面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第18話 シンクロと〝割れずの門〟

 

最後のストーンゴーレムが崩れ落ちる

 

巨体が地面に叩きつけられ、鈍い衝撃が足元から伝わる

砕けた岩が周囲へ転がり、やがて動きを止めた

 

戦いは終わった

 

舞い上がった砂塵がゆっくりと落ちていく

その中心で、ユーリは剣を握ったまま立っていた

 

呼吸を整える

荒れた息を押さえ込みながら、腕に残る衝撃を確かめるように指を動かす

 

軽く剣を振る

空気を切る感触が手に伝わる

 

さっきまでよりも明らかに軽い

口元がわずかに緩む

 

 

「ま、こんなもんだろ」

 

短く呟く

その声には確かな手応えがあった

 

「す……すっごい」

 

スノウが思わず声を漏らす

 

目の前で起きた光景を理解しきれずにいる

だが次の瞬間、その視線はユーリへと向けられていた

 

(さっきまで確かにユーリからは魔力を感じなかったのに)

 

ほんの少し前の記憶を辿る

あのときのユーリは空っぽだった

 

何も感じなかった

 

(バッボさんを変形させてからずっと……)

 

違う

 空気が変わっている

 目に見えない圧のようなものが、この場に満ちている

 

(ユーリの魔力が上昇し続けている)

 

止まっていない

一瞬の爆発ではなく、今も静かに増え続けている

 

(まるでせき止められていた水が一気に溢れ出すように)

 

スノウは無意識に息を呑む

 

(普通は……こんなことありえない)

 

そのとき

上空の空間がゆらりと歪んだ

 

水面のような揺らぎが広がり、その中心に光が集まっていく

ユーリもすぐに異変に気づき、視線を上げる

 

「スノウ あれはなんだ 次の相手か?」

 

戦闘に入る前提の声

 

だがスノウは首を振る

 

「確かにあれもガーディアンARMだけど違うよ!」

 

光が収束し、形を成していく

輪郭が浮かび上がる

 

やがて白い粒子が弾け、その中心に人影が現れる

しなやかに伸びた手足

 

均整の取れた身体つき

細すぎず、引き締まった体躯

 

無理のない立ち姿には安定感がある

年齢は明らかにスノウより上

 

少女というより、落ち着いた大人の女性に近い印象

 

頭には獣の耳

背後には尾がゆったりと揺れている

 

人と獣の特徴を併せ持つ存在

 

だがその印象は異質さではない

柔らかさだった

 

顔立ちは整っている

派手ではないが自然と目を引く

 

目元はやさしく、穏やかな空気を帯びている

 

わずかな笑みで場の空気がやわらぐ

美人と言って差し支えない

 

だがそれ以上に、近づきやすさを感じさせる存在

ただの召喚物ではないと感じさせる温度があった

 

「ガーディアンARMのメリロさんだよ」

 

スノウが紹介する

 

メリロはやわらかく微笑む

 

「お久しぶりです スノウ!」

 

落ち着いた声で応える

そのまま自然に視線をユーリへ向ける

 

「あら そちらの方は?」

 

穏やかな問いかけ

 

ユーリは軽く顎をしゃくる

 

「ユーリ・ローウェルだ」

 

メリロは少しだけ目を丸くする

 

「スノウ以外の方なんて久しぶりです!」

 

やさしく微笑む

その言葉には純粋な驚きが混じっていた

 

スノウが横から補足する

 

「メリロさんはこれからのトレーニングをナビゲートしてくれるの」

 

メリロは小さく頷く

 

「では早速始めましょう こちらへどうぞ」

 

やわらかく促すように言い、先に歩き出す

 

ユーリとスノウはその後を追った

石でできた神殿の中はひんやりとしていた

 

足音がわずかに反響する

奥へ進むと、壁に埋め込まれた石板のようなものが現れる

 

均一で滑らかな表面

ユーリはそれを見て眉をひそめる

 

「石板か?」

 

メリロは振り返らずに答える

 

「〝割れずの門〟と言います」

 

静かな声

だがその言葉には確かな意味が込められている

 

