その内部の量子脳ごとジュウウゥゥゥッ!と無慈悲に焼き溶かした。

 

『――――』

 

 アシナヅは、断末魔の悲鳴を上げる暇すら与えられなかった。

 一撃での完全なる絶命。

 統制を失い、完全に脱力した蛇龍の巨体は、纏っていた鱗型のブレードをバラバラに弾け飛ばし、残っていた膨大な回転エネルギーを周囲の地面や瓦礫へと無造作に撒き散らしながら。

 乱雑に、そして急速にその活動を停止し、巨大な鉄屑のオブジェとなってペンタゴンの大穴へと深く沈黙したのであった。

 

 

『ああああ嗚呼あああ゛あああアアアアァァァァァ!!アシナヅううぅゥゥゥゥ!!』

 

 相棒たる弟機の無残な死の瞬間を目撃し、デナンジーが絶叫した。

 ジャバっ、ボタタッ、と、黒く変色した洗浄液とオイルの混じった液がそのカメラアイの淵から溢れだしていた。

 怒りと憎悪でその6つの複眼を真っ赤に光らせ、異形の蛸龍はウネウネと蠢く無数の触手を全周囲に向けて一斉に振り上げた。

 そして、触手の先端から致死の熱弾を、憎しみのままに出鱈目に、全方位へ向けて乱射し始めたのだ。

 

「うっわ!」

 

「こいつ、まだこんな余力を……!」

 

 周囲のビル群やアスファルトが次々と火球に呑み込まれ、爆炎が上がる。

 ヤマトに気を取られていたベンザイアとヤガーコールだったが、これほどの無差別な弾幕となると、攪乱どころの話ではない。

 

「野郎、周りの人間どもを巻き込む気か!」

 

 ベンザイアはショックブーツの魔法陣を連続展開し、ヤガーコールもショットガンの銃剣を構え直す。

 放たれた熱弾が、逃げ遅れた人間たちや残された街のインフラに余計な破壊と被害を出さないように、二人は機動力をフルに活かして空中でその火球を一つ一つ迎撃し始めた。

 

『こちらシトリー! これ以上の被害拡大は阻止する!』

 

 同時に、上空で待機していたシトリーが素早く動く。

 プテラノドン型から人型へと再変形し、長大なライフルから放たれる支援弾で金属の防壁を次々と地上に射出。逃げ惑う市民の前に即席の盾を屹立させ、デナンジーの狂乱の熱弾を次々と打ち落としていく。

 ネオンワンスの面々が被害の抑え込みに尽力する、その一瞬の隙。

 

 ガンッ!!

 

 多脚戦車型のダチカルが、大きく瓦礫を蹴って高く跳躍した。

 そして、首の中腹を抉られ、ズズンと倒れ伏していた司令塔・シンクバイの元へと一気に降り立った。

 

『シンクバイ!』

 

 ダチカルは多脚の中央から伸びる巨大なアームを展開し、首に致命傷を負って満足に動けないシンクバイの巨体を、ガシッと掴んで自らの重厚な背の上へと強引に引き乗せた。

 

『ごほっ、ごはぁっ……! 皇帝陛下、申し訳ありません……げぶぉっ、失敗、です……っ!やられた、奇襲を受けましっ……がは』

 

 ダチカルの背に担がれながら、シンクバイは首の断面からバチバチと出血のように青白い霊子の放電を激しく撒き散らし、酷く咳き込みながら、霊子による超光速通信で皇帝エイトへと報告する。

 その冷酷なモノアイには、深い屈辱と怒りが渦巻いている。

 

『これより……転送装置(カマライト)にて、帰還します……っ! おのれぇ、地球人っ……!!』

 

 自分たちの完璧な戦列を、ただの豆鉄砲(戦車)の奇策一つで崩してみせた、あのちっぽけな炭素生命体。

 バイクの上でシンクバイへ中指を立てた、あのレオンの不敵な笑みを脳裏に思い浮かべ、シンクバイはギリギリと憎々しげに歯噛みした。

 

 シンクバイは震える手で、自身の装甲の腰部分――ストレージから、(巨大なシェイプシフターの基準で)掌ほどのサイズをした、奇妙な意匠の機械を取り出した。

 それは地球の宗教でいうところの『観音像』のような、幾何学的でありながらもどこか神聖な彫刻が施された異質なデバイスだった。

 ヘイブンガーデンに古くから伝わる、宇宙に存在する異なる文明の交通・転移手段の一つ――超空間転送装置『カマライト』。

 

 ガチャンッ!

