面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第4話 喋るARMと新たな出会い

 

洞窟の外に出ると、夜の空気がゆっくりと肌にまとわりついた

昼間の熱気はすっかり消え、代わりに静かな冷たさが広がっている

 

草原は闇に沈み、風に揺れる草の音だけが耳に残る

ユーリは空を見上げた

見慣れない星の配置

 

テルカ・リュミレースとは違う空

 

「……完全に別世界か」

 

小さく呟く

 

今さら驚きはない

門に飲み込まれた時点で覚悟はできている

 

だが、頭の片隅にはわずかな引っかかりがあった

ギルドの連中はどうしているか

カロルやラピード、他の仲間たちの顔が一瞬よぎる

 

「……ま、なんとかするしかねぇか」

 

考えても仕方ない

そう割り切るのはユーリらしい

その横で

 

「待て!!」

 

バッボが唐突に叫んだ

 

「話はまだ終わっておらんぞ!!」

 

ユーリは足を止めない

 

「終わってるだろ」

「終わっておらん!!」

 

バッボが食い下がる

 

「だいたいわしは誰のものでもない!!」

 

数歩先を歩いていたドロシーが、ゆっくりと足を止める

振り返る視線は、明らかに面倒そうだった

 

「は?」

「何言ってるの?」

 

「決まっておろう!!」

 

バッボが偉そうに言い放つ

 

「わしを使う者は、わしが選ぶのじゃ!!」

 

ユーリが小さく息を吐く

 

「面倒くさいやつだな」

 

「面倒ではない!!」

「当然の権利じゃ!!」

 

ドロシーが一歩近づく

 

「じゃあいいわ」

 

あっさりとした口調だった

 

「私のARMになりなさい」

 

「断る!!」

 

即答

 

ドロシーの眉がぴくりと動く

 

「……なんで?」

 

バッボは一瞬だけ間を置き

 

「おぬしからは――」

 

少しだけ声を落とす

 

「邪悪な魔力を感じる」

 

沈黙

 

ユーリが横目でドロシーを見る

 

「……言われてるぞ」

 

「うるさい!」

 

ドロシーはバッボを睨みつける

 

「ふざけないで!」

 

「私はあんたを探して――」

 

一歩踏み込む

 

「はるばるここまで来たのよ!」

 

そのまま手を伸ばす

 

「来なさい」

 

バッボを掴もうとする

 

だが

 

「……っ」

 

持ち上がらない

ぴくりとも動かない

 

「……は?」

 

ドロシーがもう一度力を込める

 

「……っ……!」

 

やはり動かない

ユーリがそれを見る

 

「……重いのか」

 

「そんなはずないでしょ!!」

 

ドロシーが言い返す

 

「ただのアクセサリーよ!?」

 

「知らんわい」

 

バッボは平然としている

 

「持てぬものは持てぬ」

 

ユーリが手を伸ばし、軽く持ち上げる

 

普通に持てる

 

「持てるな」

 

「なんじゃそれは!」

 

バッボが不満そうに言う

 

「さっきから思っておったが」

「おぬしは普通に扱いすぎじゃ」

 

ユーリは肩をすくめる

 

「そうか?」

 

ドロシーはしばらくバッボを見つめ

 

「……なるほどね」

 

小さく呟く

 

「選ぶってわけ」

 

「そうじゃ!!」

 

 バッボが声を張る

 

「わしは使い手を――」

 

一瞬止まり

 

「……いや、分からん」

「じゃが、選ぶのはわしじゃ」

 

ユーリが小さく息を吐く

 

「結局そこはブレないんだな」

 

ドロシーは少しの間、黙ってバッボを見ていた

 

「……なるほどね」

「私じゃ扱えないってわけね」

 

「当然じゃ」

 

バッボが言う

 

ドロシーはあっさり頷いた

 

「じゃあいいわ」

 

ユーリがわずかに眉を動かす

 

「……いいのか?」

 

「構わないわ」

 

ドロシーは肩をすくめる

 

「どうせ私には使えない」

「無理に持ってても意味ないでしょ」

 

 

「それに」

「それ、レアなARMよ」

 

ユーリの視線が少し鋭くなる

 

「持ってるだけで狙われる」

 

「かなりの確率でね」

 

静かな声だった

 

ユーリはバッボを見る

 

