Tandem Shape Force Fantasia!!   作:EMM@苗床星人

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閑話『女騎士のハイレグレオタードアーマーについての考察』

 城壁街ミドルツカントにある領主のお屋敷。

 レイニアの豪奢な私室の窓辺から、彼女はその日、急ピッチで建造が進められていく大型輸送車両艦『マギア・ラージ・キャリアー』の威容を見下ろしながら、一人静かにたそがれていた。

 

 元々は勇者の墳墓にあった古代魔導機文明の遺物である、山のように巨大な魔導骨格をベースに、ネオンワンスの超高度な技術体系を掛け合わせて建造されているその艦は、もはやファンタジー世界の常識を軽々と凌駕する代物になりつつあった。

 反重力推進器の輝きと、骨格を這うように張り巡らされた人工魔力伝導神経回路が、夕闇が迫る王都の空に青白い火花を散らしている。

 

 この狂気的とも言える建造現場を実質的に取り仕切っているのは、レイニアの専属メイドにして教養担当のモルガンである。

 彼女は重度の技術オタクにして、類い稀なる変態的探究心の持ち主だった。

 今は休眠中である二人のシェイプシフターの身体——今動いているMMSではなく、それに精神を移してビークルモードで停止している巨大な本体。

 その解析許可をレイニアが勝手に出してしまったところ、モルガンは文字通り涎を垂らしながら、それこそ隅の隅、絶対領域とも呼べる内部装甲の隙間から、甘い冷却液の香りが漂う排熱ダクトの奥深くまで嘗め回すような執念で解析に没頭してしまった。

 聞けば、金属細胞の分子結合一つ一つにまで異常な興味を示し、徹夜で計測し、今回の作業の参考にしているらしい。

 後でヤマトや彼女たちに泣いて謝らないとなぁ、と主君として少しばかりの罪悪感を抱きつつも、モルガンはその狂気的な執着心と情熱によって技術は幾つもの驚異的なブレイクスルーを瞬く間にぶち破り、レイニアが要求したキャリアーの完成を「半月」という無茶な納期を、さらに一週間も前倒しで完成させてしまう勢いだった。

 結論から言うと、モルガンはこの後たったの一週間でキャリアーを完成させることとなる。……まさにバケモンである。

 

 眼下で煌めく溶接の魔力光と、立ち上る白煙を眺めながら、レイニアは来たるべきドワーフの里との交渉や、これからの魔王軍との激化するであろう戦いについて、深く思考の海に沈んでいた。

 

 こん、こん。

 

「レイニア……ちょっと、良いか?」

 

「……!」

 

 不意に、木製の重厚な扉を叩く音が響いた。

 それはかつて、宇宙の星々を総べるネオンワンスの最高司令官として、全軍の先頭に立ち、雷鳴のような号令を戦場に響かせていた男のものとは到底思えない。

 まるで、広い屋敷の中で迷子になって、頼れる飼い主の部屋の前にようやく辿り着いた子犬のように、か細く、遠慮がちで、どこか甘えるような湿った響きを帯びていた。

 

 その声を聞いた瞬間、レイニアの顔がパッと華やぐ。

 嬉しさと愛おしさで白磁の頬をほんのりと朱に染め、彼女はわたわたと机の上に散らかっていた交渉用の資料や海図を隠すように急いで纏め直した。

 冷めきった紅茶を一口飲んで無理やり喉を潤し、小さく咳払いをする。

 出来るだけ澄んだ、気品のある姫騎士らしい威厳と優しさを兼ね備えた声が出るように喉を整えてから、彼女は応えた。

 

「どっ……どうぞ? 入って構いませんわ」

 

 がちゃ……と、重厚な扉を恐る恐る開けて入って来たのは、なんとも素朴な『村娘姿』のヤマトだった。

 

