面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

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第7話 覚悟と格の差

 

――光が弾けた

 

一瞬、夜が白く塗り潰される

手の中に、確かな重み

 

見慣れているはずの形

だがそれは、もはやただの道具ではない

 

握った瞬間に分かる

これは――戦うための力だ

 

ジャックは荒い息のまま、それを強く握りしめた

 

視線の先には、二つの影

 

ガルーの口元が歪む

 

「へぇ……」

 

低く笑う。

 

「そいつを使うからには――」

 

一拍

 

「お前も殺す」

 

はっきりとした殺意が、空気を張り詰めさせた

 

その少し後ろで、ペタは踵を返しかける

 

興味はない

そう言わんばかりの態度

 

だが――

風を切る音

何かが飛来する

 

一直線に、ルーガルーブラザーズへ

 

――ドンッ!!

 

衝撃と共に土が舞い上がる。

 

その中心に転がったのは――

 

 

「ぬおおおおおおっ!?」

 

転がるそれは、バッボだった

 

その瞬間

ペタの足が、わずかに止まる

 

視線だけが動く

戦いではない

 

ただ、バッボを見る

じっと、確かめるように

 

やがて視線を外す

 

だが去らない

 

その場に留まる

 

興味の対象はただ一つ

“それ”だけだった

 

屋根の上

月明かりを背に、ユーリが立っている

 

軽く手を振る

 

「悪い悪い」

 

軽い調子

だが空気は崩れない

 

ジャックが思わず叫ぶ

 

「寝てたんじゃないッスか!?」

 

ユーリはわずかに目を細める

 

「寝てたら間に合ってねぇよ」

 

一拍

 

「ちゃんと来ただろ」

 

それだけ

 

軽い言い方

 

だが妙な余裕がある

 

そのまま視線を敵へ向ける

 

「で」

 

一言

 

「まだやるのか?」

 

空気が変わる

 

ガルーの眉が動く

 

「……チッ」

「次から次へと……」

 

ルーガが低く笑う。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

殺気が膨らむ

 

次の瞬間――

 

ガルーが踏み込んだ

 

一直線

 

速い

 

ジャックも動く

バトルスコップを構える

 

「来いっス!!」

 

迎え撃つ

 

だが――

 

一瞬で差が出た

 

ガルーの動きがさらに加速する

視界から消える

 

「――っ!?」

 

反応が遅れる

 

拳が振り抜かれる

 

直撃――

 

その直前

影が割り込む

 

ユーリ

 

ガルーの拳を受け止める

 

「っと」

 

軽い声

 

だが衝撃は完全に殺されている

ジャックの体が揺れる

 

前後が入れ替わる

 

強制的に戦線が変わった

 

ユーリが前に立つ

ジャックはその場に踏みとどまる

 

咄嗟に叫ぶ

 

「引っ込んでるッス!」

 

だが――

次の瞬間

 

ガルーの一撃を、ユーリが軽く受け流す

 

「っと」

 

その動き

あまりにも違う

 

ジャックの目が見開かれる

 

理解する

決定的な差を

 

歯を食いしばる

声が漏れる

 

「……あんたが――」

 

一瞬、言葉が詰まる

 

「……勝てる相手じゃねぇッス」

 

絞り出すような声

悔しさを押し殺した言葉

 

ユーリはわずかに目を細める

肩の力を抜く

 

「まぁ」

 

一拍

 

「なるようになるさ」

 

軽く言って、一歩踏み出す

 

手首のARMに触れる

 

光が弾ける

 

収束し、形を成す

その手に現れる細身の剣

 

静かな構え

無駄のない姿勢

 

それだけで空気が変わる

さらに視線をわずかに動かす

 

地面――バッボへ

 

「バッボ、行くぞ」

 

一言

 

バッボを持ち上げる

ユーリの手に収まる

 

自然な動き

 

まるで最初からそう使うもののように

 

剣とバッボ

 

二つのARMが揃う

ユーリが前を見る

 

「じゃあ」

 

一歩

 

「二人まとめて来いよ」

 

――戦いが、始まる

 

次の瞬間

 

ユーリの姿が、消えた

 

「な――」

 

ガルーの声が途切れる

 

背後

剣が走る

 

――ザッ

 

ジャックの視界に、かすかな残像だけが残る

 

(……見えなかった)

 

思考が追いつかない

 

横から衝撃

――ドンッ!!

 

バッボが弾ける

ルーガの動きが止まる

 

そこへ剣

 

――ザンッ

 

連撃

 

速い

違う

 

(……なんスか、これ)

(似たようなARM使ってるのに……)

 

一拍

 

(まるで別モンじゃねぇッスか……)

 

気づけば

ガルーの喉元に、剣先が突きつけられていた

 

完全に制圧された距離

 

そのとき

ガルーが歯を食いしばる

 

「ふざけんな……!」

 

無理やり踏み込む

 

「こんなヤツに、俺たちが負けるわけねぇだろうが!!」

 

突っ込む

 

だが

ユーリは動かない

 

「バッボ!」

 

一言

 

投げる

 

無造作に

 

――ドンッ!!!

 

炸裂

 

ガルーの体が吹き飛ぶ

地面に叩きつけられる

 

動かない

 

その隙

 

「もらったァ!!」

 

ルーガが飛び込む

 

だが――

 

その前に

ジャックが踏み出す

 

「うおおおッ!!」

 

バトルスコップを振り抜く

 

――ガンッ!!

 

直撃

 

ルーガの体が弾かれる

 

そのまま倒れる

 

沈黙

戦いは、終わった

 

静寂が戻る

 

ジャックはその場に立ち尽くす

 

荒い息

手に残る感触

 

やがて、ぽつりと呟く

 

「……途中から」

 

「怖くなくなったッス」

 

自分でも確かめるように。

 

「さっきまで……あんなに怖かったのに」

 

視線を落とす

 

そして

顔を上げる

 

「……倒せたッス」

 

小さく、だが確かに

ユーリの方を見る

 

「……あんたのおかげッス」

 

「……いろんなもの、守れたッス」

 

真っ直ぐな言葉

 

ユーリは肩をすくめる

 

「別に」

 

一言

 

「オレは勝手にやっただけだ」

 

少しだけ間を置いて

 

「お前が立ったからだろ」

 

それだけ

 

ジャックは目を見開く

そして、少しだけ笑う

 

その少し離れた場所

 

ペタは動かない

 

視線はただ一つ

バッボへ

 

静かに見つめている

その口元に、わずかな笑み

 

誰にも気づかれないまま

夜は静かに更けていく

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