面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第22話 『メル』結成とヒルド大陸へ

 

戦いの気配は、ようやく遠ざかっていた

 

空にはまだ薄く雲が流れ、風がゆるやかに吹いている

イアンとギドが消えたあとの静けさは、少しだけ不思議なものだった

 

ついさっきまで命をぶつけ合っていた場所とは思えないほど、空気は穏やかになっている

 

スノウが前へ出る

その表情には、もう迷いはなかった

 

「さぁ!ヒルド大陸に行こう!」

 

明るい声だった

その一言で、場の空気が少し動く

 

次の目的地

 

ヒルド大陸

 

チェスが戦争を起こしているという大陸

行くべき場所は決まっている

 

だが、その直後

エドが小さく咳払いをした

 

「姫さま、我々の人数も増えてきたことですしチーム名を考えてはいかがでしょう?」

 

唐突な提案だった

 

スノウが目を瞬かせる

 

「チーム名?」

 

その響きに、ジャックも少し身を乗り出す

 

ユーリは腕を組み、エドを見る

 

確かに、これまでのようにただ成り行きで動いているだけではなくなっていた

 

ユーリ

スノウ

ジャック

ドロシー

バッボ

エド

 

それぞれが違う目的を持ちながらも、今は同じ方向を向いている

 

ならば、名前を持つのも悪くない

 

そのとき、ドロシーが首を傾げた

 

「それって私も入ってるの?」

 

軽い調子だった

だが視線はユーリへ向いている

 

ユーリは肩をすくめる

 

「なんか不都合でもあるのか?」

 

あっさりとした返し

 

ドロシーは少しだけ考えるような仕草をしてから、くすっと笑う

 

「んー、ユーリとは一緒に居たいんだけどねー」

 

その一言で、空気が一瞬止まる

 

あまりにも自然に言われたせいで、逆に反応が遅れた

 

スノウの表情がわずかに動く

 

ユーリは特に表情を変えない

だが、ほんの少しだけ視線を逸らした

 

それ以上その話題を引っ張るつもりはないらしい

 

ユーリは軽く息を吐き、スノウへ視線を向ける

 

「なぁ、スノウ」

「なぁに?ユーリ!」

 

スノウがすぐに反応する

 

明るい声

 

だが、少しだけさっきのドロシーの言葉を意識しているようにも見えた

 

ユーリは少しだけ考えるように間を置く

 

「この世界にはいくつ組織があるんだ?」

 

唐突な問いだった

だが、ただの雑談ではない

 

これからヒルド大陸へ向かうなら、戦う相手や関わる勢力を知っておく必要がある

 

スノウは指を軽く当てて考える

 

「うんと、大きく分けて3つだね!」

 

そして、はっきりと言った

 

「チェスの兵隊(コマ)、それと戦うクロスガード、そして盗賊ギルド『ルベリア』ね」

 

この世界の構図

 

チェス

 

それに対抗するクロスガード

そして、どちらにも属さない盗賊ギルド

 

ジャックがすぐに反応した

 

「ならオイラたちはクロスガードに入れてもらえばいいんじゃないッスか?」

 

素直な発想だった

 

確かに、チェスと戦うなら既に戦っている組織に入るのは自然だ

だがスノウはゆっくりと首を横に振った

 

表情はやわらかい

 

けれど、どこか真剣だった

 

「私がレスターヴァのお城から逃げる時に占い師に七人の仲間を集めなさいって言われたの」

 

静かな声

 

その言葉には、ただの思いつきではない重みがあった

 

「だからチームも新しくつくらないと」

 

ジャックが目を丸くする

 

エドは小さく頷いた

スノウにとって、それはただの助言ではない

 

これからの道を示す、大切な言葉だった

 

ユーリは腕を組んだまま少し考える

 

七人の仲間

まだ見ぬ存在

 

それを集めるためにも、自分たちだけの形が必要になる

やがてユーリは小さく息を吐いた

 

「そうだな、既にあるところに入るってのも性に合わねぇし新しく作るってのには賛成だな」

 

淡々とした声だった

だがそこに迷いはない

 

自分たちのやり方で進む

 

誰かの組織に収まるのではなく、自分たちで決める

 

その言葉に、スノウの顔がぱっと明るくなる

 

「ありがと、ユーリ!」

 

素直な笑顔だった

ユーリは軽く肩をすくめる

 

特別なことを言ったつもりはない

だが、その一言で方向は決まった

 

