面倒くさがり剣士のメルヘヴン【MÄR】   作:サクレール

9 / 23
第9話 狙われた“生きているARM”

 

ジャックの家を離れてしばらく

 

緩やかな土の道が、どこまでも続いている

踏みしめるたびに乾いた音が響き、草の匂いが風に混じった。

 

人の気配はない

ただ、二人分の足音だけが一定のリズムで続いていた

 

ユーリは片手にバッボをぶら下げたまま歩いている

まるでただの道具のように扱っているが、その様子に違和感はない

 

一方でジャックは、何度も何度もバッボに視線を向けていた

 

見ては逸らし、また見てしまう

気になって仕方がないのだ

 

「……やっぱり変ッス」

 

「まだ言うか」

 

ユーリは前を向いたまま、面倒くさそうに返す

 

「だっておかしいッスよ」

 

ジャックは歩きながら、じっと観察を続ける

 

「形だけ見れば武器っぽいんスけど……普通の武器とも違う気がするッス」

 

その言葉に、バッボがわずかに動いた

 

「ほう、なかなか目ざとい小僧じゃな」

 

「うわっ!?」

 

ジャックが思わず声を上げる

 

「しゃ、しゃべったッス……!」

「今さらじゃろう」

 

ユーリは軽く肩をすくめた

 

「よく見てるじゃねぇか」

 

短い一言

それだけでジャックは少し照れたように笑う

 

「さっきの戦い見てて思ったんスけど」

 

「重さとか、大きさが一定じゃなかった気がするッス」

「あと、あのチェーンも……普通じゃないッスよね」

 

ユーリは否定も肯定もしない。ただ黙って聞いている

 

「それで……一番引っかかるのは」

 

ジャックはバッボに指を向ける

 

「この穴ッス」

「前に四つ、後ろに四つ……全部で八つ」

「多すぎる気がするッス」

 

バッボの声が、わずかに低くなる

 

「その穴に興味があるか」

 

含みのある言い方だった

 

「ただの飾りじゃない気がするッス」

 

「さてな」

 

あっさりと流す

ジャックは少し考え込む

 

「……でも」

 

「やっぱり一番おかしいのは」

「生きてることッス」

 

一瞬だけ、風が止まる

 

「生きておるのだから仕方あるまい」

 

バッボが軽く笑う

空気が少しだけ緩んだ

 

「なんか……ちょっと羨ましいッス」

 

「何がだ」

 

「普通じゃないっていうか……そういうのッス」

 

ジャックは視線を落としながら言う

 

「オイラ、作物とか植物とか好きなんス」

「育てるの、面白いんスよ」

 

少しだけ声が明るくなる

 

「薬になる草とかも、自分で育てたりしてるッス」

「一晩で実るイモとかも作ったことあるッス」

 

「そりゃ便利そうだな」

 

ユーリが軽く返す

 

ジャックは照れたように笑い、空を見上げた

 

「夢があるんス」

 

「天まで届くくらいの蔓を育ててみたいんス」

「そんで、高いところからこの世界を全部見てみたいッス」

 

風が通り抜ける

 

ユーリも空を見上げる

 

「……悪くねぇな」

「どうせ見るなら、高い方がいい」

 

「そうッスよね!」

 

ジャックが嬉しそうに笑った

 

やがて道が開ける

 

遠くに建物が見え、人の声が風に乗って届いてくる

 

「見えてきたッス」

 

「パヅタウンッス」

 

街に入ると、空気が一気に変わった

 

呼び声、笑い声、食べ物の匂い

活気が溢れている

 

「ずいぶん都合のいい街だな」

 

ユーリが呟く

 

いくつかの店を回る

 

だが決め手はない

 

最後に辿り着いたのは、路地の奥にある静かな店だった

 

扉を開ける

中は異様に静かだった

 

外の喧騒が嘘のように消えている

 

空気がわずかに重い

 

棚には様々なARMが並んでいた

 

どれもただの道具ではない。

触れるだけで、何かが違うと分かる

 

「……ここ、ちょっと違うッスね」

「だろうな」

 

ユーリはひとつ手に取り、すぐ戻す

 

「……これじゃねぇな」

「何を探しているのかしら」

 

奥から声

女が一人、静かに立っていた

 

「扉みてぇなもんだ」

 

「どんな形?」

 

「顔みてぇな形してたな」

「目が十字で、舌出してた」

 

一瞬、空気が止まる

 

「……“門番ピエロ”」

 

女が呟く

空気が張り詰める

 

「ディメンションARMの上位のものよ」

「普通に手に入るものじゃない」

 

バッボが低く言う

 

「ほう……面白い話じゃな」

 

ユーリは小さく息を吐く

 

「面倒なことになっちまったな」

 

店を出る

 

人の流れの中

 

バッボが呟く

 

「……妙じゃな」

 

次の瞬間

 

影が走る

 

「ぬおっ!?」

 

バッボが消えた

 

「……あ?」

 

ユーリの目が変わる

 

屋根の上

 

盗賊がバッボを掴んでいる

 

「もらったぜ」

 

「……随分と手癖の悪い連中だな」

 

すぐに追いかける

地面を蹴る

 

一気に加速する

 

町外れの荒野へ

 

盗賊たちが振り返る

 

「チッ……もう来やがったか!」

 

ユーリは剣を展開

 

次の瞬間

 

ユーリの姿が消える

 

一人目が吹き飛ぶ

二人目が武器を構える前に崩れ落ちる

 

数秒

 

それだけで、前にいた盗賊は全て地面に転がっていた

 

静寂

 

だが奥から、一人の男が現れる。

 

バッボを持っている

 

「やるじゃねぇか」

 

「あいつ強そうッスね」

 

いつの間にか追いついてきたジャックがいう

 

盗賊の首元の装飾が光る

 

刃へと変形する

 

「ウェポンARMってやつか」

 

ユーリが呟く

 

男が踏み込む

 

刃が伸びる

 

だがユーリは動かない

 

ギリギリで躱す

一歩踏み込む

 

その瞬間

男の動きが止まる

 

「……なっ!?」

 

見えない力

 

ユーリは迷わない

 

一閃

決着

 

風が吹き抜ける

 

「……で、次は何だ」

 

低く言う

その瞬間

 

気配が現れる

一人の少年

 

「ベルの報告通り」

「本当にバッボの封印を解いたか」

 

ユーリはゆっくり振り返る

目を細める

 

その謎の少年を見据えた

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。