ドリームトロフィーリーグ、それは過去から未来に渡り、
決して忘れ去られる事なく輝き続ける夢の舞台……
それゆえに、自身の世代では最強無敵であったウマ娘達も、
同等の者と競い合い、一着の者以外は全て敗者となっていく。
勝利が当然だった者たちにとって、その環境はどのように映るのか。

1 / 1
積み重ねられていく夢

 ゴールを駆け抜けたシンボリルドルフの耳に、場内アナウンスが届けられる。

 

『――、7着シンボリルドルフ、8着はスペシャルウィーク、9着――』

 

 ……7着。

 

 敗北ひとつすらもが伝説となって語られるシンボリルドルフが掲示板にすら入れなかった。

 それは確かだ。ゴールに飛び込んだ瞬間に見た光景は他のウマ娘達の背中。最後まで諦めなかったつもりだが、敗北という現実そのものはレース中に受け入れざるを得なかった。

 掲示板を外したのはいつ以来か。トゥインクルシリーズからの引退を決めざるを得なくなった故障が起きた海外遠征、そのたった一度だけだ。

 

「はーっはっはっはっ!掲示板にすら入れないとは!

 この僕が!世紀末覇王たるこの僕が、新世紀に入ってしまったらこのザマか!

 だがこれは新たな伝説の一幕なのさ!この覇王すら天下を狙う一人に過ぎない群雄割拠、なによりも楽しい伝説は続くのさ!」

 ルドルフの一つ前、6着テイエムオペラオーが楽しげに敗北の弁を演じる。

 

 ルドルフの後ろで、8着スペシャルウィークがぜーっぜーっと息を整えつつ両手を膝に乗せて震えている。

「おかーちゃん…… ここ…… 日本一のウマ娘がいっぱいいるよぉ……」

 

 ――そう、ここはドリームトロフィー。かつて最強と言われたウマ娘達が集い、覇を競う戦場。ルドルフが呼ばれた「皇帝」の座も、ここではかつての栄光だった。いや、飛び込んだ時すでに皇帝は「有力な挑戦者の一人」でしか無かった。当時は“ナタの切れ味”神ウマ娘・シンザンや、ルドルフにとっての大先輩スピードシンボリがそこを走っていたのだから。

 ルドルフも敗北は常だった、しかし上位勢の一人ではあった。ここでの「掲示板内維持」はトゥインクルシリーズの「無敗三冠」にすら匹敵する偉業だ。

 だがそれもついに失った。ルドルフは試合後の風が体の温度を奪っていくのを感じた。

 二桁順位に転落したシリウスシンボリが悔しさに歯を噛みしめる。「おい皇帝サマどうしたよ」と言葉をぶつけてやりたいが、この順位では人のことを言える資格など無い。

 

 5着、オグリキャップは無言で掲示板を見上げている。かつてオグリはダービーに出場できない苦難の運命を歩き、それが世論を動かし、ルールを改正させる力となって救われたのがテイエムオペラオーだった。そのオグリとオペラオーが直接対決する。経緯を知る誰もが沸きに沸いた熱狂ですら、掲示板に入れるかどうかを争う一場面でしか無かった。

 

 4着、サイレンススズカは「嘘でしょ……」と放心している。絶望的な負傷から奇跡の復活を遂げて、アメリカで転戦した後に日本のドリームトロフィーに帰ってきた。全盛期の力で復活したサイレンススズカという夢をもってすら、別の夢に追い付かれ、追い抜かれていく。

 

「あーっもう!やーーっとカイチョーに勝ったのにぃー!なんでなんでなんでー!?」

 3着トウカイテイオーは悔しそうに暴れている。ドリームトロフィーに参戦してシンボリルドルフに直接対決で勝つ、その夢は大きな拍手によって迎えられた。そして退けられること五回、六戦目にしてついにテイオーはルドルフに先着した。しかし、テイオーが望んだ瞬間はこんな形では無い。レースの先頭をルドルフと争い、自分が一着、ルドルフが二着となってウイニングライブを競演する――そんな場面にはならなかった。

 ――済まない、テイオー。お前の期待を裏切ってしまった。

 ルドルフは痛恨の極みを覚えて、我が子のように可愛い後輩が駆け寄ってくるのを抱き留める。「次は絶対ボクたちが勝つんだよ!」と叫ぶテイオーに、「ああ、約束しよう。必ず私とテイオーで一位二位を占めてみせる……一位は私だが」と平静を務めて答えてやる。「一番はボクだもんにー!」と、テイオーは元気を取り戻してくれたようだ。

 

 2着に入ったナリタブライアンは、その剛脚をもってしてもついに届かなかったウマ娘の背を睨み続けている。そのウマ娘は――

 

 1着――その顔は後ろに置き去りにしてきたウマ娘達から見えない角度、その姿はまばゆいスポットライトに照らされ、シルエットのようになってよく見えない――

 

 英雄、ディープインパクト。

 

 その栄光はもはや語るまでもない、誰もが知るあの英雄――と「皆は当然知っている」ことを前提として流されてしまい、彼女が駆けていた時代はまるで空白期のように謎に包まれているウマ娘。

 彼女がドリームトロフィーリーグに参入した時、世論は当然、沸きに沸いた。

 伝説が幾度も語り直される有名なウマ娘達、引退後もトレセン学園の学生として残り、時にチームで後輩の生きた手本となり、時に生徒会の業務を担って若手にレースに集中できる環境を整え続けたあのウマ娘達に、近代レースの結晶と呼ばれる英雄はどれほど戦えるのか――その結果はここに出た。全てのウマ娘を打ち倒し、英雄は歴史を塗り替えたのだ。

 

 その光に包まれた姿を、シンボリルドルフは後ろから、遠くから見つめる。

 

 ここはドリームトロフィーリーグ、過去の栄光が積み重なり、そして新たな栄光が積み重ねられていく場所。

 これから先、オルフェーヴルが、キタサンブラックが、アーモンドアイが、イクイノックスが、フォーエバーヤングがここにやってきたら、あの英雄も同じように塗り替えられていく一人になるのだろうか。

 あるいは、逆に――もうここに来てくれる事も稀になった、シンザン、ハイセイコー、トキノミノルのように、ここに集った名駿すらも及ばぬ伝説の一人として君臨し続けるのだろうか。

 

 ルドルフはそんな想いに駆られ、そして小さく笑う。

 こんな発想に至ってしまうこと自体、敗北に打ちひしがれている証だ。

 ここは夢の舞台。ならば、ここに集った私たちは夢そのものだ。ならば私は、ただ走るのみ。「シンボリルドルフは、シンザンよりもディープインパクトよりも速い」と私に夢見てくれている人達のために。

 

 テイオーがウイニングライブに出場するため、手を振って駆けていく。

 それを見送りながら、次はテイオーにも恥じぬ走りを見せてやろうと、改めてルドルフは心に炎を灯した。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。