面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第23話 盗賊ギルド『ルベリア』

 

青空

 

どこまでも広がる蒼

白い雲がゆっくりと流れ、吹き抜ける風が頬を撫でる

 

その空を、一枚の大きな絨毯が進んでいた

 

〝マジックカーペット〟

 

その上にはユーリ、バッボ、スノウ、ジャック、そしてエドが乗っている

 

絨毯は風を受けながら、ヒルド大陸を目指して進んでいた

眼下には森が広がり、山が連なり、川が光を反射して流れている

 

世界そのものを見下ろしているような景色だった

ユーリが思わず身を乗り出す

 

風を正面から受けながら、広がる景色を見渡す

 

「こりゃ、スゲーな!良い景色だ!」

 

素直な感想だった

少しだけ少年のような声

 

その勢いでマジックカーペットがわずかに揺れる

 

ジャックの顔が引きつった

 

「ユ、ユーリ、あんまり揺らさないで欲しいッス」

 

カーペットの端にしがみつきながら、震える声を漏らす

 

高い

とにかく高い

 

足元に地面がないことが、ジャックにはどうにも落ち着かなかった

 

一方で、その少し横をさらに自由気ままに空を駆ける影がある

 

ドロシー

箒にまたがり、風を切る

 

マジックカーペットの横を並走し、ときには追い越し、ときにはくるりと反転する

 

まるで空そのものを遊び場にしているようだった

 

「ふふーん♪」

 

楽しそうな声が風に乗る

その姿を見ながら、エドがふと口を開いた

 

「ユーリ殿、以前から聞きたかったのですが」

 

改まった声だった

ユーリが視線だけを向ける

 

「どうした?」

 

エドは空を舞うドロシーへ目を向ける

 

「あの女性は魔女ですよね?しかも名がドロシー……」

 

ユーリの眉がわずかに動いた

 

楽しそうに空を飛ぶドロシーを見る

 

その姿は、気ままで軽く、危険とはほど遠いようにも見える

 

「あいつがどんな奴か知ってんのか?」

 

少しだけ低くなる声

 

エドは静かに答える

 

「いえ、そもそも魔女はこの世界でも異質な存在でどこの国とも交流をもたない『カルデア諸島』に国があります」

 

スノウも少し驚いたように耳を傾ける

ジャックも高所への恐怖を一瞬だけ忘れて、エドを見た

 

エドは続ける

 

「その中でも彼女は特に悪名が高い」

 

空気が少し変わる

 

ユーリは短く反応した

 

「?」

 

続きを促す

 

エドは言葉を選ぶようにして口を開く

 

「あらゆる地のARMを狙い、奪うと聞きます」

 

風が吹く

その言葉だけが、妙に重く残った

 

箒で空を舞うドロシーは、こちらの会話など知らない様子で笑っている

 

悪名高き魔女

あらゆる地のARMを狙い、奪う者

 

その評判と、今目の前にいる姿は、どこか噛み合わない

 

ユーリが何かを言おうとした、そのときだった

 

「見て!地上!ヒルド大陸だよ!」

 

スノウの明るい声が空気を切り裂いた

 

彼女は身を乗り出し、真下を指さしている

 

全員の視線が下へ向いた

そこには巨大な大陸が広がっていた

 

 

ヒルド大陸

 

 

果てなく続く大地

だが、それはただ美しい景色ではなかった

 

いくつもの黒煙が上がっている

遠くで火が燃えている

 

崩れた建物の影も見える

遠目にも分かる戦火

 

戦争の爪痕

観光気分は、一瞬で消えた

 

ユーリの目つきが変わる

 

エドも静かに表情を引き締める

 

ジャックも息を呑む

 

ドロシーも箒の速度を落とし、下を見た

 

そして

高度を下げた瞬間だった

 

地上

森の陰

 

崩れた建物の隙間

岩場の奥

 

無数の影が動いた

 

次の瞬間

 

空へ向かって何かが放たれる

 

 

一本ではない

二本でもない

 

雨のように、大量の槍が撃ち上げられた

 

一直線にマジックカーペットへ向かってくる

 

「なんだ!?」

 

ユーリが声を上げる

 

「落ちるッス!!」

 

ジャックの悲鳴が重なる

 

スノウがバランスを崩した

 

「きゃああ!」

 

エドが即座に動く

 

「姫さま!」

 

スノウを庇うように身を乗り出す

 

バッボも声を張り上げる

 

「し、紳士はこの程度では慌てぬのだ!」

 

だが、その声は明らかに震えている

 

槍が迫る

布を掠める音

 

風を切る殺意

 

エドが必死にマジックカーペットを操る

 

だが完全な回避はできない

 

「着地しますぞ!!」

 

マジックカーペットが大きく傾く

高度が一気に落ちる

 

風圧が身体を叩く

 

海岸近くの岩場

荒々しい地形

 

そこへ向かって絨毯は落ちていく

 

不時着

 

ドゴォッ!!

激しい音が響いた

 

砂煙が舞い上がり、岩片が飛び散る

 

マジックカーペットは地面を滑り、岩場に擦れながらようやく止まった

 

しばらくは波の音と荒い呼吸だけが残る

 

ユーリが真っ先に立ち上がった

 

周囲を確認する

 

スノウ

ジャック

エド

バッボ

 

全員無事

 

だが安心する暇はなかった

 

気配を感じる

ひとつではない

 

岩陰

海岸線

崩れた岩の上

 

次々と人影が現れる

 

武器を持った大勢の盗賊らしき者たち

完全包囲だった

 

その中から、一人の男が前へ出る

 

細身

だが頼りなさはない

 

無駄を削ぎ落としたようなしなやかな体つき

 

肩を越える長い金髪を無造作にまとめ、潮風に揺らしながら歩く姿は、盗賊というより気ままな旅人にも見える

 

整った顔立ち

鋭さを感じさせる目つき

 

そして軽薄そうな笑み

 

だが油断ならない

 

一歩前へ出ただけで、周囲の空気を持っていく男だった

男が立ち止まり、ユーリたちを見渡す

 

壊れかけたマジックカーペット

空から落ちてきた一行

 

そして、武器に手をかけるユーリ

 

男は静かに口を開いた

 

「ケジメつけんとあかんなぁ」

 

その一言に、ユーリの脳裏によぎる

 

(チェスか!)