メリロがゆっくりと振り返る

 

「ARM使いとしての基礎戦闘能力がとても高いことは見せていただきました」

 

一拍置く

 

「次はARMとの一体化 シンクロをしていただきます」

 

ユーリは黙って聞いている

 

メリロは門へ視線を戻す

 

「この門を割るのではなく 砕いてください」

 

ユーリは一歩前へ出る

迷いなく剣を振る

 

衝撃音が響き、門にヒビが走る

だが次の瞬間

 

ヒビは元に戻る

 

まるで何もなかったかのように

 

「……は?」

 

思わず声が漏れる

 

「割れはしたけど砕けねぇってわけか」

 

メリロは穏やかに説明する

 

「腕力ではなくARMとのシンクロが必要なのです」

 

スノウも続く

 

「ユーリとバッボさんのね」

 

メリロはさらに言葉を重ねる

 

「この門には1点だけ弱点が存在します」

 

ユーリは目を細める

 

「でもそれを教えてはくれないわけだ」

 

メリロはやさしく微笑む

 

「見つけ出すのです。 視覚でも聴覚でもない 第六感で」

 

続けて言う

 

「ARMは単なる武器ではありません 相性だってあります」

「大事なことはARMと心を通わせて一心同体になること」

 

スノウが一歩前に出る

ユーリをまっすぐ見て言う

 

「ユーリがさっき言ってくれた言葉すごい嬉しかった」

「ユーリの心に救われたよ」

 

「これだってシンクロだよね」

 

迷いのない目

 

「ユーリならできるよ」

 

ユーリは小さく息を吐く

 

「そこまで買ってくれてんなら」

「いっちょシンクロしてみっかな」

 

バッボを見る

 

「なぁ 相棒」

「うむ!」

 

ユーリは構える

呼吸を落とす

 

余計な音が遠のいていく

意識が内側へ沈む

 

スノウが小さくメリロに問いかける

 

「メリロさんどう ユーリの見込み」

 

メリロは静かに答える

 

「資質はとても高いです 集中力もありますし 直感力や想像力も高いと思います」

 

「このままならあと数回あれば…」

 

スノウは首を振る

 

「いや ユーリはこの1回で砕くよ そんな気がする」

 

そのとき

ユーリの中で何かが繋がる

 

門を見る

均一な表面

 

その中に、ほんのわずかな違和感

一点だけ

 

(そこか)

 

確信する

踏み込む

 

「蒼破刃!!」

 

斬撃が走る

 

弱点を正確に撃ち抜く

ヒビが広がる

 

今度は止まらない

連鎖し、崩壊する

 

門が砕ける

静寂

 

 

ユーリは動きを止める

 

そして口元を上げる

 

 

「ウシッ」

 

スノウが駆け寄る

 

「やっぱり!」

「ユーリならできると思った!」

 

メリロは静かに言う

 

「……想定以上です」

 

静けさの中

メリロが一歩近づく

 

距離は自然だった

 

「今の感覚 覚えていますか」

 

ユーリは少し考える

 

「あぁ……なんとなくだがな」

 

メリロはやわらかく頷く

 

「それで十分です」

 

「シンクロは積み重ねです」

「今の感覚がとても大切なのです」

 

「って言われてもな」

 

ユーリは軽く肩をすくめる

メリロは微笑む

 

「そうかもしれません」

 

「ですがその分だけ確かな力になります」

 

「さっきの弱点も感じただけだ」

「見えたわけじゃねぇ」

 

「それで正しいのです」

「感じたものをそのまま受け取るのです」

 

「……なるほどな」

 

完全には理解していない

だが否定もしない

 

メリロは少しだけ視線を柔らかくする

 

「あなたは少し珍しいタイプです」

 

「は?」

 

「無理に合わせず自然に噛み合っています」

 

「それは簡単にできることではありません」

 

「褒めてんのかそれ」

 

「はい」

 

素直な返答

 

ユーリはわずかに視線を逸らす

 

「……そうかよ」

 

そのやり取りの中で

ほんのわずかに距離が縮まっていた

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