BanG_Dream! 前へ‼︎My Way!!!!   作:&Makoto

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It's MyGO!!!!!5話
少しオリジナルはいってます。


小さな一歩

 

音楽に一生はない。

 

私はそれを知っている。

 

どんなに仲良しでも、どんない長い時間を共にしても、曲が終わるように、関係も終わる。

二度とあんな思いをしたくないから、音楽をしないで音楽を続ける、そんな矛盾だらけの毎日を過ごして、曲が始まらなければ、そもそも終わることもないのだから。

 

このまま、ずっと前に進まず、小屋の中でずっと楽しく。

 

 

「ライブ…したくない」

 

学校で愛音ちゃんに零してしまった本音。ライブをやったら終わってしまう、それならいっそのことライブをやらないでいたい。

 

 

 

 

 

 

もうじき陽が沈む時間帯。

 

 

 

 

私達はそよちゃんから一度集まろうという連絡を貰って、池袋の複合施設にあるテラス席にメンバー全員が集まる。

 

私は、立ち止まったままだ。 テラス席に吹き込む風が、やけに冷たく感じる。もうすぐ春の終わりだというのに、指先だけが少し強張っていた。

 

目の前には、みんながいる。愛音ちゃんがいて、立希ちゃんがいて、そよちゃんがいて。

 

それだけで、本当は十分なはずなのに。──終わるかもしれない。 そんな考えが、頭の奥にこびりついて離れない。

 

「……来てくれてありがと」

 

そよちゃんが、穏やかな声で口を開く。その声音はいつも通りで、柔らかくて、整っている。

 

「今日はちょっと、大事な話があって」

 

やっぱり。胸の奥が、きゅっと縮む。

 

逃げ場はない。ここで決めないといけないから。

 

「今の私達のこと、なんだけど」

 

その言葉が落ちた瞬間、空気が静かに張り詰めた。

 

やっぱり、その話だ。

 

視線が、無意識に下がる。テーブルの木目をぼんやりと追いながら、言葉が来るのを待つ。

 

そよちゃんは言葉を続ける。今の自分たちはバラバラだと、バンドを組んでいる意味があるのかと問いかける。

 

ライブをやりたい、ライブをやった方が良いと口にする立希ちゃん、自分たちが前に進めないのは目標がないからだと言っている。

 

立希ちゃんの言葉は、正しい。

 

きっと、誰が聞いても正しい。

 

でも、じゃあ、なんで…と目標があったのに解散したあの時のことを思い出す。

 

わかっている。立希ちゃんは前に進もうとしていることを。あの時から…CRYCHICから前に進もうとしている。

 

私は、立ち止まったままだ。

 

「燈はどう思う?」

 

不意に名前を呼ばれて、顔を上げる。立希ちゃん、そよちゃん、二人の視線が重なるその中心に自分がいる

 

逃げられない。答えなきゃいけない。

 

でも、口を開こうとしても、うまく言葉にならない。

 

「私は…」

 

喉が、ひどく乾いている。何を言えばいいのか、わからない。本当のことを言えばいいはずなのに、それが一番難しい。

 

ライブをやったら、終わる。その考えが、強く浮かぶ。

 

また、同じことになる。あの時みたいに。気づいたらバラバラになって、何も残らなくて。

 

あんなのは、もう嫌だ。

 

それは、言葉に出しても説明になっていないかもしれない。でも、それが全部だった。

うまく説明できるはずもなくて、「バンド」。「終わるから」。と小さく呟くしかできない、本当はそれだけじゃないことを自分でもわかっているのに、それ以上言葉にすれば全部が壊れてしまう気がして、同じ言葉をなぞるしかできない。

 

「いや、燈ちゃんライブ嫌だって言ってるじゃん」

 

 

答えることができない私の代わりに、愛音ちゃんが言葉を差し挟んだ。その声はいつもより少しだけ強くて、それでいてどこか不安定に揺れている。ライブをやるにしても今回はさすがに急すぎること、準備もちゃんとできていない現状は無謀だと愛音ちゃんは言う、ちゃんと整えて、万全の状態で挑みたいと。

 

二人の意見が、真正面からぶつかる。

火花が散る、という言葉がぴったりだった。

 

 

私の、準備は心の問題。練習でどうにかなる問題じゃない、そう…気持ちの問題。どれだけ歌っても、どれだけ音を重ねても、消えない不安がある。ライブをしたら、終わってしまうかもしれない。このバンドも、この関係も、この居場所も。

 