 

 シンクバイが、その観音像のような機械の台座部分を強く手前に引く。

 すると、像の中心から眩い光が漏れ出し、空間を歪めるような極小のブラックホールが周囲に展開し始めた。

 

『デナンジー! 撤退するよ、デナンジー!』

 

 ダチカルが、狂乱して熱弾を撒き散らしている蛸龍へ向けて絶叫した。

 

『殺ス、鏖ス!! 覚悟シロ、地球!』

 

 ダチカルの呼びかけに、デナンジーが血走った複眼でヤマトたちを睨みつけ、触手を振り乱して吠えた。

 

『ドレダケカカッテモ、弟ヲ殺シタコノ地ニ、必ズ「死」ヲ撒キ散ラシテヤル!!』

 

 その悍ましくもどす黒い憎しみに塗れた捨て台詞を残しながら。

 デナンジーは周囲のビル群を触手で乱暴に伝い、跳躍。ダチカルの多脚へと太い触手を巻き付け、その巨体に強引にしがみついた。

 

『――転送ッ!』

 

 三機のオーバークレイドルズが完全に密着したその瞬間。

 シンクバイが、引き出していた観音像の台座を勢いよく『押し戻した』。

 

 バチチチチチチチチッッ!!!

 

 凄まじい放電と、空間を裂くような稲妻が周囲に荒れ狂った。

 次の瞬間、シンクバイ、ダチカル、デナンジーの三機の巨大なシェイプシフターたちの姿は、輪郭を失ってひとつの巨大な『光の玉』へと圧縮された。

 

 シュゴオォォォォォォンッ!!

 

 光の玉は、大気を震わせながら一気に上空へと打ち上げられる。そして、地球の重力も物理法則もすべてを無視し、大気圏を突破して、彼らの母星が待つ遥かなる宇宙の彼方へと……まるで逆再生される流星のように、一瞬にして逃げ去っていったのだった。

 

 

 

 

 ――夢は、硝煙の匂いと共に、一つの終結を迎えようとしていた。

 静寂。

 先ほどまでバージニア州の空を焦がし、大地を激しく揺るがしていた、絶望的な破壊と防衛の応酬が嘘のように唐突に止んだ。

 帝国の尖兵たちが宇宙(そら)へと逃げ去り、地獄の戦場跡地に遺されたのは、誰もがこの信じられない光景に言葉を失ったような、唖然とした静寂のみだった。

 

「だぁっ……はぁ、はぁっ……!」

 

 燃え盛る瓦礫の只中。俺は奪取した軍用ダートバイクに跨ったまま、極度の緊張とプレッシャーを肺の奥から絞り出すように、激しく荒い呼吸を繰り返していた。

 ハンドルを握る手は、アドレナリンの反動でガタガタと情けなく震えている。

 

「……レオン少尉」

 

 ザッ、と。

 背後の崩れたコンクリートの陰から、沈痛な面持ちで一人の男が歩み出てきた。

 土埃と煤にまみれ、軍服をボロボロにしながらも生き延びた彼は、先ほどダチカルのデブリ・カノンによって最初に瓦解させられた、あのM1A2戦車小隊の隊長だった。

 

「本当に、ありがとう……」

 

 隊長は俺の横まで来ると、泥だらけの顔を歪めながら、深い感謝と共に頭を下げた。

 その言葉に、俺は無言で首を横に振った。

 

「よせ。……犠牲が、なかったわけじゃないだろ」

 

 俺の声には、どうしても拭いきれない苦渋が混じっていた。

 先制攻撃を仕掛けた彼らの第一射を、敵の司令塔であるシンクバイにわざと防がせなければ、あそこまでの慢心と油断は誘えなかった。

 あの奇襲を成功させるためには、彼らの部隊が文字通り『囮(デコイ)』になる必要があったのだ。

 

「しかし」と。隊長は一拍置いて、俺の瞳を真っ直ぐに見据えて応えた。

 

「君が無線に割り込んで、事前に渡してくれた『あの情報』がなければ。我々も、一瞬でも車体を捨てて退避する決断が遅れてしまっていただろう……」

 