 

ヒルド大陸に入った瞬間の襲撃

 

偶然とは思えない

ユーリが一歩前へ出る

 

スノウも身構え、ジャックはスコップへ手を伸ばす

 

だが男は続けた

 

「キミら………チェスの兵隊(コマ)やろ」

 

空気が止まる

 

ユーリが呆れたように息を吐いた

 

「いきなり攻撃しといて何勘違いしてんだ?」

 

低い声だった

怒りよりも、まず呆れが勝っている

 

「生憎オレたちは『メル』ってんだ」

 

ヒルド大陸で初めて、その名が響く

男はぽりぽりと頭をかいた

 

拍子抜けしたように目を細める

 

「自分何か勘違いしとった?」

 

ユーリは視線を逸らさない

 

「俺らはチェスを倒したいだけだ」

 

真っ直ぐな言葉だった

嘘はない

 

そのとき、エドとスノウが周囲の盗賊たちを見た

 

胸元

そこに刻まれた共通の印

 

エンブレム

チェスではない

 

エドが静かに呟く

 

「姫さま」

 

スノウもすぐに理解し、表情を少し和らげる

 

「最悪の事態じゃないみたいだね」

 

男は肩をすくめた

 

「自分らもチェスやない」

 

軽く笑う

 

「盗賊ギルド『ルベリア』や」

 

その一言で、周囲の盗賊たちの空気が変わる

 

ただのならず者ではない

組織だった集団

 

そして男は、にやりと笑った

 

「んで、自分はそこのボス……ナナシや」

 

気負いなく名乗る

それが逆に場数の違いを感じさせた

 

「ま、派手に迎えてもうて悪かったなぁ」

 

警戒は少し緩む

 

だが完全には解けない

 

スノウが少しだけ遠慮がちに問いかける

 

「あのー、ルベリアってことは私たちからARMを奪う気ですか?」

 

この世界でルベリアの名を知っているからこその質問だった

ナナシの眉がぴくりと動く

 

「むっ!?」

 

視線がスノウへ向く

さらに、そのとき

 

上空からドロシーが箒でふわりと降り立った

 

「どうしたの?」

 

軽い声

 

その瞬間、ナナシの空気が変わる

 

数秒固まる

 

そして、にやりと笑った

 

「……よぉ見たら、可愛い子ちゃんが二人もおるやないか」

 

露骨に声色が変わる

 

盗賊たちの何人かが呆れたような顔をする

 

ナナシは気にしない

 

「安心しぃ、自分……女の子から無理やりモン奪うほど趣味悪ないねん」

 

軽薄そうでいて、一応の美学はあるらしい

 

ユーリは半眼で見る

 

スノウは少し困ったように笑い

 

ドロシーは面白そうにナナシを眺めた

 

ナナシは大げさに肩をすくめる

 

「長いことチェスの連中を捕まえよう思て追っとるんやけど、これがさっぱりでなぁ」

 

軽い口調

 

だが、その内容は本気だった

 

ルベリアもまたチェスを追っている

ユーリの眉がわずかに動く

 

敵ではない

少なくとも目的は近い

 

ナナシは海岸の向こうへ視線を向ける

 

少しだけ考えるように呟く

 

「……一回、砦に戻るかな」

 

そして、ユーリたちへ視線を戻す

 

「せっかくやし、一緒に来るか?」

 

軽い誘いだった

まるで近所に案内するような気安さ

 

だが、そこには確かに敵意はない

 

ユーリはすぐには答えなかった

 

視線を横へ向ける

 

「スノウ、どう思う?」

 

短い問い

この世界のことなら、自分よりスノウの方が詳しい

 

スノウは少しだけ考え、そして頷く

 

「うん、いいんじゃないかな?」

 

落ち着いた声だった

 

「『ルベリア』の情報収集力は並じゃないよ」

 

その言葉に、周囲の盗賊たちが少し誇らしげな顔をする

 

ナナシもにやっと笑った

スノウはさらに続ける

 

「話だけでも聞いたほうがいいかも」

 

そしてもう一度ナナシを見る

 

軽い

胡散臭い

女好きそう

 

だけど

今この場で敵意はない

 

根っこのところが、悪人には見えない

 

スノウは小さく笑う

 

「それにあの人、悪い人じゃなさそう」

 

その言葉を聞いた瞬間、ナナシの顔がぱっと明るくなった

 

「よっしゃ!」

 

勢いよく振り返る

 

盗賊たちへ向けて片手を上げる

 

「お客さん連れてくでー!」

 

周囲がどっと動く

 

ナナシが懐からARMを取り出し、指先で軽く掲げる

 

空気が変わる

周囲の景色がわずかに揺らぐ

 

空間そのものが歪んだような違和感

 

ナナシはにやりと笑う

 

「ディメンションARMーー〝アンダータ〟」

 

発動した瞬間

 

視界が歪んだ

 

次の瞬間

 

海風は消えた

潮の匂いも、波の音も、岩場の感触もなくなる

 

代わりに別の空気が肌を打つ

 

景色が切り替わった

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