愛音ちゃんがいう万全の状態には、私はなれないと思う。

 

「愛音ちゃん」

 

震える声で名前を呼ぶ。

 

愛音ちゃんと立希ちゃんの衝突を止めないといけない。私の気持ちをちゃんと喋らないと。

 

ガンッーとテーブンにカップをが叩きつけられ、静まり返った空間に、その音だけがやけに大きく響いた。

立希ちゃんが、愛音ちゃんを睨みつけている。

その視線は鋭く、まるで逃げ場を完全に塞ぐようだった。

 

空気が、痛い。

 

静電気みたいに、触れたら弾けそうなほど張り詰めている。

 

「お前、なんなの?」

 

低く、押し殺した声。

 

「先から燈の味方のふりしてるけど、ライブやりたくないだけでしょ。…燈が悩んでんのはライブしたら終わるかもしれないってことで」

 

「ぅ、そ…それは…」

 

愛音ちゃんの肩がびくりと震えた。

そんなのお構いなしといった感じで立希ちゃんは言葉を続ける。

 

「お前のそれは逃げだよね…。ギターから逃げてる!」

 

「に…逃げて…ないし…!」

 

か細い声。けれど、その奥には確かに揺れる感情が。

 

 

「た、立希ちゃん…。愛音ちゃん…」

 

どうにか二人の間に入ろうとするけれど、言葉が空気に溶けてしまうみたいに届かない。張り詰めた糸は、もう指先で触れただけでも切れてしまいそうな。

 

「ギター弾けないんでしょ。練習だって、いつもはぐらかすし」

 

「練習はしてるしッ…」

 

「やる気見せるのは立ち位置とかバンド名とか、GとかFとかばっか……お前こそライブ決めないと絶対逃げる。…これまでもそうなんだから」

 

「…ァ……逃げてないッ…!!」

 

その叫びは、反発というよりも、押し潰されそうな何かを必死に支えているようだった。次の瞬間、愛音ちゃんは勢いよく立ち上がると、そのまま椅子を弾くようにしてその場から飛び出していった。冷たい空気が、ただ一瞬だけ吹き抜ける。

 

「愛音ちゃん!」

 

気づいた時には、もう体が動いていた。私はその背中を追いかけて走り出す。心臓が早鐘みたいに鳴っている。怖い。でも、行かないと。ここで立ち止まったら、きっと何も変わらないから。

 

 

 

 

 

やっと追いついた先で、愛音ちゃんは足を止めていた。見知らぬ人たちと向き合っているけれど、その表情はどこか引きつっていて、笑っているはずなのに、全然笑えていなかった。空気が微妙に噛み合っていない、その感じが痛いほど分かる。私は迷わず、その手を掴んだ。

 

「…燈ちゃん?」

 

そのまま引き寄せて、逃げるように走り出す。愛音ちゃんの手は、驚くほど冷たくて、まるで今にも消えてしまいそうだった。どこへ向かうかなんて考えていなかった。ただ、この場所から遠ざかりたかった。それだけだった。息が上がって、足が重くなって、それでも走り続けて、気づけば私は、いつもの場所へと向かっていた。

 

 

 

 

 

街の喧騒の中にある水族館。その中にある、私のお気に入りの場所。天井から張り出した大きな水槽の下、見上げるとペンギンたちが空を飛ぶみたいに泳ぐあの場所へ。

 

青いLEDの光が水面に揺れて、世界がゆっくりと溶けていくみたいに幻想的で、ここに来ると、気分が落ち着く。

 

しばらくの間、私たちは何も言わずに、ただペンギンたちを見上げていた。水の中を滑るように進むその姿は、まるで重力から解き放たれているみたいで、さっきまでの重苦しい空気が、少しずつほどけていく。

 

「さっきさ、りっきーが言ってたこと…当たってるんだよね」

 

ぽつりと、愛音ちゃんが呟いた。

 

その声は静かで、でもどこか覚悟みたいなものを含んでいた。流れていく時間の中で、彼女はゆっくりと、自分の過去を話し始める。イギリスへの留学、慣れない環境、うまく馴染めなかった日々、そして逃げるように帰ってきたこと。さっき会った人たちが、中学の頃の友達だったこと。その全部が、絡まった糸みたいに彼女の中に残っているのだと分かった。

 

「逃げてばっかの人生だよ…。やり直そうと思ったけど、私…もう終わったなぁ」

 

自嘲気味に笑うその顔は、あまりにも痛々しくて、見ていられなかった。笑っているのに、全然楽しそうじゃない。そんな笑顔、見たくなかった。

 