 隊長が振り返った先には、砲塔をねじ切られ、無残に吹き飛ばされた戦車たちの残骸があった。

 だが、その周囲には、間一髪でハッチから転げ出て生き延び、互いの無事を確かめ合っている数人の戦車兵たちの姿があったのだ。

 

「私達生き残った者がここに居るのは、間違いなく君のおかげだ。……そして、彼らの」

 

 そう言って向き直る戦車隊長の視線の先。

 分厚い暗雲が散らされた夜明け前の空を背にして、ヤマトの巨大なトリコロールカラーの巨体が、こちらへ向かってゆっくりと歩み寄ってくるところだった。

 その顔には、先ほどまでの激しい怒りも殺意もなく、ただただ、命を懸けて自分たちを援護してくれた『ちっぽけな人間たち』への、深い敬意が満ち溢れていた。

 

「レオン=タケル=ラブーフ……」

 

 ヤマトは俺と隊長の前で立ち止まると、その巨大な鋼の膝を大地に突き、我々人間と同じ目線になるように深く頭を下げた。

 

「貴殿の機転と勇気に、心より感謝する。私たちは貴殿を……地球という星の、気高き『有能な戦士』として、認めざるを得ない」

 

 それは、宇宙を駆ける高度な金属生命体の司令官が、ただの一介の地球のパイロットに対して送った、最大級の賛辞だった。

 

「よしてくれよ。俺だって、無茶苦茶テンパってたんだぜ」

 

 ヤマトが頭を下げる中、俺はバイクのハンドルから手を離し、肩の力を抜いて告げた。

 

「なあヤマト。俺はあの極東で見つかった戦闘機のIZUMOシステムに繋がれたせいで、霊子だか何だかとか言う……

 お前たちの扱う技術の波長に、ある程度ダイレクトにハッキング(同調)出来るようになっちまったらしい」

 

「……何?」

 

 ヤマトが驚いて顔を上げる。

 

「さっきお前たちがピンチだって分かったのも、敵の通信か……お前の焦った念波の一部を、俺の頭が勝手に『傍受』した結果だろう。理屈はサッパリ分からねえがな」

 

 俺の出した推測に、ヤマトは人間のように眉間にあたる装甲のパーツを険しく顰め、深く思考の海に沈んだ。

 

「それは、おそらく……」

 

 ヤマトの重々しい電子音が、夜明けの空気に響く。

 

「太古の昔に、この地球に飛来したという『古き者』――炭素生命体の創造主であるとされる高次元宇宙人と。

 そして、かつてのヘイブンガーデンで、独裁者(オールドワンス)の支配から逃げ延びた『我らシェイプシフターの古代氏族』とが、手を取り合ってこの星に遺した技術の結晶なのだろう」

 

「古代の、遺産……?」

 

「あぁ。それが長い時を越えて、形を変えて今もこの星に実在し……それを今、先ほどのペンタゴン地下の『天乃岩橋(スターゲート)』と同様に、帝国が付け狙っているのだとすれば……!」

 

 ギュッ!と。

 ヤマトは巨大な鋼鉄の拳を強く握りしめ、その青い瞳に明らかな戦慄の色を浮かべた。

 

 状況は、俺が思っていたよりも遥かに絶望的だった。

 なにせヤマトの推測が本当なら、帝国軍はこの星に眠る太古のテクノロジーすべてを奪い取るために、地球のありとあらゆる場所を標的にして、無尽蔵の軍勢を送り込んでくる。

 地球全土が、巨大な金属エイリアン同士の最悪の戦場になりかねないのは、火を見るより明らかだった。

 

「……だが、この星の人間は、あのジョーンズのような男ばかりだ」

 

 ヤマトは、先ほどの尋問室でのやり取りを思い出したのか、悔しげに俯いた。

 

「自分たちの星に迫る危機のスケールを理解せず、他者への疑いと、目先の欲望だけで物事を見る歪んだ目……。

 これでは、我々がどれほど彼らを護ろうとしても、いずれ必ず綻びが生じる。この星のすべてを守り切ることなど、到底不可能だ……っ!」

 

 人類とエイリアン。言葉は通じても、その間には決して相容れないほどの、深く分厚い『無理解の壁』が存在する。

 ヤマトがその絶望的な真実に肩を落とし、孤独な司令官としての重圧に押し潰されそうになった、その時だった。

 

