ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第17話 不都合な真実

 

 

「護衛対象をむざむざ死なせて、これでは立つ瀬もない。そうではないか、カーネーション警部」

 

 課長からの指摘を受けてリィンは、「はい」と応じる。

 

「どうした? やけに冷静だな」

 

「いえ、まさか命を何個も持つセフィロト氏が死んでしまったとは思えなくって」

 

「財界への影響力もある人物だ。急死、の報は伏せたほうがいいだろう」

 

 課長の言う通りには違いないのだが、リィンの様子がいつもと違うことを見透かしたのだろう。さらに言葉を投げてきた。

 

「何か、言いたげだな」

 

「いえ、セフィロト氏は、何個も命を持っていたんですよね?」

 

「今さらの確認事項だ。何か不都合でも?」

 

「鑑識は、何と言っています?」

 

 質問に対して質問で返したことに課長は不服そうだった。

 

「鑑識は、セフィロト氏がライフ・フリークスに殺されたのだと言っていた。死因をわざわざ聞きたいのか? 自分が守れなかった対象のことを」

 

「いいえ。失礼します」

 

 リィンは課長室を後にする。武装格納庫に立ち寄り、自分の武装を装着した。その足でサブリナのいる拘束室へと向かう。当然、全身武装のリィンに警務官たちは驚いた。

 

「何ですか? ハロウィンパーティでも?」

 

 笑い話にしようした警務官の頭部へとリィンは銃弾を放った。警務官が倒れる。対面の警務官が事態を把握する前にサブリナと隔てているガラスを割った。銃弾を一撃、眉間に放ってやれば警務官は大人しくなった。この状況で一番狼狽しているのはサブリナだ。どうしてリィンがこのような行動に至ったのかと、戦慄している。

 

「何で、味方を……」

 

「もう味方じゃないからだ」

 

 短い返答にサブリナが疑問を感じる前にリィンはその手を取って口にした。

 

「逃げるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、こんな行動に出たのか、説明してもらってもいいのかしら?」

 

 全身武装の身は目立つ。すぐさま隠れるのに選んだのは最初の作戦地点だった。ライフ・フリークスがサブリナを置いていった事件現場だ。サブリナは駆けてきたせいで息が上がっている。

 

「セフィロト・ツリーの死は、君の言う先生のものじゃない」

 

 思わぬ言葉にサブリナが声を詰まらせた。

 

「じゃあ誰が」

 

「あれは武装警官隊のものだ」

 

 リィンの口から出た事実は意外そのものだったのだろう。サブリナは目を見開いて言い返す。

 

「で、でも、何で? 武装警官隊がやったって証明はないでしょう?」

 

「あるんだ。僕にしか分からない。武装警官隊がやったって証明が」

 

 何を根拠に、と言おうとしたサブリナの眼前へとリィンは懐から弾丸を取り出す。言葉を飲み込んだサブリナが代わりに訊いた。

 

「これは?」

 

「シルバーバレット。どのような命を保有する人間でも、たった一発で殺すことができる弾丸だ」

 

 その説明にサブリナは戦慄く。

 

「そんなもの……。この社会で」

 

「僕が考案した」

 

 追い討ちじみた声にサブリナは閉口する。リィンはシルバーバレットを手に呟く。

 

「セフィロト・ツリーを絶命に追いやったのはたった一発だ。それはセフィロトが死んだ時にすぐ駆け寄った僕にしか分からない。そしてたった一発であれほどの命の保有者を殺せるのは、世界でこの弾丸を含む、三発だけ」

 

 サブリナは抗弁を自分の中で探しているようだった。セフィロトをどうして武装警官隊が殺したのか、その理由を。

 

「そんなの、だって、武装警官隊はセフィロトを守ろうとしていた。先生が殺そうとしているからって」

 

「違う。逆なんだ。今まで先生とやらは一度として僕らの前に現れていない。見えない脅威を作り出して、一番思惑通りに動かそうと思っていたのは武装警官隊なんだ。君の言う先生ってのはいるのかもしれない。でも僕らは見てない。だからできた。セフィロト殺害計画を」

 

 サブリナはそれでも納得できない様子だった。

 

「何のために?」

 

「恐らくは、シルバーバレットの実戦経験を積ませるため」

 

「そんなこと。理由になんてならないんじゃないの? だってそれは」

 

「命を一瞬で奪える弾丸。しかし、これをどうやって試験する? 人間に対して使うことはできない。小物に使ったところで、本当に命が一瞬で奪えたのか、それともただ単に命が尽きるタイミングだったのかの判断はつかない。この国で一番命を保有しているセフィロトならば打ってつけだ」

 

「つまり、実験だったってわけ?」

 

 サブリナは声を震わせる。彼女からしてみれば信じ難いことだろう。だがリィンにはそうとしか思えなかった。

 