「…終わってない」

 

気づけば、言葉がこぼれていた。

 

「愛音ちゃんは、頑張ればいいって言ってくれて…それに…私、知ってるよ。愛音ちゃんが…一生懸命、変わろうとしてること」

 

自分でも驚くくらい、まっすぐな声だった。怖かった。でも、それ以上に、伝えたかった。ペンギンたちが頭上を横切っていく。光が揺れて、私たちの影もゆらゆらと揺れる。

 

「友達から…ギター教えてもらってるって。…だからッ」

 

静かな空間の中で、はっきりと響いた。

 

私は近くに置かれていたアンケート用紙の裏を掴むと、震える手でペンを走らせる。うまく整える余裕なんてなくて、思いつくままに言葉を書き殴った。そして、それをそのまま愛音ちゃんに突き出す。

 

「…迷子?…あとは、べいびー…すてっぷ?…あ、Baby steps to Giant stridesか」

 

愛音ちゃんは少しだけ目を見開いて、そこに書かれた言葉をひとつひとつ確かめるように、ゆっくりと口にした。

 

私は自分の想いを伝える。

 

「愛音ちゃんは、前に進んでいる…。行き止まりになっても…ちゃんと道を探して。躓いても、小さくても…一歩一歩…前に進んでるから。…私のことも…引っ張って…バンドができて、進んでも終わりじゃないんだって…。…ベ…ベイビーステップス・トゥ・ジャイアント・ストライド…、小さな一歩から大きな一歩へ。…愛音ちゃんの友達から私も教わったことがあった…、だから、私も…私のステップで…迷ってても進みたい…」

 

言葉は途切れ途切れで、不格好で、それでも必死だった。胸の奥に溜め込んでいたものを、少しずつ外に出すみたいに。

 

赤ちゃんは、小さな一歩でも確実に進んでいく。何度転んでも、また立ち上がって、前へ進もうとする。けれど、いつの間にか私たちは、進むことそのものを怖がるようになる。知識が増えて、できることが増えて、歩幅が大きくなるほど、その分だけ、失敗の痛みも想像できるようになる。転ぶことを恐れて、傷つくことを知っているからこそ、足を踏み出せなくなっていく。

 

だからこそ、一歩でいい。

 

迷いながらでもいい。

 

躓いてもいい。

 

ほんの小さな一歩でもいいから、確かな一歩を、自分の足で進んでいきたい。

 

私は、静かに、けれどはっきりと断言する。

愛音ちゃんは、進んでいる。

 

「迷子かぁ…」

 

愛音ちゃんが、頭上を泳ぐペンギンを見上げながら呟く。その横顔は、どこか遠くを見ているみたいで、でもさっきより少しだけ柔らかかった。

 

 

「じゃあさ…一緒に進む?。迷子のままで、私達だけのステップ。数センチでもいいから…」

 

「うん!、一緒に」

 

今度は、誓い合うように。私たちはお互いの手をしっかりと握り、そのまま駆け出した。さっきまで冷たかった愛音ちゃんの手は、今は驚くほど暖かくて、そのぬくもりが本当にそこにあるのだと確かめるように、私は少しだけ強く握り返した。ほどけそうだった何かを、離さないようにするみたいに。足音が重なり、呼吸が揃っていく。行き先なんて決まっている。不思議と迷いはなかった。ただ前へ、前へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、あの二人と燈ちゃんも知り合いだったんだ」

 

愛音ちゃんが、何気ない調子でそう言う。

 

「私は、CRYCHICの時に…少しだけ」

 

言葉を選ぶように、ゆっくりと答える。思い出すだすのはあの日の光景。

 

「そうなんだ。確かに前は一緒にバンドやってたって話してたし、同世代だから接点はあるかもね」

 

愛音ちゃんは軽く頷きながら、納得したように言う。その仕草はいつも通りなのに、どこか少しだけ慎重で。

 

「…やっぱり、バンド解散しちゃったんだ…」

 

私がぽつりと溢したその言葉は、夜の中に静かに落ちていく。

 

「んー、それについては少し訳ありというか…、少なくとも喧嘩とかじゃないよ、ただなんというか…あはは」

 

言葉の途中で、愛音ちゃんは曖昧に笑った。その笑いは、うまく説明できない何かをごまかすみたいに揺れている。

 

「愛音ちゃん?」

 

「うん…直接本人から聞いた方がいいかも。」

 