「――なら、俺を通して話せよ」

 

 俺は、バイクのシートから立ち上がり。

 見上げるほどの巨大な鋼の騎士に向かって、薄く笑いながら宣言したのだ。

 

「え……?」

 

「どうせ、空軍(ぐん)の内部で俺がパイロットとして出来ることなんて、もう限られてる。

 あのイカれた戦闘機をぶっ壊して、こんな無茶苦茶な命令違反までしちまったんだ。明日には軍法会議でクビになってるかもしれねえからな」

 

 俺は、呆然とするヤマトの青い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「俺はもともと日系三世の自分を、誰かに『嘗められないため』に米軍へ志願したんだ。

 国を守るためとか、そんな大層な理由じゃなかった。

 ……だったら、お堅い軍の枠に収まってるより、あんたらみたいな規格外のバケモノたちと一緒に肩を並べていた方が、この先の人生、余程『箔がつく』ってモンさ」

 

 それは、レオン=タケル=ラブーフという男が。

 一介の戦闘機乗りから、星の命運を背負うエイリアンたちの『たった一人の理解者(地球人代表)』へと名乗りを上げた、強がりで、どこまでも泥臭い決意表明だった。

 

「レオン……」

 

 ヤマトは、俺のその不器用な強がりの中に隠された真意を、その高度な知性で瞬時に理解してくれたのだろう。

 巨大な鋼鉄の騎士は、感極まったように静かに目を閉じ。

 そして、再びゆっくりと俺の前で膝を突き、その巨大な顔を俺の目の前まで近づけてきた。

 

「有難う……地球の小さく、誰よりも勇敢な友よ……」

 

「レオンでいいさ、ヤマト司令官」

 

 俺がニヤリと軽口を叩くと、ヤマトもまた、その無骨なフェイスマスクを緩ませて、クスリと小さく、嬉しそうな笑みを浮かべて応えた。

 

「ならば、私のことも、対等に『ヤマト』と呼ぶと良い。……レオン。これから、よろしく頼む……!」

 

 ヤマトが、俺に向けて、その巨大な鋼鉄の右手をゆっくりと差し出してきた。

 当然、握手をしようにもサイズが違いすぎる。

 俺は、ヤマトが差し出した巨大な鋼鉄の手の『小指の先』を、両手でしっかりと抱え込むようにして、力強く握り返した。

 

 俺とヤマトが結んだ、その不器用で、奇妙な『指切り』。

 その時。

 俺たちの背後で、分厚い暗雲と土煙が完全に切り裂かれ。

 東の地平線の彼方から、眩く、力強い朝日が昇り始めた。

 

 黄金色の光が、破壊されたバージニア州の街並みと、俺たち二人の泥まみれの身体を優しく、希望に満ちて照らし出していく。

 

 

     * * *

 

 

「これが。のちに『鋼鉄戦争』と呼ばれた銀河の存亡を懸けた戦いにおいて。

 我ら『ネオンワンス』と『地球人類』の、果てしない苦難と友情に満ちた交渉の……本当の『第一歩』が始まった瞬間だった」

 

 キャリアーのブリッジにて、子供に絵本を読みきかせるような優しい口調で、ヤマトは思い出話を語り終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告



ヤマト「何故撃った!言うんだヤガーコール!」

ヤガー「……」

レオン「いくらメタギャグ時空なこのコーナーだからって再会した爺さんをハチの巣にするこたないだろうに……!」

ヤガー「……私だってさぁ、よしんば私と同じ顔で、同じ声のアニメ声で菌類相手にプリプリケツ振って歌って踊るおじいちゃんはギリギリ赦せるよ?」

ヤマト「ならば何故……!」

ヤガー「『(声真似)それでヤガーちゃん、スパイクっていう子とはどこまで行ってるの?何ならおじいちゃんがぁ、同じ顔だしぃ、誘惑してヤガーの魅力を伝えてあげよっかぁ?』とか無駄にデカいボンネットバルンバルン揺らしながら言われてみなさいよ……っ」

ヤマト&レオン「「…………それは爺が悪いっっ!」」

オヅマ「じ……次回、『狙撃手の変貌』……ぐはっ」死にかけ

スパイク「まぁヤガーはヤガーの大きさだから良いんすよ」

ヤガー「スパイク……っ♡」
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