面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第20話 ユーリとジャックの新たな力

 

スノウがアランのそばに立ち、真っ直ぐにユーリを見た

 

「エドは私たちを信じて、護ってくれていたの」

 

静かな声だった

けれど、その一言にははっきりとした重みがあった

 

ユーリは何も言わない

ただ視線だけを動かし、アランの姿を見る

 

全身に傷がある

消耗も激しい

 

それでも倒れずに立ち続けていた

その理由はもう聞かなくても分かった

 

ユーリは小さく息を吐く

 

「よぉ、ユーリ、待ってたぜ」

 

アランの声は軽かった

だがその奥にあるのは、疑いのない信頼だった

 

ユーリは振り返らないまま一歩前へ出る

 

「おっさん、あとは休んで見てな」

 

短く言い切る

アランはそれ以上何も言わず、小さく息を吐いた

 

任せる

その一言で十分だった

 

ユーリの視線はすでに前を向いている

 

イアン

 

その背後では、〝オクトパス〟の触手がうねっている

 

イアンが口元を吊り上げる

 

「お前はオレっちの獲物だよ」

 

楽しそうな声音だった

だが、その目の奥にははっきりとした敵意が宿っている

 

ユーリは構えを崩さない

 

「行くぜ、バッボ!」

 

左腕にはめられた腕輪状態のバッボが反応する

 

「うむ!」

 

その後ろで、スノウが息を弾ませる

 

「見ててね、エド。ユーリがどういう能力を創造したのか」

 

次の瞬間だった

 

ユーリが地を蹴る

踏み込みと同時に姿がぶれる

 

一気に間合いを詰めるその速さに、空気が遅れて震えた

再生した触手が迎え撃つように動く

 

八本

金属質の光を放ちながら四方から迫る

 

だが遅い

ユーリの剣が走る

 

一瞬

それだけで十分だった

 

気づいたときには触手がいくつも宙を舞っていた

 

切断

 

そして、最後の一本が振り下ろされる

ユーリは一歩踏み込み、剣を返す

 

「――蒼破刃」

 

青い斬撃が走る

最後の一本を正面から斬り裂き、そのまま完全に破壊する

 

それを見たスノウが身を乗り出した

 

「見えたでしょ今の!」

 

興奮気味に声を上げる

 

「ユーリの一つ目の能力はね、バッボさんとシンクロして魔力を一気に引き上げるの」

 

視線は戦場のまま

 

「それだけじゃないよ」

 

一拍置いて続ける

 

「身体の動きも、反応も、全部底上げされる」

 

ユーリがイアンの死角を取るように動く

その動きに合わせて、スノウの声が熱を帯びる

 

「だからあの速さ……普通じゃ追えないの」

 

そして少しだけ得意げに言った

 

「今の技もバッボさんがあの腕輪になってるから出来るってユーリが言ってたよ」

 

アランはすぐには答えなかった

戦場を見つめたまま、ユーリの動きと間合いの取り方をじっと見ている

 

やがて小さく息を吐く

 

「……悪くねぇ」

 

イアンが笑う

 

「やるようになったね、でもこのARMは何度でも再生するんだよ!」

 

切り落とされた触手の断面が蠢く

金属が歪むようにうねり、失われた形を取り戻していく

 

再生

ユーリはそれを見て小さく息を吐いた

 

「面倒だな」

 

剣をわずかに下ろし、構えを変える

 

「あれ行くぞ!バッボ!」

「うむ!あれじゃな!」

 

次の瞬間、腕輪状態のバッボが光を帯びる

輪の形がほどけるように崩れ、金属片が収束する

 

そしてユーリの手の中に現れたのは、重みのある旧式のハンドガンだった

 

無骨な形

飾り気のない構造

 

だがそこに宿る力は明らかに先ほどまでとは違う

ユーリが静かに告げる

 

「バッボVersionII、ウェポンARM〝リボルヴァー〟」

 

イアンの目が細くなる

未知の武器

 

だがまだ余裕は消えていない

再生した触手が再び襲いかかる

 

その瞬間、ユーリが銃口をわずかに持ち上げた

 

「ミラージュバレット!」

 

引き金を引く

乾いた音

 

だが放たれた弾は見えない

空気だけが歪む

 

視界が揺らぐ

イアンの目が細くなる

 

次の瞬間

 

ユーリの姿が掻き消えた

 

触手が空を切る

狙いが外れる

 

位置が掴めない

背後に気配

 

イアンが反射的に振り向く

だが遅い

 

その様子を見て、スノウがさらに声を上げる

 

「今のが二つ目の能力!」

 

少し前に出る

 

「バッボさんが武器になることで、魔力を外に撃ち出せるの!」

 

視線は戦場のまま

 

「ただの弾だけじゃないよ」

「相手の感覚をズラして、位置を分からなくするの」

 

その間にもユーリはもう動いている

イアンの背後

 

死角

完全に懐へ入り込んでいた

 

スノウがその瞬間に合わせるように言う

 

「だからああやって、一気に間合いに入れるんだよ!」

 

「1つめが近接用、もう一つは遠距離ってとこか」

 

