ライフ・フリークス   作:オンドゥル大使

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第9話 キリングマシーンの憂鬱

 

「こんなに早く呼び出しが来るとは思わなかった」

 

 開口一番の言葉にサブリナは、「必要だったからよ」と気丈に振る舞う。昨日の取り乱しようが嘘のようだった。

 

「僕は、君にいくつか聞かねばならないことがある。君の先生についてだ」

 

 ライフ・フリークスについて、質問を重ねねばならない。サブリナは、「何でも聞いて」と答えた。

 

「協力できることならばするわ」

 

「意外だな」

 

 リィンの素直な感想にサブリナは小首を傾げる。

 

「何が?」

 

「易々と答えないと思っていた。だって、君のスクールメイトは命を賭して守ったじゃないか」

 

「あなたたちが殺したのね」

 

 その言葉には声を詰まらせるほかなかったが事実だ。リィンは頷いた。

 

「ああ。僕と同僚が始末した」

 

「人殺しに抵抗はないのね」

 

 リィンは深呼吸を挟み、「そうだね」と応じる。

 

「武装警官隊だ。もう、慣れてしまった部分はある」

 

「先生は、あなたたち武装警官隊はもう人であることのレールから外れた存在だと言っていた。だから躊躇いなくチャールズも、レイも、アダムスも殺すだろう、って」

 

 聞き覚えのない名前にリィンが眉をひそめていると、「スクールメイトの名前よ」とサブリナが言った。

 

「彼らにはきちんと教育が行き届いていた。だから先生のために命を落とすことに何の躊躇いもなかったのでしょう」

 

「君の先生ってのは意外に酷い奴だな」

 

「スクールメイトの命を奪ったあなたが言える義理ではないわね」

 

 ぐうの音も出ない。しかし、ライフ・フリークスは少なくとも三人の子供を盾にした。その事実は揺るがない。

 

「確かに僕が殺した。でもその原因を作ったのは先生のほうじゃないのか」

 

「堂々巡りの論理よ。それよりも聞かねばならないことがあるんじゃないの?」

 

 自分よりも彼女は冷静だ。リィンは切り出した。

 

「その、先生について、君が知っていることを教えて欲しい」

 

 サブリナは瞼を伏せる。何を考えているのだろう、とリィンが窺っていると、「ほとんどの個人情報は」と口が開かれた。

 

「先生は言おうとしなかった。だからあたしが知っているのは断片的情報」

 

「それでも教えてもらうと助かる」

 

「先生は、この国の基盤を崩そうとしていた」

 

 基盤、というのは命の流通だろうか。サブリナは首を横に振る。

 

「あなたたち、武装警官隊を無力化するのはどうすればいいかって、ずっと考えていたみたい」

 

「不可能だ」

 

 無理無策の領域ではない。命を司る自分たちを無力化するのは。しかしリィンの誤解を読み取ったようにサブリナは告げた。

 

「勘違いしないでね。殺すんじゃない、無力化の手段よ」

 

「どう違うって言うんだ。殺さなければ武装警官隊は止まらないだろう」

 

「浅はかね。それを探るためのあたしだと、思っているわ」

 

 ライフ・フリークスはそのために命を一つしか持っていないサブリナを用意したと言うのか。遺伝子の冒涜。命の否定。リィンの声は自然と責めたてるものになっていた。

 

「先生って奴は、酷い奴だ。君を、そういう道具にした」

 

「あなたたちが言えるの? 命を道具としか思っていないのに」

 

 リィンはそこで言葉を切る。これでは平行線だ。

 

「また来るよ」

 

 立ち上がって話を打ち切る。自分の任務は一つだ。

 

 ライフ・フリークスを追い詰めなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は、以上かね」

 

 課長の声にリィンは応じる。

 

「彼女、サブリナから得られる情報は少ないと思います。面会していても埒が明かない。ライフ・フリークスに関する情報を、もっと確定情報でお願いします」

 