新しく作る

 

ならば次に必要なのは名前だった

ジャックが身を乗り出す

 

「なら、名前はどうするッスか?」

 

今度はドロシーが口を開く

 

「ユーリは元の世界でギルドに所属してたんでしょ?」

 

視線がユーリへ集まる

ユーリは特に隠すこともなく答えた

 

「ああ、『ブレイブヴェスペリア』ってギルドにな」

 

その名を口にした瞬間、ほんのわずかに空気が変わった

 

懐かしさ

遠い世界

かつて共にいた仲間たち

 

短い言葉の中に、ユーリの過去が滲む

ドロシーはにやりと笑った

 

「ならその名前を使えばいいんじゃないかしら?」

 

軽い提案だった

だが、ユーリはすぐには頷かない

 

少しだけ目を細める

 

それは大切な名前だ

だからこそ、簡単にこの世界へ持ってくるものではない

 

「何もオレに合わせて決めることないだろ」

 

静かな声

否定ではない

 

ただ線を引くような言い方だった

 

「世界が違うならこの世界に合う名前を考えりゃいい」

 

過去は過去

今は今

 

この世界で進むなら、この世界のための名前が必要だ

 

ドロシーは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐにくすっと笑った

 

スノウも小さく頷く

 

「そうだね、何がいいかな?」

 

全員の視線が自然と集まる

 

少しだけわくわくした空気が流れる

 

名前を決める

それはただの言葉選びではない

 

これから自分たちが何者として進むのかを決めることだった

しばらく考えたあと、ユーリが口を開いた

 

「メルヘブンを守るんだから『メル』でどうだ?」

 

あっさりした提案

とてもシンプルだった

 

ジャックが少しだけ首を傾げる

 

「シンプルッスね……」

 

率直な感想だった

 

ユーリは軽く肩をすくめる

 

「それこそ前の世界なら名付けの名人がいたんだがな」

 

小さくこぼす

懐かしむような響きはあったが、そこに重さはない

 

するとスノウの顔がぱっと明るくなった

 

「イイね!『メル』!」

 

迷いのない即答だった

その声で、場の空気が一気に決まる

 

だがそこで、バッボが得意げに口を挟んだ

 

「バッボと愉快な家来たちではダメか?」

 

一瞬の沈黙

 

ドロシーが間髪入れずに言う

 

「アンタは黙ってた方がいいよ」

 

即答だった

場に小さな笑いが広がる

 

バッボは何やら不満げだったが、誰もその案を採用する気はなさそうだった

 

その中で、名前は決まった

 

『メル』

 

この世界を守るための、新しいチームの名

 

スノウが小さく微笑む

 

ユーリは何も言わず、ただ前を見る

 

ジャックは少し照れたように笑い

 

ドロシーは楽しそうに肩をすくめる

エドは満足そうに頷いた

 

「それでは『メル』!出発しますかな!」

 

張りのある声

 

エドが何かのARMを取り出し、軽く投げる

 

それは地面に触れた瞬間、淡く光った

 

次の瞬間

布のようなものが広がる

 

小さかったそれは一気に大きくなり、かなり大きめの絨毯の形を取った

 

そして、ふわりと宙に浮かぶ

ジャックが目を見開く

 

「なんスか!?これ!?」

 

驚きの声

エドは得意げに胸を張る

 

「〝マジックカーペット〟移動用のARMです」

 

空中に浮かぶ大きな絨毯

 

ゆるやかに揺れるそれは、ただの布には見えなかった

 

エドがその上に軽く乗り、振り返る

 

「あまり長い距離の移動は難しいですが、このパヅリカからヒルド大陸までくらいなら充分でしょう」

 

冷静な説明だった

 

万能ではない

 

だが今はそれで足りる

 

ユーリは一歩踏み出す

 

迷いなく絨毯に乗る

そして振り返った

 

スノウ

ジャック

ドロシー

エド

バッボ

 

全員がいる

新しいチーム

 

『メル』

 

ユーリは口元をわずかに歪める

そして言い切った

 

「行くぞ!ヒルド大陸!」

 

その一言で、空気が動いた

 

マジックカーペットがふわりと浮き上がる

 

地面が少しずつ遠ざかる

 

風が頬を撫でる

目指すはヒルド大陸

 

戦争の地

チェスが動く場所

 

そして、『メル』としての最初の目的地

 

絨毯は空へ舞い上がり、新たな戦いの舞台へ向かって進み始めた

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