「シルバーバレットを実戦で使える、と判断したら次にすることは何か。僕は内情を知っている人間の抹殺だと考えた」

 

「だから逃げたのね。自分のために」

 

 恨めしさも入っていたのかもしれない。自分の命惜しさにリィンが逃げたのだと糾弾している。

 

「僕は命なんて惜しくないよ。でも、確かめたかった」

 

「確かめる?」

 

 サブリナの疑問にリィンは拳銃を装備一式の中から取り出す。シルバーバレットを片手にセーフティを解除した。

 

「先生――ライフ・フリークスは存在するのか?」

 

 その呼称を始めて聞いたのだろう。サブリナは怪訝そうな顔をしていた。

 

「誰、それ」

 

「先生の、武装警官隊側の呼称だよ」

 

「いるに決まっているじゃない」

 

 当たり前だ、と言わんばかりの口調にもリィンは構わず続ける。

 

「だが実在を証明する手立てがない。僕が見た書類には、数々の諜報機関が彼の存在を立証しようとして失敗してきた過去だけ。本当にライフ・フリークスは存在するのか。一度目の事件も、二度目の事件も、僕はライフ・フリークスを目にしていない」

 

 自分たちがいると思い込んでいただけで、ライフ・フリークスの実在を証明するものはないのだ。

 

「でも、いるわ。だったらあたしを匿ってきたのは誰よ」

 

「そう。君を匿っていた人物がいるはずだ。あるいは君を作った人物が」

 

 だがそれは思い違いだったのではないだろうか。自分たちはライフ・フリークスがいると思い込んでいた。命を弄ぶ蒐集家の存在を疑いもしなかった。この社会へのテロリスト。国を挙げての重罪人。だが、自分はライフ・フリークスの影も形も一度だって見ていない。

 

 彼の証明は数々の書類と、向かい合って存在していた椅子だけだ。リィンは拳銃に視線を落とす。

 

「ライフ・フリークスが、どういう人物なのか、僕は知らない。だって言うのに、いつの間にか彼の人物像を作り上げていた。僕が疑った原因は、一度目、二度目と来て、三度目のセフィロトの殺害だ」

 

「何があるって言うの?」

 

 困惑顔のサブリナへとリィンは言った。

 

「君を重要視するかどうか、という話だ」

 

 自分の存在を口にされてサブリナは呆然としている。

 

「一度目、二度目は君を危険に置かなかった。でも三度目は? どうしてあんな、爆撃なんていう真似をした? ライフ・フリークスが君のことを重要視するのならば、あんな作戦、あっちゃいけなかった。だっていうのに強行されたのは何で?」

 

「それは……」

 

 サブリナも返事に窮している。リィンは答えを推理する。

 

「多分、もう君はいらないのだと判断された。一度目、二度目に存在したのはライフ・フリークスの犯人像作りだった。狭い通路で、子供を盾に取る卑怯な人間と、一度目で僕らは判断する。二度目で、この国における恥部を晒そうとする思想犯の側面を見せた。洗浄爆撃の地帯をわざと指定したのはそのためだ。君にも、そういう思想犯めいた部分がライフ・フリークスにあるのだと吹き込んだ」

 

 あの場所を選んだのは偶然でもなければ、ライフ・フリークスの周到な罠でもない。最初から敵も味方も自分たち、武装警官隊だった。

 

「では事ここにいたって、ライフ・フリークスが存在するのか?」

 

 リィンの命題にサブリナは頭を振った。

 

「いるはずなのよ……。じゃなければ、今まであたしが会っていたのは誰だって言うの?」

 

 雨が降りしきっている。皮膚に当たる雨粒の飛沫。急速に冷えていく身体。これが死体だって言われても信じるだろう。

 

「僕らの決着は僕らがつけなきゃいけない」

 

 雨の音に混じって無骨な羽音が聞こえてきた。空を眺めるとヘリが一機だけ、こちらへと向かってくる。

 

「見つかるわ!」

 

 サブリナが逃げようとするがリィンは逃げるどころかそちらへと向かっていった。

 

「何を!」

 

「僕は逃げない。いや、逃げられない」

 

 リィンはヘリから降下する人間を見つめる。

 

「武装警官隊は猟犬だ。だから首輪くらいは仕込んである。僕を目指してあのヘリは来たんだ。だから降りてきたのもあいつのはずなんだ」

 

「誰なの?」

 

「君には関係のない、狗同士の噛みつき合いさ」

 

 リィンはビルの隙間から出てヘリを睨みつける。降下してきたのは一人だった。

 

「よう、元気か?」

 

 いつも通りの声音で、ウィペット・ガンスがアサルトライフルの銃口を向けてきた。

 

 

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