「……なるほど」

「俺に押し付けるってわけか」

 

軽い皮肉

 

「そうとも言うわね」

 

ドロシーは否定しない

 

「その代わり、価値はあるでしょ」

 

ユーリは小さく息を吐く

 

「……まあな」

 

「ちょっと待て!!」

 

バッボが割って入る

 

「勝手に話を進めるな!!」

「わしの意思はどうなる!!」

 

「さっき選んだだろ」

 

ユーリが即答

 

「ぐぬ……!!」

 

バッボが詰まる

 

「……一度だけと言うたはずじゃ!!」

 

「その一度で十分だ」

 

ユーリは淡々と言う

 

 

しばらく沈黙

 

「……納得いかん」

 

小さく呟いたあと

 

「……まあいい」

「しばらくは付き合ってやる」

 

「助かる」

 

「礼はいらん!!」

 

ドロシーがくすりと笑う

 

「変なコンビね」

 

「言うな」

 

そのやり取りが終わると、ドロシーは足元に目を向けた

 

そこに、小さな光

 

拾い上げる

兜を模した腕輪

 

「……戻ったのね」

「それがあいつの本体か」

 

「そう」

 

ドロシーはそれを左手首にはめる

カチリ、と音

 

「ガーディアンARMは倒されると元に戻るの」

 

「抜け目ねぇな」

 

「でしょ?」

 

ドロシーは軽く笑う

 

「じゃあ」

「ここで一旦お別れね」

 

「急だな」

 

「やることがあるのよ」

 

ユーリは少しだけ間を置き

「……なあ、ひとつ聞いていいか?」

 

「なに?」

 

「ここまでいろいろサービスしてくれた理由はなんだ?」

 

ドロシーは一瞬だけ黙る

そして小さく笑った

 

「個人的に気に入ったの」

 

「……それだけかよ」

 

「細かいこと気にしないの」

 

一歩近づく

 

「それに」

 

 ユーリの右頬に軽く触れる

 

 一瞬のキス

 

「助けてくれてありがとね」

 

「……」

 

ユーリは何も言わない

 

「また会いましょう」

 

ドロシーは箒に乗り、夜空へ消えていった

 

静寂

 

「……自由だな」

 

ユーリが呟く

 

「なんじゃあれは!!」

 

バッボが騒ぐ

「やはり納得いかん!!」

 

「じゃあ追いかけるか?」

 

「それは面倒じゃ!!」

 

「だろうな」

 

ユーリは歩き出す

 

 

 

しばらくして

 

「……ところで」

 

バッボが言う

 

「おぬしは何者じゃ」

 

「今さらか」

 

「ユーリだ」

「ユーリか」

 

「悪くない名前じゃな」

 

「上からだな」

「当然じゃ」

 

少しの沈黙

 

「おぬし、この世界の者なのか?」

 

「違うな」

 

「異世界から来た、と」

 

「そうなる」

 

「なるほど」

 

「だから扱えるのかもしれんな」

 

「根拠は?」

 

「ない」

 

「適当だな」

 

「そういうものじゃ」

 

「……まあいい」

 

 

夜が更ける

 

 

やがて明かりが見えた

 

「……家か」

 

近づく

野菜

 

「……」

 

「腹が減ったのう」

 

「見逃せって距離じゃねぇな」

 

「よい判断じゃ」

 

二人は畑に入る

 

ユーリは一本引き抜く

土を払い、かじる

 

「……」

 

一瞬の間

 

「……美味いな」

 

小さく呟く

 

「ただの畑じゃなさそうだ」

 

バッボもかじる

 

「これはなかなかじゃのう」

 

そのとき

家の中から物音がした

 

「き、来たっス母ちゃん!!」

「奴らだ!!今日こそ!!」

 

「やめなさいジャック!!」

「今度こそ本当に殺されちまうよ!!」

 

バン、と扉が開く

 

「怪物ども!!」

 

猿顔の少年が飛び出す

 

「これ以上オイラん家の畑を荒らすと――!!」

 

勢いよく飛び出し

 

そして

ぴたりと止まる

 

視線の先

月明かりの中

野菜をかじる長髪剣士風の男と、シルバーのけん玉型のARM

 

一瞬の沈黙

 

風だけが草を揺らす

 

少年が眉をひそめる

 

 

「……あんたたち誰っす?」

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