 あの鋼の装甲に身を包んでいた威風堂々たる姿も、宇宙人の司令官然と胸を張っていた威厳ある態度も、今の彼女からは欠片も感じられない。

 先日の宿屋での一件以来、あえて現地の服を買って着るという行為、とりわけあの通気性と肌触りの良い亜麻布で織られた村娘の服の着心地が余程気に入ってしまったのか、最近のヤマトはMMSの状態でいる時、常にその無防備で可憐な格好で過ごすようになっていた。

 

 無機物である金属生命体として生きてきたヤマトにとって、有機的な繊維が直接『生肌(人工皮膚ではあるが)』に触れ、風を通し、優しく包み込んでくれるという感覚は、彼女の量子脳に強烈な「快感」と「安心感」を刻み込んでしまったらしい。

 最初は物珍しさから「可愛いらしい」と微笑ましく見ていたレイニアだったが、最近はそのあまりの順応の早さに、少しばかり疑問と焦りを抱き始めていたのも事実である。

 

「ヤマト、どうかなさいましたの? そんな部屋の隅でもじもじして」

 

「あのぉ……実は、魔術について、少し君に聞きたいんだ。私の、この『身体』にも深くかかわる事だから……その、専門家であるモルガンには、ちょっと恥ずかしくて聞きづらくって……」

 

 もじもじとバツが悪そうに、素朴なスカートの裾をぎゅっと両手で握りしめるヤマト。

 背も高く、MMS特有の誰が見ても見惚れるようなナイスバディの女騎士(アバター)が、顔を真っ赤にして上目遣いで尋ねてくるその姿の破壊力は、尋常ではなかった。その仕草の随所に、完全に「女性としての恥らい」が定着しつつある。

 

「えぇ、良いですわよ? わたくしで分かることなら、何でも」

 

 おしとやかで優雅な笑顔を完璧に貼りつけつつも、レイニアの内心――すなわち、前世では歴戦のアメリカ海兵隊員であり、筋肉と硝煙と葉巻を愛した老兵『レオンおじいちゃん』の魂は、脳内で制御不能の大絶叫を上げていた。

 

(どうしたお前ぇぇぇッ!? その見た目で何でそんなにしおらしいの!?

 普通にドチャクソ可愛いんだけど!?

 おいヤマト、この前からお前、前世の俺の親友だった屈強な漢の面影、一体何処に置いてきたんだ!!)

 

 かつての親友(むさ苦しい男)に対する否応ない強烈な興奮と、男としての尊厳がバグを起こしかけている深刻な混乱。

 それを軍人としての鋼鉄の意志力で無理やり笑顔の奥に封じ込め、レイニアは優雅な微笑みを崩さぬまま、ヤマトの次の言葉を待った。

 

「多分……いや、確証はないんだが。前に患った『術師熱』の影響だと思うのだが……」

「……!」

 

 『術師熱』。

 その単語を聞いた瞬間、レイニアの背筋に氷のような冷たい緊張が走った。

 今でこそ日常を取り戻し、仲間内では半分笑い話のように語られているが、当時のあの症状は本当に危険を極めるものだった。

 ヤマトの巨大な本体が、この世界特有の規格外の魔力(環境マナ)を無意識に過剰吸収し、体内の動力炉に蓄積してしまったことが原因だった。

 発生した莫大な熱量は、現地の魔術師が罹るただの術師熱を遥かに凌駕する、災害レベルの危険な暴走状態だったのだ。

 ヤマトの量子脳は熱で絶え間なくエラーを吐き続け、周囲の空気は陽炎のように歪み、装甲がどろどろに溶け落ちる寸前だった。

 もしあの時、偶々近くに『龍化』の力を持つレイニアが居合わせて強引に熱を中和(吸収)していなければ、ヤマト自身が機能停止して死ぬばかりか、周囲一帯が焦土と化す大惨事になっていた可能性すらある。

 

 その後遺症が、未だにこの生体アバター(MMS)に残っているというのなら。

 レイニアはレオンとしての煩悩を即座に切り捨て、真剣な眼差しで話を聞かざるを得ない。

 