そのまま視線を動かさず、内心で静かに見極める

 

(素の戦闘力も高い これだけあればチェス相手でも不足はねぇ)

 

だがイアンには、その説明を理解している余裕はない

ただ目の前の現実だけがある

 

(たった数日でここまで変わるかよ)

 

笑みが歪む

 

(今のユーリの魔力、【ビショップ】の上位はある)

 

さらに思考が加速する

 

(いや、元々の戦闘力も高ぇ……総合的に見たら【ナイト】相手でもやれるかもしれねぇ)

 

だが、その分析が結論になる前に、ユーリはすでに踏み込んでいた

 

間合いの内側

完全に捉えている

 

イアンの動きが止まる

 

「お前、何者だ」

 

問い

焦りの混じった声

 

ユーリは答えない

ただ一歩踏み込み、距離を詰める

 

「終わりだ」

 

次の瞬間

 

「烈破掌」

 

掌打

 

叩き込まれる衝撃

圧縮された力が一気に解放される

 

イアンの身体が吹き飛ぶ

地面を削りながら後方へ弾かれる

 

衝撃が遅れて広がる

 

イアンの身体が大きく揺れる

 

膝をつく

だが、まだ完全には倒れない

 

そのときだった

 

「ユーリー♡」

 

場違いなほど明るい声が響く

ユーリの眉がぴくりと動く

 

「あ?」

 

次の瞬間、ドロシーが門から飛び出してきた

勢いそのままにユーリへ抱きつき、そのまま頬に口づける

 

一瞬、時間が止まったようだった

ユーリの動きが固まる

 

「……は?」

 

今度ばかりは、さすがに焦りが顔に出る

 

ドロシーは満面の笑みだった

 

「会いたかったー♡」

 

その様子を見たスノウの表情が変わる

 

「ちょっとドロシー!」

 

頬を膨らませ、一歩前へ出る

 

「何してるのよそれ!」

 

明らかな嫉妬

ドロシーはまるで気にしていない

 

ユーリだけが完全にペースを崩されていた

 

ユーリは小さくため息をつく

 

「……離れろ」

 

そしてすぐに問いを投げる

 

「待てドロシー、ジャックはどうした?」

 

その問いに応えるように、門の奥が揺れた

次の瞬間、ジャックが姿を現す

 

肩にスコップを担いだまま、こちらへ歩いてくる

 

「久しぶりッス、ユーリ」

 

そして、その目に涙を浮かべた

 

「そしてうらやましいッス、ユーリ」

 

ぽろぽろと涙がこぼれる

ユーリは呆れたように返した

 

「オレに言うなよ」

 

その空気を断ち切るように、ポーン兵――ギドが前へ出る

膝をついたイアンを庇うように、その前へ立った

 

「イアン、ホーリーARMで回復してください」

「その間時間を稼ぎます」

 

イアンは目を細める

 

「やめとけギド、お前じゃ無理だ」

 

だが、ギドは一歩も引かない

 

「わかっています。しかしここであなたを失うわけには行かないのです」

 

その覚悟は本物だった

ギドの腕が動く

 

光が走り、一本の槍がその手に展開される

視線が戦場を走る

 

ユーリ

スノウ

ドロシー

 

そしてジャック

そこで止まる

 

「せめて1人、あの魔力の低そうな男くらいなら」

 

一直線に踏み込む

狙いはジャック

 

鋭い穂先が一直線に迫る

 

だが、ジャックは動かなかった

スコップを握ったまま、その場に立つ

 

その目の奥に、過去の記憶が浮かぶ

 

(父ちゃんはオイラと母ちゃんを残して旅に出た)

 

(帰ってきたときには大怪我してて、そのまま死んだ)

(残ったのはこのスコップ1本)

 

握る手に力がこもる

 

(アンタが何してたかは知らない)

 

迫る槍

それでも視線は逸らさない

 

(けど――オイラもこいつで戦うッスよ!)

 

ジャックが踏み込む

 

「ネイチャーARM〝大地のスコップ〟!」

 

スコップが反応する

大地と共鳴するように振動し、そのまま地面へ突き立てられる

 

『アースウェイブ!!』

 

次の瞬間、大地そのものが波打った

地面がうねり、衝撃波が一直線に走る

 

ギドへ

 

「うわぁぁ!」

 

直撃

ギドの身体が吹き飛び、地面を転がって動かなくなる

 

静寂

その光景を見て、ユーリが口元を歪める

 

「はっ!ずいぶん派手にやってくれんじゃねぇか、ジャック」

 

バッボさんも感心したように頷く

 

「うむ、ジャックにしてはよくやったわい」

 

少し離れた場所で、その一部始終を見ていたアランが目を細める

 

(魔女ならマジックストーンくらい持ってると思ったが)

 

視線が一瞬ドロシーへ向き、そしてジャックへ戻る

 

( 一緒にして正解だったみたいだな )

 

戦場の空気は、完全にこちらへ傾きつつあった

その中心で、ユーリはなお前を見据えている

 

イアンとの戦いは、まだ終わっていなかった

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