ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第12話 無感情な人形ども

 

 サブリナは拘束服に包まれていた。

 

 当たり前か、とリィンは感じる。自分たちを陥れたのだと、武装警官隊では総意になっているのだ。

 

「気分は?」

 

「……いいわけないでしょう。サディストなの?」

 

 この質問はナンセンスだった。リィンは気になっていた言葉を切り出す。

 

「君は、僕らを陥れる気だったのか?」

 

「そうじゃない、って言っても信じてもらえないから、この様なんでしょうけれど」

 

 自嘲気味のサブリナはこのまま自分が殺されても仕方がない、と思っているようだった。しかし、リィンは言葉を重ねる。

 

「武装警官隊が君への刑罰を求めても、僕はそれに意見がある」

 

「何かしら? 一戦闘単位の意見を総体が聞き入れるとは思えないけれど」

 

「僕には特命が下っている。君の言う、先生をどうしても捕獲しなければならない」

 

「腕や臓器を犠牲にしても?」

 

 リィンの様を見やってサブリナは口にする。

 

「君がいくら先生の味方でも、僕らをわざと死地に送るとは思えない」

 

「何で? あたしにとってあなたたちは仲間の仇よ?」

 

「どうして、簡単に死ねるのか」

 

 その言葉にサブリナの表情が硬直した。リィンは言葉を継ぐ。

 

「君は聞いたね? 僕に。だから、君は命に対して特別な感情を抱いているのだと推測する」

 

「詭弁よ。少し苛立って、思ってもないことを言ってみただけ」

 

 リィンは懐からメッセージカードを取り出す。サブリナはそれを目にすると明らかに視線を逸らした。

 

「この言葉を、君は知っているね?」

 

「だから、何だって言うの。ほら、早く殺しなさいよ」

 

 挑発するサブリナにもリィンは動じない。それよりも、その反応こそが答えだと言えた。

 

「特別な意味があるはずだ。だから、君は死に急いでいる」

 

「だからって自分たちを陥れた元凶を生かしておくほどぬるくもないでしょう? 武装警官隊ってのは」

 

「先生に繋がる何かのはずだ。だから、この言葉を追及することは僕の目的と重なる」

 

「殺しなさいよ!」

 

 怒声を上げたサブリナを制そうと警務官が歩み出そうとする。しかしリィンは手でその行動を止めた。

 

「君は先生を守ろうとしている。それが何なのか、分かるまでは殺させない」

 

「どこまでも自分勝手なのね」

 

 忌々しげに口走るサブリナにリィンは平静の声を返す。

 

「僕らは秩序の代弁者だ。だから、君が何のためにこの境遇に甘んじているのか、君が何を知っているのかを問い質さなければならない。君を殺させれば、それこそ相手の思う壺だ」

 

「一回で死ぬあたしを殺すなんて簡単でしょう」

 

 簡単のはずだ。だが、それこそが命題となる。どうして一回で死ぬいたいけな少女をあの椅子に座らせたのか。リィンは想像する。あの椅子の、対面に座っている人物こそ、ライフ・フリークスのはずだ。ならば椅子が意味するのは「客人」。

 

 一度目はサブリナ、二度目は爆弾を積んだ人形に「死を想え」のメッセージ。

 

 共通する事柄は一つ。

 

「死だ。君たちはそれを背負わされている。先生って奴はそれを僕らに分からせるために、あるいは思い知らせるために状況を利用している」

 

 サブリナは閉口する。リィンは続けた。

 

「君はメメント・モリのメッセージに見覚えがあるから自分を殺せと言ってくるのだし、一度目だって恐慌に駆られた僕らが殺す可能性もあった。その場合、先生はどうするつもりだったのかは知らないけれど」

 

「何が言いたいっていうの?」

 

「先生はこの秩序に疑問を投げかけている。それも、僕らみたいな歯車の兵士にでも分かる疑問の投げ方で。一回で死ぬ君と、メッセージで確信した。何かを僕らに言おうとしているんだ」

 

 だがここまでだ。分かっているのはここまで。これ以上を探り当てるにはサブリナの協力が不可欠だ。リィンはサブリナの動向を眺める。この後、何を口にするのか。サブリナは首を横に振った。

 

「……とことん馬鹿なのね。あたしを殺すチャンスはこの一回きりよ」

 

「後悔はしないつもりだ」

 

 サブリナは口元を緩めた。負けだ、と言うように。

 

「これ、先生の口癖よ」

 

 メッセージカードを顎でしゃくる。リィンはメメント・モリのメッセージを手にした。

 

「これは爆弾を搭載した人形に付けられていた。何か意味があるはず」

 

「そこで、あなたが死んでいれば、このメッセージを聞き出しに来ることもなかったのね。まぁ、それも想定して、先生はやったんだと思うけれど」

 

「死を想え、って言うのは命を複数持っている武装警官隊に対する皮肉か?」

 

「いえ、多分、挑戦状。ここから先は、死を意識しなければ潜り抜けられないっていう。先生らしい言い回しよ」

 

 今までのスタンスではやられる、と考えてもいいのだろう。リィンは問い質していた。

 

「挑戦状ってことは、次があるはずだ。次は何をする気なんだ?」

 

 サブリナは口角を吊り上げる。

 

「教えると思う?」

 

 警務官が取り押さえようとしたがリィンは答えた。

 

「ここまで来れば、教える。僕はそう思う」

 

 サブリナは鼻を鳴らす。

 

「本当に、血も涙もない、人間なのね。この国の武装警官隊は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「富裕層へのテロ?」

 

 課長は聞き返す。リィンは、「間違いありません」と応じた。

 

「彼女からの情報かね」

 

「信用なりませんか?」

 

 課長は水槽に手をやって思案する。

 

「そうだな、一度部下を殺されかければ、信用も薄くなる」

 

「ですが、自分には逆に確信が持てました。ライフ・フリークスはとことん、戦争をするつもりだってことが」

 

 この社会への闘争。この秩序への挑戦。

 

「富裕層、つまり命を複数持つ人間へのテロリズムはこのライフ制度が敷かれた社会に亀裂を走らせる要因になる。命を複数持つことの安全神話への揺らぎ。つまりデメリットになるというカウンターか」

 

 リィンは首肯し、「恐らくは」と言葉を継ぐ。

 

「この国で最も命を持っている人間が狙われるはずです」

 

「セフィロト・ツリーか」

 

 この国で長命番付に乗る人間と言えば彼以外に思い浮かばなかった。

 

「セフィロトが狙われる」

 

「だが推測に過ぎないぞ。それに命を複数持っている富裕層が我々の警護に首を縦に振るとは思えない。必ず、何かを要求してくる」

 

「借りを作らずにセフィロトを守る方法はあります」

 

 課長は首をひねる。

 

「どうやって?」

 

 リィンは用意していた言葉を紡いだ。

 

「彼の興味を引けばいい」

 

 

 

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