「……後遺症が、あるのですか? 詳しく聞かせてください」

 

「あぁ。言葉で説明するより、見てもらった方が早い。ちょっと、脱ぐから待っててくれ……」

 

「うんう……え、ちょ」

 

 ヤマトは顔を羞恥心で限界まで紅く染めながらも、意を決したように、着ていた村娘のブラウスの裾をきゅっと掴み、がばっ!!と勢いよく胸元まで捲り上げた。

 

「ままま待ってくださいましぃあ!?」

 

「んっ……どうした、なんだ?」

 

 ヤマトの動作は、ブラウスを胸のすぐ下まで捲り上げた状態でピタリと止まった。

 当然のことながら、下着など着けていないMMSの豊満でたわわな双丘の下半分が、そして女性特有の柔らかな腹部の曲線が、レイニアの目の前に無防備に、ボロンと曝け出されていた。

 人工物とは思えない、血の通った純白の生肌。

 呼吸に合わせて艶かしく上下するその圧倒的な質量と、微かに漂う石鹸の香りに、レイニアは息を呑む。

 

(コ、コイツ……っ、わざとか!?)

 

 仰天した顔のまま、出かけたおっさんのような叫び声を間一髪で喉の奥へ押し込むレイニア。

 

「あ、いえ……っ! その、何故にいきなり脱ぐのでしょうか……っ」

「あぁ、すまない。私のこの服……いや、正確に言うと、MMSの皮膚下に標準搭載されている『再現スーツ(疑似装甲)』の異常なんだ。この村娘の布の服を着たままあれを展開しようとすると、物理的に干渉してこのお気に入りの服が破けちゃうから……」

 

「あぁ、成程……機能的な問題ですのね。しかしヤマト! 女同士とはいえ、人前でいきなり肌を曝け出して脱ぐのはお気を付け下さいまし! 貴方も今は、立派な女性なんですから……!」

 

「——あっ……!」

 

 レイニアに指摘されて、今更になって自分の痴態に気付いたのか。

 あるいは、よほど異変のことで頭がいっぱいでひっ迫していたのか。

 ヤマトは「はっ」としたように目を丸くし、次いで耳まで真っ赤に染め上げると、ガバッと勢いよくブラウスを元の位置に戻した。

 

 元々、彼らシェイプシフターは装甲も衣服も自前の金属細胞でやりくりする機械生命体である。

 装甲のパージ(脱衣)とは、彼らにとっては単なるメンテナンスの過程に過ぎない。「服を脱ぐ」「肌を見せる」という生身の人間特有の概念に対する羞恥心に、未だに前世の男としての感覚と、今生でのズレが残っているのだろう。

 

 しかし、ヤマトも馬鹿ではない。

 目の前のレイニアが、自分がメスとしての隙を見せすぎると興奮しすぎて『生える(局所的な龍化術が発動し、股間にあり得ないモノが形成される)』という恐ろしく厄介な体質を持っていることも、それこそ前回の術師熱の経験から身をもって熟知していた。

 

 ブラウスを引っ張って前を隠し、少し前屈みになって胸元を隠す姿勢から。

 ヤマトは、上目遣いで潤んだオッドアイを揺らしながら、ひどく申し訳なさそうにレイニアを見上げた。

 

「す、すまない……無神経だった。ちょっとあっちで服を脱ぐから、そこのパーテーションを借りれるか?」

 

「えぇ……どうぞ。ゆっくりで構いませんわ」

 

 レイニアがコクリと頷くと、ヤマトはそそくさそそくさと、部屋の隅にある荘厳な彫刻が施された木製のパーテーションの裏へと隠れた。

 

 シュル……。

 カサッ……スルスル……ぽいっ。

 

 静まり返った部屋に、布擦れの音だけがひどく生々しく響く。

 パーテーションの隙間から、脱ぎ捨てられた村娘のブラウスと、素朴なスカートがはらりと床に落ちるのが見えた。下着をつけていないということは、今、あの薄い板一枚を隔てた向こう側には、完璧なプロポーションを誇る女騎士の、生まれたまま(???)の姿があるということだ。

