ニビシティでの修行は、一日では終わらなかった。
次の日も、その次の日も、カエデはガーディとニドを連れて町外れの広場へ向かった。
丸太を狙ってひのこの精度を上げる。
岩の間を縫うように走って、足場の悪い場所でも動けるようにする。
ニドはつつくの角度を何度も変え、ガーディは合図のあと少しだけ間を取ってから動く癖を覚えていった。
「……今の、よかった」
そう言えば、ガーディはうれしそうにしっぽを振る。
「ニド、そっちから入るの上手」
そう撫でれば、ニドは照れたみたいに耳を揺らす。
少しずつ、三人の呼吸が合っていくのが分かった。
数日後の朝。
ポケモンセンターの窓から見える空は高く晴れていた。
カエデは身支度を終えて、ベッドのそばの二匹を見た。
「……今日、行こうと思う」
ガーディがすぐに鳴く。
ニドも、少し緊張したように小さく声を返した。
怖くないわけじゃない。
負けるかもしれない。
でも、もう逃げたくはなかった。
「……一緒に、頑張ってくれる?」
そう聞くと、ガーディは真っ直ぐカエデを見上げ、ニドは足元で力強く地面を掻いた。
それだけで、十分だった。
ニビジムは町の中でもひときわ大きく、岩でできた重い扉が印象的だった。
中へ入ると、ひんやりした空気が頬を撫でる。
地面は土と岩でできていて、修行していた広場よりずっと広い。
奥から現れた男は、日に焼けた顔でカエデたちを見た。
タケシではなく父親のムノーだった。
「挑戦者か」
低い声に、カエデは一瞬だけ息を呑む。
それでも、逃げずに頷いた。
「……はい」
「ずいぶん小さいな」
「でも、挑みたいです」
ムノーはしばらく黙っていたが、やがて口元を少しだけ緩めた。
「いい目をしてる。なら、受けてやる」
審判役の男性が前へ出る。
使えるポケモンは二体。
カエデはそっとボールに触れた。
「それでは、ニビジム戦を始めます!」
先に出てきたのは、イシツブテだった。
丸い体が地面へ落ち、重い音が響く。
カエデは深く息を吸う。
「……ガーディ、お願い」
赤い光の中から現れたガーディが、低く身を構える。
「いけ、たいあたり!」
ムノーの声で、イシツブテが転がるように突っ込んでくる。
「右っ……避けて!」
ガーディがぎりぎりで横へ跳ぶ。
土が散る。
「ひのこ!」
火の粉が飛び、イシツブテの体に当たる。
けれど大きくは効いていない。
それでも、少しだけ動きが止まった。
「もう一回……!」
言いかけた瞬間、ムノーの声が重なる。
「がまんだ!」
イシツブテがその場で耐える。
受け止める気だと分かって、カエデは息を詰めた。
真正面からじゃ押し切れない。
修行で何度も考えたことが頭をよぎる。
「ガーディ、近づかないで。回って」
ガーディが素早く横へ動く。
イシツブテの視線がそれを追う。
「今、にらみつける!」
ガーディの鋭い視線に、イシツブテの動きがわずかに鈍る。
「そのまま後ろ……ひのこ!」
今度の火の粉は背後から当たった。
イシツブテがぐらりと揺れる。
「よし……!」
思わず声が漏れる。
でも、ムノーはすぐに叫んだ。
「いくぞ、たいあたり!」
真正面からの一撃。
避けきれず、ガーディが弾き飛ばされる。
「ガーディ!」
地面に転がったガーディが、苦しそうに体を起こす。
まだ立てる。
でも、余裕はない。
カエデはボールを握りしめた。
胸が速く打つ。
ここで倒れたら、次はニド。
まだ勝てるかなんて分からない。
それでも、ここまで来た。
「……ガーディ、もう一回だけ」
小さく呼ぶと、ガーディは顔を上げる。
「一緒に、取ろう」
その声に、ガーディの目がまた強くなった。
石のフィールドの上で、カエデはまっすぐ前を見た。