面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】 作:サクレール
目の前の少女は、明らかに場違いだった
箒に乗って空を飛び、魔女みたいな格好をしている
しかも、さっきの鉄の人形を“試し”でけしかけてきたらしい
まともな人間じゃない
――異世界だってことは、もう受け入れるしかないらしい
ユーリは小さく息を吐く
「……で」
「さっきのは説明してもらえるんだろうな」
ドロシーは頷くが、すぐに言い返す
「その前に」
「名前くらい名乗りなさいよ」
ユーリは一瞬だけ間を置く
「順番逆じゃねぇか?」
「細かいこと気にしないの」
「……そうかよ」
小さく息を吐く
「ユーリ・ローウェルだ」
「ギルドで仕事してる」
「……って言っても、この世界に同じ仕組みがあるかは知らねぇけどな」
「ギルド?」
「なによそれ」
「仕事を請け負う組織みたいなもんだ」
「……ふーん、便利そうね」
興味はそこまでなさそうだった
ユーリは続ける
「……気づいたらここにいた」
「引っ張られた感覚だけはあったが」
「あとは分からねぇ」
「多分、こことは別の世界だな」
ドロシーが一瞬だけ動きを止める
「……は?」
眉を寄せる
「なによそれ」
「知らねぇよ」
「こっちが聞きたいくらいだ」
ドロシーは少しだけ考える素振りを見せてから、あっさり切り捨てる
「まあいいわ」
ユーリは半眼になる
「雑だな」
「でしょ?」
まったく悪びれない
ドロシーは軽く顎を上げる
「改めてドロシーよ」
一瞬だけ沈黙が落ちる
ユーリは肩をすくめる
「で」
「改めて聞くが」
「さっきのはなんだ」
ドロシーは指を掲げる
「ARMよ」
ドロシーは指を軽く掲げる
「……ARM?」
ユーリが眉を寄せる
「なによ」
「もしかして、ARM知らないの?」
ユーリは肩をすくめる
「少なくとも、俺の周りじゃ見たことはねぇな」
「……へぇ」
ドロシーは興味深そうにユーリを見る
ユーリは少しだけ視線を外す
「……似たようなもんなら、心当たりはある」
「似たようなの?」
「魔導器《ブラスティア》ってやつだ」
「中でも体に装着するタイプ――」
「武醒魔導器《ボーディブラスティア》」
「携帯して使うって意味じゃ、近い」
ドロシーは少しだけ目を細める
「ふーん」
「じゃあ同じじゃない」
ユーリは首を横に振る
「いや、違うな」
「向こうは“力を引き出すための装置”だ」
「こっちは……」
ドロシーの指輪を見る
「形そのものが変わる」
「完全に別物だ」
ドロシーは軽く肩をすくめる
「まあいいわ」
「とりあえずこれがARM」
ドロシーが軽く指を掲げる
「ARMは魔力で彫金された特殊能力を持つアクセサリーなの」
「指輪とか、ネックレスとか、そういう形してるのが普通」
「で、魔力を流して起動する」
「起動すると、さっきみたいに形が変わったり、力を出したりするの」
ドロシーは軽く指を鳴らす
ドロシーはそのまま指を立てる
「ARMは大きく分けていくつか種類があるの」
「まず一つ」
「ガーディアンARM」
「さっきみたいに呼び出して戦わせるやつ」
「……あの鎧のやつか」
「そう」
二本目の指を立てる
「ウェポンARM」
「武器になるやつ」
「あんたに渡すのはこれ」
「三つ目」
「ネイチャーARM」
「炎とか氷とか、自然の力を使うタイプ」
ユーリは小さく頷く
「……分かりやすいな」
「他にも種類があるけど」
「今は気にしなくていいわ」
小さな銀色の指輪が指先に現れる
「はい」
ユーリはそれを見る
「……これで戦えってか」
「ウェポンARM」
「能力はないから、あんたでも使える」
ユーリは受け取らず、少しだけ目を細める
「……随分と気前がいいな」
ドロシーは肩をすくめる
「丸腰よりはマシでしょ」
「さっきみたいなの、また出てくるかもしれないし」
あくまで軽い調子
ユーリは数秒だけ黙る
「……俺を生かす理由があるってわけか」
ドロシーは少しだけ笑う
「そう思うなら、それでいいわ」
否定はしない
ユーリは小さく息を吐く
「……なるほどな」
指輪を受け取る
「悪くない条件だ」
「使い方は?」
「意識するだけ」
「起動するイメージ」
「……雑だな」
「細かいこと気にしてると疲れるでしょ」
ユーリは小さく息を吐く
「……こうか」
指輪が光る
一瞬で形が変わる
手の中に現れる剣
軽く振る
「……なるほど」
「扱いやすいな」
「でしょ?」
「それも戻せるわよ」
ユーリは意識を向ける
剣が光り、再び指輪へ戻る
「持ち運びには便利だな」
「だからARMなのよ」
「戦うためのアクセサリー」
ユーリは肩をすくめる
「……合理的ではあるな」
ドロシーはくるりと背を向ける
「この先に洞窟があるんだけど」
あっさりと言う
ユーリは眉をわずかに動かす
「……急だな」
「ARMがあるのよ」
「レアなやつ」
ドロシーは振り返る
口元にわずかな笑み