 

(正直……もう、勃ちそう……)

 

 パーテーションの向こうで素っ裸になっているかつての親友を想像し、レイニアは熱くなった股間を両足でぎゅっときつく挟み込んだ。

 これは前世の『レオン』としての軍人の思考ではない。

 明らかに今の肉体である『レイニア』個人としての、複雑に絡み合った雌雄のフェティシズムの思考である。

 自分も女であるはずなのに、同じ女であるヤマトに強烈に惹かれ、欲情し、そして相手の中身がかつての親友の男であるという倒錯に、思考の処理が追いつかない。

 その底なし沼のような欲求こそが、この状況の「業の深さ」を何よりも如実に物語っていた。

 

「いくぞ、レイニア……」

 

 パーテーションの向こうから、ヤマトのひどく緊張した声が聞こえた。

 

「疑似装甲、展開……んっ」

 

 少し力むような、微かな熱を帯びた声。

 それと同時に、光とスパークが室内に奔った。その光の帯は窓の外へ向かって飛んでいく。窓の外、マギア・ラージ・キャリアーの建造現場で荷台の上に固定されていた巨大なトラック――ヤマトの本体――にそれが着弾すると、シャラシャラと、砂のような金属粒子がその強固な装甲の表面から僅かに剥離した。

 意思を持った砂粒の群れは、窓を通じて風のようにパーテーションの向こうのヤマトの元へと流れ込んでいく。

 

 それが、彼女の無防備な裸の生肌に密着し、再結合していく音が響く。

 

 シャキッ、カキン、キャキルルルル……。

 

「はぁぁ……ぁっ」

 

 シャキキキッ……カキン。

 

 金属的ないつもの変形音と共に、ヤマトの官能的な吐息が重なって漏れた。

 装甲を纏うという行為が、どこか肌を弄られるような嬌声を伴っている。

 たぶんベンザイアが居れば、指を差して「エロい!」と大騒ぎするだろう。

 というか、今やレイニア自身も半分は機龍だ。

 金属細胞が肌に吸い付き、身体を覆っていくその独特の過程に、正直『金属生命体の着替え』という新しい性癖の扉が開き始めているのを自覚せずにはいられなかった。

 

「お、お願いだから……」

 

 震える声で、パーテーションの向こうからヤマトが言った。

 

「あんまり引かないで、くれると助かる……。自分でも、どうしてこうなったのか分からないんだ」

 

 そう言いながら、カツ、カツと金属のヒール音を立てて出て来たヤマトの姿に、レイニアは呆気に取られて小首を傾げた。

 

「え……っと。ヤマト、何か変わったんですの?」

 

「い、いや違うだろう! よく見てくれ、この肌着の角度とか恥骨が出てしまっている!

 前は肩のアーマーや、腰回りにも重厚なパーツがあったのに、今は全くない!

 これではもはや、装甲とは呼べないではないか!」

 

 レイニアの冷静な問いに、ヤマトは真っ赤な顔でわっと泣きそうになりながら抗議の声を上げた。

 ヤマトが纏っているのは、MMSの標準武装である『疑似装甲』――かつてのネオンワンス司令官としての威厳を人間サイズに落とし込んだ、女騎士風のバトルスーツである。

 確かに、改めてしげしげと観察してみれば、ヤマトの主張も分からなくはない。

 

 元からビキニアーマーなんていうキワモノ装備も実在する、この中世的な異世界であって尚、そのスーツは露出度が高かった。

 ハイレグレオタードを基調とし、元のロボット体を思わせる武装個所の再現アーマーが、騎士のようにギリギリの部分を隠しているデザイン。

 それが今はその指摘の通り、ありていに言って『露出度がさらに増して』いたのであった。

 肩のアーマーは完全に消失し、胸元の装甲はそのふくよかな『ボンネット』を強調するように面積を減らしている。

 何より、レオタード部分の腰骨の切れ込みが異常に深く、白く艶かしい太ももの付け根から腰骨までが、惜しげもなく露わになっていた。

 

