ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第7話 疑念

 

 珍しい名前だね、と切り出そうとすると、「おべっかはうんざり」と返された。

 

 サブリナは後ろ手に拘束され、椅子に座らされている。黒い拘束服が食い込んで少女の身を押し潰そうとしているかのようだった。長い黒髪は今時珍しい。湿ったように頬に貼り付いている。

 

「面会許可が下りたので、僕はここに来たわけなんだが」

 

 濁したのはガラス越しであるからだ。物々しい警務官が両側についている。

 

「どうやら楽しくお喋りしよう、っていう企画じゃないみたい」

 

 サブリナの冗談にリィンは相槌を打つ。

 

「そうだね、あまりお喋りはできそうにない」

 

「あたしをどうするの? 殺す?」

 

 気丈とも取れる言葉にリィンは首を横に振った。

 

「いや、殺さない」

 

「武装警官隊でしょ、あなた。名前は」

 

「リィン・カーネーション」

 

 サブリナは眉根を寄せた。

 

「変な名前ね」

 

「よく言われる」

 

 唇を尖らせたサブリナは、「で、何?」と訊く。

 

「自己紹介しに来たわけじゃないでしょう?」

 

「君みたいな年齢の割にはしっかりしている」

 

「先生から教えられたのよ。いつでも毅然としていなさいって」

 

 先生。それはライフ・フリークスのことと見て間違いはないだろう。

 

「突然だが、君の言う先生って奴はどういう人間か、教えてもらえるかな」

 

「人に聞く前に、まずは自分の手の内を明かせ。常識よ」

 

 警務官が色めき立つ。リィンは手を掲げて制した。

 

「いや、いい。確かに、常識だ。君のほうが通っている」

 

「リィン・カーネーション、いえ、リィンでいいかしら」

 

「どんな呼び方でも」

 

「武装警官隊よね?」

 

「それは周知の事実だと思ったけれど」

 

 何せ、サブリナの前で武装した自分は対面している。サブリナは、「殺したのね」と口にした。まるで仇でも見るような鋭い目つきだ。

 

「殺したよ」

 

「あたしのスクールメイトを」

 

「そうじゃなきゃ僕が殺されてた」

 

 リィンは首筋を見せる。まだ傷口にガーゼが貼られている。サブリナは、「当然よ」とつっけんどんに返す。

 

「武装して突っ込んでくるから、あたしたちも武装せざる得ない」

 

「ナイフと身一つで突っ込んできたから、僕は驚いて一回死んでしまった」

 

 何でもないことのように口にする。しかし、その一言でサブリナの顔は真っ青になった。何かまずいことでも口走っただろうか。自分の言葉を反芻しているとサブリナは震える声で尋ねた。

 

「殺されたの……?」

 

 リィンは首肯するしかない。どうしてここまで恐怖しているのだろう。まるで取り返しのつかないことをしてしまったような取り乱し方だった。

 

「どうかした? 何なら精神点滴を」

 

「違う、違うの! まさか、本当に殺すとは思っていなかったから。その、痛くなかった?」

 

 妙なことを聞くのだな、とリィンは疑問符を浮かべる。痛い、痛くないではないだろう。どうして日常会話をこのような局面でするのか。

 

「いや、死んだし分からない。痛いとか熱いとか、そういうのはちょっとすると消し飛ぶから。今はもう、傷口に熱も持たないし、別段変わったところはないよ。ただ、死んだだけだし」

 

 サブリナはしかし、リィンの何でもない口調に戦慄していた。ぷっくりとした唇がわなわなと色を失っていく。

 

「先生は、殺さないから、って言っていたのに……」

 

 リィンはサブリナの動揺の意味が分からなかった。別に、死んだだけなのだ。

 

「その、何を気にしているのかよく分からないけれど落ち着いて。落ち着かなきゃ、面会にならない」

 

 サブリナは首を振って調子を取り戻そうとする。リィンは警務官に進言していた。

 

「その、彼女の拘束服を解くことは」

 

「できません。暴れて死なれれば困るんでしょう? 一回しかないとか言っていますし」

 

 警務官からしてみれば疑わしい、眉唾の話だろう。だがリィンはつい先ほど課長と話した内容を思い返した。サブリナは一回しか死ねない。だからこそ、事を慎重に進めているのだと。

 

「その、分かったから、落ち着いて。僕は何ともない」

 

「落ち着いているわよ! 何なの、あなたたちは!」

 

 平静を失っているようにしか思えなかった。

 

「精神点滴を」

 

 リィンの声に、サブリナ側の警務官が歩み寄って首筋に注射を突き立てた。目を見開いたかと思うとサブリナは俯く。

 

「大丈夫? 精神を少しずつ、落ち着かせているから。意識がぼんやりするかもしれないけれど、我慢して」

 

 サブリナは口数が少なくなっていく。この状態では面会は不可能だろう。リィンは警務官に言い置いた。

 

「その、また彼女から通告があれば来ますんで。面倒を看てあげてください」

 

 敬礼する警務官の脇をすり抜けようとすると声が背中に投げられた。

 

「……ねぇ、教えてよ」

 

 小さな声だがしっかりと自分を呼んでいるのが分かる。リィンは振り返った。サブリナが必死に瞼を上げて喉を震わせた。

 

「何で、死ぬのが平気なの?」

 

 その声が放たれたのと意識を失うのは同時だった。項垂れたサブリナの脈を警務官が確かめる。

 

「大丈夫です、生きています」

 

「そう、ですか」

 

 リィンはその場を後にした。だが、サブリナの訴えた言葉がいつまでも耳にこびりつく。

 

 ――何で、死ぬのが平気なの?

 

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