「来るでしょ?」
当然のように言う
ユーリは少しだけ間を置く
「……断ったら?」
「別に」
ドロシーは肩をすくめる
「一人で行くだけ」
あくまで軽い
だが
「その代わり」
ユーリの手元を見る
「それ、返してもらうわよ」
指輪を指す
ユーリは小さく息を吐く
「……抜け目ねぇな」
「でしょ?」
ドロシーは悪びれない
ユーリは少しだけ考え
視線を洞窟の方向へ向ける
「……まあいい」
「他に当てもないしな」
指輪を軽く回す
貴重な機会であることには違いない
この世界のことも知りたい
ARMとやらにも興味はある
「決まりね」
ドロシーはそのまま歩き出す
ユーリも後を追う
異世界 ARM 魔女みたいな少女
状況は相変わらず訳が分からない
だが
「……悪くはないか」
小さく呟き、ユーリは歩みを進めた
◇
洞窟の中は、外よりも明らかに冷えていた
ひんやりとした空気が肌にまとわりつく
足音が遅れて反響する
「……冷えるな」
ユーリは軽く肩を回す
「……やけに響く」
壁に手を触れる
ざらついた岩肌
だが、ところどころ削られたような跡がある
「……人工だな」
「削り方が自然じゃねぇ」
「その通り」
前を歩くドロシーが振り返らずに答える
「こういう場所、大体誰かが使ってるのよ」
「まぁ、何かを隠すには便利だからな」
短く返す
しばらく無言で進む
足音だけが響く
やがて、ユーリが口を開いた
「目当てのARMってのは」
「どんなやつだ」
ドロシーは少しだけ間を置く
「私が集めてるのはレアなARM」
「強い能力を持ったやつとかね」
「……当たりを引きに来たってわけか」
「そんなところ」
軽い調子で返す
ユーリは続ける
「さっき言ってた種類の中でも、上の方か」
「そう」
ドロシーはあっさり肯定する
「中でも一番狙い目なのがあるの」
「へぇ」
「名前は?」
ドロシーは少しだけ口元を緩める
「バッボ」
ユーリは眉をわずかに動かす
「……妙な名前だな」
「でしょ?」
「でも特別なのよ」
歩みは止めないまま続ける
「レアARMの中でもさらに別格」
「この世界の連中、結構な数が狙ってる」
「……そこまでか」
「そう」
ドロシーはあっさり言い切る
「手に入れれば、それだけで戦力が変わると言われるレベル」
「便利なもんだな」
「だから取りに来てるの」
「……理由は?」
一瞬だけ沈黙が落ちる
ドロシーは前を向いたまま答える
「秘密」
間を置かずに返ってくる
ユーリは小さく息を吐く
「そういうと思った」
通路が途切れる
視界が一気に開けた
広間
天井は高く、空間は不自然なほど整っている
中央ではない
奥
岩壁を背にするようにして、石の台座が設置されている
その上に――
宝箱
「……分かりやすいな」
ユーリが小さく呟く
「露骨すぎるでしょ」
ドロシーも同じことを思ったらしい
だが、そのまま動かない
視線を周囲へ巡らせる
床
壁
天井
「……変ね」
小さく呟く
「何がだ?」
「ここまで」
「罠も、試練も、何もなかった」
ユーリは肩をすくめる
「楽でいいじゃねぇか」
「そういう問題じゃないの」
ドロシーは眉を寄せる
「こういう場所って、普通は途中で何かあるのよ」
「選別とか、防衛とか」
「……それがない?」
「ない」
短く言い切る
そして
「――おかしい」
その瞬間だった
カチリ、と
小さな音が響いた
ユーリの視線が動く
台座
その支柱部分
そこに埋め込まれていた“何か”が、淡く光を帯びる
「……仕掛けか」
次の瞬間
光が弾けた
床がわずかに揺れる
空間が震える
そして
台座の前に、鉄の塊が現れる
人型
だが、さっきのものとは比べ物にならない大きさと密度
鈍く光る金属
厚い装甲
明らかに“守るため”の存在
「……来たな」
ユーリが静かに構える
ドロシーは小さく息を吐く
「やっぱり仕込みありか」
「フライングレオ!」
ドロシーが片手を軽く上げる
手首にはめられていたブレスレットが、淡く光を放つ
次の瞬間
光が弾けた
その中から現れたのは、翼を持つ獣
鋭い爪
しなやかな体躯
空を切る羽ばたき
明らかに生き物のように見える
だが――違う
「……さっきのと同じか」
ユーリが低く呟く
「ガーディアンARMよ」
ドロシーは当然のように言う
「さっきのリングアーマーと同じで、呼び出して戦わせるタイプ」
フライングレオが低く唸る
地面を蹴り、空へ舞い上がる
「……自分で動くのか」
「基本はね」
「ある程度は勝手に戦う」
「こっちが指示も出せるけど」
ドロシーは肩をすくめる
「まあ、その辺は慣れよ」
ユーリは剣を構えたまま、フライングレオを見上げる
「……便利なもんだ」
「でしょ?」
ユーリも指輪へ意識を向ける
光
剣が手の中に現れる
「……正面からやる気はねぇぞ」
低く呟く
ガーディアンがゆっくりと動き出す
重い足音が広間に響く
その一歩が、床を震わせる
そして
腕が振り上げられる
「――来るぞ!!」
ユーリが踏み込む