 そこで、レイニアは一つの仮説にピンと思い至った。

 コンコン、とノックするような要領で、レイニアはヤマトの無防備になった肩の辺りを手の甲で叩いてみた。

 

 ヴュン、ヴュン。

 

 叩いた瞬間、光の文字や魔法陣のようなものが、空中に薄っすらと波紋のように広がった。

 そしてそれが、物理的にレイニアの手の甲に押し返してくる干渉感覚があった。

 まるで、強く叩けば硬くなるダイラタンシー流体にビンタした時のような、あるいは不可視の強固なゴム毬を殴ったような奇妙な感触である。

 

 それでレイニアは、確信を持って結論をつけた。

 

「なるほど。これは……『ビキニアーマー』そのものですわね」

「なんだその、理解の範疇を越えた、知性を一切感じさせない冒涜的な名称は……!」

 

 顔を赤くしたまま、ヤマトがジト目で即座のツッコミを入れた。

 司令官としてのプライドが、その単語の響きを全力で拒絶している。

 

「元々は見た目重視で、闘技場の奴隷戦士なんかに着せていたような野蛮な文化から派生した、『魔力コートアーマー』の一種ですわ」

 レイニアは、この世界の知識を総動員して解説を始めた。

 

「不可視の魔力障壁を展開することで、布地や装甲の面積が少なくとも防御力を担保できる仕組みです。

 今はその見た目の派手さから、一部の変態や、記録妖精を用いた配信(映像記録)ウケを狙った女性冒険者などに、とても人気の装備ですわね。

 ヤマトの場合、ビキニならぬレオタードアーマー、と言った方が適切かもしれませんけれど」

 

「な、なな、なんで私の神聖な装備が、そんな変態的なものにダウングレードしているというんだ!

 配信ウケって誰のウケを狙うというのだ!」

 

 全く理解できない、ゴミのような現地の文化情報の羅列を受けて、ヤマトは普段信奉している知性の尊さに亀裂が入り始め、涙目になって叫んだ。

 

「落ち着いてくださいな。あくまで仮説ですが……魔力呼吸の効率を良くするために、ヤマトの『勇者のカテドラル』が、自己防衛機構として自動調整したのかもしれませんわ」

 

「魔力……呼吸?」

 

「えぇ。見てください」

 

 レイニアは、自身が着ている素朴なワンピースのわき腹や肩口に、意図的に開けられたスリット(隙間)をヤマトに見せた。

 ヤマトは「きゃあ」と慌てて、恥ずかしそうに顔を両手で覆うが、「ちゃんと見て」とジト目で真っ直ぐに見つめてくるレイニアの真面目な声に、「わ、わかった……」と恐る恐る手を退ける。

 

「この世界で一般的な魔術師は、自然魔力を皮膚呼吸で吸引して、余剰魔力を吐き出すんですの。

その才覚の有無を示すのが、子供の頃の『術師熱』。普通は風邪をひいたのと変わらないくらいの熱なんですけれどね」

 

「……あぁ。私が患ったアレか」

 

「えぇ。そして、それを経た子供はそれ以降、魔術の行使に合わせて皮膚呼吸を助ける構造の、露出の多い衣装を着るようになりますの。

 ヤマトの普段着ているその村娘の服も、実は魔術師の才能を持った一般民衆用の、通気性が良い生地で出来た服なんですのよ」

 

「……!」

 

 ヤマトがハッとして、自分の脱ぎ捨てた村娘の服を見た。

 

「……つまり、こういう事か」

 

 ヤマトは、絶望的な推論を口にする。

「我々の金属細胞性の衣装(疑似装甲)では、その皮膚からの魔力呼吸の通気性まで再現しきれない。あるいは、通気を維持したまま強固な装甲を維持するのは、エナジーコストが高すぎると判断したカテドラルが、私の命を守るために選択したのは……」

