ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第11話 化け物狩り

 

 傷の再生はすぐに行われた。麻酔を打たれている間に修復された腹部の傷跡をリィンは眺める。ナノマシンによって重傷を負ってもすぐに再生され、傷を負ったことでさえも「なかったこと」にできる。

 

「お前はいいよな。腹の傷と腕一本だろ?」

 

 対面のベッドに横たわったウィペットが愚痴を漏らす。ウィペットの足は一日では修復できなかったらしい。膝から下は未だに再生用の殻で覆われていた。

 

「足だぜ? 足。死にに行くこともできないよな」

 

「何だ、ミサイルの爆風で死んだのにまだ死にたいっての?」

 

 リィンの声にウィペットは唇を尖らせる。

 

「ミサイルで死ぬのとヒ素で死ぬのは別だっての。職務とプライベートぐらい分けろよな」

 

 ウィペットにだけは言われたくなかった。リィンは懐に仕舞っておいたメッセージカードを取り出す。爆発のせいで煤けていた。

 

「何だそれ?」

 

 ウィペットが怪訝そうにする。リィンは素直に尋ねた。

 

「メメント・モリって何だと思う?」

 

「聞いたことねぇな」

 

 自分が知らないのにウィペットが知っているはずがなかった。リィンはカードを懐に仕舞い、「何でもないよ」と口にする。

 

「それにしちゃ、ちょっと思うところはありそうだが」

 

「別に、彼女が僕らを死地に追いやろうとしても何ら不思議じゃない」

 

「あ、やっぱりあのガキが俺たちをトラップ群に追い込もうとしたと考えているんだ?」

 

 リィンとて思いたくはない。サブリナが嘘をついてまで、自分たちを殺そうとしたことを。いやライフ・フリークスの味方であるという事実は依然変わらないのだ。むしろ、騙されないでいるほうが不思議だろう。

 

「再生手術は一両日に済む。君だって動けるようになる」

 

「俺は少しばかり休みたい気分だけれどな」

 

 ウィペットの弱気な発現にリィンは驚いた。この男ほど職務に忠実な人間はいないと思っていたからだ。

 

「意外だな、休みたいなんて」

 

「死にたくて死んでいるわけじゃないからな。一日で二機も失えば、そりゃ嫌になるって」

 

「今まで死に会で散々死んでいたくせに」

 

 この際、今までの愚痴も合わせて責め立ててやろうと思った。ウィペットは肩を竦める。

 

「死に会で死ぬのと実戦で死ぬのとは違うっての。その辺、分かってねぇよな」

 

 リィンがあまりに無知であるかのような言い草だ。ギプスで吊られた腕と腹部に巻かれた包帯を見やり、「この程度で済んで」と口に出した。

 

「幸運、と思うべきかな。近距離で爆発したにしては」

 

「強運だよな。結局、重要人物は見つけられなかったみたいだが」

 

 リィンは椅子にわざと罠を張っていたのだと考える。あそこまで行ける時間を計算し、自分が到達した時には既に逃げおおせていることも視野に入れていたのだろう。

 

「でも、分からないのはサブリナだ。どうして彼女はこんな嘘を」

 

「嘘じゃないのかもしれないが、この場合、嘘を言って俺らを破滅させるのが当たり前だよな」

 

「何で?」

 

 鈍いねぇ、とウィペットがこめかみを突く。

 

「ガキの友達を俺らは殺しただろうが」

 

 その復讐、という簡単な図式なのだろうか。しかし、だとすれば最初からサブリナはあの場所を予め教えることを前提に捕まったことになる。

 

「でも、それは考えづらい」

 

「どうしてだよ? 一番に考えるもんだろ」

 

「サブリナを殺さない、という選択肢を僕らが取るほうが不自然だからだ」

 

 ウィペットは腕を組んで考え込む。サブリナは一回殺されれば死ぬ。だが、だからと言って冷徹な武装警官隊が子供を殺さないとライフ・フリークスは考えるだろうか。むしろ、脳から搾り出せるだけ対象人物の記憶を抽出する、と思うほうが普通だ。

 

「俺たちが殺さない、っていう確証があったとか?」

 

「この国の武装警官隊の実力を知っているのならば、そんな甘い考えには至らない」

 

「外人だからか?」

 

 結局、堂々巡りの思考だ。リィンは渋面をつき合わせても仕方がないと立ち上がった。

 

「おい、まだ退院の許可は下りてないだろ」

 

「もう動ける。武装警官隊にいちいち入院させるほどこの病院も粗末じゃないだろう」

 

 ベッドの脇にある手荷物を取ったリィンを恨めしそうにウィペットが眺める。

 

「いいよな、足がある奴は」

 

「明日にも再生手術ができるだろう。足の一本や二本くらいは再生できるよ」

 

「足が四本のクリーチャーにならないよう、せいぜい医者の腕を信じておくよ」

 

 リィンは口元に笑みを浮かべて手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、今回のライフ・フリークスがいたと思われる場所の報告です」

