ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第3話 銀の弾丸

 

 暗黒の中を漂っている。

 

 不意に視界が開けたかと思うと、そこに立っていたのは今日殺した強盗団だった。他にも今まで殺した人々が真ん丸の何億分の一のスケールに縮小された地球の上を歩いている。死者の行進だ。

 

 自分も隊列に加わろうとすると最後尾に断られる。今日は殺した強盗団のリーダーだった。フルフェイスのヘルメットをふるふると横に振る。

 

 どうしてだ、と問うてもいつも答えは同じだ。

 

「お前は死んでいないじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日案内するのは他でもない、君が以前より進言していた例の兵器、あれの試作品が完成してね」

 

 先を行く課長の後ろを歩くリィンはハッとした。気づくと課長が振り返って魚眼の奥から覗く瞳をぎょろりと向けている。

 

「呆けているのか? それとも、前日に死んだせいでまだ二日死にが醒めていないのか?」

 

 リィンは頭を振る。

 

「いえ、滅相もない」

 

「それはいいが、半分死んだみたいな状態で観てもらっても仕方がないものだ。工場長は何日も眠っていないらしい」

 

 その言葉に工場長と思しき人物が現れた。課長と自分を見て敬礼する。

 

「いやぁ、毎度ご贔屓に!」

 

 リィンは工場に掲げられた看板を見やる。黄色と黒の警戒色で塗り固められた看板に小鳥が飛び移った。

 

「働きに感謝している」

 

 課長の賞賛に工場長は、「いえ」と謙遜する。

 

「これを作るのに手間取りまして。寝ていないせいで二回ほど自然死しましたよ!」

 

 はっはっは、と笑い話にする工場長に課長も合わせる。しかし、その笑みは尋常とは思えない皮膚を吊り上げた笑い方だったが。

 

「自然死の感想はいかがでしたか?」

 

「いや、まったく! 自覚のない死ってのは困りますな! ちょうどポンと、意識が自覚していない間に落ちるんですな。それで働いている連中に笑われまして。工場長は自然死がお好き、なんて言われる始末ですよ! 自分は割とヒ素で死ぬのが好きでしてな。おっと、話が逸れましたが」

 

 課長の顔を窺う工場長に、「例のものは?」とリィンが声を振り向ける。

 

「あんたが進言したのか、こいつを」

 

 くいっと顎でしゃくった先にはいくつかの弾丸があった。弾頭を赤く染めた弾丸が三個並んでいる。

 

「数はこれだけで?」

 

「文句言わないでくださいよ。これでも作るだけで生産コストが追いつかない。それに妙な輩が住み着きまして……」

 

 濁した声に拡声器で放たれた怒声が言葉尻を裂く。

 

『新兵器反対! 武装警官隊の横暴を許すな!』

 

 その言葉に続き何人かの声が相乗する。工場長は肩を竦めた。

 

「反政府デモとでも呼べばいいんですかね。ああいうのが工場の周りをうろつき始めて。まったくどこから情報を仕入れてくるのやら」

 

 帽子を上げて額を掻く工場長の悩みの種を増やすようにデモの声が張り上げられる。

 

『命を脅かす武器を作るな!』

 

 課長は魚眼レンズのような眼鏡越しに反政府デモを受け止めていた。

 

「増えましたか」

 

「ええ、大分。一回の命すら完全に根絶やしにする武器だと誰かが吹かしたんでしょうな」

 

 工場長の言葉にリィンは不安になって口を挟む。

 

「あの、じゃあこれは」

 

「ああ、いや、完成していますよ。オーダー通りに」

 

 弾丸の一つを摘んでにこやかに応対する工場長をリィンは制止する。

 

「危ないんじゃ」

 

「大丈夫ですよ。弾丸が炸裂すれば、中の薬剤が溶け出す仕組みになっています。それ以外ではどのような状況下でも、薬剤が漏れるということはない。ここまで作るのに、一番困ったのがそれでしてね。何せ、劇薬に耐え得る素材がない。こちらで指定した合金はえらく金のかかる代物でしてね。そのコストのせいで三発だけです」

 

「では完成品で」

 

「間違いありません」

 

 引き継いだ工場長は自慢の弾丸を置いた。

 

「何と命名したのか、聞いてもよろしいかな?」

 

 課長の言葉に待っていましたと言わんばかりに工場長は自信ありげだ。

 

「驚かないでくださいよ。シルバーバレットです」

 

 銀の弾丸。その皮肉に、なるほどと口にしていた。

 

「それはピッタリですね」

 

「ああ、工場長、センスがある」

 

 おだてられて悪い気がしないのだろう。工場長は頭を掻く。課長が歩み出て弾丸を手にした。

 

「シルバーバレットか。なるほど、不死を相手取るには適した名前だ。内容物は?」

 

 弾丸を傾けて課長は中を調べている様子だ。

 

「教えられません。一応、企業秘密で」

 