 

「えぇ」

 

 レイニアは無慈悲に、そして少しだけ面白そうに頷いた。

 

「スーツの布やアーマーの面積を減らして、代わりに魔力による不可視の装甲(魔力コート)を備え付ける――という事だったんでしょうね。

服を選ぶときに、ヤマトの無意識が、街で見かけたビキニアーマーの構造を参考に(スキャニング)してしまったのかもしれませんわ」

 

「……………………」

 

 合理的な防衛本能と、無意識の学習が生み出した、最強にして変態的な防具。

 その一切の反論を許さない科学と魔法の融合した結論に、かつて宇宙の星々を総べていた最高司令官ヤマトは、顔を真っ白にして、へなへなと膝から崩れ落ちるのだった。

 

 

「ま、待った!」

 

 崩れ落ちたまま、ヤマトはすがりつくように顔を上げた。

 

「じゃあ、本体の方は!? あの熱が引いた後、シェイプシフト(変形)を解いて巨大なロボットモードに戻ってみたが、女らしいフォルムになった以外は装甲に変化はなかったはずだ!」

 

 人間サイズのアバターがこれだけ露出の多い仕様にアップデートされてしまったのなら、もしやあの巨大な本体の装甲面積まで減らされているのではないか。

 そんな恐ろしい想像に顔を青ざめるヤマトに対し、レイニアは事もなげに首を傾げた。

 

「あの強大な質量と分厚い装甲なら、わざわざ薄くして魔力呼吸用の面積を確保する必要がないのでは?

 排熱ダクト一つとっても、MMSの全身の表面積よりも広いですし」

 

 へしょっ。

 

 その身も蓋もない正論を聞いた瞬間、ヤマトの頭部――MMSの装甲の一部として頭に生えていた二対のウサギの耳のような通信アンテナが、まるでしおれた植物のように力なく折れ曲がった。

 とても分かりやすい。MMSという新たな身体は、彼女の『心が完全に折れた』という感情表現すらも、こうして可視化する機能を見事に果たしていた。

 

「あー……こほん。その、なんと申しますか……」

 

 あまりの落ち込みように少しばかり哀れみを覚えたレイニアは、咳払いをしてフォローを試みた。

 

「ビキニアーマーでさえ、こちらでは一定の需要がある実用的な装備であることには変わりありませんし。それに、その魔力コートの技術を応用すれば、寧ろ女性冒険者の間で新しいトレンドの防具になる可能性もありますわ。自信を持っていいと思いますのよ?」

 

「慰めになってなぁぁぁぁい……っ」

 

 床に手をついたまま、ヤマトは情けない声を上げて肩を震わせた。

 

(うわぁ……)

 

 甘えていいとは言ったが、一度タガが外れると、ここまで弱気な本性が露になるとは。

 司令官という重圧から解放され、そして女性の身体という未知の器に入ったことで、ヤマトの精神的な脆さが浮き彫りになっている。

 生前、いかに彼が己を律し、宇宙の存亡を賭けて無理に気を張って無茶をしていたかがよくわかる。

 

 そう思ったレイニア(レオン)は、小さく、しかしひどく温かいため息をついた。

 そして、崩れ落ちたヤマトの前に歩み寄り、静かに膝をつくと、震えるヤマトの細い肩を抱き寄せ、その豊満な胸にそっと自分の身体を預けさせた。

 

「レイニア……?」

 

 突然の抱擁に、ヤマトが潤んだオッドアイを見開く。

 

「正直に言って……初めてその姿を見たとき、わたくしは見惚れたんですのよ?」

 

 レイニアは、ヤマトの背中をポンポンと優しく叩きながら囁いた。

 

「肌の露出が多いとか少ないとか、そんなことは些末な問題ですわ。わたくしたちの前に立って、強がってやってみせたあの手の甲へのキスも……本当に、騎士然として格好の良い『女傑』のそれでしたわ」