 

 リィンの声に課長はアロワナを水槽越しに撫でる。聞いているのか、と怪訝そうにしていると、「不気味な」と声が発せられた。

 

「奴の動きを追えば追うほど、我々は逃げ水を追わせられている気がする。ライフ・フリークスは存在するのか。という、そもそも我々は実在する犯人を追っているのか、という帰結に達する」

 

「ライフ・フリークスはいます」

 

 実際に戦場に立ったのならば分かる。あの罠はライフ・フリークスが用意し、自分たちを無力化する意図を持っていたのだと。しかし課長は懐疑的だった。

 

「それは現場の勘かね? だが生憎、上もライフ・フリークスの動きに対しては少しばかり疑わしいというのが概ねでね。本当にあの洗浄爆撃の地においてライフ・フリークスがいたのか、そもそもが不明だ。ただ一人、あの場所に違いないと言っている人間はいるが」

 

「彼女ですか」

 

 サブリナの顔がすぐに浮かんだ。課長は振り返ってぎょろりとリィンを見つめる。

 

「あの少女が嘘をついており、君たちを死地へと誘導した、と考えている」

 

「不可能、ではありませんね」

 

 予め罠を張った場所に誘い込むこと、それ自体は不可能ではない。

 

「彼女をどうするか、我々は決めあぐねている」

 

 つまり意図して自分たちを死地に追い込んだのならば彼女に待っているのは死だ。リィンは異論を挟む。

 

「それは、早計かと」

 

「何故? 君は殺されかけたのだぞ」

 

 それは自分が何よりも自覚している。だが武装警官隊として、ライフ・フリークスを追い込まねばならない。

 

「命の一つや二つは駆け引きに使います。彼女の命は一つです。慎重にことを進めなければ大きな魚を逃すことになる」

 

「それは我々が釣る側だという前提条件のみに成り立つ。我々が釣られる側だとすれば彼女の存在は害悪そのものだぞ」

 

 課長の言葉に嘘はない。サブリナによってライフ・フリークスの意図した戦場に落とされればこちらの不利に転がる。

 

「ですが同時に、奴は尻尾を覗かせました」

 

 リィンはメッセージカードを取り出す。課長は受け取って目を細めた。

 

「珍妙だな。メメント・モリとは」

 

「意味は?」

 

「死を想え、だ。我々に対する挑戦、とも取れなくはない」

 

 不死の軍団と民衆に思われている武装警官隊に対し「死を想え」のメッセージ。それは暗に自分ならばお前らを殺せる、という挑戦状とも言える。

 

「大きく出ましたね。我々を殺す、ということでしょうか」

 

「分からん。だが今回の成果としてライフ・フリークスは君たちの無力化に半分成功したようなものだ。ガンス警部が一日でも行動不能に陥った。それは君たちバディの戦力の半減とも言える」

 

「自分だけでも、ライフ・フリークスは追ってみせます」

 

 リィンの強気の声に課長は鼻を鳴らした。

 

「それこそが奴の思惑ではないとも限らない」

 

「サブリナに聞きます」

 

「彼女を信用できる情報筋だとするのかね?」

 

 確かに、今回の戦果で害悪だと判断するのも分からなくはない。だがまだ彼女は何かを秘めている。ライフ・フリークスに繋がる何かを。

 

「聞き出しましょう」

 

「自白剤の使用を許可しよう」

 

 課長の進言にリィンは頭を振った。

 

「いえ、そういうのは使いません」

 

 課長は訝しげにリィンを睨む。

 

「ではどうするというのだね。先刻のように彼女の言葉を真に受けて君たちは自ら死地へと旅立つか? この仕事がもう嫌で、自殺したいというのならばそれでもいいが、それよりも国家に権利を返却するほうがまだ人間としての尊厳を保ったまま死ねるぞ」

 

「いえ、そうではなく」

 

 リィンは慌てて課長の言葉を否定する。

 

「メッセージカードは間違いなくライフ・フリークスの代物です。だから彼女に見せて反応を窺う」

 

「ライフ・フリークスの情報を、ここから得ようと言うのかね?」

 

 課長はリィンへとメッセージカードを差し出した。受け取って、「馬鹿にできません」と口にする。

 

「これは唯一の手がかりだと思うんです。ライフ・フリークスはここでぼろを出した。少なくとも空想の怪物ではないことが、このメッセージカードで証明されるはずです」

 

「印字されたということはプリンターが存在し、プリンターが存在するということは記録から追える、ということだからな。紙媒体ならばどこで製造された紙なのか。そこから帰結する相手の犯人像を掴む鍵になる」

 

 課長も納得した様子だ。リィンは、「それだけあれば充分」と言ってのけた。

 

「存在する人間なんです。ならば記録にさえ残れば手立てはある」

 

「しかし、記録さえも欺いていれば、その時はどうする?」

 

 試すような物言いにリィンは答えた。

 

「その時は、本当に化け物狩りをするつもりで、向かわなければならなくなりそうです」

 

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