 なるほど、と課長は口元を歪めてみせる。

 

「だがオーダー通りならば」

 

「ええ。体内に入れば間違いなく、そいつが持っている命を完全に根絶やしにできますよ」

 

 課長は弾丸を握り締める。自分に視線を配り、「やったな」と声にした。

 

 リィンは所在なさげに頷く。外でデモの声が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした? 君のオーダー通りに作ったのだぞ?」

 

 自分の様子がおかしいことを感知したのか、帰りの車内で課長が尋ねてきた。リィンは素直に答える。

 

「あれは、確かに僕のオーダー通りでした。ですけれど、不安もあるんですよね。あれで本当に、撃ってもいいのかと」

 

「何を迷う必要がある」

 

 課長はフロントミラーを眺めつつ口にする。

 

「我々は武装警官隊だ。この秩序を守る義務がある。だから、撃っていいんだ。昨日のように、取るに足らない強盗団一つを無力化するのにいちいち槍玉に挙げられていては堪ったものではないだろう」

 

 リィンとウィペットの不満を的中させる辺り、さすがだと感じる。伊達で課長職をやっているわけではない。

 

「あれで撃つと、本当に一発で死ぬんでしょうか」

 

 自分が疑問なのはそれだ。本当に一発で死ぬのか。そんな人間がこの社会に存在していいのか。

 

「杞憂だ。工場長の仕事には堅実さがある。必ず一発で死ぬだろう」

 

「ですが、もし、外れたとして。どう責任を取ればいいのでしょう。あれは三発しかない」

 

 自分の懸念に課長は眉をひそめる。

 

「君が作って欲しいと進言したから私は無茶なプロジェクトだと思いながらも資金提供した。君が言っているのはこの技術に携わった人々を冒涜する言葉だ」

 

「いえ、そんなつもりは――」

 

「だったら、職務を全うしたまえ。君は引き金だ。存分に引き絞られた弓だ。その帰結する先は着弾か、あるいは命中しかない。外れるなんてことは冗談でも言わないことだ」

 

 つまり当たらないなどということは考えるな、という話だ。しかしリィンには疑問が残る。

 

「あの、あれってやっぱり弾数限られているわけですから、相当な奴相手じゃないと使わないわけですよね? たとえば、命の所有制限を越えた相手だとか」

 

 国内の大富豪だけでも命の数を膨大に持っている人間はいる。リィンは言外に、そういう層が対象なのかと訊いていた。

 

「命の制限数を超えている相手には、確かに有効だろう。だがあの三発はあくまでも試作品だ。これから先、あれが当たり前になる。武装警官隊の秩序は磐石になるのだ」

 

「ですが、それを不自由だと思わない人間ばかりでしょうか。だってこれから先は、武装警官隊に目をつけられたら死ぬんだと思われたら」

 

 それは独裁と何が違う。その意思を汲み取ったのだろう。「独裁ではない」と課長が告げた。

 

「間違えるなよ、カーネーション警部。我々は秩序の代弁者。秩序の声を借りることを許されている。民衆の中には武装警官隊が不死の軍団だと思っている者も多いが、それは好都合なのだ。不死の上に秩序を背に負えば、最早恐れるものなど何もない。武装警官隊を率いるのが私の職務。君は撃て。それでいい」

 

 考えるなと言われているようでリィンは顔を振り向けた。すると眼前に差し出された拳に声を詰まらせる。課長が拳を開き、掌に収まった先ほどのシルバーバレットを見せた。リィンも息を詰まらせる。運転手からは位置の関係で見えていないようだった。

 

「カーネーション警部、復誦したまえ。秩序は」

 

「我々の下に……」

 

 手の中にシルバーバレットを握らされる。リィンは震え出すのを感じた。この手に命を一気に吸い取られてしまう秩序の破壊者が宿っているかのようだった。

 

「君が持っているといい。追々、必要になる」

 

「使う時が来ると?」

 

「追々、だ。いつとは言わない」

 

 車が急停車し、リィンはつんのめった。するとめいめいに石や鉄くずを投げつける民衆の姿が目に入る。罵声を叫んでいるのだが特殊ガラスのお陰で聞かずに済む。

 

「彼らもまた、守らねばならぬ秩序の一つ」

 

 無意識的にシルバーバレットを握り締めていたリィンを制するように声は放たれた。

 

「間違えるなよ、とはそういうこともある。雑魚に使うな、という意味もある」

 

 自分が言っておいて守るべき民衆を雑魚とは。リィンが辟易していると運転手が尋ねた。

 

「どうします?」

 

「突っ切れ。どうせこいつら、一回は死ねるのだ」

 

 車が急発進し何人かがはねられた。しかしどうせはねられただけだ。また復活する。リィンは乗り心地のいい後部座席に体重を預けた。

 

「それにしても、揺れないんですね。最近の車は」

 

「少なくとも人をはねたくらいでは揺れないさ」

 

 

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