 

「じょ、女傑……」

 

 自分は『男』としてカッコよく振る舞ったつもりだったのに、結局『女傑』という評価に落ち着いてしまったことに、ヤマトのアンテナが再びへしょりと垂れ下がる。

 しかし、そんな残念がるヤマトに追い打ちをかけるように、レイニアはさらに強い口調で続けた。

 

「あなたの言う『名誉』と『知性』は、性別や、その装甲の見た目程度に左右されるような、安いものだったのかしら?」

 

「……!」

 

 その問いかけに、ヤマトはハッとして息を呑んだ。

 レイニアの瞳は、真っ直ぐにヤマトの魂の奥底を見据えていた。それは、前世の泥と血にまみれた戦場を共に駆け抜けた、歴戦の兵士である親友としての、何よりの信頼の眼差しだった。

 

「……いや」

 

 ヤマトは、抱き寄せられたレイニアの胸元から、ゆっくりと顔を上げた。

 その双眸に、かつての鋼の意志の光がわずかに戻る。

 

「この身体になっても、どんな破廉恥な装甲に変わろうとも……私は、ネオンワンス司令官としてのこの誇りを抱えて、生き抜くと決めた」

 

「えぇ、そうですわ」

 

 レイニアは満足そうに微笑み、ヤマトの頬にそっと手を添えた。

 

「炭素基盤の生命でも、珪素基系の生命でも関係ない。貴方は、宇宙を一度は救った偉大な英雄。そのあなたが、どんな姿の身体になったところで……誇り高い知性の守護者であることには、何も変わりはないんですのよ」

 

 背中を優しく叩きながら、まるで怯える子供をあやすように言うレイニア。

 その底抜けの肯定に、ヤマトは張り詰めていた糸が切れたように、深く、震える息を吐き出した。

 オッドアイの目元に溜まっていた涙が、ぽろりと彼女の美しい白い頬を伝って流れ落ちる。

 

「……そうだな。こんな些細なことで狼狽えている姿を見られたら……生前の親友だった、あの口の悪いレオンの奴に、腹の底から笑われてしまうな……」

 

 ヤマトは自嘲気味に笑い、目元を腕で乱暴に拭った。

 

(大丈夫。今の時点で、俺は心の中で捧腹絶倒してるよ、ヤマト)

 

 レイニア(レオン)は心の中だけでそう悪態をつきながらも、決して表情には出さず、慈愛に満ちた笑みを浮かべてヤマトの手を取った。

 

「せめてこの世界では、宇宙の命運を一人で背負った鋼の英雄から……わたくしの傍に立つ、麗しき女騎士ヤマトで居てくださいまし。そう思えば……少しは気も楽になるのではないかしら?」

 

「……ああ。そう、だな」

 

 レイニアに引き上げられるようにして、ヤマトは持ち直し、再びしっかりと己の足で立ち上がった。

 その姿は、煽情的なハイレグレオタードアーマーを纏っているにもかかわらず、不思議と神々しく、そしてどこか吹っ切れたような、凛とした美しさを放っていたのであった。

 

 




次回予告

レイニア「次回はドワーフの地下鉄道網にてネオンワンスの同胞探しと交渉に行きますわ!」

ベンザイア「ドワーフっつったらあれだろぉ?よーほーよーほー♪」

ヤマト「俺達ゃ鉱山そっだっちっ♪」

ベンザイア・ヤマト「「ふぅっふぅ♪」」

ベンザイア「見てえなノリの髭の小人だろ?」

レイニア「髭はぁ……まぁ生えてるし人間よりは背も低いですわねぇ」

ベンザイア「なにその歯に詰まった言い方怖いんだけど」

レオン「ていうか何だ今のノリ?」

ヤマト「次回『老龍は歌って踊る』……ドワーフに新たな龍か、いよいよ王道なファンタジーだな!」

ベンザイア「遠回しにそれ諦めろって言われてる気がする……」

レイニア「SANチェックです♡」
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