「その前に書類だ。返したまえ」

 

 リィンは書類を課長に返す。受け取った課長は、「どう思った?」と書類を掲げた。

 

「どう、とは」

 

「これは各国の諜報機関が集め上げた、ライフ・フリークスに関する最新情報であり、今確定している情報でもある。この情報を読んでいてどう思った? と聞いている」

 

 リィンは首を横に振った。

 

「何も」

 

「何も?」

 

 返答がおかしかったのか課長は口元を緩める。

 

「その書類に書かれていたことは、当たり障りのない個人情報と、後はライフ・フリークスについて、どの国も何一つ確定したことは分かっていない、ということだけです」

 

 リィンの言葉に課長は肩を揺らした。

 

「君ならば言うと思っていたが。……ということは全部読んだのだね。関心だ」

 

 やはり課長も意味がないことを承知の上で自分に渡したのだろう。ライフ・フリークスについては振り出しに戻ったわけだ。

 

「この国に滞在している理由もないでしょう。他国に任せても問題ないと、自分は思いますが」

 

「それが、そうでもないようなのだよ」

 

 課長が指を組んで執務椅子に深く腰かける。リィンは疑問符を浮かべた。

 

「どういう……」

 

「昨日、サブリナという少女に精神点滴をする際、彼女が口走ったそうだ。彼はこの国に用があって来たと」

 

 リィンは言及した。

 

「それはライフ・フリークスであるという確定情報じゃ」

 

「ない、とも言える。だが彼女はライフ・フリークスを知る生き証人だ。我々は彼女を通して、ライフ・フリークスの足取りを追うことにした」

 

 最悪の想定が浮かぶ。

 

「脳をいじるんじゃないでしょうね?」

 

「まさか。彼女は十五歳にも満たない。国際法で保護されるべき年齢だ。十五歳以下に対して、この国には少年法というものがある。脳をいじって無理やりライフ・フリークスの情報を得るのは反感を買うだろう」

 

「ではどうやって」

 

「彼女は条件を提示してきた」

 

「条件?」

 

 拘束されている少女が言えるものなのだろうか。その疑問を感じる前に課長は言葉にする。

 

「作戦目標の場所に彼女を連れて行くこと。それが条件だ」

 

 思わず息を呑む。そのようなこと、認めるわけにはいかないだろう。

 

「承認は」

 

「したよ。上も了承済みだ」

 

 その答えにリィンはある結論を感じ取った。

 

「少女を餌にするんですね」

 

 きっと上層部もそれで手を打ったに違いない。サブリナを保護するためにライフ・フリークスが動くはずだと。だがそれは望み薄ではないのか。

 

「不満かね?」

 

「不満、というよりも分の悪い賭けだと思います。何せ、ライフ・フリークスは彼女を捨てている」

 

「あれは捨てたのではなく戦略的撤退だとすれば? サブリナを通して我々の行動を雁字搦めにしたいのかもしれない」

 

「まどろっこしい真似ですよ」

 

「そうだな。何せ、我々は血も涙もない鉄血の武装警官隊だ。ライフ・フリークスは我々に情を求めてきている、ということだが、カーネーション警部。これに対する反応はどうかね?」

 

 課長は覚悟を問い質しているのだ。リィンは訓練時に何度も叩き込まれた言葉を口にする。

 

「武装警官隊に感情は必要ありません。涙腺は眼球の洗浄器官に過ぎず、精神の荒波を乗りこなし、相手に命以上の屈服をさせる。それが武装警官隊です」

 

「結構」

 

 課長は満足気に呟く。

 

「ならば感情のないマンマシーンであるリィン・カーネーション警部。この作戦に異議はあるかね?」

 

「ありません」

 

 そう答えざるを得なかった。課長は、「もう一つ、厳命だ」と踵を返しかけたリィンを呼び止める。

 

「これは君にしかできない」

 

 果たしてどのような任務だというのか。リィンは待っていると課長はそれを告げた。

 

 

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