小さく肩をすくめる仕草。その奥に、触れてはいけない領域があることを、なんとなく感じ取ってしまう。

 

足音が響き少しの沈黙が落ちる。けれど、それは気まずいものではなくて、言葉にできない何かをそのまま置いておくための、やわらかい余白みたいだった。やがて、愛音ちゃんがふと思い出したように顔を上げる。

 

「そうだ、あの二人がいたバンド名って、なんて言うの?」

 

その問いに、私はほんの一瞬だけ言葉を探した。そして、静かに息を吸う。

 

「それは、私が愛音ちゃんに伝えた言葉と同じだよ」

 

「同じ?」

 

不思議そうに首をかしげる愛音ちゃん。

 

「うん、Baby steps…小学生の頃から活動してた…五人組のバンド」

 

小さな一歩を積み重ねてきた日々。笑ったことも、泣いたことも、全部がそこにある名前。

この言葉をバンド名にした意味は、そういえば聞いたことがなかった。

 

夜風が静かに吹き抜ける。

 

「そっか…Baby stepsか」

 

愛音ちゃんは一瞬だけ目を細めて、それからふっと笑った。

 

「うん、良いバンド名だね」

 

その笑顔は、どこか軽やかで、少しだけ未来を見ているようだった。

 

迷子のままでもいい。

 

小さな一歩でもいい。

 

重なっていく足音が、やがて音になっていく。

その音がどこへ続くのかは、まだ誰にも分からない。

 

けれど

 

今この瞬間、確かに二人分のステップが、夜の街に刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

「何処まで…行っちゃったんだろうね」

 

夜の街にぽつりと落ちたその言葉は、行き場を失ったみたいに静かに滲んでいく。ネオンの光が揺れる広場の端で、二人の女の子が並んで座っていた。まるで大切な何かを探しているように、あるいは、まだ来ない誰かをじっと待ち続けているように。時間だけがゆっくりと過ぎていくのに、その場だけが取り残されたみたいに、妙に静かだった。

 

ふと、その静寂を切り裂くように、ひとつの足音が近づいてくる。無遠慮でもなく、かといって遠慮がちなわけでもない、どこか間の抜けたリズム。やがて、その足音の主である一人の男の子が、二人の前で立ち止まった。

 

「あのー…ナンパとかじゃなくてですね、道を教えてもらいたくて。…ちょっと待って、そんな顔しないで。これガチだから。ど忘れとかそんなレベルじゃなくて、シンプルに忘れてるの」

 

言いながら、自分でも何を言っているのか分かっていないみたいに、少しだけ困ったように頭をかく。その姿は怪しいというより、拍子抜けするほど間が抜けていて、逆に警戒する気力すら削がれてしまう。

 

「「…え?」」

 

ぴったりと揃った声が、夜気に重なる。

 

「え?」

 

男の子もまた、同じように首をかしげた。三人の間に、妙な沈黙が落ちる。噛み合っているようで、まったく噛み合っていない空気。

 

そのとき。後方から、慌ただしい足音が駆け抜けてきた。

 

「立希ちゃん!そよちゃん!私たち──っ、え」

 

息を切らしながら飛び込んできた声が、途中で止まる。もうひとつの影も、その隣で同じように立ち尽くした。

 

「え?…なになに??…いや、勘違いしないでよ、ナンパじゃないからね」

 

男の子は、なぜか弁解を重ねる。誰も何も言っていないのに、勝手に状況が悪化していくような、不思議な流れだった。

 

その中で、ふと。

 

「あっ、乙成君」

 

愛音ちゃんが、小さく呟く。その一言で、空気がぴたりと止まった。

 

「はい、乙成です」

 

まるで点呼に応じるみたいに、素直に名乗る男の子。そのあまりにも自然な返答が、逆に状況の異常さを際立たせる。

 

「「「乙成くんッ!?」」」

 

今度は三人分の声が、きれいに重なった。驚きと困惑と、ほんの少しの呆れが混ざり合った響き。

 

夜の街に、その声が大きく広がっていく。

 

まるで、張り詰めていた何かが一気にほどけたみたいに。

 

そして──止まっていたはずの時間が、また少しだけ、動き出した気がした。

 

 




【Baby steps】
全員が小学生とは思えない演奏技術と言われていたバンド。
主な活動はカバーバンド。ボーカルがいないインストゥルメンタルスタイルだが、偶にリードギターかベースが歌うこともあった。

・乙成操一(ギター)
・葉加瀬達郎(ベース)
・〇〇
・〇〇
・〇〇
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